【イシュティ公爵記】
【第2編、シェイドアルカンの星追い狼編】【第6章】
「ゆきーの進軍!氷をふんで!・・・・」
兵達の行軍歌が溶けかけた雪に消える。春が近づいていた。冬の間もソリやスキーを使ったりして村々を回った。ヒサイエ率いるフロストブンカー傭兵団は防寒装備の研究と訓練も行なっていた。ヒサイエが若いころテントとシュラフを背負って野山を歩き回った経験が役に立っていた。
秋口にはかなり厳しい取立てが行なわれたと見られた。ヒサイエが行なった仕事にありつけず現金の収入が無ければ餓死者が出たかもしれなかった。兵が村に泊まるときにはもっとも厳しい家に泊まって家を直し量末を分けてやるなど気を使った。
家畜を持つ家は非常に少なく春先のタネも自前で出せるかは疑問があった。
紙以外の生産品はまだビンツ郡の需要を越えるほどの生産力はなく織物にしてもすぐに消費されてしまった。酪農も軌道にのったとは言えず養蜂の準備もしたが経験はなく、すぐに現金収入になりそうな産業はやはり紙しかないようだった。
紙職工ギルドの報告によれば高い価格を維持できたことから倍倍で規模を拡大しているようだし輸出を考えたらまだ需要は高く価格も高いはずだった。
雪解けを待って材木を伐採し紙製造所を拡大することにした。近隣の地形で畑になりそうなところを重点的に伐採することにして冬の間も地図の製作などをつづけた。
館に戻れば獣になった。タイスのナージャが無事、その年の「タイス一の踊り子」になってヒサイエの女官に加わったし。お腹の大きくなったサーラはどうしても感謝の暴走をしてしまうし、雌猫達はどんどんヒサイエをとりこにする「お誘い」をするのでとうとう我慢できなくなってアニスに手をつけた。すでにビンツ郡の娘達は女官達の雌猫の洗礼を十分に受けており誰もがのぞんだが将来責任が持てる器量の持ち主以外は手をつけるつもりがないヒサイエはアニス以外は手をつけなかった。アニスはアンやポーラと同じで気兼ねなく打ち込める女の子だったのだ。また、剣を父親から学んでいてリリアとともにフロストブンカー兵と一緒の教練をやっていた。
最も厳しい最初の冬を越すと再び紙の原料を集めさせ村人に現金を与えた。養蜂を奨励し、紙の生産、畜産奨励、新畑開拓、を行ない牛馬に引かせる農具を作るなどうまい循環が始まるとビンツ郡はどんどん豊かになった。村への現金収入があることで産業が刺激されたのだ。紙での収益を仕事をさせ賃金を払うことで還元させた。
シェイドとビンツ郡を定期荷馬車を運行させビンツ郡の物産を消費地に直接届ける試みが実施された。シェイドのヒサイエ館から少数ずつ入植者を送らせるようにした。
サーラに男の子が生まれた。サーラの子供は認知はするが男爵家の者とした。ヒサイエが男爵家に入って男爵を名乗ってもよいとサーラに言われたがこれだけ女を囲っておいて結婚するつもりがなかったのだ。
ヒサイエはシェイドに戻り、フロストブンカー傭兵団の編成を本格化することにした。アニスも連れていったのではじめての都会に興奮気味だった。しっかり兵達の面倒をみさせた。
ビンツ郡には治安と産業と代官役所があれば十分発展の回転を始めるようになっていたのだ。
フロストブンカー兵の雇用は50、100と一ヵ月後ごとに増やし訓練しながら数を増やすつもりだった。1000人規模の部隊を作るには補給補充も合わせて総勢1200人が定数の部隊を目指すことになるがそれには100人の仕官と200人の下士官、兵は900人という構成になる。国王が求めていた、タネとしての部隊規模はまず1000だった。
新兵訓練が終わるとビンツ郡に遠征を行ない。実戦訓練を行なった。亜人種の襲撃や山賊の再発生を完全に抑えるために。
紙職工ギルドからビンツ郡に紙の生産力を上げる資金を貸出金として持ち出した。登城し国王に報告する。国王は紙職工ギルドの順調と紙の便利さを褒め称えた。
ビンツ郡では数度のゴブリンの襲撃があったがヒサイエがいないときでも軍隊として機能し実戦参加も可能な部隊に成長していた。人数が増えるとともに傭兵団の高度化に着手した。戦闘工兵、機動パイクス槍兵、捜索騎兵、弓兵、歩兵、司令部など兵科を決め。すべて馬車による機動戦を前提に戦うようにする。補給は歩兵科に馬車を大量配備して補給線を構築する。
これまでこの計画を支えるためビンツ郡では戦闘時は馬車を大量挑発できるように規格型の馬車を使わせ。馬牛の生産を優先させるため畜産振興をしたのだ。
王や貴族の懇願で兵をすぐに馬車で派遣することもあって馬車で国中に急速展開できる1000人軍隊として活躍するようになった。
ビンツ郡は代官城館を中心に町へ発展しようとしていた。産業の分化が行なわれ多くの職種が定着した。畑の作物を多様化し冷害などに耐えられるようにしたりしたがやはり影響があったのは牧畜業の発達である。産物を消費地で売ることにより高く売れることも影響して定期荷馬車の数は増えていった。
山賊が討伐され領民が少し豊かになった2回目の秋には国王への約束どおり税収を2倍納めた。紙職工ギルドはすでに他のギルドと遜色ない税を納めていてまだ増収の予定だった。
ヒサイエの女達は美しく成長しそれぞれが得意を収めた。魔法や剣術では類がないくらい達人の域になっていた。
【シェイドアルカン王立士官学校】
「ヒサイエ卿さすがだな。」
「はは、道半ばです。」
国王の命令は完全に遂行された。将軍にして代官、紙職工ギルドの長をどれも実質あるものにしていった。
シェイドアルカンは国土の半分は治外法権の貴族領でありこれには兵制改革を押し付けることはできない。これまでの郷土騎士制度の召集兵力が6万(戦時召集の傭兵を除いている)とすると今回の改革で貴族がこれまでどおり臨時で準備する兵数は1万5千ということになる。従来型兵数残の4万5千の5分の1が常備軍のコストとすると9000人が常備できることになる。首都シェイドの近衛、警備、城兵を通常から2000人養っていたと換算すれば11000人がこれまでのシェイドアルカンの常備兵力になりうる。フロストブンカーを入れて12000人ちょうど1個師団が編成できる計算だ。
既存の騎士団や、警備隊は反発を考えて数に入れていない。改革が失敗しても元に戻せるという配慮である。
郷土騎士制度廃止の王命が発せられた。郷土騎士として参集の義務を止めその分税を納める代官が仕事となった。反発があるだろう。だから・・・徹底的に思い知らせる。
「腕試しを行なう。魔法を使うのもよしとする。集団戦の参加も受け付ける。」
ヒサイエは城館の女官達が神聖魔法の使い手であることを明かし国王に願い出た。
シェイドアルカン史上最大の魔法刀剣大会。王立士官学校前夜の歴史的大会となった。
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