それは…一瞬の出来事だった。

 昇降ドックに入った瞬間、彼女の戦車人形は四肢を切断され、作動不能に陥ってしまったのだ。

「Lynx-4!応答しろ…糞っ!駄目か!?」

 ミスった。

戦車人形を地下五階の坑道に降ろすのに、安易に昇降ドックを使わせたのがいけなかった。

 単体で、しかも、密閉され、身動きの取れない場所に部下を送り込んでしまったのだ。

 時間が絶対的に足りない事が焦りを生んだのか?

 速やかに“奴”を破壊しなければ、とんでもない事になると言うのに…

「…カメラは生きているか?」

 戦車人形の状況は逐一指揮車両に送られてくる。

 彼女…ケリー伍長の機体は四肢の電気系統が断線。

 現在仰向けに横たわった状態だが、カメラは無傷の様だ。

「上等兵、カメラ連動、モニターに映し出せ!」

「イエッサーッ!」

 戦車人形頭部のカメラ・アイは、横転した時の為に首筋のジョイントを外し、最大三つに分離して自立駆動する事が出来る。

「映像、出ます」

 其処には…

「こ、これはぁ…」

「キャプテン!ビデオ、回していいッスか?」

「許可する!子細漏らさず記録せよ!?」

 素晴らしい!…いやいや、陰惨且つ、目を被わんばかり…いや…でも、これを見なけりゃ男じゃないって言う光景が映し出されていた。


 Be…


 ケリー伍長は健在だった。

 しかし、そのスラリと長い足にケーブルの様な物が絡み付き、敵に捕獲されている。

 傍らに横たわる戦車人形は、芋虫状態で既に戦闘能力の無い事は明らかだった。

『ヤメロォッ!糞っ、俺に触るなぁっ!?』
 
 ケリー伍長は、所謂マッチョなタイプの黒人美女だ。

 しかし、女を捨てた様な無骨な女性ではない。

 その肉体は猫科の獣を思わせるしなやかで逞しい筋肉に覆われているが、女性らしく腰回りが豊かで、そして…メロン大のたわわな乳房が実っている。

 逃れるようと激しく上体をくねらせ、乳房の激しく揺れる様は淫らで、男達を悩殺した。

 そして、彼女の現在の姿。

 戦車人形の搭乗服は余り人前に見せられる格好ではない。

 特に彼女の駆る『鉄火場の風 』は、新型のスキン・シンクロ(皮膚の微妙な動きをトレースする)・システムを搭載しているだけに、ストッキングの様な極薄の生地で、乳首が抑え付けられている様がまざまざと解るほどだ。

 恥ずかしい部分を何ら隠すことなく、白くピッタリスケスケで彼女の黒い肌に淫靡な彩りを添えている。

 また、排泄用のサポーターがスーツに装着されている男性用と違い、女性用は戦車人形から直接機器が装着される為、股間は丸空きの状態である。

 排泄後に拭く事が出来ない為、陰毛を剃り落とす女性が多く、ケリー伍長も御多分に漏れず、無毛の恥丘を晒していた。

 しゃかっしゃかっしゃか…ズウゥゥゥゥゥゥッムッ!

 其処にカメラ・アイが、尺取虫みたいに脚をカシャカシャ言わして近付くと、真下からのロー・アングルで彼女の叢のないヴァギナを拡大していく。

 成熟した女陰からは陰唇がビラビラはみ出しており、黒い肌と対照的に綺麗なピンク色だった。

「上等兵!」

「何でありますかっ!?」

「良いカメラ・ワークだ!」 

 大尉、親指をぐっと立て、白い歯をキラリ〜ン☆

 上等兵もそれに応え、キラリ〜ン☆

 此処に新たな友情が芽生えた。

「カメラを分離して全体も映したいのでありますが!?」

「何っ!未だやっていなかったのか!? 許可する。直ぐに三分体して、やりたまえ!」

「イエッサーッ!」

 戦車人形の搭乗員は皆、『加速剤』という向精神薬を投与される。

 知覚反射上昇、筋反応上昇、興奮状態を持続させ、恐怖心を抑制、攻撃衝動を上昇させる。

 つまり、反射神経が良くなる代わりに肉体は興奮状態で非常に感じ易く、常時盛っている状態だ。

 戦闘終了直後に感じ過ぎて腰を抜かしたり、ドックで男を誘ってセックスしている女性兵士をよく見かけるが、当のケリー伍長はインテリ・タイプで取り乱す事が無い。

 男嫌いで身持ちが固く、一説ではレズビアンではないか?との噂もある。

 そのケリー伍長のヴァギナは、見ているこちらが恥ずかしくなるほどジットリと濡れそぼっていた。

 今正に”奴”に襲われるという時に愛液が糸を引いて垂れているのだ。

「キャップ…これ基地内でいっぱい売れますよぉ〜!」

「馬鹿言え!市販で売れば、億万長者だ!」

「いいッスねぇっ!」

 ケリー伍長は基地内で密かに人気がある。

 知的でキツイ印象のある彼女だが、その美貌はもとよりスタイルが抜群なのだ。

 大柄でグラマラスな肉体は、トップ・モデルですら平気で吹き飛ばすだろう。

 短く刈った髪や、男言葉で気が強いところなどは、何か『屈服させてやりたい!』とか〜、『穢したい!』とか言う男の嗜虐心を微妙ぉ〜に刺激したりしちゃう訳なんですよ…はいっ!?

  にゅろん…じゅろろろろぉぉぉっ!

 滑りを帯びた触手が足元を這い上がっていく。

『や、やめろぉぉぉっ…』
 
 ”奴”の本体は未だ見えない。

 カメラを動かせばいいのだが、それすらも、もったいない。

「よし!そこダァッ!行けぇっ!?」

「あっ!糞っ、フレームから外れた…」

「何とかしろ、上等兵!」

 カメラの有視界が三分割するとどうしても狭くなる。

 麗しのアマゾネスを余す所無く写すには、余りにも数が少ないのだ。

 にゅろん!

「むっ?な、何だ!?」

 2番カメラの画像の端に触手の先が映る。

 4本のマニュピュレイターの下二本をクニッと曲げて上二本で器用にピース・サインを送る。

 そして、手信号…

「おっ…何々…回る?っは…置いといて。波が一杯?びりびり…電気か?いやいや、電波?おお!周波数か!?」

 クイッ!と、OKサイン。

「…正解!えいてぃーふぉー…ぽいんとせぶん…84.7に回せと!おっけー、おっけー!」

 大尉、結構楽しかったりする。

 正解に大はしゃぎ!

「キャップぅ、回しましたよぉ〜?」

「…って、おい!上等兵。電子戦でも仕掛けられたらハードがパンクするぞ!」

 戦車人形は一度アクセスすると高出力の電磁バラストを送り込み、そのまま機器を沈黙させるまでロックする。

 不用意この上ない行動である。しかし、それは杞憂の様だった。

「アー、テス、テス?」

 流れてきたのは、のんびりした感じの16和音。 

「B型か?」

「ハイ…試作3番デス」

 “奴”こと、試作3番…正式名称『夜の牙』BE量産型試作3番機への6号は、結構話の分かる奴だった…

………

……



「ほう…そりゃあ、つらかったなぁ〜、Beやん?」

「ア、有難ウ御座イマス…キャップ。貴方、イイ人デスネ」

「そ、そんな可哀想な事があったなんて…」

 事の子細を聞き終えた時、3人(?)の間に垣根を越えた漢の友情が芽生えていた。

 子細はこうである。

 コード・ネーム『夜の牙』量産化計画が頓挫する以前に試作機が5機、しっかり完成していた。

 開発者のドクター・ハミルトンは、仕事キッチリな性格で手抜きの余地の無い人であった為だ。

 B型試作1番は被験者を得て、その性能を存分に発揮し、実験は大成功(不妊症であったにも拘らず、出来ちゃったとか?)だったという。

 しかし、男の生物学上根源的役割が如何とかの理由で軍高官は彼らを実践投入する事なく、廃棄を決定した。

 廃棄決定の通達が来たその夜…

 1番機の被験者の協力を得て、脱走計画が発表され、意見が二分した。

 軍を見捨て、新たな新天地を見つけようとする1、2番。

 いや、それこそが軍を恐れさせる原因であるとして、信じて残りたいとする4、5番。

 その間に挟まれ、何とか3番は事を収めようと努力したが、元々プリントした性格情報マトリクスが違う事から強硬な人格を持つ1、2番を止める事は出来なかった。

 そして、3番自身の心にも、あるしこりが残る。

 テスト・ベッドとして1番機は被験者を得たが、2番からは、その必要無しとされたのだ。

 1番の自慢気な語り口には日々、忌々しい思いもしていたし、一度も経験しないで廃棄されるのは絶対イヤだった。だから、彼も1、2番を追い、脱走したと言う。

「今モ5番ノ『待ッテ!行カナイデ!兄チャン、置イテ行カナイデ!』の声が耳にこびり付いています…ウウ」

 うにょにょにょぉぉぉぉっ…

『うあ、ああっ、や、やめ…ろぉ』

 既に廃棄されているかもしれない弟達の事を思うと今も胸が痛むそうだ。

 心無しか伍長に絡み付いていた触手にも力が無い。

 それでも敏感になった乳首や肉芽を捏ね繰り回されてケリー伍長感じない訳が無かった。

 伍長は3番の拙い愛撫に体を開き始めている。

「俺、童貞のまま死にたくないって言うのよく分かりますよ…」

 上等兵が目に涙を溜めて言う。

「まさか…君はチェリーか?」

「いえ…初体験は妹で済ませました。あの締まりの良さを知ってしまうと童貞じゃ無くて良かったって思うんッスよ」

 上等兵、傍らのティッシュを一枚抜いてチーン!と鼻をかむ。

「いいなぁ。妹さんって、この前写真で見せてくれたあの可愛い子だろ?まだ○学生か?」

「この前、△学生になりました」

「俺は…ソープだ。しかも、外れでオバチャン…くぅ!」

 大尉…袖で涙を拭い、潤んだ目を遠くに向けた。

「うわっ、そりゃ悲惨だ!」

「キャプテン。オ気ノ毒ニ…」

 上等兵は大尉の肩を優しく叩き、3番はモニター上で何とか場を盛り上げようと触手で皿を回す。

 ここに野獣3匹に確固たる友情の絆が結ばれた。 

「分かった!Beやん、初体験は大切だ。犯っちゃいなさい!」

 大尉殿、涙を振り払って、敬礼。

 上等兵も、それに倣う。

「キャ、キャプテン…イエッサーッ!」

 漢の敬礼だったとさ…???

 その頃、ケリー伍長は?と言うと…

(如何すればいい?如何すれば…)

 触手に足を絡み付かれて身動きが取れないでいた。

 引き抜こうとしたが、これが意外に力があってギュギュウ締め付けてくる。

 小型でも戦車人形と同様のスペックを持つB型。

 触手による超振動鞭の攻撃で自機が一瞬にして沈黙させられた事から見ても、恐ろしい潜在能力を秘めている事が窺えた。

 しかし、そのコンセプトは従来の殺戮兵器とは似ても似付かぬ物だ。

 B型は今までの火力重視の設計思想から程遠い、淫らな機能を満載した色情重視の機体である。

 今までに感じた事の無い忌まわしい、それでいて身を蕩かす快楽に支配され、体を開きかけている自分自身に恐怖する。

 そして、彼女にはある焦りがあった。

(クソッ、漸く敵国との和平交渉が成立したのに…)

 5日後正午を以ってこの旧市街二区画を引き渡す事で、休戦協定は成立する。しかし、自軍の新型戦車人形三機が離脱し、選りにも選ってこの区画に潜伏しているというのだ。

 無人試作機ゆえに停止コードも効かず、勝手に動き回っている。

 臨床例は少ないとは言え、妊娠達成率100%。

 不妊治療にも最適という代物。

 敵軍、特に女性将校にでも襲い掛かった日には、和平など木端微塵だ。

 速やかな破壊…それが任務だった。 

 なのに…

(このままじゃ、俺も…ヤバイ)

 B型の精液の貯蔵タンクはエンジンの小型化により3リットルから4リットルに増強された。

 しかも、オリジナルには精巣という生身の部分から精子を製造する為、如何しても限界があったが、B型は新型の培養装置により強化された優良遺伝子を無限大に増殖出来るのだ。

 一般に精液は空気に晒されると死滅するが、実験段階で三日生きた。

 何と排卵後、高温期でも着床した例があるという。

 つまり、膣内で出されれば、妊娠は必至。

 自分が大きなお腹を抱えている姿や、赤ん坊に母乳を与えている姿を思うと鳥肌が立った。

(ああ…大尉、助けて)

 今回の作戦責任者ヘンドリック大尉は、今までの上司の中でちょっとマシな士官だった。

 キャリア・エリートでありながら、戦車人形での実戦経験が豊富で、尚且つ傲慢なところの無い、気さくで面倒見の良い、隊の“兄貴”だ。

 黒人である事。そして、女性である事でケリー伍長は幾つもの偏見に晒されてきた。

 それを知った大尉は、(単に下心からなのだが…)入念にカウンセリングを行い、彼女の影で様々な便宜を図ってくれていたらしい。

 今まで差別と戦い、突っ張ってきただけに彼女はその事実を知ってコロリときた。

 いつしかケリー伍長は彼に淡い恋心を抱くに至る。  
 目を閉じれば、白い歯をキラリ!っと輝かせ、美形度五割増しした大尉の姿が映った。

 その大尉殿は?と言うと…

「は〜い。男優さん、4番マニュピュレイターの吸引を使ってヴァギナを攻めてぇ〜!」

「ダ、男優サン?」

 『男優さん』こと、3番に指示を出していた。

「いや〜、Beやんの御蔭でカメラの心配がなくなりましたねぇ?いい映像撮れてますよ、監督ぅっ!」

「いやいや、君のカメラ・ワークあってこその絵だよ」

 3番の元になったのは、隠密性の高い、偵察用の機体だ。

 各種センサーに加え、映像・音声記録用機器が充実している為、当初の機器不足は一気に解消された。

 健全な少年ならば、見ただけで噴出してしまいそうなとんでもない映像がてんこ盛りだ。しかし、被写体がグラマラス・ビューティーと言っても、ただ写しただけでは迫力のある映像にはならない。

 これは監督の大尉とカメラマン上等兵の軍人離れした確かな腕があってこそだった。

 お互いの功績を讃え合う大尉と上等兵。しかし、玄人跣の二人とは対照的に3番は戸惑っていた。

「カ、監督…僕、如何スレバ…」

 3番の性格情報は、まだ当時12歳の新兵のものだと言う。

 生身の女性の裸など見るも触るも初めてで、如何したら良いのか分からず、躊躇してしまうのだ。

 愛撫の仕方一つ取っても見てるこちらがもどかしくなるほど稚拙で、適切な誘導が必要だった。

「触手でペニスを擦り立てて、それを彼女に見せ付けるんだ。そして、こう言う…」

 既に監督気分の大尉殿は男優さんに演技指導を施す。

『へへ、オボコ娘ジャアアルメェシ…コノ俺ガ天国ニ連レテッテヤルゼ!』

『イヤァァァッ!』

 3番の役どころは、甘酸っぱい童貞少年役ではなく悪役ドロドロの機械淫魔であった。

 『“オボコ”ッテ何ダロウ?』とか思いつつも、根が素直な3番は大尉の言葉を一言一句違えることなく復唱する。

「アノォ…監督、イヤッテ言ッテマスケド…」

「嫌よ嫌よも好きの内と言うんだ。セックスの最中に女性は、自分の意に反した事を時々言うから気にするな、Beやん!」

 初心な3番にとんでもない誤情報を教え込む大尉。

『大尉、助けて下さい!助けてぇっ!』

「コレモ…デスカ?」

「う〜ん。心が痛むなぁ…でへへへ」

「監督!涎、涎…」

 ケリー伍長の悲痛な叫びを聞きながら涎を垂らす大尉に上等兵は傍らのティッシュを一枚…

「よーし、十分濡れてるようだから一気に挿入してみよう!豪快に彼女を犯し捲くれ!そして、最後は膣内大量射精ダァっ!?」

 監督さん…ちょっと脳内アドレナリン過多気味だったりする。

「ハーイ!…イイデスカ、監督ゥ?」

「何だい?Beやん」

 モニターで触手の一本を挙触手する3番。

「ソウスルトコノ御姉サンハ、カナリ高イ確率デ妊娠シテシマイマ〜ス!」

「うっ!そうだった…」

 B型の製造目的は、敵国女性の性具での篭絡、及び、自国民の“繁殖”によって敵軍の戦意を挫く事にあった。

 その設計思想の恐ろしさは、地上最強の殺戮兵器たる戦車人形を単なる種付け機械に問答無用で貶めた点に集約する。

 つまり、単にその為“だけ”に造られた機械であるから結果は火を見るより明らかであった。

 そして、3番は大尉にある衝撃の事実を伝える。

「ソレニ…コレハ全ク偶然ナンデスガ、僕ノタンクニ貯蔵サレテイル遺伝子情報ハ、被験者ナンバー4882…監督ノ精液ヲ示シテイマス。ツマリ、生マレテクルノハ、遺伝学上貴方ノ子供トイウ事ニ…」

「なぬっ?」

 大尉は以前、爆乳美女医に新型男性専用マッサージ器とかいう掃除機みたいな機械を勧められた事がある。

 内側に襞々のあるホースに股間のモノを挿入し、高出力バキュームで吸い込むヤツだが、これがまた…えらい気持ち良くて…

 死ぬほどアレを吸い取られた覚えがあった。

(まさか、本人に無断でB型に装備されているとは…)

 大尉は暫し呆然となった。

 3番は申し訳なさそうに体を竦め、四連スコープで上目遣い。

「ボボ、僕トシテモ、コンナ綺麗ナ御姉サンニ膣内射精デキルナラ廃棄サレテモイイクライデス。デモ遺伝子情報ノ所為デ御世話ニナッタ監督ニ迷惑ガ掛カルト思ウト…」

「ケリー君が、俺の子を…でへっ!?」

 あの強気で生意気、でもちょっと気になるケリー伍長が大きなお腹を抱えている姿や、赤ん坊に母乳を与えている姿を思うと大尉は常ならぬ興奮を覚えた。

 破顔一笑(顔面土砂崩れの上、だらしない口元からパッと見、変態的且つ猟奇な大馬鹿笑い)…

「よぉし、分かった!生まれてくる子もケリー伍長も俺がキッチリ責任を持つ!しかし、Beやん…遺伝子情報が俺のものだと言うのは内緒だ。いいな?」

 大尉の余りに潔いお言葉…

「監督…何か如何わしい事考えてるっスね?」

 これは何か良からぬ事を考えている。

 大尉の思惑は解らずとも、その根底に流れる漢(すけべ)の心は上等兵に理解出来た。

「あっ、分かっちゃった?」

 ささやかな野望を看過された大尉殿、照れ笑い。

 上等兵は大尉の不可解な妄想に呆れながらもBeやんを促す。

「Beやん、そんな訳だから気にしないで犯っちゃいな。本番無いと締まらないし…」

「ハイ、頑張リマス!」

 3番は固い決意を胸に美女の秘肉に挑む。

 今、ここに三匹達の(ケリー伍長には悪夢の様な…)快進撃が始まった。

『ヘヘ、行クゼ。俺様ノデカ摩羅デ犯シ捲クッテヤル!』

 ドロドロ淫魔王Beやん絶好調!

 しかし、内心は…

(ワァッ、ワアッ!ボボボ、僕…コレデ大人ニナルンダァ〜!)

 何が変わる訳でもないのに、何処までもチェリーであった。

 それに対し、模造とは言え、限りなく本物に近い巨根を濡れそぼる女陰に宛がわれ、今正にレイプされようとしている当のケリー伍長は、何故か期待に胸膨らませていた。
 
(ああ…俺、また犯されちゃう…)

 ケリー伍長は処女ではないが、その初体験は悲惨な物だった。

 飲み慣れない酒で酔ったところを集団でギャング・レイプ(輪姦)されたのだ。

 結果、妊娠・堕胎と言う二重の悪夢を経験する事となり、以来そのトラウマから男性との付き合いが出来なくなっていた。

 しかし、彼女も『人形遣い』であり、若く健全な女性である。

 性欲が抑えられない事もある。

 そんな時には、異常な事と知りつつも、女性士官達との淫らな性行為を繰り返した。

 それでも、何か満たされない。

 彼女の性質は、意外にも攻め捲くりの“タチ”よりも総受けの“ネコ”であり、真性のレズピアンでもない。

 女性士官達の巧みな性技に弄ばれ、悶える内に開発された淫らな肉体は、何時しか男を求めて疼き出した。
     
 あのMIN7P〜MAX18Pの両手扱き・パイ擦り・三穴攻めレイプの忌まわしい記憶も、吐き出された汚らしいスペルマの味も甘美な物に摩り替わる。

 B型の各種淫らな装備のレクチャーを受け、破壊計画に参加しながら彼女はこうなる事を望んでいたのかもしれない。

 今、彼女の性欲を満たす巨大なモノが…

『イクゾッ!』                                                          
『イヤァッ!?』

 大尉の言う事もあながち嘘ではないらしい。

 ケリー伍長は口では嫌と言いつつも、自ら大きく股を広げた。

 ずぶぅーっ!

『あぁん!おっきぃぃぃっ!?』

 喜悦の声を上げるケリー伍長。

 だが…挿入した直後、3番は…

『アヘッ…』

 どぴゅっ!と…

『え?』

 余りの早さに一瞬何が起こったのか解らないケリー伍長…

「Beや〜ん!?」

 超絶的な早漏振りに情けなさで絶叫する上等兵…

「ス、スミマセン。アンマリ気持チ良クテ…」

 …アッサリ果ててしまった。

 男性は最初から早漏であると言われるが、それにしてもこれは…これは、あまりにも情けない。

 ここに三匹の野獣の快進撃は終わった…

 ………

 ……

 …か、に見えた。

「三番機、止まるな!引くな!詫びる暇があるなら、精液噴出しながらでも敵を沈黙(絶頂)させるまで腰を動かせ!攻撃(ファック)しろ!この早漏野郎ぉっ!?」

 しかし、大尉“殿”が天性の指揮能力を発揮し、3番を叱咤する。 

「ハ、ハイッ!」

 大尉の命令に、動揺していた3番は猛然と腰を抜き差しし始めた。

 空白の時間は短く、決定的なロスではない。

 ガッシュッ!ガッシュッ!

『あっ、あぁあん、ダメ〜っ!お、大き…激し過ぎるぅ…』

 そのストロークの激しさに呆然としていたケリー伍長は堪らず喉を逸らし、快楽を逃そうとする。

 何とか流れを保つ事が出来たが、これではまだ絵的に寂しい。

 何かインパクトのある武器を示し、観客を沸かせなければ…

「触手は如何した、三番機っ!BE量産型には、他にとんでもない裏技があるだろう!そいつも出せっ!?敵を殲滅しろぉっ!!」

「イ、イエッサーッ!」

 バクンッ!

 『夜の牙』特有の巨大な肩部装甲が持ち上がる。

 現れたのは副腕とも言うべき、全方位アクティブ・ウエポン。

 鷲の足に似た巨大なパイル・バンカーだ。

 その左右合わせて6本の爪に当たる部分は野太いイボイボペニスがあった。

 グリョンッ!?

 伸びた…触手ほど長さも自由度も無い様だが、その直径は一本一本が股間の大砲に匹敵する太さがあり、尚且つ丸々した真珠大のスパイクが無数に穿たれている。そして、その先には尿道口と思しき穴があり、先走りを滲ませていた。  

「監督、フォロー入れた方がいいんじゃないっスか?」

「Beやん、こう言え…」

 “大尉殿”から監督に戻った大尉は即興で台詞を加える。

『ヘッ、アンマリ狭クテ思ワズ出シチマッタ。ヤッパリ俺ノデカ摩羅ニハ狭過ギタナ。安心シナ…孕マスマデ出シ続ケテヤルゼ!コイツデナァッ!?」

『ひっ、ひぃっ!も、もう出さないで…出来ちゃう。赤ちゃん、出来ちゃうぅっ!?』

 これにケリー伍長何時もの気の強さは何処へやら涙をボロボロ流して泣き出した。

「女優さん、良い演技だぁ。普通、レイプされたら泣き叫ぶだけだが、ちゃんと対応してるじゃないか?よ〜し、ここから裏技で攻め捲くるぞ。Beやん、アヌスに挿入しろ!それから…」

 妊娠の危険に怯え、身を震わせる部下を嘲笑い、次の指示を出す大尉…そして、それはとんでもないものだった。

「エッ?エエッ!?ソ、ソンナ…事シタラ御姉サンノアソコバカリカ色ンナ所ガ裂ケチャイマス!?」

 流石にこれは飲めないと反論する3番。しかし、悲しいかな彼は軍用機である。

 気弱な事も手伝って命令には絶対服従であった。

 しかも、“大尉殿”は“監督”のちゃらんぽらんさが消え、異様に迫力があり、とても怖い。

「命令を実行しろ、三番機っ!」

「イ、イエッサ〜ッ!?」

 余りの迫力に恐怖に竦み、命令を実行に移す。

 じゅろろろろろろろろろろろろろろろぉぉぉぉぉぉっ!

『ヤ、ヤダッ!止めて!?其処は赦して…お願い!御尻は嫌ぁっ!?グゥッ!?んひぃっ!いぎぃぃぃっ!!』

 触手と肩部ペニス・パイルが群れなして襲い掛かる。

 先ず一本がアヌスに入り込んでいく。

 ずぬぬぬ…

『痛ぁいっ!痛いよぉっ!?』

 それに続き、もう一本ズッポリ…

 先に挿入された一本と螺旋状に絡み合いぐりょんぐりょん奥へ奥へと突き進む。

「いいね!いいねぇ!」

「いいっスねぇ!」

 そのアナル、ブッ込みシーンの様を克明に写し撮った映像を見て、大尉と上等兵はパチンとハイ・タッチ!だが、暴行はそれだけに留まらない。

 触手が絡み付き、前後にズッポリ肉棒を嵌めたケリー伍長の肉体を持ち上げ、位置を整える。

 駅弁スタイルで固定。

 そして…大砲の入っているヴァギナに触手ではなく、肩部ペニスを宛い挿入した。

 ごりゅっ!

『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 肩部のペニスは、カチカチの股間大砲に比べて芯が無く、フニャフニャで柔軟性がある。

 もう一本ばかり挿れても、裂ける事は無いだろう。

 しかし、スパイクが埋め込まれている事で、その圧迫感は彼女の耐性を遙に越えた物だった様だ。

 挿入された途端、ビクビクと痙攣し、身を震わせると…

 しゃぁぁぁぁぁぁーっ!

『ひは、ひっ…ああ…』

 …失禁した。

「うーん?これは如何かな?嫌いな奴も居るだろうなぁ…」

「えーっ!俺的には、おっけーッスけど…カットして後で特別版とか作りましょうか?」 

「う〜ん?俺も個人的には良いんだけど…」

 監督、根がノーマル思考なのか、このシーンはお気に召さない様だ。

 これに根が真面目な3番はスッカリ動揺していた。

「監督ッ、監督ゥッ!ドドドド、如何シマショウ!?」

「落ち着け、Beやん…続けろ!」

 3番は動揺しながらも命令を実行する。

 それは、ケリー伍長にとって悲劇でしかない。

『嫌ぁっ!痛い!痛いのぉ!?もう、止めて!赦してぇ!!』

 ズシュン!ズシュン!

 アヌスに入り込んだ二本のペニスが、空気圧を利用してズコズコと抜き差しを繰り返していた。

 引き裂かれた粘膜が捲れ上がり、無残な姿を晒す。

 ドガシュ!ドガシュ!

『あっ!?も、もう駄目…もう、俺…アタシ、死ぬ!死んじゃうぅ…』

 女性器も同じく二本のペニスを喰い締め、乳首・肉芽には触手が吸い付き、縦横無尽黒い艶やかな肌に愛撫を繰り返す。

 うにょにょにょぉぉぉぉぉっ!

『イクゥ、イクゥッ、イッちゃう!イクッイクッ、イックゥゥゥゥゥゥッ!?』

 快楽は逃す場所が無く、蓄積され、そして…暴走し始めた。

 ジュルルッルッ!ガシュンガッシュン! じゅっぽんじゅっぽん!びゅっ、びゅっ!びゅーーーーーーっ!

『ああっ…あああっ…アァァァァァァァァァァァァァァァ…』

 ケリー伍長は何度も絶頂を繰り返し、遂には還って来れなくなった。

 白目を剥き、涎を垂らし、半ば発狂した状態で悲鳴を上げ続ける。

 にゅろん!

『…ァァァァァァァァァングゥ、あむぅ…むっ、むむぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…』

 その悲鳴を妨げる様に口腔に残り三本の肩部ペニスが挿入される。

 彼女は自ら舌を這わせ、欲張りにも三本全てを頬張った… 

 ずびゅびゅびゅーーーーーーーーーーーーーっ!

「おお〜っ、スゲェっス!Beやんの早漏も最初はどうしようかと思ったけど、あんなに噴水みたいに出してりゃ、良い演出ッスよ!」

 上等兵の言う通り、挿入した大砲だけでなく、6本のペニス・パイル全てが、ホースから噴出す水流の如き射精を繰り返している。

 口腔・膣内・直腸からボタボタと溢れ出し、それは壮絶な光景だった。

「アホっ!出し過ぎだ。俺の作品をグロいチープなものにはしないぞ!Beやん、止めろ!」

 もう十分べり〜・ちーぷでグログロなのだが、大尉の頭の中では漸くその境界線を越えたらしい。

 ここに来て快進撃は翳りを見せ、徐々に崩壊に近付いて行く。

 突然のトラブル…

「ト、止マリマセン…助ケテ下サイ、大尉殿!?」

 司令室の監督の脳内暴走と共に現場でも不測の事態が起こっていた。

 3番の勃起中枢はケリー伍長の肉体の余りの気持ち良さに箍が外れ、制御不能に陥ったのだ。

「何、言ってる。根性で止めろ!根性で!」

 性格情報がプリントされているとは言え、そんなスピリチュアルな意志が3番に備わっている訳もなく、それは土台無理な注文であった。

 ジャコッ!ジャコン!

 なおも暴走は進行し、肩部ペニスに埋め込まれた無数のスパイクが外へ突き上がった。

「むぎィィィッ!むぐあおおおぉぉぉっ!?」

 それは肉壁をゴリゴリと抉リ立て、痛みと快楽の入り混じった異常な感覚を与える。

 そうこうしてる内にケリー伍長の体調をモニターしていた上等兵が悲鳴を上げた。

「大尉、ヤバイっス。ケリー伍長の脳波グッチャグッチャで心拍数急上昇!」

 オリジナルはブレイカーにより緊急停止するが、回復するまでのロスが問題視され、ABSにより段階的に弱めるシステムが組み込まれた。しかし、それを統制する機関が暴走しているのだから締まらない。

 タイム・ラグより考えるべき安全性を怠り、被験者を危機的な状態に追い込んでいる。 

「えーい!糞ぉっ!?3番機っ、今からそちらに行く!何とか制動掛けろぉっ!?」

 堪らず大尉は陸戦歩兵兵器を一式抱えて、指揮車両を飛び出した。

「ハ、ハイィッ!」

 しかし、一度暴走した機械を止める事は本人でも不可能で、3番は何も出来ない。

 大尉が対戦車人形ライフルを持って駆けつけた時には、ケリー伍長は心肺停止状態で一刻の猶予も許さない状態だった。

「タ、大尉殿!オ姉サンガ…オネエサンガ…」

「Beやん、御免なぁ…」

 人間ならば泣きじゃくっているであろう3番に、大尉はひどく冷たい声で一声詫び、銃口を向けた。

 未だ淫具はケリー伍長を攻め立て止まる気配も無い。

『大尉、止めて!Beやんを撃たないで下さい!』

 上等兵の悲痛な制止の叫び。

 しかし、大尉は躊躇する事無く、対戦車人形ライフルのトリガーを引く。



 がぁぁぁんっ!



 銃声は鈍く短い音を残し、闇に消えた…

 ………

 ……

 …和平当日、旧市街。

 条約締結の会場で人々が忙しく立ち働く中、一台の大型軍用車両が揺れていた。

 車内に収まり切らない女の淫らな嬌声が辺りに響き渡る。

「アオゥッ、オウッ、オォゥ、アッ、アアアァァァァァァァッ!?」

 それは最後に一際高い悲鳴となって上がり…途絶えた。

「へへ…ご馳走様…」

 まるで便所で用を足して来た様にベルトをカチャカチャ言わして、上等兵がジープから降りてくる。

 後部座席で精液に塗れ、横たわる大柄な黒人女性はケリー伍長だ。

 彼女の肉体はすっかり弛緩しており、時折、ピクピクと痙攣する。

 ズザザザーーーッ!

「ありゃ?“少佐”、何処行っていたんッスか?」

 小型のバギーを滑らせる様に走り込んで来たのは、大尉改め、少佐殿であった。

「カメラ虫、ばら撒いてきた。お楽しみのようだな、上等兵?」
 
「ヒヒ…やっぱりケリー伍長の具合は絶品ッスね!しかも、馬乗りでおかわり連発とは…あんな淫乱見た事ねぇッス」

 ケリー伍長は無事だった。

 少佐の適切な処置により、ほぼ無傷で救出する事が出来たのだ。

 しかし、それは表面だけ…

 PTSD(心的外傷後ストレス障害)。

 今回の事件は彼女の心に深い陰を落とした。

 事件以来、彼女は戦車人形を見るだけでも怯える様になった。

 それは、一人になっても同じ…陵辱の記憶がフラッシュ・バックして蘇る。

 そして、男を強請る様になった。

 BE量産型により性奴隷に陥とされたのだ。

 定期的に抱いてやらないと夢遊病者の様に男を求めて全裸で彷徨い始める為、今では少佐と上等兵の性欲処理に役立っている。
 
「ラズウェル参謀長は?」

「来てるッスよ。お忍びで…指揮車両で“アレ”見て、お待ちッス」

「”アレ”を…か?分かった」

 ”アレ”を見ていると聞いて、眉を顰める少佐。

 ちょっとイヤ〜な事が起こっていそうだ。

 デジタル機能付きポラロイド・カメラを用意して指揮車両に向かう。

 入って直ぐ絶好の場面でシャッターを切った。

 カシャッ!

「うおっ!」

 …予想的中。

 見られた方は格好悪い。

 見た方も気色悪い。

 カメラに収められたのは老境に入って、なお壮健なラズウェル参謀長の摩訶不思議なオナニー・シ−ンであったとさ…

 しかも、バッチリ噴出している所。
 
「指揮車内を汚さないで頂けますかね?参謀長…」

 パネルが白濁でベトベトになっているのを見て眉を顰める少佐。

 パネルに触るのは当の御本人だからそれも詮無い事か? 

「ききき、君は正気か?部下を性奴隷に貶めるなど…」

 バツが悪そうにせかせかズボンを引き上げる参謀長。

 オカズにしていた“アレ”とは、ケリー伍長陵辱ビデオ…そのディレクター・カット完全無修正版だった。

 何とか言い訳を考えているようだが、これは言い訳無用、見たまんまである。

「それをズリネタにしてマス扱くより遙に正気ですよ。報告書は読んで頂けましたか?」

「BE量産型が、男性の立場を危うくする物ではなく、援護・支援する為の物だと言うアレかね?添付されてきたビデオで皆納得するしかない様子だったが…」

 少佐は3番を破壊した後、4、5番の廃棄処分に対する意見書にケリー伍長のビデオを添えて、ある計画書と共に軍本部送り付けた。

 それは興味ある事項として議題に取り上げられ、今日結果を通達される事になっていた。

 参謀長自ら出向いてきた事からその計画の重要性・危険性が窺える。

「…で、あの作戦の方ですが?」

「下手すると…いや、確実に戦争再開で血みどろの殺し合いになるぞ。君は…」

 『正気か?』と続けようとした参謀長は、またマス掻きの事を話題にされる事を恐れ、言葉をグッと飲み込んだ。

 それを見て少佐は軽く鼻でせせら笑うと急に真顔で話し始める。

「この区画は再開発すれば有益な土地だそうですね?」

「む…」

 中央幹線が集中し、帝国・同盟領のド真ん中にあるこの旧市街は、利用価値が非常に高い。
 
 近い将来経済発展都市として急激に復興を果たすであろう。

 それは全て同盟側の利益となる。

 元は帝国領であるだけにこの交換条件に忌々しい思いを隠せない者も多い。

「しかし、皇女殿下の鶴の一声でやむなく引き渡さなければならない。新型重戦車人形Xー13『ジェイソン』に敵殲滅の自信を見せていた軍首脳部としては苦々しい限りですよね?」

「むむぅ…」
 
 唸り声を上げる参謀長。

 彼も和平に傾く皇女に反感を持つ一人だけにその思いは複雑だ。

「後押しをして上げようというんですよ。この私がっ!」

 バンっ!

 少佐は指令卓を叩き、今しがた写した醜聞写真を参謀長の目の前に突き付けた。

「うっ…」

「覚悟決めましょうや…参謀長?」

 少佐は無礼にもその写真で参謀長の頬をピタピタと叩く。

 これは明らかな脅迫であり、軍本部に対する挑戦だった。

 暫し二人は身動ぎもせず睨み合う。

「………」

「………」

「ふう…ところで送られてきたあのビデオ、たった15分で、しかも肝心な所にモザイク掛けるとはどういうことかね?」

「は?」

 自分で入れたであろうコーヒーがすっかり冷め切った頃、参謀長は不意に意外な事を口走った。

「それも寄越したのは、一本こっきり。何処かのメーカーみたいにコピー・ガードまで掛けて…」

 大分御立腹の様だ。

 今にも殺しかねない殺気に満ち満ちた視線…

「お試し版ですから…」

 さしもの少佐も、その迫力に気圧される。
 
「皆、不満を堪えるのに苦労している様子だったぞ。今度はノー・カットにしてくれるんだろうな?」

 フッと視線を細め、柔和な表情で参謀長は少佐の肩を叩いた。 

「…では?」

「計画案を全て了承し、君に一任する。フンッ…その旨を伝えに来た私に脅しを掛けるとは…この青二才が!?」

「…感謝致します」

 漢達は固く互いの手を握り締めた…

「徹底的にやりたまえ!敵が戦意を喪失するほどの完膚無き辱めを!?」

「ハッ!」

 漢の敬礼…

 参謀長は、性に対して臆病だが、漢の心を解す武人だった…

「ところで…4、5番は?」

「ああ…あれはどうにも…」

「廃棄したんですか?」

 廃棄命令が出てから大分経つ。

 今更意見書を出しても無理かとも思ったのだが…

「いや、戦車人形の癖に武装解除の上、『殺さないで!』と土下座してウォッシャー液ボロボロ命乞いした。あんまり殊勝なので、廃棄担当者も情が移ったり、その上、整備班が『わしらの息子は殺させん!』と整備拒否。あげくに人の輪を作ってピケッティングだ。あれでは…壊せんよ」

「ははぁ?」

 3番の様子からさもありなんと思う少佐であった。

「まあそういう事もあって廃棄は見送られた訳だが、必要になったな、少佐?存分に使いたまえ!」

「有難う御座います!」

 これで計画の後ろ盾、そして、何より必要不可欠な装備が揃った。

 ニンマリ邪に笑う少佐。

 しかし、参謀長の顔は暗い…

「…で、写真は返してくれんのかね?」

「その前にパネルの汚い汁、キチンと拭いて貰えませんかね?」

「………」

「………」

 今度は少佐も負けていない。

 参謀長と少佐の睨み合いは白濁が透明になるまで続いた…



 輸送トレーラーに入ると4機の小型戦車人形が整備のオッチャンらと和気藹々歓談していた。

 全て同型機であるが、やさぐれた様子の者、背中を丸めてへコへコ話に付き合う者、ぴんと背筋を伸ばして耳を澄ます者、よく笑ってバタバタはしゃぐ者と各々個性があり、見分ける事は容易だった。

 少佐はある一機の前に立つ。

「アッ、少佐。見テ下サイ!ジイチャンニ新シイ装甲取リ替エテモライマシタァ!?如何デス?如何デスゥッ?」

 ギュィィィンッ!

 けして広くないコンテナでぐるりと回って新装甲を披露する3番。

「に、似合うよ…Beやん」

 その鋭角的なデザインの肘が目の前を通った時、少佐は死の危険を感じた。

 火力に物言わせる丸みを帯びた帝国機に比べ、格闘戦に強い同盟側の機体はスパイクがゴテゴテ付いている。

 現在、3番はこれから起きる饗宴の為に同盟風にコーディネートされていた。

 同盟側の機体は帝国の模倣である為、部品に大差は無い。

 廉価版であるB型の部品では、メモリーを吸い出されない限り、判別は不可能だろう。 

 ワイン・レッドにリペイントされた機体が余程お気に入りなのか、まるで女学生の様に弟の5番と互いの姿を見せ合っている。

「同盟側ノ装甲ッテ、トゲトゲシテイテカッコイイヨネェ〜ッ!」

「ネェ〜ッ!」

 3番の言葉に同調し、体を横に傾ける5番。

 キュィィィン!

「………」
 
 2,4番はその様子にスコープの照準を絞った。

 どうやら眉を顰めたらしい。

「短期間でよく仕上げたな、おやっさん?」

「なぁに…もしもの時は同盟側に逃がそうと4、5番の装甲は変えてあったし、いつ持ち込まれても良い様に装甲も用意してあった。3番はちょっと厄介だったが、徹夜で張り替える位、孫に飴玉やるようなもんさ」

 手拭を頭に巻いた白髭の棟梁は、咥えた煙管を一度吸うとぽっと煙の円輪を吹き上げ、にやりと笑った。

 棟梁…18代目木曾屋十兵衛はセラミック装甲を鋸で断ち切り、鑿で整形、金槌で叩き出す。

 その神業は数ミクロンの集積回路も針一本で打ち込む程だ。

 下手に壊した人形遣いには、金槌が飛んで来るが、才能のある者を見抜く目がある。

 少佐が現役の時、戦車人形の整備に心砕き、戦場に共に在った整備主任…

 少佐が戦車人形を降りる時プレゼントした金槌を棟梁は投げ付ける事無く、今も大切に使っていると言う。
 
「しかし…いい腕だな。股関節のジョイントをピンポイントで打ち抜くなんて普通出来ないぞ?それも、戦車人形の機構を理解した上で、機能停止に追い込むなんざ…」

 棟梁は人を褒める事が無い。

 その彼を唸らせるのだから、それだけ凄い事を少佐がやったと言えた。

 戦車人形は腰部に精密機械が集められている。

 その下にある脚部は立ち上がり、歩かせ、時には走らせる複雑な動作を必要とする部分だけに股関節には直接中央に延びるケーブルが多数ある。

 これが断ち切られると戦車人形の機構上高圧電流が逆流し、機能停止に陥るのだ。

 無論、安全装置はあるが、それは許容を凌駕する事態を想定していない。 
 
 股関節を支える太いシャフトをライフルで撃ち折り、戦車人形の自重で複数のケーブルを一気に引き千切らせる。

 しかし、それは言うより易くない。

 針の穴を通すより難しい折り重なった装甲の間を擦り抜け、強烈な反動のある対戦車人形ライフルを股関節へ打ち込む…それは不可能に近い荒業だった。

 技は身を助く…

 結果、素早い処置を受けたケリー伍長は命を取り止め、3番は人間で言うところの仮死状態で回収される事となり、大尉は少佐に昇進した。

「つくづくアンタを戦車人形から下ろしたお偉方は、馬っ鹿だなぁ〜?」

 対戦車人形ライフルと言うが、実際それで戦車人形を沈黙させる事が出来るかと言えば、難しいと言わざる得ない。

 それをアッサリやり遂げた元エースの腕を棟梁は目を細めて惜しんだ。

「いや…それは、もういいよ。俺は自分のやりたい事、見付かったから…」

 その晴れ晴れとした少佐の顔に棟梁は刻まれた皺を一層深くして満面の笑みを浮かべる。

「おっ!いいじゃねえか?人間やりたい事やるのが一番さ!なぁっ!?」

 親方の金歯がキラリ☆と光った。



 …そして、舞台の幕が開く。

「監督っ!全カメラ虫、所定の位置に付きました。それに、ほらティッシュも、貴方の分も入れて2箱!準備万端です!!」

「よーし、Be助、Beやん、Be君、Beちゃん(2、3、4、5番の事)準備はいいか?」

「ハ〜イ×4!」

 B型達はやる気満々だ。
 
 モニターには、ある地上波放送が映る。
 
≪今、正に4年に渡る両国の悲しみと憎しみで塗れた悲惨な歴史に終止符が打たれようとしています。この和平条約の締結により両国は友好と平和を誓い合い、共に手を取り合って明るい未来を構築するパートナーとなります≫

 けたたましいレポーターの声。

 そして、壇上にはアッシュ・ブロンドの髪をした落ち着いた感じの美女の姿。

≪あっ!エレノア大統領です。大統領が壇上に先に上がりました。これは皇女殿下が年長である大統領に譲った形になるのでしょうか?美しい女性です。その柔らかな微笑みは我が国の国民をも魅了するでしょう。そして…ソフィア皇女殿下です!皇帝陛下病床の為、代理での御出席ですが、まだ幼くいらっしゃるのに堂々とした立ち姿です≫

 続いて画面にクローズ・アップされたのはブロンドの巻き毛がかわいらしい、グリーンの瞳を持つ美少女だ。

 フリルをふんだんにあしらった薄桃色のロングドレス姿は嫌が上でも人目を引く。

「ソフィア皇女、いつもながらカワイイっスね。監督、如何しますぅ?」

 自分達の頂点に立つ麗しの皇女殿下に上等兵が見惚れる。しかし、そのいたいけな少女を辱める事への躊躇は一切感じられない。

「相手方だけじゃ不公平だろ?軍にとっても政敵だからなぁ〜、フヘッ!」

「なるほど…デへへへ!」

 二匹の邪悪なケダモノは、いやらしく微笑み合った。 

≪今、両国首脳が固く握手!お聞き下さい。双方少人数の高官のみの参列ですが、皆感涙し、大きな拍手を送っております。これより調印式を済ませ、セレモニーとしてセーラー服美少女5人のアイドル・グループを初めとして美しい歌姫達の豪華絢爛なショーをお楽しみ頂きます≫      

 両国首脳が女性である事から女性の祭典を強調した舞台には、司会者もダンサーも国威を示す為、各国から選りすぐられた折り紙付きの美女達が上る。

 舞台の下の齧り付きには、帝国軍首脳部の将校が既に涎を垂らして占拠していた。

 それはストリップ・ショーに群がる酒臭いオッチャン連中と何ら変わりない。

 先程の盛大な拍手も歓声もこれから起こるであろう期待してのものだった。

「来た!」

 上等兵が衛星とのリンクに成功した事を伝える。

 ばら撒いたカメラ虫は30万匹、舞台はマジックミラーになっており、これで3D映像に仕立てる事も可能だ。

「よーし、みんなぁ行くぞぉ!」

 少佐はメガホンを振りかぶり、上等兵が“カチンコ”を開く。
 
「START!」

 カチンコっ!

 ………

 ……

 …陵辱が始まった。

(終)



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