青年がバイトから帰るとの△学生位の少女が一人、アパートの前に立っていた。

「はぁ〜、今時あんな綺麗な娘って居るんだなぁ…」

 思わず感嘆の溜息が出る。

 美形だ…切れ長の目、スッと通った鼻筋。

 今では見る事のない、絶滅危惧種…いや、既に絶滅している筈の清楚・清純、ほっそりたおやか色白のそれでいて凛とした大和撫子一本勝負…まるで深窓の佳人といった雰囲気の美少女だ。

 背中まで伸びる黒く艶やかな髪、透ける様な白い肌、純白のワンピースの裾が柔らかく風になびいている。

 幅広の帽子を胸に抱えて誰かを待っている様子でキョロキョロと周囲を窺っていた。

「あ…」

 部屋に入ろうとした瞬間、青年と美少女と視線が合った。

 美少女はまじまじと青年を頭の先から爪先まで観察すると期待と不安の混じった表情で口を開く。

「あ、あの…貴方様は蒼月克巳様…で、いらっしゃいますか?」

「はぁ…そう…ですけど?」

 『こんな娘が何で…?』とか思いつつも、青年…克巳が認めると美少女は安堵した様子で花のような笑顔を見せながらこう言った。

「初めまして!わ、私、その…あの…貴方様の“許婚”です!」

「はぁ〜…って、ええっ!“許婚”ぇぇぇっ!?」

 その日、突然見ず知らずの“許婚”が来た…



 『いっぱい』



「では、改めて初めまして。私、花見月若菜と申します。先ほどは取り乱して誠に申し訳ありませんでした」

 若菜と名乗る美少女は折り目正しく正座すると三つ指ついて克巳に深々と御辞儀した。

「これは、どうもご丁寧に…」

 どちらかと言えば彼女より慌てていた克巳青年も釣られて深々〜…

「そして、此方が貴方様の曽祖父でいらっしゃる蒼月鞘継様よりお預かりした貴方様宛ての御手紙で御座います」

 『どうぞ』と若菜は肩下げの小さなポーチから取出した手紙をスッと畳を滑らせるように差し出した。

「ひいじいちゃんの…」

 15年前に失踪して行方知らずであった曽祖父からの手紙…

 中国大陸にまで足を伸ばす行商冒険野郎であったと言うが、印度に入った辺りで足取りがパッタリ途絶えた。

 何を売っていたのか両親が亡くなった今となっては本人に聞くより他無いが、とてもいかがわしい物を売っていたと想像する。

 小さかった克巳にとって曽祖父は髭面でとてもデカくて恐かった印象しかない。

 既に死んだものとして忘れられた存在だった。

 手紙を開く。

 先ず、音信不通で心配させた事、亡くなった両親の葬式に顔が出せなかった事への謝罪。そして、今の克巳の窮状を憂う文面だった。

「ひいじいちゃん…」

 目頭が熱くなる。

 数年前、両親と四人の弟妹達を交通事故で一度に亡くしてから天涯孤独…世間の風は冷たく、自分をこんなに心配してくれる人が居るだけで涙が出てくる。

「克巳様…」

 若菜も彼に同情して貰い泣き。

 しかし…読み進めていく内に曽祖父はイマジネイションに富み、ひどく心配性である事が分かった。

 何か妙なところまで憂慮している。

(克巳や…色々調べさせてもらったが、お前付き合っている女性どころか、身辺に女の“お”の字も無い。“大童貞”だそうじゃないか!?ワシは情けない!いや…そうか!両親が亡くなったから貧乏で女と付き合う金が無いのか?可哀想に…最近日本の雌犬共は世知辛いらしいからな。おおっ、そうか!臭くて犯る気も起きないんだな?性病が怖いのか?性病ぐらいなんだ!綺麗好きも悪くないが、それくらいで恐れていたら海外で女が抱けんぞ。そういう時にはな…)

「ふう…」

 長い…

 とても一片に読めない。

 文面から書いている最中にドンドン心配がエスカレートして、自己完結しているところが凄い。

 自己中心的で読むのが酷く苦痛だ。そして、彼にとっての禁句が…

(『童貞』…なのは確かだけど、そんなハッキリ言わなくても…)

 克巳青年は頭を垂れて、ガックリ落ち込んだ。

「鞘継様は克巳様の苦境を知り、酷く心を痛めておりました…」

 若菜は眼に浮かんだ涙を拭いつつ、手紙を読み終えたものとして話し始める。

「あの…克巳様?私、荷物を整理したいのですが、どちらに収めれば宜しいでしょうか?」

「は?」

 一瞬、克巳は彼女が何を言っているのか分からなかった。

 見れば、どうやって持ってきたのか彼女の傍らに巨大な旅行用アタッシュ・ケースが1、2、3…と、いっぱい。

「ままま、まさか、此処に一緒に住むつもりですか!?」

「え?お手紙に私の事が書いてありませんでしたか?」

 不思議そうに小首を傾げる若菜を制して慌てて続きを読む。

「ち、ちょっと待って…」

(…心配だ。ワシはお前の事が非常〜に心配だ。“大童貞”のまま一人老いさらばえて悲しい老後を送る姿が…見える。むむっ、見えるぞよ!オッケーッ、分かった。ヒイ爺チャンに任せておけ!三国一…いや日本一…いやいや、よりワールド・ワイドに世界最高の花嫁を見付けてお前のところに送ってやろう。決めた。よし、そう決めた。決めたから手近なところで花見月さんとこの若菜ちゃんを送る。彼女も処女だから一緒に暮らし、あんなアハンなことやそんなイヤンなことを二人で若さに任せてま弄り合うのもいいだろう。怯まないで男を見せろ!避妊は考えなくていい。ワシもこの年じゃから早く玄孫の顔が見たい。一仕事片付けたら必ずお前に会いに行く。それまで頑張れ!懸命に子作り励め!では…)

「しょ、処女で…子作り…いや、そうじゃなくて!駄目!駄目です!此処は凄く狭いし、布団は一組しかないし、生活もバイトでいっぱいいっぱいで、もう一人養うなんて絶対無理です!?婚前交渉なんて…ああっ、いやいや、そうでもなくて、若い娘さんが見ず知らずの男と同棲するなんてそんなこといけませんよ!」

 克巳青年は、何か別の考えに捉われがちな思考を強引に引き戻し、慌てふためく。

 こんな寝るのも苦労する狭いアパートにこんな大層な美少女と一緒に暮らしたりしたら過ちなんぞ直ぐ起きる。

 絶対!確実!…に起きる。

 克巳青年は賢い人間であったから自身がそれほど自制心に富んでいない事を理解していたし、間違いを未然に防ぐ自律心があった。

 何より彼には隠されたある身体的秘密が…

「見ず知らずの御方では…ありません。両家が合意した私の許婚でいらっしゃいます…」

 拒絶されたと感じたのか、若菜は表情を少し曇らせた。
 
「あっ…私、うっかりしておりました。鞘継様からお預かりした物がもう一つ御座います」

「え?」

 若菜は再び小さなポーチから一枚の紙幣のような物を畳に滑らせるように克巳の前に差し出した。

「当面の御小遣いにとの仰せです。無駄遣いされないように少なめにされたそうですが…」

 小切手…額面は“200,000”…

「わっ!わあ〜っ、20万円も!これなら半年ぐらいの食費は余裕で…いやいや、駄目ですって!」

 お金は欲しい…非常に欲しいが、克巳青年は自制心をフル回転してそれを若菜に返した。

 小切手を受け取る事は彼女を受け入れる事に等しいと思ったからだ。

 彼女を受け入れると言う事は、つまり!夜はしっぽりゴニョゴニョ…

 若菜は悲しそうな顔で、小切手を受け取ると何気なくその金額を見て目を見開いた。

「あ、あの…克巳様?額面を御覧下さい。これは“円”ではなく、“ポンド”です」

「ポンド…?あっ、ホントだ。新聞、新聞…」

 『ポンドって何処の通貨だったかな?』とボンヤリ考えながら日経新聞を取り出す。

「今日(H14.5.27)のレートは円建てで181.73…ええっ!どどど、ドルより高い。えーっと、えーと?」

「まぁ…三千六百三十四万六千円です」

 数学…算数が苦手な克巳青年を他所に口に手を宛て驚いた様子の若菜はさらりと暗算した。

「…四万六千円?」

 減らしてどうする…

「いえ、ですから…三千六百三十四万六千円です」

「さっ、さんぜんろっぴゃく…ぴゃくぴゃく…」

 千円は日常。

 一万円は大金。

 十万円はもっと大金。

 百万円以上は…もう想像外だった。

 想像を絶する大金に貧乏に慣れた青年の思考回路はショートした。

 ぷしゅ〜っ!

「チロルチョコレートが三百六十三万個よりいっぱいな〜のだぁ。のへぇぇぇ〜…」

「克巳様?克巳様?お気を確かに…」

 克巳青年の意識は千里の彼方に飛んでいったまま暫く戻る事はなかった…



 それからの克巳青年は頭の思考回路がぶっ飛んで何も考えられなくなっていた。

 その間、思考回路に付随する自律神経もイッちゃっていて、若菜嬢に聞かれるまま、望まれるまま、受け答えしていた。

「克巳様…私の荷物はどちらに整理すれば…」

「はぁ…其処の箪笥の下三段、全部空いてますから〜其処に入れて下さい〜。押入れの片側に突っ張り棒入れてありますから〜吊るしてもらってもぉ結構です。御自由にぃ…」

「克巳様…今晩の御献立は何に致しましょうか?」

「福狸商店街の八百屋『ぽんぽこ』で五時から〜、魚屋『割腹』で五時半から〜安売りが始まるからぁ其処で材料を買って…蕪の味噌汁にアジの開き…ああ…『スーパー狸ちゃん』でお惣菜が…納豆が三個48円で…」

「克巳様は、お風呂が先ですか、それともご飯が?」

「ご飯が先です。あれ〜、今日風呂沸かしていい日だったかなぁ…まぁ、いいや〜」

 …と、こんな感じで問われれば、何でも答える感じだったので、若菜嬢ちょっと好奇心からエッチな質問をしてみた。

「あ、あの…克巳様は、日に何度マスター・ベーションを?」

「ます?…ああ〜、オナニーは日に8回ですぅ〜。それくらいしないと次の日モヤモヤが残って…ってぇっ!アンタ、何言わせるんですかぁっ!?」

 此処に至って克巳青年は漸く自分を取り戻した。

 若菜の手際は惚れ惚れするほどで、あれだけあった荷物はスッカリ片付けられた後だった。

 克巳青年の前には何時の間に煎れたのか温かい番茶の入った湯飲みが湯気を立てている。

「毎日八回も?如何しましょう…私、耐えられるかしら…」

 若菜は顔を真っ赤にして青年の性剛振りに驚いた様子で熱くなった頬を両手で覆い、夜の営みを想い悩んでいた。

「ところで、花見月さん?」

「“若菜”とお呼び捨て下さいませ。私は克巳様の許婚なのですから…」

 若菜は居住まいを正し、きっぱりと言う。
 
「じゃあ、若菜…さん?その事なんだけど許婚って如何いう事なんでしょうか?」

「え?許婚と言うのは、将来夫婦となる契りを交わした間柄で…所謂婚約者です」

 『何でそんな分かり切ったを聞かれるのかしら…』と小首を傾げる若菜嬢。 

「いや、そういうことじゃなくて…何時、君…貴女と許婚に?やっぱり両家とかじゃなくて本人同士の同意とかそういうものが必要じゃないでしょうか?」

「わ、私では…お嫌ですか?」

 既に涙目である。

 若菜は克巳の顔に触れ合わんばかりに顔を寄せてにじり寄る。

「いやいやいやっ!…そんなことはないです。僕には勿体ないぐらいです。でも、結婚なんて…若菜さんは良いんですか?」

 慌てて壁まで後退り、背を貼り付けるようにして美少女の魔力から逃れる克巳青年。

 危ない…凄く危ない。

 もう少しで欲望に負けてキスするところだった…

「両親が決めた御方ですから“絶対”間違いは御座いませんわ。今までそうでしたから…」

「ははぁ…」

 さすが深窓のお嬢様…

 ご両親の言葉は絶対らしい。

 純粋培養されたお嬢様は疑う事を知らない。

「…では、これから私の事を気に入って頂けるよう頑張りますので、宜しくお願い申し上げます!」

「いいのか…これで???」

 何か訳の分からないところで完結してしまったこの事態に克巳青年は複雑な表情を浮かべて首を傾げた。



 金額を書き間違えたのかもしれないし、後で返せと言われることも考えて、取り敢えず、小切手を現金化し、普通預金に入金、手数料が大分取られたが、若菜の手前めいっぱい見栄を張って十万円(克巳青年にとってはかなり大金)を引き出した。

 洗剤とタオルにウェット・ティッシュ等々…銀行でいっぱい貰った各種粗品を小脇に抱えて、若菜の一緒で構わないと言う問題発言に後ろ髪引かれつつ、枕と布団掛敷一組を買い揃える。

 茶碗やら生活雑貨を百円ショップで一通り買い揃えた頃には、福狸商店街恒例の夕方の売り切り御免タイム・セールが始まっていた。

「さて…」

 克巳青年は考えを巡らせる。

 二人で買えば、かなり効率が良い。

 魚屋の馴染みなオッチャンも若菜の美貌を見れば、でれでれオマケしてくれるだろう。しかし、敵対する近所のオバチャン達は強力、且つ、凶悪だ。

 割り込み、ぶん捕り当たり前、脂肪の圧力も並では無い。

 この弱々しい若菜嬢があの太っちょ屍喰鬼共に抗すべき筈も無いだろう。

 克巳青年は、やむなく増援を諦めた。

「若菜さん。ちょっと行って来ますから、此処で待っていてもらえますか?」

「はい!克巳様、行ってらっしゃいませ!」

 若菜の元気な声を背に男は戦場へと向かうのであった。



 …数分後。

「ま、負けた…ザマス」

 ガックリ崩れ落ち肩を落とす太っちょ屍喰鬼のオバチャン頭領。

「勝った!」

 克巳青年は勝利した。

 いつも勝率三割弱だが、今日は意気込みが違った。

 伸びてヨレヨレになったTシャツ姿で若菜の元に戻ると、其処には…

「お待たせ〜…うっ!?」

「お帰りなさいませ!」

 ニッコリ笑う彼女の足元にヤンキ〜ぽい学生達が一段、ニ段、三段…五層に折り重なるようにいっぱい倒れていた。

 その数十二人…全員襤褸屑のようになって気を失っている。

 顔を黝く腫らせ、関節があらぬ方向に曲がっていたりとそれは無残な状態であった。

 中には呼吸をしているのかも怪しい奴がいる。

「これって…若菜さんが?」

 『ああ…これが死屍累々っていうんだなぁ…』などとボンヤリ考えつつ、克巳青年は吃驚を持続するでもなく、強く問い詰めるでもなく、若菜にやんわりと聞いた。

「余りしつこく言い寄るものですから…つい」

 頬染め、はにかむ姿が可愛らしい。

 彼らは克巳青年が同情すべき輩ではないし、彼女がこの細腕でどうやって大男たちを叩きのめしたのか考えることすら煩わしかった。

「…帰ろう」

 克巳青年は無視を決め込む事にした。

「はい!あっ、これ…鰹ですか?」

「タタキにでもしようかな〜…と」

 和気藹々の克巳青年と若菜嬢…それはまるで新婚夫婦のような光景であったとさ…

「イテェ…イテェよぉ」

「俺の腕は何処だ…ジーザス」

「医者呼んでくれぇ…」

 ラブラブな彼らの後に残るのは鰹ならぬ袋叩きに遭ったヤンキーたちの悲しい嗚咽のみであった。

 そんな悲惨な彼らに追い討ちを掛けるように克巳青年との戦いに敗れたオバチャンたちが腹いせにズンズン足蹴にしていく。

「フンッ、フンぬッ!坊や、憶えてらっしゃい…ザマス!?」

「ぎょええええええぇぇぇっ!」

 彼らが雨蛙のようにアスファルトに同化して藻屑と消えるのは、時間の問題であった。

 …合掌。



 若菜の惚れ惚れする手際は台所でも発揮された。

 ただ焼き入れて大根おろし掛けて食べようとしただけだったのだが、その焼くだけでも手間を掛ける。

 冷水に浸すと水っぽくなって旨みが逃げるとか…

 片付けも二人で和気藹々やり終えて、まったりしていると若菜が風呂の準備をしてくれる。

「克巳様、お先にお風呂頂いて下さい…」

「いや、それは若菜さんが先に…」

「いえいえ…そんな…」

「いえいえ…でも…」

 互いに譲り合って一向に埒が空かない。

 何時の間にか、それは白熱の様相をしていく。

「あっ…駄目…駄目です。そんな…」

「いいでしょ?いいじゃないですか?」

「い、いけません。だって…」

 遂には若菜がとんでもない事を口走る。

「一番風呂は夫のものです!…あっ」

「はっ?夫?」

 自分の言った事が信じられない様子で口元を掌で被い顔を真っ赤に染めて俯く若菜と、何か気恥しげにそわそわと身の置き所の無い様子の克巳青年。

 若菜がチロリと上目遣いで克巳を見詰めると彼は尻がむずがゆいような恥しさで、もうその場に居る事が出来なかった。 

「……いや…あの…じゃ、じゃあ!先に入らさせてもらいますです」

「は、はい…どうぞ…」

 俯く若菜の声は蚊が鳴く程に小さかった…



「ふい〜…」

 湯船に浸かると大分落ち着きが戻ってきた。

 突然やって来た許婚の若菜は見れば見るほど可愛い。

 仕草の一つを取っても淑やかで理想の女の子と言った感じだ。

 話せば話すほど、接すれば接するほど心が安らぐ。

 そうかと思えば先程のように跳ね上がったりもする。

 段々と平静が保てなくなっていくのを感じていた。

 この時、彼はおぼろげながら自覚していたのだ。

 彼女に恋をしてしまったことを…

「こ、こっぱずかしい…」

 あんまり気恥しいので狭い浴槽にその大柄な体を丸めて頭の先まで潜航する。

 ぶくぶくぶく…

 その時…

 ガチャッ!

「あ、あの…克巳様、御背中を御流し致します」

 浴室の扉を開けて若菜が入って来た。

「ブハーッ…わ、若菜さん?ううう、うわっ…」

 若菜は“全裸”だった…

「ななななな…」
 
 克巳青年は見てはいけないと思いつつも彼女の裸身のあまりの美しさに目を離すことが出来なかった。

 黒く艶やかなロング・ヘアを頭頂に綺麗に纏め、後れ毛が落ちる項の辺り等は幼いくせに妙に色っぽい。

 色白の肌は羞恥の為かほんのり桜色に染まり、胸には小振りなものの、形の綺麗な乳房が緩やかな稜線を描く。

 手折れそうな体は肋が僅かに浮き、若干痩せ過ぎの印象を受けるが、股間を彩るヘアも薄く彼女のまだ成長しきれていない為であると分かる。

 足も肉付きが薄く、股下はすっきりと日本人離れした長さだった。

「あ、あの…お背中を…」

 若菜は羞恥で頬を赤々と染めながら椅子を示し、克巳を誘う。

 乳房を腕で隠し、股間を見せないように身を捩っているのであろうが、逆に可愛らしいお尻を突き出す形になってしまっている所等々…青年は美少女の無意識悩殺攻撃にもうメロメロであった。

「はっ…はいはい!」

「キャッ…」 

 ばしゃばしゃと慌てて浴槽から出てくる克巳青年の姿を見て若菜は短い悲鳴を上げた。

 正確には下半身でブラブラさせている物体に…彼女の目は釘付けだ。

「うわっ…わわわ…ここ、これは…どうも…お恥ずかしい物を…」

 直ぐに手で隠すが、若菜にはバッチリ見られていたし、手で隠し切れる柔なものでもなかった。

 克巳青年の一物は勃起していない状態でも非常に長いのだ。

「い、いえ…母が言っていたのよりずっと大きくて…恥ずかしい事なんて無いです…どうぞ…」

「うう…」

(何か微妙に言っている事が擦違ってしまうのはどうしてだろうか?)

 克巳青年は項垂れ、若菜に背を向けた。

 すると若菜は石鹸をタオルに塗り込むのかと思いきや、手で泡立て始めた。

 そして、自分の体に塗り込み…

 むにゅ…

「わ、わわわ、若菜さん!なにをぉぉぉっ!?」

 ソープのお姉さんも真っ青の『泡踊り』を始めた。

「は、はい…母がこうすると殿方に喜ばれると教えてくれました。自分の体も洗えて一挙両得だとも申しておりましたから…」

「そ、そうなのかもしれないけど…」

  初心な少女にとんでもない事を教える母親だが、この時の克巳青年は『何て素晴らしいお母さんなんだぁっ!』と叫びたかっただろう。

 それほど若菜の柔肌は心地良く、柔らかな胸がぷにぷにする感触は筆舌に尽くし難い。

 時折固く勃起した乳房がコリコリと擦り付けられる様は彼女が昂ぶっていることを感じさせ、それがそのまま青年の興奮をも奮い立たせる。

 ぷにぷに…むにゅむにゅ…

「んっ…んふ…んっ…」

「おっ、おおぅ…」

 ぶにゅぷにゅにゅ…むにゅん。

「あは…ん…あはぁ…」

「う…ううぅ…」

 ぷにょ…ぷに…にゅるんにゅるん…

「あっ…あっ…あっ…」

「あうっ、あうっ…」

 背中には若菜の体が徐々に火照って行く感触が伝わってくるし、耳元に吹き掛けられる甘い吐息も熱いものが混じり、喘ぎ声に近くなってくるともう辛抱堪らなかった。

 克巳青年はプッチン理性の糸が切れた。

「う〜っ、若菜さ〜ん!」

「い・け・ま・せ・ん!」

 若菜は押し倒そうとする克巳青年の体をひらりとかわしたかと思うと彼の手首をぐっと掴んで掌を軽く逆方向に捻った。
  
 クキッ!
 
「痛たたたたっ…」

 それだけで青年はきょーれつな痛みを感じた。

「此処ではいけません!そういうことは…その…寝所で…」

「…っごごご、ごめんなさい」

 そう言えば若菜は意外に強かったのだ。

 夕方、ヤンキー十二人をボコにしたことをスッカリ失念していた。

 非力をカバーするように合気道に近い古武術をやっているらしく、関節技を巧みに使う。

 克巳青年のやる気はこの時一気に削がれてしまった。

「では…」

 その後、若菜はスッカリ大人しくなった克巳の背中を湯で洗い流し、次に自分の泡を流して湯船に入らずそのまま出て行ってしまう。

「何だったんだ…あれは?」
  
 如何もこうも無い。

 本当に背中を流した“だけ”で終わってしまった。

 克巳青年は据え膳食わされた上に心身共に打ちのめされたと言ったところか?



「アカン…ほんまアカン」

 理性は完全に崩壊していた。

 若菜が隙を見せようものなら確実に襲い掛かることが自覚出来るほど興奮は最高潮に達していた。

 頭に血が上り、股間の物も勃起している。

 …溜まっていた。

 いっぱいいっぱいだ。

(トイレかどこかで一発抜いとくか…)

 今日はバイトなどもあり、一度もオナニーをしていない。

 その為、下半身が熱を持ってムラムラしてしまうのだ。

(いっぱい出しとかないと…)

 そう考えつつ、出来るだけ股間の物を抑え付けて目立たせないようにジーンズを穿き直し、居間に戻ると其処は既に若菜によって布団が敷かれていた。

 一組だけ…

 枕は…二つ…

「こ、こ、こ、これはぁ…」

「あっ…克巳様」

 驚きうろたえる克巳青年に向け若菜はその布団の傍らできちんと正座して微笑んだ。

 彼女は夜着なのか真っ白な一重を着ており、何というか新妻の床入りみたいな…いやいや、まるっきりそのものであった。

「わかな…さん?」

「今夜は私、精一杯お勤めさせて頂きます。克巳様も私の体を存分にお楽しみ下さいませ…」

 若菜は折り目正しく正座すると三つ指ついて克巳に深々と御辞儀した。

 克巳青年も釣られて深々〜…

「えっと…その…いいの?」

 互いに顔を上げ、青年が問い掛けると若菜は笑みを歪めて困ったような表情を浮かべる。

「婚前交渉は本当はいけないことなんですけれど…お風呂場でお約束してしまいましたし…」

 苦笑を浮かべてはいるが、それほど嫌と言う訳でもなさそうだ。

 実を言うと若菜自身も克巳の長ペニスを見たことで、急速に彼を“男性”として意識してしまい、気持ちが整理出来なくなっていたのだ。

 背中だけでなく、体の隅々まで洗い清めるつもりであったものを途中で放り出したのは、体が発情して濡れてしまい、その恥しさで逃げ出したのが本当のところだった。

 自慰も最近憶え、そういう男性との“秘め事”には並々ならぬ興味がある。
 
 お互いにヤル気満々の二人の間には何も障害は無かった。

「若菜さんっ!」

「克巳様っ!」

 ヒシッと抱き合う二人。

 克巳はそのまま若菜を布団に押し倒し、唇を奪った。

「んっ、んっ…んふっ…」

「んっ…あふぅ…あっ…」

 若菜は英国育ちなのでマウス・トゥ・マウスのキス位の経験はある。だが、克巳青年は“大童貞”なだけにこれがファースト・キスであった。

 加減が分からず、ひたすら若菜の唇を吸い口腔内で舌を嬲り回す。

 二人が会ったのはつい数時間前…初めてのキスにしては濃厚過ぎた。

 口を離した時には二人とも息切れして頭の中がボンヤリするほどだ。

 克巳の手が若菜の胸乳を弄ると彼女は僅かに拒否の声を上げた。

「克巳様…駄目…」

「若菜さん…若菜さん…」

 しかし、スッカリ頭に血が上った青年にはその声は届かない。

 着物の襟元を力任せに押し開くと小振りな相球がぷるりと柔らかそうに零れ出る。

 ノー・ブラだった。

「あっ…」

 青年の舌は唇から首筋、鎖骨に沿って乳房へと伸びる。

 若菜は思わず出そうになる手を堪え、布団を握り締めて耐えていた。

 乳房を揉み込まれる内に登頂にある乳首が競り上がり、固く勃起していく。

 青年が舌を這わせ、固く膨らんだそれに軽く吸い付くと…

「あっ…いいっ…」

 若菜は思わず愉悦の声を上げた。

「気持ち…良い?」

 青年が問い掛けると若菜は一瞬ブルブルと強く横に頭を振ったものの、暫し躊躇した後、一度だけ正直に頷いた。

 快楽に流されるのは恥しく、自分が浅ましく見えた…だが、此処で止められる方がもっと嫌だった。

「若菜…」

「………」

 呆然とその身を横たえる若菜に青年の興奮は高まっていく。

 手早く、シャツを脱ぎ捨て、ジーンズをブリーフごと下して全裸になると、今度は若菜のきつく絞られた腰帯を解きに掛かる。

 帯を解き、乱暴にならないようにその着物を剥ぎ取ると若菜の生まれたままの姿が其処にはあった。

 若菜は下着の類を全く付けていなかったのだ。

「は、はしたない女と思わないで下さい…」

 それを見て暫し無言になった青年に若菜は迷子の子犬のように不安そうな目を向けた。

「か、克巳様の御手を煩わせるのは…いけないかと思って…」

「綺麗だよ…若菜」
 
 克巳が正直な言葉を掛けると若菜の不安は霧散し、彼女は嬉しそうな顔を青年に向け、両手を差し伸べて誘う。

「克巳様…きて…」

「ああ…」

 ゴクリと一つ唾を飲み込むと、彼女の股を開きに掛かる。

「ああ…」

 若菜は羞恥の余り顔を両手で覆って上へと頭を逸らす。

「うわ…」

 初めて見るヴァギナは思ったよりも小さな器官だった。

 克巳青年もある意味健全な日本男児であるからしてアダルト・ビデオも何本か借りる事がある。

 しかし、普通一般大事なところにはモザイクが掛かっており、形状を目の当たりにするのはこの時が初めてだった。

 もっと周囲が陰毛に彩られ、開き切って熟れた柘榴の様な物かと思ったが、其処には柔らかな繊毛が僅かに生えているだけで陰唇が食み出さずぴっちりと固く閉じたスリットが一本入っているだけの可愛らしい物だった。

(かわいい…な)

 その知らずとも幼さを漂わせる小さな部位に克巳青年が吸い寄せられるように口を付けようとした…その時。

「克巳様!」

 がきっ!

「えっ…うごぎぎぎ…」

 若菜に何故か三角締めを掛けられた。

「わわわ、若菜っ…さん?」

 引き伸ばされた腕はプニプニと柔らかな胸に当てられ、首筋と右脇の下を股で固められている。

 その心地良さ気で羨ましい状態にありながらも、克巳青年は腕を引き絞られる痛みと頚動脈を極められる苦しみによって今にも落ちそうだった。

 若菜はそんな荒技を許婚に極めながら頬染めてもじもじとはにかむように言う。

「あああ…あの…あの、そう言う時にはですね。姿勢を『69』の形にしないと殿方ばかりに奉仕させるばかりで失礼だと…母が…申しておりましたの…」

「は、はぁ?」

 漸く締め技から解放された克巳青年は腕をグルグル回しながら首を傾げる。

 69…要するに若菜の頭の方に彼のペニスをしゃぶれるよう下半身を向けろと…

「え?ええっ!?」

「克巳様のオチンチンもお慰めしないと…69の姿勢は互いに慰め合い、快楽を循環する事でさんさーらの輪が云々…と、一挙両得なのです」

「あの…お母様って一体どんな人?」

「ともかく…そういうことらしいので…おねがい…します」

「あ、ああ…」

 克巳青年が体勢を入れ替えるとペニスが若菜の目の前に晒された。

 目測を誤って亀頭が一瞬若菜の唇に触れる。

「ああ…す、すごく…長い」

 ペニスを間近で目にした若菜はうっとりした様子で声を上げた。

 克巳青年のペニスは太さこそ“世界標準”と言えるが、その長さは他に類を見ないものだった。

 倍以上長く、それを支える硬度も並ではない。

 血管ピクピク言わしていきり立つペニスはオナニーで酷使された所為か黒々として先走りで滑りを帯びた先はまるで鰻のようだ。

「…お慰めします」

 若菜はその凶器を躊躇いも無くぎゅっと握り、小さな舌を伸ばしてレロレロと嘗め回し始めた。

 ちゅ…ちゅるん。

「うっ…おわっ!…」

 その心地良さに早くも悲鳴を上げる克巳青年。

「克巳様…私のも…早く」

 若菜は手扱きを続け、自ら大きく股を開いて快楽に震える年上の青年に愛撫を強請る。

「ご、ゴメン…じゃあ…」

 彼女のピッタリ閉じた秘肉を押し広げる。

 するとトロリと若菜の愛液が流れ出した。

(若菜も…興奮しているんだ)

 その淫らな光景に克巳青年の意識が遠くなり何も考えられなくなっていた。

 じゅっ、じゅるるるる…

 無言で幼いヴァギナに口を付け、愛蜜を啜り上げる。

「あっ!…ん…きゅっ…」

 次に悲鳴を上げるのは若菜の方だった。

 快楽で薄れがちになる意識を奮い起し、ペニスを口に含んでいく。

 じゅぷっ…

「むっ、むぐぅうっ…」

 じゅるじゅるじゅるるる…

 負けるものかと陰唇の狭間に舌を這わせ一層攻めを激しくする青年。

「フムッ!ヒッ…」

 じゅっぷ…

 遅れまいとディープ・スロートする少女。

 互いに負けず嫌いだから行為は急速にエスカレートしていく。

 しかし、流石に耳年増であるものの、初めての二人はすぐに限界に達し、行き詰まる事になる。

 克巳青年が若菜のクリトリスを鞘から剥き出し歯を立てるのと、若菜が陰膿から裏筋に舌を這わせ亀頭部に軽く歯を立てるのとはほぼ同時だった。

「イヤッ、克巳様ぁっ!?」

「若菜っ…やめっ…!?」

 互いに相手の頭を突き放し、反発するように壁にべったり背をつけて距離を取る。

「ご、ごめん…なさい。ちょっと…敏感なところだったものですから…」

「い、痛かった?ゴメン…でも、こっちも余り歯を立てられると…」

 二人は弱り果て土下座して深々と頭を下げた。

「ごめんなさい×2!」  

 これまた同時に…

「ぷっ…ははは…」

「くすっ…ふふふ…」

 忍び笑う二人…

 可笑しいやら恥しいやら自分達の様子に苦笑する。

 この時、彼らに当初あった緊張感は霧散していた。

「克巳様…好き」

「若菜…」

 そして、二人はもう一度手を取り合い深いキスをするのであった。



 先程の激しい愛撫の結果二人は既に出来上がった状態だった。

 しどけなく横たわる若菜の足を割り開くと克巳は綻び掛けた花弁に勃起した長めのペニスを押し入れる。

 挿りそうも無かった小さな膣口は押し広げられ、いじらしくもペニスを飲み込もうと精一杯の広がりを見せた。

 メリメリと押し込むときついの破瓜の抵抗にあったものの、青年はそのまま腰を進めていく。

「あっ…痛っ…あ…」

 若菜が眉を顰め、痛みを訴えるが、それでも克巳は奥へと一気に付き込む。

 そして遂に…

 ずっ!

「は、はいった!」

「痛っ、痛ぁい!」

 打ち捨てる者と破られる者との違いこそ有れど彼らは初めての性行為の扉を開けた。

 克巳青年の興奮は若菜の処女を破った事で最高潮に達していた。

 普段使う事は無かったものの一応持ち合わせていた女性を思いやる紳士的な心配りと言う物がいざ使う時になってどこかに置き忘れて来てしまったようだ。

「ふぅっ、ふぬっぅ…うう…」

「ああ…」

 若菜は処女を奪い、今なお苛み続ける男の背を抱き、健気にも痛みを耐え忍ぶ。

 青年の荒々しい腰使いに彼女は痛みで気を失いそうだった。

 しかし、貫かれる内に腰の辺りの感覚がどんよりと鈍り出す。

 ここで青年のペニスの長さが幸いする。

 子宮口に届かんばかりの長鞘が鈍り出す痛みとはまた別の感覚を生み出していた。

激しく突き上げながら全身の性感帯を貪られ続けられ、固くなっていた体は徐々に弛緩して蕩けていく。

 ずんっ!

「あぁん!」

 そして、何時しか若菜は悦びの声を上げるに至る。

「あう…うう…」

 対する克巳青年は“大童貞”を捨てた達成感と美少女の処女を奪った征服感、とろとろ熱く滑ったヴァギナに包まれる快感が一気に溢れて、幸せいっぱい、夢いっぱい理性などとうの昔に無くなっている。

 口元を涎を垂らさんばかりにだらしなく緩め、貪欲に快楽を求めてただ腰を突き動かすのみ。

 その激しい突き込みに若菜の体は上へ上へと競り上がってしまうほどだ。

「アッ、かつみ…さま…おねが…い…アッ、アッ…もっと…アッ、ゆ、ゆっくりぃ…アァン!」

「フゥゥウッ、フヌゥッ、ウウッ、ハァ、ハァ…」

 耐え切れず、声を上げる若菜。

 克巳青年にその声は届く事は無い。だが、彼女の表情に浮かぶのは痛みに耐え忍ぶものではなく、快楽に蕩け、耐え難いに肉の悦びを享受する淫蕩な笑みだ。

 突き込まれる内に彼女の腰は徐々にもじもじとした揺れを見せ始め、遂には克巳青年に合せて尻を振り出した。

 若菜は克巳青年の下で快楽に悶え狂っていたのだ。

「ハッ、ハッ、ハッ…アハッ、あぁん…アァン!アッ、アッ、アッ…ハァン…アァン!」

「フッ、ハァハァハァハァハァハァハァハァ…うっ!…うう…ハァハァハァハァ…」

 童貞処女の初めてのセックスとは思えないほど見事な調和を見せる二人。

 しかし、均衡は突如終焉を迎える。

「アッ、アッ!アッ!?…ヒッ!アァァァッ!!」

 克巳青年に攻め立てられた若菜の肉体がブルブルと痙攣し始める。

 高々と跳ね上げられた爪先は何かに引っ張られるように伸び切り、青年の背に回された手は爪を立て幾条もの傷を彼に負わせた。

 固く閉じた瞼からは涙、半開きになった口元からはトロリと涎を一筋垂らし、法悦の笑みを見せて快楽に震える。

「ハァ…アァン…」

 彼女は青年より先に絶頂を迎えてしまったのだ。

 若菜が絶頂に達した事で彼女の膣内では急速な膣収縮が始まる。

 それは青年を射精へと導く筈だったのだが…

「うっ、うぬうっ…ハァハァハァハァハァハァハァハァ…」

 …青年は射精に至らなかった。
  
 一瞬腰を止め、美少女の膣の締まりを楽しんだものの、その後より一層腰を激しく突き上げ始めたではないか。

 これには若菜の方が堪らない。

「あっ、あっ…か、かひゅみ…しゃま…らめ…らめえぇ…いやぁ…」

 呂律の回らない口調で制止の声をかけるが、無論青年の耳に届く筈も無い。

「ひやっ、いやぁっ、イヤァァァァァァ…」

「フゥゥウッ、フヌゥッウ、ウウッ…オァウ!」

 獣と化した青年の下で悲鳴を上げる続けるか弱い少女。

 其処にはあの不良たちを叩き伏せた武道の達人の片鱗はまるで無い。

「イヤァァァァァァァァァァァァッ!?」

 若菜は快楽の頂きに叩き付けられたまま還って来れなくなった…




「かひゅみ…もう…もふ…ゆるひて…」

 最初の絶頂から1時間超…

 若菜は青年に責められ続け、貪り尽くされていた。

 絶頂の合間すらないほどイカされ続け、弛緩しきった体を良い様に弄ばれる。

 現在は背を海老反り、尻を高く上げる無様な格好で貫かれていた。

 ずぬぅっ!

「ああ…ああぁ…あぁ…」

 その目に既に光は無い。

力無く、まるで痴呆のように緩んだ顔を上げ快楽に痙攣する。

 あれほど大きく高々と上げていた愉悦の絶叫も声枯れ果て、哀しげな呻きを洩らすだけ…

 しかし、青年の挿入は止まらない。

 失神する事も許さない。

 柔らかな女肉の悦びに理性を失った彼は処女を嬲り回し、舐り倒し、性奴に突き落としてもなお己が快楽を満たす為に彼女の膣内で暴れ狂った。

 そして、漸く…

「ううっ!ううぅっ!……ハァ、ハァ…」

「あっ、ああっ、ヒッ…」

 若菜の胎内で克巳の男の部分がブルッと震え…射精した。

(ああ…克巳様のが…出てる)

 とくとくと注ぎ込まれるスペルマの熱さに陶然とする若菜。

 とくとく…

(んぅ…いっぱい…出て…?)

 とくとくとく…

 青年の射精は何時まで経っても終わらない。

(え?え?)

 とくとく・・・ぶひゅ、びゅっ、びゅ!

 何と遂には若菜の胎内を満たし、溢れ出したではないか。

「ヒッ!」

 びゅ、ぶぶびゅっ、びゅくびゅく…

 若菜はその化け物じみた量に怖気を振るう。

 胎内から溢れ出した精液は太股から尻に垂れ、直ぐに真新しい布団に染みを作った。

 その凄まじい量…

 射精の勢いが弱まり、終りを告げる頃にはぷりぷりと重そうな粘液溜りが出来たほどだ。

 射精の終りを体感した若菜は心の中でそっと安堵の息を吐いた。

(これで…これで、もう…)

 若菜は男が射精さえ出来ればペニスが萎み、満足する事を知識として知っていた。

 克巳はこれで満足してくれた筈だ。

 後は妻の務めとしてペニスを口で清めれば良いだけ… 

 朦朧とする意識の中、彼女はそう考えた。しかし、彼女はそれが女の淡い幻想であった事をすぐに思い知らされる事になる。

 グイッ!

 若菜は自分の閉ざされた太股が再び大きく開かれるのを見て驚きの声を上げた。

「…え?な、なんれ・・・?」

 『もう満足したんじゃ…』、そう言おうとした若菜の目に膝立ちになった青年のペニスが目に入る。

「ひいぃっ!」

 若菜は恐怖に震え上がった。

 克巳ののペニスは萎えるどころか一層巨大に膨れ上がり、竿の表面に這う血管が血液を送り出してビクビクと脈動する。

 彼女は知らなかったのだ。

 男の撃ち出す弾丸が一発だけではない事に、状態によっては無限に撃ち出す事が出来ると言う男の節理を!?

「いや、ひやぁぁあっ!?」

(嘘っ、嘘おぉっ!終わったのでしょう?あんなに出したじゃない!?何故、萎まないの!?)

 恐慌を来し、イヤイヤをするように首を振って後ずさりする若菜。

 しかし、腰が抜けて幾ばくも下がる事が出来ない。

 克巳は…笑っていた。

 暗闇に白い歯がニカリと浮かび上がる。

 そして、その分身もビクビクと脈動を繰り返し、彼女を呵呵と笑っているようだ。

「ひぃっ…ひぃっ!?」

(大きい!?)

 若菜は克巳の射精してもなお勇壮なペニスを見て初めてその巨大さに戦慄を覚えた。

 性交をした歓喜で肥大化したそれは、射精したにも拘らず、行為前を軽く凌駕した凶悪なものだった。

「若菜…もう一度…いいよね?」

 克巳青年の声は酷く優しかった。

 青年に再び圧し掛かられる美少女は、逃れえぬ運命を嘆くように哭いた。

「いやあああぁぁぁ…」

 抵抗することも適わず挿入される…愛を確かめ合う行為は既にレイプと化す。

 若菜の悲痛な叫びは翌朝になっても止む事は無かった…



 “夕刻”…二人は連れ立って再び売り切り御免セールへ向かおうとしていた。

 青年との一夜を明けた若菜嬢の憔悴振りは目を被わんばかりだった。

 目元は隈が浮き、頬扱け、顔色は蒼白で生気が乏しい。

 激しく攻め立てられた下半身が重いのか、庇うように足を引き摺る姿がとても痛々しかった。

 それとは対照的に克巳青年の表情は妙にサッパリして晴れやかだ。

 腰から来る歩みも軽やかで空を飛ぶようにスキップしている。

「“若菜”、大丈夫?手、貸そうか?」

「………」

 青年の優しい言葉にも若菜嬢は何も知らず晴れやかな笑顔を見せる彼を恨めし気に目を遣るだけだ。

 此処に至り、若菜は両親の見立てに微妙な狂いがあることに気付いていた。

(もう…駄目…)

 家柄は豪農とはいえ、歴史があるから申し分ない。

 資産家であるし、その跡取である青年も貧乏性ではあるが人格は良好だ。

 優しいし、背も高く、容姿も整えればまず見れる。

 しかし…アレだけは耐えられない。

 アレとは『セックス』のことだ。

 彼のペニスの大きさは異常で、性欲も並ではない上、遅漏だ。

 あの曽祖父にしてこの曾孫ありといった感じで身体能力もゴリラ並…

 足腰が強靭で攻め手がこの上なく激しかった。

 青年が射精するまでに処女の若菜が数え切れないほど絶頂させられたのだ。

 結局、克巳は6度膣内射精したものの、それでも彼は未だ足りない様子で彼女に性交を迫った。

 その時は彼女が泣き喚いて拒絶し、漸く諦めさせたのであったが、あのまま続ければ若菜は衰弱死してしまったかも知れない。

 そのことを思うと彼女は恐怖で身が竦んでしまうのだ。

 克巳青年の事は初めての男だし、好ましくも思っているが…しかし…

 若菜嬢は意を決して口を開いた。

「克巳様…あの…私、もう…耐え…」

 キキィィィィィィッ!

 若菜が別れの言葉を告げようとしたその時、二階建ての大型バスが猛スピードで走り込み、器用にドリフトして止まった。

 ぷしゅーっ!

 其処に現れたのは…

「いんやーっ、参ったね!渋滞だよ!渋滞!数年でこんなに変わるもんかね、この国は?思わず生意気なカミナリ族、いっぱい轢き殺しちゃったよ!?」

「ひいじいちゃん?」

 其処に現れたのは克巳青年の曽祖父、蒼月鞘継その人であった。

 齢八十を超えるであろうにその表情は四十代のように若々しい。

 ふっくらとした濃い髭を蓄え真っ黒に日焼けした面。

 テンガロン・ハットを被ったカウボーイ・スタイル…年甲斐も無くワイルドな格好をしているが、それが妙に似合っている。

 熊のように大柄な体格は年を経てもなお威圧感健在だ。

「おおぉぉぉっ!克巳ぃっ!こんなに大きくなって!この前見た時はこぉ〜んなだったのに…」

 …と親指と人差し指の間でサイズを示す。

 そのオヤジギャグは年代を感じさせる。

「ああぁぁぁっ、若菜ちゃん!こんなにやつれてしまって可哀想に…克巳、お盛んな様ぢゃのう…このっ、このぉ〜っ!」

「いや、あはっ、あはははぁ〜っ!」

 肘で小突かれ、あっちの方に愛想笑いをする克巳青年。

 若菜は顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 曾爺さんはそんな若い二人をガバッと豪快に抱き締めた。

「あれから思い直してなぁっ!ワシの曾孫だけに若菜ちゃんを犯り殺してしまうかもしれない嫌ぁ〜な想像が湧き上がって来おって、そうならないように許婚をもう八十人ほど連れて来た!」

「はぁっ?」

 八十人…そのとんでもない人数に克巳青年は頓狂な声を上げる。

「まあ…」

 逆に若菜は救いの手が差し伸べられ、感激で目を潤ませていた。

「旦那様?到着が遅れておりますが、もう一台御座いますので160人…正確には168人で御座います」

 執事らしい初老の男が訂正する。

「おっ?そうだった!そうだった!いや〜っ、最近物忘れが酷くてなぁ〜っ!」

「ひゃ、ひゃくろくじゅうはちにん?ひ、ひいじいちゃん…この国では重婚は認められていないし…僕には若菜さんが…」

「…克巳様」

 若菜は自分のことを気に掛けてくれる青年に感動して涙を滲ませ、ハンカチでそっとそれを拭った。

 するとバスから同じようなウェスタン・ルックでブロンドのヤンキー美女がバブル・ガム膨らましながら出て来る。

「オジサン、フィアンセってその子ぉ〜?」

 大きく胸の開いた衣装から覗く胸は巨大で今にも零れ落ちそうだ。

「え?どれ?どれ?」

「わ〜っ、カワイイ!」

 それに続いて続々とバスから降りてくるのは、そりゃもう人種から国籍から肌の色からおっきいのちいさいのと選り取りみどりなくせにみんな綺麗だったり可愛かったり、フェロモンムンムンだわ、ロリロリだわ、それは正にスケベ爺共の色眼鏡や邪な賭け引き無し、年齢をも超えた真ミス・ユニバースな雰囲気があった。

「『重婚』だぁっ?な〜にケツの穴の小さい事言っておる!こんなちっぽけな国なんぞ飛び出て、ワシの“国”へ来い!」

「く、くにぃっ!」

 何という大法螺…

「この前引っ掛けた娘が、とある産油国の女王様でな。ワシ、王様!お前はその次!」

 …と思ったらそうではないらしい。

 その証拠に彼女達の目の色が違っていた。

「うっ、うわっ、そ、そんなところをぉぉぉ…」

 次期国王の気を引く為にあんなイヤンなところやこんなアハンなところを路上であるにも拘らず集団で触り捲くってくる。

 中にはブラを外す人まで…

 二台目のバスが到着すると其処はもう収拾の付かない状態になっていた。

「わ〜かなさぁぁぁん!」

 女性達の中で必死に若菜の名を呼ぶ克巳青年。

 その姿を見ながら若菜嬢は嫉妬するでもなく、うろたえるわけでもなく、うっすらと笑みを浮かべていた。

「良かった…これでずっと御一緒出来ますね…克巳様」

 彼女にとっては克巳青年と一緒に居る事だけが幸せであり、その最大の障害であった夜の激しい性交渉が緩和される事は歓迎こそすれ悲しむべき事ではなかったのだ。

 その日、ある貧乏だった青年の生活は一変し、許婚がやって来た。

 いっぱい…



 「終」


投稿小説の目次へ