《楽 園》


「……報告は以上です」

 書類を整えながら雪彦さんが言った。

「三水会の方への切りくずしが、このところ露骨になってきていますね。でもご安心ください」

 応接室に響き渡るような、よく澄んだ声で言いながら、彼は力強くうなずいた。少し日焼けしたたくましい顔にそれにふさわしい体格。決してごついわけじゃないのに、とても喧嘩をしたいとは思わない威圧感のあるしなやかな体であった。鋭い目は、しかしぼくに向けられるときは穏やかでやさしく、口元にも微笑が浮いている。

「関連企業の株はすべて森野不動産本社が筆頭株主です。あとは和也様個人の所有、水野会長と水野社長、水野商事と傘下企業の持分をあわせれば、すべて過半数を大きく超えます。議決権を押さえられては下手な動きはできません。もちろん怪しい動きについては、すべて調べを入れておりますのでご安心を」

 ぼくはうなずき返した。

 本当に雪彦さんがいてくれてよかった…。


 彼は森野グル−プ会長、ぼくの父の秘書だった。会長の懐刀と呼ばれ、公私ともに父さんを助けてくれた、ぼくにとってもお兄さんのような存在であった。いや、本当にお兄さんになっていたかもしれない人なのだ。今は三十二歳になっている。


 ぼくは、父さんが五十歳を過ぎてから、初めて生まれた子供だった。雪彦さんはお父さんの古い友人の子で、その人が亡くなった後、父さんに引き取られ、この家で一緒に暮らすようになった。なかなか子供ができなかった父さんは、雪彦さんを養子にしようという話すらしていたのであるが、そんな矢先にぼくが生まれたのだ。そんな経緯など露ほども感じさせず、雪彦さんはぼくを社長の御曹司として扱った。ただ、様呼ばわりには未だに慣れることができない。


 大学を主席で卒業し、さらにアメリカの大学で博士号までとった雪彦さんは、帰国すると父さんの会社で働き、めきめきと頭角をあらわすようになった。


 会社での待遇は会長秘書だが、もう経営の相談役と言ってもよく、それは衆目の認めるとこれであった。


「でも、油断は禁物です。森野社長は曲者です。このあとだって、どんな手を使ってくるかはわかりません」


 華也子さんは、資料をめくりながら、少し疲れたように眼鏡をはずしてまぶたを揉んだ。眼鏡をしてても美人だが、はずすともっと綺麗だ。真っ黒な長い髪と黒い瞳、少し面長な化粧気の少ない白い顔は、いつもほほが鮮やかな桜色に染まり、思わず触りたくなるほど綺麗だ。形の良い唇はさくらんぼのようにつややかだった。


 彼女は父さんの個人的な顧問弁護士であった。まだ三十歳にはなっていないはずだ。

 父さんの周りにはこういう若い人たちが多かった。さまざまな境遇で、才能がありながら勉強を続けられない人たちのために、父さんは個人的に学費を援助してきた。そういう人たちが共に学び、切磋琢磨できるようにと私塾のようなものも開いていて、若い彼らに経営者としての知識や心構えを教えたり、共に酒を飲みながら語らうのをとても楽しみにしていたのだ。ぼくも、いつか一人前の社会人になり、父さんをかこんで、雪彦さんや華也子さんと同じ立場で対等に語らうことができる日を楽しみに、必死で勉強をしていたのに……悲劇は起こった。

 一年ほど前、父さんと母さんを乗せて信号待ちをしていた車に、トラックが追突したのだ。即死だった。

 父さんが会長をしていた森野グル−プは、後継者であるぼくの成長を待つこととなり、とりあえずは父さんが起業した時からの友人の、小島のおじさんが会長になり、引き続き秘書として雪彦さんが補佐しながら、特に問題もなく運営されていた。しかし、そのころから、グル−プ企業の一つ、森野製薬の社長をしていたぼくの叔父が、グル−プ内での勢力を強めようといろいろと画策を始めたのだ。

 グル−プ内の社長会である三水会のメンバ−にもいろいろと働きかけをおこなっていることは雪彦さんの話からもわかった。小島のおじさんはいつもにこにことした良い人だったが、どちらかといえば温厚な調整型の人で、こういう時は少し頼りなかった。ただ、森野グル−プに強い影響力を持つ、母さんの父、ぼくのおじいさんにあたる水野コンツェルンの会長が健在で、しっかりとにらみを効かしてくれていたし、母さんの兄、叔父さんの水野商事社長もぼくの心強い味方だった。

 父さんの私塾を巣立った人達も、森野グル−プ関連企業で頭角を現し、将来の重役候補も多い。その人達が、雪彦さんを中心にがっちりと団結し、ぼくの成長を待っていてくれている。これが一番心強かった。ただ、ぼくはまだ十五歳だ。ぼくがもう少し大人だったら、もっとしっかりしていたら…と悔しくてならないが、今はただひたすら勉強し、経験を積んで、力を蓄えるしかなかった。

「ところで和也様。森野リゾ−トの新しいリゾート地に招待されている件ですが、本当に行かれるつもりですか?」

 眼鏡を直しながら華也子さんが聞いた。

「うん、ちょうど夏休みだし、海外へも慣れておきたい。何か問題が?」

「私は反対です。森野リゾ−トは森野社長の強い影響下にある企業です。海外のことですし、この時期での……」

「それは大丈夫だ、華也子」

 雪彦さんが口をはさんだ。昔から二人はいつも呼び捨てだった。いつかこの二人は結婚するんだろうな、とぼんやりと思った。

「リゾ−トの社長は小心者だ。自分の保身にきゅうきゅうとしてる。どうあがいても森野社長に勝ち目の無い今の段階で、裏切りはない」

「雪彦、こういう時は裏の裏を読まなきゃ。社長に何か切り札があるからこそ、裏切るということも…」

「あ、もう、二人ともやめてよ。心配しだしたら、きりが無いよ。もう行くと決めたんだ。行くよ」

「心配なら華也子、君がついて行け」

 雪彦さんの言葉に、華也子さんがすねたように口を尖らして上目遣いににらんだ。

「もちろん、そのつもりです」

 げっ、保護者つきか……



「到着しました、シ−トベルトをおはずしください」

 操縦席に座った金髪のパイロットが,振り返るとにっこり笑いながら流暢な日本語で言った。小型機とはいえ、女性のパイロットとは珍しい。

 ハワイから大型の飛行艇で約一時間、空から見えた美しい青い海と、エ−ゲ海を思わせる白い建物が目の前に広がっていた。

 一つの島を丸々買い取り開発した、日本人向け超高級滞在型リゾ−ト。この不景気なご時世に高級リゾ−ト?と疑う節もあったが、高級ではなくその頭に超がつくところがみそだ。日本でも確実に貧富の差が広がっている。オ−プンはまだ先だが、オ−プンに向け研修中の職員の実地研修も兼ねて、是非、将来のグル−プ会長を招待したいと、開発元の森野リゾ−ト社長から打診があり、今回こうしてやってきたのだ。

「なお、当機は十日後まで迎えにまいりません。お忘れ物のないようにお降りください」

「そんなところまで、律儀にやらなくてもいいのに…」

 少し口をとがらせると、華也子さんがたしなめるように言った。

「職員の研修も兼ねていることをお忘れなく。すべてを本番どおりにやってどんな影響が出るかも調べる、モルモットなんですよ、和也様は」

「ひどいな、華也子さんは」

 ここでの滞在は1ク−ル十日。その間は迎えはこない。いくら泣こうが喚こうがこない。当初にそういう契約を交わすのだ。電話も厳禁で、管理事務所に衛星電話が数台あるだけだ。つまり、いったんここに来た限りは、十日間は帰れない、外からわずらわしい連絡が入ることも無い。とにかくゆっくりする以外に何もできないのだ。ただ、急病人のために簡易な病院などは完備している。

「ようこそいらっしやいました」

 わあおっとぼくは叫びそうになった。

 そろいのビキニの水着姿の美人が三人、飛行艇用の桟橋をわたって現れた。みんなアメリカンサイズ、プロマイドを飾れそうな美人ばかりだ。

「はじめまして、管理人のカレン・マクドゥガルです」

 先頭に立った一人がぼくの前に立つと、豊満な胸を誇らしげにそらし、長いストレ−トな金髪を揺らして挨拶した。彼女も流暢な日本語だった。白い、白人にしては美しい肌、青いシャドウに濃い赤の唇が大きい。オレンジ色のビキニの紐が千切れてしまいそうな胸によく引き締まった腹、長い脚は太股にこってりと脂がのり、見るからにおいしそうだ。

「二人は副管理人、アンナ・スミスとエマ・ジョンソンで……あら?」

 荷物を持って飛行艇を降りてきた華也子さんを見て、少し眉を曇らせて首を傾けた彼女は、ぼくに視線を戻した。

「女性、同伴ですね」

「そうだよ」

 見りゃあわかるじゃないか。このことはリゾ−トの社長を通して連絡はいってるはずだが。

「失礼しました。お二人とは伺っていましたが…女性とは…」

「何か問題でもありますか?」

「まだ、すべての客室に家具が入っておりません。今回お泊りいただく最高級のVIPル−ムだけしか準備できておませんので……申し訳ございませんが、相部屋になります。大きな部屋ですから、もちろんサブル−ムもございますが……」

「えーっ…」

 そりゃ困る…と言いかけるところに華也子さんが、かまいません、と割り込んだ。そっとぼくの耳元に口を寄せ、いざという時、その方が安全です、とつぶやく。

 そっちがよくてもこっちが困る。せっかく、久しぶりに何もかも忘れてゆっくりできると思ったのに、これじゃあ24時間の監視つきと一緒だ。

「では、ご案内いたします。予防接種はお済ましですね?」

「あ、三日前にやりました。必要なんですか?」

「新しく開発した島で人は住んでませんでしたから危険はありません。ただ自然が多い島ですので、念のためです。私たち職員も同じく三日ほど前に全員やったばかりなんですよ」

 荷物をお持ちして、と二人の副管理人に英語で言いながら彼女が先に立って案内した。歩きながらリゾ−トの説明をする。

「…当リゾ−トは最大20組、60人までが同時に滞在できます。そのうち3組分が今回御滞在いただくVIPル−ムです」

 たった20組……なの?。

「職員は、最終的には約160名になる予定です。直接サービスにあたる接客スタッフが120名、料理人が20名、施設の維持管理や庶務に15名、医療スタッフ5名を基本としています。なお、現在はその約半数、80名が研修に参加しております」

 ちょっと待て、最大で20組なのに、スタッフ160名で割りに合うのか?

 カレンはにっこり笑ってぼくの疑問に答えた。

「お客様にはそれだけの負担をいただくことになります。もちろん、それでも安いと思っていただけるサービスを提供する自信はございます」

 華也子さんは彼女の説明を聞きながら不快げな顔をしている。こういう後に残らない、刹那的な贅沢を彼女は嫌った。

「でも、お客さん60人に接客スタッフ120人じゃあ、まるで一人に二人スタッフがつくみたいだね」

「まるで、ではございません。文字どおり、お客様お一人にスタッフ二名がつき、24時間体制でサ−ビスをおこないます」 

 話しているうちに、ぼくたちは真っ白い壁と屋根の建物にたどり着いた。南国らしく、窓や扉などすべてガラス張りで大きく光を取り込むようにした清潔感のある、平屋建ての家だ。もちろん庭にはプ−ル付。初めての客を迎えて、カレンたちと同じビキニ姿のスタッフがたくさん行き来しているが、女性ばかりだ。

「女の人、多いですね」

「職員は女性しかおりません」

 は?

 当然のように言うカレンに、理由を聞こうとするより先に玄関についてしまった。

「本来でしたら私ども管理スタッフが迎えに参り、ドアの前まで案内したあと、お客様にドアを開けていただくと、接客の担当スタッフが出迎えるという形になるのですが、今回は私が森野和也様のスタッフをさせていただきます。あなた様は……」

「華也子、水口華也子よ」

 不機嫌そうに華也子さんが答える。あとで二人きりになった時が…こあい…。

「では、華也子様、あなた様にはアンナがお付します。アンナ」

「よろしくお願いします」

 ブラウンのカ−ルした豊かな髪を持つ美女は妖艶に華也子さんに微笑みかけた。白人だが、煙るような瞳に、べったりとしたル−ジュの口が赤い。口元のほくろが色っぽかった。スタイルは、カレンよりぽっちゃりしているが、その分胸のふくらみは彼女の比ではなかった。その胸を華也子さんに見せ付けるようにほこらしげに揺らす。それが、さらに華也子さんの怒りをあおったようだ。華也子さんだって日本人にしてはかなりグラマ−だが、それでもアンナの前では児戯に等しい。

「儀礼的ですけど、私どもが先に入って待ちます。1分ほどしたらお入りください」

 そう言い残して、二人は扉から中に入っていった。それを見届けると、エマも、他の用事がありますので…と笑顔で丁寧に頭を下げて去っていった。

「みんな、美人だね。びっくりした」

「それが、どうかなさいましたか?」

 あ、いけない、思わず言っちゃった。華也子の右ほほ、痙攣している。ひどく不機嫌な証拠だ。

「あ、別にぼく、そんな……」

「1分です」

 ぼくの言葉をさえぎるように、静かに言った華也子さんはドアノブを掴んで引いた。ああ、怒ってる、やっぱり、怒ってる。

 二人っきりになれば、激しい小言をもらうことになるに違いない。森野グル−プ御曹司の立場を思いやって、人前でぼくを怒るようなことはしない。だが、その分陰に回ってからの彼女の小言は激烈を極める。

「どうぞ、お入りください」

 冷たい、無感動な声。

 あーあ……。

 荷物を置いたまま、こんにちわっと、ぼくは建物の中へと歩みを進めた。

「ようこそいらっしいました」

 大きな笑顔を作りながら、カレンがぼくを迎えた。わざとらしい。ただ、次の彼女の行動にはびっくりした。両手を伸ばしてぼくを引き寄せ、ぎゅっと抱きしめたのだ。少し汗ばんだ豊満な胸に、顔がめりこんだ。

 えっ?と思った瞬間、カレンは両手のひらでぼくのほほを挟んでぐいっとひきよせると、ぼくの唇に、彼女の大きな赤い唇を重ねた。

 あ…。

 ねちゃっとした感触が唇とその周りをおおいつくす。

 それだけのことで、ぼくは目が白目にひっくり返りそうになる快感を感じた。体がふらふらして目を開けていられない。ぎゅうっと、股間が締め付けられたように痛くなった。

 むちゅ、ねちゃっという音が唇の間から漏れる。濃いル−ジュのぬるぬるするような感触が……ああ、キモチイイ……。

 となりで、華也子さんがアンナの激しいキス攻めにあっている姿がぼんやりと見えた。最初は抵抗した華也子さんだったが、音がするほど激しく唇を吸われると、体を痙攣させてぐったりとおとなしくなった。

 ぬちゃっと音を立ててカレンの唇がぼくから離れた。ああ…体に力が入らない……だ、だめああああっ……。

 カレンが手を離すと、ぼくはそのまま床に崩れ落ちた。

 ぼくが倒れてからも、うっ…うん……というあえぎ声とちゅばちゅばという音がしばらく響いていたが、やがて隣でもどさっという音と共に、華也子さんが倒れる。首をねじって見ると、顔から首筋にかけて、卑猥な形の真っ赤なル−ジュのキスマ−クをびっちりつけた華也子さんが、仰向けになってぼんやりと宙を見据えていた。口元はかすかに笑いが浮かび、目は見開かれて、じっと一点を見たまま動かない。

 ぼんやりと見上げると、かすむ目にカレンの横にアンナが寄り添うように立つのが見えた。目を見交わして頷き、ニヤッと笑う。

「この島名前をまだ申しあげておりませんでしたわね、和也様」

 ぼくたちを見下ろし、くっくっとうれしそうに笑いながら、カレンが言った。

「殿方の楽園、インビティション島へようこそ。和也様」



「帰りますっ!」

 華也子さんは繰り返し叫んだ。

「こんなところ、早く出ましょうっ!」

 わかってるけど…体の力が入んないよ……。

 ベットに転がり天井を見上げたまま、ぼくは頭の中で反論した。

 早い夕食の準備ができるまで、ぼくとか華也子さんはそれぞれのベットの上でぼうっとして過ごした。時々華也子さんが、はあっとため息をつくのは、アンナのキスの感触を思いだしていたせいかもしれない。

 部屋に運ばれた豪華な夕食は、見た目も美しく、無茶苦茶においしかった……はずなのだがよく覚えていない。

 そして、食器がさげられると、入れ違いに再びカレンが現れた。

「今回は特別のお客様ですから、スタッフ全員がご挨拶申し上げます」

 にっこり笑ったカレンが宣言すると、開いた扉から次々とスタッフたちが入ってきた。色とりどりのドレスを身にまとった彼女たちは、ぼくの前に立ち名前を告げて挨拶をすると、情熱的に唇を重ねてきた。白人が多いが、褐色の肌を持つエキゾチックな美女や、しなやかな体をした黒人の少女、北欧風の清楚な淑女と、人種も年齢もさまざまな彼女たちは、一人ひとりが一分以上もたっぷりとぼくの唇を吸い舌を這わせた。ぶちゅぶちゅと顔中にキスの雨を降らせ、最後に口の形がかわるのではないかと思うほど激しい口付けをしてくる情熱的な者もいた。五人くらいまでは何とか耐えれたけど、あとはもうだめだった。ぐったりとソファに座り込み、唇と顔を彼女たちの蹂躙にまかせるままになってしまった。華也子さんも最初は激しく抵抗したが、抱きすくめられるようにキスをされると、三人目くらいで目に見えて抵抗が弱くなり、十人目くらいにはぼくと同じようにソファに座り込み、ああと声をあげながら、その美しい唇を彼女たちに与えた。

 カレンも凄かったけど、アンナもすごかった。華也子さんが放心状態になったのも無理はない。夢見るような瞳がぼくのそれを捉えたまま、その唇がにちゃにちゃとぼくの唇をなぶり、それだけで口の中が涎でいっぱいになった。そして、その舌は、ねとねとと唾液の糸をひきながら、耳の中から首筋、目の玉まで嘗め回してぼくに悲鳴をあげさせた。

 すごいと言えばもう一人、もっとすごいキスをしてきた人がいたけど……そのキスのすごさ だけが記憶に残り、名前が思い出せなかった……。

 一時間以上かけて、たっぷりとした挨拶をすると、では後ほど、というカレンの言葉を合図に、並んだ全員が綺麗にそろって頭を下げ、来たとき同様の整然と部屋を出て行った。

 彼女たちを見送ってだいぶ経ってから、ぼくはよろよろとソファを立ってベットに横たわった。体中の力を吸い取られたみたいだった。実を言うと、彼女たちの挨拶を受けている間、情けないことにぼくはパンツの中で二度もイッてしまっていた。まだ全身に残る快感とそのせいもあって力が入らないのだ。でも、パンツを処分するために、トイレや風呂場に行く気力も体力もなかった。

 華也子さんはというと、もうぐったりとソファにもたれかかったままピクリともしなかった。失神してるのかと思ったが、時々ああっとあえぎ声をもらしている。

 だが、正気に戻るのはやっぱり華也子さんが早かった。

 今の今まであえぎ声をあげていたのに、予備動作なしで突然立ち上がると、ここは危険です、早く帰りましょうっ!と冒頭の台詞となったわけである。

「でも華也子さん、迎えは十日後まで来ないじゃないか」

「方法はあるはずです。なんとかハワイの関連企業に連絡が取れれば…すぐ船か飛行艇をチャ−タ−させます」

 顔中に、さまざまな色のキスマ−クをまだらにこびりつかせたまま、真剣な表情で考え込む華也子さんの顔は、こう言っちゃ何だが、少し笑える。もっとも、ぼくの顔だって、もっとひどい事になっているかもしれない。

「彼らの目的がわかってきました。女の肉で和也様を虜にし、骨抜きにしようとしているんです」

 女の肉…って凄い表現だ。女の華也子さんの口から出たとは思えない。

「でも、電話は管理棟にしかないって聞いたよ。貸してくれって言っても貸してくれるわけないし…」 

 一応こういうこともあろうかと…と華也子さんが言いかけたところで、入り口のドアがノックされた。

 今取り込み中よっ!と叫びかけた華也子さんを制して、ぼくは、どうぞ、と声をかけた。

 彼女たちがその気になれば、どうやってでも入ってこれるのだ。

 ぼくにもなんとなく彼女たちの目的がわかってきた。そんなに簡単に色仕掛けにたぶらかされるほど、ぼくだって初心じゃ…な……い………ああ……すごい………。

「失礼いたします」

 ドアを開けたカレンが丁寧にお辞儀をし、後ろに二人のスタッフを引き連れて入ってきた。

 すごい格好だ。まるで透き通るようなレ−スの下着、おそらく日本でこんなもの売っている店はないであろう。

 後ろは二人とも白人だが、一人は短い燃えるような赤髪の、まだどこか顔に幼さの残る女性、自己紹介の時に、たしかナタ−シャといっていた。もう一人は、もう30歳に近いように見える、見ただけで思わず涎がたれそうな、金髪の美女だった。全身からエロスのオ−ラが噴出している。そのアンナに負けない色っぽい目つきで見つめられたら、いたいけな幼稚園児でも性犯罪に走りそうだ。名前は…ああ思い出したベリンダ…マクドゥ−ラかマクドナルドか……なんかそんなんだった。彼女が……彼女のキスが一番すごかった。

 自己紹介のときに、ぼくが特に素敵だと思った内の二人を、カレンは確実に気付いていたとしか思えなかった。

「失礼いたします和也様、華也子様。夜伽にまいりました」

 カレンが相変わらずの妖艶な笑顔でぼくに微笑みかけた。

 華也子さんはあっけにとられたように、ぽかんと口を開けてその姿を見つめている。次から次へと起こる事態にさすがの華也子さんもついていけないようだ。いや、それ以上にすべてが非現実的だった。

 が、今度は立ち直るのが早かった。

「…よとぎ……夜伽ですってえ!。何考えてるのよ、あなた達……」

「申し訳ございません、華也子様」

 本当に申し訳なさそうに、カレンが華也子さんに向き直りお辞儀をした。洗練された優雅な動きであった。カレンだけではない。三人が同時に、同じ角度で頭を下げたのである。

「…ここには、華也子様の御相手をする男性スタッフはおりません。そのかわり…」

 カレンは手に持った鈴を鳴らした。銀製らしいそれが軽やかな澄んだ音を立てる。

 再び扉が開いた。

 アンナだ。

 いや違う。

 アンナを先頭に、後ろから続いて次々とスタッフ達が入ってくる。みんな、カレンたちと同じ下着姿だ。入り口で、これも優雅に頭を下げ、部屋の中に入ってくると、華也子さんの前に立ち、もう一度頭をさげる。

 次々に部屋に入ってきて、華也子さんの前に並んだ彼女たちを手で大きく指し示してから、カレンはもう一度華也子さんに頭を下げた。

「御婦人方でも喜んでいただける十分な技術を持ったスタッフ七名、一晩中でも華也子様の御相手をさせていただきます。どうぞこれで御容赦をいただきますよう、お願いいたします」 

 一斉にニコッと笑って華也子さんを見た彼女たちに、華也子さんの顔がさっと青ざめた。だが、同時に熱いため息もその口からもれる。理性ではわかっていても、昼からのキス責めで、体に快感が染み付いているのだ。

「さあ、はじめましょう。和也様は私ども三名が御相手いたします」

 おもわずといった感じで後さじった華也子さんに、流れるような統一動作で左右からスタッフがしがみついた。やめてっ!と暴れるのを六人で押さえる。、アンナが頭を抱え唇を重ねると、しばらくうめき声をあげてもがいていたが、すぐにおとなしくなった。

 くそっ、華也子さんになにするんだっ!

「さあ、和也様…」

 思わず飛び出そうとしたぼくの前を、すっと、カレンの笑顔がふさいだ。左右から寄った二人がぼくの手を取り、ベットに導く。ああ…柔らかい手だ……それに耳元に息を吹きかけて……ああ、気持ちいい……。

 彼女たちは、左右から二人が挟みこむように体をこすり付け、ぼくの手を抱いて、ベットにぼくを腰掛けさせた。あまりの気持ち良さになすがままだ。カレンはベットに上り、後ろから腕をぼくの首に回して抱きつきながら、肩越しにぼくのほほにキスをした。唇が触れた瞬間、あまりの気持ち良さに思わず喘ぎ声をあげてしまった。

「ご覧になって、和也様…」

 ねっとりとした声が、耳元でささやく。

 ああっと指差す方を見ると、ぼくの向かいのベットに、華也子さんが同じように腰掛させられていた。

 服を全部脱がされて…ああ、周りにいるスタッフたちに負けないくらい、綺麗ですごく色っぽい裸だ。

 既に瞳はうつろだ。顔のキスマ−クがさらに増え、耳たぶにもべっとり、アンナの唇と同じ色がついている。腰掛けた上半身をゆらゆらとゆらし、眠そうな瞼が今にも閉じそうだった。

  自らも下着を脱ぎ捨てながら、スタッフ達が次々にその体に群がっていった。二人が後ろから華也子さんの体を支えながら、耳や首筋を嘗め回し、二人が左右から抱きつき胸に吸い付いている。あとの三人は、華也子さんに股を開かせ、床に膝をついて股間に群がっていた。

 三人の真ん中にいるのがアンナだ。そっと体を寄せ、股間に顔を埋める。

 あはああっと華也子さんが顔をのけぞらせた。

 華也子さんの股間で、アンナの口がずるずると何かをすする音がする。華也子さんは顔を真っ赤にして、歯を食いしばって頭を振りながらいひいいっと声にならない呻きをもらした。

「だめよ、華也子様……」

 ぼくのほほに自分のほほを擦り付けながら、カレンが含み笑いのような声を漏らした。ああ、柔らかい感触と、上品な香水の香りで…体がしびれる。

「…そのいやらしい顔を、和也様に見せて差し上げて」

 後ろから華也子さんに抱きついていた一人が、華也子さんの頭を両手でつかむと、ぐいったぼくの方を向かせた。

 まぶたを半分以上閉じ、うつろな瞳の華也子さんの目がぼくの方を見た。上向きから無理やり正面を向かされた口から、だらだらと涎が糸を引いてこぼれた。

「あ…ああ……見ないでええ……和也様……見な……そんな目で見ないで……いひいい……見ないでええええっ!」

 華也子さんはぼくから目をそらして、真っ赤の顔をしてイヤイヤをした。瞬く間に、全身が羞恥の赤に染まる。ああ、カワイイ…あんな華也子さん…見たことがない……見ないでって言われても、目が離せないよお……。

 音を立てながら、スタッフたちは華也子さんの体に吸い付き、舐めまくる。

 豊満な華也子さんの胸は唾液でてらてらと光っていた。股間のアンナは何をすすっているのだろう。さっきからじゅるじゅるという音がさせっぱなしだ。アンナの両脇の二人は、内股のやわらかい部分に吸い付いていた。華也子さんの白い肌にうっ血したあとがいくつもついている。

「あ、あはああっ……」

「華也子様、気持ちいい、と叫んで御覧なさい。気持ちいいことを言葉にして、自分に認めるの。今の十倍も、気持ちよくなりますわよ」

 ぼくのほほに自分のやわらかいほほをこすりつけながら、カレンがいらがうように言った。白い手でぼくの反対側のほほを撫でながら、真っ赤なマニュキュワの綺麗な人差指を、ぼくの口の中に入れたり出したりする。ぼくは思わずその指をすすっていた。ああなにか、カレンの指に、僕が犯されているような、そんな気分だ……。

「い…いや…だめえっっ!」

 華也子さんは耐えている。押し寄せる快楽の渦に、それでも必死で抵抗している。

 ああ、だめだ、あんなに喘ぎ声をあげて……気持ち良さそうに……このままじゃあ華也子さんが壊れちゃう、助けなきゃ……でも、カレンの指がおいしい…カレンのもう一方の手がぼくの股間をジ−ンズの上から撫で回して……ああ、キモチイイよう……助けるのは…もう少しカレンの指をしゃぶってからでも……いいや……。

 あはああっとあえぎ声をあげる華也子さんの顔がぼくの1メ−トルほど前にあって、ああ、キモチよさそう……。ずるいよ、ずるいよ華也子さん、一人で7人も……ぼくは3人なのに………。卑怯な華也子さんなんて……もっともっと悶えればいいんだ……ああ、おいしいよカレン、カレンの指おいしいよおお………。

「あはああああ……いい……だめ……だめええええっ!」

「さあっ、気持ちいいと言いなさい。快楽を開放するの。何もかも忘れて、快楽の中におぼれるのよ。さあ、言って!」

「いやああっ……だめ…だめええっ……いひいいっ……」

「言うのよっ!」

「……あはああん……だめええええっ!……あ……あああ……やめて……だめええええっ!……いやああああああ………」

 華也子さんは涙を流しながら絶叫した。口を大きく開き、喉の奥まで見えるほどだった。

 華也子さんの股間のじゅるじゅるという音が更に激しくなる。さっきまで内股に吸い付いていた二人まで、アンナと頭を寄せ合うように、股間の一番深いところに吸い付いてる……華也子さんはもう叫びっぱなしだ。でもその顔は押さえられて、正面のぼくの方を向いている。

 ほとんど閉じそうな目の中で、瞳がだんだん上に上がってゆき、白目の部分が多くなる。口からは涎が流れ続けていた。

「ああ…だめ…だめえ………もう、もうだめえええっ!……かず…和也様ああっ……あ…ごめ…ごめ……ごめんなさいいいっ!……ごめんなさい、和也様ああああああっ!」

 いひいいいっ、気持ちいいいいいいいいっ!っと華也子さんが絶叫した。

 それから先はもうぐちゃぐちゃだった。両手で頭をかきむしり、ひいひいと悲鳴をあげながら、華也子さんは、もっともっとしてえええっ!と哀願した。

「…いい…いいいっ……きもちいっひいいっ!……もっと……もっとしってええっ!舐めて……あはあああん……いひい……」

 股間から顔をあげたアンナが華也子さんに体を寄せ、耳元で何かささやいた。その間も、彼女の右手は、華也子さんの股間で、にちゃにちゃと音をたて続けている。華也子さんの叫びがさらに狂おしく、激しくなった。

「あ…い…い、あ……はあああっ……して…してっ…あはああ……もっと言って……言ってえええっ!……お願い……お願いだからああ……もっと、もっと罵って……ああ、いやあああっ……」

 アンナは華也子さんの股間に這わしていた手を華也子さんの目の前にかざした。何かささやきながら指をひらくとねっとりとしたものが糸を引いた。それを見た華也子さんの目がさらに羞恥に狂おしくなった。その糸を引くものを何度も何度もねとねとと見せ付け、アンナは華也子さんの耳に口をよせささやき続けた。そのたびに、華也子さんの瞳と叫びがだんだん狂気の色に染められていった。

「い…いひい…する…何でもする……だから触って…わたしのオ○ンコ触ってえええっ……あひいいっ!」

「さあ、華也子様、そのいやらしいお顔を、和也様にもっと見ていただきましょうね…」

 華也子さんの耳を口に含みながら、アンナがねっとりとささやくのが聞こえた。

 半分白目を向いた華也子さんの顔が強引にぼくの方を向かされる。

 あの理性的な華也子さんの顔が、欲情のどす黒い赤に染まり、閉じそうなまぶたが痙攣を起こしている。鼻を鳴らして、口から糸をひく涎を飛ばしながら華也子さんは何かに憑かれたように絶叫した。

「…み、見てえええっ……か、かず……や様っ!……見て…ああ、いいいっ……見てえええーっ!……わ、私の……いやらしい顔…顔…あはああ……顔みてえええっっ!」

「あら…見ていただきたいのは顔だけかしら?」

 アンナのその言葉に、股間にいたスタッフが申し合わせたかのようにそこを離れた。単によけたわけじゃない。床に這った彼女たちは華也子さんの足の指と指の間に舌を這わせ始めた。とたんに華也子さんの体がぶるぶると痙攣する。

「ここも、和也様に見ていただきたいんでしょ?」

 伸ばした手で、華也子さんの股間にぬちゃぬちゃと音をさせながら、アンナがまるでキスするかのように華也子さんの唇に口をよせてささやいた。ささやいたといっても、ぼくに聞かせることを意識した声の大きさだ。

 ああ……綺麗だ……黒い茂みの下で肌と同じピンク色のものが、あふれてくる蜜を塗りたくったように光ってる。まるで体中の水分がそこから抜けているかのように、その蜜は滴り続け、シ−ツから床へと大きなしみを作っている。

「あは……あばああっ……見てええ……ここも……見てええ……お、おでがいいいっ……ああ……みて、みぶえええ……」

 びくびく体を震わせながら、華也子さんは乳首に吸い付いていた二人を手で抱きしめて強く胸に押し付けた。両足で床の上の一人を挟み込み、器用にその頭を自分の股間に押し付け、自らも腰を押し出すようにこすりつける。そして、髪を振り乱し、真っ赤な顔を狂ったように振って汗を飛ばしながら叫び続けた。

 アンナが、何か合図でも送るかのようにぼくに流し目をくれた。見てて御覧なさいと言わんばかりに、歯を見せて微笑みかけると、華也子さんの前に膝まずき、股間を押し開き、顔を埋める。

 叫びがひときわ高まり、再び絶叫に変わった。わけのわからないことを叫びながらむちゃくちゃに頭を振り回す。

「……ああ……してえええ…もっと吸って、吸ってええええ……もう、無茶苦茶に……して……私を殺してええええっ!……死にたいっ……殺してええええっ……死に…死にたい………き、キモチイイまま死なせてええええっっ!」

 ああ…華也子さんやめてええ……そんな…そんな…そんなの色っぽ過ぎるよおおっ……卑怯だ、卑怯だよおおおっ………ぼくがおかしくなっちゃいそう……

「うふふ、堕ちたわね…」

 ぼくの耳元でカレンがねっとりした声を出した。あざ笑うようでいて、ひどくうれしそうな、なまめかしい声であった。

「……さあ、口うるさい御目付けがいなくなりましたわよ。次は和也様を気持ちよくさせてあげます。どうぞたっぷりお楽しみください……」

 そう言うと、カレンは後ろからぼくの胸を抱き、ベットの上に引きずりあげた。左右のスタッフもそれを手伝う。

 やわらかいふかふかのベットの上に寝かされる。魅力的な三つの顔が三方から迫ってきて……ああ、口付けをしては顔を嘗め回しはじめた。

 ああ…キモチイイ……気持ちよくて……頭がぼうっとして………もうなすがまま…………になんかなってたまるか!

 ぼくは気力を振りしぼった。

 このまま、叔父の計画どおりになってたまるもんかっ!自慢じゃないが…本当に自慢じゃないが……華也子さんを見ているうちにぼくは今日三度目をイッてしまった。いくらぼくが若くても、立て続けに三度もイけば、そう簡単には気持ちは高ぶらな………て、もうムスコが立ってるじゃん、立ってるじゃん。この裏切者めっ!

 ナタ−シャの顔がぼくから離れていった。しばらくしてズボンがパンツごと剥ぎ取られる感覚……。

「ああ…和也様……いい匂いですわ……」

 舌でぺろぺろとぼくの唇をなぶるベリンダの顔がジャマして何も見えない。ただ、おそらく、股間で鼻をうごめかせているだろう、ナタ−シャのうっとりしたような声だけが聞こえてきた。ああ…やめて…そんなこと言わないで……はずかしいよう……。

「もっと嗅いでいたけれど……また出していただけますもの、とりあえず私の口で清めさせていただきますわ……」

 ああ…あんなかわいい、あどけない顔をしてるくせになんでそんなエッチなことを、うれしそうに言うんだ。

 ぬるっと生温かいものが、ぼくのモノをつつんだ。ああ、あの化粧気のないのに、つややかで大きな唇のその中に、ぼくのモノが入っているんだ……。

「和也様、私の唇、どう?」 

 ぼくの唇を執拗に舐めていたベリンダが、すっと顔を遠ざけた……どおって……ああ、なんていやらしそうな唇……大きくて厚い、その表面には深い縦皺がびっしりと走っていて……濃い赤のル−ジュがぬちゃぬちゃと……なんて…いやらしそうな……こんなの…こんなの見たことがないようっ!

 ぼくの思いを読んだかのように、ベリンダはその唇を笑いの形にゆがめ、ゆっくりと舌で嘗め回した。ああ…もっとエッチぽくなったよう……。

「この唇でキスしてあげると、みんなクジラになるの…男でも女でも股間から潮を噴いてね…」

 ああそうだった…挨拶のとき…二度目にイッた時は、彼女にキスされた時だった……。

「……日本の女子高で英語の講師をしていたの……こっそりと、学校中の女の子をキスだけでイカせて回るのって、楽しかったわ……」

 ああ…だからそんなに日本語が上手に……でもそんなことできるの?信じられない……でもこの唇なら……できるかも……

「今夜は、この唇は和也様のもの…どうして欲しい?キス?それともあそこを、エバと一緒に舐めましょうか?」

 ああ、キス…キスしてえええっ!

 ニヤッと笑った彼女の唇がゆっくりと降りてきた。ル−ジュと唾液にてらてら光り、薄暗い部屋の中で深い皺が唇に影を作っている。

 すっと寄ってきた顔が、ぼくの直前でじらすようにとまった。しばらくねっとりとした視線でぼくの瞳を覗き込んだベリンダはにゅっと唇を突き出した。

 んむちゅ…

 快感を感じる余裕すらなかった。唇が触れた瞬間、全身がびくびく痙攣を起こした。股間が一気に高まり…中身が噴出して、ぼくのものを咥えたままだったエバが声を出さずに悲鳴をあげた。

 ああ…なんてキスだ……挨拶の時と一緒だ……触れて…ぼくの唇にねっとりと強く押し付けられているだけなのに……どんどん快感が流れ込んできて……筋肉が硬直して……ああ……もう…もうだめだああああっ!

 再び発射した。

 目の前が真っ暗になった。

 気を失う瞬間、カレンの高い笑い声が……聞こえたような気がした……。




 目を覚ました瞬間、すぐに今までのことが全部夢だったと気付いた。

 寝ぼけ眼で見上げると、ゆすりながらぼくを覗き込んでいる華也子さんと目があった。

 父さんたちが死んでから、華也子さんはたびたびぼくの家で暮らすようになっていた。朝、寝坊したときには、いつも起こしにくる。その起こし方には容赦がなかった。お手伝いさんはちゃんといるけど、家庭教師兼躾係、みたいな役割が、自然と華也子さんに回ってきたのだ。せっかくの弁護士ともあろう人が…と思うこともあったが、本人はいたって平気で、それを楽しんでいるようにも見えた。なにより、家には雪彦さんがいるし。

 ああ体がだるい…。

 多分あんな夢を見たせいだ。いい夢だった…夏休みなんだし、もう少し余韻にひたらせてよ……まったくこんな夢落ち卑怯だ……。

 だが、華也子さんの次の言葉が、ぼくを完全に夢から引き戻した。

「和也様…早く、早く起きてください、今のうちに逃げ出しますよっ!」

 ぼくはがばっと跳ね起きた。

 潮の香り…早くも昼の暑さを予想させるような南国の朝日が、水平線から半分顔を覗かせている……。

 目をしばたたかせて華也子さんを見る。目が充血して、乱れた髪がその顔をひどくやつれて見えさせた。服から覗く白い肌には、顔も胸元も手も足も…びっしりと強く吸ったようなうっ血した痕がついている。ぼくが気絶した後も、ずっと嬲り続けられていたことが、その様子から伺える。なのに…すごい精神力だ……。

「あ…華也子さん…大丈夫なの?」

 しいっと人差指を唇の前に立て、華也子さんは笑った。時々見せる、歳の離れた弟と向かい合うお姉さんのような表情だった。

「はずかしいとこ見せちゃった。でも大丈夫、和也様は必ず雪彦のもとにつれて帰るわ、約束する。だから和也様も頑張って」

 ぼくのため、というより雪彦さんのためってのがありありとうかがえる言葉だった。少し妬ける。

 ぼくは体をひねってベットから降りた。すこし足ががくがくするが、体力には自信がある。大丈夫、行ける。

「今、何時?」

「ここの時計で5時です。大丈夫、まだスタッフたちも起きていませんし、まさか私たちに逃げ出す気力が残っているとは思っていないはずです」

「でも、どうやって逃げるの?」

 手早く着替える。暑いけど、長袖、長ズボンだ。おなかがすいてるが、そんなこと言ってる場合じゃない!

「こんなこともあろうかと、携帯型の衛星電話を持ってきています。あと、三日分の保存食」

 携帯型といっても小型のス−ツケ−スぐらいある。バッテリ−も含めればかなり重い。余分なものは持って行けないな。

 ぼくは自分のトランクの中からバックパックをとりだした。部屋に備え付けの冷蔵庫から、エビアンを取り出し、ありったけつめる。あ、オレンジジュ−スも一個だけいれ…二人分、二個だな。

「とりあえず、少し離れて、隠れ家を確保してから、雪彦に連絡を入れます。ここの正確な位置はわかりませんが、連絡さえとれれば、彼ならここがどこであろうとも、48時間以内に見つけて、絶対助けに来てくれます」

 全幅の信頼を置いた声であった。やっぱり、妬ける……

 確かに、なまじな人が来ては、ミイラ取りがミイラになりかねないからな……ここは……。

「電話と食料、水。あとは何がいる?」

「サバイバルキットを持ってきてますから…あとはそれで十分だと……」

 突然、部屋の中に女の含み笑いが響いた。最初は華也子さんの声かと思ってびっくりした。声の押韻がそっくりだったのだ。だがすぐに、それが生の声でないことに気付いた。

『いいわあ、華也子。さしずめ王子様を守る女騎士って役どころかしら?』

 笑いを含んだ声が、部屋のオ−ディオスピ−カ−から流れてきた。やっぱり華也子さんに似てる。けどあざ笑うようなその声は、毒を含んでひどく耳障りであった。

 華也子さんが天井からさがったスピ−カ−を見上げて目を見開いていた。唇が震えながら、まさか…という形に動いた。

『その、まさか、よ。久しぶりね、華也子』

 ビンッと音がして、自動的にテレビがついた。ひとりの女性が画面の中からぼくと華也子さんを見つめて……ええっ?これって…華也子さん?

 華也子さんは大きく目を見開き、すごい形相で画面の中の女性を見つめた。

 そっくりだ……でも、よく見ると、画像を通してということを除いても、華也子さんの方が美人だった。もっともテレビの中の女性は、どこか華也子さんの何倍も色気を感じさせた。化粧が濃い。

「やっぱり…華奈子ねっ!……でもまさか…あんたが森野社長につくとは……」

『あの男につく……ですって?』

 画面の中で、華奈子と呼ばれた女性は、さもうれしそうに口をあけて笑った。ひどく…耳を突くような、いやな笑い声だ。

『相変わらず冗談がうまいのね。私が人の下で働くとでも思っているの?逆よ、今回のことは私がすべてお膳立てしたの。そうでなくて、あのずるくて強欲で卑屈な小心者が、どうしてこんな大胆なことができると思って?』

 こんな時であったが、なぜかひどく叔父さんに同情した。確かに…欲張りでいばりんぼだったけど、いつもおどおどとして小さな目をくりくりさせているような人であった。自分の背丈にあったものさえ望んでいれば…元来良い人なのかもしれない。

『…これというのも、すべてあなたに復讐するためよ。私とお母様から、あの男をうばった…あの女とあなたに復讐するため…』

 え……なんか…よくわからないけど…火サスか名探偵コ○ンみたいな展開になってきたぞ…?

 華也子さんはぎゅうっと、かばうようにぼくを抱きしめた。痛いほどに抱きしめるその手が、震えていた。

「いいかげんにしなさいっ!お父さんとお母さんは本当に愛し合っていたのよ。事情がどうあれ、私はあんたとあの女がお母さんにしたことを忘れないわ、この人殺しっ!」

 華奈子は顔を引きつらせた。片ほほがひくひく痙攣するが、ふうっとため息をついて何とか気を落ち着かせた。時々画面がぶれるのは、多分無線で通信している証拠だ。この島にはいなのだろう。

『…あなたは二言目にはいつもそうね。OK、あなたの言い分はわかったわ。つまり私たちの間には話し合いの余地はまったくないわけね。なら一生その島で、その坊やと一緒に暮らすことね。そこからは出さないわよ』

 もっとも、初めから出す気はないけどね、と付け加える。

「出てみせるわ、必ず。そして絶対、お母さん殺しの真相を掴んでやる」

『頑張ってみれば?ついでに父親殺しの真相も、探ってみる?』

 ひゅっというように華也子さんの喉が鳴った。ぎゅううっとぼくを抱きしめる手がさらに強くなる。

「まさか…あれは事故だったはず……」

『事故よ』

 華奈子は勝ち誇ったように笑った。

『新聞にもそう書いてあったでしょ?警察の捜査の結果もそう。だって証拠なんてどこにもないんですもの』

「ゆるさないっ!華奈子ーっ!あんただけは絶対、絶対っ許さないっ!」

 抱きしめられた頭に、何か温かいものがぽつぽつと当たった。抱きしめる手と体が、悲しいほどに震えていた。華也子さんは絶叫した。

「出てやるっ!絶対出てやるーっ!証拠なんかいらないっ、この島を出たら、絶対あんたを殺してやるーっ!」

「やってごらんなさいな、あわれな籠の小鳥さん」

 ふはははっと狂気のような笑い声をあげて、華奈子が勝ち誇ったように言った。どこにカメラが付いているのか、荒れ狂う華也子さんの姿を知ってのサディステッックな笑い声であった。

「あなたはその島から離れられない。なぜって?あなたの右手に何がついてる?あっと、坊やもよ」

 何をつけられたのかと思ってあわてて袖をまくりあげる。何って…なにもつけてない。時計は左手だし。華也子さんの手にはキスマ−クがついてるけど…。

 左手でぼくをだいたまま、華也子さんもうるんだ充血した目で、不審げに、右腕を見ている。

『…関節のところよ……』

 目を凝らす。内側、青い血管についた小さな赤い点。

 まさかっ?

 ふいに、父さんの主治医だった小松先生の温厚な笑顔が頭をかすめた。

 見上げると、華也子さんも目を見開いてぼくを見下ろしていた。

 ここに来る前に予防接種をしてくれた小松先生……。でも、でもまさか…あの小松先生が……

 狂気のような笑い声が、再びぼくと華也子さんをおそった。

『どう、わかった?人は信用しないことね』

「…小松先生が……信じられない……」

 ぼんやりと、華也子さんがつぶやいた。父さんとの付き合いは、華也子さんより小松先生の方が長い。

『甘いわね、華也子。男はね、女か金、よ。たいていは、このどちらかで動くわ』

「先生はどっちだったんだっ」

 思わずスピ−カ−を見上げて叫んでしまった。

 くすくす笑う声が、うれしそうに答えた。

『両方、よ』

「こんなことをしても無駄だぞっ!」

 ぼくは華也子さんの手を振り解き、スピ−カ−に向かって叫んだ。

「何を注射したか知らないが、ぼくが死んだら、全財産は雪彦さんに渡るようになっている。雪彦さんはぼくの千倍も手ごわいぞ!」

『あ-ら、そうなの。だったらあなたが死んだら、警察は真っ先に彼を疑うでしょうね』

「ぼくの全権利と全財産を自由にしていいという委任状を以前から渡してある。殺さなくても財産は自由にできるのさ。小島のおじいちゃんや小島のおじさん、弁護士の先生もいる前でぼくが自分でサインしたんだ。森野の叔父さんだっていた、偽物だなんて言わせないぞ!」

 そんなに危険なものでも渡させるほど、雪彦さんはおじいちゃんたちにも全幅の信頼をえていたのだ。というより、おじいちゃんにとっては雪彦さんもぼくも同じ孫のような存在であった。時々、ぼくらを兄弟と勘違いしたような発言もする。会社がいざという時、機動力を持たせるための措置だった。

 はじめて、華奈子の顔が曇った。爪を噛みながら、あの馬鹿、そんな話一言もしなかった…と口の中で小さく叔父さんを罵った。

 やがて、肩をすくめて万歳をすると、ぼくに向かって妖艶に微笑えんだ。あ、華也子さんに向かってる時以外は、こんなかわいい顔もできるんだ…。

『負けたわね、確かにあの男は厄介だわ。頭も切れるし、行動力もある。あの若さであのずばぬけた胆力…何よりもあなたとあなたの家に絶対の忠誠を誓っている、まさしく現代のサムライね。あんな素敵な男は見たことがない。華也子のことさえなかったら、そっちにつきたいぐらいだったわ…でもね…』

 目がすっと細まり、口元に怪しい笑いがうかんだ。

『…でも、必ず落としてみせる。あの男は私がいただくわ。そういう意味でも華也子、あなたが邪魔よ』

 華也子さんが後ろからぼくを抱きしめた。悔しさに…何も言えず、息が荒い。代わりにぼくが叫んだ。

「無駄だ!ぼくを殺しても、華也子さんを殺しても…雪彦さんはかならず、世界の果てまででも追っ掛けて、お前をやっつけるっ!」

『だれが、殺すと言った?』

 再び優位に立ったように、華奈子はわざとらしい笑いを浮かべた。

『あなたは殺さない、華也子もよ。あなたは自分の意思でその島に留まるの。華也子には、屈辱的な人生を与えてあげる』

 華也子さんがぎゅっとぼくを抱きしめた。何も言わない、体が震えている。父の死の真相を告げられて気が動転しているのだろう。無理も無い…。

「華也子さんには、手を出させないぞっ!」

 ぼくが叫ぶと、華奈子はふいに笑いを収めた。画面の中からしばらくじっとぼくを見つめていたが、やがてつりあがっていた目が少し下がると、口元に好意的な笑いが浮かんだ。

『あなたも素敵よ、華也子のナイトさん。あなたについても、いろいろと調べさせてもらったわ。学校では頭脳明晰、スポ−ツ万能、何より男の子に人気があるところがいいわね。義侠心があるところも好きよ、先月のあの河原での出来事、見せてもらったわ』

 あんなころから…つけまわしていたのか…。

『…でも残念、私は子供には興味ないの。あと十年たったら、相手をしてあげるわ』

 本当に残念そうに、華奈子は言った。

「ぼくたちを…どうするつもりだ?」

『ランナ−ズハイって、知ってる?』

 逆に華奈子が聞いてきた。その口元には再び嗜虐的な笑みが浮かんでいた。もちろん知ってるとも、走ることによって覚える躁状態、快感のことだ。

「それが、どうした?」

『人間の体っていうのはよくできていてね、苦痛を覚えると、脳内で麻薬に似た物質を分泌して苦しみを抑えるの。体を酷使するランナ−しかり、昔の厳しい修行をした宗教家もそう。神に会ったと言っている彼らの多くは、脳内麻薬による幻覚を見たジャンキ−ってわけよ』

 ひどい言い草だった。

『華也子に注射した薬は、媚薬の成分が入ってるの。それと、その脳内麻薬の分泌を狂わせる成分もね』

 なに?

 眼鏡をはずした華奈子は、どこからか取り出したハンカチで汚れを拭いた。ひどく余裕のある態度だ。

『注射されると数日後から激しい体の疼きを覚えるの。でも、体は気持ちいいのに、脳内麻薬は分泌されない。体はうずいてるに、いくら慰めても快楽を感じないの。快楽を感じさせる分泌物がほとんど出ないから』

「華也子さんに、とはどういう意味だ?」

 彼女は感嘆したような声を出した。

『こういう時でも、冷静によく聞いてるわね。たいしたものだわ。そう、あなたに注射したのは別の薬。あなたの体液を、快楽物質の誘発因子に変える薬よ』

 な、なに?どういう意味だ?

 華也子さんも言葉の意味を解しかねたのか、黙ったままぼくを抱きしめている。体が、まだ震えていた。

「どういう意味だ?」

 うふふっと華奈子が笑った。

『そのとおりの意味よ。つまり、あなたの体から出るものを摂取すれば、華也子は快楽を感じることができるのよ。汗でも、唾でも、涙でも、男だけのアレでもね。快楽は量に比例するわ』

 な、なにいいっ?

『この薬を注射されるとね、何かに喜びを感じることができなくなるの。苦痛を和らげるだけではなく、勝負に勝ったとき、何かを達成したとき、どんなにつまら無いことでも自分自身満足できる何かがあったとき、この快楽物質は分泌されるのよ。もちろんSEXしたときもね。それがなくなるの。

 快楽を伴わない性衝動を感じたことある?まさしく地獄よ。性欲を満たすほどの快楽を得てこそ、その欲求は収まるの。快楽を感じない性欲は収まることを知らないわ。でも媚薬の成分によって、華也子の性欲は極限まで高められる……でもたとえ自分でいくら慰めても、それは収まらない。汲めども汲めども尽きぬ性欲に、狂ったようになるの。大野製薬が開発した、新薬よ。もっとも市販はできないけどね。

 華也子が発狂しなければいいんだけどね……長く苦しむ姿を見たいから。もうそろそろ効いてきてもいいころと、様子を見にきたんだけど、まだみたいね』

「な…華也子さん」

 ぼくは、後ろから抱きついていた華也子さんの手を振り解いた。

 うつむいたまま、悔しさに震えて……ちがうっ!そうじゃない、痙攣してる!

 ああっと小さく呻いた華也子さんの手が胸と股間に伸びた。シャツの上から豊満な胸をもみしだき、ズボンの中に差し込まれた手が、ねちゃっと音をたてた。そのままずるずるとたおれこむと、ベットにもたれ、顔を苦痛にゆがませてのけぞらせながら、胸と股間をまさぐり続ける。はあ、はあと息が荒い。普通なら快楽のうめきをあげてもいいその行為も、どこかうつろで苦しそうだ。

 手の動きがさらに激しくなる。ああっと顔を真っ赤にして華也子さんがあえいだ。気持ちよくないことはないのだろう。だが、全身をよじるようなその行為の中で、その目には追い立てられるような不審がこもっていた。なんで…なんでこんなにやってるのに……これだけしか気持ちよくないの?してええ……だれか、だれか気持ちよくしてええええっ!と。

「…い…いい……気持ち……ああ…なでえ……なで……いひい……あああ……ぎぼじよぐしでええっ……ぎぼ…ごほっ…だれがああ…たずけ、たすけてええっ……」



「か、華也子さんっ!しっかりしてっ!」

『あらうれしい、効き始めた現場に立ち会えるなんて…』

 振り返ると、テレビの中の華奈子がニヤニヤと笑いながらぼくを、華也子さんを見つめている。口の両端に唾が光っている。狂ってる…この女、どこか狂ってる……。

 華也子さんは床に転がった。頭をかきむしり、ごろごろと転がりながら、ひいひいとうめき声をあげた。してえっ……気持ちよくしててえええええっ!と口から狂気のような叫びが漏れる。

 あはははっと華奈子が笑った。

『さすが良く効いてるわ、通常の二倍の量を打っただけのことはあるわね』

 どうしよう……どうすれば……どうすればいいんだっ!

『……だいぶお困りのようね、坊や?』

 ぼくはテレビの画面に飛びついた。フレ−ムをつかむとがくがく揺さぶる。わかってる…こんなことしても意味無いけど……わかってるけど………我慢できなかったんだっ!

「ちくしょーっ!来い、ここに来いっ!ぶっ飛ばしてやる、臆病者めっ!出て来いっっ!このくそやろうっっ!この売女めっ!」

『あらあら……』 

 ふんっと鼻で笑いながら、華奈子が画面に向かって手を伸ばした。再び戻った時には、手に、おそらくブランデ−だろうものが入ったグラスがのっていた。

『…森野グル−プの御曹司ともあろう人が、お下品ねえ。それと、生憎とまだこちらは夜なの。素敵な王子様のためにすぐにでもとんでってあげたいけど……もう一眠りさせてちょうだい。今夜はいい夢が見れそうだわ』

「あ…ま、待て…待ってくれ……教えてくれ……ど、どうすれば、華也子さんは助かる……頼む、教えてくれっ……」

『さっき教えてあげたでしょ、あなたのものをあげなさい。他のみんなにもね…』

 右手の人差指をほほに当て、少し首を傾けて体が冷たくなるような笑顔で笑った華奈子は、左手にもったグラスを乾杯のように掲げた。グラスを下に置くと、ついで上がってきたリモコンを持った左手が画面に向かって伸びる。

 画面が砂嵐に変わった。




 鎮静剤だ……。

 すぐに頭に閃いた。

 とりあえず病院に行って鎮静剤……ああ、病院てどこにあるんだああっ!

 間に合わない、間に合わないようっ……華也子さんが死んじゃう……

 ぼくは、ばたばたと床に転がる華也子さんに飛びついた。

 いひいっと叫んではね飛ばそうとする体の上に馬乗りに……てて、だめだって、ひっかかないで……いてっ。

 ぐううっと口の中でうめき声をあげて体をよじる華也子さんの頭を両手でぎゅっとつかむ。狂ったようにイヤイヤをする顔にぼくの顔をよせると、強く噛みすぎて血のにじんでる唇にぼくのそれを重ねた。隙間からぎゅっと唾液を流し込む。何度も何度の……。

 数拍、間があった。

 無茶苦茶に暴れていた体がふいに硬直し、華也子さんの目が大きく見開かれた。体が細かく震え、ついで、目がうっとりとした表情をたたえて、まぶたがトロンと落ちた。体の力が抜けてゆくのがわかった。

 華也子さんの唇を離すとぼくはため息をついた。同時に華也子さんの口からも、ああっというため息に似たうめきがもれた。

 ぼくは華也子さんの上から立ち上がった。見下ろすと、華也子さんは完全に全身をとろけさせ、ぐったりと横たわっていた。うすく開いた唇からもれるのは、苦痛のうめき声ではなく、甘やいだ快楽のあえぎ声だ。目は完全にうつろだ。おそらく、脳内麻薬のもたらす幻覚の世界に、どっぷりと浸っているに違いない。

 ひどい嵐が通り過ぎたような気分だった。ひっかかれた二の腕にみみず腫れができている。

 なんとか……なんとかなった。すぐ、この島を出るんだ。とりあえず、急いで雪彦さんに連絡を。そして、すぐ、逃げ出さな……やばい!今までの騒ぎで、絶対にスタッフ達が気付いてる、いや、華奈子からだって連絡が行ってるはずだ。

 逃げられない……。

 とてもじゃないけど、こんな状況で、華也子さんを背負ってなんて逃げられない。向こう側だって、もう種明かしをしたのだ。今後は性交法で責めてくに違いない。あああっ字が違うっ違うっ違ううううっ!正攻法だよお…ああ、頭が混乱してるようっ!

 ドアが激しくノックされた。来たああっ!

「だ…だれ…?」 

 まるで逃亡中の犯罪者の心境だ。

「……か、カレンです。和也様…開けてください」

 そうだ、よかった。少しでも逃亡の発覚を遅らせるために、ドアの鍵は閉めておいたんだ。窓から出るつもりで。これで、しばらく時間が稼げる。

 ふたたびノックされた。なにか切羽詰ったようなノックの音だ。やっぱり、逃亡しようとしたことが、ばればれだ。

「……あ、開けていただけないと、あ、合鍵をつかって……入らせていただきます…は入りますよおおっ……」

 あれ…?

 何か変だ…。

 なにか……なんで……なに?……なんでカレンの方が追い詰められたような声で……叫んでる?

 ドアについた小窓のカ−テンを開ける。

 すぐ前に、ぽっと上気した綺麗なカレンの顔が……苦痛にゆがんで…何で?

 ぼくの顔を見たカレンが泣きそうになった。開けて、開けってっとドアを叩く。

 害意はなさそうだ。

 鍵を開ける。

 押し開かれたドアが頭に当たって……いてっ……害があった。

「た…助けて……助けてええええっ……」

 いきなり、全裸のカレンが抱きついてきた。ぎゅっと、まるでぼくの顔で胸を揉もうとするかのように、ぼくをその豊満な胸に抱き寄せると狂ったように押し付ける。く、苦しい……息が…息があああっ……。

「…助け……助けて……だま…あの、あの女ああっ!……だまされた……頂戴……あなたのを頂戴よよおおおっ!」

 ばっとカレンがぼくを突き放した。ああ…やっと息が……カレンの汗がべっとり顔について……カレンの匂いがする空気が肺の中に入ってくる……あ……あひいっ!

 すごい形相で、カレンが突然ぼくをベットに突き飛ばした。血走った目を見開き、歯を剥いた口の端から涎とも泡とも付かぬものをこぼしながら、うわあおおおおおっ!っという叫び声をあげてぼくの上に飛び乗る。とたんに服の襟元をつかみ一気に引き裂いた。ひいいいっ、ホラ−映画で狼女に襲われてるのって……多分こんな気分なんだろう……。

 彼女は方向を変え、ぼくに尻を向けて馬乗りになった。荒々しい動作で、すぐにジ−ンズのベルトがひっぱられ…ズボンもパンツも脱がされてぼくのものが露になる。

 間髪いれずに、それがなま温かい、ぬるぬるするものに包まれた。

 いひいっっと声をあげてぼくは首を起こした。き、きもち……キモチイイッ!……テクニックもなにもあったもんじゃないけど……ただひたすらぼくに射精を促すような……あはああ……こんながむしゃらな……い…だめ……だめだあああっ!

 ぼくの目の前でうごめくカレンの白い大きな尻を見ながら、ぼくはイッてしまった。

 ……がくがくと腰が……ああああっ待って……そんなに吸わないでえええっ……そんな……ストロ−じゃない……中のモノまで吸いださにあでえ……あひいい……。

 はああっとカレンが上半身を起こした。

 しばらく、ふらふらと上半身をゆらしていたが、やがて……いひい…っ……ぼくをまたいだ股間から、ぬるぬるするものをどばあっ!と噴出させた。

「あ、あああっ!」

 だらだらとぼくの体を伝って、シ−ツに吸い込まれていくものの量!すごいっ、カレン干からびちゃうんじゃないか…

 突然、ぐるりと頭を一回させたカレンは、バランスを崩したようによこざまに倒れた。

 細かく体を痙攣させながら…ああ、キモチヨサソウに、口から涎とぼくから奪ったものを垂らしながら、焦点の定まらない目で、宙を見ている。

 口がぱくぱく動いて、よだれと白いぼくのものがあふれ出てくる。少し笑ったような……すごく幸せそうな……夢見るような……まるで華也子さんみたいな顔で…………ええっ?

『さっき教えてあげたでしょ、あなたのものをあげなさい。他のみんなにもね…』

 華奈子の言葉。

 他のみんなって……もしか…もしか……もしかしてっ?

 ぼくはばっと跳ね起きた。よろめいてこけた…。

 ああカレンのばかあ、あんなキモチイイことするから、足に力が入らない…。

 それでも何とかジ−ンズを履き、扉を開けて外に出る。そして階段を駆け下り、管理棟と思しき建物に走っていった。リゾ−ト気分を満喫してもらうため、無粋な管理棟は結構離れて建てられている。たどり着くまでに息が上がった。

 そして、南国のさわやかの風に乗って、目と耳に飛び込んできたのは…………阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 あちこちに、スタッフの女性たちが倒れ、自分の体をまさぐっていた。壁にもたれて両手を股間に這わせている者、狂気のように頭をかきむしり、すすり泣いている者、胸と股間をまさぐりながら、ひいひいと転げ回っている者、もう既にぐったりとして動かない者さえいる。

 ああ…やっぱり……。

 華奈子の奴あの薬を使ったんだ。予防接種と偽って……ここのスタッフ全員にだ。

 ぼくは用心しながら悶え狂う彼女たちを見ながら近づいていった。

 一番近くにいた一人と目が合った。ああ、かわいそうにナタ−シャだ。壁にもたれて、顔にかかったあの燃えるような短い赤髪の間から下にくまのできたどろりとした目でぼくを見上げて、はあはあと息を荒げながら、股間にねちゃねちゃと音をさせている。

 媚薬により体が欲望にうずいているのだ。なのに、いくらやっても、体が快感を感じないため、イケないのだ。イケないから、いくらやっても満足できない。このままずっと自分を自分を慰めつづけるしか、方法がないのだ……ぼくのものが注がれるか……死ぬまで。

「ああ…和也様……」

 彼女がよろよろと手を伸ばした。ぬちゃっと手が股間から糸をひいた。

「…ちょうだい……和也様のもの……ちょうだ……」

 前のめりのなりすぎて、どっと倒れる。

 ナタ−シャっと声をかけながら、ぼくはあわてて抱き起こした。

 目を閉じた彼女は荒い息をついた。はあはあと乾いたような息がぼくの顔にかかる。

「大丈夫か?まってろ…今、キスしてやる…」

 唾液でも十分効果があることは華也子さんで実証済みだ。そっと唇を近づけると、いきなりばっと大きく目を見開いてどっきっとさせられた。まるでフランケンシュタインの誕生だ。カレンといい、なんてホラ−な女達だ。

「…キス……?」

「そう、すぐに唾液をあげる、気持ちよくなれるから…」

 うぐううううっとナタ−シャは喉でうなった。目がさらに見開かれ、瞬く間に充血して、ぼくをにらんだ。次の動作は驚くほど俊敏だった。ばっとぼくの手の中から身を起こして立ち上がると、いきなり足の裏でぼくをけった。それほど痛くは無かったが、ぼくはよろめいて壁にもたれかかった。ごんっと後頭部をしたたか壁にぶつける。こっちの方が強烈だった。

「…欲しくない…そんなもの、いらないっ!…私が欲しいのは………これよっっ!」

 うなり声をあげて手を伸ばした彼女は、掌でぼくの股間のモノを鷲掴みにした。一瞬ぎゅっと握られて悲鳴を上げたが、続いてやってきた微妙なバイブレ−ションにああっとすぐに抵抗する気力さえなくなってしまう。なんで、みんなこんなに上手なんだ……女ってみんなこんなことができるのか?

 ぼんやり考えているうちに、またしてもズボンが剥ぎ取られた。パンツはさっきカレンに剥かれた時から履いてはいない。

 こんどは、ぼくのモノをにぎったナタ−シャを見下ろす形となった。昨日から1、2、3……ああもう何回イッたかわかんないよお……なのに息子よ、なんでお前はそんなに元気なのよ?

 にたあっと会心の笑みを浮かべたナタ−シャは、手でぎゅっとぼくのモノを掴むと、天辺に舌を這わせた。ああ……キモチいい……ああ、だめ…あな、穴の中に舌をっ、舌を入れないで…ひいいいっ!

 唇で息子のかさの部分をぎゅっと噛んだナタ−シャは、続いてぼくの排出口に強引に舌をねじ込んできた。でも…ああ痛いっ………入んない、入るわけないよおおっ……ああ……ナタ−シャが入ってくる…ぼくの中に……おか、犯される……ナタ−シャの舌でぼくが犯されちゃうううっっ!……ああっ、キモチイイよおおおおっっ!

 がくがくと体が震えた。イッちゃった………。

 しかしナタ−シャはまだぺろぺろと咥えた口の中で舌を動かしている。

 はああああっ……ああナタ−シャだめだ……君も早くイッてくれないと……ぼく…もうだ……め……。

 ぷつんと糸の切れる音がするような動きで、いきなりナタ−シャが突っ伏した。同時にぼくもぐったりと座り込んだ。いや、初めから座ってたんだけど……でも、座ったような気分になったのだ。だって、力が入らないんだもん……て、だめだああっ、ここにはまだ78人もいるんだ。急いでなんとか……て、78連発もできる訳ないじゃないかおよおおおおっ!

 まてよ、まて…冷静に考えろっ!……………そう、要するに………イニシアチブをとられなければいいんだ……アレじゃなくても効くんだ。唾液なら、何十人でも大丈夫だ……さっと近づいて、キスしてさっと逃げる……ようしっ!これでいこうっ!

 タ−ゲットを探す。

 あ、あのグラマ−な彼女が一番近いや……

 近づいて顔を覗き込み、ぼくは泣きたくなった。

 ベリンダだ……もうぐったりと…自分を慰める気力もなくしたように壁にもたれてうつむいていた顔の中で、あの卑猥な唇がキスしてほしそうに突き出されている。そのむしゃぶりつきたくなるような形を見ただけで、ああ息子…おまえってやつわあっ!

 少し引っ込んでろっ!

 ズボンの上から軽くパンチをくれてから、ぼくはもう一度ベリンダの唇を見た。無意識にごくっと喉が鳴る。

 ああっ、やっぱりだめだあああっ!キスしたらイッちゃうよ、イッちゃうよ、イッちゃうよおおおおっ!……卑猥すぎるよおおっ!卑怯だよそんな唇っ………。

 あああっと頭を抱えて悶えていると、いきなり後ろから突き当たるようにして抱きつかれた。

 アメフトのタックルでもかますかのように、そのままぐいぐい壁際まで押される。凄い力だ。ああああっという歓声と共に股間に伸びてきた手を振り払い、ぼくはその髪の毛を掴んで引き立たせると頭を両手で抱えてキスをし、唇の間から唾液を流し込んだ。むぐむぐと目を白黒させて呻いた南米系のような褐色の肌をもつその少女は、数瞬後には表情をとろけさせ、ぐったりとぼくの足元に横たわった。和也様……と夢見るような瞳でつぶやいたところを見ると……なにかぼくにもうれしい幻想の中に落ち込んでいったのかもしれない。

 いや…そうじゃないぞ……。

 ぼくはその少女を見下ろした。少女といったが顔が幼いだけで、体はもう立派な大人だ。こんな成熟した色っぽい体をした女の子なんて…日本じゃ大学生にだってそうそうはいまい。

 ぼくが動くと、少女の瞳もぼんやりとぼくを追った。それに、手が動いて、股間や胸をまさぐって……あえいでる!華也子さんやカレンみたいに、完全にイッて、気絶してしまってない。

『……快楽は量に比例するわ』

 そうだっ、確かに華奈子はそう言った。今くらいの量だと、分泌量が抑えられて……適度な快楽になるんだ!

 いいぞっ!

 それに気を良くしたぼくは、次の獲物を探した。

 初めにキスしたのはブルネットの髪の白人女性、幼さの漂う、少しそばかすの残った顔に、ぽってりとしたさくらんぼのような唇。

 抱き上げると驚いたように目を見開いたが、間髪いれずにキスをして唾液を流し込む。

 反応を見る。やはりさっきの少女と同じだ。うっとりと瞳をとろかせ、それでも意識は保ったまま、手が自慰のために動きはじめる。ぼくの力により快楽物質が分泌されながらのそれは、普通の時とは比べものにならないらしい。SEXのプロのはずの彼女が異様な叫び声をあげながらその行為に熱中する。

 続いて少し離れた黒人女性に向かう。両手を伸ばして抱きしめようとするのを手で払いのけ、分厚い唇に強く口付けしながら、舌で唇を割ると、舌を伝って唾液を送り込む。彼女はぼくの頭を両手で抱えて逃がさないようにぎゅっと抱きしめたが、またたく間にその目がとろけ手が緩んだ。彼女も同じだ。自分の股間をまさぐり、胸をもみしだきはじめた叫びと目つきが異常であった。

 次に見つけたのは、憂いを含んだ顔で胸をまさぐる熟女であった。熟女といってもまだ三十を過ぎた程度だが、いかにもマダム然とした顔がその言葉を使わせたのだ。すばやく体を寄せ、なまめかしくあえぐ唇を一気に吸う。うっ、向こうから舌を入れてきた……ああ…だめ…キモチイイ…。

 しかし、間も無く彼女もおとなしくなり、うっとりとその場に横たわった。すぐに彼女も、狂ったような声をあげて、行為に熱中する。

 この調子で次々に唇を与え、唾液を送り込んでゆく。

 みんな、苦痛にゆがんでいた瞳を蕩かし…ああっと快楽の声をあげて悶え始めた。ああ…和也様っとぼくの名前を呼びながら、自慰を再開する。

たいてい数分で……快楽の叫びをあげてぐったりとイッてしまった。

 ようし、最後にズボンを下ろされるとこまでいったのはやばかったが、このあたりに倒れてる人は、なんとかイカされずにイカしたぞ……

 問題が残った…。

 ぼくはベリンダを見下ろした。

 もうぴくりとも動いてない。

 もう一度顔を覗き込む。あの唇は健在だ。

 ……やっぱりだめだ…自信がない……今日もう一回イカされたら、多分昼くらいまで立ち上がれなくなる……

 ………ベリンダごめんなさい。

 ぼくは両手を合わせた。失神してるってことはこれ以上消耗はしまい。最後にきてあげるから……ね?

 背を向けて数歩歩きかけたとたん、風を感じて振り返った。びっくりするくらい近くに、ベリンダの顔があった。

 やばいっと思ったとたん抱きすくめられ……耳をねっとりとした唇の感触が咥え込んだ。ああっ……。

「ああ…和也様、酷い……私を置いていくなんて……酷いわ、和也様……」

「あ…あああ…」

 ああ、あの唇がぼくの耳を嬲ってる……キモチイイ……ああ、だめだあ……イキたくなっきたあ……

「待ってたの…ずっと待ってたの私の順番を……一番最後でも酷いと思ったのに……置いていぐなんでえええ……ゆるさない……ゆるざないいいいっっ!」

 ゆるさない、辺りから急に声の調子が変わって、毒々しい低い声に変わった。べろべろとぼくの耳を舐りながら、ゆるさないっを繰り返す。ああ振りほどこうにも…力が……力がぬけゆく……

「吸ってやるううう……吸い尽くしてやるうう……あなたの男の力、一滴残らず吸い尽くしてやるううう」

 狂気のような低い毒々しい声で、吸ってやるううとベリンダは耳元で繰り返した。ぼくがもう抵抗できないとみるや、片手でぼくを抱いたまま、もう一方の手で器用にズボンを下ろす。

 まだ…まだチャンスがある……口をぼくのモノに持っていくために、彼女は一度手を離してしゃがむはずだ……その時に……

 ぎゅっと、ベリンダがぼくのモノを掴んだ。ぼくのモノを手にしながら、他の女達みたいにまだ正気を失っていないだけでも、たいした精神力だ。

 体を離してぼくの顔を見たベリンダは、その口に狂気の笑いを秘めて宣告した。

「覚悟しなさい、和也。私の下の唇はね、上の唇の何倍も凄いんだからっ!」

 ひいいっ呼び捨てになってるううっ!それに下の唇って…ああ…誤算だああっ……手を離してくれない……

 ベリンダが体を寄せた。ぼくのモノの先端が、やわらかい湿り気を帯びたものに触れた。呼吸を計ることもなく、一気に挿入される。 

 あ………。

 頭がくらくらとして倒れそうになるのを、ベリンダが支えてくれた……て、何感謝してんだぼくは……ああ、ぎぼじい゛い゛い゛い゛っっ!

「どう、和也?」

 ひっひっひっと卑猥な笑い声をあげて、ベリンダがぼくにささやいた。

「キモチいいでしょ?ねえ」

 ああ……だめ……だめだああっ……イク…イッちゃう……い…い…いっ……いかない?

「だめよ…和也ちゃん。イカせてあげない。私と同じ苦しみを、あなたにも味あわせてあげるわ」

 あっとぼくは叫んだ。

 ぼくのモノを中に咥えこんだまま、ベリンダの下唇はぼくのモノを根元で痛いぐらい締め付けている。まるで根元でぎゅっと紐でくくられたみたいだ。

 そのくせ、中に入っている部分は、ベリンダの奥に当たり、ぎゅうぎゅうと押し戻すようにぼくのものを弄んでいる。内側の壁は、まるでぼくのモノに吸い付くようにぞわぞわと蠢めいている。

 イキそう……イキたい……でも、イケない……ああ、気持ちいいいっ…イキたい、イカせてよおおおっっ!

「そうよ…その顔……いいわあ……いい……素敵よ…もっと悶えて…もっと悶えなさいっ!」

 おーっほっほっほっほっと笑い声をあげながら、ベリンダはぼくの顔をねめつけた。おいっ、本当にこの女快楽物質の分泌止まってるのか?完全に嗜虐的趣味の快楽に酔ってるぞ?ああっ……キモチイイのにイケないよううっ、ああ狂っちゃう……。

 叫び声をあげながら、反射的にぼくはベリンダの唇に、自分の唇を押し付けていた。

 も…もうどうにでも……どうにでもしてええっ……もっと気持ちよくしてええええっ!……

 びっくりしたようなベリンダの顔がぼうっと上気し……ぬるっと下の唇が緩み、ぼくの体ががくがく震えた。熱いものが一気に噴出してベリンダの中に吸い込まれた。

 はああっとうめき声をもらしたベリンダは、ぶるぶると体を痙攣させた。しばらくふらふらと上半身をゆらし、どこか、宙をさまようような視線を漂わせたあと……焦点の定まらない瞳で、にやっとぼくに笑いかけ、その場に崩れた。

 ぼくはその場にぺたんと尻もちをついた。

 ああ、ぼくも……もう立っていられない……あと……ごじゅう……に……にん……だ。




「ハリウッドでコ−ルガ−ルをしてたのよ、主に日本人向けのね…」

 はあっとため息をつきながらカレンが言った。この、と二人を顎で指す。

「アンナとエマはその時の仲間。それほど親しくなかったけど、そのころから知っていた顔も、結構混じってるわ…」

 ぼくの泊ったVIPル−ム。ラフな格好の服を着た彼女たちは、それぞれソファやベットに腰かけたり、壁にもたれてカレンを見ている。

 ここに来てから三日、すべての女性にキスして回った天国……もとい地獄のような日からは、もう丸一日以上経っている。

 最後はほとんど這うようにして、管理棟の中を彷徨った。みんな凄く色っぽい美人ばかりで、キスだけでも何度イキそうになったかわからない。ベリンダのあとSEXされたのは、正確に覚えてないけど6人くらいだったが、もうほとんど空打ち状態であった。彼女たちは集中的にぼくの股間のモノを狙ってきた。最後の方では押し倒され、三人ががりでしゃぶられたけど、もう立つこともなくって、反って助かったほどだ。もう、命そのものを吸い取られるんじゃないかとすら思った。

 半日ほど経って、正気に戻って大混乱に陥った彼女たちを、カレンはずば抜けた指導力で収拾していった。最後の一人にキスしたあと、失神したかのように倒れていたぼくを、ベットに運んでくれたのも、カレンだったらしい。それから今まで、いろいろとあったらしいが、ぼくもついさっきやっと目覚め昼食を食べたばかりだ。

 とりあえずは休戦だ。ぼくが彼女たちを助けるために必死に努力したことは認めてくれたし、彼女たちもぼくも、共通の敵、華奈子にはめられたことを彼女たちも理解していた。

 とりあえず、ぼくの部屋で現在の状況を確認し、今後の対策を検討することにした。だけど80人のスタッフ全員では大混乱になる。ぼくの方から、知った顔で何人かと、調理や管理、医療の責任者に当たる人達10人を指名した。

「私の所属していた事務所に依頼がきたの。事務所っていってもチンケな紹介屋だけど、日本語の堪能な女を長期契約で雇いたい、ってね。その依頼人が、あの華奈子って女だったのよ」

 みんな、黙ってカレンの話を聞いている。既にそんな事情を知っている者もいれば、初めて聞いたように、興味深そうに聞いている者もいる。

「3ヶ月の契約でここに連れてこられたわ。報酬は10万ドル、半分は来る前にキャッシュで、半分は成功報酬として事後にもらう約束だった…。このリゾ−ト施設の売りはリゾ−トと見せかけて実のところはSEXよ。もちろんその後も働きたければ、相談には応じるってことだったけど…」

 私は3万だったわ…私は5万と、何人かが声をあげる。

 なんてこった。リゾ−トの社長はそんなもの作る気だったのか。なるほど、それなら一人にスタッフ二人も納得。料金だってバカ高く取れるだろう。

「成功報酬って?」 

 ぼくが聞いた。

「何を成功させるの?」

「子供を、一人誘惑してくれ。SEX漬けにして、私たちの虜にしてくれって。私一人じゃない、仲間を、日本語のできるプロの女性を何十人か集めるから、みんなで、10日の間にやりとげてくれって。報酬の割に軽い仕事だと思った。次々にみんなが送り込まれてきて…1ヶ月ほどかけて、リゾ−ト施設の職員らしく見えるよう練習したり、陥しのテクニックを磨いたり、シュミレ−トしたり……」

 ひえええっ、確かに一日目のあの調子で責められ続けられたら、10日といわず3日でもうぼろぼろになってたかもしれない。

「…でも、あの女はその裏でこんな汚い手を使った。予防接種だと偽って、こんな薬を私たちに……。昨日の朝早く、みんなが休んでいた管理棟のテレビが一斉について、あの女が笑ってた……。そして言ったの、その薬を注射したこと……おなたのスペルマを摂取しないと、発狂して死んじゃうってこと……。昨日のその前の夜から、もうみんなおかしくなりかかっていて……パニックになってたけど……その方法を聞いても、もう、少し離れたこの部屋に来れる体力の残っている者はいなくて……」

 華奈子め…彼女たちには、ぼくの精液しか効かないと言ってたんだ。もし彼女たちに動けるだけの体力があったら、ぼくは干からびるまで吸い尽くされていたに違いない。

「はじめからそのつもりだったんだわ。一昨日の夜から急に衛星電話が使えなくなったの。ボ−トもあるけど、とても外洋まで出られるようなものじゃない。私たちはここに閉じ込められたの……」

 あ、そういえば……。

「大丈夫だ、衛星電話ならぼく達も……ね、華也子さん」

 壁にもたれてうつむき、額に手を当てていた華也子さんは、顔も上げずに首を横に振った。え?

 ごめんなさいっ!とエマが叫んだ。

「ごめんなさいっ。あなたたちがここに来た日、私が壊したの。必ず持ってきてるはずだから……こっそり壊すようにって、指示を受けてたの」

「言ったでしょ。あなたが休んでいる間に、ありとあらゆる手段は検討したわ。航路を外れて迷い込んでくる船でもない限り、通信手段も外に出る方法もないの……」

 なんてこった……。

 カレンの言葉に、ぼくは暗然たる気分になった。

 用意周到だった。華奈子のやつ……どこまでも汚いんだ。ぼく一人のために、みんなを巻き込んで……。

「食料は何日分あるの?」

 華也子さんの言葉に、調理スタッフらしい、丸顔の白人女性が答えた。接客スタッフみたいに美人ではないが、彼女もコケティッシュで妙な色気があった。

「ご馳走はできないけど、食べていくだけなら一月は十分に大丈夫よ」

「電気なんかは?」

 こんどはカレンが答える。

「太陽発電と小型の発電施設があるの。燃料は満タン、多少節約すれば1月は持つはずよ。水は、30トンのタンクに八分目。でも、水も海水を真水に変える設備があるから。もっとも飲料水だけでも百ケ−ス以上あるから、かなり持つはずよ」

「じゃあ、当面の問題は無いわけだ」

 ぼくは安心した。ぼくの帰国予定日に帰らなければ、雪彦さんがリゾ−トの社長を問い詰めるだろう。言い逃れをしても長くて3日、すぐ雪彦さんが動いてくれるはずだ。長くても20日持てば、何とかなるだろう。

「私たちのことは話したわ、今度はあなたのことを聞きたいわね。こんな大掛かりな仕掛けで狙われる、あんたは何者?」

 ぼくは事情を話した。企業グル−プの会長だった父が死んだこと、ぼくが将来後を継ぐ予定になっていること、叔父が密かにグル−プの乗っ取りを狙っていること……。ただ華也子さんと華奈子の確執のことは黙っていた。下手なことを言えば、今回のことの責任をすべて華也子さんのせいにされかねない。

「大きな会社なの?」

 ナタ−シャが壁にもたれたままぼんやりと聞いた。

「グル−プ全体で社員1万1千人、年間の売り上げは、ドルで60億以上よ」

 華也子さんの言葉に、あちこちからため息がもれた。自分たちが巻き込まれていることの大きさに気付いたのかもしれない。なぜこんな目にあわされるのか、この異常な事態の説明がつく金額であると納得したのであろう。

「なら、安心だわ。来るのが敵にしろ味方にしろ、このままここに置き去りってことはありえな……」

『ハァイ、みんな、集まってるわね』

 みんなは一斉に天井のスピ−カ−を見上げた。ばっと華也子さんが立ち上がって叫んだ。

「華奈子っ!」

『悪いわね、カレン』

 笑いを含んだ声が、しゅうしょうな台詞を吐いた。

『初めからはめるつもりでは無かったのよ。あなたには普通に働いてもらうつもりだった…』

 くそったれっと英語でカレンが罵る。

『本当よ。悪いのは華也子。あなたがしゃしゃり出てきたから急遽予定を変更したのよ』

「だからって、何でカレンたちにまであんな薬を注射したっ!華也子さんさんだけでもよかったはずだろっ」

『仲間は多い方が楽しいでしょ?あなたもだいぶ楽しんだのではなくって?』

 うれしそうに言ってから、自分の言葉に満足したかのように、加奈子は声をたてて笑った。

 今日はテレビの画面に姿を現さない。ただ、こちらの様子を見ていることはその台詞からわかった。くそっ、カメラはどこだ。あとで探さなきゃ。

「悪いがお前の計画は失敗だ。みんなは元に戻したっ!」

『本当に予想外だったわ。もうみんなに吸い尽くされて、メロメロになってるかと思ったのに。あっちの方も強いなんて、ますます素敵な坊やだこと』

 みんなが、思わずといった感じで一斉にぼくを見た。正確にはぼくの股間を。なんか…照れる。

「さあ、次はどうする。ここにいるのはみんなお前の敵だぞ。今度は殺し屋でも差し向けるっていうのか?ぐずぐずしてたら、雪彦さんが動き出すぞっ!さっさと降参してしまえっ!」

『あ−ら、強気ね、他人頼みのくせに』

 ぼくは少し顔が赤くなるのを感じた。たしかに…ここに来てから、華奈子を威嚇するときにはいつも雪彦さん、雪彦さんと連発している。

『それに私は何もしないわ。第二章の幕はカレン、あなたたちが開けてくれるもの』

 え、っとみんながカレンの顔を見る。名指しをされたカレンが、一番びっくりしたようにみんなを見回している。

「私がどうしたっていうのっ?」

『お生憎さま、私はねカレン、あなたたちって言ったはずよ。……ほら、壁際の赤い服のあなた、あなたはもう気付いてるんじゃなくって?』

 部屋の中に赤い服を着ているのは一人しかいなかった。みんなが一斉にその方を見る。ナタ−シャだった。

 彼女は、はっとしたように、胸と股間をまさぐっていた手を止めた。

「ナタ−シャ……」

「あ…あたし……あたし……」

 無意識にしていたのであろう。信じられないとでもいうふうに目を見開いて自分の両手を見たナタ−シャは、目をつぶり皆に背を向けて壁を向くと、よろよろともたれかかった。ああっと身悶えして体を震わせる。

「あたし……」

『残念だったわね、カレン。薬の効き目はまだ終わってないの。確かに媚薬の成分はもう効かないわ。でも和也のものを摂取しない限りあなたたちはどうやっても快楽を感じることはできないのよ。その上、あなたたちの体には、和也のモノが注がれたときの快感が、たっぷりと染み付いてるはずよ。ほら、そう聞かされたら、もうだめみたいねカレン。顔を見てもわかるわ。意識したとたんに、あの時の感覚を、体が思い出し始めてる…』

 華奈子のねちっこい言葉による変化はまざまざと現れた。

 はああああっとカレンが自分の肩を抱いて震えはじめた。他のみんなも同様だ、顔を赤らめ、無意識に太股をすり合わせて必死に耐えようとしているけど、手が震え、それがだんだん股間の方に降りてゆく。

「だめだよっ!みんながんばって、耐えてよっ!」

 ぼくの叫びに、一瞬びくっと体を震わせて、伸ばしかけた手が元にもどる。だが、ぎゅっと目をつぶって耐えようとしても、震える手が再び股間に向かって動き始めるのを、みんな止めることができない。

「だ…だめよみんな……こ、こっちにき……来てっ!……触らないように、輪になって互いに手をつなぐのよ」

 自分自身、脂汗をにじませながら、華也子さんが叫んだ。

『あら、素敵なアイデアね、でもいつまで耐えられるかしら?それは麻薬の禁断症状と同じ、体も精神も同時に欲しがっているのよ、その上時間は無制限。それにね…』

 くすくす笑いながら、華奈子が言った。

『…これから管理棟の方にも放送を入れてあげる。体が欲しがってるでしょ?って教えてあげた上で、みんなに内緒であっちの部屋で和也をかこんでよろしくやってるってわよ、てね。』

 くうううっ、悪魔めっ!なんで次から次へとそんなことを思いつくんだ。

『さあ、早い者勝ちよ。その子昨日からやりっ放しなんでしょ。急がないと、枯渇してしまうわよ』

 人を天然資源みたい言うなっ!あ……だめ……ベリンダ…そ、そんな顔で見ないで…よ、寄るな……華也子さんまで……あ、カレンそんな………やめて………ああああっっ!

 ベリンダのひんやりする両手がぼくのほほに触れた。はああっとあえぎ声をあげながらキスしてこようとするのを顔をそむけてよけ、ほほで受ける。くううううっ、キスしてきたのが彼女以外ならとりあえずキスして唾液を送り込むのに……彼女に、あの唇にキスされたら…それだけで人事不正になりかねない。

 むちゅうっ、とほほにベリンダのキスの感覚。もうっ、何なんだこの唇は……ほほにキスされても…あひい…何でこんなに…キモチイイ…の……。

 反対側のほほにキスしてきたのは、ああ何てこった、アンナだ……彼女のキスも絶品だ……二人に両方からキスされたら……ああ、頭がくらくらしてきた……こんな……こんなあ……だめだ……こんなの酷い……気持ちよすぎる……ああおあ……

 たっぷりと油を含んだようなキスがぬるぬるとほほを這い回る。今日は二人ともおそろいだったピンクのル−ジュの色が、ほほに塗りこめられるような感じ……あああっだめ……硬くなってきた股間をまさぐってるのは……カレンと華也子さんさんだ。二人とも……あの怜悧な顔を欲情のピンクに染めて、ジ−ンズの上から掌でぼくの股間を撫で回してる。ぼくに見せ付けるかのように、舌でべろべろ唇を舐めながら……。

 ぼくはずるずるとフロ−リングの床の上に倒れた。だめだああっ気持ち、気持ちよすぎるううう………。

 華也子さんを除いて……みんな男を喜ばせて狂わせるプロなのだ。それが、芝居でなく、本気でぼくを喜ばせ、汁を噴出させようとして……あ…エマとナタ−シャ……だめ……そんなとこ見せ付けないで……ああ指をいれてぐちゅぐちゅいわせながら……そんな目でぼくを誘わないで……ああああ……だめ……昨日あんなに出したのに……だめ……もうだ……だ……だめえ……で…出そう……ああ、でちゃったらもったいない……………早く気付いて……ズボンを脱がせて……出たら舐めてええっっ……パンツに吸い込まれないうちに……なめて、早くイッてええええ……あ、ドアが開いて……どああああああっ……次から次へ………管理棟にいたみんなが………なだれ込んできたああああっ!

 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!






 ぼんやりと見つめる桟橋の向こうに、飛行艇がゆっくりと近寄り、停止した。

 木陰で、木にもたれかかってすわり、両手に二人の女を抱き、股間に一人の女をしゃぶりつかせたまま、ぼくは立ち上がる気力もなく飛行艇からおりてくる三人の人影を見ていた。

 両手の二人は、たしかジェ−ンとナンシ−といったはずだ。二人して、うっとりと表情をとろかせながら、ぼくの顔から汗が出る度に舐めとっている。舐めた汗が体内に吸収される度に脳内で麻薬が分泌される。二人の脳みそは、もう朝からどっぷりと麻薬漬けであった。目の焦点があっていない。ぼくに舌を這わせようとするたびに、舌を伝ってだらしなく涎が滴り落ちる。目の下にくまを作って、無心にぼくの顔を見つめ、汗が出てくるのを待っている。周りにも、たくさんの女が水着姿で失神したように倒れている。

 皆一様に、目の周りに疲労くまをつくり、完全に脳内麻薬の中毒者と化して、目が覚めればただひたすら朝から晩までぼくのモノを求める女たち……。

 ああ…この島に来てから何日が経ったろう……もう全てがどうでもよかった……。ぼくに快楽を与え、汁を噴出させては、争うようにそれをむさぼる彼女とたち……。もうずっとこのままこの島で暮らしたい……いや……僕自身が、もう彼女たちが与える快感の中毒者と化し……彼女たちなしでは生きられなくなっている………。

 つかつかと、黒いス−ツ姿の三人がぼくに近づいてきた。みんな東洋人、おそらく日本人だ。

 同じようなぴったりとしたダ−クなス−ツを身にまとい、サングラスをしたその姿は、女だった。

 先頭に立つ姿はどこか見覚えがあった。

 すらりとしたしなやかな体に、漆黒の長いストレ−トな髪、華奈子であった。

 後ろの二人もモデルのような見事なスタイルであった。共にサングラスで目元は隠しているが、すらりと通った鼻筋と、綺麗な形の唇をみれば、その美しさは容易に想像がつく。ああ…あの唇でぼくのモノをしゃぶって欲しい……

 二人とも、手にジュラルミンのス−ツケ−スを持ち、もう一方の手には、スタンガンを持ってる。拳銃だって手に入るだろうが、いざと使うとなれば躊躇してしまうだろう。その点、スタンガンなら遠慮なしだ。いざという時の護身用だろう。

「ハアイ、坊や、初めてお目にかかるわ、生ではね」

 ぼんやりと見上げるぼくに、華奈子はサングラスをはずして腕をくみながら、目を細めてにんまりと笑った。

 下着姿の尻を高くかかげ、四つんばいになってぼくの股間に顔をうずめているのが誰か気付いたのだろう。

「うふふふ華也子、お似合いよ。まるで残飯をあさるメス豚みたい」

 華也子さんは答えない。

 何も聞こえないかのように無心にぼくのものに舌をはわせ、ピチャピチャと音をさせている。

 ふははははっと高い笑い声をあげた華奈子はヒ−ルの先で華也子さんの豊かな尻をけった。がくっと腕を滑らせた華也子さんの口からぼくのモノが抜ける。四つに這ったまま振り返った華也子さんは、乱れた髪の間からどろりとした目で華奈子を見上げてにらんだ。しかしすぐ、ああっとうめき声をもらすと、何もなかったかのように再びぼくのモノにむしゃぶりつく。

「いい様ね、華也子。さあ、和也様、今日がここに来られてから10日目です。お迎えにあがりましたよ」

「い……いやだ……か、帰らない……帰らな……いぞ……ず…ず…ずっと…ここ……ここ…ここにいるうううっ!」

 ぼくは両腕に抱いた二人の女を抱きしめた。帰らない…ぜ、絶対…いやだっ、ここがいいんだっ!

 華奈子が更に目を細めた。左ほほにえくぼが浮かんだ。

「困りますわねえ……。いくらグループ会長とはいっても、ここは株式会社森野リゾ−トの所有物です。滞在延長となりますと、ここからは料金をいただくことにになりますよ」

「は、払う…い、いい…いくらでも払うううううっ…」

「対価はお金ではございませんわ。もし引き続き御滞在なさりたいなら……ある書類にサインをしていただくことになりますが?」

 する…するうう、させてっ…早くさせてええ……そしてここに居させてえええっ……

「する…させてくれえええっ……」

 じっとぼくを見つめた華奈子は、くくくくっとこらえきれないような笑いを喉から漏らした。あたりに倒れている女たちを見回して満足げに頷く。

「あなたたちよくやってくれたわ。正直私もここまでうまくいくとは思ってなかった。あら、カレン、ご苦労様……」

 足元にうつぶせに転がっていたカレンを腹の下にヒ−ルをこじ入れ仰向けにする。唇の間からだらしなく舌をたらし、目の周りを真っ黒に染めた彼女を見下ろすその顔は満足そうだ。

「本当、特にあなたはよくやってくれたわ。このまま死んでも、化けて出ないでね」

 ジョ−クのつもりだったのだろうか、華奈子はまた楽しそうにくっくっと笑った。ああ…それよりも早く…早く書類にサインをさせてええ……。

 書類を出して、と華奈子が後ろを振り返った………瞬間!ばっと予備動作なしで華也子さんが跳ね起きた。腰をひねりながら、体重を乗せた拳を華奈子のわき腹に叩き込む。

 ああっと体をのけぞらして、華奈子は苦痛に顔をゆがめ、部下の一人に抱き付くようにして倒れこんだ。

 あっと二人の部下が驚愕に口を開けた瞬間、間をおかずにカレンが足でスタンガンを持った手を蹴り上げた。足元に這っていたエマが部下の一人の足にしがみつき砂の上に引きずり倒す。木にもたれていたベリンダがだっと駆け寄ってきた。残った華奈子のもう一人の部下が、やっと抱きつく華奈子をふりほどき、スタンガンを振るって、飛びかってきたナタ−シャに押し当てた。あああっと悲鳴をあげたナタ−シャの脇をすり抜けたベリンダは、続いて彼女にスタンガンをふるおうとした女の手首をとり送り出すと、体をひねって腰に乗せ投げ飛ばした。見ていてもほれぼれするような見事な一本背負いだ。倒れた女のみぞおちに拳を入れるまで、流れるような連続動作だった。

 このおっ!と、ひざまずいた華奈子に華也子さんがけりを入れた。呻き声をあげる体に、腹を狙って何度も何度もその美しい足を打ち込む。こらえきれずに転がった体を今度は足の裏で踏みつけた。

「おい華也子、殺すなよ!」

 左右の腕に抱いた女を突き放し、ぼくは立ち上がって華也子に近づいていった。華也子、と呼び捨てなのは彼女が望んだからだ。

 華奈子は小さく体を震わせ、ごほっごほっと咳をして、苦しそうにうめき声をあげている。口の端に血がにじんでいるのは、多分口の中を切ったのであろう。

 部下の二人も用意してあったロ−プでしばり、口にガムテ−プをかませた。もっともその必要もなく、二人ともぐったりしている。

「ああ、暑かった。汗でド−ランが流れて気付かれるんじゃないかと、冷や冷やしたわ……」

 カレンが会心の笑みを浮かべた。確かに、目の周りのくまが、汗で流れ始めていた。もちろんド−ランを塗った偽物である。他のみんなもうれしそうな笑いを浮かべていた。

「カレンっ!飛行艇の中にまだ人が居るはずだ。すぐ行って、捕まえろっ」

「はいっ和也様!」

 うれしそうに笑ったカレンは、目で合図を送って数人を引きつれ桟橋を駆けてゆく。しばらく、遠くから怒鳴り合いのような声が聞こえたが、操縦士が引きずり出され、同じように縛り付けられる。遠目でよく見えないが、どうやらぼくを乗せてきたのと同じ、あの女性パイロットみたいだ。

「騙して悪かったね、華奈子。今回はぼくの勝ちだな」

 彼女を見下ろしながら、ぼくも唇に笑いが浮かぶのを止めることができなかった。

 ぼくが快楽の虜となった……もちろん嘘だ。

 もっとも島の女たちが、脳内麻薬の中毒者となっていないと言えば、それも嘘になる。要は、ぼくのコントロ−ルの仕方の問題だ。ぼくのモノを餌にいかに女たちを操るか、雪彦さんが叩き込んでくれた、人心掌握術の応用が役に立った。ぼくの命令に従った者にぼくのモノを与える様子を、わざと彼女たちに見せつけ、ぼくの言うことを聞けば、与えてやるという暗黙の合意を形成させる。みんな面白いように先を争ってぼくのいいつけに従うようになった。集団のパニック心理も利用し、言うことを聞かなければ二度ともらえなくなるという切羽詰った焦りを抱かせると、みんな半分正気、半分狂気のようになり、あとは、たまにキスをしてやって脳内麻薬を分泌させ、中毒症状を継続させてやるだけでよかった。

 島にいた80人の女たちは、精神的にも肉体的にもほぼ正常のまま、瞬く間にぼくの奴隷と化していった。どんな大変なことをさせても、ご褒美はたいしたことじゃない、キスをして軽く舌をさしこんでやるだけだ。それだけのことで、みんなうっとりと目をとろけさせ、何でも御命じくださいと泣きそうな叫びをあげる。すばらしい成果をあげた者には、SEXで濃いのをぶちこんでやった。その様子も見せ付けているから、もう、みんなぼくのために尽くそうと半狂乱だ。

 もっとも全てがうまくいったわけじゃない。さっき、華奈子を嵌める際両腕に抱いていた二人、ジェ−ンとナンシ−はコントロ−ルを誤り、今は完全なジャンキ−と化してしまっている。ただ、半分狂った彼女たちの目が、華奈子を嵌めるのに一役かったのだから、何でも使い道はあるものだ。

「全ては和也様の御見込みのとおり、やはり本人が来ましたね」

 苦しむ華奈子を見下ろし、満足そうに華也子が言った。

「この手の女はそうさ。サディスティックな欲望を満足させるために、自分の目で確かめずにはいられない」

 全員に一斉に襲われたあの日。ぼくはほとんど干からびるんじゃないかと思うほど吸い尽くされた。80人ががりで、6時間ぶっ続けである。しかし、途中からもう立たないとわかるや、みんながSEXからキスに目標を変更したため、何とか助かったのだ。そして、正気に戻ると、まず島の発電設備を止め、隠しカメラを停止させると、みんなで徹底的に島の設備を調べ上げた。全てのカメラや盗聴器を発見するのはまず不可能だったので、そこから集められた情報を電波で発信している無線設備を探し、破壊したのだ。華奈子には島の電気が全て停止したように感じられたかもしれない。それさえできれば、あとはみんなを少しずつ奴隷へと洗脳し、確認のためにやがて訪れるだろう華奈子を待てばよかった。見張りが遠くに飛行艇が見えたと告げた時、かねてからの計画どおり、桟橋の近くに陣取った。ぼくはと華也子は華奈子を油断させるために欲望に狂ったフリを見せつけ、体術に自信のある女たちは、目の周りにド−ランを塗り、まるで失神して砂浜に倒れているかのように配置して、隙をうかがってとびかからせたのだ。

「残念だったな華奈子。娼婦ってのは結構危険な商売でね、どんな奴ともわからぬ男と一つ部屋で二人っきりになるんだ。自分の身を守るための、それなりの格闘技の心得をもってる女が結構いるんだよ。拳銃を持ってきてれば、こんな危険はおかさなかったけれど、詰めが甘かったな」

 華奈子はまだ呻いていた。ぼくの声が聞こえているかどうかも怪しい。

 ぼくはカレンを振り返った。

「けが人は?」

「ナタ−シャがスタンガンで。でも命に別状はないわ」

 ぼくはナタ−シャに駆け寄った。エマに上半身を支えてもらって、苦しそうな息を吐いている。くそっ、華奈子のやつ、おそらく日本では禁止されているような、強力なスタンガンだったに違いない。

 ぼくはナタ−シャの頭を抱くと、そっとその唇に唇を重ねた。食いしばった歯の間から唾液を流し込む。びくっと体を震わせて、ナタ−シャが目を開いた。瞳が蕩けている。脳内麻薬には苦しみを和らげる力もあるのだ。

「和也様……」

「ご苦労だったね、ナタ−シャ。病院に運んでもらって、すぐ治療をしてもらいな。もし元気になったら、今夜はぼくのベットにおいで。かわいがってあげるから」

 ぱああっとほほが赤く染まり、顔が喜びに輝いた。今すぐにでも抱いてっ!と叫びそうに口を動かすが、エマに抱きかかえられると、おとなしく体を預け、病院へと運ばれてゆく。なあに感謝することはないさナタ−シャ、お前はいい意味での見せしめなんだから。身をもってぼくに尽くせば報われる、手本さ。

「この四人を監禁室へ連れて行け。病院へ連絡して、例の薬を打たせろ」

 監禁室とは、つまり牢屋だ。ここの管理棟には鉄格子のはまった立派な牢屋があった。なんのつもりで作ったのだろう?

「それが終わったら、みんなド−ランを落として、ぼくの部屋へおいで。ご褒美をあげる」

 やさしく語りかけると、その一言で無言の歓喜がながれ、彼女たちは、もう既に瞳と股間をうるませて、いそいそと作業にとりかかった。さあしっかり働けよ、ぼくのが欲しかったらな。さっき華奈子がなにか良い表現を使ってたな………そう、メス豚ども!だ。




「どうなっている?」

「おとなしくしてますわ。というより、もう暴れる気力もないみたい。ほとんど、廃人ね」

 くすくす笑いながら、カレンが言った。カレンは、ぼくに従い奴隷のように仕える今の状況に心から喜びを覚えているようだ。しかし、そのきっかけとなった華奈子の裏切りを許しているいるわけではない。その笑いからそれを感じた。情の怖い女だ。

 ぼくは華也子の腰をだき、監禁室へ案内するカレンの後ろをついて歩いていった。ぼくの後からは、あの二人の華奈子の部下、夕子と友恵、そしてパイロットをしていたナオミがふらふらした足取りでついてきていた。昨日に引き続き、先ほど二度目をたっぷりと与えてやったばかりだ。もう脳みそはどっぷり麻薬漬けだろう。昨日今日と、その状態で耳元でたっぷりささやいて、ぼくの言葉をその無防備な心の中に刷り込んでやった。その後にぼくが命じると、ふらふらとあやつり人形のようについてきやがった。なんのために?もちろん華奈子に見せ付けるためだ。昨日の朝ぐらいから、媚薬に狂って叫び声をあげ始めた華奈子を、ぼくは放っておいた。もちろん、彼女の性格からして自殺などしない、という華也子の意見は聞いてある。

 このしたたかな女を堕すには、まずプライドをずたずたにする必要があると思ったのだ。昨日は、泣き叫ぶ華奈子の目の前でこの三人を抱いた。三人を抱き終わったらお前も抱いてやる、と最初に約束し、時間をかけてたっぷりと三人を犯して見せ付けたあとで、今日は疲れたからやっぱりやめた、と、鉄格子の向こうから手を伸ばし、絶叫をあげる彼女に目もくれず、監禁室をあとにした。しかし、完全に発狂されては後が面倒だ。そろそろ潮時であろう。

 カレンがドアを開けた。二十畳ほどの広さであろうか、中は三つの部屋に仕切られていた。もちろん、前面は鉄格子、窓にも太い格子が打ち込んであり、脱出は不可能だ。ただし環境はいい。中にはふかふかのベット、冷蔵庫もあり、シャワ−とトイレはちゃんと仕切られている。ただし、どちらも監視カメラ付きではある。中でへんなたくらみごとでもされてはたまらない。

 ぼくは、そのうちの一つを覗き込んだ。ベットにもたれて、ぐったりとうなだれた華奈子が見えた。服は自ら狂ったように引き千切り、半裸状態だ、股間からこぼれた汁が、小さく水溜りを作っている。ぼくたちが入ってきてもピクリとも動かない。髪の間からのぞく顔はどす黒くやせこけ、手は急に10歳も歳をとったようにしなびて見えた。まあこれくらいは当然だろう。みんなに打った量の二倍を注射したのだから。

「華也子、満足したか?」

 腰を抱いたまま、ぼくが見上げると、華也子はえっ?というようにぼくを見下ろした。

「華奈子がやったのか、本当のところはわからないけど、これでお母さんとお父さんの敵を、少しは取れたかな?」

「ああ、和也様……」

 華也子はぎゅっとぼくの頭を抱きしめた。

「ああ、和也様、それほどまでに私のことを……。もう思い残すことはございません。お誓いします、華也子の残りの人生全てをかけて、和也様にお仕えします…」

「加奈子はこれで許してやる、いいね?」

「全ては、和也様のお心のままに」

 ぼくの手を解いた華也子はぼくの前に片膝で膝まずくと、うやうやしく頭を垂れた。華奈子の言葉ではないが、王子に忠誠を誓う女騎士の役どころに、自分で酔っているようだ。もっとも、ぼくは奴隷としか思っていないが。

 華也子さん、ならばこそ尊敬もできた。目の前に膝まずき、ぼくに忠誠を誓っているのは単なる女の肉の塊、華也子、だ。

 ぼくは鉄格子に近寄り、華奈子に声をかけた。

「華奈子、聞こえるか」

 さすがに、ぼくの呼ぶ声には反応した。のろのろと首が動き、力なく光る目が乱れた髪の毛の間からぼくを捕らえる。

「ベットの上に上がれ。上がって股を開いたら、こいつらと同じように俺のをやる。いやならそうしてろ」

 あばがあ……とわけのわからない悲鳴をあげて、華奈子が体を起こした。本人は必死のつもりなのだろうが、衰弱した体はうまく動かない。じれったいほど時間をかけてベットの上によじ登る。そして力の限り股を開いて、ぼくに見せつけ、すがるような目でぼくを見つめた。

「両手を頭の上においてろ。降ろしたらもうんやらん。俺が入ってもおろすなよ。下手なことをすれば二度と俺のものはやらんからそう思え」

 ああ…しない…しませんっ!と頭を振って泣き声をあげながら、両手を頭の上に置いた華奈子は早くしてええっと鼻を鳴らして哀願した。

 ぼくが顎をしゃくると、カレンが鍵の束をジャラジャラ言わせて扉を開いた。

 中に入る。

 尻を軸にして回転した華奈子が俺の方を向いた。目からは涙がこぼれそうだ。

 股を覗き込む。綺麗なピンク色だ。もしかして、初めてか?

「おまえ、男を知らないのか?」

「知ってる…星の数ほど……ああ嘘、行かないでええっ…初めてっ、初めてよっ!……ああ見ないでええ……はずかしい……ああ早くしてええっ…してえっ……して……恥ずかしいことしてえええっ……」

 おどろいたな、本当に処女のようだ……。つやの悪い顔を恥じらいの色に染めて、華奈子はイヤイヤをした。

 ぼくはズボンを下ろした。

 さっき三人に注いでやったから、まだ少ししなびたようになっている。それなのにそれを見ただけで、あああっと加奈子は開いた口から涎をこぼした。

「これが、欲しいか?欲しければ欲しいと言ってみろ」

「ほ、欲しい……欲しいですっ!」

 華奈子は目に涙を浮かべた。今にも飛び掛りそうな表情を浮かべて、それでもぼくの言葉を忠実に守って手を頭の上にあげている。欲望より、ぼくのものを永久に失う恐怖が勝っているのだ。ぼくの言葉に従わなければどうなるかという、恐怖が。

「どれくらい、欲しい?」

「どれくらいなんて……欲しいっ!……くれたら何もいらない……他の何もいらない……」

「くれてやった後に、お前を殺すぞ。それでもいいか?」

 身もだえしていた体がびくっと震え、目が大きく開かれてぼくを見つめた。今までぼくが彼女に与えた仕打ちに、殺すという言葉が、たんなる脅しではないとわかっているのだ。唇が震えている。

 迷っているのだ。普通なら何も迷う必要のないこのおろかな問いに、何と答えたらいいか、本気で迷っている。

 ぼくはもう一度念を押した。

「いいんだな?」

「いやああああっ!」 

 華奈子の目から涙があふれた。

「死にたくないっ!……私、死にたくないっっっ!」

 死にたくないからいらない、とは言わない。

「わかった、殺さないよ。その代わり、おまえにはやらない」

 いやあああああっっっ!と目から涙をあふれさせながら華奈子は絶叫した。

 目の端に、カレンが満足そうな笑みを浮かべて華奈子を見つめているのが写る。復讐と、優越感を秘めて。

 この様子は、監視カメラを通じて、管理棟内に中継している。みんな、華奈子に裏切られた鬱憤を、この様子を見て晴らしているに違いない。だがこれは同時に、もしぼくに従わなければどうなるかを、無意識に彼女たちの心に刷り込む役目も果している。カレンやナタ−シャ、ベリンダたちのようにぼくのお気に入りはともかく、それ以外の者の中には、心を冷たくして、更にぼくに尽くさなければと、恐怖におびえている者もいるだろう。

「わがままな奴だ、ではどうしたいんだ?代わりに何かをくれるとでもいうのか?」

 華奈子はぶるぶると震えながら潤んだ瞳でぼくを見つめた。相手は命を要求してきているのだ。代わりに何かを差し出せと言われても、すぐに思いつくわけが無い。

 華奈子は目を見開いてぼくを見つめている。ぼくもぎゅっとその目を睨み返し目をそらさない。これは…かなりつらい。精神力を消耗する。

「わ…私……」

 とうとう言いやがった。

「私を……あげる……あげる……するっ……なんでもする……あなたが望むなら何でもするっ!」

「あげる、だって?」

「ち、違います……さ、差し上げます、差し上げますうううっ!」

 お利口さんだ。

「女は余ってる」

 ぼくは顎で鉄格子の向こうをさした。

 ハアイとでも言うように、カレンがにっこり笑い華奈子に向かって小さく手を振った。

「……ちがうっ!……あんな女より…もっと凄いことしてあげる……してあげるうううっ!」

「男は初めてなんだろ?」

 ああっと華奈子は身もだえした。

「したことは無いけど……嬲ってやったことは沢山ある……操るために……テクニックだって磨いたわっ……」

「叔父さんにもしたのか?」

「だれがあんな男……まってっ!……一度……一度だけよおおおっ!……あんないやらしい男……」

 どうやら本能的に嘘をつくらしい。だが、ぼくの前では裸同然だ。ちょっと出て行こうとするとすぐばらしやがる。

「ここにはそっちのプロの女ばかりだ。そんなものじゃあだめだな」

 華奈子は再び震えだした。かなり自信があったのだろう。だが、と思い直してみて、当然カレンたちには及びもつかないことを悟ったに違いない。

 ぼく、というたった十五歳の少年を前にして、わが身一つになった時、自分がどれほど価値のない存在かを思い知らされている…もうプライドはずたずただろう。もう一押しだな。

「ほかにできることはあるか?」

「…………」

 もうぼくの瞳を見ることもできない。目からぽろぽろ涙を流し、すすり泣いている。少し心配していたが、これなら捨て鉢になって襲いかかってくることもあるまい。

「あれを見ろ」

 ぼくはふたたび鉄格子の向こうに顎をしゃくった。夕子と友恵、ナオミは壁にもたれ、ぼんやりとぼくの方を見ていた。

「ナオミはパイロットとしてぼくに仕えると誓った、だからくれてやった。だが、夕子と友恵はなぜやったと思う?」

 はっと、すがるような目で華奈子はぼくと彼女とたちを見比べた。

「ぼくに忠誠を誓ったからさ。これからずっとぼくのものをあげるといったら、自分から一生仕える、奴隷になると、約束したんだ。おまえよりよっぽどわかっている、かわいい子たちだ。だからあげたんだよ」

 一瞬戸惑いがあった。だがすぐにああああっと華奈子の目の色が変わった。

「……お仕えします…私の全てを捧げて……だからお願い…お願いしますうううっ!」

 声を聞いてもわかる。

 狂いやがった。

 ぼくのもの欲しさに、自分のプライドを捨てるために、狂うしかなかったのだ。自ら狂ったということを認めることで、心のどこかに正気を保ちながら、ぼくの奴隷という狂った人間の役を演じることができるようになったのだ。

 死ぬまで。

「……なりますうう……奴隷に……お仕えします……します……しますううう……」

 いいぞ、もっと言え、口に出して言うんだ。そうすればもっともっと心に染み付いてゆく。

「なります……奴隷に……かわいい奴隷……和也様に……ご主人様にかわいがっていただける忠実なかわいい奴隷になります……なりますううううっ!」

 この様子は、監視カメラを通じて島の全ての女たちが見ているはずだ。彼女たちも心に誓っていることだろう。華奈子よりももっともっとかわいい、忠実な奴隷になって、ご主人様にかわいがっていただくんだ、と。

「だれにも負けない……なにもできないけど……忠実なことでは誰にも負けない……かわいい奴隷……犬のように……這って暮らします……犬のように這って……和也様にかわいがってもらえるよう……」

 カレンがじっと華奈子をにらんでいる。その表情に先ほどまでの優越感はない。今カレンはぼくのお気に入りの取り巻きの一人だ。だがそこに華奈子が入ってくれば、ぼくの中で確実に自分の存在が小さくなる。強力なライバルとなるかもしれないのだ。自分がはじき出されないという保障は、ない。カレンでそうなのだ、他の女たちの危機感はもっとすごいだろう。もっともっと忠誠を見せないと、かわいい奴隷にならないと、もっともっとSEXのテクニックを磨いてぼくを虜にしないと……

「よし、いいだろう」

 ぼくは華奈子に歩み寄ると、自分のモノを手に持ち、華奈子の股間にあてがった。

「今の言葉、忘れるなよ」

 そう言って、もうぐっしょりとなっているそこに一気に挿入する。

 まだ出てないから快楽はそれほど感じないはずだ。それなのに華奈子は狂気のような歓声をあげた。

「ひいいいっ……いひ、いひいいいいっ………あ、ありがとうございますうう……あ、か和也様……和也様あああっっ!」

 膜をやぶって一気に進む。

 とたんに今度はぼくの方が悲鳴をあげそうになった。

 ぎゅっとぼくを締め付けたものは、壁ではなく小さな肉の瘤と管の集まりのような感触であった。それがうねうねとうねりながらぼくのモノを締め付ける。ぬるぬるした肉の管が何本もぼくのものに巻きつき、啜っているような感覚であった。

 なんてもの持ってやがる……あ…あああ……。

 処女と侮って少し嬲ってやるつもりだったのに……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あっっ!ぎぼじい゛い゛い゛い゛っっっ!

 動かせない…動かしたらイッちゃう…ああああっ…まて、まってくれ華奈子おおっ!

 狂ったように華奈子が腰をグラインドさせ始めた。

 でる…もう先走りが出ちゃってる……それを吸収して、華奈子の顔が少しずつ生気を取り戻し、うっとりと快楽に染まっていく。さらなる快楽を求めて、そのしなやかな身体がさらに激しさを増して動く。

 華奈子は両手を頭の上においたままだ。その不自然な格好でも、その身体は見事なバランスを保ち、華也子以上に豊満な胸が、縦横無尽に左右にゆれる。ああ……だめ……もう……ああああっ!

 体ががくがく震えた。しびれるような快感と喪失感……。

 僕はベットの上に倒れた。今日四度目なのに……こんなに早くイッちゃうなんて……最低…。

 受け止めた瞬間、華奈子は目と口を大きく開けて天井を向いた。

 そして、次の瞬間には狂喜の歓声をあげて全身を硬直させると、口のから涎をあふれさせながらベットの上に崩れ落ちた。

 


「だから何度言わせるのよっ!」

 華奈子が受話器に向かって叫んだ。

「あの坊やを落とすまであと一歩なのよ。いい?あんな書類のサインさせたところで無駄なのよ!あの子を完全に洗脳して奴隷にするの、その方が確実よ。それにはもう少し時間がかかるの……金がもう無い?それはそっちで何とかしなさいっ、銀行からの借り入れでもなんでして、もう少しこの施設を……会社の金はもう使えない?何言ってんの!あんたの家でも何でも担保に入れなさいよっ!それぐらいのリスクをとらないでどうするの?

 あ、あと例の薬を急いで隠すの。ええ…そうあの雪彦という男がかぎつけそうなのよ……ばか言わないで、あんたに気付かれるほどあの男はマヌケじゃないわ……うん………そうね………とりあえず、あの二人の研究員……そう、主任のあの女よ……すべてのデ−タを持たせて、この島に送って……出張でも何でもいいわ、来させさえすれば私がなんとかする……うん………独身で家族いないなら怪しむものもいないわ。いい、一切の資料を残してはだめ、少しでも残してあの男にかぎつけられたら全て終わりと思って……うん……当たり前よ、これは私の復讐でもあるの、絶対裏切らないわ………それは大丈夫、任せて…………うん………うん………さすがあなたね………うん………わかった、それじゃあ……」

「あなたわかってないわっっ!」

 もう一方の衛星電話に華也子さんも叫んでいた。

「…いい?和也様にとってもこれはいい機会なの………学校の勉強より大切なものはいくらでもあるわ……ここには世界中のさまざまな人がいて、和也様はその人たちと交流しながら、その中で一人の男として立派に性交してるのよ……」

 字が違う、成功だよ華也子…。まあ、確かにありとあらゆる人種の女はいるわな……。

「…今しかできない勉強なの。あなたがなんと言おうと、わたしはもうしばらくここにいることが、和也様にとって今後の糧になると信じてる。場所?言えないわね、言えば連れ戻しに来るでしょ?……雪彦……私が今までに和也様のためにならないことを一度でもしたことある?和也様のことを思う気持ちはあなたには負けないつもり。とりあえず学校には休学届を出しといて………うん………わかってるわ………大丈夫だって……うん……わかった、和也様からも直接電話していだだくわ………うん………わかった、じゃあね」

「ふん、小心者!おどおどとして、つまらない男ね」

「憎らしい奴、和也様のことばかりで、私の心配なんてしやしない」

 二人はほぼ同時に電話を切ると、吐き捨てるように言った。ぐるりとベットを回ってくると、ソファに腰掛けたぼくの左右に腰を下ろし、薄いシルクの黒いドレスをまとった体をこすりつけるように抱き着いてきた。今からパ−ティ−にでも出かけるように、髪を頭の上でまとめ、顔には上品な化粧が施してある。

「なによ華也子、まだあの男に未練があったの?」

 薄く笑いながら、華奈子がからかうように言った。

「冗談はよして、私は和也様さえいればいいのよ」

 そう言って笑いを返した華也子は、ぼくのほほに軽いキスの音をさせた。

「和也様、とりあえずあの男に言って、学校の方は休学扱いにさせました。ここに乗り込んでくることの無いように、場所も告げず、探さないようにとも釘をさしておきましたわ」

「わたしの方も、あの男に言って、物資を運ばせる手はずを整えました。もうしばらくここを維持するよう全ての経費も出させます。もう、後には引けないことはあの男もわかっていますから、このままずるずると毟り取って……半年以上は必ず現状を持たせます。明日、ハワイまで行って船を調達してまいります。

 薬についての全ての資料をこの島に運ばせます。開発者は二人とも若い女性です。薬を打ちますから、後は和也様におまかせしますわ。

 あと、ジェ−ンとナンシ−はもうだめですから、アメリカ本土に運び、どこかに捨ててきますわ。いえ、大丈夫です。この島の位置は知りませんし、薬物中毒の娼婦の言うことなんてだれも信じませんわ。近いうちに新たな女の補充もいたしますわ」

 あの男、と二人ともが言った。ここではぼく以外の男の名前を呼ぶことは禁じてある。

「よくやったぞ、二人とも」

 ぼくは左右に首を回し、それぞれの唇にキスをした。つややかな、吸い付くような唇であった。唾液は与えていないのに、二人ともうっとりとした表情になる。ぼくの与える全ての刺激が、まるで快楽物質が分泌されたかのような反応をもたらすのかもしれない。まるでパブロフの犬だ、雌犬だ。

「二人まとめて抱いてやる。フィニッシュはどうして欲しい、あそこか、それとも顔に欲しいか」

「顔にして。お姉様と二人同時に気持ち良くして……」

「ああ、華也子うれしいわ、優しいのねあなたは…」

「ああん、お姉様ああっ」

 華奈子が首を伸ばしてねっとりとキスすると、華也子もうれしそうな声をあげて唇を割って舌を送り返す。腹違いとはいえ姉妹だのだ、仲良くしろと言ってある。よしよし、よく言い付けを守っているな。

 しばらくぼくを挟んだままねっとりとしたキスを交わし、やがて腕を伸ばして互いの胸をもみ始める。それほど気持ち良くないのかもしないが、ぼくに見せ付けることで快感を感じているのであろう。

「ああ…華也子……華也子っ…」

「……ああ…ああ…お姉様っ…ステキ……」

「あら…仲がいいのね……」

 お盆に乗せて冷たい飲み物を運んできたベリンダが、ちょっと目を見開いてうれしそうに言った。彼女もドレス姿に、きちんと化粧をしている。

「いいわね、姉妹で仲が良いのって。私も妹に会いたくなっちゃった」

「へえ、妹がいたんだ。やっぱり、ベリンダに似て美人かい?」

 にこっとベリンダが笑った。

「カレッジのころには州のミスコンを総なめにしてましたわ。私の自慢の妹。今は女優の卵、私は娼婦になってしまったけれど、彼女は人生の表舞台を歩いてほしいわ」

 へえ……。

「呼べよ。呼んだらおまえを抱いてやるぞ」

「すぐ呼びよせます…」

 うっとりと目をとろかせ、間髪いれずにベリンダが答える。

 くっくっくっ。快楽のためなら妹も売る、かわいい奴隷になったものだ。

「和也様、妹もかわいがってくださいますわよね……」

 もちろんだ、薬を打って、かわいい奴隷に仕上げてやるとも。

「もちろんだとも。華奈子と華也子みたいに、時々二人で抱いてやるぞ」

「下の妹も呼び寄せますわ……」

 もうふらふらとなりながら、ベリンダは股間を押さえて衛星電話に向かって歩いていった。

 それを見送ってから、成り行きを見守っていた華奈子と華也子が両方からぼくにキスしてきた。

「ああ、和也様、いただいてもよろしいですか」

 いいよ、とぼくが答えると、二人はソファを降り、床にひざをつくとぼくのズボンを脱がしにかかった。パンツを上から、とりあえず一回キスをする。すぐにむくむくとテントを張った。

 この二日ほどやってない。乱発すると価値が落ちるからな。

 パンツが下ろされる。ぼくのものがあらわになると、ふたりとももうほとんど目を閉じるほど力なく瞼が垂れ下がり、うっとりと見つめた。華奈子は最初の時の二回、華也子もまだ二回しか抱いてやっていない。

 ああっと歓声をあげると、華奈子が舌をのばしてぺろんと舐め上げた。華也子は上から覆い被さるようにして先端に舌を這わせる。ぺちゃぺちゃと音をさせながら、かさの部分を舐めまわす。

 このいやらしい雌犬どもを相手に、二日も我慢してきたのだ。もういきなり先走りが出る。華也子の顔が快楽に赤く染まりはじめ、軽く華奈子に合図を送ると、責める場所を交代する。今度は華奈子が先端に吸い付け、華也子がさおにキスの音を立てさせる。すぐに華奈子の顔が赤くなった。先走りの液が脳に快楽物質の分泌を促して、激しい快楽をもたらしているのだ。

 ああ……いい……やっぱり……いい。高貴な顔立ちをした女が二人、上品にドレスアップして最低の雌犬のようにぼくのモノに奉仕している……このシュチエ−ションが、やっぱり一番イイ。

 でもこの待遇を与えているのは、この二人とベリンダ、カレン、アンナ、ナタ−シャ他の数人だけだ。彼女たちは、ぼくの部屋の周囲に立つ、客用の建物に住んでいる。仕事はなにもしなくてもよい。

 ぼくは、貢献度や気入度に応じて、施設の運営のために働かせている他の者とはっきり階級分けをした。彼女たちは、他の女たちより上位に位置し、他の女たちを召し使うことも許している。ぼくの部屋への出入りの自由も許した。

 建物は20組分、まだ余裕はある。管理棟の職員宿舎からここに来たければ、もっともっとぼくに尽くし、美しさを磨いてぼくに気に入られるしかない。

 左右からまるでハ−モニカでも吹くように、顔を上気させた二人がさおに唇を這わす。華奈子がタマに吸い付くと、首をねじってきゅうううっと引っ張った。ああ、こんなの…はじめてだ……ああ……華也子……いや華也子さんと呼んだほうが興奮するや……ああ華也子さん、ぼくのモノに歯をたてないでええっ!

「和也様……二人とも、来週ホノルルまで来るそうです、来たら迎えにいってきますわ……」

 ベリンダが戻ってくると、ぼくの横に腰掛け、しなだれ寄ってきた。

 うるんだ瞳がぼくを見つめ、あの唇がキスの形に突き出されて、ぼくの唇に迫った。

「少しだけ先に……ご褒美を下さいませ……」 

 ああ、だめだ…ベリンダやめろおっっ!

 んむちゅ……。

 全身に寒気が走るような快感……ああ、だめだああ……こ、これだけは……だめだ……。これだけは……どうしても……慣れることが……で、でき……な………。

 体がびくびく震え、ぼくのモノが白い液体を噴出した。

 きゃあああっと歓声をあげながら華奈子と華也子が争ってそれを口で受け止めた。




TO BE CONTINUE………かもしれない

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