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俺は次の試合にでることにした。

少しばかりのインターバルの後、すぐさま俺の次の試合が始まっていた。
「それでは一般参加、対、白狼騎士団所属シェスタ・ミレニードの試合を始める」
うおぉおおっと盛り上がる大歓声が闘技場を包み込み、まるで地面が揺れるかのように空気を揺らす。
まったくすごい声援だな。
あれ今そう言えば今何試合目だ?なんだかもう何十回と戦った気がするし、いやぜんぜん戦っていない気もする。
たしかジーラをたっぷり可愛がってやってから、次の試合に出て……う〜ん、まぁいいか。
『シェスタ様ぁあ』
『がんばってくださいませ』
『ジーラ様の敵を!』
よく見れば観客席の最前列に、金色やプラチナ、それに青や緑といったいかにもファンタジーらしい髪の色をした美少女達が並んで俺の対戦相手に黄色い声援を送っている。
そのどの娘のレベルが高く、整った顔立ちと高貴な印象を放っていた。
お揃いの白銀の鎧に、マントを止めている装飾のこったブローチの飾りからすると、この美少女軍団は王侯貴族の乙女達を集めて結成された白狼騎士団に間違いないだろう。
そして彼女たちの声援と、それに同調する有象無象の観客の声援に後押しされ、俺の前に立つのは、真っ青な髪の物憂げな様子の美女だった。
その鼻筋はすっと通り、瞳の色もこれまた髪と同様なスカイブルーのまるで氷のような冷たい美貌は……そう確か前に見たことがある。
そうだ、王宮にもぐりこんだ時にみかけた白狼騎士団の副団長だ。
「貴様が…か」
真珠のように艶やかな光沢のある唇からぼそっとクールな声が聞こえてくる。
「あぁ、そうだが?それが何か?」
う〜む、ジーラもそうだったがこいつらレベルのキャラはゲームの時はほとんど台詞もなくただ立っているだけの存在だったからな……正直データがわかっているモンスターの方がやりやすいぜ。
「先ほどの貴様の対戦相手……ジーラの敵討たせてもらうぞ」
ばさっと薄いコバルトブルーのマントを翻しシェスタが、抑揚のない声で呟く。
「くくく、さっきの女戦士か、あんな恥ずかしい負け方したんだ、いまごろどっかで泣いてるんじゃねぇか」
俺は相手を挑発するようにヘラヘラと笑いながら肩をあげる。
「……、それ以上の侮辱、許さん」
そう言うやいなや、物憂げな美貌の女騎士は再度ばっとマントを翻す。
「うおっ」
その途端、マントの後ろからすっと自然な動作でレイピアの刃先が飛び出ると、正確に俺の額めがけて襲い掛かってきていた。
空気を切り裂く鋭い音と共に、俺の前髪が数本もっていかれる。
「ひゅぅ」
「……はずしたか」
あくまで冷静な女騎士。
たくっ!あぶねぇ、
もう少しでとっさに反撃してシェスタを即死させることころだった。
俺は別の意味で冷汗をかいていた。
ふぅ、こんな美女を傷物にしたら、それこそ世界の損失だからな。
やれやれと胸をなでおろす俺の耳に遅ればせながら、
「しっ、試合開始っ」
ようやく審判の声が闘技場に鳴り響く。
『やれぇやっちゃえぇ』
『速攻ですぅ、シェスタ様ぁ』
『がんばってぇええええ』
白狼騎士団の娘達の黄色い声援がさらに激しさを増し出す。
どう考えても蒼い髪のシェスタの反則なのだが……どうやら無かったことになっているらしい。
さすがに白狼騎士団の副団長を反則負けにはできないのだろう。
それに俺はみんなのアイドル白狼騎士団のNO3、ジーラを失神させた上に公衆の面前で辱めちまったしな、う〜ん、つくづく勇者にむいてないな俺。
「……死ね」
そんな隙だらけの俺にむかって、マントをひる返しまた鋭い突きで迫ってくる美貌のシェスタ。
だが、いかんせん素早さ最強の俺の前ではすべて虚しく空を切るだけだ。
「----っ」
だがレイピアの切っ先が外れても、シェスタは慌てることなく表情を崩さず冷静に俺の出足をくじくジャブのような鋭い突きとフェイントで牽制をかけてくる。
どうやら俺に手数を打たす気はないらしい。
「ほうぅ」
俺は相手のなかなか鋭い観察眼に驚きながら、今頃になってやっと腰から剣を引き抜くと、こちらも対戦相手のシェスタをまじまじと観察する。
何は無くともまず、その整った顔立ちに目が移る。
すっと伸びた秀逸な眉に、すらりとした鼻筋、長いまつげが物憂げに伏せられスカイブルーの瞳。
まるで彫像のように表情を崩さないクールな美貌。
そして見事な比率で形成されたスタイルの肢体が、まるで機械仕掛けの人形のように的確な動きでレイピアを振るい、床をけって間合いを詰めてくる。
常人では見えないほど素早く動くたびに、首の後ろでひとまとめ編まれた長い髪が左右に揺れて蒼い残像を残している。
翻るマントの下からちらっと見えたが、あの素早い身のこなしは普通の騎士団の乙女たちが来ている金属製の鎧とはことなり、おそらく軽装の魔法強化された皮鎧を着ているのだろう。
シルフアーマーか?素早さの胸当てか?う〜ん、おそらくミラージュメイルあたりか?
おかげでそのすらっとした肢体のシルエットが十分堪能できて役得役得だ。
あまり胸はないようだが、腰の位置も高く、ブーツへと続く太腿のラインは絶品だ。
くくくく、ジーラに続いてなかなか上手そうな女騎士だ。
あの冷徹な美貌から熱い喘ぎ声を出すまでヤリまくってやる。
「くくくくっ」
思わず声が外に漏れてしまう。
「なるほど……このような攻撃は余裕というわけか」
俺の笑い声をどう判断したのか、シェスタは突然その白い手からレイピアを投げ捨てていた。
カシャンと涼やかな音をたてオリハルコン製のレイピアが闘技場の石畳の上に転がっていた。
「ん?もう降参か?」
意外な美女の行動に俺がとまどっていると、スカイブルーの瞳に狡猾な光が宿り出す。
「いや、こんな武器で傷をつけたところでお前に効くとは思えないのでね、早速だが奥の手を出させてもらう」
淡々と話しながら、シュスタは腰の後ろから一本のワンドを引き抜いていた。
彼女の手にあるワンドにはゴツゴツとした無骨な作りに、いくつものルーン文字が掘り込まれている。
このために用意したのか、あまり手になじんでないようだ。
だが、ワンドを取り出しもう片方の空いた手で複雑な印を組みだしたということは……
「ほう、お前魔法も使えるのか……なるほどな魔法騎士だったのか」
まぁ勇者である俺は剣も魔法も全て万能だが、一般人はそうはなかなかいかない。
クールな無表情のシェスタが持つのは「大地の杖」と呼ばれる魔力増幅の効果がある魔法のワンドだ。
おそらくあれで足りない魔力を補う気なのだろうか?
そう言えば、確か道具で使えば…ええと何だっけ…
というか、何だか前に一度こんな光景を見た覚えもなきにしもあらず。
というかデジャヴュ?
「…覚悟しろ、、いや勇者よ」
俺がそれ以上考えをめぐらそうとした時、シェスタがぐいっとワンドを突き出しその艶やかな唇から魔法の詠唱を始める。
んんっ!おそらくジーラから聞いたんだろうが……この美女、俺の正体を知っていて勝負を挑んできた口のようだ。
しかも力押しのジーラとは異なり、どうやら何か策があるみたいだが……


俺はここで……

くくく、無駄無駄、シェスタの攻撃を受け止めてやる、防御魔法だ
くくく、無駄無駄、俺にどんな攻撃も通じないぜ、でも安全を考えてとりあえず防御魔法だ


(C)MooLich 2001