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俺はハイエルフからオリハルコンの魔剣を貰うべく「彷徨いの森」に来ていた。

「しっかし、広えなココ」
日の光もまばらにしか差し込まない森の奥は薄暗く、陰鬱と生い茂る樹木の間を抜けるように、一本の獣道が延々とまっすぐ続いていた
つうか、同じ光景で見飽きちまうな、コレ。
ゲーム内なら1画面分歩けば同じような十字路が何度もでてきて、右、右、左、左、上、下、左、上、上の順番でスクロールさせれば、森の最奥、古代エルフの住む大木に辿り着くはずなのだが……
当然、今は画面のスクロール機能なんてないわけで、ひたすら歩くしかない。
俺は、薄暗い森の中を次の分岐点の十字路に向かってまた一歩足を進めようとした。
まさにその時、唐突に脇の茂みから大きな獣が牙を剥き咆哮をあげて飛び出してくる。
犬歯が異様に伸びた軽トラ並の大きさの虎。
この森に住むワンダリングモンスターで、サーベル・タイガーだ。
ちなみにまったく同じ姿で紫色の奴はデス・タイガーで毒持ち、色違いで真っ黒なのが魔法も使うマジック・タイガーだ。
まぁどうでもいいか、どうせ俺にとっては全部同じ雑魚モンスターだ。
「グルルルゥッッ、グアァッ――」
「あぁ、うざい」
俺が無造作に右手を振るうと、サーベル・タイガーの巨体がやすやすと縦に切り裂かれる。
「まったく、次から次へと」
返り血を避けた俺の後ろには、すでに数百体ものモンスター達の死体が雁首そろえて森の小道を舗装していた。
そう、この「彷徨いの森」はモンスターの超多発地帯。
一歩歩けば戦闘、また歩けば戦闘。
戦闘、戦闘、さらに戦闘エンカウントの繰り返し。
嫌がらせとしか思えない昔のゲームらしいやる気のうせる場所なのだ。
はっきり言って敵が強いとか森の迷い道の謎が解けないとか以前に、頻発するランダムエンカウントの戦闘がだるくなってやめたくなる素敵なフィールド。
それが「彷徨いの森」だ。
ちなみに、俺が目指しているのは、この「彷徨いの森」の中心にあるはずの巨木。
その木の上に居をかまえるハイエルフからオリハルコンの魔剣を貰うはずなのだ。
「ああぁぁ、もう、すげぇうざいったい!」俺は、闇雲にぶんぶん腕を振りながらズンズン歩きだす。
その脇では、あいも変わらず「ギャアァ」とか「グァア」なんていってモンスター達が次々に吹き飛んでいた。

やがて気がつけば、鬱蒼と茂っていた木々もまばらになり、辺りの様子が変わって来ていた。
「おお!ゴールが近いかな……って、これは!?」
俺は、羽虫の如くスパンするモンスターをあしらいながら、まばらになった木々の間からその先を覗き込む。
そこには、まさに天に聳えんばかりの超巨大な樹が立っていた。
そのデカさは半端じゃない、まるで天然樹木でできた高層ビルのようだな。
「ほう、これは凄いじゃないか」
ゲームの中じゃ、普通の樹を拡大しただけのドット絵で描かれた大木だったが、今、目の前に鎮座するソレは、周りの木々とは一線をかす霊気を放つ大樹だった。
天を覆いつくさんばかりに大きく広げられた枝々と目に痛いほどの緑の葉、そしてそれをどっしりと支える太い幹。
そして、その幹にぐるっと絡みつく蔦のように、巨木の樹皮が変質してできた階段ができていて、樹の上部へと続いている。
「どれどれ、ハイエルフとご対面といきますか」
なんせ、このお約束のファンタジーな剣と魔法の世界設定では、ハイエルフは例の如く当然耳の先が尖がった超美形の設定なのだ。
くくくっ、楽しみだ。
俺は不敵な笑みを浮かべつつ、「彷徨いの森」の中心にそびえる巨木の階段を登りだしていた。
ちなみに設定上は、ハイエルフはごく少数を除いて遥か神話の時代に妖精界に渡っていって、今ではほとんど残っていないって事になっている。
んで、たまーにいるのが、ハイエルフの劣化版で能力は衰えているのに何故だか美貌だけは劣化してない唯のエルフに、悪の手先になったせいで肌が褐色に変化しているが此方も美貌だけは変化してないダークエルフと、ある意味正統派の和風解釈のエルフ像が守られている世界なのだ。
もっとも、ゲームの中ではどれも同じ絵柄で、肌の色だけ差分のキャラ達なわけだが。
などと俺がこの世界の設定を思い出しているうちに、巨木の周りを巡る上り階段は終盤にさしかかっていた。
辺りの光景はすっかり様変わりし、巨木の周りの木々は既にはるか下。
見渡すパノラマビューには「彷徨いの森」が地平線の果てにまで続く迷路のように広がっている。
いやぁ、圧巻だな、でかいはずだ。
ゲームをやっている時は、森のマップ画面が延々とループし続けているだけにしか思えなかったんだが、実際はこうなっていたのか。
俺は、地平線の果てまで広がる「彷徨いの森」の全貌を感慨深く見渡しながら、再度巨木を登り続けていた。

そうこうするちに、巨木の頂上らしき所に辿り着いていた。
巨木の天辺には枝やら樹皮やらが変質し柱や屋根となった、まさに天然素材でできた神殿が建っていた。
そしてその神聖な樹木でできた神殿の中央、緑の葉と太い枝で造形された王座に優雅に腰掛ける細身の小柄な美少女。
長い睫も艶やかな深いグリーンの瞳に、高めですっと通った西洋的な鼻筋と、可憐な唇。
スレンダーな細身の身体は、純白の露出度高めな一枚布を巻きつけたギリシャ神話の処女神を思わせるドレスを纏っており、手にはデカイ水晶が先端についた身の丈より大きな杖を掲げている。
そしてプラチナの輝きを放つ長髪の間からのぞくエルフお約束の尖がり耳。
そうこの優美な細身の女の子こそ、この「彷徨い森」の主、ハイエルフなわけだ。
「何者です?」
ハイエルフの少女の薄い唇からこぼれる音は、クリスタルを弾いたような硬質で澄んだ響きだった。
「いやいや、どうも、どうも、俺は、勇者をやらせてもらっている」
ハイエルフの幻想的な美貌にあてられながら、俺はとりあえず自己紹介がわりに例の先代勇者から引き継いだ勇者の剣を見せてみる。
「ほう、人間の勇者ですか、この場所に人間の勇者が来るなど何百年ぶりの事か……いいでしょう、勇者、お前は何を欲するのですか?」
小柄ながら威風堂々としたハイエルフ美少女は、深い緑の瞳で冷たく此方を見つめながら、片手に持った巨大な水晶の杖を軽く一振りする。
すると、彼女の背後で巨木の枝がミシミシと音をたてて動きだし、その奥、木の洞の中に封じられていた様々な武具や、魔法のアイテムが姿を現していた。
おぉ、そうだった。
このハイエルフっ娘は、世界に危険を及ぼす強力な武器やらアイテムを収集し、悪の軍勢に渡さないように封印している管理者だったんだっけ。
そんで、世界に危機が訪れた時は、管理者であるハイエルフの与える試練にクリアし、正しい使い手である事を証明すれば、背後のお宝から望む武器やアイテムを貸して貰えるって寸法だ。
「勇者、お前が欲しい武具の名を言いなさい、それに見合った試練をこの私が与えてあげます」
おーっ、でた、お約束のエルフ特有の高飛車、上から視点の物言いだ。
木々の間から差し込む光を反射して輝くプラチナの髪と、完璧なまでに整った繊細な美貌、そして華奢で細っこいスレンダーなスタイル。
まさにエルフって感じの妖精っぽさが、この高圧的な態度に非常にマッチしてるな。
むしろもう、ん――っ、エルフっ娘バンザイ! 高飛車オッケー気にならない。
やっぱりエルフっ娘はこの定番の「私は高貴な種族なのよ、ふん、人間風情が」ってツンツン具合がなくちゃいかんな。うん。
まぁ、オドオドしたダメっ子エルフや、武道派なボクっ子エルフも捨てがたいが。
やはり、ここは王道だろう。
「さあ、人間よ、お前の欲する武具は何なのです?」
「オリハルコンの魔剣だ」
俺は、武道大会で優勝するために必要な武具を名指しする。
「わかりました、オリハルコンの魔剣ですね、では、その武具を貴方が扱うに値するか試練を与えましょう」
澄んだ声の高圧的なハイエルフ少女が、高らかな声をあげる。
試練って言っても「彷徨いの森」にある様々なレアなアイテム、例えば魔法の木の実だとか、霊薬の草だとかを探してくるお使い系クエストなので、恐ろしいもんじゃない。
つうか、この「彷徨いの森」関連のイベントは、難易度は高くないのだが、無駄に面倒臭いんだよな。広大な森の中をあっちこっち歩き回らせるんだもの。
しかも転移魔法は森の中では使えない制限がかかってるし、ワンダリングモンスはうじゃうじゃ湧きまくる。
んで、オリハルコンの魔剣を貰うためには確か……えーと、「生命の実」だっけ、体力を活性化させヒットポイントの最大値を僅かだが上げる超レアな非売品アイテム、それを森の中で一つ拾い集めてくる筈だ。
他にも希望する武具によっては、ラストダンジョンで出るようなボス級のモンスターを倒す戦闘系イベントが発生するのも稀にあるが、この広大な「彷徨いの森」を歩き回ってアイテムを拾い集めるお使いクエより、そっちの方が俺にとっては楽だよな。
まぁ、俺は最初から全アイテムコンプ状態のチータなので、当然、生命の実だって既にもっているから関係ないが。
「――生命の実を一つ持ってくることです」
「はいよ」
ぴんっと指で弾いて、サクランボ大の果実をハイエルフの胸元に飛ばす。
「おおぉ、なんと素早い事、これはまさに生命の実……この匂い、瑞々しさ、なんとも美味しいそうです」
なんだかハイエルフのお嬢ちゃんは、フルーツ好きなのか、生命の実を手にとってちょっと涎を垂らしそうにしている。
「………ゴホンっ、そうでした、オリハルコンの魔剣を与えましょう」
俺の眼差しに気がついたのか、あわたてたハイエルフ少女は、背後の木の洞にとたとたと駆け込むと、しばらくドタバタと物をひっくり返す音が聞こえた後、一振りの剣をもってくる。
「さあ、これがオリハルコンの魔剣です。試練を果たした勇者よ、お持ちなさい」
こうして俺は、まぁ順当にイベント通り、オリハルコンの剣を手に入れたのだった。


俺は……

シナリオ通り、武道大会に出場する
いやここは、一気に魔王城まで突き進む。


(C)MooLich 2001