ドレアム戦記

ドレアム戦記 朱青風雲編 第9話

 青龍地方にあり、4神の神殿でありながら唯一その存在が一般に知られている青龍の神殿、その門前町は商業を生業とした人々が長年掛けて作り上げたものだった。所謂商人の町である。商人達はイーストウッド王家から委任された形で神殿自体の管理も司っていた。このため、王家の管轄化にあって簡単には中に入ることが出来ない他の神殿とは違い、寄進さえすれば誰でも中に入ることができるのというのが青龍の神殿の売りにもなっていた。但し、その寄進額によって入れる場所に制限が付いていたのだが。
寄進額が多いと、神殿の中に入り、額に応じていろいろな場所を見て廻れる。大広間や応接間、神体と云われている青龍像がある祈りの間や神殿の財宝がある宝物の間などである。寄進額が取り決められた最低額の場合は、神殿の階段を昇り、入口を抜けた中庭で神殿の全景を眺められるだけだった。
この寄進額は、神殿の神官が取り決め、神官によって管理されていた。そして、寄進額の一部はイーストウッド王家に入る仕組みになっており、王家の財政を潤していた。
金が集まるところには、臭いに釣られて商人たちが集まってくる。商人たちは、徐々に寄進イコール青龍の神殿の観光商売という図式を思い描くようになり、それを達成するために自ら神官になることが一番手っ取り早いと考えた。こうして出来上がったのが、商人神官である。
 商人神官は、神殿の祭祀を司るわけではなく、寄進額を決定する場に口を挟むため神官になった者達。神殿の祭祀を営む元来の神官ももちろんいるのだが、勢力図はとうに書き換えられ、商人神官が幅を効かしていたのであった。
 このように青龍の神殿は、イーストウッド王家の聖域かつ貴重な収入源として庇護を受けていた筈なのだが、いつしかあざとい商人達が支配する場所となってしまっていた。そして、その守りについても王宮から派遣された兵士は単なる飾り程度で、商人神官が雇った傭兵達が警護隊の中核をなしていた。
 ハデス旗下の将軍ナディルは、主命により2千の軍勢を引き連れて青龍の神殿に押し寄せた。青龍の神殿を守るのは王宮から派遣された兵と警護隊、合わせて約2千5百。守りの戦ならば効果的にできれば十分守りきれる人数である。だが、全く相手にならなかった。兵士と傭兵の指揮系統を統括する者がなく、それぞれが適当な守備をしたために、各個撃破されたのである。
こうして、ナディルは青龍の神殿の守護兵達をものの見事に蹴散らし、商人神官達は両手を擦り合わせながらナディルに頭を垂れた。この時点で神殿の支配権はイーストウッド王家から、ハデス皇太子に移り、商人神官達はイーストウッド王家(この時点ではトオリル公子)への上納金は取りやめ、王家に納めていた上納金の半額をナディルに渡し、神殿見学の継続の許可と、今後の庇護を依頼した。神官達は神妙な顔つきをしていたが、結果的には彼らの懐が潤うことになるので、内心笑いが止まらなかった。
 ナディルは、神殿の応接間に仮の司令部を置き、ハデスに報告して次の命令を待った。そして、商人神官達の要望である神殿見学については認めなかった。だが、したたかな商人神官は、神殿の寄進や見学を継続することについての了解を得るための手段を惜しまなかった。ナディルがサウスヒートの貴族の出身であることをいつの間にか調べ上げ、相手の格に合わせた貢物や歓待等を次々と行っていく。結果、ナディルはハデス軍が駐留する区域を除く部分ならばと、制限付の見学を認めてしまう。商人神官達は、こうして新しい支配者を接待漬けにしていったのだった。

 それから数日、ナディルが接待漬けの深みに嵌まっていった頃、神殿を訪ねた男女があった。人数は3人。全員がフードを深く被っているが、その中の1人が神殿を警護している兵士の傍によってなにやら話すと、兵士は簡単に3人を通した。
 次は一時的に閉鎖されていたが、商人神官の働きで再開された寄進所である。ここでの寄進額により、同行する商人神官が連れて行く場所が決まるのだ。
 3人はそこでも、1人が何かを告げるようなそぶりを見せただけで、通過して行く。寄進された物は無いはずなのだが。
 3人の男女はこのように、特段の支障を受けることなく神殿の奥に入っていく。そして、ナディルの司令部の前を素通りし、さらに奥へ。
 だが、そこには、ナディルに取り入った商人神官が立っていた。
「待て待て、この先は立入禁止だぞ」
 商人神官はでっぷりと太った体躯を重そうに動かしながら、威厳だけをかざす。
「あら残念ね。でも、私たちはその先に用があるのよ。何とかならないかしら」
 そう話した1人は、フードを頭から外した。中からは細面の美女が現れた。そして、薄く笑みを浮かべて商人神官を見つめた。
「くっ。な、何をす、る・・・」
 商人神官の瞳から理知の輝きが失せた。そして、いそいそと思い身体を引きずり、道を開ける。
「うふっ、ありがとう。じゃあ、行かせてもらうわね。それから、私達が見えなくなったら、私達のことは忘れて頂戴」
「は、い・・・、わかり、ました・・・」
 3人は商人神官を楽々とやりすごした。
「うふふ、楽勝ね」
 細面の美女が隣の大男に話しかけた。よく見ると大男のフードの下には金属が覗けた。どうやらこの大男、全身を覆う甲冑を着込んでいるらしい。
「私の力も使えるでしょう?鎧の戦士さん」
「ああ、わかっている。魔眼の魔導師」
 甲冑の下から聞こえる声は、ややくぐもっていたが、それでもはっきりと聞こえた。
「ありがとう。じゃ、行きましょう。片目の神官もいいわね」
 フードを被ったもう1人が頷くのを見て、3人は神殿の奥へと消えていった。

 ドリアードの都市を戦術的に紐解くと、4つの防衛フェーズに分かれている。第1段階は外防壁と門であり、第2段階が外郭市街地と呼ばれる商家や船屋、一般市民達が暮している地区である。防衛がこの第2段階に入った場合は、市民達は船で沖に逃れることになっている。
 第3段階は、王侯貴族や大臣等が住む高級住宅街を抱える内郭市街地である。この高級住宅はそれぞれ、運河で仕切られ橋で繋がった島の上にひとつずつ配置されており、戦時には支城代わりの拠点となる。
 そして最終ラインは、王宮を2重に囲む運河とそこにかかる大橋である。王宮の壁と運河の堀が大橋以外からの侵入を拒み、少ない人数でも耐えられるように守備効率重視の造りがされていた。
 外壁を突破しドリアードに攻め込んだ1万の軍勢は、外郭市街地を抜けることなく敗れ去った。攻め込んだ7獣将のうち、生きたまま戻ったのは2名だけ。その2名も瀕死の重傷で、1名はそのまま息を引き取り、もう1名も生死を彷徨っている状態であった。
 グユク陣営の天幕の奥。そこには、グユク側近の者しか入れない場所が存在していた。そこには漆黒の天幕が張られていた。その姿はグユクの天幕によって外からは見えないように巧妙に隠されている。
 その黒天幕の中、赤黒い蝋燭の炎に囲まれて、1人の妖艶な美女が立っていた。赤紫色の細かくウェーブした髪を肩まで垂らし、細面の顔立ちは整っていて切れ長の目と真っ赤な瞳が印象的だ。そして、その隣にもう1人、影のように寄り添っている男。こちらは不要なものをことごとくそぎ落としたように痩せ、濁った暗い瞳をしている。2人の男女は、床に横たわる6人を黙ったまま眺めていた。
 6人のうち、微かに動いているのは1人だけだった。その他の5人は微動もしない。それもその筈である。5人の命は既に絶えていたのだから。
「金獅将モンケ」
 まだ命の息吹が残っている男が微かに動いた。
「これから楽にしてあげます。一度死ぬことでね。あなたはグユク様の力となるのよ。でも安心なさい。わたくしが生まれかえらせてあげるから」
 ケルベロスがモンケの口元に掌をあてがった。モンケは瀕死の息を吐きながら眼だけでケルベロスの美しい姿を追った。ケルベロスは薄く微笑むと軽く頷く。それを見たモンケもつられたように微かに頷いた。
 ケルベロスは口を動かして呪文を唱える。すると、モンケの口元から白濁した半透明の物体が溢れ出す。ケルベロスは躊躇い無くそれを掴むと引き出すように手を上に持ち上げた。モンケの口から物体がずるずると持ち上がり、抜き取られた。大きさが拳の倍くらいで、形状は不安定なそれは、ケルベロスの手の中で不規則に震えていた。
「流石はモンケ、大きさも獣となった魂の力も最上級ね。うふふふ、これはいい滋養になるわね」
 そう呟いたケルベロスは、モンケの魂を懐から出した入れ物に収め、妖艶な笑みを湛えてモンケを見る。
「金獅将モンケ」
先ほどまで苦しそうな息を発していたモンケは、安らかにその呼吸を止めていた。
「銀象将ラトゥ、雷虎将サーベイ、炎彪将ハサル、鋼熊将ロルクル、風狒将ヤクリブカ」
 美女は名前を次々呼ぶが、死体は返事をしない。
「7獣将よ。私、ケルベロスが、そなたらに再び生を与えましょう。この影狼将フラギィのように。そして、新たな力をもって獣王グユクの覇業を叶えるのです」
 ケルベロスはそれだけ言うと、種を取り出し、それに口付けをした後、6人の口に一つずつ入れていった。口に入った種は、まるで生き物のように自分の意思で体内に潜り込んで行く。そして、心臓に到達して癒着し、新たな生命を息吹かせるのだ。
「影狼将よ。そうね、7獣将が全員生まれ変わったのですから新しい名前にしましょう。これからは幽狼将と名乗りなさい」
「はい」
「では、幽狼将フラギィ。生まれ変わった7獣将が使えるようになるまで、世話をしなさい」
 フラギィは無言で頷き、ケルベロスはフードを深く被りなおして黒天幕を出て行った。

 青龍の神殿は、地上に出ている建物や敷地を遥かに凌ぐ地下部分がある。その地下通路は広大で、神殿の門前町を凌駕し、実際にどのくらい奥まであるのかはわからない程だった。一説によれば、海のそこまで続いているという話もあった。
 この神殿の地下通路に目をつけたのがイーストウッド王家であり、緊急避難場所として使えるように、古くから整備を行っていた。それは、地上の神殿を通ることなく、直接海から地下通路に入れるようにしたことと、地上の神殿からの通路と王家が使う通路の動線を完全に分離したことだった。双方の接続点については厳重に管理し、神官と王宮の関係者以外は誰も通れないようにしていた。
 その地下通路の奥、外の通路からは入ることが出来なかった一室に、8人の男女が忽然と現れた。そう、朱雀の神殿から転送の魔方陣で跳んできたジローと愛嬢達である。
 緑がかった、木漏れ日のような柔らかな灯りが室内を照らしていた。ジローはシャオンに出入口の捜索を依頼し、シャオンは任せてとばかりに壁を探った。
「あったよ!」
 シャオンは直ぐに出入口を見つけた。玄武の神殿の時のように転ぶことなく。
「よくやったぞ、シャオン」
 ジローは近寄ってきたシャオンの頭を撫でて、軽く口付け。シャオンは照れるが、最初の頃の過剰な反応をしなくなったのを見ると、こういうことにもだいぶ慣れたようだった。
「ジロー、行きましょ。まず、封印の扉を探さないと」
 アイラに促され、ジローは朱雀の神殿行きの転送の部屋を出た。廊下の明かりは、転送の部屋と同じである。一行は日本語が読めるジロー、アイラ、レイリアの3人をメインにした3パーティに別れ、地下通路を探って行く。
 封印の扉を見つけたのはそれから暫くたってからだった。
 扉を見つけたのはジローである。ジローは心の回線をルナ、イェスイと繋いで他のパーティを呼び寄せると、扉を開けようと試みる。だが、予想通り扉はびくともしなかった。
「う〜ん。見た目は扉なんだけどなぁ〜」
 横にいるシャオンが扉を隈なく調べていた。だが、シーフのスキルを持つ彼女も、最後はお手上げということで、攻略を諦めた。丁度そのころには、全員が集まっていた。
「ジロー様。何と書いてあるのでしょうか」
 ルナがジローに聞く。扉の上には、ルナには傷にしか見えない文字が刻まれていた。
「ああ、扉の文字は2つだ。『森の精霊』と『迷宮』」
「また、謎かけね。とりあえず、ドリアードを呼び出して聞いてみましょ」
 アイラの意見に頷き、ジローはドリアードを召喚した。
「主様。お呼びでしょうか」
 ドリアードはかしこまって挨拶した。その仕草が優雅で、薄い緑色の光を放つ身体から溢れる色気で息が詰まりそうな程だった。
「わっ、ドリアードさん、その乳反則よ」
 アイラが思わず口にする。アイラもどちらかというと大きい双乳を持っていたが、ドリアードの胸は巨乳を超えて爆乳と言えるものを誇っていたのである。
「うふふ、まあ、これはサービスですから・・・」
 ドリアードが軽く受け応える。
「ドリアード、それより、ここは青龍の神殿だ。ここでのドリアードの役割について教えてくれないか」
「はい。主様。・・・確かに青龍の神殿のようですわね。うふふ・・・」
 ドリアードは微笑みながら愛嬢達を見回し、最後にジローに視線を合わせた。
「主様、そして皆様・・・、皆様にはこれから『迷宮の試練』を受けて頂けなければなりません。迷宮の出口は真の封印の扉になりますわ。そこに辿り着いてくださいませ。それでは、よろしいですか?」
 ジローが頷いた。それを見たドリアードは呪文を唱える。
がさがさ、がさがさ・・・
 ジロー達が見ている前で、神殿の通路が一変した。通路の壁、床、天井と全ての場所から、植物が湧き出すように生え始め、みるみる間に覆い尽くしたのだ。
「うわぁ〜、木さんがいっぱいですぅ〜」
 レイリアが嬉しそうにコメントした。
「さあ、樹海の迷宮が完成しましたわ。主様、頑張ってくださいませ」
 ドリアードは、そう云うと爆乳を揺らしながらジローの身体に戻っていった。

「何?突然こんな・・・」
 魔眼の魔導師の口からそんな言葉が漏れた。
 神殿の地上部分から地下に降りる階段を見つけ、地下通路に侵入した途端、通路中の壁、床、天井から木の枝や根が生え始め、3人の居る場所を覆ったのである。
「わからん。俺達が侵入したからかもしれん」
 鎧の戦士も判らないという仕草をした。
「いや、私達が侵入したからではないだろう」
 3人目の人物、片目の神官が言った。彼女は頭に被ったフードをとっていた。その下には、薄紫色の髪をポニーに結んだ美少女の顔があった。但し、一つだけ、左目を覆う眼帯が異彩を放っていた。眼帯は、左目の周りを丸く覆う形のもので、何かの金属で出来ているようだ。その表面には細かく模様が刻まれ、よく見ると皮膚に直接食い込んで肌の一部に融合していた。
「片目の神官、何故そう言い切れる?」
「ボク達が原因ならば、階段を降りて直ぐに出現した筈だ。それに、僅かだかこれが出現する前に、森の精霊の意思を感じた」
「なるほど。さすがは太陽の神殿の神官ね。でも、じゃあ何故こうなったのかしら」
 片目の神官は、無言で首を振った。
「まあいい。どんな状態だろうが、俺達の使命を果たせればいい」
「そうね。それに、ちょっと面白そうじゃない」
 鎧の戦士と魔眼の魔導師が、先に進もうと片目の神官に促す。
「待て、念のため『邪探』を使ってみる」
 片目の神官はそう言うと、太陽魔法の呪文を唱えた。『邪探』はその名の通り、周囲にいる邪なものを探し出す魔法である。対象は、魔物や自分達に敵意を持った者達。
「・・・」
 片目の神官は目蓋を閉じて無言で佇んでいた。ただ、よく見ると彼女の額に汗が浮かんでいるのがわかるはず。それを見つけた魔眼の魔導師が、我慢できずに尋ねた。
「どうなの?片目の神官・・・、ねえ、どうしたっていうの?」
 片目の神官のふさがれて居ない方の目蓋が開いた。その下から群青色の瞳が怜悧な光を放っている。額の汗も消えていた。そして、彼女は落ち着いた口調で話し始めた。
「思ったよりも邪なものが多いみたいだ。有り体に言えば迷宮の番人というところか。そして、奴らは向こうの方角に行くほど数が多い」
「そうなの。じゃあ、そっちの方に行くのが正解ね」
「そうか。丁度腕が鈍って仕方なかったところだ」
 魔眼の魔導師、鎧の戦士の意見に片目の神官も頷く。
「では、参ろう」
 3人は気負うことなく、樹海の迷宮に踏み込んでいった。

「ねえねえ、ドリアード、ちょっと気合入れすぎたんじゃない?」
 アイラが横を進むジローに語りかけた。左手には朱雀扇が握られ、迷宮の番人達の攻撃をことごとく防いでいる。
「ああ、後で一言言っておいた方がいいかもな」
 アイラに受け答えながら右手の刀で番人の攻撃を防ぐジロー。2人共『鬼眼』を発動しているため、自分達のテリトリーを害する敵は意識の有無を問わずに全て排除されている。更に、前方の突破はユキナが、後方の守りはミスズ担当し、偵察役としてシャオンのフレイアが進行方向を探っていた。ルナ、レイリア、イェスイの3人はサポート役として、神聖魔法『祝福』や風の魔法、雷の魔法を駆使していた。
こうして、ゆっくりだが確実に樹海の迷宮を進んでいくジロー達。だが、進むにつれて、迷宮の番人達の攻撃が質、量共に増加していた。
「ジロー様。出口が近いのかもしれません・・・」
 ルナが冷静に告げる。戦闘役のメンバーは結構忙しく身体を動かしていたが、サポート役のルナ達は然程忙しくなく、冷静に状況を見れていたりするのである。
「そうか、なるほどな・・・」
「ルナちゃん、えらい」
 ジローとアイラが手短に応える。そうしなければならないくらい、間断なく番人たちが襲ってくるのだ。番人の姿は、最初は森の獣だったり、魔物だったりしていたが、今では通路を這う蔦の蔓自体が攻撃してくる。
 ジロー達の過ぎた道も、通路の全ての樹木の蔦や根が切り取られていたが、迷宮の植物の再生能力は早く、新たな蔦や蔓が延びてきて襲いかかってくる。
「ジロー様、再生する力も早くなっている気がします」
 ミスズが玄武坤を投げ振るいながら、ジローに報告する。後方からの攻撃は、段々とミスズ1人では防ぎきれなくなりつつあった。
「ミスズお姉さま、応援しちゃいますぅですぅ」
 ミスズが払いきれなかった蔦が根元から切断された。レイリアが風の上級魔法『真空波』を使ったのだ。魔法が作り出した真空の刃が、襲うかかる蔦や根を分断して落としていく。
「ミスズ様、私も頑張ります」
 イェスイはそう言うなり、雷の上級魔法『雷鳴球』を唱えた。人の頭位の丸い珠が、電撃を伴って蔦や根に進んでいく。そして、根や蔦がそれに触れた瞬間、珠は膨張しながら崩壊し、廻りの蔦や根も纏めて一瞬のうちに黒焦げになって炭化させる。
レイリアとイェスイの魔法攻撃により、後方の守りは確保された。だが、だんだんと激化してくる番人の攻撃を考えると、早く出口である封印の扉に辿り着くことが必要だった。
「みんな、急ごう」
 ジロー達は、速度を速めつつ前進した。

 両手に構えた大剣が唸る。何かが叩き折られるような音と共に、根や蔦の残骸が飛び散った。
「これでもおくらい!」
 火の上級魔法『火炎破』が渦を巻いて前方の通路を焼き尽くす。その後には、ぷすぷすとくすぶる番人の残骸があった。
「ぼやぼやできないな、早く行くとしよう」
 後ろから片目の神官が進言した。彼女の背後からは再生した迷宮の番人の蔓が延びてきて打ちかかろうとしている。が、その動きは彼女から半ヤルド程近づいた場所で虚しく止まった。
 太陽魔法の防御呪文『陽壁』が背後を守っているのだ。この魔法は神聖魔法の『障壁』に近いが、『障壁』が場所にかかるのに比べ、『陽壁』は物に掛けられる、即ち対象物と同時に移動が可能なのである。片目の神官は対象を自分として、自分の背中から半ヤルド離れた場所に『陽壁』を張っていた。
 鎧の戦士、魔眼の魔導師、片目の神官の3人は、比較的順調に樹海の迷宮を進んでいた。それぞれの力を合わせることで、1人に比べて数倍の力が発揮されているのだ。
 3人の目的はハデス皇太子からの使命を果たすこと。それは、青龍の神殿の地下通路の奥にあるという転送の部屋を見つけ出して破壊することだった。
 ハデスは、セントアースの蔵書の中で、秘蔵されていたある文書を読んだことがあった。そこには、『4神の神殿に転送の部屋在り。4神の神殿から同時に転送すれば竜の神殿に至らん。竜の神殿に至宝あり。その宝は魔を滅ぼすもの也』と書かれていた。かつては、絵空事として捉えていたその文書だが、ハデスの周囲で魔界の魔物の存在が明らかになり、かつ父である皇帝ゼノンとその姉妹達が魔界に与した今となっては、ハデスも魔物側の人間として、万が一のことを考えて不安材料の払拭を狙う必要性を感じたのだった。
 この目的のため、ハデス自らが青龍地方に遠征してきたのである。
 そして、鎧の戦士、魔眼の魔導師、片目の神官は目的地に辿り着いた。しかし、そこには最後の関門が待っていた。迷宮が作り出した魔獣が立ちはだかっていたのである。
 魔獣は、全身が剛毛に覆われ、身体の一部に蔓が巻きついていた。そして、両肩からは2本の角が生え、4本の手足には、鋭い爪と鎌のような刃が付いている。鋭利な牙が並んだ口元からは、凶暴な唸り声が漏れていた。
「どうやら着いたみたいね」
「ああ」
「だが、どうする。今までの奴とは違うみたいだぞ」
 3人は、いつものように会話をしている。片目の神官の問いに鎧の戦士が答えた。珍しく饒舌になっている。
「任せておけ、前に似たような奴と闘ったことがある。だが、我が弟刀魔に比べれば見劣りする相手だ」
「そう。じゃあ、私たちはサポートに廻ればいいのかしら?」
「ああ、そうしてくれ」
「鎧の戦士。奴の蔦の鎧が気になる。そっちは何とかしよう」
 片目の神官の言葉に、鎧の戦士は振り向いて頷いた。鎧の下で表情はわからなかったが。
 魔獣は、鎧の戦士が前に出ると、ゆっくりと動き始めた。鎧の戦士が両手に1本ずつ持った大剣を構え、間髪を入れずに動く。切れ味鋭い剣圧が襲い掛かる。が、魔獣の蔓がするすると伸びて盾となり、蔓は切り刻まれて落ちるものの、魔獣本体には剣は届かない。
「やはりな。魔眼の魔導師、奴の鎧をはぐぞ」
「わかったわ。『火爆硫』!」
 魔眼の魔導師が呪文を唱える。杖の先に生じた火の玉が魔獣に向かって炸裂した。単体を攻撃する『火球』より強力な上級魔法である。
「行くぞ。『太陽風』!」
 片目の神官の呪文と共に、強力な電磁波を伴った光が魔獣に打ちかかった。その光を浴びた魔獣の蔓が燃え上がり、ぼろぼろと崩壊していく。
 魔獣の反対側をガードしていた蔓は『火爆硫』によって大きく消し飛んでいる。だが、それらの魔法攻撃は、魔獣本体には届いていないようだった。そして、なくなった蔓の鎧を補うかのように、新たな蔓が伸び始めていた。
「十分だ!」
 鎧の戦士は、蔓の鎧が消し飛んだその隙を逃さなかった。両手の大剣は普通の者ならば1本を両手持ちで使う代物だったが、それを片手で1本ずつ、その剣速も非凡。その大剣が唸り、魔獣に打ちかかる。魔獣は両手の爪と腕から出た鎌状の刃で防ごうとするが、鎧の戦士の1撃目で鎌状の刃が折れ、片手の爪が切り取られた。
 続けて2撃目。今度は反対側の爪を根元から分断。そのころになってようやく再生した蔓の鎧だが、2人の魔法が炸裂し、またもや丸裸になる。
 そして、3撃目。2本の大剣が魔獣の胴体を捉えた。1本は肩の角で辛うじて防いだが、もう1本は剛毛の生えた身体を袈裟懸けに斬り下ろす。
 魔獣は狂ったように反撃してきた。蔓のガードの下から残った爪と強大な腕力を使って鎧の戦士を攻め立てる。しかし、鎧の戦士の2本の大剣は、ある時は防御を、ある時は攻撃をと、間断なく役割を入れ替えて魔獣の攻撃をいなしつつ、逆に魔獣本体を切り刻んでいった。
 魔獣の身体は、満身創痍となっていた。片手はだらんと下がり、剛毛に覆われた体躯は大剣によって刻まれた傷が幾つもあった。だが、闘志だけはいまだ衰えず、最後は牙だけでも一矢を報いようと鎧の戦士に襲いかかる。
「とどめだ」
 鎧の戦士が、魔獣の頭を剣で突いたその時、魔獣が消えた。同時にあたり一面に広がっていた樹海の迷宮も霧消し、元の静寂な地下通路の姿に戻ったのである。
「やったわね。さすが鎧の戦士」
 だが、鎧の戦士は呆然と立っていた。
「いや、手応えがなかった。先に奴の方が消えた・・・」
「本当か」
「ああ」
 片目の神官は少し思案しているようだった。
「原因は2つ考えられる。奴に致命傷を与える攻撃をすることが条件だったか、他の何者かが先だったか・・・」
「後者であって欲しいな。この終わり方は気に入らん」
「そうね。ともかく先に行きましょう」
 3人は目の前に出現した扉に手を掛けた。

 魔獣との対峙はジロー達も同じだった。剛毛と刃に覆われた魔獣が蔓のガードに守られながら立ちはだかっている。
 だが、ジローと愛嬢達の士気は高い。
「ご主人さまぁ、後ろは任せてください〜」
 レイリアの金色の髪を留めている風の髪飾りが白金の輝きを放っている。風の魔法が十分に練られて後方からの根や蔓の攻撃を打ち砕いている証拠である。
 横ではイェスイが雷の魔法を唱える。右手に持つ樹海の杖の先端に填められたエメラルドグリーンの宝玉が明るく輝いていた。
「守りの蔓はあたしに任せて!」
 シャオンはそう云うと、左手首の火の御守を撫でながら、小玉を5つ星型になぞる。そして中央の宝玉がルビー色に輝くと人型の炎が飛び出してくる。
「フレイア。あの廻りの蔓を燃やしちゃって」
「わかりました、シャオン」
 フレイアは軽く頷くと魔獣に向かっていく。人の形が炎の虎となって疾走した。その後を追うように、炎が螺旋を描く。炎は魔獣をガードする蔦を呑み、蔦の役割を奪っていく。
「行きます」
 気合と共にユキナの白虎鎗の先端から風で作られた槍の穂先が幾重にも先分かれして魔獣に向かっていく。魔獣は樹海の迷宮の番人でもあるからその素質は木性、金性の攻撃である風は優位である。白虎鎗の風の穂先は、魔獣自身のガードを破って何本も身体に刺さり、魔獣の動きが鈍った。
「今よ」
 ミスズが玄武坤を投げた。玄武坤は吸い込まれるように魔獣の首に向かい、両断した。すると、辺りの景色が溶け出すように薄くなり、元の地下通路に戻っていった。そして、ジロー達の目の前には1枚の扉が出現した。
「抜けたみたいですね、ジロー様」
「ああ、みんなのおかげだ」
 ジローは愛嬢達を振り返った。7人とも少々汗ばんではいるが元気そうに笑顔を返した。ジローの役に立ったことを純粋に喜んでいる笑顔だった。
「ジロー、早くいきましょ」
 ジローの横で朱雀扇を腰紐に挟んだアイラがそう促した。ジローも異存なく頷くと、封印の扉に手を掛けた。
 封印は解け、封印の間に入ったジロー達。青龍の神殿の封印の間は、他の神殿とは違って小部屋程度の大きさだった。8人も入ると窮屈感を感じる。床には転送の魔方陣も描かれていないので、一瞬はずれを引いたのかと思ったくらいだった。
 部屋の中央には大きな石が鎮座していた。その石をよく見ると、一箇所何かが飛びでていた。
「柄ですか?」
 ルナがそう言って、触れてみた。特に何も起きなかったので、握ってみる。
「ジロー様。どうやら刀が石に刺さっているようです。でも、私では抜けそうにありません」
「姫様。私が・・・」
 ミスズがルナと交代した。しかし、びくともしない。その後ユキナ、シャオンと続き、アイラが柄を握る。
「だめね。これ、きっと封印の武具よ。だから選ばれないといけないんじゃないかな」
「そうみたいだな。ここは青龍の神殿だから、木性の素質が必要だと思う。となると、イェスイ」
「はい。やってみます」
 イェスイが柄を握る。すると石が微弱に発光した。イェスイの素質に反応しているようだ。しかし、柄を抜くことは出来なかった。
「ジロー様、すいません」
 謝るイェスイに、ジローはお礼を兼ねて軽くキスする。と、反対側にいたレイリアが、急に言った。
「ご主人さまぁ、イェスイが石を光らせた時に、文字が浮かびましたよぉ」
「何?そうか・・・、イェスイ。もう一度柄を握ってくれるか」
「はい。わかりました」
 石が再び発光する。そして、レイリアの横に来たジローとアイラが見ると、確かに文字が浮かび上がっていた。
 『失われた武具、青龍刃に代わって我が愛剣を封印する。九郎』
 文字はそう読めた。
「じゃあ、これは封印の武具じゃないの?」
「いや、わからん」
「ジロー様。これが、クロウ大帝が残したものであるということは、選ばれるのは私達ではなく、クロウ大帝に連なるジロー様なのではないでしょうか」
 ミスズが冷静に意見を言った。他の愛嬢達も納得している。
「そうだな。やってみよう」
 ジローは石の前に立ち、飛び出ている柄を握った。右手で握った柄の感触が、昔から使っていたかのように手に馴染む。ジローはそのまま、柄を引く。柄が動き、石から離れる。
「え?」
「あっ?」
 その場に居た全員が唖然としてジローの手にあるものを見つめていた。
 ジローが手にした封印の武具。それは、柄だけだったのだ。

 封印の武具?を手に入れたジローは、最初ユキナの白虎鎗のように刃が自在に作れると思い、いろいろ試してみた。しかし、全く反応しなかった。ただ、握り心地がいい柄だけの存在、それがジローの手許にある全てのようにも思える。
「クロウ大帝の刀か・・・。やっぱり普通の刀を封印の武具に代えるのは無理があるよな」
 ジローは柄を腰紐に結わいた。
「御守として、持っていくよ。ご先祖さん」
 ジローはそう呟くと、愛嬢達を見た。樹海の迷宮を突破して、少し疲労が蓄積しているような感じだった。
「みんな、お疲れ様。封印の間に辿り着けたことだし、少し休もうか」
「はい」
「そうね」
 ルナとアイラを始め、全員が同意したのを見ると、ジローは床に座り込んだ。床は神殿にかけられた魔法のせいか、塵一つなく綺麗である。
 ジローも多少の疲労感があった。が、そんな時にむくむくと沸き立つもの、それは性欲である。気がつくと、股間は勝手に屹立していた。
「あ〜、ジロー。立ってる〜」
 たまたま真正面に座っていたアイラが、目ざとく指摘し、愛嬢達の注目を集めることとなった。
 なんとなく気まずい感じのジロー。だが、そこですかさず助け舟を出すのが愛嬢達である。
「ご主人さまぁ〜。レイリアちゃんが抜いてあげますぅ」
 そう言うが早いか、レイリアはジローの股間に擦り寄り、素早くズボンを脱がすと押さえるものがなくなってピンとなった肉棒をぱっくりと咥え込んだ。
「あっ、レイリアずるい!」
 そう言ったのはミスズである。言いながらジローの許に寄ってくる。それと同時に愛嬢達全員が傍に集まってきた。
「レイリア、半分頂戴」
「ふぁいでふぅ・・・」
 咥えながらミスズに答えたレイリアは、肉棒を口から出して、今度はミスズと一緒に舐め始めた。
「ジロー、しちゃおうか」
 アイラが満面の笑みを湛えて言う。
「ジロー様。私もジロー様が欲しいです」
 ルナの瞳が潤んでいた。
「え、でも全員としたら逆に疲れちゃうんじゃ・・・」
 シャオンが控えめに言うが、それに答えたのはイェスイだった。
「では、一緒に『神精回復』をかければいいと思います」
「そうですね」
 ユキナが相づちをうつ。
「お、おう」
 ジローは、愛嬢達に押される形で同意。そして、意思が決まれば行動は早かった。ジローの両脇からユキナとアイラが身体を密着させる。アイラの豊満な胸とユキナの発育途上の胸が素肌になったジローの脇腹に当る。2人共乳房の先端は堅く尖っていた。
 股間では、ミスズとレイリアに引きずられるようにシャオンが加わって、トリプルフェラが行われていた。レイリアのテクニックをミスズとシャオンが教わるような形になっている。
「ふぁふぅ、しょうでしゅぅ〜、カリエラを擦るようになめますぅ・・・、シャオンお姉さまは尿道の先を吸ってくださあぃ・・・」
「こう?」
「う・・・、ん」
 ミスズとシャオンがレイリアに言われた場所を丁寧に舐める。それだけでジローは下半身が溶けそうな快感が下から上に疾る。
「うっ、むぅ・・・」
 ジローの唇はルナが占有していた。ルナの舌がジローの口内に侵入し、ジローの舌と絡み合う。互いの唾液が交換され、甘露な感覚に包まれながら、ルナは自分の股間に手を潜らせていた。
 ジローの両手は、イェスイのぬめった股間と、ルナの柔らかな乳房の感触を楽しんでいた。イェスイはジローの胸に顔を埋めて、快感に浸っている。既に1回イったようだ。
 ジローの股間がびくびくっと震えた。同時に精液が肉棒を駆け上っていく。それを察したレイリアがぱくっと口に咥えた瞬間、口内に暖かい液体が湧くように流れ込んできた。
「んんぅ〜、んむんむ・・・」
 鼻で上手に息をしながら、脈動に合わせて顔を動かす。しかし、肉棒を咥えた口はぴったりと閉じられており、一滴の精液も逃さないように最新の注意を払っている。と、脈動がゆっくりと終わりを告げ、レイリアはゆっくりと口を離す。その肉棒にはうっすらと精液の膜が残っている。
「シャオン」
 ミスズがレイリアの仕草を呆然と見ていたシャオンに目で促す。
「えっ?う、うん・・・」
 シャオンはのそのそと顔を前に突き出し、ジローの肉棒をそっと咥えた。そして、ミスズの言われるままに、全体を舐り肉棒の中に残った精液をストローのように吸い上げて後始末をしたのだった。
 そのころ、レイリアはアイラとユキナのところに行って、1人ずつ口づけを交していた。レイリアの口内はジローの精液がたっぷりと入っていたため、少しずつおすそ分けしたというのが正しい表現かもしれない。
 レイリアがシャオンを除く全員を廻った頃、シャオンの後始末も丁度終わっていた。すると、レイリアが唇を奪い、2人の口の中の精液と唾液が混じり合った。それを半分ずつに分けて呑み込む。
 ジローの肉棒は、興奮したのかさっきよりも滾っていた。それを見たルナが、身体をずらして自分の膣内に咥え込む。
「ああ、ジロー様・・・、いっ、いいです・・・」
 ルナの膣がいつもより滾った肉棒で擦られている。その先端は、子宮口をノックし、じんじんとした快感が波の満ち引きのように押し寄せてくる。
「ねえ、イェスイ。『結調和』使える?」
 ふと、アイラが尋ねる。少し復活してきたイェスイが頷きつつ答えた。
「はい、樹海の杖も本物がありますし、使えます」
「よし、じゃあさ、ルナちゃんの感覚、皆に伝えられるかな」
「えっ?・・・えっと・・・、はい、多分・・・」
「じゃあ、やってみようよ」
 アイラが眼を輝かせて詰め寄った。すると、横からレイリアが更に提案した。
「イェスイ。どうせならぁ、白虎の神殿で練習した、あれをやってみたらどうですかぁ〜、ねぇ、ルナお姉さまぁ・・・」
「あっ、はっ、ああん・・・、そ、そう、ですね・・・、あっ、はっ、あぅん・・・、ジ、ジロー、様・・・、す、少し、待って、・・・いっ、い、ただけますぅかぁ・・・」
 ジローは股間の快感に酔っていたが、ルナ達の話しにも興味があり、腰の動きを抑えた。ルナは、それで一息つけたのか、赤みの増した顔で荒い息を整えている。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・、お待たせしました。・・・イェスイ、いいですか?」
「はい、ルナ様」
イェスイは返事をするとルナの反応を待つ。
「では、行きます。『神命水』!」
 ルナが水の上級魔法を唱えてジローに放つ。
「続きます。『結調和』!」
 イェスイが木の上級魔法を唱和する。すると、2つの魔法がジローの前で練りこまれるように合わさり、その場に居る全員に降り注いだ。
「えっ」
「きゃっ」
「あっ」
 魔法が命中した途端、全員が薄い水の膜に包まれた。一瞬息が出来ないのでは、とも思ったが、膜は身体に吸収されるように消え、次に来たのは爽快な気分と、漲る肉体の感覚だった。
 相生関係にある水と木の合成魔法『恵みの雨』が完成した瞬間だった。相生の順序である水、木の順序に上級魔法を唱えることにより、全員の体力と気力を復元することに成功したのであった。
 ジローは、ルナとイェスイを褒め、ルナをイかせた後はイェスイを抱いた。イェスイはもう一度『結調和』を唱え、自分の感覚を他の愛嬢達にも伝えると、全員の股間がまるでジローが入ってきたように反応する。
「あっ」
「きゃっ」
「ああっ」
 イェスイが感じるにつれて悶える愛嬢達。ジローはその光景に興奮し、さらに肉棒を滾らせるのだった。

「さて、転送の魔方陣の部屋に行こう」
 ジローは心身ともにリフレッシュして、愛嬢達を促した。水の神殿から始まって、この青龍の神殿で10箇所を巡っている。そして、クロウが残した文書によれば、4神の神殿から同時に転送を行うことによって、竜の神殿に行けるとなっていた。
 本来ならば、次は太陽の神殿なのだが、太陽の神殿はセントアース帝国の首都近郊に位置し、行くことは容易ではないということが解っているだけに、順序は違うが先に竜の神殿を訪れようと思っていたのである。
 幸い、各神殿へのルートは朱雀の神殿で発見済みであり、あとは各神殿の魔方陣を使うだけという状態であった。
 ジローは、自分の考えを愛嬢達にも話していた。愛嬢達に否はなく、ジローの考えを全員が賛同した。それどころか、誰がどこの神殿に行くかまで勝手に検討する始末であった。
 そんな愛嬢達を微笑ましく眺めながら、ジローは封印の部屋の中の一方向を眺めた。そこには奥にもう一つの扉があった。多分転送の魔方陣はそちらだろう。
「皆、行こう」
 ジローは扉に手を掛けた。その先に何が待っているかは、誰も想像もしていなかった。



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