ドレアム戦記

第一編 玄白胎動編 第14話

ドレアムの世界は、元々崩壊の危機を何度も迎える宿命を抱えていた。
天変地異、流星雨、巨大隕石、爬虫類による侵略・・・。
大いなる次元の流れという中、襲い掛かったそれらの危機に対抗するものがあった。ドレアムの世界を守るもの。それは形の無い、世界に寄り添う意思そのものだった。それは、ドレアムが危機を迎えるたびに防衛の手段を取り、世界そのものの消滅を免れてきた。
その手段とは、別世界から救世主を導くこと。別世界からドレアムに来た者は、少なからず力を得ることができるという。その力をもって、ドレアム崩壊の危機は何度も回避されてきたのである。
しかし、守るものの力は徐々に衰え始めていた。幾度となく繰り返される滅亡の危機を回避し続ける行為が、そのエネルギーを消費させすぎていたのだ。エネルギーが枯渇しても守るもの自体は滅びることはない。ただ、数千年とも数万年ともいえる永い眠りにつくだけである。だがそれは、今まで守られてきた世界が無防備に晒されることを意味し、その間に危機が訪れればドレアム世界の崩壊は免れない。
守るもののエネルギーは、ドレアムに住む人類の祈りの力からしか得られなかった。故に、人類の存亡は世界の存亡に繋がっていたのだ。その祈りの力を集め易くするため、守るものは招き入れた救世主の力を借り、自分の意思に接することができる力場である竜の神殿を模倣した、永遠の魔力を封じた12個の神殿を作った。人類は、それを聖なる神殿と崇め、神殿に模倣した聖堂や寺院などがドレアムの各地に作られていく。
封印の武具、装具も同時期に創られたものである。守るものエネルギーを注入したこれら12個のアイテムは各神殿にて保管され、後の救世主の援けとされた。
だが、長い年月は人類の心を少しずつ変化させてしまう。いつしか神殿の力に魅入られた者達が神殿の所有権を主張し始め、神殿を奪い合って争いが起きた。争いは大陸全土を巻き込む戦争へと発展し、人類同士の不毛な消耗戦が繰り広げられた。
守るものはこれを憂い、自らの意思で大地に天変地異を起こした。そして、神殿の中でも特に力をもつ4神の神殿と其処に辿り着くための道標となる神殿を隠した。人が行き着けない湖の奥、極寒の氷河、人を迷わせる樹海の中、そして大地の下に。
天変地異は始まりの唐突さと同様に突然収まった。その後、奪い合うものをなくした戦乱も、行き場をなくして自然消滅していった。こうして、神殿の幾つかは所在が不明となり、更に長い年月を経るうちに、神殿の数が幾つあるかということでさえ、どうでも良いこととなってしまった。だが、生き残った人類の身近には、神殿や聖堂、寺院が残った。祈りを捧げる場は提供されていたのである。
そして数百年前、ドレアムは水生魔物の侵略を受けた。水生魔物は触手を人の内部に住まわせることで、人を支配する力を持っていた。その結果、ドレアム大陸の半数の人類が身体を奪われ、人類絶滅の危機に面した。
守るものは、これに抗するためクロウとシズカの2人を異界から導き、2人は水生魔物を大陸から駆逐することに成功した。クロウはその過程で、今までの救世主ではなしえなかった、所在の分からなかった神殿を発見しながら12箇所の神殿を廻ることに成功し、最後に辿り着いた竜の神殿でドレアムを守るもの意思に触れた。そこで彼はドレアムの歴史を知った。そして、守るものの力が、あと1回救世主を呼ぶことが精一杯な程弱っていることも。
その時点でクロウは、全ての封印の武具、装具を集め、守るものの意思に触れたことで、常人の100倍以上の寿命と共にドレアム世界自体に干渉する力を得ていた。そして、自分の子孫達の為、愛するドレアム世界の輪廻を断ち切るための仕掛けを考え、守るものの同意を得た上で、仕掛けを施した。但し、そのために寿命を消耗し、結局50余年で生涯を終えることになった。
現代。
ドレアムは再び崩壊の危機を迎えていた。今度は魔界からの侵略が影のように忍び寄ってきていたのである。
再び滅びの輪廻が始まろうとしたその時、クロウの仕掛けが発動し、世界は8個の平行世界に分かれた。8個の平行世界に襲い掛かる災厄によりどれかが崩壊しても、一つでも残れば輪廻は断ち切れる。つまり、ドレアムの世界の崩壊する輪廻からは逃れることができない。崩壊を食い止めても次の崩壊の輪廻が再び巡ってくることが運命付けられているのだ。しかし、クロウの考えた仕掛けで平行世界を作り上げたことにより、生き残った世界は輪廻から逃れられることができる。
そして、守るものは最後の力で、8人の若者をそれぞれ異界から招き、数千年の眠りについた。数百年分の祈りでは、もう1回分のエネルギーには満たなかったのだ。
この8人は互いに面識もなかったが、一つだけ共通点があった。それは、クロウが元いた世界から導かれ、クロウの血に連なるものということだった。

白虎の神殿でジロー達が出会った草色の髪の少女、イェスイは自分のことをイェスゲンと名乗った。そして、戸惑うジロー達が聞き入る中、導くものの役割としてドレアムのことを語ったのである。
イェスゲンの話を聞いたジローは、隣のルナに顔を向けた。ルナはそれに気付くと、こくりと頷く。つまり、イェスゲンの云ったことに嘘はないということ。
 ジローの背後には、アイラ、ミスズ、ユキナ、レイリアの4人がいたが、押し黙っていた。それだけ彼女の話が壮大だったということである。
「イェスゲン。君の云うことを信じよう。そして君がクロウ殿の愛嬢だったことも。だが、どうやって数百年も生きてきたんだ?」
 イェスゲンは薄く笑った。
「私は精神体として、歴代の子孫の中で眠っていました。クロウ様の仕掛けが発動するまで。ですから、たまたま私の姉と同じ名前の、この子の身体の中で目覚めたというだけなのです」
「じゃあ、元のイェスイは・・・」
「大丈夫です。私の精神とこの子の精神は一体になっていますから。私が眠ったときは、この子が出てきます。その時この子は今の経験と記憶を保持しています。あっ、それから、これはこの子の意思なのですけれど、レイリア様と同じくジロー様の愛嬢に加えて欲しいそうです」
 ジローは軽く頷いた。なんとなくそんな気がしていたのだ。
「ありがとうございます」
 イェスゲンは深々と頭を下げた。
「それで、聞きたいことがあるが・・・」
「はい、私の知っている事は全部お話します」
「うん。まず、8つの世界全てに同じイェスゲンが存在しているのか?」
「はい。私の精神体は8つに分かれました。8つの世界で起きていることを知覚できるように。ただ、そのために私自身の力も8等分されてしまいましたけれど」
「力というのは、前の時代に持っていたものということだな」
「はい。クロウ様の国の言葉を含め、様々な知識を持ち続けることが私の力です。魔法についても同様に扱えます・・・。ただ、8つに分かれたため、知識も分割されてしまいました。この世界での私は、神殿のことと、森の神殿にある樹海の杖を使うことしかまだできません。今、私が持っているこの杖は本物を複製したもので、一部の力しか使えません」
「まだ、というのはどういうことですか」
 今まで黙っていたミスズが質問した。
「シズカ?・・・。失礼しました。ミスズさんでしたね。あまりに似ていたものですから・・・。質問の答えですけれど、それぞれの世界での私の役割が終われば、残っている世界に戻って、その世界の私に融合します」
「ということは、他の世界は残っているということになるな」
 ジローの言葉に、イェスゲンは悲しそうに頭をふった。
「既に3つの世界で私の役割は終わりつつあります。その世界では、既に救世主様は斃れ、魔界からの侵略者がドレアムを支配しようとするのを止める術はありません」
「イェスゲンの役割はどこまでなの?」
 レイリアが聞いた。いつもの無邪気さはなく、真剣そのもののという眼をしていた。
「レイリア様。レオナの若い頃にそっくり・・・。私の役割は、その世界で私が斃れるまで続きます。ですから、出来るだけ長く生き延びて、魔界からの敵の情報を少しでも得られるようにしたいと思っています」
「それはとっても助かるけど、痛かったり苦しかったりという感覚は引きずらないの?もしあるなら、ぎりぎりまで残んなくてもいいんじゃない?」
 アイラがイェスゲンを見据えていった。イェスゲンはアイラを懐かしそうに見つめた。
「アイラさん。あなたはソフィアの血を引いていますね。心配してくれてありがとうございます。私も、痛いのは苦手なので、直前には逃げるつもりです」
「ソフィアって?」
「ソフィアは私やレオナと同じくクロウ様の愛嬢で、サウスヒート王家の礎となった子です。この世界ではサウスヒートの王家は途絶えたと聞いていたので、ソフィアの子孫は途絶えたと思っていましたが、ちゃんとジロー様と行動を共にしていたなんて・・・」
「あのう・・・」
 ユキナがおそるおそる発言した。
「今、アイラ姉様、ミスズ姉様、レイリア様がそれぞれクロウ様の愛嬢と繋がりがあると云われましたが、もしかしたら姫様もそうなのではないのでしょうか?」
「ええ、ルナさんだけではなく、ユキナさん。あなたもね」
「もし、宜しかったら教えてい頂けないでしょうか」
 ルナが続けた。イェスイはにっこりと頷く。
「ユキナさんは、ジュリアの子孫ですね。それから、ルナさん・・・。貴女は、月の巫女イリス。彼女は子供を授からなかったので、きっと魂が転生したのでしょう」
「イリス様?月の神殿の聖女イリス様のことでしょうか」
「ええ、そうです。戦いの後、イリスは一番仲の良かったノースフロウのシズカの傍で過ごしました。しかし、シズカは2人の子供がまだ若いうちに亡くなってしまい、それからはイリスが子供達の母親役でした。その後子供達が一人前になるのを見届けると、ノースフロウ北部の神殿に移り住んで、そこで晩年を過ごしたのです」
「そんなことが・・・」
 ミスズが呟いた。
「イリスは神聖魔法のマスターでしたので、神殿に訪れる人々に治癒の奇跡を演じたのでしょう。聖女イリスと呼ばれたのもそのためだと思います」
 イェスゲンは、今度はユキナを見た。
「ジュリアのことも知りたいですね。ジュリアは風の部族の出身で、風の魔法を操る魔法戦士でした。早くからクロウ様に協力して、シズカを失った悲しみからクロウ様が皇位を降りて帝国を去った後も、最後まで帝国を支えてくれました。今のセントアース皇家は彼女の子孫です」
「私の母は、風の部族の出身だと聞いたことがあります。もの心がつく前に亡くなってしまいましたが・・・」
 ユキナはそう云うと、少しもの憂げな表情を見せた。母親のことを思い出しているのであろう。両隣のアイラとミスズがユキナの頭を抱き寄せるように寄り添っていた。
「俺はクロウの子孫で、妻たちが皆クロウの妻に連なるものか・・・。なんだか、運命を感じるな」

 白虎の神殿での暮らしは半月程だったが、その間ジロー達は充実した日々を過ごした。ユキナは白虎鎗の修練に集中したし、ミスズも玄武坤を更に熟達しようと鍛錬に励んだ。幸い、4神の神殿には、封印の武具や装具を修練するための部屋が備え付けられていた。室内の石像はいくら壊しても一旦部屋を出て戻ると再生していたし、必要なら戦闘相手として動かすこともできた。
 ジローとルナ、アイラ、レイリアはイェスゲンからドレアムの地理、歴史、文化、神殿の事などを教わっていた。但し、イェスゲンは時々眠るように意識を失い、代わって元々の少女イェスイが目覚めてはいたが。少女イェスイの話によると、イェスゲンは他の世界のイェスゲン達と連絡を取りに行っているのだという。
 夜になると、ジローと愛嬢達の愛の営みが繰り返された。そのなかに少女イェスイの姿もあった。イェスゲンと出会った最初の日の夜、少女イェスイに戻った彼女は自ら望んでジローに抱かれ、他の5人の愛嬢達もそれを喜んで受け入れたのである。彼女達は皆、かつてクロウの元に集まった愛嬢達に連なる者という連帯感を芽生えさせていて、互いに尊重しあいながら、ジローの前でより淫らになることを恥らわなくなった。
「ジロー様。次の行き先についてですが、2つの道があります」
 イェスゲンがそう言ったのは、翌日神殿を去ることを決めた時だった。
「2つとは?」
「はい。ひとつは、このまま東側の山岳を抜けてノースフロウの月の神殿へ、もうひとつは、転送の部屋から朱雀地方に跳び、火の神殿を目指すというものです」
「朱雀地方?転送は自分の知っている所にしかいけないのではなかったか?俺たちは誰も行ったことがない筈だぞ」
「大丈夫です。私が知っています。それから、イメージについては、この樹海の杖を使えば皆さんに伝えることが出来ます。複製品ですが、そのくらいの力は持っている筈です」
 ジローは愛嬢達の意見を聞いた。ルナとミスズ、ユキナは月の神殿に行くことを支持したし、アイラは朱雀地方に行く方を望んだ。レイリアは「よくわかんなぁい・・・ご主人様の行きたいところがいい」と態度を保留。
 結局、ジローの出した結論は月の神殿に行くことだった。
「大地の神殿からもう3ヶ月が経ってしまった。その間世間がどうなっているのか、情報を仕入れる必要があると思う。ノルバのカゲトラ殿にも会って様子を聞きたいし、一旦月の神殿に寄ってから、もう一度ここに戻って朱雀地方に行くということにしよう」
 ジローの話にアイラも納得し、翌日彼らは神殿を後にした。
 神殿から玄武地方への道のりは比較的に楽だった。大地の神殿と同じく、玄武地方から見上げると氷河を頂く断崖絶壁の山地だが、実際は緩やかな下り坂であった。
「この道がこんなに緩やかだなんて、とても信じられない・・・」
 アイラが背後を見つめながら呟いた。既にその方向は今まで通ってきた道ではなく、難攻不落の岩肌が、荘厳な山地の一翼を担って聳え立っていた。
「イェスゲン。こんな状態で、神殿への帰り道は本当にわかるの?」
 アイラの質問にイェスゲンは軽く頷くと、答えた。
「ええ、アイラさん。もう少し下った所に館があります。その館の中には魔方陣が床に書かれた部屋があるので、そこで封印の武具を使って意思を示せば、元の道が復活する筈です」
 アイラはそうかわかったと言うような仕草を見せると、今度は下方を見据えた。まだ小さいが建物のようなものが視認できたのか、下るスピードを速めていつの間にか先頭を進んでいた。
 一行が館に着いたのはそれから半時ほど過ぎた後。
 イェスゲンは単に館という単語を用いたが、それはジロー達が想像したものとは違い、ちょっとした豪華な旅館という趣を湛えていた。なにしろ、周囲を石塀で覆われた敷地は小城くらいの広さを持ち、建物は平屋なのに10以上の部屋があった。建物の外には50人は入れる広さの温泉まで用意されている。
「ここに、このような建物があるという話は聞いたことがないわ」
 ミスズがそう言うと、ルナも同意をするように頷いた。
「確かに、これだけの建物があれば、お父様やお兄様達が気付かない筈はないですね」
 ユキナもそう言って、イェスゲンを見る。イェスゲンは、草色の髪を手でいじりながら、にこっと微笑んで返事をした。
「ここは、クロウ様が玄武地方で根城にしていた場所です。ここの周囲には魔法の結界が張られていて、通常は山麓からは認識することが出来ないようになっています。山頂からの道には結界が張られていないのでこうして辿り着くことができたのです」
「でも、これから月の神殿に行くとしたら、帰り道がわからなくなるんじゃないか?」
「はい。でも大丈夫です。結界は普通に通り抜け出来ますし、山を下っても、帰り道の道標がありますから」
「道標?でもそれだと誰かが迷い込むんじゃない?」
 アイラの突っ込みにもイェスゲンはにこやかに言葉を続ける。
「道標は、クロウ様の世界の言葉で途中の岩に魔法で刻まれています。ですから、魔力の無い方には唯の岩にしか見えないですし、あっても岩の傷程度としか認識されない筈です。それに、結界自体が偶然迷い込むことがないように、その方角へ行くという目的をもって入らなければ進めないように意思を操作しています」
「なるほど・・・」
 ジロー達が納得したのを確認したのか、イェスゲンの表情が大人びたものから少女のものへ変貌した。
「ジロー様、イェスゲン様は暫く離れるそうです」
 そこには、恥じらいを浮かべた草色の髪と空色の瞳の少女がいた。

「温泉・・・」
 4人の愛嬢達が一斉に声を上ずらせた。彼女達の脳裏には、ノルバからリガネスに行く途中で入ったあの温泉のことがくっきりと甦っていた。温泉の成分が皆を淫猥に、そしてジローを絶倫にした結果、その効果が切れた翌日の夕方まで交代でジローに犯され続けたあのことを。
「いや、ここのは成分が違うと思う。さっき見てきたら色も違っていたし」
 ジローの説得にようやく納得したのか(実は、もう一度あの際限ない精力の暴走を味わってみたいと思っていたりするのだが)愛嬢達はジローの後について温泉に向かった。
 温泉は、少々赤みはあったが、透明に近かった。その湯質は滑らかで、アルカリが強い感じだ。
「おっ、これは美人の湯だな」
 温泉に浸かったジローがそういうと、愛嬢達も次々と入ってきた。やはり美人の湯という言葉には弱いらしい。
 暫く寒い所にいたせいか、温泉の温もりが非常に心地好い。滑らかな湯ざわりがまとわりついて、いつの間にか肌をつるつるに変えていく。ジロー達は首までとっぷりと湯に浸かって、手足を伸ばしながら温泉の恩恵を享受していた。
 だが、じっと入っているのには向かないタイプもいた。
「ん〜、いい気持ち。このお湯浸かってると肌もつるつるすべすべになって気持ちいい〜」
 アイラがそう言って両手を挙げて伸びをする。湯の上に出た綺麗な乳をジローに向かって露出しながら。
「ねぇ、ジロー気持ちいいついでに、しよ。きっとすべすべの肌が気持ちいいよ」
「はい。私もしたいです」
 と、手を挙げたのはユキナ。その影に隠れてもじもじとイェスイも手を挙げていた。
「はん、あぁぁん・・・」
 ジローの左側から甘い声が聞こえ、そちらではレイリアとルナ、ミスズの3人が既に始めていた。湯の中なのでよくわからないが、レイリアを中央に、ルナとミスズがそれぞれレイリアの肩を抱くように対面し、交互にレイリアの唇や首筋に吸い付いている。多分、2人の両手はレイリアの乳房を、レイリアの両手は2人のの秘部を弄っているのだろう。
 アイラとユキナ、イェスイの3人もジローに近寄り、ユキナはジローの左足、イェスイは右足、アイラは背後から密着する。お湯のせいなのか、ぬるぬるの感触がそれぞれの密着部に心地好い。ジローの背中を圧迫するアイラの胸の弾力と堅い乳首のこりこりが、太腿にぴたりと張り付いたユキナとイェスイの内腿と性器の感触が刺激し、ジローの肉棒が暴れんばかりにそそり立った。
 ジローは両手でユキナとイェスイを抱きしめた。2人の小ぶりな乳房がジローの胸に当たる。その先端は堅く飛び出している。そのままユキナとイェスイの唇を交互に奪う。2人は舌を吸うと舌を出し、舌を入れると口全体で吸い込み、お湯のぬるぬるを潤滑油として胸を、そして股間を擦りつけてくる。
 アイラは、ジローに抱きつきながら、両手は前に廻してジローの肉棒を擦っていた。背中の乳房を擦りつけながら。
 アイラの愛撫にジローは段々上気してきた。肉棒を熱い蜜壷に入れたいという欲求が高まってくる。
「イェスイ、おいで」
「は、はい・・・」
 ジローは右手を抱き寄せるように動かし、イェスイが自分の正面に来るようにした。「ジロー、大丈夫。イェスイのここ充分べちゃべちゃよ」
 アイラが先に確認してくれたらしい。内心ちょっと苦笑。
「よし、じゃあ、行くぞ」
 ジローの先端がイェスイの膣口に当たった。ずぶずぶと先っぽが飲み込まれる。イェスイも自分から腰を落とし、直ぐに奥まで咥え込んだ。ユキナはイェスイの背後に廻って抱きしめ、イェスイの胸を触り始めた。ジローと繋がったイェスイをアイラとユキナがサンドイッチにして密着している格好である。
「はぁあぅん!」
 中に入ったのを確認すると、ジローはゆっくりと動き始める。何しろお湯の中なので、暖かく締め付ける膣と、まったりとまとわりつくお湯の感触を同時に味わえ、快感が倍加されているような感じがする。
 アイラとユキナもまた、ジローとイェスイを抱きしめる形で身体を滑らせていた。お湯のぬるぬるした感触と、背中に触れる乳房と乳首の擦れる感じが、徐々に快楽を大きくしていく。それは、ジローとイェスイもまた同じ。イェスイの中にすっぽりと填まっている肉棒の快感と、背中に触れる双乳の感触が相乗効果をもってより鋭敏な快楽となって包んでいく。
 ジローの腰の動きが徐々に早くなると、イェスイの声も自然と高く、きれぎれになる。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、ぁあっ・・・、あっ、あっ、も、もう、い・・・、いきますぅ・・・」
 ジローはイェスイの反応を見ると更に腰を強く振った。一度いったイェスイが、戻ってくる前に、更に高みにいかせる。
「うっ、あ・・・、はっ・・・、い・・・」
 声にならない声を上げ、イェスイは2度目の絶頂に駆け上がっていく。イェスイの膣壁がきゅうぅぅと絞るように狭まる。快感がジローの背中から脳天に駆け上がると、限界まで膨れ上がった肉棒から最初の射精が放たれた。
 イェスイが訳もわからず震えるのがユキナにもわかった。
「イェスイ。いっちゃったのね・・・」
 そう言うと、余韻に浸って動けなくなっていたイェスイを抱きかかえて、すいっと持ち上げる。結合が解けたイェスイの膣からは、ジローの精液がお湯の中にこぼれ沈んでいった。
「じゃあ、次はユキナね。その次はあたし」
 アイラが笑いながらジローにキスをした。
 結局、温泉でユキナとアイラの中に1回ずつ出し、その後部屋に戻ってからルナ、ミスズ、レイリアの3人を相手してそれぞれ1回ずつ放出すると、さすがに疲れて眠りについたジローだった。

 翌日、ジロー達7人は館を後にし、山麓の小道を下って行った。目指すはノルバである。昼前には山を下りきり、ノルバの北側に出た。ここまでくれば、ノルバまでは約2日の距離である。
 ジロー達は話し合いの結果、先にノルバに行くことで一致していた。最近の情勢を含めた情報が欲しいし、うまくすれば月の神殿に行くために馬を貸してくれるだろう。
ノルバまでの道行きは順調そのものだった。1日目の夕方にはノルバ郊外の農村地帯に入り、農家に一夜の宿をお願いして翌朝早くに発つ。2日目の道すがら段々と家が増えて来たのを感じ、午後にはノルバ城を眼中に収め、夕刻には西側の城門の前にいた。
「お頭、姉御、ご無事でしたかい・・・」
 彼らが城門に辿り着く前に、城門から一騎の騎馬が飛ぶようにやってきて、ジロー達の前で止まると、慌てて馬を飛び降りた。
「よお、ニック。元気そうだな」
 目の前にいるのは、ジローとアイラの猟師仲間で遠目のニックと言われる男だった。通り名のとおり遠目が効き、シーフのスキルも持っている、偵察にはうってつけの器用な男だった。ニックの話によると、たまたま西門を巡回している時に北から来るジロー達に気付いたのだという。
 ニックがノルバに残っていたことを不思議に思い尋ねると、あの時ノルバに残ったフドウ、カエイと共にノルバ公国に雇われたと言った。ニックは軍師シメイの直属の部下となり、諜報部門の副長となっているそうだ。また、カエイはカゲトラ公の妾腹の女将ケイと夫婦になり、フドウと共にノルバの将として遣えていることも教えてくれた。
 ニックが差配したためか、ジロー達は留められることなく城内に入ることができ、以前は作戦室となっていた応接間に案内された。そこには、懐かしい人物が既に待っていた。
「ジロー殿、姫様、姉上、ユキナ、お久しぶりです。お元気そうでなによりです」
 そう言って諸手を挙げての歓迎の意を示したのはノブシゲだった。傍らにはランが笑みを湛えて控えている。
「ありがとう、ノブシゲ殿。ノブシゲ殿も活力が溢れている感じですね」
 ジローがそう答えると、ノブシゲは照れながらも彼らをソファーに勧めた。全員が座ると、ランが侍女に命じたのであろう、暖かい紅茶が用意された。
「まずは、何から話しましょうか。あっと、その前に、ジロー殿。こちらの方々は?」
 ノブシゲがレイリアとイェスイの方を見て尋ねた。
「新たに加わった私の妻、レイリアとイェスイです。レイリアはウエストゴールドの第2王女だったのですが、ある事情によって私の妻となり、一緒に行動しています。イェスイは大地の神殿の準司祭でレイリアの身の回りの世話をしていましたが、導くものとして目覚め、私達に道を示してくれました」
「ウエストゴールドの王女様ですか。私はノルバ公爵カゲトラの次男、ノブシゲと申します。イェスイさんもよろしく」
 ノブシゲはレイリアに対して丁重に挨拶した。しかし、イェスイに対しては若干軽めの挨拶に留めていた。それを見たミスズが怒り口調で言葉を発した。
「ノブシゲ。あなた。人を身分で分けるなっていつも言っているでしょう。身分が高い低いであらかさまに態度を変えるのは改めなさい」
「え、あ、姉上・・・しかし、」
「しかし何だって言うの?私たち6人は皆ジロー様の妻として平等なのよ。それに、私も姫様の侍女だったわ。あなたは姫様と私で態度を露骨に変えるの?」
「い、いや、あの・・・」
 智将と云われるノブシゲがたじたじになってしまった。すると、ミスズの矛先は隣のランに向く。
「ラン」
「は、はいぃ!」
「あなたがついていながら、ノブシゲの悪い癖が直らないなんて。少し甘やかせすぎじゃないの?ノブシゲに抱かれるだけが妻の務めじゃないのよ。ちゃんと普段から教育なさい」
 ランは、真っ赤な顔をしてうつむく。丁度その時、応接室の扉が開き、3人の人物が入ってきた。
「ミスズ、怒鳴り声が外まで漏れているぞ」
 モトナリが涼しげな顔でミスズに語りかけた。すると、今度はミスズの方が赤くなって急速に怒りが萎む。
「兄上・・・」
 モトナリは、カゲトラ公爵と軍師のシメイと共にジロー達に近寄った。ジロー達はソファーから立ち上がり一礼する。ひととおりの挨拶が終わった後、全員がソファーに座って話が始まった。

 まず最初に口を開いたのはカゲトラ公爵で、リガネス公爵に対する密使役を務めてくれたことに対するお礼だった。その後ジロー達がリガネス以降の話を告げ、いよいよ白虎の神殿での話しになっていた。
 ジローが語ったのは、イェスイから聞いたことを抽出したものだった。世界が8つに分かれた話と、ジロー達がクロウ大帝とその愛嬢達の子孫云々という話は省き、現在この世界が魔界の侵略の脅威に晒されていることと、それに対抗するために12箇所全ての神殿に行かなければならないことなどを話した。カゲトラ公爵を始めとするその場に列席した者達は、その話を黙って聞いていた。いや、むしろ深刻にも思えた。
<カゲトラ様は、心当たりがあるようです>
 ルナがそっと告げてきた。ジローがカゲトラ公爵達をあらためて見ると、皆真剣な顔つきを崩していない。
「殿。私からお話して宜しいでしょうか」
 そう言ったのは軍師のシメイだった。カゲトラ公爵は軽く頷く。
「ジロー殿がおっしゃった脅威についてですが、既に兆しがあるのです。というのは、最近、王都ウンディーネで不思議な事件が起きています。密偵からの知らせでは、毎日のように死体が発見されるそうです。そして、それらの死体に共通しているのは、血が殆ど抜かれているというものです。まだ、噂レベルなのですが、吸血鬼なのではないかと」
「この世界に吸血鬼は居るのか?」
 ジローの問いにシメイは首を横に振った。
「いえ、少なくとも数百年はそのような話はなかったと思います。ただ、遥か昔には吸血鬼がいたという伝説がありますが」
「正直、吸血鬼なんて子供を恐れさせて言うことを聞かせるための作り話だと思っていた」
 モトナリが告げた。顔色が若干青白く、両手を膝の前でがっちりと握り合わせている。
「けれど、死体の話を聞く限りでは、そうとしか思えないのだ。首筋に牙の跡も残っていたというし」
「魔界からの侵略か・・・」
 ノブシゲが呟く。隣でランがノブシゲの腕にしがみついていた。
「カゲトラ殿。その話はウンディーネだけですか?」
「うむ。ノルバではそのような話はない」
 カゲトラ公爵は沈痛そうな表情を崩していない。ウンディーネのテセウス王とは敵対状態にあるとはいえ、元は同じ祖国なのだ。
 ここで、ノルバ公国を取り巻く状況を説明しておこう。
 ジロー達が旅立ってから、テセウス王はノルバ公国を反乱者と認定し、内乱の終結のために軍事態勢を強化する政策を推し進めていた。これに同調したのがバスク公国でボルトン公爵自らウンディーネに居を構えてテセウス王を支持していた。
 一方、南のリガネス公国はというと、カゲトラ公爵との密約を誠実に守り、中原からの侵攻に備えるためと称して中立を保っていた。リガネス公爵のアルタイアは、王都からの呼び出しに何かと理由をつけて応じず(実は華やかな舞台に出るのが嫌なだけだったりするが)、リガネス周辺を巡回したり、狩りをしてみたりと自由気ままに過ごしているらしい。その上、妻のライラが懐妊したため、アルタイア公爵は大喜びで武闘大会まで開いていたりする。
 そして、ノルバはというと、先の戦闘で傷ついた城壁の補修を終え、今後に備えて更なる増強を行っていた。兵力についても、ジローについていったユキナが抜けたのは痛かったが、新たにフドウとカエイという良将を加え、訓練を繰り返しながら充実させつつあった。
 だが、相手が人間ならばなんとかなるだろうが、魔界のものとなると・・・。

 ひととおり情報交換が終わった後、ジローはもう一つの話、月の神殿に行くことを告げた。カゲトラ公爵は、喜んでお手伝いさせてもらうと返事をし、2日程休んだ後で出発することになった。
 月の神殿はノルバの北東、ウンディーネの北方にあり、馬を使ってもウンディーネ経由で6日かかる距離である。だが、現状ウンディーネを経由することはリスクが高いため、ノルバから北の山麓沿いに進む道を選んだ。
 月の神殿は、周辺の町も含めてノースフロウ王家の直轄地であったが、神殿自体は自治権を与えられた独立した存在であった。故に、神殿内は神殿が直接支配を行っていたが、神殿外の治安は、統治のためにノースフロウから代官が派遣されて治めていた。
神殿には神官長ノルマンドをはじめとした司祭達が居たが、彼らは政治向きの口出しは一切しなかったため、神殿を含む町の主権は代官が握っていたと言ってよかった。
 現在の代官は、ベザテードと言う名でセントアースのエリート養成校SASの卒業生である。ウンディーネ王宮で辣腕を振るっているワトスンの先輩に当たり、文治に長けた能力をもっていたが、警備については月の神殿が外部から攻められる想定は薄いと感じていたため甘かった。
 月の神殿は反乱者と位置づけられたノルバの関係者にとっては、敵地と言えるため、ジロー達は旅人の旅装を纏って、月の神殿へ拝観に来た風を装うことにしていた。大地の神殿のときと同様である。
 予想を違えず、ジロー達は特段何の問題もなく神殿門下の町に辿り着くことが出来た。後は、神殿を訪れるだけなのだが、神殿は王家の承諾を得た者しか入ることが出来ないしきたりになっていたため、どうやって入るかが問題だった。
 しかし、ここでもルナの知識が役に立った。ルナはかつてノースフロウの姫教育の一環として約1年間神殿内で過ごしていたのである。その時に神殿への抜け道のことを聞いたことがあると言うのだ。
 ルナが案内したのは、神殿の北西にある町外れの農家だった。農家と言っても、誰も住んでいない廃屋であり、夜になると明かりも無いためうら寂しいといった表現が様になっている建物である。
 ルナの話によれば、建物の奥に外からは見えないように古井戸が配置されており、その中に神殿への抜け道が隠されているそうだ。
 ジローはその話を聞くと、確認するために古井戸に行った。昼間に全員で廃屋に行くのは目立ちすぎるので、ルナとミスズだけを連れて先行し、抜け道が確認できたら一旦戻って、暗くなってから全員で移動することにした。
 廃屋の古井戸にある抜け道は、どうやらルナの言うとおり使えそうなことがわかった。ジローはミスズをアイラ達の迎えに出し、ルナと夜まで廃屋で待つことにした。もちろん、皆を待つ間に抜け道のご褒美として、ルナにたっぷりと注ぎ込んだのは言うまでもない。

 深夜。
 ジロー達7名は古井戸からの抜け道を通り抜け、月の神殿に足を踏み入れていた。抜け道が通じていたのは神殿の地下だったが、やはりここも魔法の影響下にあり、柔らかな淡い光に包まれた室内を見渡すことが出来た。
「さて、封印の扉を探そう。ルナ、わかるか?」
 ルナは軽く首を振った。彼女の記憶に寄れば、封印の扉に該当するものをこの神殿では見たことが無いらしい。
「すみません。お役に立てなくて」
「いや、こうして神殿に入れただけでも充分だ」
「ありがとうございます、ジロー様」
 ジローはルナに微笑むと、今度は愛嬢達全員を見た。
「みんな。今俺たちはここに忍び込んでいる状態だ。出来るなら、神殿内の誰にも見つからずに封印の扉を見つけ、開けたい。そこで、捜索方法だが、神殿の文字が読めるのはアイラ、レイリアと俺の3人だけだ。心で連絡できるのは、ルナとイェスイ、俺だから、3組に分かれて探すことにしよう。組分けはアイラとイェスイ、レイリアとルナとミスズ、ユキナと俺にしよう」
 愛嬢達はそれぞれ頷いた。ジローの愛は平等と知っている彼女達には、既に嫉妬という感情は無縁となっていた。
 3組に分かれたジロー達は、それぞれ神殿地下の捜索を開始した。捜索してみてわかったのだが、月の神殿は、地上よりも地下の方が大きく作られていた。抜け道の部屋から捜索開始後すぐに地下への階段を見つけて降りると、そこから更に下に降りる階段を発見し、結果的に5層下まで下って行った。
<月の神殿がこんな地下まであったなんて、知りませんでした>
 ルナからのテレパス通信が送られてきた。既にルナ、イェスイとの3方向回線が繋がっているので、3組全員の情報が共有できている。イェスイが『心触』の力に目覚めたのは精神体のイェスゲンが持っていた能力であり、イェスゲンが覚醒したことによってその力が少女イェスイにも使用可能になったということである。
<ジロー様。アイラ様が何かを見つけたみたいです>
<よし。イェスイ、アイラのおまんこに指を入れるんだ>
<は、はい・・・>
 少しの間が空いた後、アイラが会話に参加してきた。
<ジロー、見つけたよ・・・、あっはぁ・・・。書いてあるのは『大地の精霊』と『夢』。それから、あん・・・、こんな場所なのに、ベットがたくさんあるよ・・・>
<わかった。今から行くから>
<あ、あぁ、待ってるぅ・・・さあ、イェスイ、おいで・・・>
 イェスイとの回線が途切れた。
 ジロー達がアイラのいる場所に辿り着いたとき、イェスイは裸に剥かれて同じく裸のアイラの肩を枕にうつ伏せで失神していた。イェスイの股間から太腿にかけて、愛液がびっしょりと光っていた。

「みんな準備はいいか。よし、ノームを呼ぶぞ」
 ジローが右手を軽く振る。すると、その先から黄色い光が溢れ出し、光は見る見る間に人型を形成した。
「ご主人様〜。お呼びですかぁ〜」
 思わずぽわんとする口調で人型がしゃべった。彼女が大地の精霊、ノームである。
「ノーム。この場所に見覚えはないか?」
 ジローの問いにノームはきょろきょろと辺りを見回す。最初は首を捻っていたが、途中ではたと気がついたのか、うんうんと頷く仕草が見えた。
「ご主人様〜。ノームちゃんはこの場所を知ってま〜す」
「よしよし。じゃあ、ここで何をすればいい」
「ここは、月の神殿で〜す。んでもって、ノームちゃんは封印を開く手助けをしまぁ〜す」
「よし。じゃあ、俺たちは何をすればいい?ここで見ていればいいのか?」
「う〜ん。ちょっと違いますぅ。ご主人様達はベッドに横になって眠らないといけないんですぅ。ノームちゃんの力ですぐに夢の中に行けるので、安心して眠ってくださいですぅ 」
「でも、眠っている内に誰かが来たらどうするの?」
 ミスズの問いにノームは大丈夫と胸を叩いて答えた。
「眠っている間は、ノームちゃんの結界が守るので安心してくださぁい」
「分かった。みんな、いいかい・・・」
 ジローの問いに6人の愛嬢達はそれぞれ頷いた。そのことを確認するとジローは手近なベッドに横になる。愛嬢達も同様に横になって目をつぶっていた。
「それではご主人様ぁ・・・。良い夢を見てくださぁいぃぃぃ・・・」
 ノームの言葉が終わるのを意識する前に、ジローは夢の世界に落ちていった。

「・・・ミス。起きてください」
 ルナが目覚めたのは白い靄のかかった空間だった。先ほど自分が横になったベッドの感触はない。いや、5感の中で触覚だけが知覚出来ないようだった。
「誰・・・」
 ルナの問いかけに答えるように、目の前に大きな鏡が出現した。ルナが身体を起こすイメージを心に描くと、ルナの視点が変わり鏡に正対した位置に辿り着く。
 ルナは鏡を覗き込んだ。目の前に自分が映し出されている。
「アルテミス。よくここまで来ましたね」
 今度ははっきりと声が聞こえた。その声の主は、鏡の中の自分自身だった。鏡のなかのルナの唇がはっきりと発声に合わせて動いているのがわかる。
「あ・・・」
 生身のルナから声にならない声が漏れる。突然の出来事に心が動じているのが分かった。
「驚かしてご免なさい。私はイリス。貴女に転生した前世の魂・・・」
 鏡の中のルナが変化を始めた。ウェーブがかかったブロンドの髪は長さは同じだが真直ぐな栗毛色に、瞳の色はダークブラウンから鮮やかな銀色に。そして、首には月を形どった紋章を描いて宝石を配列した首飾り。だが、それ以外はルナそのものだった。
「アルテミス。私はいつも貴女と一緒にいました。でも、こうしてお話できるとは思っていませんでした。貴女の伴侶、ジロー様がここを訪れてくれたおかげで貴女の前に立つことができました。感謝しています」
「イリス様・・・。貴女は聖女イリス様なのですね」
 イリスは微笑みながら頷いた。
「イェスゲン様から私がイリス様の生まれ変わりだと聞きました。その時は、実感がわかなかったのですが・・・。今、イリス様と会って・・・、信じられない気持ちでいっぱいです」
「そう。イェスゲンはクロウ様から命じられた使命を果たしているのですね。では、私もクロウ様の愛嬢の一人として、私の使命を果たしましょう」
 イリスは微笑みながら右手をルナにかざした。
「アルテミス。・・・いえ、今はルナでしたね。今から貴女に私の全てを注ぎます。それから、この、月光の首飾りを」
 イリスの右手から暖かい何かが注がれ、ルナの中に吸収された。次にイリスは、両手で自分の首にかかっていた首飾りを外し、ルナの方へ差し伸べながらもう一度自分の首にはめた。と、ルナの首元に首飾りが出現する。ルナがそれを確認して鏡の中のイリスを見たときはもう、イリスは首飾りをしていなかった。
「ルナ。貴女は元の名前を捨てましたね。私もそうなのです。私の元の名はルナ。クロウ様とシズカ様を救うために一族を捨て、名を代えて生きなければならなかった、そして、その報いで血を残すことができなかった女。貴女の今の名が昔の私の名前と同じであることを嬉しく思います。どうか、貴女に連なる血脈を残してください・・・」
 イリスの最後の言葉は段々と遠くなって行き、ルナの意識もフェードアウトしていった。


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