ドレアム戦記

第一編 玄白胎動編 第6話

「いっ、いっ、いっくうぅぅぅぅぅぅぅ・・・」
 ベッドの上でミスズが7回目の絶頂に至った。玄武の神殿での約束どおり、ジローはミスズに心行くまで快楽を与えている最中である。隣ではアルテミスとアイラがシックスナインの体勢で、互いの性器を啜りあっている。
 ミスズは息も絶え絶えだったが、まだ貪欲に快感を貪ろうとしていた。今まで自分の体内にたっぷり精液を放出してくれた肉棒を愛おしげに舐るように咥え、尿道に残った精液までストローを吸うように啜っている。
 ミスズの痴態に、ジローは3回射精した後だというのに、剛直がむくむくと立ち上がってくるのを感じた。ミスズはそれに気付いたのか、嬉しそうな表情で更にフェラチオに熱がこもる。
<ジロー様。廊下に誰かいます。あぁぁん・・・>
 アルテミスが心をコネクトしてきた。口はアイラの性器に密着し、膣には舌が入っているようだ。要はしゃべれなかったのだ。
<ルナちゃん。余裕あるじゃない。はぁ、気持ちいい・・・>
 アイラはアルテミスの舌が入っているため会話に参加できたようだった。
<アイラ、ちょっと見てきてくれないか>
<うん。わかった>
 横でごそごそと動きがあり、アイラがアルテミスの顔を挟みつけた両腿をどかし、覆いかぶさっていた美尻から開放する。久々に空気に触れたアルテミスの顔は上気し、口元は愛液と唾液でびっしょり濡れていた。ミスズは、その間もジローの肉棒を放さない。アイラはそのまま扉に向かった。
 扉の開く音と、ちょっとした押し問答のようなやり取りが聞こえ、暫くすると人の気配が近寄って来た。
「ジロー。ちょっと・・・」
 アイラの声を後ろから聞き、ふとミスズが肉棒を放して振り向き、固まる。
「え、ユキナ・・・どうして・・・」
 裸のアイラに両肩を掴まれて立っていたのは、銀髪の美少女戦士ユキナだった。
「この子、ドアの外で聞いていたみたいよ。しょうがない子よね。それに、私たちの乱交を聞きながらオナニーしてたみたいだし・・・」
 そう云ってアイラはユキナのスカートを捲り上げた。白い下着の股の部分は色が変わるのが見て判るくらい濡れていた。
「きゃぁっ」
 とっさ抵抗しようとするユキナ。が、力が入らないようだ。アイラに掴まれていて動きが取れない。
「まあ、いやらしい子ですね。そういう子にはお仕置きしないと・・・」
 アルテミスが妖艶な笑みを浮かべてユキナに近づく。内腿には流れ出た愛液が光っている。ユキナの眼に怯えの色が射す。アルテミスは構わず左手の親指と人差し指でユキナの顎を挟むと、唇を重ねた。
「うむぅぅぅ・・・」
 急な出来事にユキナの頭の中はパニックになった。ユキナの口はアルテミスに犯され、舌が別の生物のように蠢き、ユキナの舌を舐った。だが、拒絶するような気は起きなかった。むしろそこから来るものに頭が真っ白になっていく。
 ミスズは呆然とその光景を眺めていた。だが、ジローが半身を起こしてミスズの後ろから乳房を揉み始めると、直ぐに吐息が欲情色に変わる。
「あぁぁ・・・。ユ、ユキナ・・・」
 感じながらもユキナのことを気遣うミスズ。だが、ユキナはアルテミスの舌技に何が何だかわからない状態になりつつあった。
<ミ、ミスズお姉さま・・・。わ、私・・・>
「さあ、邪魔なものは脱いじゃおうね」
 アイラがユキナの服を脱がしにかかる。ブラウスのボタンを手早く外すと、まだ発育途中の可憐な胸が顔を出した。ピンク色の乳首がちょこんと乗っている。そのままブラウスを両手から抜き、今度はスカートを下ろす。つづいて、愛液で染みた下着も。ジローの眼に雪のような肌と、そこから新芽のように出ている性器の姿が飛び込んできた。
「肌、きれいね。きめ細かくて吸い付くみたい」
 アイラがユキナの肩を舐めながら胸を揉む。小さいが感度はまずまずのようで、ユキナはくぐもった声をあげる。
 アルテミスはようやく唇を開放し、今度は乳首に吸い付いた。
「あはぁぁぁ・・・」
 新鮮な空気を吸い込めた安心感と、快感が混じった震える声がでるユキナ。その官能的な表情に、ジローは股間がますます熱くなるのを感じた。
「ミスズ。ユキナを食べてもいいか?」
「あぁぁ・・・。い、いぃ・・・」
 ユキナがミスズの腹違いの妹で、かつミスズを一番慕っていることを知った上での意地悪な質問だった。が、ジローの左手は乳首を、右手はどろどろの蜜つぼをまさぐっており、こんな状態でジローの質問にノーと言えるはずがないミスズであった。
「ジロー。ちょっと待った。この子の意思を尊重しないとだめよ」
 ジローの言葉を聞いたアイラがそういった。だが、ジローは構わずにユキナの前に移動し、ユキナの潤んだ瞳を見つめる。アルテミスはユキナの股間に移動し、下から性器を吸っていた。
「ユキナ。どうしたい?私達と一緒にジローのものになりたくない?」
 アイラはそういうと、ユキナの耳元になにか囁く。途端にユキナの顔が朱に染まるが、乳首をつままれてもう一度軽くいくと、観念したようにジローを見つめた。
「さあ、早く・・・言ってごらん」
 アイラがユキナの乳房を揉み、絶え間ない快感を送り込む。
「あぁぁぁぁ・・・。ジ、ジロー様ぁ・・・。ユ、ユキナに・・・あ、熱い・・・お、おちんちん、をい、入れて・・・くだ・・・さいぃぃ・・・」
 恥ずかしいのか最後の方は消え入れそうな声だった。
「だめよ。ユキナ。もっとちゃんと言わないと・・・」
 アイラが再度耳打ちする。ユキナの顔が真っ赤に染まった。
「はぁぁぁ・・・、ユ、ユキナを、ジロー様の・・・も、ものに、してくださいぃぃぃ・・・。ユキナのし、処女の・・・お、おまんこ・・・に、ジロー様の・・・熱いぃ、おちんちん、を入れて、下さいぃぃぃ」
 ジローはユキナをじっと見つめた。
「わかった。ユキナも俺の妻にするよ。うれしいかい」
「あ、あぁぁぁ・・・嬉しいですぅぅぅ」
「よしよし。じゃあ舌を出して」
 ジローがそういうとユキナは唇から小さな舌を突き出した。ジローはユキナに微笑むと、突き出た舌ごとユキナの唇を奪った。
ぷしゃぁぁぁぁぁ・・・
 ユキナの股間から小水のように潮が吹き、アルテミスの顔と髪がシャワーを浴びたようになった。ユキナはジローのキスだけでいってしまったのだ。
「へえ、感じやすいんだ。この子。楽しみが増えたかも・・・」

 翌日からジロー達は大忙しだった。
ノブシゲはミスズの良人であり、アルテミス姫の良人でもあるジローに対して、客将として最大限の待遇を与えた。ウンディーネを操り、ノルバの危機を救ってくれたジローの力をうまく利用したいというのが本心ではあったが。但し、ユキナに手を出したことは既にばれていて、ランには絶対手出ししないことを念押しされていた。
 一方、ノースフロウ王国軍とジャムカ騎馬隊は城に突入した兵の大半を失ったおかげで、残った約半数の体勢を整えるのに時間を要していた。特に連れてきた騎馬隊の3分の1を失ったチラウンは残りの人数での戦術を練り直せざるを得なくなっていた。
 そんな中で、ジロー達が片付けていかなくてはならないことはいろいろあった。城の防衛のこと、捕われたモトナリのこと、カゲトラ公爵のこと、当面対処しなければならないことだけでも3つ、今後のことを考えるともっとたくさんの問題が山積していた。
「では敵は、東門だけに集中すると考えていいのだな」
 ノブシゲの問いにシメイが軽く頷いた。半数になった敵勢力では3門を同時に攻めるとジリ貧になりかねない。故に他の2門を攻める戯兵は置くとしても、主力は守備力の落ちた東門を攻めるだろうという推察が成り立つ。事実、シメイが集めた情報でも、その敵軍にそういう動きがあることがわかっている。
「但し、今後こう着状態になると、困ったことになるかもしれません」
「・・・そうか、兄上を使ってくる気だな」
「はい。その場合、モトナリ様のご気性では、自ら命を絶つかと」
「ああ、わかっている。兄上は自分の命と我々を天秤にかければ、命を投げ出すだろう・・・」
 ノブシゲの肩にミスズが手を置いた。
「そんなことはさせないわ。兄上を助け出すのよ」
 そう云ってジローの方を見る。ジローは力強く頷いた。
「敵が体勢を整えて攻め込むまで1両日の猶予はあると思います。先ずは攻め込んで、埒があかなければモトナリ様を使おうとするでしょう」
「ということは、今日の夜がチャンスということだな。シメイ殿」
「シメイで結構です。ジロー殿。その通りです」
「ノブシゲ殿。モトナリ殿の救出は俺達に任せてくれ。ユキナを連れて行けばモトナリ殿も信用してくれるだろう。モトナリ殿を混乱させないためにミスズとアルテミスは置いていくのでよろしく頼みたい」
「ジロー殿・・・わかりました。よろしくお願いします」
 アルテミスとミスズは少し不満な顔をした。それを見てジローが言う。
「2人は、カゲトラ公爵を見てくれ。原因不明の眠りから覚めないというのは、何かしらの魔術の可能性も考えられる。玄武の神殿で得た知識が役に立つかもしれない」
 2人の顔が明るくなった。女は現金なものである。
<但し、夢魔だったら2人だけで手を出さずに奴の本体を確認しておくんだ>
<はい。わかっています>

「ニック。どの辺りが怪しそうだ?」
 東門の城壁の上でジローはニックに尋ねた。ニックもまたウンディーネを見てジロー達が来たことを悟り、朝方になって城を訪ねたのだった。
「左手の奥が怪しいでさあ。頭、あの一角だけ妙に炊煙が上がっていないです。天幕がいくつか見えますが、兵士達のものではなく、兵士達に食べ物を運んで貰える身分の連中がいる場所ということです。または・・・」
「捕虜か」
「はい」
 ジローはニックの示した辺りをしっかりと眼に焼け付けるように見つめた。今晩闇に紛れて敵陣深く侵入しようとしているのだ。
「ニック。ありがとう。今夜もよろしくな」
「えっ!へ、へい。わかりやした」
 ジローはニックの盗賊としてのスキルと、逃走本能が今日の救出作戦に必須だと考えていた。ニックもここ1年のいろいろな出来事の中で、ジローの能力、人望を強く感じ、一生ついていくに値すると思うようになっていた。今夜の救出作戦も、普段なら断ってどこかの町にとんずらを決め込むところだが、逆にジローと一緒にいる方がこれから生き残れる確立が高いと本能的に判断し参加することを決めたのだった。
 その夜、夜陰に紛れて城壁を降りる人影があった。影の数は4つ。ジロー、アイラ、ユキナ、ニックの姿だった。
 4人は人目に付かない様に静かに移動し、いつしかノースフロウ王国軍の野営地に近づいていた。昼間に目星を付けていた天幕のある場所まですぐ近くである。
「やけに警戒が厳重でさあ。当たりのようです」
 ニックが小声で言った。ジローが見ると、左手の天幕の辺りに4人の兵士が立っている。他の野営地を巡回している兵士は2人ということを考えても、明らかに見張りの数が多い。
「アイラ。近寄れるか?」
 アイラは任せてと言わんばかりに眼で応えると、草叢に身を潜めた。余計な音など全く立てず、動物にさえも気配を悟らせない、狩猟で鍛えた技術。この技にかけてはセロで彼女が右に並ぶものはいない。
 暫くすると、定期的に巡回していた兵士の姿が途絶えた。いや、多分密かにアイラが始末したのだろう。ジロー達は素早く野営地の中に移動し、天幕の脇に身を潜めた。その隙にニックがナイフで天幕に穴を開け、中を覗く。そこには、無精髯を生やし、柱を背にした男の姿があった。天幕の中にある鉄柵の中で、柱からの鎖が片足の足枷に繋がっていた。
 ニックはユキナに穴から見るように手招きし、覗いたユキナは間違いないと頷いた。
シュッ!
 ニックのナイフが大きく動き、天幕に人が通れるくらいの裂け目ができる。見張りの兵士が物音に気づいて天幕の中を覗こうとする。同時にジローは見張りの兵士に向かってダッシュ。気づいた兵士が声を出す前に、2人を気絶させる。残りの2人の内、1人は天幕の入口で後ろからジローに打たれ、1人はいつの間にか現れたアイラによって倒されていた。
 ジローは見張りの兵士達を天幕の中に引きずり込む。多少は時間稼ぎになる筈。そして、中では、ニックが鉄柵の鍵を開け、モトナリの足枷の鍵に取り掛かっていたところだった。
 モトナリは弱っていたが、ユキナの顔を見た途端、動揺したそぶりも見せずに泰然としていたのはさすがであった。
「モトナリ様。助けに来ました」
 ユキナは短くそういうと、ジロー達に合図した。事情のわからないモトナリが素直に行動するように、救出隊のリーダーがユキナでジロー達はその配下という役割を演じようと予め決めていたので、モトナリはユキナに頷いて従った。
 だが、天幕の裂け目から出たとき、彼らのアドバンテージは尽きていた。レギオス直属の親衛隊長であるオスカーが異変に気づいたのだ。結果、天幕を出て野営地の外に出る前に発見されてしまった。長期間の拘束で足が弱っているモトナリを連れているだけに、簡単に逃げるのは容易ではないようだ。
「曲者め。俺様から逃げられると思うなよ」
 オスカーが剣を抜いて迫ってきた。警備の兵も10名近くはいる。応援を呼びに言っているはずなので、もう少し経つともっと増えるだろう。
「ニック。モトナリ殿を連れて先に行け。アイラ、ユキナ、ちょっとの間脇を頼む」
 ニックはモトナリを支えながら草叢に入っていく。アイラとユキナはジローの両脇を固めて向かってくる敵兵に対峙する。その間にジローはウンディーネを召喚した。
 水の壁が目の前に広がった。近くに寄っていた敵兵以外はその壁を突破できない。壁のこちら側にいるのは5名だけ。但し、その中にはオスカーが入っていた。
 アイラとユキナがそれぞれ2名ずつを受け持つ。ジローはオスカーと対峙した。
オスカーはジローの魔法に少々びっくりした様子だったが、逆に魔法使いなら武器での戦闘はたいしたことはないだろうという思い込みの上で、魔法さえ気をつければ倒すのは容易いとジローに剣を向けた。だが、直ぐにそれはただの思い込みと悟ることになった。そして、悟ったときには、それを次回に生かすことが出来ないことを呪うしかなかった。
オスカーとジローが互いに武器を構えて対峙したのはほんの数瞬。オスカーが動くと同時にジローが刀の刃を上下逆にして突きを放つ。その動きはオスカーの視界から一瞬消え、次に気付いたときには、ジローの刀は一突きで見事にオスカーを貫いていたのだ。
 その間にアイラとユキナも兵士達を軽く片付けていた。そのまま3人共草叢に飛び込む。暫くして水の壁が消滅したが、その時はもうジロー達の姿は闇に紛れ完全にわからなくなっていた。

「やられましたな。レギオス殿」
 モトナリを捕らえていた天幕の外で、悔しそうな顔をしているレギオスの元にチラウンがやってきた。先ほどまでテオドールがかんかんに怒りをぶちまけて引き上げた後である。
「面目ない。だが、ノルバに水使いがいることは間違いないようです。城のときと同様に水の精霊魔法が使われたそうです」
 レギオスは地面の死体に見た。
「それから、相当の手技者もいたようです。私の親衛隊長を勤めていたオスカーが一撃でやられています」
「ほう。オスカーをですか。カルバトス殿に匹敵する剛の者と聞いていましたが」
 チラウンの脇に控えていた剣士がオスカーの遺体に近寄って傷口を見た。
「こ、これは・・・」
「どうした、テムジン」
「はい。この傷口は、武器は違いますが私の技と同じもののようです。一体誰が・・・」
 チラウンはテムジンを見た。セロで守備隊長をしていたが失火の責任を取らされて降格され、今はチラウンの近侍となっている。能力はあるが何故かジャムカ公子に嫌われている損な男という評価をチラウンは持っていた。
「チラウン様。お願いがあるのですが・・・」
「なんだ。剣士の血が騒ぐのか」
「はい。お願いします」
 チラウンは彼を見上げる剣士の顔を見ていた。チラウンとしてはテムジンを副将として1部隊任しても良いと思うくらいの器と考えていたが、ジャムカ公子の厳命により、1兵士以上の任には就けるなと言われていた。故に、自分の傍においたが、その才気は溢れんばかり。特に剣技においては、彼の部下達の中でも抜きん出ており、味方の中でもこれだけの腕を持つものが果たしているかと思うくらいだった。
<ジャムカ様はテムジンが戦闘の中で死んで欲しいと思っているような気がする>
 そんな予感がふと、チラウンの頭をよぎった。
<ならば、ここで単独行動させてしまうのも、テムジンのためかも知れない>
 チラウンは覚悟を決めた。
「わかった。但し、条件がある。テムジン、お前の軍籍は剥奪し、脱走したことにさせてもらう。私はお前に何があるのかは知らないが、お前の能力は知っているつもりだ。きっと、このまま軍にいたとしても未来は掴めないだろう。ならば、これからはしがらみを断って、自分の才覚で生きていけ」
「はっ。ありがとうございます」
 テムジンはチラウンに一礼すると、その場を立ち去り、直ぐに身支度を手早く済ませ、後ろを振り向かずに野営地を後にした。
今まで彼の身に降り掛かった様々なことが思い浮かぶ。奴婢の子に生まれ、幼い頃に母親と引き離され、何故かわからないがドリアードに連れて行かれて教育を受けさせられた。その時同じように集められた2人とは、互いに親友として生きて行こうと誓ったが、王の崩御の後にそれぞれ3公子に引き取られ、互いに相手の消息もわからなくなっている。
<ボロム、パメラ、今頃はどうしているのだろうか・・・>
 一瞬、2人の消息を訪ねようかという考えが過ぎったが、脱走兵の身では青龍地方に足を踏み入れるのは無謀と、思いを振り切った。
<とりあえず、北へ向かおう。あいつは暗黒の森の方に逃げた筈・・・>
 テムジンの一歩は今まで感じなかった期待感に溢れていた。

 モトナリ救出の情報は直ぐに王城内に知れ渡った。城内が活気付くのが、誰の眼から見てもわかるようである。
 モトナリは自室で養生中だった。捕まっていて弱った身体の回復をする必要があるためだが、それよりもむしろ精神的な動揺を収めるためである。ノルバ城に戻った後で聞いた、妹ミスズとアルテミス姫が生きていたという衝撃が結構大きかった。それは、軍略家としてのノルバの今後に大きな影響を与えかねないことが理解できたから。
 そして、今置かれた苦境が追い討ちをかけている。ジローという存在も悩ましい。モトナリは暫く静養すると言って、城の守りはノブシゲ達に任せ、ベッドに横たわりながら思案を廻らしていた。
<城の守りは、もう大丈夫だろう。問題はその後だ・・・。当面ノースフロウはもう一度攻めてくる余裕はないだろうから、バスク公とリガネス公のどちらかに討伐令を出すか。だがそんなことをすれば内戦が拡大して国力が落ちてしまう。他国を侵略したがっている帝国に足元をすくってくれと言うようなものだ・・・>
<我々の切り札はアルテミス姫だが、今更生きていて、しかも謎の魔法剣士の妻になっているなどと言っても、偽者としか思われないだろう。故に政略的には姫は使えまい。だが、姫は間違いなく本物だ。ミスズも本物。そして、ジロー殿の実力も見せてもらった。私が今ここにいるのもジロー殿の力があってこそ・・・>
<現在のノルバの力では、城を守ることが精一杯だろう。姫の存在を知らせるにしても、テセウス王は乗ってはくれまい。ならば、バスク公、リガネス公に連絡を取って・・・、いや姫が生きていると言っても誰が信じるのだ。しかも、バスク公は父上に敵愾心を持っている野心家、今はテセウス王に接近していると聞く・・・>
<最悪、ノルバは王国の反乱者の烙印を押され、軍事的には難しいにしても経済的には圧力をかけて来る筈。公国の領地内で自給自足の体制を整えなければならないが、収穫期に戦争を仕掛けてこられたら・・・>
 モトナリの頭の中で、纏まらない思案が駆け巡っていた頃、別室ではジローと愛嬢達がノブシゲと打合せをしていた。
 ノブシゲは、兄モトナリを手際よく救出したジローに今や感服していた。水の精霊魔法を操り、達人級の剣士でもある。ノブシゲも一度試合をしたが、ジローの腕前に脱帽していた。それ以来、ジローの肩書きを魔法剣士と呼ぶようにしていた。
「ジロー殿。本当に父上は目を覚ますのですか」
「ええ、間違いありません」
 アルテミスが代わりに答える。
「昨日の夜、私とミスズはカゲトラ様の病室に行きました。カゲトラ様は病気ではありません。暗黒魔法の術に捕われています。夢魔という心に巣食う魔物に取り付かれているのです」
 ノブシゲは生唾を飲み込んだ。
「暗黒魔法・・・。名前は聞いたことがあるが。本当に存在していたのか」
「はい。暗黒魔法は太陽魔法と対をなすものとして、存在が予測されていました。但し、今まで世の中に出てこなかったのも事実です」
 太陽魔法とは、世の中の陽の気を基にして作り出される魔法で、精霊魔法である水や火の魔法とは根本的に違うものである。また、人々の祈りの力を基にする神聖魔法とも全く別の系統と言える。なお、太陽魔法自体は、セントアースに存知する太陽の神殿で伝承されている。
「昔からあったが、巧妙に隠れていたとも考えられるな」
 ジローが口を挟んだ。
「はい。その通りだと思います。そして、今、カゲトラ様を蝕んでいるのもそのうちの一つです」
「アルテミス。それで、夢魔は見つけたのか?」
「はい。カゲトラ様の寝室にありました」
 そう言って振り向くと、ミスズが指輪の箱を持ってきた。箱の中は空である。
「多分、私の葬儀のときに、形見分けとして受け取ったものでしょう・・・」
「そして、カゲトラ殿は自分の指にはめ、魔法が発動した」
「はい。そうだと思います」
 アイラがミスズから箱を受け取ってしみじみ眺める。
「ジロー。この箱あらかさまに『夢魔』って書いてあるんだけど」
 箱には確かに書いてあった。日本語で。
「はい、ミスズがこの箱を見つけたのも、水の神殿で見た私たちには模様としか思えなかった文字のようなものがこの箱にあったからなのです」
「どうやら間違いないな。指輪は今もカゲトラ殿に?」
「お父様の左手に見慣れない指輪がはまっていました。姫様の話だと多分それだろうと」
 ミスズが答えた。横に座っているユキナと手を握っていた。
「姉上、ではその指輪を外せば目が覚めるのでは・・・」
「いいえ、指輪は単なる媒体だと思います。夢魔の本体はカゲトラ様の中に入ってしまっているはずです」
「では、どうすれば・・・」
「夢魔を倒す方法は、ある」
 ジローがそういうと、全員が注目した。
「玄武の神殿から何かの役に立つかもと持ってきた本の中に夢魔に関する事が書いてあった。それによると、夢魔を封じ込めた媒体を満月の光に晒すと夢魔が出現するとある。出てきたら後は倒せばいい」
「おお、では・・・」
「ああ、次の満月の夜に。試す価値はあると思う」
「満月まであと10日です」
 ユキナの声が幾分か明るく感じたのは、ノブシゲだけではなかった。
「じゃあ、その間に城外の連中を何とかしなくちゃ。ね」
ミスズの一言に、皆が頷いた。

 テオドール男爵は自分の天幕の中で悶々としていた。左手のグラスには強い酒が注がれていたが、いくら飲んでも一向に酔う気配もない。いっそ酔って忘れられれば楽なのにとさえ思っていた。
<陛下に今更援軍を頼むことなどはできまい。そんなことをすれば私は無能者という烙印が押されて終わりだ。しかし、兵の半分を失うとは・・・>
 グラスの酒をぐいっとあおぐ。
「男爵殿。失礼します」
 そう言って入ってきたのはレギオスであった。続いてチラウン。この2人もテオドールと同じような境遇と言えた。レギオスは今までの出世街道に傷をつけるわけには行かず、チラウンもジャムカの冷酷な怖さを充分にわかっていたので援軍を頼むという選択肢はなかったのである。
「レギオス。カルバトスの具合はどうじゃ」
「右腕は折れていますが、それ以外は大丈夫だそうです。次の戦いには是非行かせてくれと言われました」
「そうか。それはよかったな。わが軍はどうじゃ」
「残っている兵たちは5千。それにチラウン殿の騎馬隊が2千。合わせて7千です」
「この人数では、先に使った陽動は使えんだろう。兵の数が少なすぎてばれてしまう。やはり、偽兵を使うしかない。私の隊から5百を夜に引き上げさせて、馬に枯れ枝や丸太などを結んで戻ってこさせよう。少なくとも数千の援軍が近づいているように見せられるだろう」
 チラウンが続けた。
「では、その前に東門に攻め込みましょう。ノルバも3千を切った兵士で昼夜を問わずに守っています。兵士達も疲れが出ている筈。途中で援軍が来るとわかれば、気持ちが萎えてくるでしょう。その隙をついて騎馬隊が突入すれば我々の勝利です」
 レギオスが噛み締めるように言った。だが、内心では不安材料について言葉にできずにいた。敵側にいる水使いのことであった。
 テオドールはだが、彼らの策に心が晴れた思いがしていた。
「さすが歴戦の勇将、チラウン殿。お見事な策ですな。では、私もレギオスと共に出陣しましょう。そして、あの憎らしきモトナリとノブシゲを王の御前に引きずってやるのじゃ!」

 決戦の朝。
 ノルバの市街地は静まり返っていた。戦いの傷跡が生々しい東側からは市民が避難し、大通りには、馬止めの柵が頑丈に設置されていた。
 ノブシゲは軍師シメイの策を受け入れ、次の戦いで決着をつけるべく準備をしていた。市民を避難させたのもその一環である。シメイは市街地を決戦の場に選んでいた。
 現在、実働できる兵士は2千、そのうち南と西に3百ずつ配置したので、残ったのは僅かに14百しかなかった。この人数では相手が総攻撃を仕掛けたときに東門を効果的に守るのは難しい。ならば、負けたふりをして東門と東市門を抜けさせ、市街地に呼び込んで混戦に持ち込み、数が多い敵の身動きを取れなくして討つしかないというのがシメイの策であった。その狙いは敵将である。
 そのためには、ジローの力が必要とシメイは言った。自分達の戦力を冷静に分析して持てる力を発揮させる、そういう才能にシメイは溢れていた。故にジロー達の戦力を利用することになんの躊躇もなく、適材適所を実践している。
 朝日を浴びながら、ジローは東門の最上で敵陣を見ていた。東門に配属された兵は100人。門上の出丸に全員を配置し、ジロー、アイラ、ラン、ユキナが率いていた。このほかにケイとカエイが弓部隊50名と共に城壁の上に並んでいた。
「ん、んむぅ、んっ、んっ、ん・・・」
 下のから甘い吐息とともにくぐもった声が聞こえる。ユキナがジローの剛直を咥え、熱心に奉仕をしている最中であった。処女を失ったあの夜から、毎晩のように他の愛嬢達と一緒に快楽の海に沈みこみ、すっかり開発されたユキナは身も心もジローに心酔していた。ジローの妻として、望めばどんなことでもやると心に決め、今もジローのために朝の最初の1発目を受けようと小さな口でフェラチオを続けている。
「ユキナ。うまいぞ・・・。アイラに教わったのか?」
ユキナの頭が軽く上下した。ジローはそんなユキナを愛おしく思って銀色の髪を軽くなでる。目を瞑って気持ちよさそうな表情をするユキナ。
「ん・・・、ユキナ。そろそろ、いくぞ!」
 ジローの剛直が爆ぜて朝一番の濃い精液がユキナの口の中に放出された。ユキナは唇に力をこめて剛直を咥え、ジローの肉棒の脈動が治まるまで待ち、それから喉をこくこくと鳴らして少しずつ精液を飲み込んでいった。口の中の精子がなくなると、今度は肉棒をストローのようにちゅうちゅう吸い上げ、中に残った精子をきれいに平らげ、ようやく肉棒を放す。
「ジロー様。ご馳走様でした・・・」
 ユキナが微笑む。銀髪の髪が朝日に浴びてきらきらと輝いていた。

 激戦の火蓋が切って落とされた。
 レギオス、カルバトス両将軍の号令一下、約5千の兵が全軍をもって東門を攻撃する。ノルバの兵たちも弓矢で防戦するが、相手の勢いを殺ぐまでいかず、先日の攻撃で傷んでいた門も今までどおりの堅牢さを発揮できなかった。
 東門はあっけなく開かれ、その勢いのままに東市門に一団となった兵士達がぶつかる。そのとき、はるか東方に土煙が上がるのが見えた。
「て、敵の援軍!?」
 門を守っていた兵士達に動揺が走る。が、東門の上に残ったジロー達は平然としていた。
「大丈夫。敵の陽動です」
 ユキナの一言が動揺を抑えた。実は、ニックが朝方に敵の騎馬隊が少なくなっていることに気づいていたのである。ジローはアイラにこの事実をシメイの元に知らせに行かせ、敵の陽動なので問題ないという答えをもらっていたのだ。
 敵兵は、東門の上に篭るジロー達は無視し、東市門を攻めた。市門は東門のように出丸がないので、門戸だけの守りである。ノルバ兵は壁の上からの防戦に努めたが、守りきれるものではなかった。
「突撃!」
 東市門が突破されると、チラウンの騎馬隊が満を持して通り抜けた。大通りを抜けて一気に城まで攻め込むつもりで疾走する。その後にレギオス達が続く。しかし、ノルバ側もしっかりと対策を考えているようで、通りの上に互い違いに馬柵を置いているので騎馬隊の速度が鈍る。このため、騎馬隊と歩兵隊はほぼ同じ速度で進んでいた。
 ノルバの城門前には頑丈な柵を作ってあった。その後ろにノブシゲを主将として兵士達が構えていた。ノブシゲの廻りには軍師のシメイ、アルテミス、ミスズが揃っていた。
 彼らと東市門の間は約1カーミル(1カーミルは約1.8km)、その中間点までは馬柵を交互に設置している。敵の騎馬隊と歩兵の速度を同じにするのが目的である。しかし、その後は障害物を置いていない。
 馬柵に阻まれて速度を出せなかった騎兵達はいらいらを募らせていた。故に中間地点で馬柵が切れたのを喜び勇み、今までの鬱憤を晴らすかの様に馬に鞭を当て駆け出した。
 だが、そこには巧妙な心理的罠が隠れていた。中間地点から馬が駆け出してトップスピードにかかる地点の地面には無数の荒縄が並べられていたのである。だが、走れることに歓喜した騎兵達には、狭い視界の中でこれがトラップだと気付いたものは皆無だった。
荒縄は片側を杭に結び付けられ、反対側は数本ごとに横にした丸太に結ばれていた。その丸太の両端には丈夫な太い縄が付けられ、通りの建物の奥に。
 通りからは見えないその場所には50人ほどの兵士が配置されていた。それぞれ5人ずつに分かれて縄を掴んでいる。そして、指揮官であるラカンの合図を待っていた。
 ラカンは建物の影で騎馬隊の動きを見ていた。馬柵を突破した騎馬が次々と駆け出すのが地響きとしてもわかった。だが、彼は悠然として待つ。仕掛けの上を最初の騎馬が通り始める。先頭集団が通過し、2つ目の塊が仕掛けのところに差し掛かる。
「今だ!引けぃ!!」
 ラカンの号令とともに。兵士達が綱を引く。丸太が浮き上がり、馬索が地面にぴんと張られた。
どっ!どっーん!
 中団の騎馬隊が転げた。馬が脚を取られて転び、騎馬隊の兵士が投げ出された。そこに、勢いに乗った後続部隊が続き、将棋倒しの状態に陥った。
「よし、今だ」
 ノブシゲの号令一下、柵の後ろにいた兵士達が一斉に打ちかかる。先頭集団の騎馬隊の数は3百騎程、猛烈な勢いで押し寄せてくるが、柵の手前で速度が鈍った所に容赦ない攻撃が下される。アルテミスが水の指輪を使って水の矢を飛ばし、ミスズが玄武坤を自在に操る。兵士達は弓と槍を使って残った騎馬兵達に打ちかかる。それでも、柵を突破して来る騎馬兵達もいくらかはあり、ノルバ兵に切り込んでいく。
だが、それはシメイが元々そう仕向けた『死門の陣』という罠だった。柵とその守りにわざと隙を作り、そこを突破してもその先を下ると周囲を建物で囲まれた袋小路に導かれるようになっているのだ。建物の上には200名の兵士が控えており、迷い込んだ敵兵を確実に討ち取っていく。
こうして騎馬兵達はその実力を発揮する暇もない間に次々と討たれていった。
「追撃!」
 ノブシゲの号令により、柵が開き300名の騎兵を先頭にした一軍が押し出した。敵の先頭集団の残党を倒し呑み込みながら進撃する。
そして、その勢いのまま、馬索で転げて身動きの取れない敵兵に打ちかかり、兵士達はなすすべもなく討ち取られていく。
「くっ、図ったな・・・」
 騎馬隊の後方にいたテオドールは、馬索には掛からなかったが、前後を味方に挟まれて身動きが取れなかった。咄嗟に逃げ道を探したが、東市門の中に大半の兵士達が入り込んでいる。前に行くしかなかった。
「馬索を切れ、切るんだ!」
 将校たちの怒号があちこちから聞こえた。
 その時、追い討ちをかけるように、市門の手前に水の壁が出現し、兵士達の逃げ場をなくす。兵士達は恐慌状態に陥る一歩手前まで追い込まれていた。
「くそっ、皆のもの、わしに続け!」
 テオドールは自分の周りの兵士達を励まし、駆け出した。目指すはノルバ城。

 レギオスとカルバトスは、それぞれ身の回りの兵士だけを集め、市街地に飛び込んでいた。2人共、軍隊としての秩序が崩壊していることを理解し、打開するための唯一の方法、ゲリラ戦に切り替えたのだ。
 カルバトスは右手の負傷を気にもせずに、左手一本で斧を操り、出会ったノルバ兵を屠っていた。気がつくと、いつの間にか身の回りの兵達は既に討たれるか逃亡して一人もいなかった。だがカルバトスは全く意にも止めず、ひたすら前進した。逃げ道を探すと言うよりは、城に向かって最後の一花を咲かす方を選んだといえる。
<悔やまれるのは、フドウとかいう奴との決着をつけられなかったことか・・・>
 そう思いながら進むと、目の前に好敵手が。
「フドウ。この間の決着、つけようぞ」
「おう」
 フドウはカルバトスの斧に対して、鉄杖を揮って打ち返す。しかし、右手にハンデを持ったカルバトスが対等の闘いをするのは無理があった。数合打ち合ううちに、カルバトスの斧に破錠が生じ、フドウの一撃が側頭部を痛打する。その一撃が致命傷だった。
 一方、レギオスは逃亡することを心に決め、供回りの者たちとともに市街地の塀を乗り越えていた。市門には相変わらず水の壁が出来ていたし、少人数で逃げるならば目立たないように塀を乗り越えるのがいいと考えたのだ。
 しかし、外壁の上から見ると、市街地の壁をよじ登るレギオス達は格好の的でしかなかった。普通なら外壁から市街地の壁上の人物を精密射撃することは難しいと言える。しかし、弓を構えているのは玄武地方で双璧と言われる腕を持つケイとカエイだったということが彼の不幸だった。
2人の放った矢がレギオス達に降り掛かる。供回りの兵士が矢を受けて壁から落ちた。
「何故届く!」
 思わず叫んで顔を矢の飛んできた方向−外壁−に向けた時、レギオスの喉に矢が吸い込まれるように刺さった。
「ぐふぉ!」
 レギオスはそのまま壁の上で動かなくなった。

 チラウンはまだ馬上にあった。崩れた騎馬隊を何とかまとめて、城外に逃れようとした。城外には陽動のため別行動をしている5百騎がいる。そこに合流すれば再起は可能だろうという計算があった。しかし、東市門を抜ける時に眼前に水の壁が出現し、止まることもままならずに壁に飛び込み、突き抜けた。
 壁を突き抜けることが出来たのは、彼の他4騎だけだった。仕方なくその4騎に合図して逃れようとしたとき、城門に2騎の姿があった。その姿には見覚えがあった。
「敵の騎兵を率いていた者だな。俺はジャムカ公子第3軍司令チラウンだ。勝負」
「ノルバのランです。その首いただきます」
「同じくノルバのユキナ。行きます」
 5対2の騎馬戦が始まった。チラウンが先頭を切ってランに打ちかかる。ランは堂々と渡り合う。槍対槍、馬対馬、互角の勝負が繰り広げられた。
ユキナはチラウンをランに任せると、残り4騎に突っ込む。
2騎の兵士が槍を構えて打ちかかってきた。ユキナは最小限の動きでいなすと瞬速の突きを繰り出した。実際、並みの兵士では穂先が見えない程のスピード。
カン。ドサッ。
 2人の騎兵が馬から落ちた。一人は喉を突かれ、一人は胸を突かれていた。ユキナは馬首を転じて残りの2人に向かう。兵士達は数を頼みにしていたのだが、ノルバ一の槍の名手と合間見えたのが不幸だった。
 チラウンは敵を女子と侮った自分を悔やんでいた。ランの腕は彼と互角、体力勝負ならば勝てそうだが、まだまだ時間がかかりそうである。その間にユキナを4人の兵士が討ち取り、応援を得ればランも討てるとも思ったのだが、予想に反して、ユキナはラン以上の腕前を発揮している。既に3人の兵士が討たれ、残りも風前の灯。
「きぇぃぃぃぃぃぃ・・・」
 チラウンは気合を入れてランを打った。ランの槍が迎え撃つ。力ならばチラウンに分がある。そのまま力ずくで押す。
 ランは全力で押し返そうとしていた。ここで力負けすると体勢が崩れて大きな隙が出来てしまう。即ち死が待っているのだ。
「ラン、今行くから。もう少し頑張って」
 後ろから救いの声がした。ユキナが風を切って飛び込んでくる。槍の穂先はチラウンの喉に向かって突きこまれた。
「ぎゃぁぁぁぁ・・・」
 名将チラウンの最後だった。

 テオドールは悪夢を見ているようだった。彼の今まで培ってきた栄光、名誉、地位が音を立てて崩れていくようだった。そして、それは敵将の中にセロでいなくなったミスズの姿を見つけたときに驚きに変わった。
「き、貴様。どうやってここに・・・」
 馬上で思わずつぶやく。
 そして、ミスズもまた、テオドールを見つけていた。思えば、あのセロでの出来事から歯車が変わってしまった。
<でも、私にとってはいい方向に変わったから・・・感謝していいのかも・・・>
 とはいえ、このままテオドールを生かしておくほどミスズは寛大ではなかった。敵兵の中央で指揮をしているテオドールを見ながら玄武坤を構え、流れるような動作で投げる。2つの玄武坤がカーブを描きながら馬上のテオドールに吸い込まれて行く。次の瞬間、テオドールの首は胴体から離れていた。
 兵士達は武器を手放して降伏した。



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