《 相 続 》


「…とゆ―わけです。これで御理解いただけましたか?」

「わかりました」

 ぼくは重々しくうなずいた。

「で、どーゆーことなんでしょう?」

 安心したかのように、かばんを閉じかけた弁護士と名乗るその初老の男は、手を止めると額に血管を浮かび上がらせた。どうやら怒っているらしい。さっきから5回、同じことを説明させただけなのに、いい歳をしてこらえ性のない人だ。

「…いいですか。簡単に言います、よ」

 一言一言息を吐くように、地獄の底から聞こえてくるかのような声で、彼は応接セットの机を平手でたたいて、そこに置いた数枚の紙と飛行機のチケットをわしづかんでぼくにつきつけた。

「明後日、羽田行く!チケットに書いてある飛行機に乗る!ブラジルについたら迎えの人が来てるから、その人の指示に従うっ!わ・か・り・ま・し・た・ねっ!」

 それだけ叫ぶと彼は大急ぎでかばんを閉じて抱えると、後も見ずに応接室を飛び出した。入り口のとこで美穂ネェとぶつかりそうになるが、おじゃま様っと叫ぶように言っただけだった。少しして玄関のドアが閉まるバタンという音だけが響いた。

「なに、あのおっさん」

 美穂ネェが短く刈った癖毛を掻きながら応接室に入ってきた。テーブルを挟んでぼくの向かい、さっきまで弁護士が座っていたソファーに体を預ける。そして、タンクトップの肩紐がだらしなく垂れた肩と、その手をついでに伸ばしてランパンのお尻もぽりぽりと掻いた。痒いわけじゃなくて癖なんだねえ、と言っていたのを昔聞いたことがある。ただし、このあられもない格好は今起きてきたわけじゃない。これが夏場の家でのユニフォ−ムで、さっきもそのままの姿であの弁護士にお茶を出していたからだ。なまじ顔立ちが整っているだけにかなり破滅的な眺めだが、一年も一緒に暮らしているともう慣れた。半分露になった豊かな胸も、見慣れれば単なる肌の一部だ。隠されれば見たくなるのが人の常だが、見たけりゃどーぞとばかりに放り出してあれば別に心ときめく物ではない。

 美穂ネェとは姉弟ではない。

ぼくの両親は、同じマンションの同じフロアに住む夫婦にそそのかされ、現在オ―ストラリアで暮らしている。彼の地に旅立ったのは去年、ぼくがまだ小六の時だ。子供を置いて無責任な親とも思うが、もともと国外脱出に憧れていたところへ、その夫婦が熱っぽく語ったその計画に、両親はその日のうちに移住を決めてしまった。

 だが、ぼくはそんな両親についてオーストラリアくんだりまで行く気はさらさらなかった。でも一人では置いて行けないと両親とさんざもめているところへ、うわさを聞きつけた従姉の美穂ネェがもぐりこんできたのである。

 都内の会社でOLをしている美穂ネェは、面倒を見る代わりにここに住まわせろ、ついでに生活費も少し援助しろ、との条件で両親と折り合い、ここに居ついてしまった。祖父の遺産で入手したマンションはロ−ンもなく、蓄えもそこそこあった両親は嬉々としてその条件でぼくを置いて旅立ち、こうして美穂ネェとの共同生活が始まったわけである。

 血はつながっているとはいえ、いきなり他人と、それもまだ二十歳過ぎの女性との共同生活がはじまったのだ。人が聞けば、よからぬ妄想が膨らみそうなシュチュエ−ションだが、現実は漫画のようにはいかないと悟るのに、三日とかからなかった。

 両親を口説きに来たときは、いかにも切れ者のキャリアウ−マンて感じだった。少しグラマ−な体をぴったりしたス−ツでつつみ、彫りの深い顔にしっかりメ―クをして、その厚めの唇が、自分がいかに優秀で、立派な家政婦代わりが務まるかを早口でまくし立てたものだった。祖父ちゃんの死後、おじさんの家とは疎遠になっており、美穂ネェとはその時に久しぶりに会ったのだが、そんな美穂ネェだったからこそ両親は安心してオ−ストラリアに旅立って行ったのである。

もともと両親もぼくにはかまわない方で、家族も団欒てのもなかった。家に帰ると部屋にこもることの多かったぼくの生活はそれほど変わらなかった。ただ一つ、大きな変化といえば、寝る前にかならず、美穂ネェのコーヒ−に付き合って、ココアとかジュ−スを飲む時間を作られたことだ。それだって別に会話があるわけではなく、自分はコ−ヒ−を飲みながら、向かい合ってぼくが一杯飲み干すのを見てるだけだ。早いときには1分で終わる。保護者としてそれでコミュニケ−ションの責任を果たしているつもりらしい。

しかし、本人のことを言えば、ぼくとの共同生活が始まったその日から、美穂ネェはさっそく本性を現した。     

美穂ネェはいわゆる、気にしない人、だった。家での服装はだらしなく、いつも眠そうな目をして、口癖は「ああ、だるう」だ。休みの日もいつもごろごろとして過ごしている。テレビを見ながらでもなく、雑誌を見るわけでもなく、お菓子を食べるわけでもなく、本当にだらだらと寝転がっているのである。眠っているのかなと見ていると、時々寝返りをうち、だらしなく開いた口が「ああ、だるう」とつぶやくことから起きていることがわかる。前に一度、ぼくが「ちゃんとすれば美人なんだから、男ぐらい作りなよ」と意見をしたことがあるが、美穂ネェは寝転んだまま「いいよ、だるいから」と答えてお尻を掻いただけだった。

 そんなわけで、ぼくは、美穂ネェが食事の支度と後片付け以外で家事をしているのを見たことがない。 

だだ、いつしているのかは知らないが、家の中は専業主婦のおふくろがいたころよりも、いつもぴかぴかに掃除がしてあった。朝夕の食事も欠けることなくちゃんと作ってくれた。味もいい。いつだったか、破れたまま洗濯機に放り込んでおいた靴下がちゃんとつくろってあったこともあった。御礼を言うと、美穂ネェはぼくに背を向けて寝転んだままお尻を掻き、はいはいとでも言うかのように黙ってその手をあげた。この人は、人に隠れてこっそり仕事をすることに命をかけていて、そのせいであんなに疲れてるんじゃないかと疑ったこともあったが、一年以上一緒に暮らしていてもそんな素振りは見えない。

「で、なんだって、あのおっさん」

 美穂ネェはだるそうに前髪をかきあげながら聞いた。ショ−トカットの癖のある髪は、かきあげるほどのボリュ−ムがあるわけではない。

「あ、美穂ネェにもちょっと関係あること。じいちゃんの兄弟で大谷源五郎左衛門て人、知ってる?」

 しらなーいと投げやりな女子高生のような声で言いながら、美穂ネェはソファ−の上で片膝を抱いた。ねむそうな上目遣いでぼくに先を促す。

「その、ナントカっていう偉そうなおっさんが、どうしたって?」

「なんでも、ブラジルで大きな農園や牧場をやってたらしいんだけど、死んだって。それで、ぼくに七千万だか八千万だかの遺産を残してくれてるから、一度ブラジルに来いって…。」

「あ、そうなんだ」

 もう興味を無くしたかのように美穂ネェは目をつぶると、ソファ−の背もたれにもたれかかった。「ああ、だる」と小さくつぶやいて、そのままずるずるとソファ−の上に倒れこむ。

「お金が入ったら…普段のお礼に…何かおいしいものでもおごりなさい…」

 それだけのことをだるそうに言った美穂ネェは、あとは目と口を半開きにして寝転んだまま、時々ああ、だるうを繰り返すだけだった。

 明後日は日曜日だけど、これはとても空港まで車で送ってくれそうにないな…。

 なんか、うさんくさい話だけど…ま、金はあっち持ちだし、丁度夏休みだ。

行ってみますか、地球の裏側まで。





 リオデジャネイロの空は快晴だった。

 空港で手続きを済ませたぼくは、着替えと簡単な身の回りの品だけ入った小さなかばん一つをさげて、人の行きかうロビ―を見回した。

 初めて訪れたこのブラジルという国だが、それほど不安感は無かった。

両親を訪ねて何度もオ−ストラリアへは一人で行っているし、通っているミッション系の私立学校は小学生のころから英会話教育に力を入れている。行きかう人の半分くらいは英語が通じるはずだし、外国人に対するサポ−トも、その国の中で一番充実しているのがここだ。英会話にそれほど自信があるわけではないが、いざとなれば、鞄を放り出して泣き出せばだれかが何とかしてくれることも経験済みだ。

 家から成田までは、あの弁護士が車で送ってくれた。ぼくがちゃんと行くかどうかよっぽど心配だったのだろう。車の中でもくどくどと、ブラジルへついてからの手順を繰り返していた。

 その中で、件の氏神源五郎左衛門氏についても少しわかってきた。祖父ちゃんの二つ上のお兄さんにあたる人だそうだが、曽祖父ちゃんに勘当された後単身ブラジルに渡り苦節40年、ついにブラジルでも名前を知られる実業家になった。ブラジルの長者番付にも名前を連ねたことがあるという。ただ家庭には恵まれず、最愛の妻を早くに亡くし、子供にも恵まれなかった。それが、逆に彼を事業に駆り立てたらしいが、やがて91歳の誕生日の翌日突然息を引き取った。先月のことだ。事業の大部分は、あらかじめ彼が指定していた後継者が引き継ぐことにはなり、大きな混乱はなかったが、その、金融資産だけで日本円に換算して百数十億円という遺産の分配については、財界だけでなくブラジル政府も大きな関心をいだいているという。定年までまじめな国鉄職員として勤め上げ、孫のぼくにとって好々爺という言葉のイメ−ジでしか思い浮かばない爺ちゃんとはえらい違いだ。

「で、なんでそんな人がぼくに遺産を残してくれたんですか?」

「私もブラジルの弁護士からの又聞きで詳しくは存じませんが、勘当された大谷氏は追われるように体一つで故郷を後にされたそうです。ただ、あなたの祖父、治七郎さんだけはひそか連絡をとり、少ない収入の中から援助をしておられたようですね。ブラジル行きの旅費もあなたのお祖父さんが出されたそうですよ。あちらに行かれてからも、ずっと手紙のやりとりはあったそうです。自分は日本を冷たく追われた人間で、二度と日本の土を踏む気はない。だが、弟だけは別だ、唯一の家族だ、と常々言っておられたそうです。そうそう、聞いたところでは、何故かあなたの写真を大切に持っておられたそうですよ…」

 その時、ぼくはふと小学生も低学年だった時の出来事に思い当たった。当時学校では切手収集が流行しており、祖父ちゃんの家にある外国からの手紙の切手を再々ねだったことがあった。そのとき祖父ちゃんは「よし、じゃあ外国にいるおじいちゃんのお友達にお願いしてみたらどうだい」とぼくに勧めた。ぼくは言われるままに、家庭や学校生活をしたためた手紙に写真を入れ、どこに送られるとも知らぬ手紙を、祖父ちゃんと一緒にポストまで出しに行ったことがあった。果たして、数週間後、珍しい外国の切手を詰めた小包と、おじいちゃんの言うことを聞いていい子になりなさいと読めない外国語で書かれた手紙が届いてぼくを狂喜させたが…あの人か!

 車の中での会話を思い出しながらぼくはもう一度あたりを見回した。空港には弁護士事務所から迎えの人が来ているという話だったが、それらしい人の姿は見えない。すぐに、やっぱり念の入った冗談だったかな、というずっと考えていた思いが胸を掠める。

百数十億円の内、たかが数千万円の遺産の分配のためにわざわざブラジルまで来いというところにぼくは疑問を感じていた。投資が趣味だった祖父ちゃんだって一億円近い遺産を残している。今住んでいるマンションもその恩恵を受けたものであった。でも、相続の時だって、両親や親戚が遺産の分配で、それほど騒いでいた記憶はない。葬式の数日後、弁護士と言う人物が書類を持って現われ、少しの話の後、父さんが書類に印を押した記憶があるだけだ。親族が集まってなんてことも、覚えている限り、無い。

帰ろう…。

せっかくだから市内観光だけでも、という気持ちにはならなかった。めんどくさいから帰る、あ、こんなところは美穂ネェと似てるかも…。

 不意に肩をたたかれた。

「イチロウオオタニ?」

 青いス−ツの金髪碧眼の女性が、紙を持って立っていた。大きく『Wellcome Ichiro』と書いてある。

 あわててYes!と答えると、彼女はニッコリと大きな笑顔をつくって手を差し伸べた。流暢な日本語でぼくを驚かせる。

「弁護士のニコルよ、ニコル・エバンズ。ミスタ−オオタニの顧問弁護士よ」

「あ、初めまして。大谷一郎です」

 イチロウオオタニがいいのかなと思いつつ、流暢な日本語につい日本人の感覚で答えながら手を握り返した。吹き替えの外国映画に慣れているせいか白人女性の日本語に違和感はない。学校にも流暢な日本語を操る外国人講師が多かった。

それ以上に、彼女の日本語があまりにも流暢だったせいかもしれない。

「いらっしゃい、空の旅は快適でしたか?」

「あ、ええ、はい、とっても。日本語、お上手ですね」

 手を握り返したままぼくはどぎまぎした。ぼくよりはるか高見からぼくに微笑みかける顔は、まるで映画の女優を見ているようだ。二十五歳前後と見られる張りのある白い肌、濃いル−ジュの効いた厚めの唇に少し笑みを浮かべ、知的な眼鏡の奥で青い瞳が細められてじっとぼくを見ている。スタイルは、服の上から見ても万全だ。オ−ダ−ものらしいス−ツの胸元を持ち上げる胸、逆に腰は絞れて細く、その下で豊かな腰のラインがぴったり出ている。長い脚はぼくの腰より上まで続いていた。多分日本で彼女にぴったりあう服を見つけることなど不可能だろう。自分ではそれほどませてるつもりはなかったが、それでも思わず唾を飲み込んでしまった。

「父がアメリカの軍人で小さいころ沖縄で育ったの、母がブラジル人。さあ、こちらへどうぞ、車が待ってますから。」

 彼女は先に立つとぼくを案内した。目の前を豊かなヒップが必要以上に揺れているのを、なんとなく目で追ってしまう。ぼくだけじゃない、すれ違う男性が、みな立ち止まり彼女の後姿を見送っていた。

 何回かエスカレ−タを乗り継ぎ、出口へと向かう。エスカレ−タで振り返った彼女がぼくに語りかけてきた。彼女が二段下に立ってやっと目線が並ぶほどだ。

「あなたはおいくつ?」

「あ、十二です。来月十三になります」

 彼女は驚いたように、オウッと小さく叫んで口をOの字に開いた。見ているだけでなにか吸い込まれてしまいそうな、そんな色っぽさがあった。彼女はため息をつくように言った。

「じゃあシニアハイスク−ルね。そんなには見えないけれど。」

 小学生かと思ったと英語でつぶやく声に、くやしいが否定は出来ない。学校でも体は大きい方ではないし、夏なのに、それほど日焼けしていない体は、たくましさとは程遠い。小さいときからたびたび高熱を出した虚弱児で、心配した親が通わせた空手道場での成果が、この夏にやっと県大会入賞として出てきた程度だ。

「あの車よ」

 わあっぼくは思わず声をあげた。何と書いてあるのか読めぬ街の看板が異国情緒を掻き立てるのは当然としても、迎えの車はロ−ルスロイスだ。まるで映画のようだ。どこかうそっぽいなと半信半疑だった気持ちに実感がわいてくる。

「さあ、どうぞ。」

 遮光ガラスで中の見えない後部座席のドアを彼女が開いた。普通は男女逆なんだけどな、と思いつつ上半身を入れる。豪華な広い車内には…先客がいた。

 いきなり後ろから蹴飛ばされた。よろよろとよろめいてシ−トに腰掛けていた女性の膝にしがみつく。hurry!という叫び声と共にニコルが車に乗り込んでくると、車はタイヤを鳴らして急発進した。 

 突然の展開になにがなんだかわからずにぼくは、膝を抱いた女性を見上げた。黒々とした瞳がはっとすような美人だった。少し浅黒い肌に、黒い長いメッシュに編んで解いたような髪、眼も口も造作が大きく、青いシャドウの濃い二重の目が驚いたようにぼくを見つめている。

 彼女はぼくを案内して来た女性に何事か怒鳴った。金髪の女性も何事か怒鳴り返す。何事か言い合う二人の言葉だが、聞き取れたのはジュニアハイ、シニアハイ、ベイビ−、あとはファックだけだ。

ファック?ファックというのは学校では習ってないが、アクション映画でたびたび耳にした罵言だ。何をそんなに罵り合っているのだろうか?

あとは何度かあがった黒髪の女性の名前、ダイアナだけが理解できた。

 十秒にも満たない言葉の応酬の後、彼女たちは固まっている僕を見下ろした。四つの目に見つめられ、ダイアナの足に抱きついたままだった自分に気づきあわてて突き放す。ぼくは思わずあとずさった。

「な、なんです。何があったんですか、ニコルさん」

ぼくを見下ろしていたニコルの目が不意に細まると、口元に笑いが浮かんだ。こぶしを口にあてクックッとうれしそうに笑う。

「な…、なんです?」

「ごめんなさいね坊や、私はあなたのお祖父さんの弁護士じゃないの。というより、会ったこともないわ、写真以外ではね」

 なっ…じゃあこれって、誘拐?

 眼鏡をはずしたニコルは、つるの部分を軽く口にくわえた。口元に笑いは浮かんだままだ。

「ちゃんと目的地には送り届けてあげる。ただし、お姉さんと遊んでくれたらね」 

それだけ言うと、彼女は眼鏡を放り出し、スーツの背に手を回した。チャックを下ろし、いきなり服を脱ぎ始める。チュバっと唇だけでぼくに投げキスを送ってウインクしたダイアナも立ち上がってそれに習った。車内の不自然な格好で、二人は慣れた手つきで身にまとうものを次々に落としていった。

なんでぇ?と叫びそうになったぼくは、反対側のドアの方に後ずさろうとして、後ろからいきなり抱きつかれた。二人のやり取りの激しさに気づかなかったが車内にはもう一人いたのだ。

 振りほどこうと暴れて…ああっと体の力が抜けた。伸びてきた手は白い細長い指でTシャツの上から僕の乳首をつまんで優しく刺激した。痛いぎりぎりを心得ていて、つまんでは指の腹で撫で回し、またつまむ。指先からぼくの体に何かを送り込むかのように、その指は執拗にぼくの胸をまさぐり続けた。そして、耳元では、はああっと息を吐きながら、唇をにちゃにちゃ言わせ英語で何事かささやく。顔はわからないけど、すごくいいにおいがした。ああ、よくわかんないけど…変な気分になってきた…。

わけもわからずに、彼女のはく息をいっぱい吸い込むようにあえぐぼくの体を、胸にあてられた手がシ−トの上にずり上げる。引っ張りあげられたのか、胸から去っていこうとする快感を追いかけて自分で上がったのかわからなかった。

 くらくらする頭で車内を見回すと、例の二人はいつの間にか服を脱ぎ捨て下着姿になっていた。ニコルは真っ赤、ダイアナは黒い下着を身に着けていた。どちらもかろうじて体の一部を覆っている布切れ、といった感じだ。頭がボーッとしてよく見えないけど、ダイアナの胸は、ああ褐色のりんごが二つ重そうに揺れているみたいだ。

この車の後部座席は、日本で想像できる車のそれではない。広さは四人でもまだ十分余裕があり、高さも腰をかがめて歩けるくらいある。二人の全身が重ならずに完全に見える。

 ぼくの胸を撫で回していた手が離れた。ぼくが思わず、待ってと言いそうになった。しかし今度は二人が左右から抱きついてきた。突き出た胸をぼくの体にこすりつけ、両側から挟む。やわらかい肉の塊のなかに頭がうまって、ぎゅうぎゅうともみくちゃにされた。しっとりと汗ばんだ肌は、熱くぼくの顔に吸い付いてくる。あっ、やめて、放れない…舌を…舌がぼくの耳の中にいいいぃぃ!ああやめて、そんな、そんなところをなでまわさにあで…

 ぐっとベルトが引っ張られ一瞬腹が締め付けられるとすぐ開放された。カロル!とニコルが呼んだ。キャロルかもしれない。先ほどまでぼくの胸をまさぐっていた女性が服を落とし振り向いた。ぼくはああっ声をあげた。薄暗い車の中でもわかるような、燃えるよう赤い髪。真っ白な肌とのコントラストが目に痛いようだ。もう少し幼ければボ−イッシュと言ってもいいような生意気そうな顔は、意思の強そうななにか気品のようなものがあった。身に着けているのは下着なんてもんじゃない。紫色の三角形の小さな布切れが紐でつながっているだけの代物だ。

 彼女はぼくに見せつけるかのように舌で唇をなめた。少しあごを突き出し、見下ろすかのようにぼくに近づいてくる。

「あっ」

 素早い、手馴れた動作で僕のズボンをつかんだキャロルは、それを一気に引き下ろした。トランクスも一緒だ。白いぼくのお○んちんがが、自分でもはずかしいぐらいに立っていて、ぼくは目を覆いたくなったが、手は左右の二人が押さえ込んでいた。ああ、なんでぼくのものはあんなになっているの?

 Oh!と口を開いた三人は、目を見交わせた。ニコルが大仰に肩をすくめ、ダイアナがクスクス笑う。二人の視線が申し合わせたかのようにキャロルに集まり、彼女は目だけで天を仰いでため息をついた。何が言いたいんだ、いったい!

キャロルがいきなりぼくのお○んちんをつかんだ。軽くつかむと一旦離し、今度は一本一本の指をからめるかのように撫でさする。そしていきなりぼくのお○んちんの先端に吸い付いた。先のつややかの部分にちゅーと音をたてて吸い付いて放すと、真っ赤なル−ジュのあとがぼくのお○んちんの先っぽについた。キャロルはお○んちんの先っぽをやさしくつまんだまま、その下の方にちゅちゅっと矢継ぎ早にキスを重ねた。ぼくの白いお○んちんがべっとりと真っ赤にそまり…ああ…なにか…口の中よだれがたまり…変な気分…。

いきなりニコルがぼくのあごをつかんで強引に自分のほうを向かせた。あっと思った瞬間にその唇がぼくのものに吸い付いた。ねっとりとしてやわらかい感覚、空港でOの字に開いていたあの真っ赤な口がぼくの口に…。ああ、だめだ、変になっちゃいそ…なにか、ぼくの唇を割って入ってくる!

 ぼくは目を見開いた。やわらかい、ぬるぬるしたものがぼくの歯茎の裏を這い回り、舌に絡みつき、ああ、お○んちんが破裂しそうになってる。

 目の前にはニコルの顔があって何も見えない。いきなり、ぼくのお○んちんの周りをなにか生暖かいぬるっとしたものが包んだ。それはお○んちんのまわりをつつんだままににちゃにちゃと音を立て、時々ぎゅっと締め付けた。はあ、はああとなにかをこらえるかのようなキャロルの声、ぼくの頭の中が真っ白になった。まるで体全体がおちんちんになって全身を嘗め回されているような感じで…もう、もうっと叫びそうになる。かすむ目を開けると、キスをしたままにニコルがぼくを見詰めていた。瞳の中を覗きこんで満足したかのように、ねちゃっと音を立てて唇を離す。広がった視界の中には、ぼくのお○んちんの上にまたがって腰をふっているキャロルの姿がみえた。ぼくのおちんちんは彼女の股のところで見えなくなっている。じゃあぼくのお○んちんはキャロルの中に入っているんだ。キモチイイ…気持ちいいけど…でもなにをしているんだ?これにどういう意味があるんだ、まてまて…これが保健体育の時間にならった…ああキモチイイイよお、もう何がなんだかわからないよお…。

「ね、イチロウ、きもちいい?」

 ねっとりとした声でニコルが耳元でささやく。ああ、キモチイイ、きもちいいですうううっっっ!

「きもちいい…。」

しゃべると口の端からよだれがでちゃうよううう…。

「そう、気持ちいいでしょ。もっともっと気持ちよくしてあげる。」

そんなああ、これよりもっと気持ちいいことがあるなんて。そんなことされたらぼく狂っちゃう、狂っちゃうよおおおっ!

 Oh!Oh!と小さくあえぎながらキャロルは腰を動かす速度を速めた。以前に、なにか理由のわからない衝動にかられて自分のお○んちんをこすったことがある。あの時、いきなり白いものがとびだしてすごく気持ちよかった。それについて、後で保健の時間で習ったような気がするが…覚えてない…でも、今もあの時と同じ、中から何か飛び出してきそう…

「もっと、もっと気持ちよくなるわ…」

「…もっと…もっと…?」

 ぼくはぼんやりと復唱した。馬鹿みたいだけど、でもそうつぶやいたとたん、本当に気持ちよくなった。ああ、ああっと叫ぶぼくを見て、ニコルの口が笑いの形になった。ああそんな顔しないで…見てるだけでおかしくなっちゃうよおおっ。

「そう、もっとよ、もっともっと気持ちよくしてあげる。」

「…もっと…」

「そう、だから、私の言うことをよくお聞きなさい。」

 ぼくの目の前に顔を突き出したニコルはほとんど唇を触れ合わさんばかりにしていった。真っ赤な唇が、甘い息をぼくの口に吹き込んでくる。

「私たちはこれから、あなたが望む時に、いつでもあなたを気持ちよくさせてあげる。」

「いつでも…?」

 ぼくはぼんやりと復唱した。左耳が心地よくかまれる。はああっとダイアナの息が耳の穴に吹き込まれ、ぼくはあえいだ。

「そう、いつでも、どこでも。でも、それには条件があるの、聞いてくれる?」

 とたんにキャロルの動きが早くなった。ぼくのお○んちんにこすりつけながら、ぎゅ、ぎゅっとしめつけてくる。ひいいいいいっっっ、いったいぼくのお○んちんはどこに入ってどんなふうにされているんだ、ああきもちいいいっ、きもちいいひいいいいっっっ!

「それはね、私たち以外の女性とこんなことをしないこと。どう、約束できる?」

 こんなことって…あひいいいい、いいきもちいいひいいいようっ。

「どうなの?」

 ぼくはがくがくとうなずいた。こんなっこんなきもちいひいことしてくれるんならっ、もう他の人なんていらなひいいいいっ!

「かわいい坊や!」

 ニコルがぼくの唇に唇を重ねるとぐいぐい押し付けた。ねじるようにこすり付けられ、くっついちゃう、ぼくの唇とニコルの唇とがくついちゃうよーっ!

「すぐ、楽にしてあげる、天国に連れて行ってあげるわ」

ニコルが唇を離して宣言したとたん、キャロルの動きがさらに早くなった。オッオッという喘ぎが、叫び声に変わり、カモンッカモンッ!と絶叫する。股のところがぼくのお○んちんをしっかりとつかんで、ちぎれちゃう、ちぎれちゃう、ひいいいん、きもちいいいよーっっ!

 ぼくのお○んちんがびくびくとふるえ、先端から何かが激しくとびだした。

「あああっっ!」

 ぼくは女の子のような悲鳴をあげて…どうやら失神してしまったらしい。





「どうだい、少し落ち着いたかい?」

 車を運転しながら、彼はバックミラ−の中のぼくを見た。ぼんやりとそれを見返しながら、ぼくはうなずいた。正直、落ち着いたどころの話ではなかった。体中がしびれ、おちんちんはあの快感をわすれられずズボンの中で硬くなったままだ。

「じゃあ、少しお話をしてもいいかな。」

 流暢な日本語だった。四十歳を少し過ぎた程度か。黒い髪をオ−ルバックになでつけ、肌も日に焼けてはいるが見慣れた色だ。見た目は日本人と変わらない。日系二世だと自己紹介を受けていた。

 大伯父の弁護士である彼は、空港でなかなか現われないぼくを待ち続けている最中、家の前に少年が倒れているとの電話を受けた。家人が伝える風体からぼくだと気づいた彼はあわてて家に戻った。すると、思ったとおり、心身喪失状態のぼくがリビングのソファ−に寝かされていたのである。ぼくはよく覚えていないが、意識はすぐに取り戻したが、とても話が聞ける状況ではなかったらしい。

 一晩、そのまま寝かされて、今朝になって警察もやってきていろいろと事情を聞かれたが、ぼくは空港でいきなり何かをされ意識を失い、その後のことはよく覚えていないとだけ答えた。

「君は、たしか十三歳だったね。」

 車は市街地を抜け、郊外へ出た。日本では見られない、広い平野が続いてゆく。

「はい」

「私も注意すべきだった。何者かが君に危害をくわえようとすることは想定されたのに、うかつだった、すまない。」

 なんで?

「なんといっても、君は世界でも有数の、超大金持ちのロ−ティ−ンになるんだからね。」

 何言ってるんだ、この人?たかが数千万くらいの遺産をもらうくらいで、大げさすぎる。

「お言葉ですけど、それは大げさすぎませんか。たしかに大叔父には感謝していますが、七千万や八千万のお金で…あ、もちろん大金ですけど。」

 バックミラ−に写る彼の眉が曇った。何を言ってやがるんだ、このガキはと言いたげに、少し怒ったように鏡の中のぼくをにらみつける。が、とたんに彼は合点が入ったように笑った。

「どうやら君は勘違いしているようだね」

「…なにか、お気にさわりましたか?」

「いいかい、ここは日本じゃないよ。八千万円じゃない八千万ドル、だ」

 かれは“ドル”を強調して言った。

 ぼくの頭の中でチ−ンとレジスタ−が音を立てた。たしかこの間、現社の時間に1ドルのレ−トの話が出てた、確か1ドル120円くら…。

頭がくらくらしてぼくは車のシ−トにへたりこんだ。ひゃ、ひゃ、ひゃくおくえんだあああ!。

 そんなぼくの様子を見て彼は声をあげて笑った。

「それに、それは全体の一部、最初の一時金だ。残りは私の事務所で管理し、運用をしながら、年金として毎年三百万ドルずつ、君に渡すことになる。無駄遣いしないようにね。」

 どうやって、どうやって百億円もの金を無駄遣いできるっていうんだああ。そりゃあ税金で半分くらいは持っていかれるかもしれないけど、それでも五十億だぞ?

「だだし、その年金部分を君に渡すにあたっては一つの条件が指定されていてね。そのために、君にブラジルまでご足労願ったわけだ。」

話をしているうちに、車はやがて郊外にある屋敷に吸い込まれた。白い、高い塀で囲まれた、大きな屋敷だ。周囲はうっそうと森がしげり、なにか人目をはばかるかのようにひっそりと立っている。

玄関の前、石畳に車がとまる。車のドアを開けて外に出ると、噴水の水音が高く響いてきた。

「すまないがここまでだ、屋敷の中には私は入れないことになっていてね。いや、大丈夫、私の助手が中にいる。遺言の執行条件については彼女から聞いてくれ。日本語も達者だよ。」

車の窓からそれだけ言い残すと、呼び止める間もなく、車は走り去っていった。

玄関を見上げた。ぼくの身長の二倍くらいありそうな大きな緑色の扉だ。柱は巨大な白いつやのある石だ。まさか全部大理石なんて冗談を聞かせてくれるんじゃないだろうな。

ぼくはドアの前に立つと、ドアベルを探した。それらしいものは見当たらない。仕方がないのでドアについた獅子が咥えた鉄の輪をこつこつと鳴らす。

待っていたかのように、すぐにドアが開いた。黒いス−ツの女性が頭をさげる。

「お待ちしておりました。」

小柄で色白の肌、黒い瞳にまっすぐな長い黒い髪、どこから見ても日本人だ。彼の言っていた助手だろう。小さな目が理知的に光り、赤い口紅のうすい唇は、生真面目そうに結ばれている。

さ、どうぞお入りください、と彼女はぼくの鞄をとった。一歩中に入ってぼくはうわあと声をあげた。

広いホ−ルだ。

これは明らかな大理石で作られた床や壁、中央の二階に登る階段は七列横隊を組んで二階までいけるだろう。天井からは巨大なシャンデリア、あれ一個でぼくのマンションが買えるのではないか。シュ−ルだ、映画の世界だ!

こちらでございます、とぼくの感動を無視して彼女は事務的に告げた。横のドアから廊下へ、そして一つの部屋へとぼくを招き入れる。シンプルだが、見るほどに趣味のよさが伺われる部屋だった。ゲストル−ムみたいだが、なぜ部屋の真ん中に巨大なベットがあるんだ?。それに入ってきたところと合わせて三方の壁にドアがあることにも違和感を感じた。いや、映画なんかで知っている知識がゆがんでいて、これが本当の洋風の屋敷というものなのかもしれない。

「では、ミスタ−大谷の遺言執行条件について説明いたします。元本は後でお目にかけるとして、要点だけ申し上げます」

窓際の小さなテ−ブルに向かい合って座ったぼくに、眼鏡と書類を取り出しながら彼女はあくまでも事務的に告げた。ぼくのあそこは朝から固いままだ。彼女のよく動く赤い唇を見ていると、ああなにか変な気分になってくる…。

「故大谷源五郎左衛門氏は日本という国を大変嫌っておられました。ブラジルに渡ってから一度も日本の土は踏んでおられません。日本も日本人も大嫌いだと、常々回りに漏らしておられたそうです。一方で、自分にチャンスをくれ、ここまでにしてくれたブラジルをとても愛しておられました。ただし、弟、あなたのお祖父さんのことだけは唯一、それも大変に愛しておられました。家庭に恵まれなかった源五郎左衛門氏ですが、何に付け愛憎の強かった彼は、手紙をくれて、唯一顔を知っている治七郎氏の孫、あなたのことも自分の孫のように感じておられたようです」

「待って下さい。確かに写真は送りましたが、まだ小さい時に、それも一回きりです」

「お祖父さんが、たびたび手紙で近況を知らせたり、写真を送ったりしてたみたいですね。源五郎左衛門氏からそれを頼んでいた様子も、手紙から見受けられますが」

続けますよ、と言い置いてから彼女は書類に目を向けた。

「死期が近いと悟った源五郎左衛門氏は自分の死後についてひとつの夢をもつようになりました。それは、孫のように思っているあなたが、自分が愛するブラジルで暮らしてくれること」

無茶な!とぼくは思った。そりゃ、大金をもらって生涯遊んで暮らせるかもしれないけど、でも、日本を捨ててこの国で生活しようとは思わない。日本で暮らすために、両親との生活も拒否したくらいなのに。

「ただ、あなたは既に日本人です。大嫌いな日本人にあなたは既になっておられる。日本で生まれ日本で育っているあなたを無理やりブラジルに連れてくるのも忍びない…。」

ぼくはほっとため息をついた。それを先に言ってくれなくちゃ。

「そこで、彼は、あなたに年金を残すという遺言の執行に当たって条件を作られました。

まず、年金は、あなたがブラジルで第一子を作った場合に給付を開始する…。」

ぼくの第一子?ちょ、ちょっと待ってくれっ、何の話だ?

止める間もなく彼女は続けた。

「あなたが、最初の子供をブラジル以外で設けた場合、遺言は直ちに失効し、残りの遺産は全額国に寄付されます。ただし、子供を作る相手はブラジル人である必要はありません。子供がブラジルで出生すればよいのです。

二つ目に、子供がブラジル国籍を取得できるよう努力すること、また、日本には行かせないこと、行かないよう教育すること。三つ目、子供は必ずしもあなたが育てる必要はありませんが、その場合は、子供の養育者に年金を支給する…つまり子供を生んだ母親かその他実際の養育者に年金を受け取る権利が移ることになります」

よほど、祖父ちゃんの血とブラジルにこだわっているらしいが、愛国心もここまでくるとなにか変質狂じみてくる。血と国家、戦前の日本や、ナチズムを思わせる国粋主義的な思想がそこから伺える。南国ブラジル暮らしというから、ラテンな陽気な人柄を想像していたが、ちょっと違うようだ。勘当され冷たく故郷を追われたと聞いたが、その原体験に何か理由があるのだろうか。

「…以上の条件を満たした場合に、子供が二十歳になるまであなた又は養育者に毎年三百万ドルと、二十歳になった時その子供に、そこまで運用してきた原資の全額を給付する。以上です。なお、源五郎左衛門氏の死去の後、5年以内に子供が出来ない場合も同じく失効…どこに行かれます?」

「帰ります」

五年以内に子供をつくれだあ、ぼくはまだ十三歳だぞ!五年後って言ってもまだ高校生だ。出来るわけない!

第一、子供ってどうやって作るんだ?

彼女があわてて押しとどめようとするが、ぼくは鞄を持って立ち上がった。

帰ろう。

50億だけでも一生暮らすには十分だ。とっとと日本に帰って、50億もらったら、約束どおり美穂ネェをつれて、そうだな、エスニック料理の店にでも食べに行こう。激辛料理でも食べれば、あの美穂ネェだって少しはしゃきっとするかもしれない。

それがすごく素敵なアイデアに思えて、ぼくはドアノブをつかんだ。

「それは困るわね、坊や」

ドアが開く音と、悩ましい声がぼくの背中から聞こえた。

その声が聞こえたとたん、ぼくは思わずかばんを落とし、股間を抑えた。頭がぼうっとして…なにか、すごくキモチイイ声…。

「約束したわよね、いつでも、どこでも、気持ちよくさせてあげるって」

ああとぼくは、ゆっくりと体ごと振り返った。やっぱり、ニコルだ。あの赤い唇で大きな笑顔を作りながら、腕を組んで大きな胸を持ち上げるようにして立っていた。

弁護士の助手が、知らない言葉でなにか叫んで立ち上がった。出て行けとでも言うかのようにニコルに向かって大きく手を振る。しかしニコルは大仰に肩をすくめ何かを言い返した。助手を馬鹿にしたような、ひどく余裕のある態度だ。いや、それよりも、何でここにニコルが…ああ、決まっている…ぼくにキモチイイことしてくれるために、来てくれたんだ…。

しばらく何事かニコルにどなっていた彼女だが、ニコルに言い負かされたのだろうか、怒りに耳まで赤く染め、ニコルを無視するかのようにぼくに続けた。

「…ええ、申し遅れましたが、もし一郎さんがこの遺言を前向きに検討し、子供を作るために努力される場合で、相手としてどなたか決まった方が居られない場合は…」

「いるわよね、ねえ、イチロウ?」

また口をはさんだニコルが、つかつかとヒールを鳴らし、眼鏡をはずしながらぼくに向かって歩いてきた。青い目が細まりながら淫靡に光り…ああ、あの赤い唇が、またぼくの唇に吸い付いてくれるんだ…。

ぼくの様子にニャッと笑ったその唇が、勝ち誇ったように言った。

「私が相手をしてあげるわ、イチロウ。二人の子供をつくりましょう。また、気持ちよくしてあげる」

「キモチヨク…」

ぼくはふらふらと、彼女に歩み寄った。ああ、またキモチヨクしてくれるんだ、また、キャロルの中にぼくのものが入れられて…。

「…相手を希望される方々が、源五郎左衛門氏の生前より、事前に申し込みをされておられて、この屋敷でお待ちです。お呼びしてよろしいか?」

弁護士の助手が、彼女が叫ぶように何か言ってるけど…ぼくはニコルとダイアナ、キャロルだけいればキモチイイから…別に…。

ぼんやりと見詰めて何も言わないぼくの態度に、彼女は逆に肯定と受け取ったのだろうか、みなさんどうぞと大きな声で何処へともなく呼びかける。一瞬、しまったとでもいうかのように目の前のニコルの顔がゆがんで…。

きゃあああああっという大歓声が室内に響きわたり、部屋の三つのドアがひらくと…ああなんてことだ、髪の色も肌の色も年齢もまちまちな、水着や下着、ほとんど何も身に着けていないような、見るからにキモチヨサそうなお姉さんたちが次々になだれ込んできた。

「アアアアアアン、イチロウウウン!」

最初にぼくに飛びついた、いかにも南米系といった水着姿の褐色の肌の少女が、とろけそうな瞳で僕を見つめながら、分厚い唇でキスしてきた。体重をかけて、ぼくをベットに押し倒し、首を抱いたまま、情熱的に唇を押し付け続けた。そうしている間にも、両ほほにもぶちゅぶちゅとやわらかいものが次々に押し付けられ、両耳がなにか生温かいものにつつまれ、ねっとりとしたものが這い回る。柔らかい手が、何本も僕の体をまさぐり、瞬く間にTシャツが引き裂かれ、ズボンがはぎとられる。それでも、何十本という手が僕の体をくすぐり、撫で回し…ああっきもちいいっ!

目の前の少女が押しのけられ、代わりに綺麗な金髪の女性が僕に媚びたような笑顔を向けた。両手で僕の頭を抱えると、その白いやわらかい胸にぼくの頭を押し付ける。深い胸の谷間にぼくの頭が半分くらいうもれ、苦しくて窒息しそうになるが…もうこのまま死んでもいいやと思うほど…キモチイイイイイッ!

イチロー!イチローッ!と叫ぶ声が人波に流されるように遠くから聞こえ…ああニコルの声だ…ニコルってだれだ?気持ちいい、キモチイイよおおおっ!

ぷはっとやっと胸から開放され辺りを見回すと、大きなベットの上だけじゃない、ベットの周りも何十人もの国籍も、年齢もさまざまな、それも美女ばっかりが、嬌声を上げながら、ぼくに少しでも近づこうと手を伸ばし、唇だけでちゅばちゅばと投げキッスを送っている。 

「…この中からどなたか特定の方を選んでいただいても結構ですが、そうでなければ、気に入った方から、順番に毎晩お相手をなさる…あ、なにするの、やめてっ、ああああん!」

悲鳴に振り返ると、大声で説明を続けていた弁護士の助手に向かって、うるさいと言わんばかりに何人かの女性が飛びついていた。

五人ほどで押さえつけた彼女の顔にキスの雨を降らし、その豊満な胸を揉みしだく。頭を振りながらひいひいと声をあげた彼女であったが、三分とたたずに、ル−ジュのキスマ−クがまだらにこびりついた顔をとろけさせ、自分のス−ツの胸元に手を差し入れてもみながら、息を荒げて、近くにいた女性を自分から引き寄せ唇を重ねた。テーブルの上に、ミニスカ−トをまくりあげ股を広げて座った彼女の股間に、一人の金髪女性が頭を突っ込んだ。とたんに彼女は、キスしていた女性の頭を自分の胸に抱えて、ああああっと声をあげた。あんな理知的で真面目そうな人があんなに、よだれをたらして…あああキモチヨサソウ、ぼくもキモチイイようっっっ!

気がつくと、金髪やら、黒髪やらが、何人かがぼくの股間に頭を集めて…ああ、お○んちんを舐めている、あんなきたないところ…みんなで口の中に入れたり、舌で舐めたりして、ああ、みんながぼくの方をいやらしい目で見ながら、舌を伸ばして…ピンク色の舌が、ぼくの先端を…四本…六本…ああ何本あるかわからない舌が、ぼくのお○んちんをなめてるよう…ああ、ぼくのき○玉も、誰かの口の中に…口の中に一個ずつ入れられて、吸われてる…あああ、赤い唇の間を、ぼくのお○んちんが出たり入ったりしている…変な気分…何か…また先端から何かが飛び出してくるような…。

ベットの周りでは、ぼくに届かないとあきらめたかのような女の人たちが、いやらしい声をあげながら女の人同士でキスしたり、胸をもみ合ったり…あ、ニコルだ…、ほほにピンク色のキスマ−ク、耳たぶにもべったりルージュをつけて、床に寝転がったままぼんやりと宙を見つめている。左右の胸には金髪とブルネット女の人が音をたてて吸い付いて…ああ、股間に顔をうずめてぴちゃぴちゃ音を立てているのは、最初にぼくにキスをしたあの少女だ。長い舌で舐めたり、激しく吸いついたり…その度にニコルもあの助手と同じように、口からとめどないよだれとあえぎ声をあげている。

その向こうでは、ダイアナが後ろから白い手で巨大な胸をもみくちゃにされ、褐色の肌を汗まみれにして、狂ったように頭を振りながら叫び声をあげていた。

反対側を見ると、キャロルが床に大の字になって荒い息をついて倒れていた。あの真っ白い綺麗な体全身に、赤く吸ったようなあとがこびりついていた。目は大きく見開かれ、だらしなく開いた口にはいやらしそうな笑いがこびりついたままぴくりともしない。

その間も、ぼくの股間では何人もがかわるがわるぴちゃぴちゃと音をたて、体中にたくさんの唇が吸いつき、舌が嘗め回し、その体の隙間から伸びた手が、全身をまさぐっている。ああ、もう気持ち良すぎて何がなんだかわからにあいいいっっ!

「ね、今夜はわたしとスル」

耳元にたどたどしい日本語がささやいた。顔を向けると、身を乗り出すようにした細い目のチャイニ−ズが間髪入れずにキスをしてくる。しっとりしているのに冷たい唇、ああ全身がしびれる。

キスされながらぼんやりと見ていると、後ろからやってきた南米系らしい黒髪の女性がいきなり彼女の股間に顔をうずめた。彼女の目が一瞬大きく見開かれ、その舌が狂ったようにぼくの口の中で暴れたが、やがてそのりんとした目が快楽にとろけ、ぼくの口によだれの糸を引きながらずるずるとくずれ落ちる。すかさず、彼女の股間に顔をうずめていたその黒髪の女性が彼女のいた場所を占め、ぼくに情熱的に舌を絡めてきた。

「ワタシ、コドモ、イッショニツクル…」

「いいえ、わたしとよ」

キスをしたまま流し目でみると、ああ弁護士の助手だ。あのまじめそうな顔を上気させ、息を荒げながら、憑かれたようなとろんとした目でぼくを見つめている。その唇がはあっと耳に息を吹きかけささやいた。

「何回でもイカしてあげる。一晩中イイッて叫ばせてあげる。見たこともない天国へ、お姉さんがつれってってあげるわ。だから二人で子供を作りましょ」

イカすってどこにつれてってくれるの…ああ、天国か…ああいい、キモチイイ…ああああっ子供ってどうやって作るのお…教えてええええっ…きもちよくしてエエエッ!…あ…あれ………。

暗転。





気がつくと、ぼくは柔らかいベットの上で寝ていた。

最初に目に入ったのは、異様に高い天井、そして映画セットのような洋室。

目が覚めた瞬間は、まだ夢の中にいるようで、気持ちいい夢を見て目覚めたのか、気持ちいい夢を見て目覚めた夢をみているのかわからなかった。

「お目覚めですか?」

ふいに、小さな、眼鏡をかけた顔が視界をふさいで、がばっとぼくは跳ね起きた。

 自分の体を見下ろすと、服は鞄に入れて持ってきたTシャツとジャ−ジに変わっている。

「あ、ぼく…」

「よく眠っておいででしたよ」

 あの弁護士の助手が、ベットに横すわりになると、サンドイッチとオレンジらしいジュ−スのコップの乗った盆を差し出した。盆といったが、ぼくにそう見えるだけで、ブラジルでは別の名前があるのだろう。

「お腹がすいていらっしゃるでしょ。どうぞ」

 ぼくは、無意識にサンドイッチに手を伸ばし、貪るようにほおばっていた。まだ日は高い…というよりここに来てからほとんど時間は経っていない。なのに、ひどくお腹がすいて仕方がなかった。

部屋の中はきちんと整理され、あの狂乱の影もない。

女の人たち何処へいったんだろう…。

 夢だったんじゃないか…そう思いながらも、サンドイッチに伸びる手が止まらない。

 サンドイッチをほうばりながら、チラッと彼女を見ると、彼女は、わずかにほほを染めながら、目を細めて笑顔でぼくを見ていた。初めて会ったときと全然雰囲気が違う、何か媚びるようなかわいらしさが目に浮かんでいた。顔にもキスマ−クのあとはない。

「二十四時間、目をさまされませんでしたから、心配しましたわ」

 気管にパンの粉が入り、ぼくはむせ返った。

 二十四時間……。時間がたっていないどころの騒ぎじゃない。丸一日寝てたんだ!

 盆をぼくの隣に置いた彼女は、立ち上がってぼくを見下ろした。

「あなたが、目を覚まされましたので、私はルールに従いこの部屋から出なければなりません。その前に、ここでのこれからの生活のル−ルについて説明をしておきます。」

 これからの…生活?

「あなたは、ミスタ−大谷の遺言を受け入れ、これからここで子供を作るための生活を送ることになります」

 ちょ、ちょっと待ってくれ!

 ぼくは、あわててサンドイッチを嚥下した。

「待ってください。ぼくは…」

「私がよろしいですねと申し上げた時に否定はされませんでした。彼女たちの愛撫を受け入れた時点で、意思の再確認はされたものと解しております」

 そんな…無茶苦茶な…。

「ここには、現在36名の女性がいます。その他、あなたと女性の身の回りの世話をする女性スタッフが5名、それと私、チヅコと申しますが、以上42名があなたとともにここで生活します。36名は1名から数名まで二十のゲストル−ムに分かれて生活をします。部屋の扉に、名前と写真を張ってあります。あなたは毎日、いずれかの部屋を訪れて、彼女たちと性交をもってください。」

 セイコウって…何?

「あなたは、昼でも夜でも、好きな時に好きな部屋を訪れていただいてかまいません。あなたが性交を求めれば彼女たちは断る事は出来ません。ただし、一度部屋に入った限りは、あなたも彼女たちの性交の要求を拒む事はできません。また、好きな部屋は何回でも訪ねていただいて結構ですが、半月の間に、一度はすべての部屋に行っていただきます。」

 だから…セイコウって…何なの?

「最後に、午前中に一時間は必ず、この部屋で過ごしてください。これは、ひとつの部屋に居続けになる不公平をなくすためです。これは私が監視をさせていただきます」

 そこで彼女は急に事務的な口調になると声をおとした。

「食事は朝は7時半、12時、夜は7時からです。食堂でも、この部屋でも、誰かの部屋でも、好きな場所でお召し上がりください。その他御用がありましたら、私かメイド服のスタッフまでどうぞ。みんな、日本語には堪能です。ご質問は?」

 セイコウってなんですか?

「SEXです」

 なにを聞くのかといわんばかりに彼女は肩をすくめた。

 それは、どのようにするんですか?

「ご存知ないんですか。もう、中学生でしょ?…なものを持っていらっしゃるのに」

 彼女は驚いたようにぼくを見たが、言葉に反して目に好意的な表情が浮かんだ。ぼくの顔と腰の辺りを見比べ、にまあっと笑うと目を細める。なんか…怖い。

「私の部屋も三階にございます。おいでいただければ、手取り足取りお教えいたします。ほかにご質問は?」

「あ、外に出たいんだけど、近くに町があるかな。そのスタッフに言えば車で送ってくれる?」

「外出は許可しません」

 な…じ、じゃあ…電話は?

「伝言は私がお取次ぎいたします。御命じください」

 これじゃあ軟禁じゃないか!

「お子様が出来るまで、あなたの身に万が一のことがあってはなりませんから」

 電話は?

「あなたの所在が知れること自体が危険につながるとボスが言っておりました。誘拐未遂事件もあったことですから」

 小柄な体にゆるぎない意思を秘めて彼女は言った。無理にでも外に出ると言えば、座敷牢に入れるとでも言い出しかねない。

「他にご質問はございませんね。では、ごゆるりとお過ごしください。失礼いたします」

 空になったお盆をもって、一礼した彼女は部屋から出て行った。

 ぼくはため息をつくと、頭の後ろで手を組んでベットに横になった。

 日本を出てからまだ数日なのに、この学校の教室ぐらいある非現実的な部屋の中にいると、何か、とんでもないことに巻きこまれてしまった…という実感がひしひしとわいてきた。

 その一方で…あのキモチイイ感覚が体の奥底から湧き出てくるようで、じっとしていられない。

 ごろごろしててもしかたがないし、この屋敷の中を探検でもしてくるか…。

 ぼくはベットから勢いよく起き上がると、部屋を出た。ドアノブを回すと閂を開けるような音がし、ドアもひどく重かった。時代と造りの確かさが感じられた。

 とりあえず来た方からだな…。

 ぼくは玄関のホ−ルに向かった。

このホ−ルは何度見ても壮観だ。見れば見るほど、細に入り丁寧な仕上げや装飾が施されており、それでいて品がいい。時代が入っているから大叔父の建てたものではないだろうが、抑えられない気品が伝わってくる。

しばらくあちこち見て回ってから、あの大階段から二階にあがる。

二階は…さらに壮観だった。

ここにゲストル−ムがあるのだろう。見るからの頑丈なドアが広い間隔で並んでいるが、すべてに写真がべたべたと貼り付けてある。なんだか、見てて恥ずかしくなるような写真ばかりだ。白人、東洋人、南米系、いかにもロシア人てのや黒人もいる。

あ、ニコルだ。同じ扉にキャロルとダイアナの写真も貼ってある。同じ部屋なんだ。

むくむくっと股間がムズ痒くなり、ぼくは無意識にドアを叩いていた。

 しまった、と思う間もなく人の気配がし、重い音を立ててドアが開いた。

 顔をのぞかせたキャロルが目を見開き、ぼくの手をつかんで引きずり込むと後ろ手にドアを閉めた。

「うぐっ」

 あっ、あっと思っている間に、キャロルの唇が情熱的にぼくの唇に重ねられる。ムッチリとした唇が、柔らかく粘つくようにぼくの唇に重ねられるが、その時ぼくはなぜか冷静にその感触を受け止めていた。長い長いキスの後、キャロルは名残惜しそうに唇を離した。それでもとろけるような瞳でじっとぼくを見詰めている。彼女が何か英語でぼくに話しかけた。

「ニコルさんと話がしたいんだ」

 そういってぼくは彼女をそっと押しのけ、窓際の椅子に腰掛けてじっとぼくたちの方を見ていたニコルに近づいていった。部屋を見回すがダイアナの姿は見えない。

 ニコルの前に立って黙って見下ろす。今日はラフな赤いトレーナ−にジ−ンズ姿だ。しかし、顔には隙のない化粧がしてあった。彼女もぼくを上から下まで眺め、なぜか一旦腰のところで視線を止めると、また顔を見上げた。

「かわいそうなことをするのね、キャロルはあなたに夢中なのよ。お芝居でなくね」

「ニコルさん、一つ聞きたいことがあるんです」

「そのとおりよ、わかってるでしょ」

 彼女はフンッと自嘲気味に笑うと窓の外を見た。

「私たちは、遺産目当てにあなたに近づいたの。何も知らない坊やを快楽の虜にして、あとはこの屋敷で、三人のうち誰かが子供を生めばそれで遺産はわたしたちのものだった。車の中であなたが失神しなければ、もっとどっぷり快楽に溺れさせてあげれたのにね。本当は私たち三人だけを相手にすると言わせるつもりだったのに、見抜かれていたようね。あのチヅコとかいう女があんな強引な手を使うとは思わなかったから、詰めでもしくじちゃったし。こんな結果になるとは思っても見なかった。私たちの部屋には来ないと思っていたのに…」

「そうじゃないんです。あの…SEXって、どうやってするんですか?」

 はあ?とニコルが呆けたような表情になった。同じことを聞いたときのチヅコさんと同じ顔だ。

「知らないの、嘘でしょ?」

 かあっと顔が熱くなった。何か、とんでもなくはずかしい事を聞いてしまった気がした。

「あ、あの…映画とかで男と女の人が裸で抱き合っているのとかは見た事あります。あれがSEXなのかなあって思ってました。…でもブラジルに来てからいろいろあって、なんか違うような…」

 どうしても、声が小さくなってしまう。ニコルがどんな表情でぼくを見てるのかも気になって、うつむいたままちらちらと見てしまった。

 ニコルはしばらく信じられないという表情でぼくを見つめていたが、すぐに好意的とわかる大きな笑顔を作った。

あの色気の塊のようだった顔にあどけないものが浮かぶ。彼女は笑いながら、ぼくの後ろでじっとぼくを見詰めていたキャロルに何事かを叫んだ。

 振り返ると、きゃあっと歓声をあげたキャロルが駆けてきてぼくに抱きつき、顔にぶちゅぶちゅとキスの雨を降らせた。わけがわからずにぼくはニコルを見た。ニコルはニヤニヤしながらそんなぼくたちを見つめていた。

「あなたが始めてだったって教えてあげたのよ…」

 はじめて…って?

「車の中でニコルとしたでしょ、あれがS・E・Xよ」

 ああ、あのキャロルの股間の穴の中に、ぼくのお○んちんが入っていた…あのキモチイイ…あれがSEXなのか。

「じゃあ、あれがセイコウってものなんですね」

 一瞬不思議そうな顔をしたニコルが、こんどこそ爆笑した。椅子の上で腹をかかえ、顔を真っ赤にすると、苦しそうに英語で何事かつぶやき、ひいひいと体を二つに折り曲げた。

「…坊やだとは思っていたけど、ほんとにとんだ坊やちゃんだわ。なんて宝の持ち腐れなの…」

 しばらく笑い続けていたニコルは、苦しそうに言いながら目の端の涙をぬぐった。真っ赤な顔でぼくを見上げ、また苦しそうにひとしきり笑う。

「…宝の持ち腐れって…」

 いくら日本語が上手でも、この言葉が金髪碧眼の彼女の口から漏れると違和感があった。

 ニコルは、まだ笑いの収まらない顔で額を押さえ、頭を振った。

「OK、オッケ−。じゃあ一からレクチャ−してあげる。あっとだめよ、部屋に入ったらあなたはそのセイコウを断れないの」

 あはははははっと自分で言ってまた笑ったニコルは、反射的に逃げようとしたぼくの肘をつかんで引き戻した。キャロルは、ことの成り行きがわからないのか、ぼおっとした顔でぼくとニコルを見比べている。

「ズボンを脱ぎなさい」

 言いながら、ニコルはぼくの前にひざまずき、自分でぼくのズボンをひきずりおろした。逃げようと身をよじったところで、パンツも下ろされる。

 ぼくははずかしさに頭に血が上るのを感じた。ニコルはぼくの股間のものを見ると、とたんにうっとりとしたように熱いため息を吐いた。

目だけでぼくを見上げる。

「どう、見て。あなたのものよ」

 どうっていわれても…何なの?

「こんなに立派なもの、今まで見た事ない。まだこんなに小さな体なのに、こんなものぶら下げて、いけない子」

 ニコルは白いぼくのお○んちんをそのやわらかい真っ白な手でなでながら、熱い瞳でぼくを見上げた。

「他の子と比べて、極端に大きいとは思わなかった?」

 他の子って…別に見せ合いっこするわけじゃなし…お風呂で見たお父さんのも、色は黒かったけど同じくらいだったし…。

 ただ言われてみれば、走るときに邪魔にならない?って聞いたら、みんな不思議そうな顔をしてことがあったが…。

「こんな、いやらしいもので…お姉さんたちを夢中にさせて…悪い子ね…」

 そう言いながら、ニコルはぼくのお○んちんをなでさすりながら、ちゅっちゅっとキスを重ねた。ふらふらといった感じでやってきたキャロルも横から手と首を伸ばし、愛しそうになでさすり、首を伸ばしてはキスをした。

「あなたは覚えてないでしょ。昨日あなたがベットの上で失神したあと、みんなが失神しているあなたと強引にSEXしたのよ」 

 ああ、少し…キモチイイ。昨日?覚えてない…。

「知らなかったけど、男の人って失神してても立派に立つのね。みんな、子供を作ろうと、入れ替わり立ち代りあなたのを無理やり自分の中に入れて無茶苦茶にしたのに…あなたは全然イカないんですもの。こんなサイズ見た事ないって…大騒ぎで、みんな奪い合うようにして…7時間ほどぶっ続けでやって…あなたから絞り取ろうとしたのに…最後には、みんなの方がダウンしちゃったわ…」

 その時のことを思い出したのか、ニコルは体を震わせてはあああっと嘆息した。瞳はもうぼんやりと霞がかかったようで、宙を見ている。

「ダイアナは5分でグロッキ−よ。キャロルなんてもうどろどろ、車の時とは段違いにイイって…見せたかったくらい」

 そう言ったニコルは手の両手のひら全体で包み込むようにぼくのものを持ってなでさすった。

「わたしは軽くご相伴にあずかっただけ。さあ、せっかく来たんだから、今日はじっくり味あわせてくれるんでしょうね」

 そう言って立ち上がったニコルはぼくの手を引いてベットに誘った。ぼくのお○んちんにキスを重ねていたキャロル遠ざかるそれを首だけで追って床にころがった。名残惜しそうに手を伸ばすが届かない。

「これを見て御覧なさい」

 ぼくは、あっと顔の前に手をかざした。トレ−ナ−とジ−ンズ、下着を脱いだニコルがベットの上に座り、足を伸ばしてゆっくりと股を開いた。おそるおそる手の隙間から覗くと、股のところに頭髪と同じ金色の柔らかそうな毛がはえ、その下にピンク色のひだがみえた。

なんだかわからないけど、見てはいけないものを覗いているような、どきどきするような感覚があった。

 ニコルは手を伸ばすと、にちゃっと音をさせながら、そのひだに指をつっこんだ。ああっと気持ちよさそうに体をそらし足の指の先をぴんと跳ね上げる。うっとりとした目をしながら、ニコルはぼくを見た。

「よく見てごらんなさい。ここが女の一番気持ちいいところ。ここにあなたのその一番気持ちいいところを入れるの。入れて、抜いてしまわにようにしながら、入れたり出したりするのよ。それがSEXよ。ほら何してるの、はやくうん」

 そう言いながら、ぼくのものをつかん…イテテ、わかったから離して。

 ぼくを膝まずかせた彼女は、ぼくのものをやさしく撫でながら笑った。

「ぼうやちゃんに最初の授業よ。もしこれを私の中に入れている最中に、もし私がやめて、助けてって叫んだら、あなたどうする?」

「抜きます」

 ニコルは人差し指でぼくの鼻を軽く弾いた。

「残念でした、はずれ。答えはね、もっと激しく出し入れするの」

「…?」

 ニコルはぼくのお○んちんに手を添えて、自分の股のひだに導いた。先端が、あったかく湿り気を帯びたひだにあてがわれ、気持ちよかった。ああ、あの気持ちいいことを、こんどはニコルとするんだと思うと…お○んちんがさらに熱くなる。

「もしSEXの最中にやめて!とかいや!とか叫んでもそれはキモチイイと同じ意味なのよ」

「なんでですか?」

「気持ちよすぎると、わけもわからず叫んでしまうの。気持ちよすぎておかしくなりそうだからやめて!いや!って言ってるのと同じだと思っていればいいの。ひどい場合には、死ぬ!とか殺して!叫ぶ人もいるけど、気持ちよすぎて死にそう、もっとして!ぐらいに考えて、絶対途中でやめちゃだめよ。

SEXの途中では絶対やめないこと。お互いが気持ちよくなるためにするんだから、あなたがイクまで続ければいいのよ」

「イクって?」

「気持ちいい時、お○んちんから何かが出ちゃったでしょ?あれがイクってこと。出たあれが、いいタイミングで私たち女の体にはいれば、赤ちゃんができるのよ。

 ああっ、おまたせ、よかったら入れるわよ」

 そう言いながら、ニコルはぼくのお○んちんにぎゅうっとひだを押し付けてきた。ああ、あったかくて気持ちイイ。もっと中に入ればもっと気持ちよくなるんだ。ぼくは無意識に腰を押し付けていた。

 とたんにニコルは悲鳴をあげた。

「ああっ!ちょちょっと…こんな…待って…昨日はこんな大きくは…ああっ、ああっ…待って、とめてっっ!」

 ああ、ニコルも気持ちよくなってるんだ、あんなに叫んで、ベットにたおれこんで頭を振っている。あれ?奥がつっかえて全部入らないけれど…まあいいか。えーと次は…そうだ、出したり入れたりだ。

「ひいいいいっ!こんなっ…こんなっ、いいいっ、やめてっ!壊れちゃうっ!私がこわれちゃううううっ!」

 ニコルが歯を食いしばって叫んでるけど、なるほど気持ちがいいんだ。ぼくももっともっと気持ちよくならないと…。

 ぼくは、腰を使って激しく出し入れした。お○んちんの周りからとろりとした水が溢れ出し、すべりがよくなって楽になった。穴の中からあふれ出したそれが、ニコルの足を伝い大量にベットの上にこぼれる。すべりがよくなった分動きがリズミカルになり、先端が奥に当たるたびにニコルもキモチヨサそうに叫び声をあげている。

 ふいにぼくのものを包んでいたニコルの穴が締まり、ぎゅっと握り締めたようになった。ニコルはあああっとひときわ切ない声をあげて痙攣したように上半身を起こしたが、すぐ力なくベットにめりこんだ。

 キモチイイっ!

 その一瞬がすごく気持ちよくて、ぼくはさらに激しく腰を動かした。ぐったりしていたニコルが、目を見開き、頭の毛をかきむしりながら激しく体をよじった。日本語でも英語でもない言葉で、何事かを狂ったように絶叫しながら腹筋をするかのように激しく上半身をおこしては倒れこむ。また、ぼくのお○んちんが激しく締め付けら、ニコルは再びぐったりとなった。

やっぱり!この瞬間が一番気持ちいい!

また腰を動かす。

 ニコルが絶叫ながら体をよじる。

 そして激しくぼくのお○んちんを締め付け、力つきる。

 そんなことを4、5回繰り返したとき、ぼくは、あれっと違和感に気づいた。

 気持ちよくない…。

 いや、気持ちいいんだけれど、でもなにか気持ちよさに上限がもうけられたような、車の中や、昨日のように、めまいのするような快感がやってこない。

お○んちんは気持ちいいのに、心のどこかで冷静にそれを感じているような…なんで?

「あああ、ああああ、ああああああ、あああああああっ!ひいいいい、っ死ぬううううっ!」

 何度、ぼくのお○んちんが締め付けられ、ニコルがベットに倒れこんだろう。

その度に気持ちよさがお○んちん全体を包んだ。

でもそれだけだ。キモチイイ状態はずっと続いているけど、声をあげたい気持ちよさは、締め付けられたその一瞬しかこない。その気持ちよさを求めて、ぼくはひたすら腰を動かし続けた。

「ひい…あが…いいひい…いひひい…いひいい…あぐ……」

 ニコルはもう悶える体力もなくなったかのようにぐったりとベットに体を沈めていた。瞳は両目とも上を向き、半分白目を剥いた状態で、口はいやらしく笑ったままとめどもない涎を垂れ流している。

 それなのに、ぼくはまだ全然気持ちよくない。

どうしよう、イクまでやめちゃいけないって言われたし…。

 ふいに肩に手が置かれた。はっとして振り返ると、失神しそうな上気した顔でキャロルがぼくを見ていた。右手は股間で激しく動き、スラリとした足に水のしずくが何本も光の糸をたれていた。

 はあはあと息を荒げながら、キャロルはぼくとニコルを交互に見ながら首をふった。

 ぼくはニコルを見下ろした。

 息も絶え絶えに白目を剥いているんだ、確かにこれ以上は無理だろう。

 ぼくはそっとニコルからお○んちんを引き抜いた。ねっとりとした液体に全体が塗れ光っている。

 ぼくは、キャロルの股間を指差した。

「ぼくと、してくれる」

 キャロルは何も言わずに飛びついてくると、激しくキスしながらぼくをベットに押し倒した。

 ぼくのものをぎゅっと握り、股間を広げてぼくの上に覆いかぶさってくる。

 ああっとぼくはキャロルのやるにまかせた。

やった!キャロルとやると気持ちイイんだ。

あの、車の中と同じ快感を…またキャロル与えてくれるんだ。

 キャロルに身をまかせて、ぼくは期待に目をつぶった。





 詐欺だ!とぼくはやり場のない怒りをドアにぶつけて激しく叩いた。

 ぼくの股間では、収まりきらないものが、激しく立ち上がり、テントを張ったようになって痛い。かなり余裕のあるジャ−ジなのにだ。

 キャロルはニコルの隣に寝かせて置いてきた。

 ニコルと同じに白目をむいたようになっているのは同じだが、口からは涎ではなく泡を吹いていた。そこに到る経過は、ニコルと同じで、自分だけ狂ったようによがりまくって、ニコルの半分くらいの時間でそうなってしまった。

 せっかく気持ちよくしてくれると思ったのに……。

 期待が高かった分、裏切られた気持ちも大きい。

 だいたい二人ともなんなんだ。車の中ではあんなに気持ちよくしてくれたのに…さっきはまるでやる気がないようにすぐぐったりなったりして…。

 ドアが開いた。

「…一郎様…」

 チヅコさんが、ぽっとほほを赤らめながらうつむいた。真っ白い肌に、真っ赤な唇。日本人らしい黒い髪や眉、少し小さな目や口も、小柄でぼくより小さいところも、すごく愛らしい。

「さっそくおいでいただけたんですね。うれしい………それは?」

 部屋の中にぼくを招きいれながら、ぼくの股間に目をとめて驚いた風になる。

 部屋の中にはベットが一つ、どうやらこの部屋はチヅコさん一人らしい。

「…チヅコさんと、SEXしたい。いい?」

 チヅコさんは顔を輝かせてぼくを見上げた。

「よろこんで…教えてさしあげます」

「ううん、やり方はわかったから、すぐにしたい。気持ちよくなりたいんだ。チヅコさん前に言ったよね、見た事もない…」

「…天国に連れて行ってさしあげますわ、一郎様。お望みなら、一日中でももだえさせてあげる」

赤い唇が妖しい笑顔を作ると、くだけた口調になった。

 ぼくはわけのわからない感情に突き動かされ、チヅコさんの肩を抱いて強引にベットの前に連れて行き、突き飛ばした。

 ああっと声をあげて倒れたチヅコさんだったが、うつむいたまま股を開きそっとスカートをまくりあげた。

 下着は身につけていなかった。

 ぼくはジャ−ジを下ろしながらベットの上に這い上がった。外国人で、なにか映画を見ているような感覚だったニコルたちと違い、チヅコさんはぼくの日常の中に当たり前にいる女性という感じだった。その日常と非日常のことをするんだ…。

「いくよ」

ぼくが自分の物を持って、チヅコさんの股間にあてがうと、彼女はそっとうなずいて、ベットに体を横たえた。ぼくは、位置を探るようにそっと腰を押し当てた。ぬめぬめとした感覚の中にぼくのものがゆっくり埋没していき、チヅコさんが体を緊張させて息を吐きながら耐えているのがわかった。

「いくよ」

 えい、えい、えい!

「…あ…こんなっ…こ、こんな…あっひいいいいい……こんなのはいらな…や、イヤーっ!」

 えい!えい!えい!

「ひ、やめ、やめ、ひいいいいいいいいいっっ!」

 えいっ!えいっ!

「も、もおおっ!だめっ!ゆるしてええええっ。」

 えい!えい!あ、やっぱり気持ちいいんだ。

「ゆるしてっ、なんでもしますっ、なんでもするからっ……こ、これだけは…ひいいいいっ!」

 ああ、気持ちよさそうだ、ぼくも気持ちよくしてええっ!えい!えい!

「あひい、あひい、あひいいいいっ!壊れる、私が壊れちゃううう!」 

 ああもっと、ぼくを気持ちよく…それ!えい!

「ああああっ殺して、殺してエエエええ!もうっ…もうっ…もうっ!このまま…キモチイイまま死なせてええええっっっ!」

 えい!えいえいえいえっ!

「…します……な、何でもしますうううっ!…するっするっするわ!しますっ!……何でもするっ!…あなたにしたが…うっ…にでも…なんでもなるから………もっとしてえええ!」

 一時間後…

 ぼくは、うそつきっ!と思いながらチヅコさんの部屋のドアを後ろ手に閉めた。体はもう完全に力尽き、ぐったりとなっているのに、まだ涎をたらしながらひいひいと狂ったように声をあげているチヅコさんを残して…。

 天国に連れってくれるって言ったのに……言ったのに……言ったのにいいっ……。

 お○んちんはもう破裂しそうだ。チヅコさんの部屋に来るときよりさらに大きさを増し、ジャ−ジを持ち上げている。中身がいっぱいつまったみたいで重くて歩きにくい。

 気持ちよくないわけじゃない。チヅコさんも、何度も気持ちよさそうな声をあげ、何十回もぎゅっとぼくのもの締めつけた。その瞬間はすごく気持ちいい。気持ちよくて…すごく気持ちいいのに…それだけだ。なにかリミッタ−でもついているみたいに、気持ちよさがあるていど高まると心のほうが冷静になってしまい、あせればあせるほど、気持ちよさが引いてしまう。あの、車の中でのイク瞬間に感じた気絶するような快感と幸福感がどうしても味わえない。

 ああん、イキたいよう…。

 ぼくは写真の貼られたドアの前をうろついた。みんな、エッチそうな写真ばかりだ。だれか気持ちよくしてくれる人は…。

 一つのドアの前で足を止める。

 思わずわあっと声をあげそうになる写真が並んでいた。

 黒人と、東欧っぽいすごくスタイルのいい白人、あとは南米系っぽい浅黒い肌の少女。

 近づいて写真をみる。黒人はエレナと書いてあった。肌は真っ黒というより日本人が健康的に日焼けした感じ、分厚い唇と切れ長の目が流し目でぼくを見ている。鼻も高く知的な感じで、押さえ気味の化粧も好感がもてる。まさしく映画女優のようだ。長い黒髪も流れるようですごく綺麗だ。ビキニ姿の体も無駄な贅肉がなく、いかにもかかってきなさいって感じで斜めに構えて立っている。

 次の白人はジュリア。金髪碧眼で、黒いブラの下で腕を組み、見上げるようにぼくを見つめている。顔はやせているのに、豊満な体が

豊かな体のラインを作っている。

 最後はアニ−。黒髪と浅黒い肌の取り合わせは部屋の中より、晴れた日のビーチが一番映えそうだ。大きな目と大きな口。全体的に大作りな顔の中で、瞳がきらきらと輝いている。若い健康的な体は、スレンダ−だが痩せぎすではなく、みっちりとあぶらののった肉がついて

今にもはじけそうだ。小さなビキニの横から、日に焼けていない部分の白い肌が覗いている。

 車の中でも三人いっぺんにだった。この…人種も年齢も何ら共通性のない一見奇妙とも取れる取り合わせの三人なら、ぼくの想像も出来ない方法で、ぼくを気持ちよくしてくれるかもしれない。

 ぼくは思わずドアをノックした。

 数秒の空白のあと、ドアが開く。

 ナイトガウンのようなタオル地の服を羽織って眠そうな顔をのぞかせたのはアニ−だった。ぼくの顔を見たとたん、一瞬目を見開き信じられないという顔をしたが、すぐにはじけるような笑顔になって、あわててぼくを部屋の中に引きずりこんだ。辺りを伺うようにして廊下に首を出してのぞき、すぐに閉める。

 喜びの叫び声をあげながら、エレナとジュリアがぼくに飛びついてきた。二人してアニ−と同じようなガウンを身に着けた体でぼくを

抱きしめ、顔中にぶちゅぶちゅとキスをしながら、両手で体中を撫で回す。手が股間に伸びたとき、エレナがOh!と声をあげてあはあああといやらしそうに笑った。なまじ知的な顔をしているだけに、いやらしさ倍増だ。

「…まって…ちょっと待って…」

 アニ−も加わり、三人でぼくの体中を撫で回していた三人を押しのけ、ぼくは息をついた。何事かといぶかるようにぼくを見下ろした三人を見上げ、ゼスチャ−をつけて話しかける。 

「ぼく、SEXをして、気持ちよくなりたいんだ。三人一緒に、してくれる?」

 ベットを指差し、三人を指差し、手のひらを自分に向けて振って、押し寄せてくるさまを表しながら腰を振る。

 その必要はなかったらしい。

「OK、デモ、気ガ狂ッテモ、シラナイワヨ」

 エレナがウインクしながら笑い、ジュリアとアニ−に何事かを話しかけた。きやあああっと二人が笑い、ぼくは三人に担がれるようにしてベットに運ばれた。投げ出すようぼくをベットにおろした三人は、妖しく笑って、取り囲こんだぼく見下ろしながらガウンの帯びに手をかけた。

「気持ちよく…してくれるよね。約束してね。」

 ぼくが弱弱しく尋ねると、エレナはガウンを落としながら、目を細めた。ガウンの下からは写真と変わらぬ、下着をつけていないしなやかな体が現われた。ただ一つ違っていたのは、胸が思ってたより大きかったことだ。

「OKヨ、気持チヨクシテアゲル。約束ヨ。何ドモ何ドモ叫バセテ、私ノ虜ニシテアゲルワ」

 妖艶に笑ったエレナは、ぼくのジャ−ジを下ろし、そっと股間に顔をうずめた。ぼくのお○んちんが生温かい快感に包まれる。Tシャツがまくり上げられ、アニ−とジュリアが両胸に吸い付いた。

 ゆっくりと快感が押し寄せ、ぼくは息をはいて体の力を抜いてベットに体重を預けた。

 …ああ………

……はあ……いいっ………

…あああ………いいっ……気持ちいいっ……

…もっと…もっと…もっとしてえっ……………………

………………………………一時間後。

ぼくは、泣きそうな声で、嘘つきっ!と部屋の中に叫んでからドアを閉めた。

目をハ−トマ−クにして涎をたらしながら、ベットの上で積み重なるようにして倒れている三人が分厚い扉の向こうに消えた。

ぼくの股間では、お○んちんが部屋に入るときよりさらに膨らんで、重みに耐えて必死に立ち上がっている。重みで付け根から千切れそうだ。ぼくは少し腰をひいてその痛みに耐えながら、廊下をさまよった。

だれか…だれかなんとかしてえええっ!





ぼくは食堂のドアを開けた。うしろでダイアナがずるずると壁を滑り落ち、廊下に横たわるのを感じたが、無視して中に入りドアを閉める。

ダイアナとは廊下の角で出会い頭にぶつかりそうになったのだ。

驚いてぼくの顔を見おろした瞬間、ダイアナの顔が崩れてとろけた。目がうつろになり、ばかみたいに軽く開いた口から条件反射のように涎があふれ、股間を押さえて壁にもたれかかったのだ。そのまま、あああっと股間と胸を激しくまさぐり…冒頭のごとしとなった。以前ならあわてて助け起こしただろうが、毎度のことでもう馬鹿らしくなっていた。それに、助け起こそうと彼女に触れる方が彼女のためにならないこともわかっていた。

食堂にはチヅコさんとニコルがいた。

この二人だけは、屋敷の中でも、自分の部屋を出るときはいつもス−ツ姿だった。

食堂といっても、内装は高級レストランのようだ。四人がけの豪華な丸テ−ブル15セットほど並んでおり、一つ一つに花瓶があり花が活けてあった。最大では80人がいっぺんに食事が出来るとスタッフの人に聞いていた。

二人はその一つに向かい合い、何か深刻そうに話をしている。

気配に気づいて二人が振り返った。

とたんに瞳がとろけ、テ−ブルの下でそれぞれの手が反射的に股間に伸びるのが見えた。白い手がゆっくりと顫動をはじめる。

「ああ、一郎様…」

 顔を真っ赤にして、口の端に涎をあふれさせながらチヅコさんがつぶやいた。ニコルも必死で押さえようとしているが、今にも叫びだしそうな顔をしている。

 二人とも、目の下にうっすらとくまのようなものが出来ており、疲労の色が濃い。

 この屋敷に来てから既に、半月が経っている。

 その間、毎日、ぼくは部屋から部屋へと渡り歩いていた。股間が、なんともいえぬ衝動でそれを駆り立てていた。

初めて覚えたSEXはすごく気持ちがよかった。少し病みつきになりかかっている事は否定できない。半月に一度の騒ぎではない。もうすべての部屋を5〜6巡はしただろう。他にする事もない。テレビもない。あるのはぼくをその気にさせるためのアダルトビデオだけだ。本もない。代わりに女性の裸の載った雑誌ばかりだ。この屋敷はすべて子供をつくるその行為のために出来ていた。

だが、ぼんやりしていても仕方がない。チヅコさんは、だれかが妊娠するまでここからは出さないと、ねちっこい表情でぼくを見ながら断言した。周りの環境がすべてそのためにあると、はずかしいという感覚が麻痺してしまう。SEXに味をしめたぼくは、少しでも気持ちよさを求めて、毎日積極的に部屋をまわっていたのだ。

だが、毎日のようにSEXしているうち、相手をしてくれる女性たちの方がおかしくなってきたことに気付いた。

SEXの最中みんなすごく気持ちよさそうだ。その瞬間に彼女たちがイッているのよとニコルが教えてくれた、あのぎゅとぼくのお○んちんを締め付ける感覚をひっきりなしに繰り返し、早くて10分、長くても30分でみんなぐったりとなってしまう。その時には、みんな、目から涙、口からは涎と、穴という穴から垂れ流し、全身を弛緩させながら人事不正になっている。みんなすごく気持ちよさそうで、日に日にそのよがり方が激しくなってゆく。そしてとうとう、ぼくのものが中に入る前に失神したり、部屋に入っただけで股間を押さえてうずくまる者まで出始めたのだ。

今では、もうみんなおびえたような目をしながら、それでもぼくを見ただけで股間から汁をしたたらせ、狂ったようにぼくを求めてくる。さっきのダイアナもその一人だ。個別の部屋以外では、ぼくが求めない限りSEXはしてはいけないとのル−ルがなければ、どうなっていることかわからない。

 そしてぼくといえば、この半月の間、どんなにSEXしてもだめだった。気持ちいいけど…どうしてもイケない。

みんな…みんな気持ちよさそうで…ぼくだけが除け者だ。

 この間、みんなだって黙っていたわけではない。初めはどうしてもいかないぼくのためにみんなも努力してくれた。ありとあらゆるテクニックを使い、服装や場所、人数やシュチエイション、初恋が学校の先生だったというぼくの言葉に、ニコルを先生役に、制服まで準備して学校を模したスト−リ−仕立てみたいなものもやってくれた。

 どれもだめだった。

 そして半月たった今では、みんなはぼくを気持ちよくするより、ひたすら自分の快感を求めているように見えた。

「よい所においでいただきました。お話があります」

 もぞもぞと股間をすりあわせながら、チヅコさんが座ったまま空いた椅子をひいた。立ち上がってすべきことはわかっていても、立つことができないらしい。

 ぼくは黙ってそこに腰をおろした。二人の視線はその間ずっとぼくの腰の辺りを追っていた。

「なんですか?」

 座ってからも黙っているチヅコさんに、ぼくは思わずふてくされたような声で聞いた。いけないとわかっていても、心の不満が声にこもってしまった。ぼおっとしたように、テ−ブルの下に消えたぼくのものを見詰めていた彼女ははっとしたように顔を上げた。目がうるんでいる。

 最初のうちこそ積極的にチヅコさんの部屋を訪れていたぼくだったが、最近は避けていた。そもそも、一番最初に女性たちの異変に気づいたのが、チヅコさんを見てだった。事務的な話をしょうと訪れても、話そっちのけで、来たからにはル−ルを守ってねとベットに押し倒され、いつもだいたい20分くらい付き合わされた。そして彼女はいつも、最後には口と股間からあふれるものでベットをべとべとにし、白目をむいて倒れてしまうのだった。そして何回かSEXした後で、彼女がぼくの顔を見るだけで無意識に股間をまさぐるようになっていることに気づいたのだ。普通の話をしている時も、今にも気絶しそうな上気した顔で、ぼんやりとぼくを見つめたままで、些細な事を伝えるだけでも、同じ会話を何度も繰り返すはめになってしまった。

 実質的なここの管理者であるチヅコさんがその調子では大変なこととなるので、異変に気づいてすぐに彼女の部屋に行くのを避けるようにしたが、一昨日も、大事な用事との電話で訪れた彼女の部屋で、いきなりベットに押し倒された。

「一つは、キャロル、エレナ、チン・レイの三人は屋敷を出させます」

「なぜです?」

「なぜですって?」

 ニコルが思わずといった感じで声をあげた。目を向けたぼくと目が合うと、ああああと息を吐き、椅子にもたれこむ。

「あの三人は、危険な状態です。直ぐ入院をさせた方がいいと判断しました」

「なにか、病気ですか?」

「精神病です」

「精神…病?」

「一郎様はあの三人がお気に入りでしたね」

 チヅコさんはちょっと憎らしそうにぼくを見た。

 確かに…お気に入りというのが適当かどうかは別にして、その三人とはよくSEXした。

 キャロルは車の中であんなにぼくを気持ちよくしてくれた。唯一ぼくをイカせてくれた人だ。タイミングさえよければ、またイカしてくれるのではないかと思ったのだ。エレナはすごく激しかった。その浅黒い肌から、いっぱいに汗を飛び散らせ、ぼくに馬乗りになって狂ったように腰を振られるのが、一番気持ちよかった。チン・レイ。あの中国系の少女は一番小柄だった。小さな口であごがはずれるのではないかと思うほどぼくのものを咥えて、いとおしそうに奉仕してくれるときは、なにかすごく気持ちよく、SEXするとすぐ失神してしまうことがわかっていても、何度も彼女を求めた。

 ただ、キャロル、エレナとも相部屋だったため、個別にぼくの部屋に呼んでやることが多かった。

 もっとも、何で部屋に来ないのと不満をもらすニコルに言い負かされ、たびたび彼女のおとずれたぼくは、自然、ニコル、ダイアナとも回数は多くなっていったが…。

「それが、なにか。いけませんでしたか?」

「いけないかですって?」

 またニコルが叫んだ。声がさっきより弱弱しい。

「普段のキャロルをあなたに見せてやりたいわ。ここに来てからあの子いつも何していると思う?。起きている間、ずっとあなたの名前を叫びながら狂ったようにオナニ−してるのよっ!こっちがおかしくなりそう」

 おなにいって、なに?

「エレナも似たような状態です。チン・レイは一人部屋だったために、止める者もいなかったため、もっとも酷い状態です」

チヅコさんはため息をついた。

「あなたのものは大きすぎます。ただ大きいだけでなく膨張率がすご過ぎるんです。それも日を追うに従ってわずかずつ膨張率が上がっているような…。その上、あなたはぜんぜんイカれません。私たちは防戦一方。あんなもので長時間責められ続けられ、その間に何十回もイカされたら…おかしくなって当たり前です。」

「ぼくのせいだって言うの?」

 責める口調ではなかったはずなのに、その一言でチヅコさんの顔は今にも気絶しそうに青ざめた。ぼくを見つめた唇が震えていた。

「…ああ、お許しください…けして、決してそんなつもりではっ…どうか、どうか嫌わないでくだ…お許しくださいいいっ!」

 叫びながらよろよろと椅子から降りた彼女は、ひざまずいて髪を振り乱し額を絨毯にこすりつけた。

「…けっして…そんな…そんな…」

 んな大袈裟なあっ!

 ぼくはあわてて椅子から飛び降りた。

「ちょ、ちょっと…やめてください。そんな…全然怒ってないですから」

「…お願い、嫌わないで…」

 乱れた髪の間から泣きそうにぼくを見上げたチヅコさんは、震える唇で哀願した。

「嫌うなんてそんな…ぼくチヅコさん大好きです…ずっと好きだったし…これからもそうですよ…」

 背後からそそがれるニコルの妬ましげな視線を感じながら彼女の手をとったぼくは、彼女を椅子へと導いた。

 チヅコさんはしばらくおびえるような目でぼくを見つめていたが、なんとか気を取り直したように震える声で話し始めた。

「…失礼…しました。とりあえすその三人に関しては午後から迎えの車がまいりますので、それで病院に運びます。彼女たちの今の状況から見て、多分激しく抵抗するかと思います。多少の修羅場は覚悟していただき、決して彼女たちをかばい立てしないようお願いします。」

 ぼくはうなずいた。

「二つ目ですが、一郎様の今の状況では、いつまでたっても本来の目的を達成することが出来ません。是が非でも射精をしていただく必要があります。」

 しゃせいの意味がわからなかったけど、なんとなく想像は出来る。

「原因についてはいくつかの理由が考えられ、今ニコルとも話をしていました。子供ができると、快楽がそこで終わることを無意識の内に感じ射精をしないようにしている、あるいは短期間に与えられた快感が激しすぎて強い耐性ができ、それよりはるかに強い快感を与えないとイケないなどが考えられます。」

 ぼくはあいまいにうなずいた。はるかに強い快感てどんなんだろうと想像してしまい、股間が重さを増した。

「ただ、どんな理由であれ、このまま今の状況を続けていても、子供ができそうにないのは同じです。中には、子供が出来るよりずっとこのままでいたいという不届き者も出てきて…数も増えてきております。」

 なんか、知らないところで、大変なことになっている。

「三人が抜けた分の補充は当然として、新陳代謝をはかる意味で、もっと女性の人数を増やそうと、今選抜をおこなっています。」

「選抜って…こんなところに来たいって言ってる人がいるんですか?」

「多すぎて、人選が大変なくらいです」

 チヅコさんは肩をすくめてため息をついた。

「容姿はもちろんですが、思想、人柄など、もしその女性に子供が出来てもここにいる皆が納得できる人物でないと。人選にはうちのボスがあたっています。こんなことを言ってはなんですが、女性を見る目は確かですから、ご安心ください。

 女性を見る目が確かって…どういう意味?

「三つ目ですが、とりあえず、あなたの射精を促すために性感師を招聘しようと思っています。あなたが、イケない体質ということではありません。現にキャロルとSEXした時にはあなたはかなり簡単にイッたと聞いております。一度イケばその後はイキやすくなるかもしれませんから。」

「性感師ってなんです?」

「男性を気持ちよくすることを生業としているプロの女性です。SEXの方法によらず、男性を気持ちよくイカせてくれますよ。中には病みつきになる人もいるくらいに…」

 ぼくは思わず叫び声を上げていた。

「そんなのやだっ!ぼくはSEXして一緒に気持ちよくなりたいんだ。プロとかそんなのはいやだ!」

「わ、わかりました…」

 ぼくの言葉に、チヅコさんはおろおろと言いながら、テ−ブルの上に置いた紙に線を引いて、書いてある文字を消した。

「と、とりあえず他にご希望があれば聞いておきます」

「希望…ですか?」

「はい。一郎様が一番興奮して、気持ちよくなれそうな、そんなお好みはありませんか。女性の人種、好みの顔、年齢、行為…」

 う-ん、そうだなあ…。

「ぼくと、同じくらいの歳の子って…無理?」

「同じ…、十三歳ですか」

「ぴったり同じじゃなくてもいいから…ほら、ここみんな年上のお姉さんばかりだから…もしかしてそういう子ならって…」

「年齢的にご要望に応えることは難しいかもしれませんが…」

 万年筆の尻の部分を唇にあて上目で天井を見ながら考え込んだチヅコさんは、軽く左右に頭を振った。

「外見がその年齢程度に見えるというなら、ご要望に応えることができるかも知れません。ボスに伝えておきます」

「お願いします。あ、他にも後で何か思いついたらお願いしていいですか」

「もちろんですわ、いつでもどうぞ?」

 笑顔になったチヅコさんにぼくも笑顔を返して立ち上がった。

「じゃあ、ぼくこれで失礼しますね」

 歩き出そうとした足がとまった。後ろからニコルがぼくのTシャツをつかんでいた。

「な、何です?」

「なにもそんなもの待たなくったって、ここで二人とどう?」

 上気した顔でニコルが媚をつくった。途中から全然しゃべらなかったと思ったら…そんなことを考えていたのか。

「ね、ここに入れて」

 ニコルが股を大きく開いた。下着をつけていない。きれいなピンク色のひだが目の前に大写しになる。憑かれたような目でぼくを見ながら真っ赤な唇をすぼめる。目元のくまが一層凄惨な色気をかもし出し、ぼくはつばを飲み込んだ。

 イケないだけで、全然気持ちよくないわけではない。あの中にぼくのものを入れたら、すごく気持ちいいんだ…。

 ぼくはふらふらとニコルに歩みよった。

 うしろから、チヅコさんの胸のふくらみが押し付けられるのを感じた。





なんで、なんでイケないんだよおおーっ!

豪華なベットの上に寝転んだまま、ぼくは泣きたくなっていた。

この屋敷に来てから一ケ月。

ぼくはまだイケずにいた。

屋敷の女性は60人に増えていた。屋敷の広さからいけばまだ20人くらいは大丈夫だとチヅコさんは言ったが、これ以上増やすと暴動が起きかねないから、とりあえずは勘弁して欲しいとチヅコさんは謝った。

そう言った目の下には黒々としたくまができ、その口は続けて、ぼくの訪れが減った悲しさを切々と訴え続けた。

先日も、初めて地下の大浴場に行ったが、たいへんなことになった。

階段を下りて、脱衣室からガラス越しに浴室をのぞく。なんでも地下室を改造したそうで、図面は大叔父が引いたらしい。そのせいで雰囲気はなんだか日本の銭湯みたいだ。先に何人かが入っている気配がしたが、ここは人気で、常にだれかしらいると聞いていたので、気にせず服を脱いで扉を開けた。

満員だった。

20人ほどもいる先客を見て、しまったと思ったが後の祭りであった。

急な来訪者に視線が集中した。まず顔を見、申し合わせたかのように視線が下がる。

 悲鳴と嬌声が交錯した。

 立っていた者は内股をこすりあわせ、指を股間に這わせながら、その場によろよろと座り込んだ。座っていた者も手をついて体を支える。空いたほうの手は反射的に股の間に滑り込んだ。湯船の中にいたものもいきなり湯あたりしたみたいにぼうっとなった。おそらく手は、見えない湯の中で激しく股間をまさぐっているのに違いない。

 それぞれの部屋以外では、ぼくが求めない限りSEXはできない決まりがある。それから言えば、入ってもなんともないはずだが、なにか異様な雰囲気にぼくはあわてて逃げ出した。入ったら無理やりやられるという気がしたのだ。そうなればあとはもうぐちゃぐちゃだ。

60人がいっぺんにぼくに襲いかかった来るに違いない。

 あんっ、あんっと嬌声が響き始めた浴室から、ぼくは服を横抱きにしてあわてて逃げ出した。

 屋敷の中も下手に歩けない。すれ違うたびに彼女たちが股間を押さえて倒れてしまう。倒れてる女性のあとを追っかければぼくのいる所がわかると言っている者もいるらしい。

 で、ぼくがおとなしくしているかといえば、それはそうでもなかった。股間のものがぼくを駆り立て、日のあるうちはたいていどこかの部屋にいた。彼女たちがぼくの虜になっているのと同様に、ぼくも半分快楽の虜となっていた。

もう、SEXをしないと落ち着かなかった。起きている間は、少しでも気持ちよくなりたくて、一日中彼女たちの体を貪った。そして、いったんやり始めると、彼女たちがとことんまいるまでやめられない。適当に彼女たちを満足させて切り上げることができないのだ。よがり、狂い、涎を垂れ流す彼女たちを見ていると快感が増すのだ。いやならイカせてくれと、無意識に開き直っていた。

当初のメンバーの半分以上が入れ替わっていた。さすがにニコルはがんばっているが、ダイアナはとうの昔にいなくなっていた。ニコルももうだめだろう。部屋の中でぼくの名前を叫びながらオナニ−をする、ニコルが言っていたキャロルと同じ行為を、ニコルは今、一人になった自分の部屋で繰り返していた。

例の、性感師というのも、やはり女性たちに混じってやってきていたようだ。その日本人の女性は、ぼくの体をたくみに刺激し、ぼくは悲鳴あげ続けた。だが、これはイケるかもと彼女を押し倒し、挿入したのがまずかった。

次の日、失神から目覚めた彼女は、イッちゃったらこれがなくなるかもしれないんでしょ?と涎が収まらない様子でズボンの上からぼくのものを撫で回した。そして、イカせてあげないと、ぼくの耳元に宣言し、いまではもっぱら受身にまわり、日ごとに狂ったようになってゆく嬌声をあげる日々だった。

ぼくは自分の体を見下ろした。

そそり立ったぼくのものに、5人の少女が全裸で群がっていた。

ぼくとそう歳の変わらない、もしかしたらぼくより幼いように見える少女たち。どう見ても日本人で、正気だったころ自分でもそう言っていた。どういう経緯でここに来ることになったのかわからないが、来てからもう10日以上経つ。

彼女たちは、目の周りにくまの浮いた顔をぼくのお○んちんによせ、そっと指や唇を這わせていた。みんな同じ、憑かれたようなどろりとした瞳で、無表情に、何か崇拝する偶像に対しているかのような、いとおしさと敬意のこもった動きをもう3時間も続けていた。

そうしながら、彼女たちは…ああご主人様…一生お使えしたします…と呪文のような言葉を繰り返していた。まるで、その言葉をまだ柔らかい自分の精神にしっかりと刻み付けていくかのように、無意識に口の中で幾度も幾度も繰り返していた。

…ああ、お使えいたします……

……捧げます…すべて捧げて……お使えいたします……

…ご主人様…ご主人様…ご主人様……

使えなくてもいいから………だれか、なんとかしてええっ!イカせてよおおおお!







「で、遺産もらいに、ブラジルに行ってるわけ…」

そのころ、地球のちょうど裏側、東京では…

連絡もなく突然にオーストラリアから帰国した大谷夫妻が、息子が大金を相続するという話の内容より、目の前で眠そうにしゃべる姪に目を見張っていた。何、このだらしない物体は?ああ、しっかりしなさい、ソファ−からずりおちそうじゃないか。それにタンクトップの肩紐はひじの辺りまでずれ落ち、胸が半分あらわになっている。

それでも、一応見て回った家の中は一部の隙も無かった。トイレやバスル−ムの中までぴかぴかだ。だからこそ、それをしたであろうこの目の前の姪っ子とのギャップが酷すぎる。一年前、大切な一人息子とマンションを安心して託して出かけたあの見るからに怜悧な女性と、目の前にだらしなく鎮座する物体とがどうしても重ならない。

「昨日、弁護士さんから電話があって、事情は聞いてないけど、滞在はあと一週間延長らしいわ。まあ、夏休みだからゆっくり遊んでくればいいと、思うけど…」

もし事前に帰ると電話しておけば、この眠そうな瞳にだらしなく口を開いた姪は、きちん振舞って自分たちを迎えたであろうか?いやそうは思えない。

「あ、それとね、伯父さん。実はね、私今、妊娠してるの」

コーヒ−を飲みかけた二人の手が止まった。まさか!

そこで初めて美穂は照れたように頭を掻いた。

「私もね、男嫌いってわけじゃないんだけど、適当な相手がいなくってね…」

カチカチと手を震わせながら、伯父の方がティーカップを置いた。伯母の方は次に来る言葉を予想してティーカップをにぎりしめたまま、顔から血の気が引いている。今にも気絶しそうだ。

「でね、悪いと思ったんだけど、手近なイチロ−を使っちゃいました。あの子、おじさんと一緒ですごくいい物もってるでしょ。初めて来た日に食べ物に薬を混ぜて寝てる隙にやっちゃったんだけど、もう、すんごいもんで、夢中になっちゃって。それからは寝る前に薬を飲ませて毎晩のようにいただいて…夢中になりすぎて…いやあ体がだるいのなんの…。

でも眠ってるせいか、あの子全然イカなくって……。まあ偶然、△△△を山ほど準備して○○○を×××すればイクことに気付いたんだけど。…まさかそれが当たっちゃうなんてねえ…あははっ。」

だるそう笑ったとたん、目を見開いた伯母が○○○を×××…とつぶやき、ティーカップを放り出すように落として、ソファ−にぐったりと沈み込んだ。見開いた目を閉じる瞬間、○○○を×××…と声を立てずに唇が動く。あきこっと叫んで伯父があわてて抱き起こすが、襟首をつかんでがくがく振っても容易には目覚めない。

起きろ!ひとりにしないでくれっ!と叫びながらほほを叩く伯父の、そんな様子をつまらなさそうに見ていた美穂は、見飽きたようにほほに手をあて、遠くを見つめる目つきになった。ああ、だるいなあとつぶやきながら、空いた方の手でぽりぽりとお尻を掻く。

「ああ、ブラジルかあ、いいなあ、暖かそうで。イチロー追いかけて行ってみようかな。いいとこだったら、永住しちゃうのも、いいかも。」




おわり

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