『人之獣〜娼館の女将〜』



「ん…あはぁ…あん、あっ、あっ、あふっ…んふ、んふぅっ」

 娼婦街…その最下層と言われる安宿の一室で汗塗れで番う二人が居た。

「ああ…お願ぁい。ゆるして…んくぅっ…ハァハァ…もう、ゆるしてぇ」

 昨晩から男の荒々しい腰使いに責められ続けた女は息も絶え絶えで目を潤ませ、男の背を懸命に掻き毟り、しがみ付いて赦しを請う。

 普段の彼女を知る者ならば、この光景に目が飛び出さんばかりに驚くだろう。

 彼女…この『御亀亭』の女主人は娼婦街の顔役として知られ、一度不埒な輩を見れば、殴り倒さずには済まない女傑である。

 大柄で筋肉質な肉体、性格は凛々しく、女性らしいとはお世辞にも言えない。

 その彼女が、男の下で悶え狂い、善がり泣くなど天地がひっくり返っても考えられない事だった。

「ヒィッ、ヒィィィッ!また…またイクっ!イクゥゥゥゥゥゥっ!?」

「うっ…」

 彼女の絶頂に合わせるように覆い被さった男が短く呻く。

 彼女の絶頂時の急速な締まりに耐えられず膣内で爆ぜたのだ。

「アァンッ!」

 女将は絡めた長い足にぐっと力を込めて男の腰を引き寄せ、一番深い処で精液の奔流を受け止める。

 トプッ、ドクドク…

「アッ、アハァッ、熱い…」

 女将はうっとりとした様子で膣に注がれる何度目かの精液の熱さを感じていた。

 大分長い間、性処理をする暇もなかったのだろう。

 その濃厚なスペルマの量は凄まじく、女将の膣内で納まりきらずに野太いペニスで穿たれ、ポッカリと空いた股座からダラダラと溢れ出ている。

(また…出されちゃった)

 女の陰、その奥深くに無防備に精液を受け入れた女将はその余りの多さに気色ばむ。

 受胎をするのが危険な日であるとするならば、まさしく今日はその好ましくない日だった。

 男は何時も避妊をしてくれない。

 女を孕ませる意識すらないようだ。 

 しかも、狙い澄ましたように彼女が危ない日に限って来店するのだから始末が悪い。

 それを受け入れてしまう彼女自身も…

 そんな女将の想いをよそに男はすっかり弛緩した彼女の体をそのままにしてのっそりと起き上がった。

「ハァッ…ハァッ…ハァ〜…」

 女将は荒い吐息を吐きながら彼の姿を恨めし気な目で追う。 

 大の字にしどけなく寝そべる彼女の枕元に幾ばくかの金を放り、既に衣服を着け始めていた。

(もう少し一緒に居てくれてもいいだろうに…)

 男はいつもそうだった。

 甘える事も許さず、事が終わると直ぐに出て行ってしまう。

 避妊に頓着しない処から見ても、彼にとって彼女は単なる性欲処理の人形でしかないようだ。

 それでも彼女は良いと思う。

 初めて自分をただの女として扱ってくれた男だから…

「随分…溜まっていたんだね?」
 
 流れ落ちる精液の止まらない女陰に花紙を宛てながら悪戯っぽく女将が言うと男はムッツリとした表情で答えた。

「戦続きで女を抱く暇も無かったからな…」

 男は赤子の時、獣人に拾われ、育てられたという生い立ちを持つ。

 “獣人”とは全身を体毛に覆われた犬猫に面差しの似た人と獣の合いの子のような存在だ。

 戦闘能力は高く、戦では重宝されるものの、その身分は卑賤とされる。

 彼はその戦いを生業とする獣人…ディフティとして傭われ戦に出、そして思い出したようにブラリと娼婦街に来ては彼女を指名して激しく抱いていくのだ。

「想い人は見付かったのかい…あっ、見付かったらこんなところには来ないか?」

 寝物語で何度も聞かされた彼が探し続ける女戦士…

 悔しいという気持ちが無い訳でもない。

 しかし、彼女をこの男と引き合わせ、抱かれる切っ掛けとなったのは、肉体というよりも独特な雰囲気がその銀毛の女ディフティに似ていた所為だと言うからむしろ感謝しなければいけないのだろう。

 もう…慣れた。

「探してはいるが、見付からないな…海を越えているのかもしれない」

「ふぅん…あんまり激しいからアタシ、腰が抜けちゃった。悪いけど此処で見送らしてもらうよ」

 軽口のように言うが、本当に腰が抜けて立つ事が出来ずに居た。

 男の夜の激しさは何度経験しても慣れることは無い。

 荒々しい行為の前にただ泣き叫び悶え狂って翻弄されるばかり…

 気を失わなくなっただけマシというものだ。

「また来る…」

 女将は熱く、男はおざなりに唇を合わせると別れの時が来る。

 一方的な恋心…

 肉体だけの繋がり…

 男は階下に降り、窓際に女将を確認すると、いつものように一度だけ軽く手を上げた。

 それに女将がにこやかに手を振って応え、見送る。

 何も変わらない。

 いつもの別れ…

「う〜っ。もう少し手加減して欲しいね…」

 男の背が小さくなると女将は恨み言を愚痴りながら腰骨をコンコンと叩き、剥き出しのたわわな乳房を揺らして背を伸ばす。

 ヴァギナは男の逞しいの物で抉られ、まだ中に何かを挟んでいるような感覚が残り、穿たれたアヌスがヒリヒリと痛んだ。

 有り余る男の性欲を受け止めたことで体中が軋み、激しい脱力感が襲う。

 並みの女ならば、性器を壊されるか、犯り殺されていることだろう。

 女将には彼の獣欲を受け止められる自分が特別なのだという自負があった。

 男の中でも彼女の存在が特別な物であれば良いのだが…

「ふぅ〜…」
  
 女将は枕元に置かれた煙草盆から煙管を燻らせながら男が初めて此処に来た頃のことを思い出していた。

 ………

 ……

 …

 彼女は元々傭兵として糧を得ていたが、仲間内の揉め事から逃れる為に色里に身を寄せる事となった。

 大金が稼げると聞いた為である。しかし、精悍で整った彼女の面は先ず美形と言ってよいが、大柄な体は筋肉質で胸乳も固く、女の色気が薄い。

 その上、体中に刀傷が幾条も走り、とても男相手の商売が出来る筈も無なかった。

 仕方なく御大臣をパトロンとした一攫千金を諦めて、部屋付きの用心棒兼雑用係や一部の好事家などの相手をしながら地道に小金を貯め、見目の悪い女や足抜けに失敗して傷物になった女達を集める事で何とか娼婦宿に仕立て上げた。

 その時出来たのがこの『御亀亭』だ。

 醜女・下衆女を揶揄して名付けたものだけに当初客の入りは悪かった。しかし、女将には生来からの商才があったのだろう。

 安い金で誰とでも…たとえ獣人であろうともネットリ濃いサービスを施し、商売に厚みを持たせる事で売上を日毎に高め、漸く軌道に乗ってきた…そんな頃、あの男が現れたのだ。

 男…いや、彼はその当時はまだあどけない雰囲気を持つ少年だった。

 金のざんばら髪を無造作に後ろへ束ねた少年…

 どれほどの戦場を潜り抜けたのか年齢に似合わぬギラギラと殺気に満ちた視線が印象的だ。

 肩に幾つもの刀(多分戦場での“分捕り刀”であろう)を束ねた大きな荷を背負い、二本の重厚な蛮刀を腰に刺し、右手にも飾り気のない黒鞘の一刀を下げている。

 一般の戦士とは違い、素肌に厚手の毛皮を羽織る野卑な姿は獣人の様にも見えたが、混血にしてはひどく人間臭かった。

『カワイイ〜!』

『坊や、お姉さんが相手して上げるよ…』

『アタシを買っておくれよ〜!』

 女郎の群らがる格子の前に立ち尽くす少年。

 好みの女が居ないのか、顔色を曇らせ、しきりに番台に座る彼女の方を見て何か言いたそうにしている様子だった。

「見た目は十人前だけれどもね〜。誰を選んでも必ず天国に連れてってくれるよぉっ!」

 女を決めかねているのかと思い、彼の決心を促すように声を掛ける。

 すると彼は漸く心を決めたように彼女の前に歩み寄ると開口一番。

「アンタは…女将は、体を売っているのか?」

「えっ!?」

「アンタを買いたい…」

 女将はその言葉に驚いた。

 今までこんな筋肉の盛り上がり、ゴツゴツとした身体に欲情したのはSM趣味の輩ばかりだ。

 罵声を浴びせ、鞭打ちに来る者とその逆の変態共…

 金の無い頃ならいざ知らず、こうして健全とは言えないまでも宿を構える今となってはそんな変態の客を取る気はさらさら無かった。

 しかし、この少年は彼女を“女”として抱きたいと思っているらしい。

「ハハ…アンタ、面白い事言うね。この体で金が取れると思うのかい?何ならタダで相手してやるよ」

 まさか本気ではないだろうと高を括り、鼻で笑いながら冗談めかして言うと…

「じゃあ…頼む」

 少年はムッツリと頷き、何やら重そうな布袋を取り出して質の良い小国発行の金貨を何枚か盆に置いた。

「これで足りるか?」

 通常料金より大分多い…並の娼婦を数日借り切ってもお釣りが来る金額だ。しかも、額面はそうだが、この金貨の価値を考えれば、一般流通している硬貨で倍の値段を出しても購えるか如何か…

 どうやら本気らしかった。

「か、金は要らないよ…」

 戸惑いと胸の高鳴る鼓動を気取られないように隠しながら『タダで相手をする』と言った手前その金を突き返す。

 女将はひどく興奮し、久方振りに女が疼くのを感じた。 

 年嵩に見られるが、彼女はまだ二十を然程出ておらず、日頃自分で慰めるほど若い身体を持て余していたし、こんなに野性味を帯びた若者に求められたのは初めての経験だった。

 若い女中に番台を任せ、物置になっていた部屋を急遽空けさせる。

 戦の狭間のこの時期は客入りが良い為、女将の個人的な相手に通常の部屋を使わせる余裕は無かったからだ。

「じゃあ、この部屋で…アゥッ!?」

 部屋に案内するとすぐ少年に背後から羽交い絞めにされた。

「キャッ!?ま、待ってよ!そんなにがっつかなくたって…ヒィッ!」

 服の上から胸乳を荒々しく弄られた後、女将は余りの痛みに悲鳴を上げる。

 首筋に噛み付かれたのだ。

(ああ…このまま…)

 彼女の脳裏にこのままこの少年に貪り喰われてしまう甘美な妄想が過る。

 濡レタ…

 下着がぐっしょりと水気を持つのに時間は要らなかった。

「ハァッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ…」

「ヤッ、やめろ!やめろぉっ!」

 少年は余程溜まっていたのか、盛りのついた雄犬のように荒く短い息を吐きながら彼女の衣服を引き裂く。

 余りの乱暴狼藉に女将は持ち前の気性の荒さも手伝って何とか抵抗しようとする。しかし、叩こうとした手を掴み取ると少年は怪力で鳴らした彼女ですらただのか弱い乙女であるかのように軽くあしらい、あっさりとベッドに抑え付けて抵抗を封じたのだった。

「くぅっ、はぁっ!」

 固定されたコルセット外すのももどかし気にそのままにし、ショーツだけを毟り取ると、一気に極太のペニスを捻り込んだ。

 ズボォォォッ!

「アヒィッ…イヤァッ、イヤッ、イヤァァァァッ!」

 女将は少年の長槍に貫かれ、その隠された雌犬の本性を現わす。

 今まで強面で屈強な男相手に商売をしてきた彼女だが、責め立てられると意外に脆い面を垣間見せた。 

 初めてではないだろうと思ったが、少年の女を扱う手管は予想以上に巧みで男根の挿入も荒々しい腰使いでありながら女を狂わす事を忘れない。

 彼女の自我の陥落は早かった。

「イヤッ!イヤァッ!ヤメテェェェェェェッ!?」

 女将のヴァギナはその頃にはスッカリ潤っていた為、男の動きは容赦は無く、彼女の足首を乱暴に引っ掴むと股が裂けるほど大きく開いて挿入した腰を力強く叩きつける。

 安い木製のベッドは忽ち悲鳴を上げ、床板は軋み出す。

 それ以上に女将の馬の嘶きのようなあられもない悲鳴が絶え間なく漏れ出した。

「ヒィッ!ヒィィィッ!ヒィィィィィィンッ!?」

 女将も客付きが悪かったとは言え、一時は体を売る商売をしていた女である。

 数え切れない男が彼女の体を通リ抜けていった。

 だが、少年のペニスはその彼女が今まで経験した中で最も大きく、それらの経験など平気で吹き飛ばすほど巨大なモノ…

 今まで相手にした男たちは短小のコンプレックスから異常な趣味に走る者達ばかりで彼女にとって本当の意味で男を感じたのはこの時が初めてだった。

「アァン、すごぉい!すごいのぉっ!おっきいっ!?」

 首筋に喰い付くように正常位で圧し掛かる男の背を情感を以って撫で上げる。

 女将は悶えた。

 快楽が強過ぎて耐え難い。

 唾液で濡れた唇から零れるのはまるで彼女の声ではないような可愛らしい喘ぎ声だ。

 彼女が最も嫌っていた筈の鼻を鳴らす猫撫で声…男に媚びる淫婦の甘えたような強請り声が漏れ出していた。

「あぁん!もっとぉ、もっとぉっん!!」

 女将のらしくない乱れた嬌声が男の獣欲に火を点ける。

 背に回された腕を乱暴に振り解き、一度愛液に塗れたペニスを抜き放つ。

 彼女の背後を取ると背中から首筋までをベロリと一筋舐め上げた。

「アハァン…」

 女将は悩ましい声を上げ、ビクビクと痙攣する。

 背後から首筋に何度も接吻する男の髪を後ろ手に愛おし気に撫で上げる。

 最後まで残っていたコルセットは力づくで毟り取られ、少年の手は脇を通して彼女の固い乳房に回されていた。

 其処は二次性徴前の少女のように膨らみが薄く、揉む事が出来るほど大きくも無い。

「あ…ふぅ…ご、ごめんよ…女じゃ…ないみたいだろ…」

 胸乳を撫でられながら女将は恥ずかし気に顔を真っ赤にして伏せた。

 今ほど自分の身体が恥ずかしいと思ったことは無い。

 戦に出ていた頃、鍛え抜かれた肉体は彼女の誇りだった。

 負け戦で敵に捕らえられ、集団レイプで処女を失った後、泣き寝入りせずに襲った暴漢一人残らず報復出来たのはこの強靭な肉体があってこそだ。

 なのに、今は酷く…恥ずかしい。

「女だ…」

 少年は短くそう言うと女将の高く勃起した両乳首をその手でキュッ!っと捻り上げた。

「あうっ!」

 女将の後頭部を掴み、力任せに布団に押し付ける。そして、彼女の引き締まった両太股に腕を入れ、尻を高々と上げさせると…

 ずぶぅっ!

「んひぃっ!」

 …極太のペニスで刺し貫いた。

「あふ…あ…」

 女将は一瞬気が遠くなる。

 たった一突きで達しそうになったのだ。

 少年の体に似合わぬ野太い塊は彼女の久しく放置された内壁をゴリゴリと擦り立て、凄まじい快楽を脳裏に伝える。

「あ…あ…」

 余りの快楽に全身の力が抜けていく、鮮烈な悦楽は全ての思考を吹き飛ばし、後は心地良い色道の奈落に堕ちるのみ…

 ベッドの上では戦場で鳴らした女武者も、強面の仮面を剥がされたか弱い女でしかなかった。
 
「だから…男の俺が楽しめる」
  
 女将の体に背後から圧し掛かるように律動を開始した。

「アん!イイッ、いいィィィッ!?」

 以前から彼女は後背位が嫌いだった。

 落ちぶれたとは言え彼女は戦士である。

 背後から挿入を許すのは屈辱以外の何物でもなかったのだ。しかし、今はその屈辱感が堪らない。

 男に蹂躙され、屈服し、身体の隅々までが隷属させられていく甘美な感覚に酔う。

 力任せにベッドに組み伏され、抵抗する事も適わず、なすがまま、後背位で突き捲くられる様はまるで強姦のよう…いや、強姦そのものだった。
 
 まるでケダモノのようなセックス。

 荒々しく攻め立てられ、彼女は周囲に憚る事無く快楽の絶叫を上げた。

 気が遠くなるほどの深い絶頂を迎え、年下の少年によって初めて女の悦びを刻み込まれていく。

「アアッ!アアアッ!ウワアアアァァァァァァァァァッ!?」

 女将は最初の熱いスペルマの迸りを膣奥に受け、深い愉悦の渦に飲み込まれながら…気を失った。
 


 気を失っても直ぐにまた正気に返らされ、犯される。

 その繰り返し…

 結局…三日三晩の休む事無く犯され続け、その間に女将は全ての穴を明渡し、最後には声も枯れ果てるほど善がり泣き叫び、絶頂の奈落に落とされたのであった。

 顎が閉まらなくなるほどフェラチオをさせられ、何度も精液を飲まされた。

 膣内での射精も嫌と言うほどされた。

 直腸にまで精を注ぎ込まれ、体中が男の吐き出したスペルマで塗れた。 

 四日目の朝、失神から覚めると枕元に少年が置いた物だろう。

 掌に乗る位のずっしり砂金の入った袋が一つ…

 店を一軒新調出来るほどの金を得ながらその後、彼女は一時期、『魂を抜かれた』と周囲から言われるほど奇行が目立ち、生彩を無くす。

 日がな一日ボーっとしていたかと思うと、すぐ次の日には少年の姿を探して町中を歩き回っていた。

 寂しさの所為だ。

 性奴に堕とされた心が…雌犬の悦びを教え込まれた肉体が疼く。

 来訪を待ちわびる女将の想いとは裏腹に少年は中々来訪しなかった。

 それもその筈、その頃の彼は戦地で死戦に近い状態での戦いを強いられていた。

 放棄出来ない要所を堅守し、女を抱くどころか思い出すことすら出来ない激戦のさ中にあったのだ。

 女将がその寂しさから精神の均衡を崩すのは時間の問題かに思われた。 

 しかし…ある事実を知ってからの彼女は程無く以前の快活さを取り戻す。

 一層店を切り盛りし、少年が置いた金子を元手に支店を見る見る8軒にまで増やしたのだった。

 男が何時来たとしても待てる心の余裕が出来た理由…

 彼女は身篭ったのだ。

 あの激しかった日々の内に芽吹いた物だろう。

 彼女の中には男が残した新たな生命が宿っている。

 もう寂しくは無かった…



「あ…」

 思い出から現実に戻ると何時の間にか彼女の手が自らの大きな乳房を揉んで慰めている事に気付き、苦笑する。 

 あの頃とは比較にならない大きな胸…

「随分膨らんだもんだ…」

 自らの大きく張り出した乳房を両手で持ち上げながら独言散る。

 男に吸われ、揉みしだかれる内、出産を重ねるごとに筋肉で硬かった彼女の乳房は女性らしい膨らみを取り戻し、今ではたっぷりと重く、手に余るほどに大きさになっていた。

 短かった髪を伸ばし、男を待つ内に女としての色気も香るようになった所為か、言い寄る客も出てきた。しかし、それでも彼女は彼以外の男と寝る気は無い。
 
 彼女は男だけの“物”だから…

 一人目を産み落とし、体調が戻ってきた頃に男はまたやって来た。

 その時にも種を付けられた彼女は最初の時と合わせて既に二人の女の子を出産している。

 女将は自分が多産の畜生腹だとは思っていない。

 男の精液が濃過ぎるのだ。

 然るべき時に精を受け、受けるべき母体が健康な女子であれば孕むのは当然の事である。

 それでも、女将は拒む事が出来なかった。

 想い人を見つければ、もう来る事のない男だ。

 膣内射精を拒めば…妊娠した事を告げれば、他の女に乗り換えられる。

 そんな恐怖が頭にあった。

 逆に彼はそんな男ではないと信じたいという気持ちもある。

 見目の良く、値の高い娼婦を雇える様になった頃、一度勧めた事があった。

 その時ですら首を横に振り、彼女を抱いたのだから…

 事実を告げれば、自分に向いてくれる筈…

 子供達と一緒の生活を…

 しかし、結局は言い出せないまま、こうやって男を待つ日を過ごしている。

 惰性が安穏な生活を生み、半端な状態が平静を生む。

 何時しか如何でも良くなっていた。   

 出産を男に悟らせないのは彼女の体型を崩さない不断の努力があってこそ。

 男は自分が二人の子持ちである事すら知らない。

 知らせるつもりも、もう…ない。

「今度は男の子がいいねぇ…」

 消え行く男の背を見送り、たっぷりと膣内射精された腹部を優しく摩りながら女将は新しい生命の誕生を確信していた…



 (終)


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