女族隷属

4−2 茶人悦始

「ふぅ〜〜疲れたぁ」
正樹は手近にあったベンチに腰をおろすと、手に持っていたカバンと一冊の冊子を隣に置く。
冊子の名前は「完璧攻略!倶楽部・同好会ガイド〜中等部〜」(風紀委員会編集)という物だった。
あの後、噂の部活動の見学に行こうとしたのだが、いかんせん学校自体が広すぎて何処へ行っていいのかもわからない。
そこで昼に教えてもらったコンビニのような購買の書籍コーナーでこの本を買ってきたのだ。
さっそく編集の風紀委員会お勧めの部活をいくつか見て回ったのだが、どれも規模が大き過ぎて正樹には決めかねるものだった。
なにせ陸上部だけでも第1から第6まであり、種目でさらに細部化され、これに同好会を入れればとんでもない量になるのだ。
「どうりで本がこんなに厚いはずだよ」
ちらりと横を見ると、カバンの上に置いた本はまるで電話帳なみの厚さで、どのページも小さな文字がぎっしり埋っている。
「はぁ、いっそのこと帰宅部にしようかなぁ」
それで仕事から帰って来る冴子さんを待って料理なんかしてもいいかもしれない……
思わず冴子さんのクールなスーツ姿の美貌を思い出し、心を和ませる。
「ねぇ、そこのあなた!」
冴子さん……
「聞いてますの?そこのあなた、ベンチの上のなよっとした……そう、あなたよ」
そこには、三人の女子校生が立っていた。
三人とも正樹のクラスメイトとことなる制服に身を包んでいる所を見ると学年が違うか、学科も違うのだろう。
年の頃はどう見ても高校生といった感じだから、高等部の生徒だろうと正樹にも予想できた。
「あなた転校生ですわね」
三人の真中にたつ、女の子がきっと強い口調で正樹に詰問する。
その顔は十人が十人とも綺麗というだろう、まるでフランス人形のように整っていた。
少しロールのかかった髪の毛は腰の中程ま伸ばされ、目鼻のはっきりした気の強そうな顔立ちをしている。
スタイルもよく、自分でもそれを理解しているのだろう、短めのスカートから伸びた脚はすらりと長く、モデルのような立ち方で綺麗に立っている。
「ええ、そうですけど」
正樹は呆然としながら答えるしかなかった。
「ピンときたわ、この時期にそんな倶楽部案内の冊子を持ってるんですもの!あなたまだどの部にも所属してないわね」
巻き毛の長い髪の気の強そうな美少女は、自慢気に指をふりながらフフフンと自説を披露する。
「ええ、そうでけど……」
「よし、これで目的達成だな、ふふふ」
その時、自慢気な女の子隣にたったポニーテールの少女が不敵な笑い方をする。
見ればその背中には大きな筒状の布袋を背負っていた。
中央の女の子の豪奢な顔立ちに意識が集中して気がつかなかったが、このポニーテールの女子校生も相当魅力的な姿形をしているのは間違いない。
背は三人の中で一番高いようで、髪の毛もほどけば、腰のラインを越すほどになるだろう。
凛々しいという言葉が似合う、すっと引かれた秀逸なラインの眉に、涼やかな目鼻立ちが際立っている。
さらに、スレンダーな体のラインは鍛えられたようにきゅっと締まりながらも、年頃の女子の柔らかなラインを併せ持っていた。
「ええ、やったわ、ついにゲットですわ」
少し高飛車な口調の美少女が嬉しそうにガッツポーズをとる。
その横では涼やかな美貌の女子校生もうんうんと頷いていた。
「……でもまだこの子、入会すると決まったわけじゃ」
その時、二人に隠れてしまっていた最後の一人、正樹よりも小柄な女子がか細い声をあげる。
襟首のあたりで切られたボブカットに、つぶらで大きな瞳、ちょぴり猫のような愛らしい口元。
前の二人が綺麗というカテゴリーで括られるなら、彼女は可愛らしいと言うカテゴリーがぴったりとくるような感じの少女だった。
もし、他の二人がいなければ、正樹は自分より年下だと思っただろう。
だが彼女は2サイズほど小さいが他の二人とまったく同じ制服と襟章をつけている。
「早苗、こんな美味しい獲物……いえ、転校生なんてそうそういなのよ」
「そうだけど……でも」
早苗と呼ばれた小柄な少女は大きな瞳をうるませてじっと考え込む。
「なっなんの話ですか?それにあの……あなた方は?」
正樹はようやく三人の会話が途切れたのを見計らって、喉まで何度も出ていた質問をする。
「あぁ自己紹介が遅れたましたわね、わたくし高等部特進科2年1組の綾瀬川 沙代子ですわ」
スタイルのよいお嬢様然とした巻き髪の美少女が、何故か口元に手をやって自己紹介をする。
「同じく高等部特進科2年1組犬神 千穂、よろしくな」
その隣でポニーテールの涼やかな顔立ちの女子は時代かかった口調でかるく会釈をした。
「あ、私も同じ2年1組の宮森 早苗です、ごめんなさい突然声をかけて」
最後に、小柄で童顔な可愛らしい女の子が、正樹にそう言うとペコリと頭をさげる。
「いっいえ」
正樹は思わずお辞儀をかえしてしまう。
その様子に早苗がクスクス笑い、思わず正樹の顔もほころんでしまう。
「それであなた、お名前は?答えなさい」
沙代子と名乗った気の強い少女が、命令口調で詰問してくる。
その頬は、なぜか正樹の笑う顔をみて赤らんでいる。
「はっはい」
おもわず背筋をのばして反射的に返事をしてしまう少年。
どうにも押しが強い女性に正樹は弱かった。
小さい頃、隠された力のことを知らず、近所の女の子やおばさんたちに色々悪戯された正樹は、こういった積極的な女性の攻撃に非常に弱いという、自分でもまったく気がついてないトラウマがあるのかしれない。
「あっあの、高梨正樹です、中等部普通科の2年14組です、今日転校してきました」
結局ここでも丁寧な口調で返してしまう。
「んっ、高梨正樹か……中等部?まだ中学生か!」
「えっええそうです」
こくんと頷く。
すると、三人の女子校生達が正樹を本人を無視してひそひそと話し始める。
「ちっこいからまさかとは思ったが…大丈夫か?沙代子?中学生でも入会は?」
「ええ、たぶん問題ありませんわ、部活憲章では同好会には規定は当てはまらないはずですわ」
「でも、本人の意思の確認は……」
「あの?何の話ですか?」
「貴方は黙ってなさい」
きっと睨みつけつる沙代子のまなざしは、なまじ美人なだけにけっこう怖い。
「はっはい」
正樹はまた即答するとこれ以上でしゃばらないでおこうと三人を恐る恐る見つめる。
「どう?わたくしは悪くはないと思うわ」
「……私も賛成、彼が良いって返事するなら」
「私もだ、すこし線が細いが問題なかろう」
三人は輪になって正樹に背中をむけてなにやらゴソゴソと話し出している。
時折こちらをちらちら見ることからすると、正樹のことが話題になっているのだろう。
やがて、綾瀬川がくるっと振り向くと、いきなり正樹の顔に指をびしっと突きつける。
「あなた、合格!」
「え??」
もう何がなんだかわからない、唖然とする正樹の腕が犬神千穂の手にぐいっと掴まれる
「じゃぁ決りだ、とりあえず仮入会でいいから、さっそく今からいくぞ」
「いくってどこへ?」
「華月流茶道同好会よ」
こうして正樹は三人の女子高校生に拉致されてしまっていた。
「へんなのにひっかかるなよ?」そう言っていた寺田の忠告はまったく生かされることはなかったのだ。


ずんずんと先頭をすすむ綾瀬川沙代子に続き、とぼとぼ歩く正樹、その隣を宮森早苗が小走りに歩き、しんがりを油断なく犬神千穂が監視しながらまるですべるように歩いている。
正樹はどうにも逃げられないまま、彼女達が向かうという華月流茶道の庵「湖月庵」にむかって歩いていた。
道すがら、沙代子の話では彼女達自身はその同好会所属しているわけではないらしい。
それぞれ違う部活に所属しているらしかった。
「私は剣術部だ……もっとも家の道場でほとんど鍛錬をつんでいるがな」
犬神千穂がそう言うと、ちらりと背中に背負った布袋の中身を見せてくれる。
そこには竹刀ではなく物騒なことに木刀が収まっていた。
「わたしは家庭料理部なんですよ、こんど良かったら持ってきますね」
一番この中で話し易い早苗がにっこり笑いながら正樹の緊張をほぐそうとする。
「わたくしは家でのお華や演舞のお稽古ごとがありますから」
沙代子がいかにもお嬢様といったことを口にしていた。
そして件の同好会には沙代子の叔母にあたる人物が同好会の顧問兼師範をボランティアでしてくれているのだが、肝心の会員が一人もいないままなのだそうだ。
そこで沙代子が叔母のために会員探しに親友二人を連れだって学園中を捜し歩いていたところに、運良くか悪くか正樹が捕まったというわけだった。
「そっそんなぁ」
「心配する必要はありませんわ、わたくし達も週に何度か暇を見つけては参りますから」
そんな意味ではないのだが、沙代子はそれで正樹が納得したと思い、また口に手の甲をあて笑い出す。
「とほほほほ」
正樹は誰にも聞こえない声で情けない声を上げていた。


やがて、数十分ほど歩くと、密集して立っていた校舎もまばらになり、周りには木立が鬱蒼と茂りだし道は舗装されていた物から林道のような剥き出しの地面になっていた。
「あの、ここは?」
「中等部と高等部の境目あたりだ、もう少しで庵につくぞ」
後ろから千穂がハスキーな声でそう答えると、またもくもくと歩きだす。
下草がまばらに生えた林道をさらに進むと、突然鬱蒼としげった林がきれ眼前に少し大きめの池が見えてくる。
「あそこですわ、あれが華月流茶道同好会の茶室がある、湖月庵ですわよ」
オーバーなアクションで沙代子が指差した先には小さなまるで時代劇にでてくるような茅葺の建物が池に面して建てられていた。

その十分後、正樹は通された庵の中の小さな茶室で居たたまれないようにちょこんと一人正座していた。
「何で僕、こんなところにいるんだろ?」

「あれ?師範いないみたい、ちょっと探して来るからここで待ってて」
そう早苗に言われ、庵の中のこの部屋に通されたのだ。
しかも、沙代子と千穂にいたっては、部活やら稽古ごとの時間がせまっているとのことで、師範をさがす暇なく慌てて帰っていってしまった。
「わたくし、週に2度は来ますから、次にあえるのは明後日にですわね、では、ごきげんよう」
沙代子はすで正樹が入部確定したような口調でそう笑い。
「じゃあな、後輩」
千穂にいたってはすでにセンパイ風をふかせていた。

「本当に僕どうしたらいいんだろ?」
床には達筆すぎて読めない掛け軸がかかり、部屋の隅の方には炉と茶釜。
四畳半ほどの小さな室内は、いかにもお茶をしますといった感じだった。
「茶道って侘びとか寂とか、そう言うのかな?」
なんとも貧困なイメージで正樹は呟くと、ここにほいほいついて来たことをだいぶ後悔していた。
同好会と言うぐらいだからもっと気楽な感じの物だとおもったが、すごく本格的すぎる。
専用のこんな建物まであるぐらいなのだ。
その時、戸口の向こうで人の足音と会話の声が聞こえてくる。
どうやら、早苗が同好会の師範を見つけて戻ってきたらしい。
「あっ師範!聞いてください、仮入会候補が来てくれたんですよ」
早苗の声が戸口のすぐ向こうで朗らかに響く。
「まぁそうなんですか?それは喜ばしいこと」
それに答えてこちらも涼やかな女性の声が答える。
きっとこの声の持ち主が件の師範なのだろう。
なんだか、正樹が聞いたこともないような柔らかなイントネーションの話口調だった。
「高梨正樹くんっていって中等部の普通科の2年生なんですよ」
「まぁまぁまだ中学生とは」
「ええ、でもとってもいい子で、師範も気に入りますよ」
早苗はどうやら正樹の紹介をしてくれてるようだった。
しかも、正樹のことを考えて先に根回ししてくれる気のようだ。
正樹は障子の向こうですこし照れながら居住いを正す。
「まぁうちとしてはやる気のある子でしたら、どないな方でもいいですけど」
「とりあえず会ってみてくださいよ、実はもう茶室に通してるんですよ、えへへ」
「通してるって…はぁ早苗さん、茶室というのは………まぁいいですわ、このことはまた今度お話しましょ」
そんな会話が聞こえた後、
正樹のいる狭い茶室の障子がすっと開き、正座した和服の女性が姿を現した。
この人が師範……
「こんにちは、うちがこの華月流茶道部の師範を務めさせて頂いてます、一条静江いいます、どうぞよろしゅう」
そういって軽く会釈をすると、正座の姿勢のまますっとまるで畳の上をすべるように動いて正樹の斜め前まで移動する。
「こっこんにちは」
正樹は会釈をかえしながら、ぼんやりとその優美な着物姿の女性を見ていた。
ひぇ、本当にこの学校って美人が多いや。
正樹は都会の学園のすばらしさにクラクラしながら目の前に正座する女性をみつめる。
艶やかな黒髪をきれいに頭の上に結い上げ、その涼やかな美貌をはっきりと見せている。
先ほどの綾瀬川さんの話ではもう30代ということだったが、正樹の目にはどうみても20代の前半にしか見えない。
もしかしたら聞き間違いで綾瀬川さんの叔母さんではなく、綾瀬川さんのお姉さんかもしれない。
などと正樹が思うほど若く美しかった。
うっすらと軽く化粧をしているだけの張りのある肌に、いかにも和風美人といった切れ長の瞳、それにすっと通った鼻筋に、肉厚の水気をたっぷりと含んだ口唇。
その美貌は、お嬢様の沙代子の叔母さんだけあって品のある上品な雰囲気と、お茶の師範らしい凛と張り詰めた緊張感を醸し出している。
そしてなにより、和服の下からでもわかる豊かな胸元と正座した太腿の肉感的な円やかさが、目線を外せない原因の一つでもあった。
「どうしました?正樹さん?」
「はっはい」
「お名前、高梨正樹さんでよろしかった?」
「はい、中等部普通科2年の高梨正樹です」
そう一気に言い切ると正樹は深々とお辞儀をする。
「あら、元気がええわね」
一条静江は切れ長の目をほそめるとにっこり微笑む。
お茶の師範をしている人だけに礼儀や作法にうるさいのかもと心配していた少年は、第一印象が悪くなくほっと胸を撫で下ろす。
「あの、師範それではわたし、料理部のほうに行かないといけないので」
茶室の隅の潜り戸が開き早苗がぴょこっと顔を出す。
「それじゃ高梨さんも気に入ったら同好会はいってくれると嬉しいな、あっ!急がないと……では、一条師範お先に失礼します」
「はい、また今度」
一条が頷くと、正樹が何か言う前に潜り戸がパタンと閉じられ、タッタッタッと足音が遠のいていってしまう。
広大な学園の片隅にたたずむ小さな庵の中で、正樹と和服の美人師範が二人きりで残される形となっていた。
正樹はどうにも落ち着かない気分で、正座した膝の上で手首の腕輪を無意識にいじりながらちらちらと目線を狭い室内に泳がす。
「ほんにくるくると忙しい娘なんやから………さてと、正樹さん、貴方この華月流茶道のことをあの娘達からどこまで聞いとりますか?」
ほっとため息をはくような少しの沈黙の後、一条師範はすっと整った鼻筋を正樹のほうにむけ、ぴんと背筋をのばした姿勢で話を切り出し始める。
「えっ……あの綾瀬川さんや宮森さん、それに犬神さんに帰る途中つかまって……僕今日転校してきたばかりで部活も決まってないから……それで……なんとなくです」
正樹が思いつくまま理由を説明するうちにだんだん居たたまれなくなってきていた。
その理由は目の前の美人熟女が頭痛がするようにその額を抑えだしていたからだ。
「あの?どうかしました?」
「いえ、予想していたよりも……まったくあの娘達は、姉さんにきつく言っておかんと」
きゅっと唇をかんで一条師範は正座した自分の太腿をパシンと叩く。
そうとう自分にも他人にも厳しい人なのだろう。
その雰囲気は張り詰めた茶室の中の空気から、鈍感な正樹にも感じ取ることができるぐらいだった。
「ふぅ…正樹さん、この茶道同好会は華月流いう小さな流派のお茶の作法を学ぶために始まっとりますのや、もっともこの数年だれも正式な部員がおらんかったんです…うちは高校の時分ここで学ばせてもろたからその恩返しに臨時の雇われ顧問をしているだけなんですわ、もっともうちも湖月庵の管理のために週に何度か来るぐらいですけど」
「そうなんですか……」
どうやら自分は廃部寸前の同好会に引き込まれたようだった。
「あの娘たちは、なんとかうちのためにと部員を探そうとしてくれるてるのは嬉しいんやけど……なんも知らん転校初日の子を無理やり連れて来るやなんて……ほんまにご迷惑をかけましたな、正樹さん」
そう言うと、一条師範はすっと頭を下げて正樹にお辞儀をする。
その姿勢ですら、まるで身体の中心に一本線が走ったような綺麗な形のものだった。
「あっそんな気にしなくてもいいですよ、それに僕もすこしお茶とか興味あるなって思って、その運動とか苦手だし、こういう方が……」
正樹は年上の、それも二回りほども違う妙齢の美女に丁寧に謝られて動転しながら、なんとかうまいフォローをかえす。
「え?ほんまですか?でしたらこれもなんかの縁、どうです?少しお茶を体験していかれません?」
すっと額をあげると一条師範は嬉しそうな声をあげる。
こんな和服の美人にそんなこと言われて断る人間は同性愛者か宇宙人ぐらいだろう。
そしてそのどちらでもない正樹は、首がとれそうな程ガクガクとうなずいていた。
「ふふふ、嬉しいわ興味をもってもらえて、そうや今日は初めてですし、決まりなんてなくただお茶を楽しむことにしましょ」
「お茶を楽しむ?」
なにやら脇の小さな木箱から道具をとりだし始めた一条師範に正樹は小首をかしげながら質問する。
正樹にとってお茶と言えば、浮かんでくる言葉は「結構なお手前で」とか言いながら、訳のわからないほどややこしい動きをしてお茶碗をぐるぐる回したり、なんだか苦そうなドロドロした緑色のを飲んだり、侘びとか寂とか、とにかく普通に生活するには必要のないことのように思えることの一つだった。
「ふふふ、今正樹さんはお茶って聞いてとっても難しいこと考えなさったでしょ?」
「はっはい、その通りです」
テレビとかでなんとなく見たことのあるいかにも茶道で使いそうな道具を丁寧に用意しながら一条師範は少年の素直さに、又くすりと笑う。
「今日は難しい作法やしきたりとかは無しにして、美味しいお茶を頂くことにしようと思うてますのよ」
「はっはい」
お茶について何も知らない正樹はほっと胸をなでおろす。
「ほな、今日は煎茶を用意しますわ」
そう言うと、一条師範はそっと正樹の目の前で正座のまま斜め後ろをむいて茶釜に向かう。
着物につつまれたボリュームあるむっちりとした形のいいお尻に正樹の目がすいよせられる。
「茶道は単にお茶を喫するだけでやのうて、朝起きてから夜寝るまでのあらゆる営みに通じると思うてるんですよ」
「へぇ」
ちらりと切れ長の細い瞳が正樹をみつめる。
「ですから、まずは背筋を伸ばしてください正樹さん、ぴんとはった正しい姿勢でないと正しいことはできやしません、基本ですよって」
「はっはい」
正樹はあわててしゃきっと背筋を伸ばす。
「ふふふ、それでええんです」
そういって、また炉のほうに向かう一条師範。
その横顔は和の心を映し出すように涼やかで、着物の襟首から覗くうなじは色香が匂いたつほど白く艶やかに、ほつれた黒髪がかかっている。
そしてなにより、正樹の目をひくのは白い足袋を履いた足の上にのっそりと重量感溢れて鎮座する正座したお尻だった。
すごい色っぽいや。
正樹はしらずしらずのうちにゴクリと喉を鳴らすと、背筋をのばしたままそのヒップに目が吸い寄せられていく。
「この華月流は、もとはもっと大きな流れの流派に属してましてな……」
お手前の用意をしながら、一条師範が同好会の説明をしていてくれているだが、それもまったく正樹の耳にははいってこない、むしろその独特のイントネーションの鈴を転がすような声がさらに正樹の欲望をたかめるBGMになっていた。
今、僕はこんな狭い庵の中で女の人と一緒にいるんだ。
しかも相手は、年上の和服美人。
少年の頬を熱さとはことなる汗が流れる。
いっ今ここで、腕輪を外したら……いや、だめだ!そんなことしちゃ。
そうだ、相手は人妻なんだよ、人の奥さん。
綾瀬川さんもいってたじゃないか、結婚してもう8年になるって。
腕輪を外したら大変なことになるんだ、うん。
「もともとは、うちの母親が先代と親しゅうしてまして、その縁でここに庵を建てさせてもろうたんです、それから……」
正樹は自分がすでに腕輪をはずした前提でその後を考えていることに自分でも気がついていない。
ただ、いま中学生のやりたい盛りの少年の目の前にあるのは、畳の上で時折すり動く色気のたっぷりつまったお茶の美人師範のお尻のことだけだった。
少しだけ……少しだけなら……いいかも?
いいわけがないのは今までの事で重々承知しているのに、大人の色香にくるった正樹は冷静な判断ができないでいた。
もっとも正樹でなくても4畳半の狭い室内で、目が覚めるほどの美貌に肉感的なスタイルの美女と二人っきりにされれば、誰だっていけない妄想の一つでも働かせてしまうものだろう。
だが、幸か不幸か、高梨正樹には妄想のその先までいける。
美女を自分の物にしてしまう力が備わっているのだ。
シュンシュンと湯気が立ち昇る釜の音を聞きながら、正樹の膝の上にのせた手がゆっくり手首につけた皮の腕輪に近づいていく。
「作法や点茶法を学ぶだけと割り切ってしまえば流派を問わずに手近な教室で構わないものなんですよ、どないです?正樹さんもここで少しお茶について学ばれたら?……正樹さん?」
「えっ、はっはい」
思わず呼びかけられ、ビクンッと震えると正樹はとっさに背筋をのばし身構える。
「そんなに緊張なさらんでも……えっ?あら」
くすっと笑った一条師範が突然自分の胸元を抑え、よろっと正座したまま畳に片手をつく。
「どっどうしたんです……か……あっ!」
思わず正座の姿勢から立ち上がろうとして、美人師範がクラクラと眩暈のようなものに襲われた正樹はその理由に気がついた。
そう、自分の手首にあるはずの物、皮の腕輪がないのだ。
「さっき驚いた時に……ああぁやっぱり!」
腕輪につけた仮留めの輪ゴムが外そうとしていた方の腕の袖のボタンにひっかかり簡単にはずれていた。
なっなんでこんなに簡単にはずれちゃうんだよ……でっでも、これで………
ドキドキしながら顔をあげたそこには。
「はぅ……なっなんで……うち……こっこないな気分に…」
予想通り、正座のまま横に崩れたかっこで着物美人が頬を染めて胸元を抑えている。
はだけた裾から内側の白い襦袢が捲れ上がり、足袋をはいた足に、生白いふくらはぎまで露になっている。
「いっ一条師範……その、これは」
正樹はその光景に下半身をぐんっと膨らませながら、畳の上をにじり寄るように一条師範のもとに寄っていく。
「あっあきません、こっちにきては……だめ……まっ正樹さん……なんでこないな…」
ふるふるとそのほんのり染まった顔が左右にふられ、にじり寄る正樹から逃れようと、大きなお尻がずりずりと後ず去る。
しかし、ここは4畳半の小さな茶室、すぐに壁にいきつくと、肉感的な熟れた人妻またいやいやっというように小首をふる。
「いっ一条師範」
正樹は大人の女の人を追い詰める倒錯的な思いにドキドキしながら、じりじりと壁にもたれかかる美女に声をかける。
「その、これは……その……僕がその……」
「はぅ、これ以上側にきては……あぁ……うち主人がいるのに……なんでこないな気持ちに」
一条師範は突然胸の奥から湧き上がってくるような、目の前の少年への愛情とそれ以上の肉欲に身を振るわせながら戸惑っていた。
これは何?何でこんな気持ちに?
その当惑と、夫への頑なにまもってきた貞操観念だけが今の彼女の支えといってもよかった。
もし、家も主人も無ければ、いますぐ目の前で心配げに瞳をうるませている少年の胸に飛び込み、薄い唇を吸い上げ、きっともう大きくなっているだろう若い一物を……
「あっあきません、なんでこないな……淫らなことを……うちおかしゅうなってる」
「そっそれは僕のせいなんです」
そういって正樹はさらに上気し肌を染める一条師範の側ににじりよる。
その時偶然にも、畳についた二人の指先が、かすかに重なる。
正樹にとってはなんでもないその刺激も、強制発情状態に突き落とされている美人師範にとっては焼けた鉄を触るような快感の刺激となって背筋を貫いていた。
「なっなにをするんです、てっ手を放しなさい」
とっさにばっと跳ね上がるように手を払う。
だがその途端、跳ね上げた腕の着物の袖が正樹の顔をはたき、なれない正座姿勢のままの少年を払い倒す格好となってしまっていた。
「うわっ」
「え?……あぁぁ……正樹さん……なっなにを」
袖に巻き込まれるように倒れた正樹はそのまま、崩れたように横座りする一条師範の胸元に倒れこんでいた。
「うぷぷ……あれ?すごく柔らかい」
「あっ……かっ堪忍して……正樹さん、お願いはなれて、うちには主人が……」
困惑する人妻の胸元にしっかり抱きつくように倒れこんだ正樹は急いで立ち上がろうとするが、正座でしびれた足がもつれて上手くいかない。
「あ、あきません、正樹さんそないなことは、うちは浮気は……」
あわてる一条師範ともつれあう正樹。
そのせいで、ずるっと着物の襟がめくれ白い太腿まで一気に露になる。
「あっ、いややわぁ」
さらに正樹が胸元でもつれこんだ拍子、襟首をつかんでしまいそのまま桃の皮をむくようにペロンと豊満な胸の谷間まで露出してしまっていた。
「すっすごい、柔らかいや…・・・あぁ僕もぅ…我慢が」
着物にしめられ中央に寄せられた胸の谷間から大人の女のむっとするほどの甘い匂いが漂いだし正樹の薄っぺらな理性をくもらせていく。
「まっ正樹さん、そないな所見ては……ひぃい」
だが性欲に狂った正樹が見るだけで済むはずがなかった、ぐいっと両手で着物の襟を無理矢理つかむと、さらにおっぱいを露出させようとする。
「あきません、こら!正樹さん……そないなことしては……」
「ごめんなさい、ごめなさい、あぅ、でも止まんないよぉ」
一条師範の顔は真赤に火照り、必死に着物の前を開こうとする可愛らしい少年に激しく抵抗することができないでいた。
あぁ見られてしまう、夫にしか見せたことないのに……。
ふるふると切れ長の瞳を睫が覆い、形ばかりの抵抗を繰り返す。
やがて、正樹の努力が実を結び、人妻の豊満な胸が片方ぽろりとこぼれでる。
なやめかしい白い肌を持った艶やかで汁がたっぷりつまった見事な乳房がゆさっと揺れ、その先端では色素が濃い朱鷺色の大きめの乳首が乳輪から突き出していた。
それはまさに男に吸われるためにあるようなスケベな形の乳房だった。
「はっ!いやぁぁっ」
一条師範が声をあげ、胸元を隠そうとするが、それより早く、少年の口がゆさゆさ揺れる乳房にむしゃぶりつき、まるで赤ん坊のように乳首を吸引する。
「ちゅくちゅるるる」
「はうぅ、すっ吸わんといてぇ…あぁうちの胸」
さらに少年はもう片方の空いた手を着物と肌の隙間から差し入れ、まだ露出していないほうのバストまでもみもみと着物の中でコネまわしだす。
「うちゅ、美味しいよ、おっぱい、おっぱい」
正樹はまるで赤子のように激しく乳首を吸い上げ、胸をもみあげる。
「あひぃ、本当に、あぁうちには亭主が、旦那がおるんよ、ね、もうやめて」
だが、そんなことで人妻の熟れた美乳にしゃぶりついた正樹がとまるわけがない、はぐはぐと口を動かすと柔肌を啜り上げ、乳首を前歯で噛みしだくと両手に片方づつ掴んだおっぱいの根本から揉みあげだす。
ゆさゆさゆさ ちゅっぱちゅっぱ
胸がはげしく上下左右にゆられ、指の間から白い乳肉があふれだす程に絞りあげられる。
着物の中で弄ばれていた片方のバストもやがて乳首を摘まれ引きずりだされると、あっという間に少年の唾液でまみれていく。
「ひぃ、そっそない苛めんといて…ああっ、ううぅ、うくっ」
壁にもたれかかるようにして着物の胸元を広げられ、少年に豊満な胸を吸われる一条静江はすすり泣くような声をだして、ただスケベな陵辱が終るのを待ち続けるしかなかった。
くちゅ、ちゅるるる、ぐちゅ
しばらくの間、正樹は人妻の乳房を吸い、舐め上げ唾液を塗りつける音が人里はなれた庵の中に響き渡り続ける。
そして、やがてそこに、一条師範の今までと異なる喘ぐような鳴き声が加わりはじめていた。
「はぅ、あぅ、うぅ、ううぅ、ううぅうぅ、んんっ・・・・・・・あふぅ」

林の中の古びた庵の中で、終ることのない饗宴の放課後がいま幕を開けようとしていた。


誤字脱字指摘
1/13 mutsuk0i様 1/14 ミラクル様 4/14 あき様 9/20 H2様
ありがとうございました。