(玄白胎動編のあらすじ

ドレアム戦記

第二編 朱青風雲編 第1話

 朱雀地方の西北西に位置する都市デゲム。この都市を経済の面で牛耳る悪辣非道な大富豪の館の宝物庫が、盗賊に襲われた。しかし、襲われたことが分かったのは翌日の昼近くであり、盗賊の手掛かりは残っていなかった。
「へへん。ちょろいちょろい。この『紅の疾風』シャオン様にかかれば、あんな館なんて楽勝よ・・・」
 デゲムの南の原野を走りながら、シャオンは一人呟いていた。原野とはいえ、低い潅木がそこらにあって、身を隠しながら進むには絶好のコースである。シャオンの後方には、昨晩忍び込んだデゲムの外壁が遠く小さく見えていた。
「うん、ここまでくれば大丈夫ね。ちょっと一休みしよ」
 シャオンは辺りの気配を確かめると、近くの倒木を見つけ、腰を降ろした。そうして、腰の皮袋の中身を取り出して確認する。
 皮袋の中身は、大富豪の館から盗み出してきた宝石と小さな赤い珠だった。一緒に盗んだ金銀財宝は仲間に預け、デゲムを出てから分散してアジトで合流する手筈になっている。
 シャオンは宝石には目もくれず、赤い珠を指で摘むと自分の目の高さまで摘み上げて、眺める。そのうちに、顔全体に笑みを浮かべて、その珠を自分の左手首に着けているバンドで支えられた、丁度腕時計のような形の金属製の台座に空いた穴に取り付けた。珠は始めからそこにあったかのようにぴたりと填まる。
「よし。これで6つ」
 台座には、同様な赤い珠が6個取り付けられていた。残った穴の数は3個。中央の穴を囲むようにして8個の小穴があり、そのうちの6箇所が赤い珠で埋まっている。中央の穴は他よりも倍くらい大きい。
 シャオンは左腕を軽く振るって小声で呟く。と、左手首の台座から炎が生まれ、その炎が一塊に纏まって女性の人型を作り出した。
「シャオン。用も無いのに呼び出すのはやめてください」
「ごめ〜ん。でも、6つめの珠が入ったんだ。どう、フレイア?力が付いた?」
 シャオンは友達とでも話すように、火の精霊フレイアと話していた。それもそのはず、シャオンの物心ついた時には左手首の台座は彼女の傍にあったのだ。母親の形見と知って身に着けるようになったのは少女時代だった。そしてある時、偶然か必然か、フレイアが呼び出された。それ以降、火の精霊フレイアは幼い彼女の遊び相手、幼馴染ともいえる存在だったのである。
そして、シャオンはフレイアの力になりたいと願い、台座の赤い珠を捜すようになった。最初は赤い珠は2個しかついていなかったが、盗賊家業の中で少しずつ珠は溜まっていき今に至っている。
「まったく・・・。でも、ありがとう。力が漲る感じがします」
 シャオンが笑顔になった。赤毛の髪を男の子のようにショートにしているが、少し小柄ではあるものの胸の膨らみと腰のくびれ、パンと張ったお尻という身体のラインは間違いなく女の色香を醸し出している。緋色の瞳には生命力が溢れ、強い陽射しで浅黒く焼けた肌にはみずみずしい張りがあった。
「よおっし、じゃあ、帰ろう!」
 シャオンは再び走り始めた。

 廃市ノベン。朱雀地方で十数年前から発生した内乱とその後のセントアース皇太子ハデス率いる制圧の過程で領主を失い廃された都市。
元々、朱雀地方はサウスヒート王家とそれを支える12の諸侯による連立体制で国土を保っていた。諸侯の力はその時代によって多少の大小はあり、それぞれ敵味方の勢力に分かれたこともあったが、それが2者、3者に分かれても全体的には均衡を保っており、それを統べる王家が微妙なバランスを取ることにより長年の平和が保たれていた。
 その均衡が崩れたのは、後に酷王という悪名を送られたサウスヒート王ジュダムの治世に起因した。ジュダム王は諸侯の全てに対して人質を王都に寄越すことを強要し、反抗するものは武力を持って叩きのめした。そればかりか、国民の税を重くして、殆どの国民が生きていくのが精一杯という状況にするほどの搾取を行い、自分とその一族、周囲の限られた貴族達だけで華美絢爛な生活を送っていた。
 この状況に対して、ジュダム王の叔父で諸侯の中で最有力である都市セプトのトレド大公が苦言を呈したが、逆に反逆罪を糾弾されて処刑されてしまい、同時に大公に同調した大臣たちも粛清され、王に逆らうものがいなくなった。そして、それを嵩に来た王はますます増長し、ついにはトレド大公亡き後の都市セプトを併合しようとしたのである。その時、大公の息子であるフィール公爵は父親の後を継いで都市を治めていたが、ジュダム王の理不尽な要求に追い詰められ、止むに止まれず武力蜂起を行った。
サウスヒート王家はセプトの反乱を軽い気持ちで鎮圧しようと試みたが、意に反してフィール公爵率いるセプト軍は強かった。セプト攻めの初戦を敗退し、体制を立て直した後の都市郊外での決戦でも敗勢に追い込まれた王国軍には、かつての統治者としての威厳はもう損なわれていたように見えた。
その後、フィール公爵に同調した近隣の2都市も加わって戦乱が拡大し、王国の斜陽を感じ取ったのか、他の諸侯までもが王家簒奪を図って名乗りを上げることとなった。所謂群雄割拠の時代である。
 戦乱は十数年に及び、公爵から大公になったフィールがジュダム王を倒して父親の敵を取った後も納まらなかった。なぜなら、新王即位の数日後にフィール新王は暗殺されてしまったのだ。フィール新王には一人娘がいたが、幼い頃に行方不明になっていたため跡継ぎがなく、結果としてサウスヒートの血筋は残っていなかった。
王家は没落し、諸侯入乱れての王位簒奪の戦いが再び始まった。だがそれは、セントアース皇太子ハデスの登場と共に潰えることとなる。群雄達はあるものは戦いに没し、あるものは滅ぼされ、あるものはハデスの旗下に身を投じた。その中で4つの都市が支配者を失ったことに端を発して放棄され、廃市と呼ばれた。それは、政治的な拠点としての価値を失ったということを意味していたが、市民は別の都市に移る者と破壊された残骸の中で生活を続ける者に分かれた。その差は経済的な理由が主ではあったが。貧困な者達は、別の都市に行って生活する手段を見出せなかったのである。
 そして、廃市はまた、光の当たらない場所で生きていく者達にとって、格好の身を潜める場所にもなっていた。こうして、廃市は徐々に悪党共のたまり場へと変貌していったのである。
 シャオンはノベンの町中をゆっくりと歩いていた。町の南東、崩れた館の中に彼女が所属する盗賊団『紅の旅団』のアジトがある。シャオンはアジトに向かって回り道をしながら進んでいた。こうするのは、尾行の有無を確認するためである。廃市の中で生活する輩は多かれ少なかれ脛に傷をもつ連中なのだ。
 アジトの近くに来ると、馬のいななきが聞こえた。そっと覗くと、兵士達の姿が見える。
「ちぇっ、討伐隊か」
 廃市の治安は悪い。故に、時折近隣の都市から討伐隊がやって来て犯罪者達を捕えていくこともあった。シャオンは仕方なくアジトとは別の建物の中に身を潜める。いつもなら、夕方まで待てば奴らはいなくなるので、それまでの辛抱と決めていた。
 夕闇が辺りを押し包む頃、ようやく静かになったのを確認し、シャオンはアジトの入口をくぐった。
<えっ、何・・・>
 アジトの中に入った瞬間、むせ返るような臭いがシャオンに降り注いだ。それは、知ってはいたが一番嗅ぎたくない臭い。
<血の臭い・・・>
 シャオンは、急いで中に入っていった。地下への階段を降りて一番奥の部屋を目指す。その途中で視界に入った何人かの倒れた姿には目もくれず、ひたすら目指す。
ガシャ!
「親父!」
 扉を開け放ち、いつもの『なんだ、騒々しい・・・』という一言を期待する。が、期待は絶望に変わった。シャオンの目前に、椅子に腰掛けたままで絶命している男の姿が映る。男の喉は真一文字に切り裂かれ、流れ出た血が胸を真っ赤に染めていた。
「お、や、じ・・・、うそだろ・・・」
 シャオンは唖然としてその場に立ち尽くしていた。『紅の旅団』と言えば、朱雀地方で有名を馳せた大盗賊団なのである。その本拠が襲われてあっさり壊滅するなどとは、到底考えられない。
 シャオンは涙を流しながら父の骸に近寄った。本当の親子ではない。シャオンが赤ん坊の時に『紅の旅団』の副団長だった父と実の母が一緒になってからの関係である。母は、どこからか攫われてきて、そのまま副団長と大恋愛の末に結ばれたと聞いていたが、シャオンが5才の時に病気で亡くなっていた。その後シャオンは団長になった父に実の親子以上に大事に育てられたのだ。
 普通は盗んで覚えるべき盗賊の技は全て教えてもらえたし、元々の素質もあったのだろう、十代のうちに『紅の疾風』という通り名が付くほどの腕の持ち主になっていた。それもこれも、父親あってのことだった。
「親父・・・」
 シャオンは見開かれたままの父親の目蓋をそっと閉じた。無念さが体内を駆け巡り、それはいつしか怒りに変化していった。
<ちっくしょう!>
 拳で机を殴りつける。
 涙を拭いながらシャオンは父親の周りを探索した。『紅の旅団』を壊滅させた敵の僅かな手掛かりも見逃さないように。
<あった!>
 それは、親指の頭くらいの小さな半透明の珠だった。魔法の道具で、記憶の珠と呼ばれるものである。元々は透明な珠なのだが、そこに何かが記録されると濁ったような色に変わる。父親のズボンのポケットから出てきたそれは、間違いなく何かの記録を残している。
 シャオンは珠を手に取ると左手首の台座の空いた場所に珠をはめ込む。そして、フレイアを召喚した。
「シャオン。記憶の珠の真実が知りたいのですね。では、お話ししましょう・・・」
 フレイアは少し悲しげな表情をしながらシャオンに語り始めた。

<ちくしょう!何で、こんなことに・・・>
 シャオンは森の中を疾走していた。その後ろから4本足の魔物が追い駆けてくる。元は人間だったその魔物は、人間だった時の心を完全に魔物に喰われたか、血に飢えた本能のみでシャオンをその手にかけようと迫ってくる。
「くっ!」
 シャオンは魔物が相手の射程圏内に入ったと感じた途端に、走るコースを90度替えて横に跳んだ。そのまま着地すると振り返って魔法を唱える。
「ガアァァァァァ!」
 魔物はシャオンの急な動きに1歩出遅れて曲がり損ねた。動きが緩慢になるその隙を狙って『火尖』が発動し、火のクナイが何本も魔物に命中した。
「フレイア!」
 シャオンの声に応えるように左手首の台座から火の精霊が飛び出し、魔物を貫く。魔物は身体を裂かれて絶命した。
「ふう・・・。次の追っ手が来る前に、行かなきゃ・・・」
 シャオンは再び走り出した。こうなった原因を考えながら。
フレイアから敵がオクタスに新しく入った領主の討伐隊だと知り、せめて一矢報いてやろうと忍び込んだ。そこまではよかったが、父親を惨殺した相手である片目の隊長を見つけ、そいつが持っていた父母の形見の指輪を見つけ、取り返えすと心に決めて実行し指輪は取り返した。だが、最後に見つかってしまい、その時に驚愕の事実、相手が人間ではないことを知ったのだ。
片目の隊長は全身から刃物を生やした姿となって襲って来た。人間相手ならまだしも、魔物相手に闘う気力を失ってしまったシャオンは逃げ出すしかなく、全速力でオクタスから脱出した。
 しかし、意外にも敵はシャオンを追ったのである。片目の隊長以下、全員が魔物というメンバーで。シャオンはいつものように原野の潅木に紛れながら逃げたが、今回は相手が魔物、執拗な追跡はシャオンの命を何度も危機に陥れる程だった。それを、持ち前の機転と、フレイアの力で何とか凌ぎながらひたすら逃げる。
 休む間も無い逃亡は、いつしかシャオンの感覚を奪っていた。それに気付いたのは、森の奥深くで自分の位置が分からなくなった時だった。
<ここは・・・>
 シャオンは自分が迷ったことを悟った。幸い、追跡者の手からは逃れられたようで、オクタスからここまでの間、背中をぞくぞくと刺されるような感覚が薄れていた。
「どうやら、迷ったみたい・・・」
 シャオンはいつものようにフレイアを呼び出す。
「フレイア。ちょっと偵察をお願い。連中が近くにいないかと、ここがどの辺かを。あっとそれから、この近くに休めるところがあるかも・・・」
「わかりました。待っていてください」
 フレイアは炎の身体を宙に浮かすと、飛ぶようにその場を離れた。

 イェスゲンの『結調和』によって、ジロー達7名は無事に朱雀地方への転送を終えていた。但し、イェスゲンの使っていた樹海の杖のレプリカについていた宝石が割れてしまい、杖はその役割を終えてしまった。やはり、レプリカで森の上級魔法を使うのは無理があったようだ。
「レプリカは壊れてしまいましたが、中級魔法までなら使えます。それに、森の神殿に行けば本物がありますから大丈夫です。でも、その前に火の神殿に行かなければなりませんが」
 イェスゲンは淡々とそう告げて、杖が役目を終えたのはそういう宿命だったのですと諭す様に語ったので、ジロー達はそれ以上何も言えなかった。
 ジロー達が出現した場所は、朱雀地方の南西、海岸近くの漁師小屋だった。イェスゲンの話によれば、別の世界のイェスゲンが宿っている人物の家だという。だが、この世界では、小屋の住人は居ないのか、うっすらと埃が積もっていた。
 ジロー達は小屋を掃除し、当面の住処とすることにした。本当ならば直接火の神殿に向かいたいところだが、朱雀地方の情勢がいったいどうなっているのか、分からない状態で動くのは得策ではないと判断したのである。
 火の神殿は、大地の神殿や月の神殿のように場所が明らかになっている神殿の一つであり、その支配権には当然王家が介在しているものと思われていた。しかし、サウスヒート王家は戦乱の中で滅ぼされ、神殿の支配権がどうなっているのかは未知なのだ。
 それから、魔界の侵攻の手が、この朱雀地方でどう広がっているのかも確認しなければならない。王家が安定していた玄武地方でさえ魔物が入り込んでいる時勢である。戦乱によって疲弊した朱雀地方は、より魔物の力が入りやすい状態にある筈なのだ。
と、言い訳のような理由を並べたが、実は小屋を住処にした最大の理由があった。
 埃の積もった小屋の中から外に出た瞬間、目の前に広がる景色に心を奪われたのだ。
「ねえねえ、お姉さまぁ。水がどこまでも広がっていますぅ。すっご〜いぃ!」
 レイリアがアイラに向かってはしゃぎながらしゃべった。
「凄いわね・・・」
 なぜか絶句しているアイラの横でミスズが呟く。
「ジロー様、海です。私、見るのは初めてです・・・」
 ルナはそれが何かを知っていた。さすが王女といったところか。
「これが・・・、海・・・」
 ユキナも目前に広がる海に圧倒されていた。
「ええ、海です。ジロー様はご存知なのですね」
 イェスゲンの問いかけにジローは軽く頷いた。元居た世界で海水浴は何度も行ったことがある。しかし、目前に広がる海の色は、青く澄んでいて、どこかの離島で見た海とそっくりだった。
 ジローが何気なくアイラを見た時、アイラの目から一筋の涙が流れているのを見てしまった。何故か声をかけられずにいたが、アイラがそんなジローに気付いて顔を拭って笑いながら話しかけてきた。
「ちぇ、見られちゃったか。何でだろう、初めて見るのに懐かしいような気がしちゃった」
 ちょっと照れながら、口調はいつものアイラだった。そのままジローに口付けする。ジローもそれに応えてアイラの背に手を廻して抱きしめた。何故か、抱きしめなければいけない気がしたのだ。

 朱雀地方は亜熱帯とも言える気候で、玄武地方と比べるとかなり熱く陽射しも強かった。情報収集を兼ねて小屋に住み始めたジロー達に一番堪えたのは、この昼に行動する気をなくさせる太陽の陽射しと暑さだった。
 故に、彼らの行動は朝と夕方以降に限定され、昼間は小屋の周辺で休憩するというリズムが自然となっていった。
 今は午後。昼食を終えたジロー達は、海水浴を楽しんでいた。小屋から少し歩いて岩場に空いた洞窟を通り抜けると、白砂の上に岩場が点在する入り江に辿り着く。そこは波も静かで絶好の穴場といえた。
「あん。ご主人さまぁ〜」
 レイリアがジローの上で快楽の声をあげていた。2人の下半身は波の下に沈んでいた。海水の冷たさが暑さの晒された身体を心地よく冷やしてたが、肉棒を咥え込んだレイリアの膣内は熱く火照っていた。
 陽射しが強いために上は着けたままだったが、その下に両手を入れてレイリアの形の整った乳房を揉む。なめらかな絹のような、それでいて吸い付く肌の感触を思う存分味わうと、レイリアが幼さに似つかない妖艶な微笑を浮かべる。同時に、ジローの肉棒を包んでいた膣全体が別の生き物のように蠢き、快感を送り込んできた。
「ジロー様。とっても気持ちよさそうな顔してます・・・」
 ルナがうっとりと云った。胸と腰に布を巻いているが布の面積が小さすぎて下乳がはみ出ているのが妙に色っぽい。
 ルナの横ではミスズとユキナが泳いでいた。2人共長めのシャツだけという姿で、水から半身を出すと、シャツが透けて胸と乳首の形がはっきりとわかった。
 レイリアから送り込まれる快感に蕩けそうになりながら、ジローは射精を堪えるため、ルナを呼んで口付けを交わす。ルナは、両手でジローの顔を包み込んで、情熱的なディープキスを仕掛けてくる。
「ご主人さまぁ〜、気持ちいい、ですかぁ〜。レイリアも、とっても、いぃ・・・、でぇ、すぅ・・・」
 レイリアも相当感じている。ジローが執拗に乳首を弄っているのがじわじわと効いてきているのだ。ジローは両手を下に滑らせ、レイリアの腰を掴むと、両手と腰を使ってレイリアにピストン攻撃を見舞う。海水の中で軽くなったレイリアの身体は、ジローの思うがままに上下に揺さぶられ、それが膣壁を抉るように肉棒で擦られて快感が倍加していく。
「あっ、あっ、それ、い、いぃぃ・・・、ですぅ。き、気持ち・・・、い、いっ・・・」
 レイリアのテンションが上がる。
「いっ、いくぅぅぅぅぅぅぅ・・・」
 レイリアの膣が思いっきり締め付けられた。これにはジローは耐えられず、大量の精液を膣内に放った。
「ん、ふ、んんんぅぅぅぅ・・・」
 ルナが同時に果てた。ジローと口経由でシンクロしていたため、射精の快感が自分の快感に変換されたのだ。海水の中なので判らないが、大量の愛液が流れる触感がルナをぞくぞくと震わせていた。
 肩で息をしているルナとレイリア。ジローは2人の腰を抱き寄せて、両手で抱えるようにしてキスを繰り返した。と、2人のイク声を聞きつけたのか、ミスズとユキナが傍に来ていた。
「もう、そんな声出されたら我慢できなくなっちゃうじゃないですか・・・」
「あ、あのぅ・・・。私にも・・・」
 ミスズは拗ねたように口を尖らせながら、ユキナは恥ずかしげに小さな声でそう言うと、濡れて素肌に張り付いた、乳房の形まではっきりわかるシャツの裾を持ってお腹の辺りまで捲り上げる。そこには、海水とは明らかに違うぬるぬるの液体が内側を膝まで伝って光っていた。
「ジロー様。私達もお願いします・・・」
 ジローは頷くと快感の余韻に浸っているレイリアを持ち上げて結合を解いた。熱い膣内から冷たい海水に晒された肉棒が新たな刺激で震える。そして、近づいてきたミスズを抱き寄せると、そのまま新たな温もりを求めて肉棒を埋め込んだ。
「あぁぁぁぁ・・・、い、いぃぃぃぃ・・・」
「相変わらず感度いいな、ミスズ」
「は、はいぃ、ありがとう、ございますぅぅ・・・」
 ジローの肉棒の刺激に、軽く登り詰めたミスズであった。横ではルナがレイリアとキスをしている。互いの両手は直接乳を揉みほぐしているようで、再び快楽の吐息が漏れ始めていた。
 濡れた黒髪を振り乱して、ミスズはジローに命ぜられるままに腰を振っていた。その間ジローはユキナの小ぶりな胸にしゃぶり付いていた。シャツを捲り上げて直接乳首を口に含み、舐めては軽く噛み付いたりする。
「あ、あああっんぅ、はぁ、あ、あん」
「あぁぁぁぁ、うあぁぁぁ・・・、はぁぁぁぁぁん」
 ユキナとミスズの声が重なるように響く。ジローは左手をユキナの股間に持って行き、2本の指を膣口に侵入させた。ユキナの膣内は十分すぎるほど愛液を潤滑させ、ジローの指を逃がすまいと締めるように蠢いていた。
「くっ、そろそろ・・・」
「は、はいぃぃぃ・・・、くださいぃ・・・」
 ミスズが絶頂すると共に膣がぐっと締まる。同時に肉棒の先から精液が爆ぜるように膣内から子宮口までを満たす。
「あっ、あっ、はぁうぅぅぅぅん・・・」
 射精の刺激で続けざまに登り詰めたミスズが脱力したようにジローの方に顔を乗せる。呼吸が荒くなっている感触が肌を介してジローに伝わってくる。
 ジローはミスズが落ち着くまで彼女の黒髪を撫でていた。それが気持ちいいのかミスズはますます顔を埋めて余韻に浸っている。
 ジローはそのままの状態でユキナをみた。ユキナの顔は上気して、眼は淫蕩な憂いを湛えている。だが、ミスズが終わるまでもじもじしながらも律儀に待っているというのもユキナらしい。
 ジローはミスズが落ち着いたのを感じ取ると、ユキナに向かって云った。
「ユキナ、待たせたな・・・」
「ああぁんっ、はっ、はいっ・・・」
 ユキナがミスズと交代した。銀髪が陽の光を浴びてきらきらと光っていた。

 イェスゲンとアイラは別行動を取っていた。ジロー達と海水浴には行かずに、近くにある漁村マリを訪れていたのだ。
 マリは漁村といっても海岸沿いの集落では一番大きく、漁業を生業とした者達の活気が溢れていた筈だった。しかし、2人が訪れたとき、そこには何とも云えない暗鬱な空気が漂い、村の中で出会う人々も元気がなく、異様な雰囲気を感じざるを得なかった。
「イェスゲン。話とはだいぶ違うみたいだね」
「え、ええ・・・」
 アイラの問いかけに困惑気味に答えながら、イェスゲンは通りを市場方向に歩いていった。そこはマリで一番活気がある場所であり、獲れ立ての魚介類に集まった人々でいつも賑わっている筈だった。
「市場が閉まっています・・・」
 イェスゲンはありえないというように頭を振りながら、人っ気のない市場の中に入っていった。そこは、いつもならそこいら中に積み上げてある魚の籠が空のまま無造作に積み上げられ、綺麗に磨かれていた床にはうっすらと埃が積もっていた。
「いったい・・・」
「漁が行われていない感じだね。それも一日二日じゃなく。何かあったのか、聞いてみたらわかるかもしれないよ」
 アイラは市場の中を見回し、隅の方で床を磨いていた女を見つけるとつかつかと近寄っていった。
「こんにちは」
 アイラの呼びかけにちょっとびっくりしたような表情を見せた若い女は、すぐに挨拶を返して来た。
「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど」
 アイラとイェスゲンがロゼというその若い女から聞いたことは、最近漁場で遭難する船が相次いでいるため、漁が出来なくなってしまったということだった。ただ、遭難するといっても別段海が荒れているとか云うものではなく、船に乗っている漁師達が全員行方不明になってしまうというものだった。船は無傷で浮かんでいるのに、漁師達だけが消えてなくなるという事件が連続したのだそうだ。
 不可解な事件を調べるため、村で調査団を結成して漁場へ向かったが、彼らもまた船だけを残していなくなってしまい、それ以後誰も船を出さなくなったのだ。その中にはロゼの夫もいたという。
「ふうん。何か怪しい気がするね。イェスゲン・・・?」
 イェスゲンは青ざめた顔をして押し黙っていた。アイラはロゼにお礼と励ましの言葉を言ってイェスゲンの手をとり市場の外、漁港の方に引っ張っていった。そして、堤防の段差に腰を降ろすとイェスゲンの落ち着くのを待った。
「イェスゲン。どうしたの?何か心当たりがあるのかい・・・」
 アイラの問いかけに、イェスゲンは重い口を僅かに開き、一言だけ口にした。
「水生魔物・・・」

 水生魔物。それは前回、ドレアムを破滅の危機に陥れた張本人だった。水の近くでしか生きられないという欠点はあるものの、ぶよぶよとしたその触手は生半可な刃物など受け付けないぬめりを持ち、なおかつその触手を人間の女性の体内に挿入することによって魔物の眷属として使役することが出来る。人間の男は彼らの食料となり、体内に取り込まれてゆっくり溶かされていく。水生魔物が大量に発生した前回の危機の時には、このようにして水辺で生活していた人類の殆どが滅ぼされてしまったのだ。
「でも、クロウ様やイェスゲン達が滅ぼしたんだろ?」
「はい・・・。クロウ様の力で地上の水生魔物は殲滅した筈ですが、深海で生き延びたものがいたのかもしれません」
「それが、今出てきたということ?」
 イェスゲンは頷いた。というか、そうとしか信じられない状況が今起きているということがイェスゲンの心を占めていた。
「きゃあぁぁぁぁぁぁ・・・」
 そのとき、堤防の反対側で悲鳴が響いた。咄嗟に2人がそこに行くと、ロゼが触手に襲われ、何とか逃れようとしていたところだった。
アイラはナイフを抜くと、炎の力を付与させロゼの元に近づく。
触手はロゼの足に届きそうなくらいに伸びていた。ロゼの足を捕まえて海に引きずり込もうとしている。だが、アイラの方が早かった。ナイフを触手に振るって撃退する。
「ちっ、やっぱ水性か。火の力では不利だねえ・・・」
 触手にはアイラのナイフが付けた傷があったが、深いものではなかった。アイラの感覚ではざっくりと半分くらいは斬ったつもりだったのだが。
「ロゼ。早く逃げな!」
 襲われたショックで茫然自失しているロゼにそう言って微笑むと、ロゼの瞳に生気が戻ってきたのがわかった。ロゼはアイラの背中に頷くと、市場の方角に駆け出していった。
 入れ替わりに近づいたのがイェスゲンであった。片手には宝玉を失った杖を持っている。
「『雷矢』!」
 呪文と共に、電撃の矢が触手に命中する。当たった部分は黒く焦げ、触手は悶絶して動きが遅くなる。
 アイラはイェスゲンの応援に感謝しながら、左手の腕輪から大地の盾を発動した。
「火はだめでも、土ならどうっ!」
 そう云うなり、大地の盾を触手の上から叩き下ろす。すると、触手は大地の盾によって見事に切断された。
 触手が海に引っ込むのを見たアイラとイェスゲンはすぐに堤防を駆けた。水生魔物にとって海はホームグラウンド、引きずり込まれたら一巻の終わり。少しでも有利な陸に誘うしか対抗する手はないのだ。
 切断された触手とは別の触手がすぐに海面から出現した。その時はもう、2人は市場の前に戻っていたのである。
 そして、騒ぎを聞きつけた村の人々も集まりつつあった。
「なんだなんだ」
「何だありゃ・・・」
「でっかい烏賊か?」
 触手は、2本、3本と海面から伸び、堤防の上をのたくっていた。
 水生魔物の本体が水から出る。その姿は巨大なクラゲだった。触手の数は7本、その内の1本は途中で切断されていたが、残りの6本をぐにゃぐにゃと動かして村人達の方へ近寄ってくる。
「皆さん。逃げてください!」
 イェスゲンが村人達に叫ぶ。だが、意に反して村人達の殆どがその場で水生魔物の姿に見とれていた。信じられない物を見た衝撃で固まってしまったのだ。
 アイラは大地の盾を振るって触手を弾いた。しかし、他の触手が村人を捕え、引きずるように持っていくのを静止できなかった。
 ここまで来て、ようやく村人達は逃げるという行動を取り始めた。が、一部の漁師達は獲物を持って果敢に触手と戦い始める。だが、天秤棒や鈎などではぬめる触手にダメージは与えられなかった。
 イェスゲンの『雷矢』とアイラの大地の盾が唯一有効な攻撃手段であるのは間違いなかった。アイラは既に2本の触手を分断し、イェスゲンは1本を焦げだらけにして使用不能に追い込んでいた。だか、その間に2人の村人が水生魔物に取り込まれていた。
 イェスゲンは、本体に向かって『雷矢』を放った。しかし、触手よりも防御力が高いのかたいして効いたようには見えない。
「アイラさん。今は触手を撃退してください」
「わかった」
 アイラは大地の盾を使って触手を千切っていた。残りは1本。と、その1本はするすると逃げるように離れて行き、本体と共に海に沈んで行った。

「で、一躍ヒロインに祭り上げられているのか」
 ジローが片手にカップを持ちながら中の酒をぐびっと呑む。横ではルナもご相伴とばかりになみなみと注いだ酒をおいしそうに呑んでいた。
 水生魔物を撃退した反動か、市場の前の広場にテーブルと椅子を並べて盛大な飲み会が始まっていた。重く沈んでいた村に久々に活気が溢れている。アイラとイェスゲンは村を救ってくれた英雄扱いで、中央の席で盛んに接待を受けている。特に、最初に助けられたロゼが命の恩人であるアイラにぞっこんとなり、少し顔を赤らめながら酒を間断なく注いでいた。
「でも、おかげで村に招かれたのですから、よかったですね」
 ミスズが横でそう云った。彼女もまた酒を呑んでいる。ジローやルナのようにぐびぐびとではないが。
「ご主人さまぁ〜。このお魚美味しいですぅ」
 レイリアとユキナは酒ではなくジュースを飲みながら料理をついばんでいた。
「ジロー様。水生魔物はどうしましょうか」
 ルナの問いかけに、ジローはカップをテーブルに置いた。
「イェスゲンの話では、アイラが切断した触手は再生するそうだ。触手を女性の中に入れたときは自分で切るみたいだしな。それに、どうやらまだ幼体だったらしい」
「では、成体が他にいるのでしょうか」
「わからない。だが、そうあってもおかしくない」
 ジローは噛み締めるように呟いた。そして、手元の酒を仰ぐ。
「また、来るのでしょうか」
 ユキナが話しに加わる。
「ああ、多分な。その時は、本体をやっつけよう」
「そうですね。お姉さまの話だと水生魔物は水性だということなので、ジロー様のノームを付与すれば効果的だと思います」
 ミスズの言葉にジローも頷く。
「それに多分、封印の武具なら効くだろう。白虎の神殿の特訓の効果が出せるな」
「は、はい」
 ユキナが頷いた。その眼には自信という炎が浮かんでいた。

 ジローの予想通り、それはやって来た。
 漁港の沖にぽかりと小山が浮かび、その小山がずんずんと漁港に近づく。小山の大きさは小型の漁船位で、港の中で停止すると、その周りにも小さなものが3つ浮かんできた。
 漁村マリの人々は、アイラとイェスゲンを英雄と讃え、2人の云うことには耳を傾けてくれた。それ故に、今港に浮かんでいる物体が、危険なもの−水生魔物−であることを理解し、直ぐに港から退避してジロー達と共に居る2人の元に知らせに走ったのである。
 ジロー達は水生魔物が再度襲撃した時を想定して対策を立てていた。対策と言っても、水生魔物を陸に引きずり込んで戦うための場所を拵えて、村人達に被害が及ばないように非難する場所を決めただけだったが。
 水生魔物は陸も歩ける巨大クラゲと考えると理解しやすい。その触手を体内に送り込んで支配した女性を使って、海岸付近に近寄る人間を捕食するという程度の知能は持ち合わせているが、あまり複雑なことは考えられないらしく、どちらかというと本能的である。
 水生魔物は腹が減っていた。最近までは、海の上に獲物の方から来てくれたのだが、最近はぱったりと来なくなってしまった。幼体の一つが海岸付近に獲物が居ることを発見して多少は得ることが出来たのだか、傷つけられた触手を癒したらもう腹ぺこだった。
 水生魔物は海面から港の上に本体を現した。よく見ると、幼体と本体がまるで植物のように太い根のようなもので繋がっている。本体の触手の数は20本、幼体は7本が2体と12本が1体。身体の大きさは優に市場の屋根を越えていた。
「でかいな・・・」
「はい。今まで見た中でも大きい方の部類に入ります」
 イェスゲンの返事に軽く頷くと。ジローは自分達の周りを見た。市場の前の大広場、丁度この前盛大な飲み会を行った場所である。周りにはなにもない。そう、障害物になりそうなものは全て撤去していた。死角からの触手の攻撃を察知するために。
「みんな、準備はいいか」
 ジローの問いかけに全員が頷く。前衛にジロー、アイラ、ミスズ、ユキナ、後衛がルナ、レイリア、イェスゲン、ルナとイェスゲンが『障壁』で死角からの攻撃を防ぎ、レイリアは風の魔法を使ってサポートする。
 ジローの刀は『授与』でノーム本体を付与していた。アイラのナイフもノーム本体ではないが土の力を付与していた。
「ご主人様〜。お役に立ててうれしいですぅ」
 ノームはそう云いながら刀に宿ったのだったが。
 その頃水生魔物は、やっとのことで獲物を見つけた。支配対象が6体と捕食対象が1体。空腹感が本能を刺激し、ずるずるとぬめる身体をのたくらせて獲物に近寄り、触手を伸ばす。
「来たぞ!」
 ジローは本体から延び来た触手を軽くステップしてかわすと横から刀で斬りつけた。一刀両断、通常の刃物を受け付けない筈の触手が切り口も鮮やかに落とされた。
左側ではアイラが大地の盾とナイフを巧みに操りながら触手を戦闘不能に陥らせている。その奥では爆音とともに触手が千切れていた。白虎鎗から繰り出された風の塊が触手そのものを破壊したのであろう。
ジローの右手では、玄武坤が華麗に空を舞い、幼体の繰り出す12本の触手を縦横無尽に切り裂いていた。
「ご主人さま、危ないですぅ!」
 左右に気を取られている隙に別の触手が近づいてきていた。その触手がジローに届く前に、ジローの横を2筋の気配が通り抜け、触手の先端がスパッと切り裂かれて勢いが怯む。ジローの刀がその隙を見逃すはずなく、2本の触手は先端を切断されて無効化された。
「レイリア。ありがとう」
 ジローは背中を向けたまま。軽く左手上げた。その姿をみたレイリアはにっこりと微笑む。そして、次の相手を探し始めた。レイリアの術は風の上位魔法『真空波』。その名の通り真空の波が刃となって直線上の相手を切り裂く。白虎の神殿の訓練で新たに発動したものだった。
 ジローは『時流』と『鬼眼』が発動していた。本体と幼体併せて10本以上の触手が戦闘不能になり、怒った水生魔物が同時に何本もの触手で襲い掛かってきたのである。で、一番多く相手にすることになったのが正面にいるジローだった。
 7本の触手が上下左右を囲むようにジローを襲う。しかし、ジローはおとなしくその場で待つことなどはせずに、半歩踏み出して左下の触手を切ると、反転して上からの2本、左から来る触手を身体を捻っていなしながらもう半歩右前へ、下から構えた刀を上に向かって振り上げて下側と右側の触手を切断、右足を狙った右下の触手を摺り足で避けながら左側の触手を落とし、最後に反転して右下を切る。
 『鬼眼』の発動により、意識をしなくても自分の周囲にある防御圏に入ってくる敵は察知可能となり、これを流れるように捌くジローの剣技は冴えに冴えていた。その勢いのまま本体に向かっていく。
 水生魔物は本体の半分以上の触手を失っていた。そればかりか、幼体の一つは身体に大きな穴が穿かれ、もう一つも全ての触手を戦闘不能にされている。残った12本足の幼体も身体のあちこちを切り裂かれ、触手も僅かに2本を残すだけになっていた。だが、獲物を得ないうちに逃げるということは水生魔物の思考には無いようだった。
「アイラお姉さま、気をつけて、本体がきます」
 ユキナの声が届いたとき、アイラは大地の盾で幼体の本体を受け止めていたところだった。かなりの衝撃がアイラを襲う。多分水性に有利な土性の恩恵がなければ吹き飛ばされたのはアイラのほうだったであろう。
「んぅぅぅ」
 切断された触手がハンマーのようにアイラを叩こうとしていた。見える範囲は右手のナイフで対応できたが、死角である後ろと上から1本ずつ触手が近づいてきていた。そのまま、アイラに打撃を繰り出す。
 だが、触手の目論見は達成できなかった。アイラの背中側をルナが、頭の上をイェスゲンがそれぞれ『障壁』で守ったのである。
 そして、駆けつけたユキナが白虎鎗を振るい、本体に大穴を開けられた幼体は起死回生の一手を道半ばで挫折したのであった。
 ミスズは2枚の玄武坤を次々と投げていた。その軌道は千差万別で、どうやったら再び彼女の手の中に戻るのか不思議でしょうがない様な動きもあった。しかし、まるで見えない糸でも付いているかのように玄武坤はミスズの両手と幼体の間を自由闊達に動き、その度に幼体の触手や本体に新たな傷が刻み込まれていった。そしてそれは、成体と繋がった根の部分を両断し、幼体の活動が停止するまで続いたのだった。
 残るは成体のみ。ジローはその後も触手を切り裂きながら本体に近づいていった。相手の大きさはジローの優に3倍以上はあるが、『時流』を発動したジローにとっては触手を階段代わりに昇っていくことなど余裕だった。そしてそのまま水生魔物の天蓋部分に刀を振り下ろす。
 だが、そこに水生魔物の最後の反撃が隠されていたことをジロー達は知らなかった。水生魔物は中央から破裂するように両断されたが、その時身体の中から大量の体液がジローに浴びせられた。薄い半透明な水色の体液は、返り血のようにジローの顔、手、身体、足に降り注いだ。
 水生魔物が完全に活動を停止したことを確認したジローは、顔についた体液を手で拭い、愛嬢達のもとへ歩いて戻っていく。
「何とか倒せたな。みんな、ご苦労様・・・」
 そう言って笑った後で、突然ジローは倒れた。
「「ジロー様!」」
 愛嬢達全員が叫んだ声を聞いたのがジローの意識が消える直前の出来事だった。


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