『悪代官の攪乱』


「三宮君、今こそこの荒廃した学園に断固とした改革を推し進めなければならないと思わないかね?」

 生徒会長 剣持帯刀(たてわき)は、彼なりに世の荒廃を嘆き、おちゃらけた身振りを交え、のたまわった。

 長身で端正な顔立ち、黙っていればこの上ない好青年だが、この男…病気だった。いや、自分に正直なだけなのかもしれないが、やはり一般には認め難い性癖を持っている。

「さあ…?」

 素っ気無い返事を返し、肩を竦めるボブ・カットの美少女。

 副会長の三宮秋穂嬢は、毎度の事であるが、その馬鹿げた“改革”の話にうんざりしていた。

 眼鏡を掛けてもそれと分かる知的な美貌。

 眉間に皺を寄せ、こめかみの血管をピクピクさせている。 

 その麗しい面には苦渋の色が満ちていた。

「今日は一層機嫌が悪いね…生理かな?」

 ぼくんっ!

 瞬間、鞘継の右頬に麗しの副会長の左拳が飛んだ。

 か弱い女性にあるまじき、腰の入った左ストレートだ。

 そのサウスポーから繰り出されるトリッキーなパンチにスポーツ・マン帯刀も避ける事も出来ず、モロにそれを喰らった。
 
「…普通、女性はグーではなく、パーだと思うのだが、如何だろう?」

 普通の男なら意識が飛びかねない強烈な一撃。

 それを頬を摩っただけで受け流し、軽口まで叩く帯刀に三宮女史は殺気の篭った鋭い視線を向ける。

「以前、女生徒の体操着をスパッツからブルマーに戻した事や、男女別々だった水泳の授業を共同で行う様にした以上の改革でしたら私は承服出来かねます」

 何とか気持ちを落ち着かせようと執務に取り掛かるが、動揺は隠せない。

 シャープ・ペンシルの芯がポキポキと見る間に無くなっていく。

「なぜだい?以前より男女のラブラブ度が急上昇しているし、恋人居ない率は激減して大変好評だ」

 同級生のブルマーから伸びるむちむちした太腿や、ピチピチの水着に暴走した特攻野郎が、相次いで成功した好例だ。

「代わりにレイプ未遂などで退学者が急増しています!」

 無論、暴走が不発に終わった悪い例も少々…いや、まあ…ちょっと洒落にならない数で…

 帯刀の言う恋人居ない率の激減はそういうモテない生徒の激減が要因ともなっている。

「必要悪だよ。微々たるもんだ。それで、改革なんだが…」

「聞きません!」

 三宮女史は、耳を塞いで拒絶の意思を示す。

「学園全体の成績が下がっているんだよ」

「会長が就任以来改正したイヤらしい校則を全て白紙に戻して頂ければ、元に戻ります!」

 男性にとっても女性にとっても気の散る様々なエロエロ改革は生徒に徐々に悪影響を及ぼしているが、本人は当然受けるべき『痛み』として言葉を擦り替え、巧みに言い逃れをしている。

 剣持政権は『痛み』ばかりでまるっきし良い事無いのだが、何故か生徒達に人気がある。

 他の候補者は皆悪人に見えるし、都合の悪い事になると関係無い事で煙に巻くのが上手い所為かも知れない。

 イベントでのパフォーマンスはド派手で観衆を沸かせるが、ただそれだけだ。

 実際、『改革』を行うたびに学校評価の目安である偏差値が落ち込んでいるのだから三宮嬢としても『もう何もしないでぇぇぇっ!』と叫びたい事だろう。

「イイコト、思い付いたんだ」

「駄目です!」

 会長が思い付く『イイコト』が、本当の意味で良かった事は、今まで一つも無かったりする。

「定期的に試験をして成績の悪い順に肌の露出を多くするのは如何だろう?皆恥しいのが嫌で、勉強するだろうし…」

 人の話を聞かず、妄想じみた戯言を続ける会長に、女史の堪忍袋が遂に引き千切れた。

 ぶちぶちっ…
 
「こぉの、馬鹿ぁっ!」

 がっちり!

「ぐ、ぐごぉ…さ、さんみやくん、こここ、コブラは危険だ。せ、背骨がぁ…ぐおぁっ!」

 コブラ・ツイスト…

 会長、必死にタップしてギブ・アップを相手に伝えるが、三宮女史の瞳には暗い影が宿る。

 ぽきっ!

 …嫌な音がした。

「ハァ、ハァ…こ、これ以上女子生徒に対して、性的な羞恥を与えたり、男子生徒の性的な興奮を扇動しないで下さい!」

「…ろ、露出と言っても全裸と言う訳ではないよ。成績下位三十位までの男子はぴちぴちぱんつ、女子は紐水着とか…」

 床に這い蹲りながら尚もほざくその根性は見上げたものだが、三宮女史は既に次の行動に移っていた。

「私が許しません!」

 だんっ!

 三宮女史が顔面に向け放った追撃のスタンピング攻撃は、何故か空を切った。

「えっ?」

「三宮君、生徒会長は君じゃないよ?僕だ…」

 呆れた事に先程のコブラから瞬時に回復した生徒会長殿は、床から彼女の背後にあたかも瞬間移動したかのように立っていた。

 そして、『人生楽勝!』と書かれた扇子をガバッ!と、広げると天井に向け、高らかに宣言する。

「影ぇっ!」

「はっ!」

 天井からシュタッ!と降り立ち、殿様の前の忍者宜しく生徒会書記・景山充が片膝付いて平伏した。

「緊急会議を招集する!」

「御意っ!」

 返事の仕方まで時代掛かっている。

「か、景山君、何時から天井に…って、ああっ!待ちなさぁぁぁい!?」

 しゅたたたたーっ!

 三宮女史の必死の制止も聞かず、影山は役員召集の為、疾風の如く姿を消した。

「ふふ…三宮君、楽しみにしていてくれたまえ。ふははははははぁっ…」

 勝ち誇ったように高笑いする生徒会長の背中を見送る三宮女史は唇を噛み締め、改革阻止を心に誓う。

「ぜ、絶対止めてやる…」



 三宮女史の意気込みとは逆に法案は女性委員の病欠などがあり、男性票多数で成立した。

 病欠した女性委員はその日、生理が事の外重かったそうだ…

 まあ…そんなこんなで、選別試験が速やかに行われた訳だが…

 試験当日、副会長・三宮秋穂嬢の心労はピークに達していた。もとい、超過していた。

 生徒会では、信じられない様な法案がドンドンドンドンも一つドンドン男子生徒の横暴で押し切られるわ、生徒会長の戯言に怒髪天を突いて、頭に血が上るわ、怒りに任せて剣持に見立てた藁人形に徹夜で五寸釘を打ち込んでたりしたらそれが元で風邪を拗らせ、咳はゲホゲホ、鼻水ジュルジュル、頭痛で頭はズックンズックン、眩暈でフ〜ラフラ。

 その上、生理が来て、それがこれまで経験した事が無いほど重かったりして、試験は散々だった。

 結果、常に学年トップだった成績は、下から数えて三十位にまでどどーーーーーーんと急降下!

 つまり… 

「な、何これ!?」

 目の前に翳した懲罰用(?)の水着を見て悲鳴を上げる秋穂嬢。

 ワンピース派の彼女は、今までビキニなど着たことが無い。
 
 ハイレグ・カットが若干きつめなごく普通の黒いビキニだが、秋穂にとってはそれは布地が極端に少なく思えた。

「こんなの着れないよぉ…」

 これを着て明日から最低一週間、授業を受けなければならないと思うと涙が出てくる。

「なんでーっ?秋穂さんは、巨乳で、ないす・ばで〜だから似合うんじゃない?私なんか、つるぺただからこんなだよ?」

 相部屋の一年生、剣持雪乃が、肩に羽織ったバス・タオルをピラリと跳ね上げ、既に身に付けた水着姿を上級生に見せる。

 一年生の彼女は白いビキニだ。

 ちなみに3年生は臙脂色。

「か、かわいい…」

 胸は確かに薄いが、突如妖精が現れたような幻想的な愛らしさがあった。

 オジサン連中の気持ちがほんの少し分かる気がする。

 最近、肩まで伸ばしていた髪をベリー・ショートに短くした雪乃は、その手の人間殺しの保護欲を誘う魅力に満ち満ちていた。

「可愛い、すっごく可愛い!」

「でも、こんなので授業受けたくないなぁ…」

 天真爛漫な彼女が顔を曇らせるのを見て秋穂は無力感から急に胸が締め付けられる思いがした。

「ごめんね。止めようとしたんだけど…」

「秋穂さんの所為じゃないよ。ぜ〜んぶウチの馬鹿兄ちゃんがいけないんだからさぁ…」

 雪乃はそのぷにぷにと柔らかそうな頬をぷーっ!と膨らませて災いの張本人である肉親に不満をぶつけた。

 剣持雪乃…名前から察せられるが、彼女は生徒会長・剣持帯刀の実の妹である。

 彼らの実家は大層な子宝に恵まれ子供は一男八女を数える。

 帯刀の下には雪乃を含め8人の妹が居るのだ。

 秋穂は以前雪乃を交えてその内の四人と遊びに行ったことがあるが、雪乃同様美形揃いで綺麗だわ可愛らしいわ、中学生の癖に早熟したわがままぼでぃをお持ちだわで、とても華やかであった。他の姉妹はもっと凄い(何が凄いのか分からないが…)らしい。

 そんな“凄い”妹たちに常時囲まれ、風呂上りにはバスタオル一枚どころかトップ・レスでうろつくのは日常茶飯事、時には全裸で走り回っていると言うのだから帯刀の心痛察して余りある。

 何せ若々しい欲望を扇動している相手が実の妹たちでは邪な肉欲をぶつけようもないのだから…

 帯刀の性格や性癖があんなに歪んでしまったのはその辺の事情かもしれない。可哀想だと思わないでもないが、今回の事を含め彼が秋穂に与えた精神的痛苦を思えばそんな思いは霧散し、同情などしてやるものかと反発を覚えるのあった。

 ムカムカムカ…

 何かまた沸々と怒りが込み上げてくる。

 眉間に皺寄せる秋穂の様子に雪乃は気を逸らす為か黒のビキニをびろんっと彼女の目の前に翳して見せた。 

「ね?秋穂さんも着てみせてよ!」 

「えっ?あ…う〜ん?じゃあ、着てくる」

 …で、気分直しにとりあえず着てみた。

 自分でも意外に似合っているとか不覚にも思ってしまう。だが、しかし…

「こ、これは、やっぱりぃ〜…」

「秋穂さん、せっくしぃ〜っ!」

「だ、駄目だ。やっぱり…ああっ!?何、コレ?駄目だ。駄目…私、これは駄目だ。着て行けないよぉ…」
 
 使う相手もいないのに無闇にデカイ胸がいけない。

 合っているはずの水着のサイズが小さく、布地の面積が更に縮小して見えた。

 何時の間にこんなに育ったのか秋穂自身呆れるくらい以前よりバスト・サイズが増していたのだ。

 押さえ付けた胸肉がたっぷり食み出し、今にも零れ落ちそうである。

「どうしよ〜…」

 グラビア・アイドルのようにわざと胸の谷間を見せ付けるような恥しい格好に秋穂は絶望のあまりへなへな〜っと床にへたり込んだ。

「お兄ちゃん、秋穂さんの事が好きなんだよ。可愛い子ほど虐めたくなるとか、構ってもらいたくて、振り向いてもらう為に虐めに走るとか…」

 チィッ…

「ガキ…」

 忌々しげに舌打つ秋穂嬢。そんな彼女を見て雪乃は…

「この前家に帰った時、お兄ちゃん『ああぁ〜…さんみやく〜ん』とか言ってオナニーしてたよ。丸めたティッシュが枕元に3つ…」

 ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべて兄のとっても恥しい行為を暴露した。

 かの家にプライバシーは無いのだ(特に帯刀は…)。

「お、オナニー…?」

(お、おなぺっと…って、やつ?)

 最近夜夜中に変な気分になるのはその所為ではないのか?

 そんな日々の妄想に自分が使われていたと思うと、虫唾が…あれれ?走らない。

 あの何時もおちゃらけているものの、美形な生徒会長が自分の事を想像してマスターベーションしている。そう思うと、なにか胸が熱くなったりして…

 ぽんっ!

「そうか。多分吐き気か、胸焼けね?」

 納得したように手を叩き、ほんの少し芽生えた恋の雑草を無造作に抜き去る秋穂嬢。しかし、その踏まれ続けた雑草の根は意外に強く、且つ深かった…



 翌日…

「うわーっ!何、あの子たち、懲罰組?はずかしーっ!」

 一人だと心細いので二人で登校してみたのだが、余計衆人の目を集めてしまった様だ。

 何しろ可愛いのと、綺麗なのとが、水着姿で並んで歩いているのだから視線を集めない方がおかしい。

 校舎とは同じ敷地内にあるからさほど歩く訳ではないが、恥しい物は恥しい。

 二人で身を寄せ合うようにして登校した。

 一時間目は(レズと噂だが…)女教師で、さほど羞恥を覚えなかったが、二時間目は中年の男性教諭で秋穂の横に立ち止まっては胸の深い谷間を覗き見し、何度も当てては黒板まで歩かせる。

 机の間を歩く間男子生徒のいやらしい視線に晒されるのだ。

 それは水着ショーの様な華やかな感じではなく、まるで視姦される為に歩かされている様な非常に恥しいものだった。

(ちっくしょぉーっ!剣持の野郎、コロス!殺してやる!放課後になったら絶対殺る!魂ぁ取ってやるぅっ!?)

 悔しさで涙が零れそうになるのを堪えながら、三宮嬢は物騒な事を考えていた。

「ねぇ、三宮ぁ〜。次の体育だけどぉ…如何するぅ?」

「え?」

 図らずも同じ懲罰組になった友人が声を掛けてくる。

 彼女は赤点で限りなく最下位に近かった為、秋穂より露出度の高い水着を着ていた。

 学校に隠れてグラビア雑誌などのバイトをしている彼女は、秋穂くらいのビキニなら気にしないが、今のお尻丸出しの紐の様な水着は流石に抵抗があるようだ。

 必死に教科書で剥き出しのヒップを隠している。

「この格好でやるんでしょ?男女混合で…バレー・ボール」

 がーんっ!

「そ、そんなぁ…ふえ…ぐしゅ、ぐし…」

 こんな格好でそんな激しい運動やったら胸ポロとか、お尻に食い込んじゃったりしちゃうかもしれない。

 彼女みたいにVゾーンの手入れをしておけば良かった…

 いや、そんな事は関係ない。

 いやいや、関係あるけど…もしそうなった場合、体育の教鞭を執っているあのスケベ親父や、男子生徒にまでタダで肌を晒す事になる。

 そう!“タダ”で…だ! 

 金を取って客を集めた場合を想定し、算盤勘定すると今までの損失と合わせて大変な損害だ。

 そう考えると堪え切れない涙が、秋穂の目から流れた。

「どうしよ〜…」

 秋穂嬢が悲嘆に暮れたその時…

 どかーん!

 向かいの校舎から突然轟音が響き渡った。

 何かドタバタ騒がしい。

 一年生の教室のある二階の中央から左の階段まで机や椅子を窓から弾き飛ばし、校舎一階の左端から右端の下駄箱まで生徒や教師までも吹き飛ばして何かが、どどどっ!と高速で走っていた。

 見れば、何処かの馬鹿が可愛らしい女の子を拉致して粉塵巻上げ、こちらに向かって来るではないか?

 あれは…

 ぴーっ、ぴっぴーっ!

「生徒会長、御乱心っ!御乱心に御座りますぅぅぅっ!?」

 風紀委員が注意を促す為、警笛を鳴らして走り回る。

 その背後に人の姿をした猪が肉薄した。

「退けえぇっ!」

 げしっ!

 風紀委員の後頭部に蹴りを入れ、現れた猪は生徒会長・剣持帯刀その人であった。

「ああっ!さ、三宮君!?な、何てあられもない格好を…」

「お兄ちゃんが、そうさせたんじゃない!」

 何と小脇に抱えられた美少女は雪乃だった。

 帯刀のものだろうか、だぶだぶのジャージを羽織り、水着姿を隠している。

 彼女は剣持に抱き抱えられながら拳を振り上げ、憤懣やる方ない様子で抗議の声を上げた。

「うるさい!お前がそんなに馬鹿だとは思わなかったぞ?にいちゃんは悲しい!」

「答案に名前書き忘れちゃって…三科目ほど」

「アホ〜〜〜っ!もっと悪いわ、この間抜けぇっ!?」

「なによぉっ!」

「何だぁっ!?大体、なんで三宮くんまでもが…ああああっ」

 暫し、交歓を暖める兄妹。次いで帯刀は秋穂に目を戻すと眩しそうな、それでいて哀しげで、目が離せないけど見ちゃいけないんじゃないかな〜っ、だけど見たい!というような複雑な表情で赤面すると我に返ったようにわさわさと急わしげに慌てた行動を再開した。

「こここ、これを着たまえ、ささささんみやくん!」

 ワイシャツを着せ掛けようと焦って脱ごうとする剣持。

 彼はいつものにやけた態度は何処へやら、ひどく動揺していた。

「あ〜…会長閣下。懲罰の為の水着を阻害するような衣服を着けた者、または阻害する事を幇助した者は罰則が課せられます」

 その頭上で何時から天井に張り付いていたのか知らないが忍者・景山が忠告する。

 その言葉を無視して脱いだワイシャツを秋穂に着せ掛けると、彼は選挙中と生徒に負担を強いる時だけしか見せない真剣な表情で声を上げた。 

「影ぇっ、緊急会議を招集しろぉっ!」

「え?え?ぎょ、御意っ!」

 剣持が発した突然の命令に面食らう景山。しかし、いかに取り乱していてもこれだけ独裁体制を敷いた現状を突き崩すことはないと高を括り、今度はどんな珍改革をするのかとニヤニヤ口元を歪めて教室を出て行く。

「会長?」

「すまなかった…三宮くん」

 怪訝な顔を向ける秋穂に剣持は今まで全てのことを詫びる為か彼女に向かって深く頭を下げた。

 頭を戻した彼の瞳には何か訴えるような光を灯し、彼女を射竦める。

 彼女はこの時彼の言わんとすること、これからやろうとすることが察知できた。

 そして、その真摯な目に心奪われた瞬間、三宮秋穂の使う相手も居なかった大きな胸の奥が熱くなり、何故かキュンと締め付けられる。

 この時、三宮秋穂嬢は不覚にもあっさり恋に落ちてしまっていたのだ…

 
 
「ば、ばかな…」

 毎度の緊急会議の席上、景山は予想外の結果に顔色を無くし呆然と立ち尽くしていた。

 先ず試験結果による露出懲罰法案が白紙に戻された。

 今回は対外試合で男子役員が一人欠員したものの女子役員の一人は弱みを握っているし、会長権限として剣持には二票の権利がある。負けるはずは無かったのだ。

 次いでブルマー法案が審議されたが、これは高感度をアップさせた(男を引っ掛けるのに成功した)女性役員も加わり否決された。だが、その後は剣持政権となり、改革の名の下に行われた一連の『男子生徒の男子生徒による男子生徒の為の学園パラダイス化計画法案』群が続々と廃案になっていったのである。

 審議終了間際になって男子役員に離反者は居ない事が確認され、剣持の裏切りが明らかになると景山はすぐさま生徒会長のリコールを請求して解任に成功したが、既に後の祭りだった。

 就任直後から剣持は(出来もしないくせに…)党派を潰してでも校則改革を断行することを常々口にしていたが、逆にその改革を白紙に戻す事で磐石と思われた権力を手放す。

 ここに剣持政権の野望はそれを発案した最高権力者本人の手により潰えたのであった…

 

 緊急会議終了後、帯刀と秋穂の二人は授業をふけて保健室に居た。
 
 秋穂は真正直(馬鹿正直とも言う)な性格が災いして水着以外に体操服などの衣服をいっさい持って来ていなかった為、帰るに帰ることが出来ず同室の雪乃に頼んで持って来てもらう事にしたのだ。

 これは帯刀の『三宮君の肌をこれ以上他人に晒し続けるのは我慢ならん!』という涙乍らの懇願によるもので、結果三宮秋穂嬢は自身が持っていた託児所から続く連続無遅刻無欠勤無早退記録記を放棄することとなったのだが、彼女に躊躇いはない。

 これからわくわくするようなイベントが起こる事が予想できたし、その時は直ぐに来た。

 保健医は近所のパチンコ屋『パ〜ラ〜福狸』に行き、入口には『不在。気合で治せ』の看板。

 室内は二人きりだ…剣持帯刀は静かに口を開いた。

「三宮君…僕が君に与えた心的痛苦は許せる物ではないだろう。しかし、その怒りを一時どこかに置いといて、その傷口を僕に埋めさせてもらえないだろうか?ずばりはっきりきっぱり言うと三宮君…僕と付き合ってくれ!」

「はい」

 あっさり…暫し見つめ合う二人。

「へっ?」

「いいよ…付き合いましょ?」

 あまりの即答に思考の止まった帯刀に向けニッコリと微笑んだ。

「その…ずいぶん“あっさり”だね?」

「何っ?嬉しくないの?」

「いや…男の心情としては女性には恥じらいと共に漂う一瞬のむずがゆいような沈黙の後に頬赤らめて躊躇いがちに頷いて欲しいとかそういう幻想がありまして…」

「む〜…」

 男の幻想にむくれる秋穂だが、帯刀の顔が徐に近付いてくるとその余裕も無くなった。

「ちょ…ちょっとぉ!ななな何すんの、アンタぁっ!?」

「いや、お互い寮生活だからこういう美味しい状態は中々訪れる事はないだろう?だから早々に事を済ませてしまおうかと〜…」

「待っ…むぐぅっ〜〜〜…」

 帯刀はそう言うと有無を言わせず、秋穂嬢のファースト・キスを舌まで絡めて深〜く、長〜く、じ〜っくり奪い取った。

 ちゅっぽん!

「はぁ、はぁ…ま、待って。どっちが“あっさり”なのよ…嫌っ」

 帯刀は既に別の行動に移っていた。秋穂嬢の使う相手の居なかった黒ビキニに包まれた豊満な乳房に手を這わす。

「嫌?」

「嫌…じゃないけど…」

「じゃあ、いいじゃない」

 秋穂嬢が必死で拒否の姿勢を自制すると帯刀は益々増長してかのじょの首筋に舌を這わせつつビキニ・トップの紐をスルリと手馴れた様子で解いた。

「あ…ハァン…」

 帯刀の妙に女体馴れした愛撫に堪らず甘い吐息を吐く秋穂。

 彼女は脱力し、その大きな胸を躍らせながらベッドに深く体を沈み込ませた。

 帯刀の舌は首筋から乳房の先に登り、締まった腹部へと伝う。

「ちょっと御尻を上げてくれる?」

「う、うん」

 恥しげに腰を浮かす秋穂嬢から帯刀はこれまた手馴れた様子でショーツをスルスルとずらし、彼女の左足を抜いた。
 
 ショーツは秋穂の右太股に残し、彼女の足を大きく開くとその異性の目に触れたことの無いひっそりと淫水を湛える女陰に辛抱堪らず口付ける。

「わっ…ちょ…ちょっと」

「綺麗だ…」

 じゅる…

「ヒッ…」

 初めての異性の舌の感覚に一瞬若鮎の如く身を躍らせる秋穂。

 戸惑う彼女を余所に帯刀の愛撫は一層激しくなっていく。

「はふっ…な、なんか上手ぅ…」

「そ、そうか?」

「初めてじゃないんだ?」

 帯刀の手管があんまりにもバリエーションに富んでいたものだから秋穂嬢は冗談めかして聞いてみた。真剣にではなく本当にただの冗談のつもりだったのだが…

「うっ!ままま、まあ…その…うん」

 妙に戸惑う帯刀に秋穂は疑惑の目を向ける。

 聞く気は無かったが、どーしても気になる。

「誰?」

「い、いや、いいいーじゃないか。そんなこと…」

 前に付き合っていた女性がいたとしてもこれほど動揺することは無いだろう。そして、その相手が誰なのか明らかに言及される事を恐れている。

 秋穂の帯刀への疑惑は確信へと変わった。 

(ああ…やっぱり我慢できなかったのね…)

 彼女の脳裏に映し出されたのは実家でしどけない格好で歩き回っているという“凄い”妹たちの姿だった。

「へーっ?」

「せ、先生が戻ってくるかもしれないから…」

 …と、帯刀は慌てた様子で言うと服を脱ぎ始めた。

 ニヤニヤと彼の反応を悪戯っぽく楽しんでいた秋穂であったが、男の真っ裸や股間にそそり立ちながらブルブル揺れる“肉棒”を見ると平静ではいられない。

「いいいいっ?」

「じゃあ、いくよ?」

 股間の物に手を添えてにじり寄る帯刀に秋穂は破瓜よりもその先にある危機回避に頭が回った。

「ちょちょちょ、ちょっとまってぇぇぇっ!」

「此処まできて、今更何を…」

 帯刀に圧し掛かられる不自由な格好で傍らにある巾着から財布を手にした秋穂はもしも万が一(もっと確率が低いと思っていた)の時の為に入れておいた包みを取り出すとそれを彼の鼻先に突きつけた。

「こここ、コレ…付けて」

「あっ!?」

 コンドーム…避妊は大切です。以前、それをしなかったことで彼は精神面で、相手にとっては肉体面でも大変な目に遭わせた経験があるので『生がいい…』なんて我侭はもう言わない。

 冷汗を拭い、封を切ると手早く装着する。

「じゃあ…力抜いて」

「うん」

 帯刀は秋穂に軽く口づけするとそのまま腰を押し進める。

 ズッ…

「痛っ、たたた…」

「だ、大丈夫か、三宮君!?」 

 奥まで一気に押し入ってしまうと秋穂は破瓜の痛みで顔を顰めた。

「か、彼女を呼ぶ時は、苗字?」

「あ、秋穂…」

 帯刀が言い直すと秋穂は潤んだ瞳を細めでうっすら微笑むと彼の頭を抱き、大丈夫だとでも言うように髪を撫でた。

 帯刀も動きを止め、暫しお互いに口付けを交わしたり軽い愛撫などを繰り返す。

 そうしている内に徐々に若い二人の興奮は高まって行き、互いの愛撫の手も慌しく動き出す。

「ハァハァ…」

 帯刀が我慢しきれず押し開いた秋穂の足を抱え込み、激しい律動を始めるべく更に深く彼女の陰を貫いた。

ずんっ!

「あっ…ふ」

 今までの諍いを氷解させるように互いを求め合う二人… 

 この時、保健医は確変大当たりを引き当て絶好調で学校に戻る気配も無い。だが、彼らはある人物の来訪をすっかり忘れていた。

 それは…

「お兄ちゃん、秋穂さん、服持ってきたよぉ〜っ…って、アアッ!?」

「ゆ、雪乃(ちゃん)×2!」

 衣服を持ってくるように頼んでいた雪乃であった。

 彼女はその俊足を飛ばし、二人にとって予想外の速さで戻って来てしまったのだ。

 彼女は裸で絡み合う二人を見て一瞬固まったかと思うと直ぐに瞳をキラキラ輝かせて興奮気味に駆け寄って来る。

 そこからはもうただただ大混乱だった。

「お兄ちゃんたち、“せっくす”してるぅぅぅっ!」

「ばばば、馬鹿!お前そんな大きな声で…」

「今、授業中だからもう少し小さい声で…」

 素っ裸の二人は大慌てだ。こんなところを理解のある(混ざりかねない)保健医以外に見られたら即停学、最悪退学だ。

 だが、二人の不安を余所に幸い剣持改革でだらけた授業風景は未だに戻っておらず、雪乃の絶叫にも似た声はざわめきに紛れて消えた。

 雪乃は更に二人ににじり寄る。

「見せて見せてぇ〜っ!」

「あ、あのね、雪乃ちゃん?こういうことは他人に見せる物じゃあ…痛っ」

「さささ、三宮君、腰を妖しく動かさないでくれ…」

 破瓜の痛みに顔を顰める秋穂は体内でいまだ漲る帯刀のペニスを抜こうと身を捩る。だが、その行為が彼のモノを絞り上げ、膣璧で擦り捲くっている事に全く気付かない。 

「妖しくなんて動かしてない!すっごく痛いんだから!」

「ううぅっ…」

 男・剣持帯刀、我慢の時である。

「だってこういうの普通見れないし、私の時の参考になるから…ねぇ、お願ぁい!」

「駄目!」

「そうだ!駄目だぞ!」

 頼み込んでも駄目な物は駄目…でも、天然な雪乃には関係ない。
 
「え〜っ!お兄ちゃん、月乃ちゃんとしている時も、華乃ちゃんとしてる時も見せてくれなかったじゃない」

  興味本位で見学を主張する彼女はまたも兄の恥部をバラしてしまう。

「月乃ちゃんと華乃ちゃんって二人も…それに華乃ちゃんはまだ○学生じゃない!このロ○コン!ペド野郎ぉっ!?」

 ちなみに月乃は雪乃の下で一年休学して△学2年生、華乃は双子を挟んでそのまた下の5番目の妹でまだ○学6年生である。

「くくく、首を締めるな、三宮君!」

 首を締められ、危ない快楽に目覚めてしまう帯刀。

「こいびとをよぶときはぁぁぁっ?」

「あああ、あきほ…さん」

 彼は既に尻に敷かれていた。

「わ〜っ、恋人だって!こ・い・び・と!?」

「雪乃ちゃん、お願いだから出て行ってくれない!?」

 言葉尻を捉えて一人盛り上がる雪乃にさしもの温厚な秋穂嬢も切れる。

 少し強い調子でお願いするのだが…

「え〜っ、ヤダーッ!」

 …不発。

「あ、秋穂…そ、その腰使いは危険だ!きけ…」

 その頃、男・剣持帯刀の忍耐にも限界に来ていた。

 秋穂自身気付かない事だったが、それを身を以って体験している彼には堪らない。

 彼女のそれは正しく名器であった。

 それをさっきからぐりぐりぎゅうぎゅうぐりんぐりんされているのだ。

 そして、彼は限界を…超えた。

「え?」

「うっ!」

 どぴゅっ!

 ………

 ……

 …

 夕暮れ…

「ふぅ〜〜〜っ…」

「いい加減忘れたら?」

 深く溜息を吐く帯刀に秋穂嬢は痛む腰を庇いながらヒョコヒョコと歩き、呆れたような声を上げる。

「しかし…君の初体験をこんな結果に終わらせるのは男として情けないというか、申し訳ないというか…それに君はいいのか、こんなんで?」

「確かにね〜…もう少し辛抱強いかと思ったら意外にあっさりでぇ〜」

 ギクッ!

「うっ!」

 その言葉に込められた蔑みの色は帯刀の心に大きな槍となって突き刺さる。

「私の魅力で漸く正気に立ち返った王子様が実は早ろ…おっと!」

 ギクギクッ!

「ううっ!?」

 更に二本ほど…コレはちょっと抜けそうに無い。

「その王子様は実のいも××…で童貞捨てて、○学生にも手を出す鬼畜野郎だったとか〜」

「そそそそんなことは…」

「な〜んて、“全然”気にしていないわ!」

「うううっ…」

 絶対気にしている。

 瞳の奥から嫉妬の炎がメラメラ燃えているところから見ても気にしてないなんてことは“絶対”無い。

 進退窮まる男・剣持帯刀…だが、意外な人物が意外な形で助け舟を出した。

「やられましたよ…剣持“元”生徒会長!」

「か、影…」

 校門の前で文句言ってやろうと待ち構えていた人物は(生徒会長解任と共に生徒会は解散している為)元生徒会書記・景山であった。

「“影”などと気安く呼ばないで貰いたいなぁ…この裏切り者め!」

「ああ…まあな」

 裏切ったのは事実であるし、この進退窮まった現状から抜け出す事が出来るのであれば、如何でも良かった。既に彼の中で侵し難い存在になっている秋穂に比ぶべくもない景山のようなアブラムシより小物に嫌われたところで別に害があるわけではない…

「ふふふっ…聞けぇっ、三宮秋穂ぉっ!容易く生徒会長になれると思うなよぉっ!明朝八時から正午までの立候補受理時間までその身に不幸が無いように気を付けることだなぁっ!?」

「…私、今回は出馬しないよ?」
 
 秋穂はウンザリしながらも立候補を否定するが景山の耳には届かない。

「剣持ぅっ、お前は堕落したのだ!そんな乳の無闇にでかい女一人に惑わされ、崇高な目的を放棄するなど正に愚の骨頂っ!俺がお前に成り代わって必ずや男子生徒のパラダイスを実現する!そして、その頂点に立つのはこの俺ダァァァッ!俺はお前のような甘ちゃんとは違うぞ!女生徒を全裸に剥いて授業するまで徹底して…」

 自分の言葉に酔い、演説をし始める景山。

 その瞳には夢想の中での聴衆がひしめき合い、その耳には幻想の中の歓声しか聞こえない。

 最初から付き合う気の全く無い二人はその傍らを楽しく談笑しながら通り過ぎていく。
 
 秋穂は大胆にも帯刀の腕に抱き付き、耳元で甘く囁いた。

「ねえ…ホテル寄って行こうか?」

「え?いや、その…だけど…」

「イヤなの?それとも…帯刀君は本当に『早漏』なのかなぁ〜?」

 秋穂の淫靡な提案に暫し戸惑った様子の帯刀であったが、此処まで挑発されては男が廃る。

「…行こう!」

「うん!」

 何時の間にかあっさりラブラブ度が急上昇した帯刀と秋穂の二人には上空に舞う烏の声すら祝福の声に聞こえた。

「…つまり、ヒトラーの例を取るまでも無く、独裁政治の根幹とは…」

 邪悪な演説に呼ばれてきたかのように集まる烏たちの下、景山充の独演会は何時まで経っても終わらない。

 おびただしい烏の糞は妄想の中で彼に降りかかる紙ふぶきである。 

 彼の演説は一夜明け幸せいっぱいの二人が“夕刻”再び下校してくるまで続いた。

 そして、蛇足ながら何故か翌日ヘロヘロな剣持帯刀。

 三宮秋穂嬢は今まで使う相手の居なかった大きな胸を存分に駆使して彼をヒイヒイ言わしたという…



 (終)


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