ドレアム戦記番外編
「ノルバの休日」
ノルバ公カゲトラ公爵。文武両道に秀で、ノースフロウの故ジブナイル王から厚き信頼を寄せられていた武将。それでいて自らは権力欲を欲することなく、王に対する忠節と、仁義に基づく行動力に、周囲の信頼や期待も大きかったが、現王テセウスとは袂を別ち、今やノルバを中心とした新興勢力の支柱となっている。
そのカゲトラの若き日々は自己研鑽の日々、自分を追い込むまで修練する武術と、武をより高めるために始めた知識の研究の筈が、いつの間にか嵌まり込んで没頭するという、毎日を過ごしていた。そこには、女の影など形もなく、いや入り込む余地もなく、廻りから奥方の話が出ても、「自分は修行中の身ですから」と、にべもない返事を繰り返されて話が終わってしまうのだった。
例外的に、そのカゲトラと唯一話す機会を得ることの出来た女性は、一つ年上のナミという従姉だった。彼女は幼馴染ということもあり、時々カゲトラの身の回りの世話をするためにやって来ては、言葉少ないカゲトラと短い会話を交した。ただ、それだけの関係だったが、カゲトラも他の女性よりは邪険に扱わずに、ナミの好きなようにさせていた。
その姿を見て、カゲトラの周囲はナミをカゲトラの正妻にしようという策を廻らし始める。そして、本人達の思惑とは別に、話は進んでいく。だが・・・。
「私がカゲトラくんの奥さんに?なんでそんな話になっちゃうの?」
母親から話を聞かされて、最初に口から出た言葉がこれだった。そして、カゲトラも。
「自分のような若輩者が身を固めるなどというのは、まだまだ先の話です」
と、取り付く島もない返事。
こうして、周囲の心配を他所にカゲトラは修行に専念し、ナミは時々やってきては洗濯や掃除などの身の回りの面倒を見て帰っていく。周りの期待と心配などどこ吹く風、まるで姉弟のような関係を続ける2人であった。
困ったのはノルバ公爵家である。というのも公爵家には、直系の男子というとカゲトラしか跡継ぎがいなかったのだ。このまま、カゲトラが妻を娶らず、子も生さなければノースフロウ建国の代から続いていたノルバの血が絶えてしまう。
悩みに悩みぬいた人々は、ある一計を案じた。テルパの商人から幻の秘薬を取り寄せ、それをカゲトラに使ってみることにしたのである。
その秘薬というのは、白い粉の塊のようなもので、お湯に溶かすと白い濁り湯が完成する。カゲトラは無類の風呂好きで、そのことを利用しようとしたのだ。身体の疲れを取る成分が含まれたお湯と説明されたカゲトラは、別に疑いも無く白いお湯につかる。
お湯の効能は申し分なく、カゲトラは修練で疲れた身体が軽くなっていくのを感じた。
<おお、これはいいものをいただいた。これなら、修行の効率があがろうというものだ>
そう思いながらゆったりとくつろぐ。すると、身体の疲れが取れると同時に一部分だけに変化が現れた。カゲトラの分身が痛いほどに固くなり、天を衝いている。
<なんだ・・・、どうしたんだ・・・?>
カゲトラはゆっくりと湯船から上がった。
と、丁度その時。
「カゲトラくん、来たよ」
風呂の入口の向こうからナミの声が聞こえた。そう言えば今日は部屋の掃除に来るといっていたのだ。
だが、カゲトラの心の中は、ナミの声を聞いた途端に、むらむらとした気持ちが膨らんできていた。心臓が早鐘のように打ち、血液が全身に勢いよく流れ、暖められた身体が更に熱くなっていくのを感じる。
「カゲトラくん、どこ?・・・、あっ、またお風呂ね。もう、本当に風呂好きなんだから・・・、ちょっと覗くから湯船に入っててね」
そう言って、風呂場の扉を開ける。そこには、身体から湯気を昇らせたカゲトラが全裸で立っていた。股間の剛直が天を衝いている。
「えっ、き、きゃあぁぁ・・・、むぅううん・・・」
驚いて叫ぼうとしたナミを、カゲトラは強引に抱き寄せ、唇を塞ぐ。初めての女性の唇だった。
「ナミ、責任は取る。お前が欲しい」
混乱しているナミの顔を真剣に見つめ、カゲトラは言った。有無を言わさない迫力をもって。そして、ナミはその勢いに負けて頷いた。
こうして、ナミはカゲトラの正妻となり、モトナリ、ミスズ、ノブシゲという2男1女を設けたのである。
ただ、この件以来、カゲトラは風呂に入れる秘薬を好んでしまった。秘薬の効果は、絶倫状態を半日以上維持する強力なものであり、あの初めての時でさえ、童貞のカゲトラが処女のナミに10回以上射精し、最後は互いに快感で気絶するまで継続するというものだった。そして、この快感に嵌まったカゲトラは、普段は修行にかまけて全くナミを抱かず、抱きたくなると秘薬を使って思いっきり抱くといった生活をするようになった。だが、その度に気絶するまで抱かれ、翌日は一日寝たきりになってしまうことが頻繁になるに当って、ナミはこれでは身体が持たないと側室を物色し始めた。
但し、普段のカゲトラはストイックに修行や勉強の世界に身を置き、女など寄せ付けない固い雰囲気を醸していたため、ナミが側室と言っても聞き入れる筈などはなかった。
だが、ひとたび秘薬の風呂に入った時は、普段押さえていた分性欲が高まるのか、際限なく精力が高まるようで、その時にナミが選んだ側室候補を風呂場に連れて行くだけで、カゲトラはナミと共に一緒に抱いてしまう。そうなると事は簡単である。行為の後で、カゲトラは責任感の強さから、抱いた女性を側室とすることを了解したのであった。
だが、秘薬を使ったときのカゲトラの性欲は凄まじく、更にナミや側室達に懐妊するものが出たこともあって、バランスが取れる範囲で側室は段々と増えていくことになる。そうして、気がつくと側室の人数は12名に膨れ上がりっていた。
そして、現在。
カゲトラの正室ナミ、12人の側室は皆他界し、カゲトラ自身も秘薬を風呂に入れて入ることをしなくなって久しくなっていた。
13人もの妻に囲まれた生活は、カゲトラの女性に対する対応というか、考えを大きく変えていた。ストイックな部分は変わらなかったが、こと女性に関してだけは開放的というか、男女はなるようにしかならないと言う達観からか、愛さえあれば良しという感覚で、ジローが自分の2人の娘を嫁にしても、自分の息子と娘が愛し合って一緒になっても容認するだけの寛大な心を持てたのである。
その娘婿であるジローと息子のノブシゲが、今の酒の相手であった。
「ノブシゲ。そろそろ孫の顔を見たいものだな」
「いえ、父上。今は戦時中です。ましてや、ランは軍の中核を握る将軍です。その中でランを妊娠させるわけには・・・」
「むぅ、堅いのぅ・・・、では、ジロー殿はいかがか」
「すみません。まったく出来ないのです・・・」
「そうか・・・、おお、そうだ。2人にいいものを授けよう」
カゲトラは早速立ち上がって、戸棚の奥をごそごそと探っていたが、やがて目的のものを発見したようだった。
「よしよし、これだこれだ。さて、ジロー殿、ノブシゲ。これは幻の秘薬といってな、お風呂のお湯に溶かしてつかると、身体の疲れを取り、元気にしてくれる薬だ。これを使って、元気な身体でいたせば、孫の顔も見れようというものよ」
カゲトラが破願して笑った。ノブシゲとジローは有無を言わせぬカゲトラの好意に、素直に従うしかなかった。
「ふぅ・・・」
ルナの口から微かに息が漏れた。
「お疲れですか、姫様」
ユキナだけがそれを察知して声をかける。
「ありがとう。でも、大丈夫です。では、次の方を」
扉の両脇に立った神官戦士が敬礼して、扉をあける。扉の外には神官が待機しており、ルナとの謁見を求めて訪れた者を順番に案内していた。
ここは、ノルバの聖堂と呼ばれる寺院である。ノルバのでは一番大きな寺院で、元々はノルバ公爵家を始めとするノルバの関係者が洗礼を受けるための場所であり、その一部は市民にも開放されて心の憩いの場として敬われていた。先のノルバ城攻防戦では被災した市民を受け入れたりもしたが、幸い市街地の西側に位置していたため、被害は受けずにすんでいた。
だが、ルナが月の神殿で人々に信仰されている聖女イリスの再来であるということが知らされてからは、ノルバ側の心のシンボルとしてルナを聖女として祀り上げ、聖堂もイリス聖堂と名を変えたのだった。
これを画策したのは、カゲトラ公爵嫡子のモトナリ子爵。ノースフロウと袂を分けたノルバとしては、兵士や市民を繋ぎとめるための旗印が必要だったのだ。そしてその旗印は、カゲトラ公爵の文武に秀でたカリスマというものではなく、一般市民にもわかりやすい、プロパガンダ的な精神的な支柱として存在する必要があったのである。
それに一番相応しいと思われたのが、ノースフロウ王女だったアルテミス姫改めルナ姫だった。そして、更に彼女自身が月の神殿でイリスの生まれ変わりだと知って、モトナリの心算が確立した。彼は、すぐさまジロー達の元に訪れ、ルナをノルバ公爵家の旗印として使わせていただけないかと申し出たのである。
ルナは、『心蝕』で相手の感情や心の動きが読める。そして、モトナリが心からルナという旗印を必要としており、そこに二心がないことを理解した上で、ジローの了解を得てそれを承諾したのだった。
モトナリは感謝の意を伝えると共に、ノルバの聖堂をイリス聖堂とし、ルナが聖女イリスの再来であり、今ここに聖女が現れたことはノルバの苦難を祝福し、ノルバの道が正道に基づくものであるということをノルバの武将や兵士、高官や役人達に伝えた。彼らの忠誠をより堅固にするための措置だったが、思わぬ効果も発揮した。そう、彼らからの口コミにより一般市民の間にも聖女イリスが光臨されたという話が広まったのである。
ルナはノルバにいる間は居をイリス聖堂に移し、護衛のためにユキナが同行することとなった。その分ジローと離れることになるが、暫く我慢すればまた一緒に朱雀地方への旅が待っていると納得して、自分の役割を果たすことにしたのである。
ルナの役割とは、ノルバの有力者と謁見して、ルナが本当にイリスの生まれ変わりだと信じてもらうこと。モトナリがノルバ城内で伝えたことは、信じる者もいたが、半信半疑の者も少なからずいたのである。それは、カゲトラ達の側近よりは近くなく、それなりの地位に在る者の中に多くいた。
故に、彼らは自分の眼で見て確認しようとイリス聖堂を訪れたのである。実は、モトナリもそうなることは薄々解っていて、ルナに頭を下げてお願いしていたのであった。
そして、聖女ルナに謁見をした人々は、ルナの銀色の瞳と、気品溢れる雰囲気、神聖魔法の奇跡(謁見時に身内の傷を治して欲しいという申し出が結構多かった)を目の当たりにし、ルナがイリスの再来であることを疑うものは誰もいなかった。ルナから一言二言、言葉を掛けられただけで心酔するものも多く、彼らは一様に聖女ルナの旗印の元にノルバに対する忠誠を心に誓ったのであった。
「ん〜、よく寝た〜」
ベッドから半身を起こして伸びをする。艶やかな黒髪は寝癖もなくさらりと収まって、ミスズは下着姿のままベッドから這い出し、顔を洗うため洗面所に移動する。
「ん〜、さっぱりした」
そう言って綿布で顔の水分をふき取り、部屋を見渡す。部屋には夕暮れの陽射しが射し込んでいる。ノルバ城の一角、離れの館の一室である。ジロー達7人が不自由なく過ごせるように、モトナリが用意してくれた場所であった。
「でも、今日は私だけなのよね」
ルナとユキナがイリス聖堂に移り、レイリアとイェスイはノルバの町に社会見学を兼ねた観光に出かけていた。その2人をお守りするアイラと共に。アイラが、今日は夜通し遊ぶので帰らないと出掛けに言っていたので、残されたミスズはのんびり昼寝をしていたのである。
<こんな時に、父上もジロー様を呼び出すことないのに、もう・・・>
ジローは昼前にカゲトラに呼び出されていた。たまには男同士で昼食を食べたいという理由で。
<でも、きっと昼から飲んでいるのよ、きっと>
少々呆れ顔のミスズだった。昼寝したのも実はふて寝に近い。
「さて、とりあえずはお風呂にでも入ろうかな。夕食はジロー様と一緒に食べられるし♪」
ミスズは湯船にお湯を張る。トラスト山脈の恩恵である湧き水を沸かしたお湯が湯船に溜まっていく。湯船は優に5人は入れる位の大きさで立派なものであり、そこに1人で入るのは十分な贅沢と言えた。
<まあ、私1人を残していったんだから、此の位は許させるわね・・・>
ミスズがそう考えながら湯加減を見ていた時、部屋の扉が開く音が耳に触れた。
<え?誰?ジロー様?>
ミスズの予想に違わず、部屋に入ってきたのはジローだった。ミスズが風呂の扉を開けると、そこには、少々赤い顔をしたジローの姿が。
「おっ、ミスズ。・・・今帰ったぞ」
その笑顔は反則よと思いながら、ミスズはジローの傍に歩み寄った。すると、ジローもミスズに近づいてくる。
「1人だけか?」
「はい。アイラお姉さまはレイリアとイェスイを連れて社会見学に出かけました」
「社会見学?余計なことまで教えないといいけど・・・」
「うふふ・・・」
ジローとミスズは顔を見合わせて笑った。
「ミスズ。カゲトラ殿から土産をもらったぞ」
そう言って、片手に持った包みを見せる。包みの中は、乳白色をした塊だった。
「ジロー様。お帰りなさい。それで・・・、父上の土産ですか?」
「ああ、お湯に溶かすと疲労回復に凄い効果があると言っていたぞ」
ミスズはジローの手許にある包みの中を確認した。ジローが言うとおり、乳白色の塊しか無いようだ。
ジローは少々酔っていたが、折角だから使ってみようと言って、カゲトラの土産を溜まったばかりの湯船にザブンッと投げ込んだ。ミスズがそれを手で溶かすようにかき混ぜると、お湯は乳白色に染まっていく。
「ミスズ。一緒に入ろう」
「はい。ジロー様」
互いに頷き合うと、2人は風呂の外に出て服を脱ぐ。と、そこでジローがあることを思いついた。
「ミスズ。ちょっとこっちにおいで」
ミスズは風呂の中で使う綿布を持ったまま、ジローの言葉に従った。形のよい双乳が無駄のない均整の取れたプロポーションに見事にマッチしている。
「ジロー様、なんでしょうか」
「いや、折角2人だけだから、普段出来ないことをやってみようかなと思ってな」
そう言ってミスズを抱き寄せ、キスをするとミスズは応じて舌を絡めてくる。ジローがそのままミスズの背中に左手を廻して少しかがむと、ミスズも膝を少し曲げて追随してくるので、すかさず右手を膝の裏に廻して持ち上げた。
「んむぅ、ん、んぅ〜」
ミスズがびっくりしたのか、瞑っていた両目を開けてジローを見た。ジローはそれを見てミスズの口を開放する。
「ジロー様。これは・・・」
「お姫様だっこ。一回やってみたかったんだ」
そう言うとミスズの顔に朱が射した。ジローが簡単に説明すると納得して、ジローのされるがまま、お風呂に入っていく。
「でも、何だかちょっと恥ずかしい・・・」
<だけど、嬉しいです。ジロー様・・・>
ジローへの愛を更に堅固にしたミスズだった。
「きゃっ、これとっても可愛いですぅ」
「これは年代物の彫刻ですね。使われている材質とその変質具合から言うと、3百年前位前の・・・」
ノルバの繁華街で、アイラは2人のお守りを買って出たことを少々後悔し始めていた。その2人、レイリアとイェスイは、互いに興味を引くもの(レイリアは可愛いもの、イェスイは骨董品や知識欲を刺激するもの)を次々に見つけては、勝手に走り回っている。
アイラは、2人が迷子にならないように、悪い奴に捕まったりしないようにと着いてきたのであるが、2人共それぞれ動き回るので、仕方なく道の真ん中で立っているしかなかった。
<まあ、ノルバは治安もいい方だし、並みの連中ならレイリアとイェスイの相手にはならないんだけどねえ・・・>
レイリアは風の魔法の使い手、イェスイは木の魔法の使い手である。木の魔法は直接的な攻撃手段は少ないが、イェスイの場合はいざとなればイェスゲンと入れ替わるという必殺技も持っている。
<まあ、ウンディーネの魔物が忍び込んでくるというのも考えられるし、仕方ないねぇ>
道の真ん中で赤毛をくしゃくしゃと掻く。
「きゃぁぁぁぁぁ、アイラじゃない」
突然大声を浴びせられて驚きのアイラ。だが、その声の主はアイラが知っている人物だった。
「・・・ケイト。あんた、なんでここに。確か結婚してバスクにいたんじゃ・・・」
「旦那の仕事の都合でノルバに越してきたのよ」
「そうかぁ、でも、なっつかしいな〜」
「ええ、そうね〜」
ケイトは買い物籠を持ったままアイラの傍に近寄った。そして、四方山話が始まる。互いの近況や、これまでどうしてきたのかとか、いろいろな話を。
「ふ〜ん。そうなんだ。もう2人も生んだのか。でも、幸せそうでよかった」
「ええ、男の子2人なんだけど、もうやんちゃで困っちゃうわ。でも、アイラ、本当に結婚したの?本当に?」
アイラは神妙な顔つきで頷く。
「だって、アイラ男には興味ないって・・・、昔から男勝りだったし、そんなアイラに憧れた女の子もいっぱいいたのよ」
「あの時は仕方なかったのよ。野郎共を締めなきゃならない立場だったし、その中の1人にうつつを抜かすなんてことは出来なかったし・・・」
「だから、あたし達に手を出したのよね」
ケイトの瞳に少しだけ熱っぽい光が灯った。
「そのお陰であたしも、セロではアイラしか知らなかったし・・・、親に旦那と結婚しろって言われて、バスクに行く途中で何度泣いたことか、そのころは男に抱かれることに恐怖感もあったし」
「多分、あたしのせいだね。ごめん」
「ううん、そんなことないわよ。憧れのアイラと一夜を共にすることが、私達の中でどれだけ名誉なことだったと思う?」
「いや、ごめん、知らなかったよ」
「私の知る限りでは、アイラの女は私も入れて4人はいた筈だけどね」
ケイトが微笑んだ。アイラは照れ隠しで赤毛を掻く。
「でも、そのアイラが結婚かぁ。で、どんな人なの?当然アイラよりも強い人だよね」
「うん、強いよ。でも、それだけじゃないよ。そうね、一緒にいるのがはまっている人かなぁ」
「はまっている?」
「そう、あたしの欠片を埋めてくれるって言うのかな、とにかく心身共に強く結びついている人なの。同じような女の子があと5人いるけど、あの子達もきっと同じようなことを言うと思うよ」
「えっ?!アイラの他に5人もいるの?」
「そうよ。でも、嫉妬はなし」
「そんな、信じられない・・・」
その時、近隣の店に入っていた金髪の美少女がアイラの傍に近寄ってきた。アイラがケイトと親しげに話しているのを見て、無邪気に声を掛けてきた。
「アイラお姉さまぁ、お知り合いの方ですかぁ?レイリアちゃんにも紹介してくださぁい」
ケイトが目を見張った。ウェーブのかかった金髪と金の瞳の美少女の可憐な美しさに、一瞬心を奪われてしまったのだ。
アイラは、レイリアを自分の横に招くと右手で抱き寄せた。レイリアは素直にアイラの腕の中に収まって、可愛らしい仕草でアイラの肩に頭をくっつけた。
「紹介するね、この子はレイリア。さっきいった5人の内の1人よ。で、こっちはケイト。あたしの昔なじみだよ」
「よろしく、レイリアさん」
「ケイトお姉さまですねぇ、よろしくお願いしま〜す」
レイリアは、そう言うと頭を下げた。それを見ながらケイトは、アイラにこそっと耳うちする。
「ねえ、アイラ。この子ともしたの?」
「そうよぉ〜、でも、驚くなかれ、実はこの子が一番のテクニシャンだったりするのよぉ」
「えっ、うそ〜」
「なんなら、試してみるぅ」
ケイトの瞳が左右に動く。心の葛藤が見て取るように判った。だが、直ぐに現実を思い出したように、瞳の色から火照りが引いていく。
「だめだめ〜、これから帰って子供にご飯作らなきゃいけないのよ・・・。でも、あんがと。会えて嬉しかった。また、旅の途中で寄ることがあったら、あたしのところにも来て。やんちゃで可愛い子供達を紹介するから」
「わかった、楽しみにしているね」
「ケイトお姉さま、また今度ですぅ」
ケイトは名残惜しそうにアイラ達と別れ、繁華街の雑踏に消えていった。
「ジロー様、このお湯って・・・」
「ああ、あの温泉と同じみたいだ・・・」
「は、早く上がらないと・・・」
「ああ、だがまずミスズを・・・」
「あん、そうですね、よろしくお願いします・・・」
ジローとミスズは湯船の中で繋がりあっていた。座っているジローの上に抱きつくようにミスズが位置し、膣と肉棒がぴったりと填まっている。
ジローは、湯船に入ってから3回目の射精に向けて動き始めていた。3度目というのに、精力は衰えることなく、むしろ1回目よりも濃い精液が大量に放出される。
「出よう」
「はい」
ジローはミスズを持ち上げて結合を解くと、湯船から出た。しかし、お湯に溶かした温泉の効果は継続したままのようで、肉棒が硬く反り返っている。
「ジロー様、大丈夫ですか?」
ミスズが心配そうに近寄った。ミスズの太腿にはジローの出した精液がつつっと垂れた跡が残っている。
「ああ、あの時よりはましのようだ」
そう、まだジローには落ち着いて考えられるだけの理性が残っていた。前回、温泉でのときは、次の日の夕方まで理性が性欲に負けたままだった。
「父上も、とんでもないものを・・・」
ミスズがため息を吐く。だが、ジローは別のことを考えていた。
「ミスズ、ノブシゲ殿にも同じものが渡されたんだ」
「え?それじゃ」
「ああ、知らずにたっぷり浸かったら・・・」
「ランが危ないです。直ぐに行きましょう!」
ミスズに同意したジローは手早く着替えて離れの館を出た。滾った股間のものが少々気になったが、そんなことを言っている場合ではないことを判っていたのだ。
「ノブシゲ、ラン、入るわよ」
ミスズがノルバ城の奥の居住区画にあるノブシゲの私室の扉を開けた。そこには・・・。
「はぅ、はぁ、あぁ、も、もう、これ、い、じょうは・・・」
床の上で半裸のランがうつぶせになっていた。その腰の部分だけを持ち上げて、強引とも思える仕草で腰を打ち付けているのはノブシゲ。その顔には理性はなく、性欲だけに支配されている様子だった。
「遅かったか・・・」
「ノ、ノブシゲ、やめなさい。ランが壊れてしまうわ」
ミスズが怒鳴ったが、ノブシゲはその一瞬だけミスズを見るために止まっただけで、再び腰を振り始めた。
「とにかく、射精したら動きが止まるから、そのタイミングで2人を離そう」
ジローはミスズと頷き合うと、2人の傍に近寄っていった。そして、ノブシゲが射精したのを見計らって、ジローがノブシゲの脇を掴み、ミスズがランを抱き寄せるように引っ張り、2人の結合を解いた。結合が解かれたランの膣口は真っ赤に腫れ上がって口を開きっぱなしになっており、そこから精液と愛液が入り混じった白濁色のものが床に大量にこぼれだしていた。
「ミスズ姉さま・・・、これ以上は・・・、許してくださ、い・・・」
ランの意識は既に混濁していた。自分を抱きかかえているのが辛うじてミスズとわかったが、全身を駆け巡っていた快楽の嵐の余韻が痺れるように残っていて、全く力が入らない状態で、意味不明の言葉を発していた。
一方、ノブシゲは股間の一物を天井にいきり立たせていたが、苦しそうな表情でジローを見つめる。段々と瞳に精気が戻ってきているようで、ジローのことが判るだけの理性を取り戻してきていた。
「ジロー殿・・・」
羽交い絞めにしているジローの顔を覗きこんで、自分が快楽に負けて何をしたのかを知覚したようだ。
「ラン、すまない・・・」
だが、股間だけは別の意思を持っているように屹立したままだった。それを見て、ジローは自分の股間も同じ状態であることを思い出した。
「ミスズ。ランの介抱を任せていいか?」
「はい。いいですけれど、ジロー様?なにか?」
「俺は、ノブシゲ殿の介抱をする。ついでに、自分もだがな」
ミスズは怪訝な顔をしたが、直ぐにその表情は呆れ顔になった。
「もう、仕方ないなあ・・・、余り無茶しないでくださいね」
「わかった」
「それと、見逃したご褒美を忘れないでくださいね」
ジローはちゃっかりとしたミスズに頷くと、ノブシゲを着替えさせ、ノルバ城を後にしたのだった。行き先は繁華街の裏通り。
そこは、ノルバの歓楽街だった。ジローはノブシゲを支えるように連れてその内の一軒に入り込んだ。『麗女館』という看板が取付けられたその店は、ノルバで一番上級な娼館だった。
作り笑顔を見せながら出てきた親父に、ジローは店で今空いている娼婦全員を買いたいと告げた。当然、仰天した親父だが、直ぐに費用のことを切り返してくる。ジローはノブシゲと自分のもつノルバ家の紋章を見せ、支払いは王家が行うことと、今日これからあることは絶対に口外しないことを逆に約束させた。
親父は、納得したのかジローとノブシゲを一番大きくて、調度品が整った部屋に案内した。そこには、大きなベッドが4つ用意されている。親父の話によると、乱交パーティを行う時に使われる部屋だということだった。内緒ですよと言っていたが、社会的な地位を持った人々などもお忍びで時折利用しているらしい。
「ノブシゲ殿、大丈夫か」
「は、はい。なんとか・・・」
ノブシゲの声が震えていた。性欲に禁断症状があるならば、こんな状態なのかもしれない。だが、それを精神力で耐えている様子。
「カゲトラ殿からもらった秘薬の効果が切れれば、元に戻る筈。ここに来たのは、その治療をするためだ」
「治療?私は病気なのですか」
「カゲトラ殿から貰った秘薬の効果で、性欲が抑えられなくなっているんだ。絶倫にもなっているし。だけど、1人の女性だけを相手にしたらその女性が壊れてしまう」
「ランには、すまないことを・・・」
「大丈夫。気にしないで、今は治療と割り切って出しまくった方がいい」
ジローがそういった途端、部屋の扉がゆっくりと開かれ、8人の美女が入ってきた。
「いらっしゃいませ。お待たせしました。どうぞよろしくお願いします」
それぞれが、名前を告げながら、そんなことを言った。
「これで全員?」
「いいえ。後から遅れて参るものもおりますわ」
「そうか。じゃあ、4人ずつに分かれて」
娼婦達はノブシゲ側とジロー側にそれぞれ分かれた。その時ふと、ジローの頭に悪戯心が芽生えた。
「ノブシゲ殿」
「は、はい、何でしょうか・・・」
「どうせなら、どちらが何人相手できるか勝負しよう」
「・・・勝負ですか。いいですね」
突然乗り気になるノブシゲ。
「よし、いかせた人数で」
「はい」
娼婦達は、この会話に怪訝な顔をする者、与太話と思って微笑む者他、様々な反応を示したが、それぞれ薄着のままベッドに上がって、お客への奉仕を始めたのだった。
「きゃっ、お客様の凄く硬い・・・」
ジローの肉棒を口で咥えた2人の娼婦が思わず漏らした。ジローも、絶倫温泉の効能がしっかり効いているのだ。だが、ものをしゃべろうにも、別の娼婦が口を塞いで話せない状態だった。
<よし、レイリアから教わったテクニックで・・・>
ジローの両手が、2人の娼婦の股間に伸びた。其処は予め濡らして来たのか、薄っすらと樹液を湛えて滑っている。その縦筋を挟むように指を擦らせた。
「ああ、お客様、お上手ですわ・・・」
レイリア仕込みの技法で、娼婦の其処はすぐに洪水状態になった。そして、剛直を口で奉仕していた娼婦達も、これで突かれることを想像しながら自分で準備していた。
「よし、1人ずつ跨るんだ」
「はい・・・、う、あ、あぁぁぁぁぁんぅ・・・」
騎乗位で跨った娼婦が、腰をグラインドしながら振った。絶妙な刺激がジローに伝わってくるが、今日のジローはそれ以上に性欲魔神と化している。自分でも下から突き上げ始めた。
「あっ、お客様・・・、そ、そんな、に、激しく・・・、う、ご・・・、あ、あっ、あぁぁぁぁ、あぁぁぁぁぁんぅ、うぅぁあぁぁぁぁぁ・・・」
娼婦が果てたが、ジローはまだまだだった。
「ふう、やっぱこれだねぇ」
アイラがジョッキを半分近く一気に飲み干して満悦の笑みを浮かべる。
「お姉さま、これとっても美味しいです」
イェスイがテーブルの料理に舌鼓をうって食べては、そう言っていた。レイリアはもっと気に入った様子で、ものも言わずにもぐもぐと口を動かしていた。
3人が夕食にありついていたのは、ノルバの繁華街から少しだけ横道にそれた場所にある『楡の木亭』という店だった。店の中は小綺麗で、広さはそこそこ、結構賑わっている感じである。
その雰囲気に誘われて、アイラ達は空いたテーブルを見つけて夕食にありついていたのであった。
あらかた食事も終わり、3人ともお腹一杯の幸せを満喫している時だった。アイラの背後でざわめきが聞こえた。
「よう、おかみ。お前の亭主は死んだんだ。こんなちんけな店をいつまでも続けてないで、俺のところにこい。たっぷりと贅沢させてやるぜい」
「や、やめてください」
「アール様、お戯れは・・・」
「うるせえ、婆あ!」
別のしわがれた怒鳴り声が響いた。アイラが振り向くと、貴族のなりをした若い男と、その取り巻き連中が6、7人、店のまだ若そうな女主人と年増の女に向かって凄んでいる。どうやら女主人は給仕に来たときに捕まったらしく、手首を掴まれていた。
「ったく、せっかくいい気分だったのに・・・」
アイラが赤毛を掻きながら立ち上がった。が、その前に珍客が乱入していた。それは、10歳位の男の子だった。
「おじさん達、おかみさんが嫌がっているよ、手を離してあげてよ」
男の子の不意打ち的な発言に、一瞬の間が広がったが、直ぐに取り巻き1人が顔を凄ませて男の子を睨んだ。
「うるせいぞ、怪我したくなかったらガキは引っ込んでろ!」
だが、男の子は怯まなかった。それを見て、怒鳴った男は拳を振り上げた。男の子は逆に睨み返す。そして、男は拳を振り下ろ・・・、せなかった。
男の手が万力のような力で掴まれて、びくとも動かなかったのである。
「息子に何をする。それにお前達の行動は目に余るぞ」
手を掴まれた男は、痛さで悲鳴を上げる。それを見た取り巻きの2、3人が血相を変えて、手を掴んだ大男を囲んだ。男の子は大男の背後に廻り、後ろにいた女の子の手を掴んで見守る。その瞳には信頼の輝きがあった。
アールと呼ばれた貴族は、自分の邪魔をした大男に憤慨したようだ。他の取り巻き達にも命じて大男を袋叩きにしようとした。
取り巻き達はそれぞれ、ナイフや棒などの得物を取り出す。対する大男は素手。周囲の人々は、巻き込まれないように退避している。その中で、アイラは大男の背中を見つめ、得心がいったのか、もう一度椅子に座りなおした。
「あいつらも、不幸だねぇ・・・」
取り巻き達が一斉に大男に向かっていった。棒で殴りかかり、ナイフで切りかかる。だが、大男の行動は予想外だった。なんと、腕を掴んでいた男をそのまま持ち上げて、振り回したのである。
3、4人の取り巻きが振り回された男とぶつかった。そのまま床に当たって動かなくなってしまう。そして、残りの連中は、大男の左手の拳がヒットすると白目を向いてへたりこんでしまっていた。
驚いたのはアールである。なにしろ、瞬殺に近い形で取り巻き達を一蹴されたのである。思わず掴んでいた女主人の手首を離し、そして、遁走する。
「待った」
アールの襟首を掴んだのはアイラ。
「イェスイ、お願いね」
「はい」
イェスイが呪文を唱えると、店の中にあった植木の蔦がしゅるると伸びて、アールを逃げられないよう拘束した。
そしてアイラは大男の元へ。
「フドウ、ひっさしぶり〜」
「姉御・・・」
怪力のフドウとアイラの再会だった。
捕まったアールと床にのびていた取り巻き達を縛った頃に巡邏の警備兵達が騒ぎを聞きつけたか、誰かが呼びに行ったのかは知らないがやってきた。すると、しょげていたアールが急に威丈高に警備兵の隊長に向かって叫んだ。
「私はアール・ボウエンだ。直ぐに解放してこいつらをひっ捕まえるのだ」
そう言って、フドウとアイラを顎で指した。だが、隊長はフドウを見て、もう一度アールを見た。アールから見れば、行動を迷っているようにも見えた。
「おい、早くしろ。この私を誰だと思っているんだ。ノルバの商務を預かる大貴族、サルキ・ボウエン侯爵が俺の親父だぞ。お、そうだ、助けてくれたら親父に言って、出世させてやるぞ、ほら、早く助けろ。この忌々しい蔓を外すんだ」
アールのわめきを一通り聞くと、隊長はもう一度フドウを見定めた。そして、敬礼する。アールは唖然として、その姿を見ていた。
「フドウ将軍と御見受けします。私は警備隊のローシといいます。それで、これをやられたのは」
「俺だ。息子を殴ろうとした」
ローシはにこっと笑った。
「そうですか、それでは将軍の正当防衛が成り立ちます」
「まっ、まった、あ、あいつは嘘をついているんだ。あ、あんな奴より、俺様に従った方が百倍いい思いが出来るんだぞ。お、俺をしょっ引けば、お前だってただではすまないんだぞ!」
「ローシ隊長。もし失職したら俺の部下で迎えよう」
「ありがとうございます。ノルバの戦いで、カルバトスとの一騎打ちを後ろで見ていて、感激しました。将軍の部下にしていただけるなら本望です」
アールは旗行きが悪いのを肌で感じ取ったようだ。
「な、なあ、今までの行動は全て水に流して忘れるから、俺を解放してくれ・・・」
「残念だが、そうはいかない。観念するしかないな。連れて行け」
警備兵達がアールと取り巻き達を引きずるようにして店を出て行く。そして、最後に残ったローシは、再びフドウに敬礼すると店を出て行った。
「なんか、すっとする対応だね」
「ええ」
「でも、フドウ。いつの間にか将軍らしくなってきたねぇ」
アイラが笑う。フドウは照れる。
「い、いや、それほどでも」
「照れない照れない。でも、あの警備隊長本当に職を失わなければいいけど。あっ、でもその時はフドウが面倒みるんだったね。あんた昔から有言実行だったし」
フドウは軽く頷いた。
<警備隊のローシか。ああいう副官がいると・・・>
「お客様、ありがとうございます」
フドウの思考を遮るように店の女主人と年増の女がお礼を述べ、同時に店の中が歓声の嵐に包まれた。それは、店の中で一部始終を見ていた客達の賞賛のあかしだった。
年増の女は女主人の夫の母親で、自分の夫と息子を病気と事故で亡くしてしまったが、嫁と2人で夫の残したこの『楡の木亭』を守ってきたのだという。だが、最近になって、あのアールとかいう貴族が、女主人の美貌に見惚れていろいろとちょっかいを出して来ていたのだという。
アールは、一応は求婚という形を取ってきたが、所詮は貴族と平民の間、よくてせいぜい妾が精一杯だろう。それよりは、今の暮らしを棄てたくないと女主人は丁重に断った。だが、それがアールの感情を逆撫でしたらしく、それ以来いろいろといちゃもんや嫌がらせを仕掛けてきていたらしい。
「でも、これでこれに懲りてやって来れないでしょう」
母親はそう云いながら笑った。
「でも、仕返しとかは大丈夫なの?」
アイラが聞くと、横からフドウがぼそり。
「俺で良ければ、暫くこの店に食事を食べに来よう。子供達も料理が気に入ったようだ」
「えっ、本当ですか?あ、ありがとうございます」
女主人が少し赤い顔をして丁寧に頭を下げた。そして満面の笑顔を作る。
「フドウ様には、とびっきりの料理を作りますね」
こうして、フドウは毎日のように『楡の木亭』に顔を出すようになり、店の用心棒的な常連客として存在感を発したため、揉め事を起こすような客は来なくなったのである。
フドウとアイラ達は同じテーブルについていた。彼らの前には女主人が感謝の気持ちを込めて作った料理が並べられている。
「でも、フドウ。いつから子持ちになったんだい?」
「この子達とは、ノルバに王国軍が攻め込んだ時に知り合いました。身寄りがないので一緒に暮すことにしたんです」
「ああ、あの時の」
アイラは思い出したように頷いた。
男の子の名はナスカ、女の子はシーダと自分で名乗った。2人共、フドウの事を父と呼んでいるらしい。
「そうかぁ・・・、でも、なんか似合っているねぇ」
フドウは照れたような目をして、料理を食べていた。
ジローとノブシゲの性欲が治まったのは、既に夜も深け、日付が替わった後だった。ジローとノブシゲはそれこそ出しまくった。その夢の跡は、ベッドに果てて石のように眠っている娼婦達を見れば明らかだった。4つあるベッドの全てに裸の女性が倒れている。ジローとノブシゲの際限ない絶倫さによって貪られ、何度も失神し、疲れ果てて眠っているのである。
だが、当事者2人は、性欲による禁断症状がすっかり治まり、身体もすっきりと軽くなって、疲労感はあるものの爽快な気分だった。
「勝負は、私の勝ちですね」
ノブシゲが笑いながら言う。
「そうみたいだな」
ジローは苦笑。ジローが相手した人数は12人だが、ノブシゲはもう1人多くて13人。秘薬を溶かしたお湯に長く浸かっていた差が出たようだ。
「ジロー殿、ありがとうございました」
ノブシゲは頭を下げた。
「いや、いいんだ。・・・さて、勝負に負けたことだし、俺の奢りで飲みに出ようか」
「はい、ご馳走になります」
2人は部屋を出ると、『麗女館』の親父に挨拶して繁華街に繰り出した。そこは、深夜というのに松明やランプの明かりが揺らめく、幻想的な空間だった。昼の繁華街とはまた違う、心をざわつかせる雰囲気を持っている。
「さて、どこにいこうか・・・」
「ジロー殿、そこを横道に逸れたところに、いい店があると聞いたことがあります。行ってみませんか」
ジローは快諾し、ノブシゲと共にその店、『楡の木亭』の門をくぐった。
「なっ・・・」
店の中に入ったところで、ジローは固まった。店の中央の丸テーブルの両側に男女が1人ずつ座っていた。その男女の脇には空っぽの酒瓶が無数に転がっている。どうやら飲み比べをしているようだが、その量はとんでもない量だということが一目でわかった。
そして、あろうことかその2人共、ジローもノブシゲも知っている人物だったのだ。ぐびっとグラスの酒を飲み干して机にたん、と置いた赤毛の女性。深緑の酔眼に悪戯っぽい光を湛えているのはアイラだった。そして、対する大男は丸太のような腕でジョッキをわし掴み、同じく酒を一気に口に入れる。こちらはノルバの戦いの後に将として迎えられたフドウだった。
「アイラ・・・」
「フドウ将軍・・・」
ジローとノブシゲが立ち尽くしながらそう呟いたのを聞いて、奥から若草色の髪と空色の瞳の少女が近寄ってきた。
「ジロー様」
「イェスイ、どうしたんだ、これ」
「はい、夕方遅くに食事に入ったんですけど・・・」
イェスイは店での出来事を簡潔に説明した。アールを捕まえてフドウと再会し、店の好意で食事を食べているうちに、何故かアイラとフドウのどっちが酒が強いかという話になって、あれよあれよと言う間にこうなってしまったらしい。
「レイリア様は、フドウ様の2人の子供を寝かしつけようとして、一緒に眠ってしまいました」
「で、あれか・・・」
「はい」
ジローはため息をつきながら2人の様子をみた。丸テーブルの周りには、2人の勝負をはやし立てる店の客達がたくさんいた。その中には店の女主人と思われる人までいる。
「フドウ様、頑張って」
「姉ちゃん、まだいけるまだいける」
だが、2人もどうやら限界が近いようだった。アイラの手許がおぼつかなくなり、フドウも身体が揺れ始めている。
「ノブシゲ殿」
「わかりました」
2人は自分達が飲むどころではなくなったことを理解して、2人に近寄っていったのであった。
「ふにぃ〜、眠いですぅ〜」
イェスイに支えられながら、とぼとぼと歩くレイリア。
「レイリア様、もう少しでお城ですから、ベッドでゆっくりお休みしましょう」
愚図るレイリアをなだめながら歩くイェスイ。
「ふにぁ〜」
完全に酔いつぶれたアイラを背負って歩くジロー。夜も深け、星の瞬く空を見ながら、誰もいない通りを城に向けて歩いていた。
時折、巡回の警備兵達とすれ違うが、一緒にいるノブシゲが顔パス代わりになってくれているので、特に見咎められることもなく、ゆっくりながらも順調に歩んでいた。
アイラとフドウの飲み比べは、結局アイラの方が先につぶれたのだが、それを見たフドウもまた、勝利を噛み締める間もなく後ろにひっくり返った。ジローとノブシゲは、そんな2人を介抱して、フドウは『楡の木亭』の女主人が泊まる場所を提供してくれたので、子供達と残すことにし、一緒に寝ていたレイリアを起こし、酔いつぶれたアイラを背中にしょって城に戻ることにしたのである。
「あれ〜、この背中〜、知ってる〜、へへ、ジローの背中だぁ〜」
どうやらアイラが目覚めたらしい。その証拠に、今まで脱力していた手足に力が入り、ジローに身体を密着して来る。
「ん〜、ぴったぁ〜」
酔っているのか、言葉の呂律がおかしかったが、それでもアイラは幸せそうに身体を密着させ、顔をジローの首に寄せて満足そうに笑っていた。
「アイラ、起きたか」
「う〜ん、起きたぁ〜」
子供のようにこくりと頷くアイラ。いつもと違うその仕草に、思わず可愛いと思ってしまうジローだった。
横ではレイリアが愚図りながらイェスイに引っ張られ、斜め前にはノブシゲが手を腰の剣に置き、辺りを窺いながら歩いていた。
そして、無事に城に到着。ノブシゲはジローに感謝の言葉を謝して、別れて行った。ジロー達はそのまま離れの館へ。
レイリアは部屋に着くと、無言でベッドに潜り込んだ。すぐに寝息が聞こえてくる。イェスイは、アイラの介抱をジローと一緒にした。ジローの背中から降りるのを嫌がって大変だったが、何とかなだめてベッドに寝かせることに成功。すると、まるで電池が切れたように深い眠りに落ちてしまった。
そして、イェスイはお風呂を使いたいと部屋を出て行き、ジローは自分のベッドで今日一日の出来事を思い出していた。
<カゲトラ殿と会って、湯の花を貰って、ノブシゲ殿の所に行って・・・、ランは大丈夫だったのかな、起きたらミスズに聞いてみよう>
ミスズはランの所にでも泊まったらしく、館には居なかった。
<で、その後で『麗女館』に行って、『楡の木亭』行ってか・・・、最後まで慌しい一日だったな・・・>
そう言って、伸びをする。もう直ぐ夜も開ける時刻だった。身体も疲れを感じているのか、段々と重く感じてきた。
<まあ、何とかおさまったから良しとするか>
その時、ジローは忘れていたのである。お風呂のお湯のことを。
「ジロー様・・・」
ベッドに裸で潜り込んできたのはイェスイだった。そう、絶倫温泉の湯はそのままだったのだ。温めのお湯が好きなイェスイは、白い湯を気にかけることなく、とっぷりと浸かってしまったのである。
こうして、ジローは一睡もしないまま、朝日を見ることになったのであった。
「ノルバの休日」 了