『吸魂(すいたま)』
霊子学概論のエルダー教授の講義はいつも不人気だった。
理論よりも実践を好むよく言えば行動派、悪く言えば突っ走る直情型の学生が増えた為である。
「霊子とは人の生命力の源と言えます。霊子が不足すれば、人は病に倒れ、過剰に溜め込むと“魂喰い”という一種の中毒症状に見舞われることとなり、攻撃衝動から霊子を放出し続け、他人から霊子を貪り喰う『吸霊鬼』と成り果てるのであります」
エルダー教授は小柄で白い髭を蓄えた七十に手が届く老境にあり、霊子実践講義を持つケルン助教授や霊子技術講義を持つエリィ講師のような若々しい色気で生徒を呼べる外見的魅力が乏しい。
彼女らの授業には、“ある特典”が付いている所為もあるが、ただ理論を喋り続けるだけの催眠効果抜群の講義は敬遠されがちだ。
必須科目ではないし、出席も取らない為、いつも聴講に来る学生は気の向いた者だけの少人数。
席は空席が目立ち、生徒の大半は爆睡中であったり、私語に花を咲かせているが、それでもエルダー教授は気にした風でもなく、一人喋り続ける。
「霊子を得るには先ず簡単なところから物を食べる行為で補填する事が上げられます。また、より肉体を健全に保つ事で良き霊子を体に溜め込むことが出来るのです。しかし、これは肉体を維持する為の基礎霊子であり、それ以上に霊子を溜め込むことは難しいと言えます。より多くの霊子を得たいと考えるのであれば、如何すれば良いのでしょうか?人の生き血を吸う事?断末魔の悲鳴と共に迸る霊子をその身に受ける事?それは正しいとも言えますが、とても非効率なやり方と言えます。効率の良い手段として『房中術』が上げられます。異性との性交渉で相手の霊子を得る手段です」
「ごくり…」
そのさっぱりなエルダー教授にもお気に入りが居た。
前列にいつも座り、熱心に講義に耳を傾けるエレンと言う名の学生である。
金髪碧眼、上流貴族の家系のお嬢様。
成績も大変優秀で、当のエルダー教授ですら何故自分の講義に熱心に顔を出すのか首を捻るほどの才媛である。
エレンは『房中術』の話に入ると頬を赤らめ、生唾を一つ飲み込んだ。
「その際に術者は精を洩らしたり、絶頂を迎えてはいけません。被験者を絶頂に導き、精気に含まれる霊子を頂く訳です。女性の場合はそれが受胎に拘る行為であることを認識していないと大変なことになりますので注意して下さい」
淫らになりがちな話題を淡々と語り、素通りさせようとしたその時…
「では、次に…」
「ハァン…」
生徒の大半は後ろの方の席に座っている為、その声に気付く者は居ない。
微かな…近くに居るエルダー教授にしか聞こえない、本当に微かな淫らな喘声を耳にして流石に無視を決め込んだ彼も顔を上げ、その生徒に目を遣る。
「ハァハァ…」
其処にはエレンが頬を明らめ、息を荒く吐いていた。
「あは…」
彼女はエルダー教授の視線に気付くとニッタリ妖艶な笑みを浮かべ、蛭の様な舌をチロリと出して唇を淫らに舐め上げる。
そして、空いた長机の中で組んだ足を下し、下半身を突き上げるような形で大きく股開いた。
純白の下着がエルダー教授の目の前で丸出しになる。
絹のレースをふんだんにあしらった布地の極端に少ないショーツは股間の部分が透け、女性器が窺えるほど潤んでいた。
「!」
エルダー教授はその光景に暫し固まってしまう。
真面目だと思っていた美少女の酷く淫らな本性を垣間見た気がした。
それと共にエルダー教授の内から久しく忘れていた萎びた雄の本性をも目覚めていく。
暫しの間見詰め合う二人。
それは時間にすれば、数秒のこと…
きーんこーん!かーんこーん!
「ハッ…」
その時…二人の沈黙を破るように終了の鐘が鳴った。
「コホン…では、次回は社会不適合者と不要老人の早期粛清殺行為及び安楽死の際の霊子吸引の是非に付いて論述したいと思います。エレン君、君には話があるから後で私の研究室に来るように…」
咳払い一つ。
我に返ったエルダー教授は昂ぶる気持ちを抑えるように生徒に言い置くと足早に666講義室から立ち去った。
気持ちを落ち着かせる時間が必要だと思ったからだ…
生徒を導く教師としてあの男を誘惑するような行動を取ったエレンを戒めなければならないだろう。
しかし、研究室で彼女を待つ内、エルダー教授の心に在るあるしこりが蠢き出す。
これほど異性に対して昂ぶりを覚えたのは今にも終焉を迎えそうな長い人生の中でも初めての経験だった。
本の虫だった彼は学生時代も壮年期も女性に殆ど気を取られる事無く過ごした。
エルダー教授は老人と言える年になっても未だに『童貞』だったのだ。
女性と交際した経験も無い。
それどころか手に触れた経験すら数えるほどしかないと言う有様だ。
今まではそれで良いと思っていた。
縁が無かったと諦めることが出来た。
しかし今、童貞である事の劣等感が彼の揺ぎ無かった精神を苛む。
夢想でしか無かった美少女の淫らな誘惑に雄の欲求ががむくむくと鎌首を擡げてくるのだ。
(エレン…)
その名を想うだけで彼の萎びた一物は漲っていく。
情けない事と知りつつも緩くテントの張った股間を撫でてしまう。
「ああ…」
エルダー教授は教卓にある生徒を鞭打つ為の教鞭を想った。
これであの美貌の女学生の臀部を衆目の前で剥き出しにし、打ち付けるのだ。
(さぞかし…張りがあって、スベスベとして…)
丸みを帯びた臀部に赤い鞭痕が付く様を想うと自然に興奮が高まり、股間を摩る手も激しくなっていく。
そして、感情の昂ぶりと共にあのエルダー教授を魅了してやまない愛しい美少女の名が罅割れた唇から零れ出る。
嗚呼、それは口に上らせるだけで何と甘美な名…
「エレン…ああ…エレン…」
「…はい?」
不意にその御当人、欲情の対象…ずばり言えば、“オナペット”な美少女が彼の行為に顔を赤らめながら身の置き所ない様子で佇んでいた。
「えあっ!?え、エレン君…ききき君は何時から其処に?」
「教授が…その…股間に御手を這わせた時からです。何度もノックはしたのですが、お返事が無かったもので…」
言い訳無用な場面を見られてしまっていた…
エルダー教授は羞恥で茹蛸のような顔で、動揺露わにそれでも誤魔化そうと愛想笑いを浮かべた。
「そ、それは…恥しいところを…見られてしまいましたね」
「あの…お話は?」
「うっ…」
エルダー教授、これには進退窮まった。
今更、『あの淫らな行為は何ですか?貴女は淑女としての慎みと恥じらいをしっかりと持たねばなりません!』、云々言える訳が無い。
当の御本人がその慎みの無い所を露見させてしまったのだから…
「う…あ…あのですね…」
「先程の淫らな行為は…反省しています。最近、生理不順の所為か霊子の体内調節が上手くいかなくて…」
エレンは教授に助け舟を出す形で話し始める。
教授の顔が赤くなったり青くなったりするのを見て気の毒に思ったのか、幸い彼女はそういう人の心情を慮る聡い娘だった。
「そ、そうでしたか…」
ホッと安心、エルダー教授。
女性の霊術士が生理不順で体調を崩し、発情してしまう事は良くある事だ。しかし、それは稀に起こる“魂喰い”の前兆としても知られている。
些細な兆候だが、憂うべき事態である事は確かだ。
「生理中は運動で霊子を整える事が出来ませんからね。精神を落ち付ける為、教会など清廉な場所で祈りを捧げるのが良いでしょう。祈りによって神の大いなる御業に触れ、安らかに心気を整え…聞いているのかね、エレン君?エレン君?」
「はいぃ〜?」
エレンはトロンと目尻を下げ、目は空ろ今までの教授の有り難いお話なぞ何処吹く風…
顔は飲酒したように紅色に染まり、体は夢遊病者のようにゆらゆらと定まり無く揺れ動く。
「え、エレン君?」
「教授ぅ〜、霊子を整える方法が…もう一つありますわ」
ぺろりと唇を舐め、息荒く男を惑わすような流し目でにじり寄る。
そのエレンの表情は授業中に露れた発情した雌犬の相だった。
「教授に慰めて頂くのです…代わりに私も教授を…」
「えええ、エレン君…しょしょしょ、正気に戻り…アアッ!?」
ぬぎ…
エレンは一重の着物の前身頃を開ける。
「ンふ…エルダー教授ぅ〜ン」
「おおぅっ!」
制服を着た彼女は着痩せして見えたが、踊り出た胸は意外に豊満だった。
その豊かな胸を包む純白の下着はショーツと揃いなのか、総レース造りの乳首の朱も、押さえつけられた様も見て取れるほどスケスケで淫靡な彩りを添えている。
ぷちっ…ぷるん!
「おおおおおおぉぉぉっ…」
天○のブラみたいな寄せて上げてパット入れて男性の目を誤魔化すえげつない機能のまるで付いていないごく普通のブラから零れ出たのは、騙しのない柔らかそうな巨乳だった。
エルダー教授はその光景に目を剥いて絶叫を上げる。
童貞老人と言っても女性の乳房を見たのは初めてではない。
五十年ほど前に一度だけ悪友に引き摺られるようにストリップ小屋に入ったことがあった。
それは四十も半ばを越え、たっぷりと脂の乗った(つまりデブの…)中年女性であったが、それでも鼻血を出すほど興奮を覚えたのを憶えている。
そんな悲惨で救いようのないエルダー教授に彼が敬愛する神という名の偶像が救いの手を差し伸べたようだ。
十代の美少女が垂れる事もない若々しい乳房を晒し、萎びた老人の彼を色道の奈落へと誘っている。
(何と…美しい…)
その白磁に似た肌はしっとりと透明感があり、血管が透けるほどだ。
後ろに纏めた金色の髪を解くとその年齢に似合わぬ凄まじい色気が香り出す。
美と愛欲の女神を模した一幅の絵画を見るような神々しくも淫らを内包した肢体。
童貞老人は吸い寄せられるようにエレン女史に近付き最近中気を起こしてフルフルと震える節くれ立った指先を彼女の乳房へと伸ばした。
ぷにゅ…
「アハァン…」
「お…おおお…あうあう…」
その柔らかでもちもちとした感触は筆舌に尽くし難く、童貞老人を感動させた。
あんぐりと大きく開けた口内では入れ歯が定まらず、カタカタと揺れる。
何度も使用した所為か総入歯安定剤が役を成していないのだ。
激しくなる動悸は苦しいほどで最近血栓でめっきり衰えた心臓に過剰な負荷を与える。
胸に触れただけなのに動脈硬化を起こしそうだった。
ちゅっぱ、ちゅっぱ!
薄桃色に染まる乳首に舌を這わせ、吸い付く。
「あぁんっ!」
「んもぉあ、う…ぶはぁあ…」
一度赤子に戻ると言われる還暦をとうに過ぎたエルダー教授は本当に赤ん坊に戻ったようにエレンの豊満な乳房を啄ばんだ。
いや、その様は乳離れ出来ない大きな子供が母乳を強請る様なさもしい風情がある。
「あはっ…教授ぅ〜」
「うひっ!え、エレン君、其処はぁ…」
老人に乳房を嬲られるに任せるかに見えたエレン。
その彼女のしなやかな指先が突如エルダー教授の股間に伸び、張りの薄いテントの先を撫でた。
「ややや、止めたまえ、エレン君!」
布越しと言えども突然霊子人体学に置いて重要な男の部位を撫でられる事に童貞老人は吃驚した様子で腰を引き、拒否を露わにする。
その腰部ヘルニアの再発を恐れない見事なへっぴり腰の姿勢で腰を引きながら尚も口に咥えた乳首を離さない。
「もうっ、教授ったら!」
どんっ!
その身勝手で貪欲な老人に業を煮やしたエレン嬢。
『いい加減にしなさい!』とばかりにエルダー教授を突き飛ばした。
「あわわわ…」
これにめっきり足腰の弱った教授は蹈鞴を踏んで倒れ、後頭部をしたたか打ち付ける。
仰向けになったところをエレンが馬乗りに圧し掛かり、老人のきつい口臭にも拘らずネットリ濃厚なキスをした。
ちゅぷっ…
「むぎぎゅぐぅ…」
マウス・トゥ・マウスのキスなど亡くなった肉親くらい…教授は乙女の芳しき息吹に痛みを忘れて目を回す。
茫然自失のエルダー教授を尻目にエレンは彼の衣服を乱暴に引き裂いた。
普通か細い少女の腕にそんな力がある筈がない。
これは霊子の過剰摂取により中毒に陥った者の典型的症状。
身体能力の無意識下のセーフティ解除…“暴走”だ。
エルダー教授は大層な学位を持っていらっしゃる筈なのだが、今現在そんな基本的な事にも気付かないほど動揺し、頭に血の上った状態だった。
何時、脳卒中で逝っちゃってもおかしくない。
「ん…ちゅぷ、レロ…」
「ああああああ…」
エレンは老人の肋が浮き、染みだらけのカサ付く肌に舌を這わし、黒ずんだ乳首を啄ばむ。
オヤジ臭漂う貧相な肉体を嘗め回していく。
「のほほおぉ…」
それだけでエルダー教授は涙を噴き零さんばかりの感動を覚えた。
(おおっ、霊子が…霊子が下腹に漲っていくぅぅぅっ…)
臍の下の辺りに靄々とした“気”が集まるのを感じる。
嗚呼…あの若かりし日。
霊術師として研鑚を積んだあの頃…
他の霊術士達が霊子補給に齷齪する中、彼だけがその満ち溢れんばかりの霊子を体から発し、周囲を驚かせた。
大自然からの霊子を過剰保存出来る特異体質に恵まれた彼は天童と言われたものだ。
しかし、それも昔の事…豊かであった霊子の泉は枯渇し、それを扱う術も老いた肉体と共に衰えた。
その砂に埋もれた筈のオアシス。
霊子の源泉が美少女の愛撫によって滾々と湧き出てくるではないか。
四肢を駆け巡る霊子が衰え捲くった五臓六腑をリフレッシュ、か細い血管を拡張し、最近痴呆気味の脳味噌をも活性化させる。
その影響が最も顕著なのは股間の一物だ。
漲る漲る…(でも、まだ垂れ気味)
「クス…」
エレンは目を回しながらも股間を膨らませる老人を嘲笑うように一つ笑うと股間を揉み揉みし始める。
「うひぃっ!」
「うふふ…教授くらいの御年でも固くなるんですね?」
そう言うとエレンはズボンを引き摺り下ろし、頻尿で染みの浮いたブリ−フ・パンツに包まれ、僅かに硬度を増した突起を唇に包み込んだ。
「ほぉぉぉっ!」
どぴゅっ…
エルダー教授は奇声を発したかと思うとあっさり果ててしまった。
早い…早漏である。しかも、量までもしょぼい。
ブリーフ・パンツを僅かに湿らすほどしか出せない。
「あまぁい…」
染み出した精液を味わいながら眉を顰めるエレン。
糖尿をも患っているエルダー教授であった…
ぺっ!
「この早漏ジジィ!」
突然の豹変…エレンは立ち上がり、教授の出した精液を唾と共に吐き捨てると、彼の股間を思いっきり蹴り上げた。
げしっ!
「ぎゃうん!」
教授は股間を押さえ、哀れな雄犬のような叫びを上げ、のたうち回る。
「これ位の事も耐えられないのかい、このエロ爺ぃっ!?」
げしっ、げしっ!
「ぎゃうっ!ぎゃあっ、ゆ、ゆるして…」
なおも足蹴にするエレンの足に縋り付き赦しを請うエルダー教授。
四回り以上年下の少女の足に涙ながらに縋り付く老人…
異常な光景だ。しかし、何故か足蹴にされている筈の教授のペニスは前以上に勃起していた。
「ハッ、ハハハッ…生徒に蹴られてち●ぽエレクトしているのかい?このマゾっ!ド変態教授っ!」
げしげし、げしげし、げしぃっ!
「うっ、ううう…あうぅっ!」
明らかに普段と違うエレンの態度。
暴力衝動の増大が見られ、それと共に彼女の美しいブロンドの髪が見る間にプラチナ・ブロンドに色褪せ、変化していく。
「あ、あああ…」
此処に至り漸くエルダー教授は気付いた。
彼女が最早戻りようがない魔界へ足を踏み入れた事を…
予兆は以前からあった。
彼女の曽祖父は魔界に魅入られた悪の霊術士に嬲り殺しに遭っている。
けっちょんけっちょんであった。
残ったのは入れ歯とペース・メーカーだけと言う有様。
『いつか私が全ての悪い霊術士を駆逐します!』が彼女の口癖で、異端審問官になる為に様々な霊子吸引法を実践していたようだが、上手く行かず悩んでいる節があった。
(まさか彼女は魔像崇拝に手を染めたのでは…?)
魔像崇拝とはその名の如く魔神像を崇め奉り祈りを捧げる方法である。
一般に魔神像にはZとグレートの二種類があり、剣を片手に持つグレートはより強力であるとされる。
Zは周囲数百メートルの霊子を…グレ−トはそれ以上を無理矢理徴収する。
数日前から女子寮内において生徒が流行り病で続々と病の床に伏せったのはその為だろう。
本末転倒…
彼女は霊子を集める手段の為に目的を忘れ、霊術士の誰もが戒める禁じ手、邪法に手を出してしまったのだ。
邪な霊子が彼女に纏わり付いているのもエルダー教授は視認していた。
エルダー教授は彼女の苦悩、霊子変化、女子寮の変事等々の異変に気付きながらも適切な指導をすることなく、むざむざ見過ごしてしまっていたのだ。
(何が教師…何の学位か…)
後悔は遅く、魔界に堕ちた彼女を救う術はもう…無い。
それどころか教授は“魂喰い”に変化しようとしている彼女に魅了されていた。
罵声を浴び、虐げられる事で性的興奮が高まっていく。
「糞ジジィ、いつまで転がってるつもり!?とっとと裸に御成り、この豚っ!」
「は、は、はっ、はいぃっ!」
最早、教授はエレンの言うがままだ。
あたふたとパンツどころかブーツまで脱いでいる。
そこまではいいって…
「尻を向けろ、豚爺ぃっ!」
「へひぃやっ!そ、それはぁ…」
教授はエレンが教卓から取り上げた物を見て怖気を奮う。
それは彼が夢想した生徒を鞭打つ為の教鞭だった。
びしぃっ!
「ぎゃぁぁぁっ!」
それが今や逆に彼の臀部に振るわれているのだ。
赤い鞭痕が幾状も走り、血が滲み出、老人の弛んだ臀部は無残な姿を晒す。
ビリビリ…
「おおおぉっ!」
凄まじい衝撃を感じながらも教授は滂沱の涙を流していた。
痛みの為ではない。
彼が今まで嫌悪し、蔑んできた者達が享受する鮮烈な快楽。
それを受け入れた喜悦の涙である。
それは貪欲早漏童貞老人がこれまで異常と思ってきた行為…マゾヒズムに目覚めた瞬間であった。
「徹頭徹尾変態だね、教授?打たれてビンビンじゃない、このド変態っ!?」
「もっと…もっと罵ってくれ、エレン君。いや、罵って下さいませ、エレン様ぁっ!」
エルダー教授は人としての威厳と自尊心を失った。
彼は既にエレンの奴隷、人の姿を模した哀れな家畜であった。
ビシィッ、ビシッ、ビシビシッ、げしっ、がっ、がっ!びしぃっ!
「このブタァっ!豚めぇっ!人の言葉を喋るな、四つん這いに御成りブタァっ!」
「ぶひぃっ!ぶひぃっ!」
鞭打たれ、時折足蹴にされ、教授の勃起は以前より更に進む。
互いの興奮が高まるにつれ、エレンにも顕著な変化が現れる。
緑柱色の瞳は血走りが瞳孔に集積し、赤色へと変化していく。
鮮血を固めたような赤、クリムゾン・レッドへと…
「ハァ、ハァ…服従のポーズを取りな、犬っころ!」
「はぁ?…は、はい!」
一瞬意味を判じかねたエルダー教授。しかし、彼は犬と言われたことを瞬時に理解し、仰向けに寝転んだ。
手足を曲げ、大股を開く犬の服従のポーズだ。
その恥しい格好ですら彼の欲望を増加させる。
くすんだ皮余りの包茎ペニスはピクピクと大きさを増していく。
「くすくす…もっと膨らませなよ…自分の手でねぇ!」
「う…ああ…」
エレンはなおも教授を貶める行為を強要する。
壮年と比べれば、老いて萎みがちな肉塊が目一杯膨れているにも拘らず、更に辱め、自慰により勃起させようと言うのだ。
しこしこしこ…
「む、無理です、エレン様ぁっ!」
しかし、それは気が小さいくせに自尊心の高い彼にはとても困難な事だった。
焦れば焦るほど、擦り上げれば擦り上げるほどに縮んでしまうようなのだ。
「これなら如何?」
エレンは体を淫らにくねらせながらその肢体に絡まる衣服をショーツを残して次々と脱ぎ捨てていく。
絹地のショーツはヒップ・アップを矯正する物ではない。
後ろは剥き出しのTバックで綺麗に丸みを帯びたヒップを惜しげもなく晒している。
エレンはそのヒップを見せ付けるように体を捻り、クイッと上向かせた。
「ああ…」
エルダー教授のペニスを擦り立てる手が一層速くなって行く。
それはまるでオナニーを覚えたばかりの少年のようだが、老境に入った彼が目を血走らせ懸命に手淫する姿は無様を通り越して滑稽ですらあった。
「うふふ…」
エレンはその老人の痴態をニヤニヤと観察しながら後ろを向き、ジリジリと焦らす様にショーツを擦り下げていく。
しかし、彼女のショーツを下す手はヴァギナが見えるか見えないかというところで止まってしまう。
「そんなぁっ、エレン様!えれんさまぁっ!お慈悲を!この哀れな老人にお慈悲下さいませぇっ!」
「見たいのぉ?」
「お願いします!お願いしますぅぅぅっ!?」
エレンは、涙を浮かべ仰向けでペニスを擦り立てる老人にチロリと流し目をくれる。
「じゃあ…見せて上げる」
人差し指で一度だけ唇を撫でるとエレンはするりするりとなおも焦らすように少しずつショーツを押し下げていく。
そして、膝頭まで来たところで足を上げ、その豊満な乳房を揺らしながらショーツを抜き取った。
「ふふ…」
ぱさっ…
「あぶぶぶ…」
意地の悪い事にエレンは教授の視線を隠すように脱いだショーツを彼の顔に落とした。
その芳醇な愛蜜の香りに振り払う事の出来ない教授。
ぐっしょりと愛液を含んだショーツは水を含んだ布を顔に被せるのと同様の効果を齎し、酸欠状態になるに至り彼は漸くそれを振り払った。
「アハァン…」
グチョ、グチョッ…
「あああ…」
視界の回復したエルダー教授が目の当たりにしたのは、エレンの立ったままで手淫に溺れる淫らな姿だった。
片手で濡れ光る陰唇を押し開き、もう一方の手で淫核を擦り立てる。
膣には二本の指が深々と抉るような指使いで差し込まれていた。
陰唇の縁をなぞるだけで愛液が止め処無く溢れ出て、太股に伝う。
エレンは深い所を嬲ると時々堪らなくなるのか、ビクビクと震えて快楽を逃すかのように上向いた。
プラチナ・ブロンドに変色した髪が宙を舞い、光を帯びて神秘的な広がりを見せる。
それは潤んだ紅い瞳、汗ばんだ柔肌とともに輝かんばかりの美しさを醸し出していた。
しこしこしこしこしこしこしこしこしこ…
「エレン様!ううっ…えれんさまぁっ!」
そのあまりの美しさにペニスを扱く手も激しくなるエルダー教授。
何も考えられず、快楽に身を任せることにより彼のペニスは隆々と勃ち上がる。
いやいや、それは若者に負けぬほどそそり立ち、遂には臍の下を打った。
霊子が四肢に漲る。
先程洩らした精の分を補填してなお余りある膨大な霊子が集積していく。
「ハァ、ハァ…んふ。随分出来上がってるじゃない?」
「おおぅ!おおぅううっ!」
もう噴出しそうに昂ぶり、霊子発射に向け無心に扱き立てる教授の手。
「聞いてんのかい、このサルッ!?」
げしっ!
エレンは怒り露わに顔を顰め、その扱き手を蹴り上げた。
「うひぃっ!」
あまりの痛みに顔を強張らせる教授。
エレンの振り上げる足が不意に彼の目の前で止まった。
それは彼を何時でも打ち据える位置にあり、彼女の濡れた股間の全てを露わにする。
教授は叩かれる恐怖と彼女の淫らな部位を見せつけられた悦びの入り混じった複雑な表情を浮かべ、その猿面を歪めた。
「このまままた洩らすつもり?霊子が消し飛んでしまうじゃないか、このオナニー爺ぃっ!?」
「ごごご、御免なさい。ゆゆ許して…」
泣き笑いの表情で土下座し、米搗き飛蝗のように頭を縦に振りたくる。
教授は床に額をゴリゴリと擦り付け、赦しを請うた。
「アンタぁ…アタシと犯りたいんだろ?」
「はいぃっ、はいいいっ!」
「なら霊子を摩羅に溜めて膨らましな!」
べしぃっ!
エレンは老人の後頭部を叩きそう言うと、振り上げた足をゆっくりと彼の頭に下した。
ぐいっ…ぐりぐり。
「はひぃっ!」
しこしこしこしこ…
後頭部をパンプスで踏み躙られながらペニスを扱き立てる無様な老人。
エレンはその姿に満足した笑みを浮かべると慇懃に言い放つ。
「ふふ…犯らせてやるよ、童貞ジジィ…」
げしぃっ!
「あおあぁぁぁっ…」
生徒に蹴倒され、教授は再び大の字に転がされた。
しかし、今の彼にはその痛みすら快楽…
涎を拭き零しながら喜悦の表情を見せた。
そそり立つ肉柱…
「フフ…アハハハッ!」
エレンは教授に嘲笑を浴びせながら彼の体に跨リ、勃起したペニスに狙いを定めるとゆっくりと腰を下ろしていく…
ずっ…ずにゅにゅにゅぅぅぅっ…
「あっへぇぇぇぇぇぇっ!」
その瞬間、齢七十に手を掛けたエルダー教授は童貞を失ったのであった。
嗚呼、まさに感動の一瞬!
老人の春満開!
ちぇりー・爺さんからの脱却!
すばらしぃーっ!?
「うっ!」
だがその至福の時間も長くは無い。
教授はエレンのヴァギナにペニスの半ばが埋没したところであっさり果ててしまう。
どぴゅっ…
「あっはぁっ…」
「おおおぉ…れ、霊子が…精気が吸い取られる?」
射精した瞬間、早漏教授の肉体から発せられた湯気に似た霊子は渦を巻き、エレンの下腹部に集約され…消えた。
「ふ…ふふふ…まだよ。まだ…まだ、吸い取れる!」
「あ、ああ…」
エレンの犬歯が目に見えて上下に伸びて牙となった。
着々と吸精鬼への獣化を果たす彼女にあの純情可憐な微笑は無い。
其処には愉老人のペニスをその陰に収め愉悦に溺れる妖婦の淫らな嘲笑のみ…
「ふ、うふふ…エルダー教授、ほんと…あのジジイによく似ているわ。あの私をレイプした糞ジジィに…」
「ひ…ひ…」
激しく腰を打ち振るうエレンは忌々しげに掃き捨てるようにそう言い放つ。
「何が霊子学協会総理事?何が最高学府の名誉教授?…実際はロリコンのスケベジジイじゃない。曾孫をレイプしておいてあのジジイ何て言ったと思う?『霊術師の事始』だと嘲笑いながら犯したのよ?だけど…私が霊子を吸い取った時のあの顔ったら…フフ」
「ま、まひゃか…」
舌が強張り、呂律が回らない。
混濁した意識の中、教授はエレンの言葉を理解するように努めた。
彼女の曽祖父を殺害した悪の霊術士とは…?
あの事件から既に十年か経っており、彼女はまだ○学生位の筈だ。
そんないたいけな時期に…かつ敬愛する曽祖父にレイプされての処女喪失…
彼女の傷心は想像を絶する。
「殺してやった…霊気を吸い尽くして…」
エレンは妖艶な笑みを浮かべて曽祖父の殺害を認めた。
何たる才能…それは彼女が幼くして霊子の吸引の無限とも言える容量を持っていた事を示す。
その時ですら吸霊鬼と化さなかったのはその器の大きさに拠るところが多いのだろう。
しかし、器が大きければ大きいほどそれを満たす為の霊子は膨大な物になる。
満たさねば、器は反発するように縮小し、霊子の欠乏により急激に死に至る。
彼女が下法に手を染めたのは生きる為…
だが、器の萎縮は予想を越えて早かったのだろう。
霊子は器を満たし、過剰に摂取した霊子に中った彼女は…
「でも、エルダー教授は好きよ?」
…吸霊鬼と化す。
「ヒッ…ひぃぃっ…」
エレンの恋の告白にもエルダー教授は恐怖のあまり顔を歪めるしかない。
声も出せない。
身動きも適わない。
「ふ…うふふ…全部“食べて”あげる」
エレンは怯えるエルダー教授の最後の火を消し去る為に深い口付けをした。
「お…うぶぉっ…うっ、むぶぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
精気が吸い取られる。
見る間に乾涸びて行くエルダー教授の肉体…
(私は…私は…何なのだ?)
最後の時…エルダー教授の脳裏に浮かんだのは一つの疑問だった。
彼女は…曽祖父のことが好きだったのだろう。
犯され、裏切られながらも忘れられない。
彼女の告白も、彼女と性交に至った理由も全てエレンの曽祖父に対する想いから出たものであり、エルダー教授への直接の感情ではない。
面差しの似たエルダー教授は彼女の曽祖父の影でしかないのだ。
自分の魅力だなどと自惚れてはいなかったが、今正に命を落とす時に浮かんだ疑問は自分自身の存在意義だった。
「が、ぐがぁっ!」
…ずんっ!
「あうっ!な…なんなのこの爺ぃっ!?」
エルダー教授はエレンから僅かばかりの精気を取り戻し、挿入されたままの肉柱に集中する。
対するエレンは死んだと思った老人の突然の激しい抜き差しに驚きを隠せない。
「ううっ!ふぬぅっ!ふぬぅっ!」
ずんっ!ずにゅっ!ずんっ!
「あっ…やっ…いや…ぁん」
教授は死にもの狂いで腰を打ち上げ、エレンの股間を突き上げる。
ずぶぅんっ!
「ん…あっ…あぁん!」
快楽の絶叫を上げるエレン。
老人にあるまじく、膨張したペニスが彼女の膣奥を叩く。
内に溜めた霊子がまたもやエルダー教授の体に流れ込もうとする。
「フヒッ、フヒィッ…」
「こ、この…死に損ないっ!」
一瞬軽い絶頂を迎えそうになったエレンは膣を締め付け応戦する。
キュッ、キュッ…
「ひぃっ!いひゃぁぁぁっ!」
その締まり熱い肉壁の感触に教授は激しく首を振って悶えた。
幸いそれにより腰の突き上げに微妙な捻りが加えられ、エレンを苛む。
「あっ…あっ、あっ…アッ!?」
霊子が渦を巻き、二人の体を循環する。
吸い取り、吸い取られ、命の綱の引き合いは微妙な均衡の下、張り詰めていた。
いつまでも続くかと思われた二人の霊子の循環。しかし…終焉は突如訪れた。
「あっ…あっ、くぅっ!」
ぎゅっ!
切羽詰ったエレンが藁をも掴むように教授の持ち上がった陰膿を後ろ手にぎゅっ!と力を込め鷲掴んだのだ。
「ギャンッ!?」
その握り潰される痛みと搾り出されるような嗜虐の悦楽、エレンのしなやかな指の撫ぜる感触、視界に映る彼女の苦楽の表情…全ての感覚が脳髄を焼き切り、我慢の臨界を超えた。
ずびゅびゅぶぶびゅ、ぶびゅびゅびゅぅぅぅ…
「うっ、うぐほぉおっ!」
「あっ、はぁっ、あぁぁぁっ!」
何処にこれほどの精液が残っていたのか?
エルダー教授は信じられないほど大量のスペルマをエレンの膣奥で噴き上げた。
「うっ…がはぁっ!ヒュー、ヒューッ…」
教授は断末魔の射精をした直後、心臓を抑えて急に苦しみ出し、口をパクパクとさせて空気を取り込もうとするが適わず、そのまま動かなくなってしまう。
彼は既に脳内でも血管が破裂し、脳卒中をも併発していたのだ。
エルダー教授は…こと切れた。
美少女の腹上死ならぬ腹下死ではあるし、いささか不名誉ではあるが、男の幸せな最期であることに変わりは無い。
彼の死により霊子の流れはエレンに向き、彼女はその全てを受け止め、息を吐いた。
「はぁっ、はぁっ…あ、危なかった…もう少しでイッちゃう…ところだった」
額に快楽の名残の熱い汗を流しながらエレンは心の中で冷汗を拭う。
実際、ほんの紙一重の差で絶頂を免れたのだった。
もし絶頂したとしてもエルダー教授のに肉体は既に限界を越えていた。
練り上げられた大量の霊子を受け止める器は元より無かったのだから。
ペッ!
「この…糞爺…」
エレンは最後に蛋白質の砂と化したエルダー教授の遺体に苦々しげに唾を吐き掛け、深く床に写った己の影に魔界の住人と化したその身を溶かして消え失せる。
エルダー教授の最後の反抗は失敗に終わったかに見えた。
しかし…
翌朝、エルダー教授の遺体(?)は講義に現れない事を不信に思った学生らの知らせにより訪れたケルン助教授によって発見される。
その遺体は原形を留めておらず、人型に砂状の塵が積もっているだけであった。
素人では分別付かなかったであろうその遺体は霊子技術講義を持つエリィ講師により分析が行われ、遺留品として残されていた総入れ歯と心臓病の為に彼が常用していた添付薬ニトロダームTTSパッチ等が証拠となり、エルダー教授本人と確認される。
その死様は十数年前に起こった霊子学協会理事長殺害事件に酷似しており、その当時震撼させた証拠を塵ほども残さず遺体を食い尽くす陰惨な殺害方法や、その正体が全く闇に包まれていた事もあって、童話に出てくる伝説的吸霊女アリスティアの仕業とされた。
それから十ヶ月余りの間に同様の猟奇殺人が連続して起こり、巷を恐怖に陥れる。
日に一人ずつ、被害者実に311名…
ただ一人生き残った少年が目撃したのはアリスティアもかくやと思わせる銀髪紅目の美女…しかし、その腹部は大きく膨らみ、まるで妊婦のようだったと言う。
哀れな童貞老人の最後の反抗…意地と己が存在を賭して放った渾身の一撃は美貌の吸霊女の胎内に芽吹いたのだ…
(終)