昼休み俺は学食から戻り、別にすることもなく窓の外の景色を眺めていた
「おい、相沢」
後ろの方から北川の声が聞こえる
「ん?どうした、北川?」
軽く視線を北川に移す
「いいブツが手に入ったんだが・・・」
小声で俺に話しか掛けた
「なんだよ。いいブツって?」
北川はキョロキョロと回りに人がいないことを確認すると
「ビデオ」
更に小声で早口に言った
「なに!!」
「それはもう、物凄い奴だぜ」
「今すぐ貸せ!!」
「おっと、タダってわけにはいかないぜ」
「・・・どうして欲しいんだ?」
「美坂の写真と交換だ」
「・・・は?香里の?」
「そうだ」
「そんなの、商店街でカメラ買ってきて自分で撮ればいいじゃないか」
俺は至極当然な風に言った
「それができたら苦労しねぇよっ!!」
少年よ、野望を抱け(修正版) 涼秋
いきなり立ち上がり拳を握り締めて涙を流しながら叫んだ
「できることなら美坂に肩を回しながら一緒に写って金の額縁に飾りたいさ。でもな、この前一緒に撮ろうっていったら香里の奴
『え、なんで北川君と一緒に写真撮らなくちゃいけないのよ?』
ってそりゃあもう、びっくりするくらいナチュラルにさらっと流されたんだよ!!」
思い出してか北川の背後には室内だというのに木枯らしがうねりをあげて舞っていた
哀れすぎるぞ・・・北川・・・
「で、でも学校行事の集合写真とかでも一応香里とお前一緒に写ってるじゃないか。」
「もちろん持ってるさ。ちゃんとハサミで編集済みだ。」
俺は以前、名雪に見せてもらった遠足の集合写真を思い出した
香里や名雪の写る一年前の写真
まだ俺が知らない頃のクラスメートと共にほんわかと写る名雪
その一番端で北川は誰もいない何かと肩を組むように写っていたのを思い出す
北川・・・お前・・・ある意味すごい勇者だな・・・
俺は一人薄暗い部屋でハサミ片手に自分と香里のマニュアル合成写真をいそいそと作成している目の前のクラスメートを想像した
ちなみに北川はしばらくの間『霊感少年・北川』と呼ばれていたらしい
「つまり、俺か名雪にお前と香里のツーショットの手助けをして欲しい、ということか?」
「その通りだ。相沢」
「断る」
俺はきっぱりと言い放った
「・・・・へ・・・?」
「断る、って言ったんだ」
「う、嘘だろ相沢」
北川は二つ返事でOKされるものと思っていたのだろうか、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした
確かにビデオは惜しいがリスクが高すぎる
香里は痴漢撃退用と称して懐に平気でメリケンサック(棘付き)を常備する女生徒だ
失敗したら命が冗談抜きで危ない
「とにかく俺は命を大事にしたいんだ」
「ば、馬鹿な・・・健全な男子高校生が『ビデオ』という神秘めいたキーワードに動じないなんて・・・」
北川は信じられないものを見たという風によろめいた
「悪いが諦めるんだな。相手が悪すぎる」
俺は諭すように北川に言った
「そうか・・・はは・・・そうだよな・・・」
力なく呟く北川
「せっかく、水瀬と一緒に見れるいいものなんだがな・・・
『凄い・・・・祐一・・・あんなことしちゃてるよ・・・』
とか言って濃密な時間を過ごしてもらうつもりだったんだが・・・仕方ないよな・・・」
裏声で名雪の真似をする北川
やがてガクッと肩を落としてトボトボと自分の席に戻って行く
そのとき俺の脳内では物凄い勢いで今の北川の台詞を処理していた
〜祐一の脳内〜
「名雪、実は北川から面白いビデオを借りたんだけど一緒に見ないか?」
「えっ、ビデオ?わぁ、一緒に見たいよ」
「じゃあ、二人きりで見ようぜ」
「どんなビデオなの?」
「北川の奴は感動するっていってたな」
「じゃあ、お母さんも誘ってこようかな」
「いや、二人きりで見ようぜ。映画館みたいに暗くしてさ」
俺は名雪の瞳を優しく見つめる
「えっ!!」
「そう。家の中でデートしようぜ。名雪」
「うーー、祐一、恥ずかしい事いってるよ」
「嫌か?名雪」
「ううん!!すっごく嬉しいよ、祐一♪」
暗くなった部屋でビデオをデッキに入れ、二人はベッドに座りながらリモコンの再生ボタンを押した
そして、不意に映し出される情熱的な映像
名雪は驚き真っ赤になりながら
「祐一、これって」
呟く様に名雪の口から非難の声が上がる
「北川の奴、間違えやがったな」
俺は驚いた風に北川の名前を出す
これで、名雪は俺も被害者と思い込んだだろう
「すごい・・・あんなこと・・・するんだ・・・」
真っ赤になりながらも画面を見つめる名雪
「どうした、名雪」
わざと耳元で囁く
「うにゅっ・・・祐一も・・・あんなことしたい?」
潤んだ瞳で見つめ合う
「祐一がしたいんだったら・・・いいよ?・・・」
月明かりが注す部屋
そして二人のシルエットはゆっくりと重なり合う
〜脳内演算終了〜(02秒)
これや、これでいかなあかん!!
最近、ご無沙汰だしな
「協力するぜ、北川」
席に戻ろうとした北川の頭の触覚をむんずと掴むと俺は言った
「え・・・でも命が惜しいんじゃなかったのか?」
北川の目はまだ絶望の色をしていた
「男子たるもの、時には命がけでなにかを成し遂げないといけない時があるんだ!!」
「相沢・・・分かってくれたのか」
みるみる内に北川の目に光が戻ってきた
「ああ、共に頑張ろうぜ」
そして俺たちは窓から明後日の方を指差し
『BoysBeAmbitious!!!』
「なにやってるのよ、あんたたち」
背後から誰かが大志を抱いて燃えている俺たちに声を掛けてくる
「なにってこれから香里の」
「あたしがどうかしたの?」
ってターゲット本人かよ!?
「ターゲット?」
名雪がほえほえっとした口調で聞いてきた
「心を読むな!!」
「声に出てたわよ」
「うぐぅ」
くっ、また例のアレが出てしまったようだ
「そうだ、名雪、ちょっと来てくれ」
俺は有無を言わさず名雪の手を掴んで廊下にでる
「相沢君、逃げたわね」
廊下の方を見てた香里だがくるっと北川に向き直った
「で、ターゲットとか聞こえたんだけど、どういうことなのかしら」
「いや、あはははは・・・・」
視線を逸らし乾いた笑いをするしかない北川
「そう、言いたく無いみたいね。」
にっこりと微笑むと右手にはいつの間にかアレが装備されていた
「美坂!?ちょと待て」
「問答無用♪」
廊下に避難した俺は教室からごりっと言う音が聞こえたような気がした
さて、本題に移ろう
「実は名雪に頼みたい事があるんだ」
俺は名雪を廊下に連れ出して声を小さくして言った
「えっ?祐一がわたしに頼みたいこと?」
「ああ、詳しくは家に帰ってから話すから」
「うん。わかったよ。でも珍しいよね、祐一がわたしにお願いなんて」
「そうか?はは、まぁ今回は名雪の協力が必要になると思うから頼むぞ。」
俺はそれだけ言うと教室に戻って行った
「うにゅ?」
名雪は頭の上に?を出していた
「相沢・・・・お前ひでぇよ」
北川は机に肘を立て半眼で睨んだ
「悪かったって、でも無事だったみたいだな
「これのどこが無事なんだよ」
くるりと顔をずらして俺に向き直った
「げ・・・」
北川はその・・・なんと言うか
左半分だけきれいにボコられていた
「・・・ほ、ほら、右側は無事だったんだから不幸中の幸い?っていうか凄みがでて男らしいぞ、北川」
俺は必死にフォローしようとした
「・・・そんなこと言ってていいのか?」
「え?」
「美坂の奴、『右側は相沢クンの為に残しとかなくちゃ♪』とか言ってたぞ・・・」
「え゛・・・」
俺は恐る恐る振り向くととっても素敵な笑顔をした破壊神がすでにそこにいた
「という訳だから相沢クン、隠すと為にならないわよ。」
なんかもうヤる気満々なんスけど・・・香里さん・・・
実際、なんか目が怪しい光を放ってて正直、メチャクチャ恐えぇ・・・
俺は産まれたばかりの子牛のようにプルプルと足を震わせたが名雪との明るい未来の為にも挫ける訳にはいかなかった
この局面を回避するには・・・
「わかったよ・・・死にたくないからな」
俺はふうっ、と溜息と共に言った
「おい、相沢っ!!お前!?」
驚愕の表情でガタっと立ち上がる北川
俺は香里に見えないようにして北川を手で制した
「実は・・・」
キリッと真剣な表情で香里を見つめる
「実はなによ?」
怪訝な表情で問い返す香里
「実は香里の写真を撮ろうとしてたんだ」
「・・・・・・・・・・」
「ちょっと!!なに無言でまたソレ装着してんの!?」
慌てて香里にストップをかける
「話を最後まで聞け!!」
「これ以上何を聞く必要があるのよ」
「つまり、俺と北川は校内一美人の美坂香里に校内新聞の一面を飾ってもらおうとしてだな」
「えっ?」
ピタっと拳が止まる
「実は新聞部の奴に校内一の美女の写真が欲しいって頼み込まれてだな、美女って言ったらそりゃあもう香里しかいないって事でつまりその・・・」
俺ってこんなに饒舌だったっけか?
生命の危機に瀕しとっさに舌の回転が良くなる
チラっと香里は北川の方に目をやると、北川もブンブンと頷いて見せる
「なーんだ、そんな事でコソコソとしてたの?。みっともないわね」
香里はほのかに頬を染め怒ったような表情をしたが否定はしなかった
「もう、やめてよね。恥ずかしいじゃない」
ぷいっと横を向く
「そんな事といわずに、ここは一つお願いします。香里様」
俺は手のひらを合わせ拝む
「そうそう、頼むよ。美坂」
北川も俺に習う
「仕方無いわね・・・盗撮されるのも嫌だし・・ほんの少しだけよ」
ようやく、香里の説得に成功した
うーん・・・上手くいったのはいいが、こりゃ後でちゃんと新聞部の奴らに事情説明しておかないと北川はいいとして俺まで
線香と共にセピア色の額縁写真にフェードインする事になるな
数時間後、水瀬家にある俺の自室
食事を済ませた俺はベッドの上で学校での出来事を思い出していた
すると
「祐一、入っていい?」
名雪が部屋にやってきた
「おう、いいぞ」
かちゃっと言う音と共に廊下のひんやりとした空気が流れ込む
「うー、ねむい・・・」
半纏を纏った名雪がボーっとした目で入ってきた
まだ9時前なのに名雪はもう寝る準備万全だ
「で、頼みたいことってなに?」
ストンと部屋にあるクッションに座る
「香里の写真のことなんだが・・・」
俺はベッドに腰掛けて昼間の出来事をもう一度、名雪に話す
名雪もあの後すぐに教室に入ってきたので俺たちのやり取りは一応、聞いていた<
「ああ、実は香里と北川を・・・って名雪?」
香里の名前が出た途端、名雪が視界から消えた
ふと、部屋を見渡すと名雪はいつの間にか部屋の隅に寄り、ひざを抱えてぼそっと言った
「香里って綺麗だもんね・・・」
蛍光灯の明かりが差す部屋の中なぜか名雪のまわりだけが暗かった
「あの・・・名雪?」
「なんてったって校内一の美女だもんね・・・」
「もしもし・・・名雪サン?」
「わたし、もう笑えないよ・・・」
「笑えなくなっちゃったよ・・・・・」
名雪はなんか以前聞いたことのあるような台詞をのの字を書きながら喋り出す
「『名雪・・・・。おれには、奇跡は起こせないけど・・・・。でも、名雪のそばにいることだけはできる。
約束する。名雪が悲しいときには、おれがなぐさめてやる。
楽いときは、いっしょに笑ってやる。おれは・・・ずっとここにいる
もう、どこにもいかない。おれは・・・。名雪のことが、本当に好きみたいだから・・・・』とか言ったくせに・・・」
きゃあぁぁああぁあああぁあっっ!!!
俺は以前に絶望の淵に立った名雪をできるなら一生封印したい名台詞で救いだした
消そうとしたのだが、証拠とか言われて消させてくれなかったのだが・・・・
俺は恥ずかしくて窓からダイブしたい気持ちを必死で堪え
「だあぁっ!!あンときゃそう言わなくちゃこっちの命がなかったから仕方なくだな」
「信じられないよ・・・祐一、浮気症だし・・・それに・・・」
「おいおい、俺の気持ちはちゃんと知っているだろう?」
じっと名雪の瞳を見つめる
「だって・・・・」
「似たような台詞、川澄先輩にも使ってそうだし・・・・」
「・・・・・・・・・・・イッテナイゾ・・・」
「目を逸らさないでよーーー。しかもその間はなんなんだおーーー」
「とにかく、写真を欲しがってるのは俺じゃなくて北川のほうなの!!」
これ以上、傷を広げたくないので無理矢理話を戻した
「ほんとうに?」
ぐあ、その上目づかいは反則だぞ・・名雪・・・
いますぐにでも抱きしめたくなるが理性を総動員させ自粛する
「でだな、作戦はこうだ」
俺はあらかじめ考えてた『作戦』を名雪に伝えた
「だいたいは分かったよ」
「ああ、この作戦が上手く行けば俺たちの明日は明るいぞ」
俺は北川からの報酬を考え自然と鼻の下が伸びてしまった
「・・・なんか祐一・・・いやらしい事かんがえてない?」
さすが名雪、すぐに俺の心の中を読むが、楽しみは後に取っとくのが俺の主義なのだ
「そんなことないぞ!!」
「うーーーー。怪しいよ」
「俺が名雪に嫌われる様な事、したことあるか?」
じっと名雪の瞳をみつめる
7年前に名雪の事をほったらかしてその時の本命の所に毎日行ったり
あまつさえその本命とのデート代を名雪の財布から捻出した事もあったが
今となっては時効成立だろう
「・・・ううん、わたし祐一のこと・・・信じてもいいんだよね?」
名雪のその言葉に少しだけ俺の良心がザクッと痛んだ
「祐一・・・もう一回・・・あの言葉を言って欲しいな・・・」
「・・・マジですか?」
固まる俺
「うん。まじ、だよ」
期待に満ちた名雪
ここで嫌だ、なんて言える男はいるのだろうか
俺は覚悟を決め、すうーっと深呼吸をしてから
「・・・名雪、俺に奇跡は起こせないけど約束する。名雪が悲しいときはなぐさめてやる。楽しい時は一緒に笑ってやる
おれは・・・名雪のことが本当に大好きだから・・・たとえ、爺さんになっても俺がおまえを起こしてやる・・・」
「祐一・・・」
「どうだ、今度は多少アレンジしてあるが、な」
俺はポンっと名雪の頭に手を乗せた
「祐一、嬉しいよ」
がばっと抱きつく名雪
「おいおい、秋子さんに見つかったらマズいだろ」
「いいえ、気にしないで下さい。祐一さん」
「でも、秋子さんの前で恥ずかしいですよ」
「そんなことありませんよ。素敵な言葉を頂いて名雪は幸せですね」
「いやぁ、恥ずかしい所を、みら・・・・れ・・・」
「あの祐一さんもいつの間にか頼れる男性に成長したんですね」
「・・・・・・・・・・秋子・・・・・さん・・・?」
いつの間にか秋子さんが部屋にいた
「どうかしましたか?」
本人はというと相変わらず落ち着いた様子でいつもの頬に手を当てていた
「・・・・・・いつから・・いらっしゃったんです・・・?」
まさかアレを聞かれてないかとギギぃっと振り向いた
「えっと」
ちょっと考えてから
「『香里と北川を・・・』のあたりからですね。」
雪・・・・
雪が降っていた・・・・
灰色に曇った低い空から、白い細かい雪がヒラヒラ踊りながら落ちてくる・・・・・
いゃあああああああああああああっっ!!!
ほとんど全部聞かれてますよ、俺!!(泣)
俺はもう、なんちゅーか、いてもたってもいられずに躊躇い無く窓(二階)から外に逃げ出していた
次の日の朝
「おっす、相沢って、お前どうしたんだ。その傷?」
もうすでに毎朝恒例となっている名雪との全力疾走で教室に入ってきた俺に北川は関口一番に言った
「わからん・・・」
「わからんってお前、包帯だらけじゃないか」
「朝起きたらこうなってた。」
「なんかあったのか?」
「昨日の夕飯くらいは覚えてるんだが何故かそれ以降の記憶が無いんだ」
「・・・お前もいろんな目にあってるよな」
北川は自分を重ねてかしみじみと呟く
こいつは昨日、香里にあんな目に合わされたというのにもう傷一つない
さすが、北川が北川たる所以だ
全然羨ましくないけどな
「ところで、相沢」
北川はサっとカバンからカメラを取り出す
「頼むぞ。」
「これデジカメじゃないか、お前わざわざ買ってきたのか?」
「記念すべき一枚を撮る為だからな。」
「そういうもんか?」
「ああ、そういうもんだ。それにコッチの方が合成しやすいしな」
「お前なぁ・・・・今回の目的・・・忘れてないか?」
「とにかく、頼んだぞ!ブラザー」
北川はいつまでたっても北川だった
そして、昼休み
「おっし、香里。例の奴頼むぞ」
「ねぇ・・・本当にやるの?」
「まあまあ、そういわずにさ。お前じゃなきゃ駄目なんだよ」
「まったく・・・。相沢クンは人を乗せるのが上手いわね」
「はっはっ、それが取り柄だからな。それじゃ名雪」
「う、うん」
〜作戦その1〜
親友と一緒に撮影
これにより写真に対する抵抗感を軽減
「いくぞ、ハイ、チーズ」
キュイイン
デジカメ特有のシャッター音を鳴らし香里と名雪を写す
しばらく撮っていくうちに香里の表情が自然になっていく
よし、作戦2に移る
〜作戦その2〜
美女と北川を一緒に写す
これにより、より一層香里が際立つ
別名・スイカに塩作戦
ついでにミッション終了
完璧だ
「じゃあ、次は北川と」
「み、美坂、次はこれで頼む!」
俺の台詞の途中で北川に遮られた
お前はいつから衣装になったんだ
俺は文句を言おうと北川を見ると思わず固まった
あいつが手にしてた物は・・・その・・・しばらく前に絶滅したといわれる・・・一部の病んだ方には大変好評の・・・
ブルマだった
本能に忠実すぎるぞ・・・北川・・・
『北川退場』
いつの間にか回りにはクラスの連中が集まってた
その中の女子全員からのハモリ
「なんで!?」
北川から上がる悲鳴はクラスの女子全員からの鉄拳制裁にかき消された
やがて、ボロ雑巾になった北川は窓(三階)から捨てられた
北川出入り禁止=ミッション失敗!?
俺と名雪の明るい未来が今、音を立てて崩れ去った
そして放課後
「名雪、相沢クンどうしたの?」
「うにゅ・・・なんかさっきから全然動かないんだよ」
俺は燃え尽きていた
真っ白になっちまったよ・・・はは
「相沢・・・終わっちまったな・・・」
同じく北川も真っ白になっていた
自爆しておいてよく言うぜ・・・北川・・・
「とりあえず、見てみるか」
俺は昼休みに撮った名雪と香里、最期の方はクラス全員(北川除く)でメモリーを使い切っていた
「お、意外といい感じで取れてるな」
ボタンを操作しながら見ていく
「あ、祐一、見せて」
俺の机に名雪と香里が寄ってきた
「あはは、香里、変な顔してるよー」
「名雪だって人の事言えないじゃない」
「俺にも見せてくれ」
ミッションは果たせなかったが美坂コレクションが増えたのでまぁ、良しとしたのか北川は復活した
「ほれ。」
俺はデジカメの持ち主である北川に渡した
「で、どうやって見るんだ?相沢」
「お前なぁ、自分のデジカメの操作くらい覚えろよ」
「いやぁ、こういうのは苦手でさ、えっと、これかな」
ピピッと機械音がした
「あれ、おい。相沢」
「なんだ」
「なんか、画面が真っ白くなっちまったぞ」
ガバ!!
俺は北川からデジカメを奪い取ると固まった
「・・・・・・・・」
「・・・・・祐一?」
「・・・・・まさか」
「どうしたんだ、相沢?」
固まる俺に勘のいい香里は北川が何をしたのか気付いたようだ
北川・・・お前・・・
本日、自爆2回目だぞ
「北川・・・お前はよくやったと思うぞ」
俺は静かに告げた
「ん?なにが?」
自らの手で全削除ボタンを押した男はキョトンとしていた
数秒後、事実を聞いた北川は灰になり風に流されていった
その日の夜
「あーあ、無駄な時間を使っちまったな」
俺は溜息混じりに呟くと北川が忘れていったデジカメのスイッチを入れた
「・・・・ん?」
俺は残り枚数が一枚減っていることに気付いた
「誰か撮ったのか?」
画面を切り替えてみるとそこには・・・
「おっす、北川」
「・・・・・・・・」
「北川?」
「・・・・・・・・」
「おーい」
「・・・・・・・・」
どうやら未だにショックから抜けられていないようだった
「いいものをやろう」
そういうと俺は一枚の写真を北川に見せた
焦点の定まっていない死んだ魚の目をした北川はボーっと俺の持っている写真を見つめた
次第にそれがなにを写しているのかが分かると
ガシッ!!
「あああああああ、あいいいい、こっこここれれれ」
きっと『相沢!これは』と言いたいのだろうが口が回ってない
そこには北川が香里に首を絞められてる写真が写っていた
2ショットと言えなくはないがお前、こんなんで嬉しいか?
「どどっどどどど?」
『どうして?』か・・・
実は北川が自爆した後に名雪が興味津々でシャッターを押したのだったがあえて俺は
「さあな、さすがに神様もお前に同情したんじゃないのか?」
とだけ言った
俺は全力疾走して家まで帰った
もちろん北川から借りたビデオを見る為だ
さすがに、ぶっつけ本番で名雪と一緒に見る気にはなれなかった
まずは、どのシーンが盛り上がるところなのかチェックしとかないとな
今日は名雪も部活が無いと言っていたし
不肖、相沢祐一17歳
例えこのSSが18禁になろうとも男にならせて貰います
え、これはお礼SSなんですか?
諦めて下さい。
俺は静かに水瀬家のドアを開けた
「ただいまー。秋子さんいませんか?いませんね?」
返事は無く妙に広いリビングがこの家の主の留守を告げていた
「この勝負、貰った!!」
俺はもう自分でも止められないほど人格が崩壊しつつあった
では、さっそく見させて頂きます
パンパンっとビデオに手を合わせ一礼も忘れない
がちゃ、じいいいいいいいいい
デッキにブツをセットし、全神経を玄関と画面に集中させる
今の俺は玄関の開けられる音はもちろん虫の気配さえ捉えることができるだろう
そして、砂嵐のような画面から画面が切り替わる
次の瞬間、俺の思考は停止した
「ただいまー。」
しばらくして名雪が秋子さんと共に帰ってきた
「あれ、祐一。何見てるの?」
遠くで名雪の声が聞こえる
「あああっ!!猫さんだよ。猫さんがいっぱいだおーー」
そうか、喜んでくれたか名雪
「可愛いよー。抱きしめたいよー。」
「名雪は猫アレルギーだから触れないでしょ?」
そうだな、可哀想だけどこればっかりは仕方ないよな
「うううーーーー。あ、すごいよー祐一、あんなことしちゃってるよ」
そうそう、それが聞きたかったんだよ、俺は
北川・・・お前の予想したとおりになったよ・・・
ああ、お前は嘘は付いてないよな
『ビデオ』としか言ってなかったし名雪もメロメロだ
でも・・・
でもな・・・・・
A(アニマル)Vはあんまりじゃないか?
END
あとがき
・・・ごめんなさい・・・
※これは涼秋が初めて書いたSSです 宮野想良さんにお礼SSとして贈った物を再度編集したものです
涼秋さんのHP『空色の砂時計』はこちらです
〜BACK〜