冥皇計画
第6話「征馬長影」
「もう一度、こんな幸せな日が来るなんて・・・思わなかった・・。」
マージェは喜びの涙を零しながら、リリアを胸に抱き、ベットで呟いた。
「私もだ・・・・夢なら覚めないで欲しい・・・」
寝息を立てていた筈のリリアが、いつの間にか目を覚ましていて、後を続けた。
300年ぶりの逢瀬に激しく求めあった後、彼女は眠ってしまっていたのだ。
「夢ではありませんよ、リリア様。」
慈愛に満ちた微笑みをリリアに向けながら、マージェは一糸まとわぬ裸身を起した。
その彼女の体中にはリリアの歯形とキスマークが、くっきりと付いていた。
「私はこの痛みで、夢じゃないって何度も確認しましたから。」
マージェはその褐色の肌にもくっきりと見える、歯形をひとつひとつを愛しげに指でなぞりながら悪戯ぽく微笑んだ。
「ごめんなさいっ!ごめんなさい!」
リリアも白い裸身をおこすと、叱られた子供のように悄然しながら 何度も素直に頭をさげた。それを見たマージェはクスクスと笑う。
「人が一生懸命謝っているのに、なんで笑うのだ!」
リリアが文句をいうと、さらにマージェはクスクスと笑いながら
「ずっとずっと昔にも、こんな会話をしましたね。それがとても嬉しくって。」
そしてマージェはリリアを抱き寄せると、愛しげに頬ずりした。
「マージェ・・・もうひとつ謝りたいことがあるんだ。」
リリアが躊躇いながら深刻そう言うと
「エメリア様のことでしょう?」
図星と言わんばかりにリリアが頷く、マージェは愛くるしい仕草で小首を傾げながら
「ずっと、不思議だったんですが、何故エメリア様を私だと思ったんですか?」
その質問にリリアは狼狽した様子で、気まずそうに下を向いていた。
「私は直接会ったことがないので、なんとも言えないですが、前世の私と同じ黒い髪と瞳に、白い肌の人なのは肖像画で知ってましたけど。まさか・・・それだけで??。」
リリアは激しくかぶりを振ると、俯きながら観念したように呟いた
「メルヴィンにどことなく似ていたし・・・その・・・彼女の沐浴を覗いた時に、左胸に紋章をみたんだ・・冥皇の。だから・・」
「冥皇の紋章を見たのですか!ということは・・・エメリア様も転生者なんですね。」
嫉妬に小さく胸が痛んだが、自分たち以外に転生者がいることに喜びも感じた。
そしてふと、早朝にニウスに戻った時、門衛の神官戦士に聞いた報告を思い出した。
エメリアが教団を脱退し、旅の向かう途中でこのニウスに来ており、金髪の小柄な少年を連れていたこと。温厚な人柄で知られる聖女が、リリアに少年を侮辱されて激高して剣まで抜いたこと。彼女はその時「身も心も捧げたと」言ったこと。
マージェは思い至った。転生者である自分たちが全てを投げ打ってもでも、護るべき人物・・・。
その金髪の少年は「冥皇リシア」その人ではないだろうか・・・・と。
慈悲深く聡明で、全ての種族が平等に暮らせる理想郷を建設した、エルギシアの最期の皇子にして、理想郷エリュシアの偉大なる冥皇リシア。
冥皇はこの世界への侵略者であるはず魔族ですら受け入れ、平等に遇した。
だからこそ、冥皇の造った尊い理想郷を守る為、彼に心酔した全ての種族、国々、果ては彼の元に集った魔神、魔族達すら全てが、一命を擲って戦ったのだ。
彼ら魔族達も元々この世界の出身であったが、光神ユーロフの時代にこの世界を追放され、永遠に彷徨える民となっていた。彼らは故郷であるこの世界に還ることを永遠に望み、何度もこの世界を侵略してきていた。しかし、大規模な侵略を何度繰り返しても、その都度撃退され願いを成就することが出来なかった。冥皇はその永遠の願いを、それも平和裡にかなえ、彼らに土地とこの世界に生きる権利を与えた。
30万を超えるという魔族達全部がそれに従った訳ではなかったが、それでも数万の魔族達が彼の元に集まり、永遠の希求を叶えてくれた冥皇に忠誠を誓った。
その後、冥皇が戦死し理想郷が灰燼に帰しても、彼らの神である「死せるエルギュデス」よりも冥皇リシアの遺徳で、それを懐しみ、今だにその配下を自称する魔族も多い。
今では一部の魔族達にとって、冥皇リシアは神そのものであった。
マージェの前世も、3皇子の敵対国であった七王国の一つ、当時のロザリアの女王エーヴェリアの娘メルヴィントリス姫であった。
当時の彼女もまた冥皇の理想に共鳴し、故国をたった一人で抜け出し、多くのヒト族の諸侯と共に冥皇に味方した。
彼女はそこで冥皇の騎士ミストレルと出逢い、彼女と永遠の愛を誓った。
そしてメルヴィントリスは最期の戦いで首に矢を受けて戦死したが、冥皇の宝杖の力によって転生し、300年後再びミストレルと出会い、愛を交わすことができたのだ。
出口のない深い闇を抜け出したような清々しい感情が、マージェの心に沸いた。
「リリア様・・・その金髪の少年は冥皇リシア様の転生された姿ではありませんか?」
彼女が口では疑問であるように言ったが、心の中では確信に身を震わせながら言うと
「たしかにそうかもしれない・・・明るい金髪に澄んだ蒼い瞳。私の知っている冥皇様は美しい青年であったが、少年時代の冥皇様はああだったのかもしれないな・・・・。」
昔を変わらぬリリアの素朴さに 、思わず微笑みが漏れてしまったが、マージェは勢いよく立ち上がると、リリアの剣を拾いあげ、彼女手渡しながら口づけをして
「街にいって確かめてきます!」
そう言うと、手早く鎧を身につけて、部屋から飛び出していってしまった。
ぽつんと一人取り残されたリリアは、愛剣を抱えながら部屋の惨状を見回し、自分でバラバラにした鎧に目を留めると頬杖をつき、ため息混じりに言った。
「鎧・・・どうしよう・・・・・・・・・・・・・・。」
部屋を飛び出したマージェはまず、ニウス唯一の宿屋を訪ねた。
彼女が宿屋の主人に話を聞くと、たしかに聖女とその連れである2名を泊めたという。
さらに問いただすと、連れの一人は「千里眼のリディア」という近在では有名な女魔導師で、もう一人はその弟子らしいリシュアという名前の少年だったと教えてくれた。
マージェは詳しい話を宿屋の従業員達にも聞いてみた。
一人一人に話を聞くと、女給仕の一人が立ち聞きした話を教えてくれた。
聖女一行にダークエルフの2人組が、決闘を申し込んでいるような口振りで話しかけていたという、 だが余りにも穏やかな口調であったので、給仕の少女には深刻な話に聞こえなかったので、気にもとめなかったと言った。
たしかに、教団の英雄である聖女に決闘を申し込むなど、ここの領民なら狂気の沙汰だと思うに違いないが、だがマージェの脳裏に一つの疑念が沸いた。
「魔皇ラグナの刺客ならどうであろうか?」
300年前の戦いの経緯と現在のラグナの行動から推理すると、冥皇を殺そうとする可能性は十分にある。
まるで統治に対する考え方が違い、前回の戦いでは味方もせず、自分のもつ魔剣に対抗できる強力なアーティファクトを持つ弟を、非情な性格のラグナなら危険だと見なさない筈がないからだ。現に前世でも何度か冥皇は、ラグナの配下らしい刺客に襲われている。
当時も確信はあったが、ラグナが放った刺客かどうか証拠を掴めなかったのだが。
「冥皇様の身に、危険が迫っているのかもしれない。」
出発時に三人が武装していた話を聞いた瞬間、マージェは直感的にそう結論づけたが、聖女達の行く先が皆目判らない以上、危険かどうか確認しようがなかった。
もし刺客がラグナ自身ないしその直属の配下であった場合、それなりのまとまった人数であるはずで、如何に武勇の誉れ高い聖女といえども、十重二十重に囲まれれば彼女達だけでは、冥皇を守りきれるかどうかマージェには判らなかった。
さらに彼女達を見送った大勢の人の証言だと南に向かったようだが、ニウスの南城門からは旧帝国街道にぬける道と、隣国のメルアディス王国に向かう道があり、目的地がわからない以上、どちらに向かったかも判断がつかない。
早朝に出発したらしいので、すでにもう少なくとも6時間は経っている。
仮に3人組が夜間も移動する強行軍であった場合、追いつくのはほとんど無理といっていいが、通常の旅の速度で街道に添って宿をとりながらゆくのなら、こちらが夜半までに出発できれば、旧帝国街道側ならシェラディウム、メルアディス側ならモルトリアで追いつける可能性が高い。
「私たちの愛を救ってくれた冥皇様を、お助けしなければ!」
そう心に決めた彼女は馬を走らせ、街路を疾駆しながら、ニウスの住民に叫んでまわった。
「聖女様の行方を知っている者は居ないか!!」
マージェの声を聞きつけた神官戦士達が集まってきては、口々に聖女に何が起こったのか尋ねてくる。
彼女は持ち場に最低限の人数を残し、守備隊全部に練兵場に集まるように彼らに命令すると、ニウスの主要な街路全てをを同じように叫んでまわった。住民達もマージェのただならぬ様子に、次々を戸口を飛び出してきて、辺りは騒然となってきた。
「聖女様の行方を知ってる者は居ないか!!!」
マージェが集まってきた住民にさらに大きな声で叫ぶと、一人の老婆がマージェの前に、よろめきながら飛び出してきた。
老婆はマージェの名前を呼ぶとその場に座り込んだ。
マージェは馬を飛び降り老婆の元に駆け寄ると、行方を知っているか訊ねた、すると老婆は両手でシェレイドの聖印を胸に抱きながら、祈るようにして語った。
「手前がこの国より去らないでくれと懇願致しましたら、聖女様はシェレイド神の祝福の言葉を手前ごときの為に耳元で囁いて下さって、その後、連れの金髪の少年をお指しになり、デル=アザモン王国のイズドマルクで、その少年の妻として余生を過ごしたいと、穏やかないいお顔で、言っておいででした。」
「聖女様の命を狙うものがいて、是非とも行方を突き止めなければならないのです。」
マージェの切迫した言葉に驚愕し、目を丸くした老婆は聖印をさらに強く握りしめると
「250年も領民の為に尽くしてくれた聖女様が、唯一人の女としての幸せをお求めになるのを、誰が邪魔することができましょうや。今年、齢80のただの村女の手前ですら、孫や曾孫に囲まれて幸せに暮らしているというのに・・・・。」
老婆は大粒の涙を流しながら祈りの言葉を唱え、聖女を救って欲しいと懇願した、マージェは優しく老婆を抱きしめると耳元で囁いた。
「お婆さんありがとう。必ずや聖女様をお救い致しますから、安心してください。」
周りで話を聞いていた住民達も、口々に自分たちもマージェに助勢したいと申し出てくれたが、一刻を争うので連れて行けないとはっきり断った。
住民達は不満そうであったが、守備隊長リリア自ら出陣すると説明すると、渋々納得してくれた。彼女の武名がこんな所で役に立つとはと、心の中で微笑するのを堪えながらマージェは練兵場へ向かった。
彼女が練兵場に着くと、守備隊300名のうちの270名ほどが集まっていた。
神官戦士達はマージェの姿を見ると、拳を振り上げ口々に叫び出す。
「ヒューヴァ!ガーダァ!シェレーダ!!」
マージェが演説台にあがり手で制すると、叫びは止んで皆が彼女に注目する。
「シェレイドの加護厚き戦友達よ、皆静かに聞いてください。知ってる者もいるかと思いますが、イスタリアの聖女エメリア様が、我らが教団を脱退されました。その理由は魔皇ラグナの野望を打ち砕く為に立ち上がられたからです。しかし我らの聖母にして最高神官ディヴィア様がエメリア様と意見を異にしたため、エメリア様はやむなく、たった二人の同志とその戦いを始めました。だがそれを知った魔皇ラグナが、我らの聖女様を亡き者にしようと刺客を放ってきたのです。そこで私は助勢するために、これから聖女様達を追いかけます!」
神官戦士達は魔皇ラグナと聞いて、沈黙した。
「守備隊長のリリア様の許しを頂いて来ますので、少しお待ちください。」
マージェはそう言い放つと演説台を飛び降り、城塞の中に駆け込んで行った。
残された神官戦士達は騒然となった。心情的にはマージェに従って行きたいが、聖女エメリアに助勢すれば教団を破門される恐れがあるからだ。
彼らの多くは、戦場での聖女の武勇と神々しさを間近に目撃したことがあって、聖女に熱狂的といえる敬意と、神霊に対する畏怖のような感情をもっていた。
彼女の数万の味方全部に祝福を与える強大な法力や、全身に矢を浴びても瞬時に回復する治癒能力、鬼神のようなリスタニア教団の狂戦士を次々と屠る武勇、平時には信仰や種族に関係なく傷病者を治療する慈愛深き聖女は、戦場の女神でもあったからだ。
騒然とした中、一人の巨漢の神官騎士が前に進み出た。巨漢の多い神官戦士の中でも一際大きな250cmはあろうかという壮年の大男で、禿頭で岩を削りだしたような無骨な顔と巨木の幹のような勇壮な体躯をしていた。彼は丸太のような太い腕を振り上げ、破鐘のような大音声で叫んだ。
「おのおの方!!迷うことはござらぬ!神官戦士たるもの、徒らに教団を破門されることを恐れていては士魂さえも失うこととなろう!!」
彼はその言葉を聞いても立ち上がらない同朋達に憤怒を覚え、太い一筆で描いたような眉をいからせ、手にした巨大な戦槌を振り上げると、さらに叫ぶ
「我らが教団の先人達も300年前に魔皇ラグナと血戦し、この豊かな安住の地を手に入れたり!よもや其れをお忘れではあるまいな!?魔皇ラグナは我らが神シェレイドの宿敵!これは聖戦ぞ!!!」
しかし巨漢の神官騎士が聖戦を口にしても、誰一人立ち上がることはなかった。
多くの者が自分達を見捨てて教団を抜けた聖女に、個人差はあったが、大なり小なりの失望を感じていたし、小競り合いの続いている隣国のリスタニア教団との、全面戦争を間近に予感していたからだ。
300年前全世界を相手に戦ったとはいえ、現在大陸西部に小さな領地をもつだけの魔皇ラグナより、一騎当千の化物揃いのリスタニア人達の脅威のほうが、切実だと彼らは考えていた。すなわち、自分たちの領地に直接害を与えるリスタニア教団と戦うほうが遙かに意味があり、聖女エメリアのラグナとわざわざ戦いに行くという考えが理解できなかったのだ。
しかし実際には小競り合いを仕掛け、リスタニア教団の荘園を略奪したり、リスタニア教団の中枢を占めるリスタニア人達を迫害しているのは、シェレイド教団の方であったのだが。
「清貧と勇猛で知られたシェレイド神官戦士団の士魂も!地に墜ちたかっ!!!」
彼は吐き捨てるように絶叫すると、甲冑を身につけるため自宅に足を向けた。
150年間、教団に第5神聖騎士団長として仕え、その実状をよく知っていたこの巨漢の神官騎士クリンベルク卿には、堕落した教団になどなんの未練もなかった。彼は先年引退を申し出て、ニウスに軍務官として妻と共に来たが、教団の現在の有り様にずっと失望と憤りを感じていた。
「お待ち下さい!クリンベルク卿!!」
一人の長身の美青年が彼の前に立ちはだかった。
「紋章官殿、最早話すことはござらん。我が輩は大義の何たるかを知らぬ者共と、話す舌を持たぬ!」
クリンベルクは左手で紋章官を押しのけたが、彼は不自由な足を引きずりながらも、巨漢の神官騎士に尚もすがりついた。
「わたくしもお連れ下さい!」
紋章官ザルツァ卿は、7年前の戦いで投石機の石弾の直撃を受け、左の足を半ばから失っていた。それまでは女性とみまがうような華麗な美貌と剣技で、諸国に名のしれた騎士であったが、足が不自由ではその剣技も輝きを失い、教団では位は高いが、引退前の騎士やなんらかの理由で前線に立つことのできない騎士が着く、紋章官の地位に甘んじていた。
「クリンベルク卿!私に死に場所をお与え下さい!!」
クリンベルクは軽薄に見えるこの男が好きではなかったが、この必死な言葉聞くと反対することが、出来なくなってしまった。彼は黙ってザルツァの肩を叩くと大きく頷いた。
ザルツァは感謝の言葉を言い頭をたれると、クリンベルクと同じように武装するために砦のなかの自室に向かって、不自由な足を引きずりながら歩いていった。
マージェがリリアの自室に辿り着くと、彼女は自分でバラバラにした鎧を繋げる為に格闘中だった。
彼女が引きちぎったのは、甲冑を装着するときに締める皮ベルトや金具の部分であったが、締め金具が歪んだり破損したりしていた。
元来不器用なリリアには、マージェが戻って来た時には数カ所しか修理できておらず、悪戦苦闘している最中だった。マージェがただいまというと、リリアが抱きついてきて
「手伝って・・・・。」
と子供のように甘えてきた、彼女は頷くとリリアを座らせ、てきぱきと修理を始める。
「リリア様、街でいろいろ話を聞いた結果、冥皇様が危険な状態にある可能性が高いです、イズドマルクに向かっているようですので、今日中に出発できれば、追いつくことが可能かもしれません。」
マージェが手早く修理しながら話をすると、リリアはすることが無くなってしまったので、ベットの上で胡座をかきながら聞いていたが、リリアには話が今ひとつ飲み込めず、他人事のように頷いているだけだった。
「リリア様!!話ちゃんと聞いてくださってますか!!?」
マージェが鼻が触れ合いそうな程、顔を近づけて来て凄む、リリアが思わず反射的に軽く口づけると、彼女が顔を真っ赤にして怒り出した。
「真面目に話を聞いて下さい!!!」
マージェが怒りに任せてリリアの右頬に平手打ちを見舞う。
乾いた音が部屋に響き、リリアは頬を押さえながらベットの隅で縮こまる。
メルヴィントリスの時ですら、リリアはマージェに手をあげられたことが無かったので、パニックになっていた。今まで怒ったマージェを前世も含めて、数度しか見たことが無かったし、自分に怒りを向けて来たのが初めてだったからだ。
「わたしの夫で世界一の気高い騎士である筈の人が、妻の魂を救ってくれた恩人で、剣を捧げて忠誠を誓った筈の御主君が危機に遭っているかもしれないのに、裸でのほほんとしている・・・・情けない・なんと情けないことでしょう・・・・・!!!。」
マージェは悔し涙を流しながら、リリアを更に睨み付けると、
「其処に座りなさい!!」
強い怒気を含んだ声でマージェが命令する、リリアはあまりのことで震えながら命令通り正座して、マージェの顔を恐る恐る見上げると、彼女は目に涙をためながらリリアを睨み付けていた。
「では聞きます・・。」
今まで聞いたことの無いような、冷たい声音でマージェが言う。
リリアはその冷たい声に傷つき、胸に言いようのない痛みを感じた。
「わたしは貴方のなんですか?」
更に冷たい声でマージェが問いかけてくる、何故こんなひどい質問をするのか訳が分からず、リリアはポロポロと涙を流しながら答える。
「世界で一番大事な人です・・・・・妻です・・・」
涙で視界が霞んで、マージェの表情が判らなかったが、リリアは心の痛みとは違う、嬉しいような悲しいような感覚に襲われていた。
すると今度は嘲りを含んだような、更に冷たい言葉で質問された、
「その大事な人を、転生させてくれたヒトは誰かしら?」
何時もと違う冷たい口調の言葉に、不思議な陶酔感に浸りながらリリアが即答する。
「冥皇様です・・・・彼が冥皇の宝杖の力を使って転生させてくれました・・・・」
少しの沈黙の後、また質問されたが、今度は少しだけ優しい声のような気がした
「その冥皇様は今、どうしてるの?」
ずっと全裸のままだったが体の芯に火照りを感じて、その焦燥感のようなものに苛まれ、自分を抱きしめるようにしながらリリアは答える。
「イズドマルクへ向かう道のどこかで、魔皇ラグナの手下に追跡されています・・・」
そう答えると、すぐに次の質問が来た
「では、騎士リリアはどうするの?」
リリアは俯きながらであったが、今度は澱みなくはっきりと答えた。
「すぐに追いかけて、ご主君の冥皇様をお守りします!」
そう言い終えるかどうかの内に、マージェが飛び付くように抱きついてきた
「それでこそ私の騎士!、それでこそ私のミストレル!!」
マージェと熱いキスを何度か交わした後、リリアは小声でマージェに囁く
「マージェ・・・その・・・わたし・・・今すごく濡れちゃってて・・・いい?」
マージェがリリアの股間に目を向けると、彼女の引き締まった腹部の下のブロンドの淡い繁みが、ねっとりと絡み合って濡れ光り、座っていたあたりのシーツには大きな染みができていた。
「いつもより凄い・・・・でもどうしちゃったの?」
マージェが頬を赤らめながら、不思議そうに聞くと
「わかんない・・・でも・・マージェに苛められたら興奮してきちゃって・・・・」
「わたしに苛められると興奮しちゃうんだ・・・リリアってこんなにえっちだった?」
リリアは赤面し目を背けながら、足をM字型に開き自分の左手の指で女陰を広げた、未発達の花弁がのぞき、さらにそれが白い糸をひきながら広がると、とろりとした愛液がながれだし、女騎士の緋色の肉底と膣口が露わになった。
マージェは自分のは散々広げて見る癖に、普段は恥ずかしがってなかなか見せてくれないリリアが、このようなことをすることにちょっと驚いたが、
「皆が待ってるから、少しだけならいいですよ、どうして欲しいの?」
それを聞いたリリアは、さらに興奮したらしく息を荒げ腰をくねらせながら、今度は右手の指で花弁の合わせ目に隆起している粒肉を、左手の指で女陰を広げたまま、付け根からほじるように撫であげ始めた、それをマージェが何もせず凝視していると、リリアが自分で包皮を捲り、綺麗なピンク色のクリトリスを露出させると、右手の中指と薬指で挟んだり撫で上げるようにしながら自分で慰め始めると、とても切なげな声で哀願した。
「ねぇ・・・マージェ・・・・いつもよりずっと乱暴にしていいから・・・早く・・・・・・・歯立ててもいいから・・・・・お願い・・・。」
マージェも普段より遙かに妖艶なリリアにドキドキしてきて、リリアの手を乱暴に退け、彼女の足をさらに開かせると、むしゃぶりつくようにして女陰に愛撫を始めた。
いつもは音を立てないようにしてする口唇奉仕も、今日のマージェはわざと音をたてて舐めあげている。
「メルヴィン・・・・・リリアのクリトリスもっと苛めて・・・・」
リリアがそう言うと、マージェはリリアの肉豆を舌で激しく転がしながら、時々強く吸ったりした、彼女が強く吸われる度に、可愛い声をあげるのでマージェもいつしか夢中になって奉仕してしまった。
マージェは夢中で愛撫しながら、リリアが歯を立ててもいいと言ったことを思い出し、少しクリトリスに歯を立ててみると、彼女は大きくのけぞり腰をガクガクとさせたと思うと絶頂に達して、女陰から愛液の飛沫を飛ばしマージェの顔を濡らした。
絶頂に達したリリアはぐったりとして荒い呼吸をしていたが、すぐに起きあがると、マージェに何度もキスをしてきて。
うっとりとした表情で
「次にするときもリリアを苛めてね・・・・。」
と言ったが、マージェは苦笑いするしかなかった。
そうこうしてるうちに、二人は皆を待たせていることをようやく思い出して、慌ててリリアに鎧を着けさせると、練兵場にあたふたと向かった。
二人が練兵場に着いてみると、そこには4人しか居なかった。
ニウス神殿の高神官アフロスと紋章官ザルツァ卿、軍務官クリンベルク卿とその妻で闇長耳族のシルヴェールの4人だった。
「他の者は任務にもどしました。」
女神官アフロスは事務的にいうと、腕を組んでため息を漏らした。
「ニウス守備隊の幹部が私以外全員出奔って、ワタシはどう言い訳すればいいので?」
本来、ひょうきんな性格のアフロスが、真剣なのかどうなのか解らない声音で文句を言う。
「全員で一筆書きますよ。それでディヴィア様には納得してもらましょうか。」
マージェがそう提案すると。アフロスは肩をすくめて首を振り
「ワタシも付いていっちゃおうかなぁ、そしたら怒られないで済むし〜。」
と言うと、リリアが言い切る。
「全部、私のせいにしろ、そうすればお咎めもあるまい。」
「当然、そうさせてもらいますけど〜?神殿クビになったら仕事世話してくださいよ〜。」
アフロスが弱気な発言をするが、顔は笑っていた。一方、その横ではザルツァがシェレイド教団最高神官ディヴィアへの手紙を書いていた。彼はすぐに書き終えるとそれを皆に見せながら言った。
「これに皆でサインを書けばいい筈です。」
クリンベルクが見ても見事な字で、出奔までの経緯が相手の感情に訴えるように切々と綴られていた。アフロス以外の全員がそれに署名して、彼女にそれを託した。
「大した才能だな。見事だ。」
クリンベルクをはじめ皆がザルツァの文章を褒めると、彼は赤面しながら恐縮し、優男的外見の割には、真面目で好人物だという印象を皆が持った。
マージェはクリンベルクの妻のシルヴェールを指さすと、クリンベルクに質問する。
「奥様も付いて来るんですか?」
「言い出したら聞かない女でな・・・・」
クリンベルクが弱りきった様子で言うと、彼の妻はニッコリと笑うと皆に魔法騎士だと優雅な仕草で自己紹介をし、微笑を浮かべながら目では夫を睨み付けると、
「死ぬまで一緒と私に言ったのは、まさか嘘では御座いませんよね!?」
と念を押した。夫は冷や汗をかきながら曖昧に答えるしかないようだった。
リリアもなんとなくクリンベルクに同情心が沸いて、苦笑しながら横で見ていた。、
彼女がふと気が付くとマージェの視線が痛かったが、リリアは小さな咳払いを一つして、
「聖女様達をお救いしに南に向かうぞ!!」
そう叫ぶとアフロス以外の全員が騎乗し、イズドマルクを目指して旅立った。
すでに夕暮れ時で傾き掛けた太陽は、隊列を組んだ5騎に長い影を作っていた。
(第7話へ) 現在の冥皇軍=8名