錬金術師との契約〜〜その1〜〜


 質素で小さな応接間の中、女はフォルダから用紙を取り出す。
「これが契約書よ」

 従姉の由奈からの呼び出しを、友人との飲み会を蹴って優先した。 当然だ。 由奈からの呼び出しは、いつも俺にとって美味しいバイトで、飲み会なんぞ比べるまでもない。 まずは給料が良い。 1〜2時間の1回につき4万円だ。 学生の身としては、これだけでも手放しがたい。 さらにはバイトの内容だ。 由奈は自称「現代の錬金術師」で、よく分からない実験などをしている。 その材料提供、精子の提供が俺のバイトだ。
 裏路地へ入って貸しビルの階段を降りる。 合鍵を使って中に入り、中をザッと見渡す。 小さなオフィスのような部屋で、左側に4つの扉、手近から奥へ、応接間、宿泊室、シャワールーム、実験室だ。 由奈の姿がない。 今日も奥に篭っているのだろう。 鍵を閉めて、実験室の前に立つ。 インターフォンで中へ声をかける。
「克弘です。いつも通り、応接まで待ってます」
 返事を待たず、応接間に向かった。

 頬を軽く叩かれて目を覚ました。 慌てて立ち上がった俺の前に、ジャージ姿の由奈がいる。
「待たせたね」
「いえ、寝てたので問題ないです」
 ソファーに座り、由奈の顔を眺める。 ショートカットの黒髪がわずかに濡れているのはシャワーを浴びたからだろう。 切れ長の目と控えめな唇、整った顔立ちだが、相変わらず表情が薄い。 だが、僅かに疲労の色が見える。
「徹夜ですか?」
「いや、ゆっくり休んだんだが、困ったことがあってね」
 由奈は、少し小柄な身体をソファーに降ろした。
「歯切れ悪いすね、何かあったんですか?」
 由奈は、うむ、と頷き、少し俯く。 それから、視線だけで俺の顔を見る。
「ツケは、嫌いだよな?」
「ツケるのも、ツケられるのも嫌いですよ。でも、信頼関係によりますかね。もしかして、今回はバイト代が払えないとか?」
「まあ、そうなるね」
 ついにか、俺は内心で呟いた。 由奈は両親の残した遺産で生活している。 それなりに大きな額を受け継いだはずなのだが、研究のため、と由奈はひたすらに使い続けた。 具体的な金額などは知らないが、いつか尽きるのは当然だろう。
「そんなに切羽詰ってるんですか?」
「いや、支払期日などの加減でね、克弘の協力次第でなんとかなるだろう」
「貸す金はありませんよ」
 こういうことは早めに結論を出した方が互いのためだ。ハッキリと答えておく。
「いや、そうではない。今までの研究を金になりそうな方面にも応用しようと思ってね、実地テストを行って欲しいんだよ」
「ということは、いつもの仕事にプラスアルファすね。そっちも当然にツケになるんですか?」
 由奈は、ああ、と頷く。俺は頭をかいた。
「そちらのテスト内容を聞いてから、決めましょうかね」
 その言葉で由奈は立ち上がり、応接間を出て行った。 そして、ビニール袋とフォルダを持って、すぐに戻って来る。
「これを試して欲しい」
 由奈に渡されたビニール袋の中を見ると、幾つかのスポイトがあり、それぞれ栓がしてある。 スポイトには2本線が入っているものとないものがあり、合計で10本ぐらいだろうか。
「いわゆる媚薬ね。2本のラインが入っているのは、性的興奮を覚え、性的快感を得やすくなる。ラインのない方は、克弘を想起しての性的興奮を覚え、性的快感を得やすくなるって違いよ。前者は4本、後者は6本ある」
「由奈は試さないんですか?」
「前者は試して効果があった。後者は私自身に信頼性がない」
 なるほど、と頷く。 由奈は俺以外との性交渉の経験はないはずだ。 断言できる根拠はないが、ほぼ間違いないだろう。 もっとも、俺も由奈以外の女は知らないのだが。
「女性に対して経口投与で使ってくれ。15分から30分で効果が出る。ちなみに、無色の無味無臭だ。安心しろ」
「ツケってことですけど、金額はどれくらいですか?」
「2本ラインの方が5千で、ない方が1万を考えている」
 いつもながら、非常に美味しい。 由奈の技術の方は、今までの経験から信用できる。 こちらが金を払いたいぐらいだ。 だが、それを堪えて冷静な顔を作る。
「期間はどうでしょう?」
「1週間だ。1週間後の同じ時間にここに来てもらって、結果を聞きたい」
 それを聞いて、俺は唇を噛んだ。短い。こいつは厳しそうだ。
「できる範囲は頑張りますけど、間に合わなかったら、どうなります?」
「渡した分を試して欲しいが、できなかったら仕方がない。試した分だけ、ということになる」
 分かりました、と頷く。 できる範囲で良いんだ、問題ない。
「引き受けましょう」
 由奈の顔がわずかに緩んだ。 多くのヤツが見逃すであろう表情の変化に気づいた時、ちょっと嬉しくなる。
「これが契約書よ」
 由奈がフォルダから出した書類を受け取り、内容をチェックし、サインする。 写しを返す。
「今日の材料はどうなんですか?」
 由奈は写しをフォルダに入れて、別の用紙を取り出す。 受け取ると、それが材料の方の契約書だった。

 シャワーを浴びて、トランクス1枚で宿泊室へ入ると、由奈はすでに下着姿になって、簡素なベッドの横に立っている。 いつも通り、シンプルな白の下着だ。 俺は、少し小振りだが形の良い乳房からくびれを軽く眺め、ベッドに腰掛けた。 ベッド脇の小さなスプレーボトルを掴み、トランクスを脱ぐ。 十分に勃起しているが、ギンギンというほどではない。 そのペニスに満遍なくスプレーする。 スプレーのひんやりした感触に、ピクリとペニスが反応した。
「前から思ってたんですけど、このスプレーも売れますよ」
「そんなものも売れるの?」
「避妊具としても、優秀ですからね」
 このスプレーは、新鮮な精子を確保するために由奈が作り出したものだ。 原理はよく分からないが、あらかじめペニスにスプレーしておくだけで、射精した精子がすべて球体に閉じ込められる。 何らかの容器に入れるよりも鮮度が保てるらしく、重宝しているらしい。 こちらとしても、生と同じ感触で、コンドームを買う気が失せてしまう。
「克弘の方が世間に詳しいからな。資金繰りなどを任せたくなる」
「給料が出るなら、引き受けますよ」
「給料を出せるほどに稼げると思う?」
 スプレーボトルを元のベッド脇に置く。 別に俺は、そこまで金の亡者ではない。 だが由奈の前では、金を基準にしたシンプルで素っ気無い態度を続けている。 正直にいえば、由奈に対する接し方をこれ以外に知らない。 だから、できる限り冷たく、ビジネス・スタイルを貫いている。 でなければ、こっちが変になりそうだ。 由奈の手を引っ張り、俺の隣に座らせる。
「問題なく稼げると思いますよ」
「そう、なら考えておく」
 由奈の肩を抱き、唇を重ねる。 そのままベッドに寝かして、舌を由奈の口の中へ差し込む。 由奈の吐息を感じながら、片手でブラジャーを外す。 由奈は、成すがままに応じている。 俺は唇を離して、身体を起こす。 由奈の唇が唾液で濡れている。 俺が由奈のパンティに手をかけると、由奈は軽く腰を上げ、その間に俺はパンティを脱がした。 脱がしたパンティを脇に置いて、由奈に覆いかぶさって首筋にキスをする。 片手で胸を揉む。 なめらかな肌と、やわらかいのに弾力のある感触が心地良い。 控えめな乳首を人差し指と中指で挟み、軽く刺激を送りながら、手のひらで乳房を揉む。 もう一方の乳房を舐め回し、舌で乳首を弾く。 チュボッと音を立てて吸い込み、軽く歯を当てる。 指と口で乳首に刺激を送り続けながら、空いた片手を下へ伸ばす。 茂みの下の割れ目に指を当てると、それなりに濡れているが、十分とは言い難い。 割れ目を中指で軽く擦りながら、その周囲を他の指で揉んでいく。 溢れ出た蜜で指が濡れていくのを感じる。 中指での腹で割れ目を押し開き、深々と押し込む。
「あうっ」
 由奈のわずかな悲鳴が嬉しい。 中指を曲げて刺激しながら、親指で肉芽を軽く転がす。
「んん……んあうっ」
 これなら、十分に濡れほぐれているだろう。 俺は身体を一旦離して、由奈を眺めた。 身体をベッドに投げ出したままのような格好で、俺を見つめている。 俺は由奈に唇を重ね、手探りでペニスを割れ目に押し当て、そのまま奥まで押し込む。
「んあっ」
 いつの間にか、由奈の唇が離れていた。 由奈の身体を押さえつけて、ピストン運動を始める。 ジュッジュブッジュッジュッとわずかに水音が聞こえ、それを大きくしようと、腰をもっと激しく振った。
「んっんっんんっあっああっんっ」
 抑えんでいるような由奈の喘ぎ声を聞きながら、ピストン運動を続ける。 やわらかな肉壁を滑るような感触が心地良く、すぐに射精感が込み上がり、我慢できなくなってきた。 奥まで突き上げて、そのままペニスの先から吐き出す。 ドピュドピュッとした感触が、2度3度とペニスを駆け抜ける。 全身の力が抜けて、由奈に身体を預け、大きく息を吐いた。

 しらばらくして、互いに落ち着いて身体を離すと、抜いたペニスを追うように球体が転がり出た。 ビー球とピンポン玉の中間ぐらいの大きさで、金属のような光沢がある。 由奈はそれをベッド脇に置いて、宿泊室を出て行った。

 シャワーを浴び、服を着て、応接間のソファーに座る。正面には、白衣姿の由奈だ。
「契約の件、よろしく」
「できる限り、頑張らせてもらいます」
 俺は軽く頭を下げて、契約書と試験薬を紙袋に入れた。


  続く?

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