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「俺は勇者だ」

俺はもう一度城門の前にいくと大声でそう叫び、勇者の剣を捧げ持つ。
王が城に戻ったためゲームが正常に作動しだしただろう、すぐに門兵が槍を捧げもち俺を王城の中に迎え入れてくれた。
そして気がつけば王都の中心部、王の御前にふんぞり返って立っているわけだ。
「おぉ勇者よ、よくぞ参られた」
定番通り赤絨毯がひかれ、一段高い王座に腰掛ける老齢の国王。
先代勇者とともに戦った老練の魔法使いだったはずだが、今は白髪によぼよぼの肌の棺おけに片足をつっこんだような耄碌ジジィだった。
そしてその王座の横に優雅に立つ王妃の姿。
さらに赤絨毯を挟むように数十人の近衛兵と大臣達が整列し、勇者である俺に期待と尊敬の眼差しを向けている。
「勇者よ、先ほど西の大地母神の聖堂から使いがあり勇者殿を迎えに騎士団を派遣しておったのじゃ」
「あぁ、転移魔法を使ったからな入れ違いだろ」
「おおぉ戦士でありながら、高等魔法も使いこなせるとは、さすが勇者様」
大臣の一人が感涙でむせび泣きながら汗や鼻水を飛ばしている。
うげっ汚ねぇなぁ
「しかも大聖堂を襲った邪龍グルバルドゥーンを一撃で倒したとか」
『おおぉ〜〜』
王宮中が感嘆の声でどよめき、一呼吸おいて俺を賞賛する声があがる。
「いやぁ、どもども」
俺はまぁおざなりな返事をしながら軽く手をふってやった。
まぁ名声最大だからな。
みんな俺の名前を聞いただけで感涙してくれる。
それに大臣や護衛の兵士のさらに向こう、謁見の間を見下ろすテラスに貴族の麗しい夫人や娘達がこちらを伺っているのも忘れちゃならい。
くくく、さすがどれも高貴で美味そうな女どもだ。
そのうち全員……
「勇者よ、そちも知っておろう…魔族達の軍勢はもう我等ではどうにもならんほど強大じゃ」
王は震える声をあげる。
自分の無策を誇らしげに語るなよ、このボケ王が。
ってことを思いながら、俺はニヤリと不敵に笑って答えてやる。
「あぁもちろん」
「すでに我が軍は敗退に敗退を重ね、この王都の他は幾つかの街をのこすのみ…外にはモンスターが溢れ、すでに魔界を化しておる」
まぁな外はワンダリングモンスターでいっぱいだ。
「そこで勇者よ、お前にこの世界の明暗をたくす…ぜひ魔王を打ち倒し世界に再び光を」
耄碌ジジィの王さんはゼイゼイ言いながら皺だらけの両手を天に掲げ喘ぐようにお決まりのNPCの名ゼリフ『勇者よ!後はまかせた』をお気楽にぶちかましてくれる。
しかし、あれだな
勇者一人に世界の責任押し付けんなよ……あんたそれでも一国の王か?
「頼みましたよ勇者殿」
「お願い致します殿」
「攻撃のときは道具を装備するのですぞ」
「薬草はHPを回復します」
だれもかれもが勇者頼みだ…中には操作方法をチュートリアルしだす奴まで。
あぁうざい。
だいたい、この手のは、やってるうちに覚えるんだよ!
「さぁ勇者よ、旅立つのじゃ」
王はなんかあらぬ方向をびしっと指差して涙なんか流している。
「これは旅の用意にお使いください」
そこで、大臣の一人が金貨のつまった袋を持ってくる。
うむ、話が前後しているが本当の筋ならば俺はここで金をもらって旅の支度を整えたりするんだよなぁ。
ってか世界の命運を託す相手にはした金程度をわたすんじゃねぇよ。
「いや、いらん、必要な物は全てある」
俺は王や大臣に向かって、カバンの中を見せてやる。
もちろん、そこには重要なアイテムがずらりだ!
老王や大臣どもは口をパクパクさせる。
ふむぅまぁびびるわな、中には王家の紋章とか、神々の秘薬とか真実の鏡とか……ああ!
『ウゴォオ〜〜バレカタァ』
途端に王のすぐ側にいた一人の大臣が巨大な化け猿に変化する。
「ひぃい、どうしたんじゃ、ザキロフ宰相…まさかお前!」
あたふたとする老王と大臣達。
ふむ、しまった真実の鏡は人間に化けたモンスターを暴くだよな。
宰相がモンスターと入れ変わっていたの忘れていたよ。
「ひぃいいい、お助けぇ」
「モンスターだぁぁ」
勿論、衛兵達はまったく役にたたない
『ウガァアアアーーー』
「ぐはぁぁ」
『グルルルル、ミナゴロシダ』
「ひぃいお助けぇえ」
化け猿がぐわっと口を開くと火炎を撒き散らし、手当たり次第に衛兵をちぎっては投げ、大臣どもを踏み潰す。
「くそぉ、よいかいまこそ王国黄金騎士団の力を見せる時だ!」
『おお!』
ガチャリと剣や槍を構える騎士たち。
『グハハハハ、ファイアーブレス〜〜』
「ぎゃあぁ」
あっという間に着飾った騎士の一団のローストの出来上がり。
「むぅ王国最強の騎士団が壊滅とは…ぎゃああぁ」
『グハハハハ、メガフレイム!』
「うわぁぁぁ」
王宮の謁見の間は一方的な戦場と化していた。
はっきりいってレベルが違いずぎるな。
俺はそう暢気に分析しながら、勝ち目のない戦いに奮闘する王宮の騎士達を見る。
ドガ〜〜〜ン
「くぅッ、こうなれば王家最大の秘宝「諸刃の剣」を」
「なりません隊長それは!」
「はなせ、今やらねばいつやるのだ」
『グルルル〜シネ』
「のわぁあぁぁぁ」
なんだか血気盛んなおっさん達が傍観する俺の横を黒焦げになって吹き飛んでいく。
『グルルルルル…ヨワイ、ヨワイワ!魔王サマノ手ヲ借リズトモ皆殺シダァァアア』
王座を踏み潰し胸を叩いて歓声をあげる化け猿が、ふと横を向く。
そこにはつまならなそうに立つ俺。
『オア?……オマエハ?』
「よぉこんちわ」
にこやかに返事を返す俺。
う〜ん我ながらいい笑顔だぜ。
『ア、コンニチワ』
おもわず返事をかえす化け猿。
『ッテ、テメェ〜〜勇者!殺スゥウウ』
ちっやっぱり気がついたか。
「やれやれ、しかたねぇな」
俺はぽりぽり頭をかくと、相手をしてやることにした。
『グアアアァァ死ネエェ、メガフレア〜』
一人のりつっこみをかましてくれた化け猿は大口を開けると火炎を吐き出そうと大きく息を吸い込みだす。
そのバカみたいに開けた大口に…
 ガポッ
俺はちゃっかり貰っていた金貨の詰まった袋を無理やり押し込んでやる。
『フガ!フガガガガ』
喉の奥から込みあがった火炎が行き場無く、化け猿の口の中で踊りまくっている。
「じゃぁな、宰相殿」
 ボフッ
まるで壊れたストーブのように鼻と耳から立ち上る黒煙。
『ンガンフ』
化け猿は、ぐるっと白目を剥くとズドンと倒れふす。
「おお〜」
「やった〜」
「さすが勇者殿」
今までどこに逃げていたのか老王や王妃、それに大臣達が俺の側によってきて歓声をあげる。
「さすがじゃ勇者じゃ」
老王は小姓に肩を借りながらフラフラと歩いてくる。
ふむ、いつもヨボヨボでわからんが相当ショックをうけてるみたいだな。
「まさか宰相がモンスターじゃったとは……」
まわりの大臣達も意気消沈し、王妃もその長いまつげを振るわせている。
「ワシらではもう…だめなのかもしれん…」
老王は自らの頭にいだいた王冠にそっと手をやる。
「王も王家ももともとは勇者の物じゃ、ワシも先代が去られしかたなく空位を代理と引き継いだ…うむ、いまこそ勇者にすべてを返す時なのかもしれん、王位は真の王に返すとしよう」
なんか老王は悟っちゃったみたいにそう呟くと、ゆっくりとその白髪頭から王冠を脱ぐ。
いいのか?そんなんで?
「さぁ勇者殿、本日を持ちまして王の座をお返しいたします…この国も城も民も全てお主のものじゃ」
王はそう言いながら王冠をさしだす。
「しかし…」
俺はあまりの展開に付いていけず困り果てる。
たしかに、ゲームでは真の魔王である古代龍を倒し後に、王位をゆずられ、王様となってハッピーエンドを迎えるが…。
いいのかこれ?
「さあ勇者、王冠をとり魔王軍を打ち倒してくれ、さあ」
老王は魔王と戦うぐらいなら、王の位なんていらないと言うように、俺に責任を押し付けようと必死みたいだ。


俺は……

謹んで王位を譲り受ける。
俺は旅の勇者、王になるのは魔王を殺してからだ。


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