『商品開発 〜全自動トイレ〜


ざわつく都会の雑居ビル群。ぬるい空気が漂う午後の日。

ざわめきをなす会社員の中から一人の女性が飛び出してきた。

「うー、トイレ、どこかにないかしら」

キリッと引き締まる真紅の口紅で彩られた唇から、似合わないセリフがもれた。

彼女は星野アツコ。中堅企業の営業課に勤めるキャリアウーマンだ。

毛先を揃えたボブカットが切れる女を連想させるが、その見た目どうり彼女の営業成
績はだんとつだった。

今日も大切な営業先への用事を済ませ、今はその帰りだ。

だが、その営業の間中から彼女を尿意が襲っていた。

アツコは帰り際トイレによるつもりだったのだが、営業相手に気に入られ、玄関口ま
で見送られてしまいトイレを拝借する事ができなかったのだ。

「もー、何でこんなにゴチャゴチャしてるのよ」

ありそうでないのが公衆トイレ。そこで彼女は手ごろな雑居ビルへと飛び込んだの
だった。

カンカンカンカンとヒールがけたたましく金属音をたてる。

その階段を駆け回るスーツのタイトスカートからのぞく足も若干内股気味だ。

「──────あった!」

やっと見つけたトイレは薄暗い地下4階にあった。

(汚い・・・?)

状況から反射的にそう感じてしまった亜津子だが、その間違いにはすぐ気がついた。

ラクガキもなければ、壊れているところも特に見当たらない。掃除も定期的に行われ
ているようだった。

ただ電灯が薄暗いだけで、不思議なほど清潔なトイレ。

まるで、駆け回っていた雑居ビルとは隔絶された空間のようだった。

「よっかた───」

だが、今の亜津子に深くかんぐっている余裕はなかった。ただ、その清潔さに安堵
し、個室へと駆け込んだ。

ドアを開けるとそこにあったのは、ウォシュレット機能付きの新しいトイレだった。

アツコはドアを閉めるやいなや、スカートを下ろし始めた。

ところが───

(───あれ?)

アツコはそこで異変に気がついた。

通常なら横にあるウォシュレットの操作パネルが中央にあるのだ。

それはちょうど、U字型便座の先端に挟まる位置でコブのように盛り上がっていた。

そのコブには『全自動トイレ』と彫られたプレートが打ち付けてある。

(何よコレ?コレじゃあ、足を広げてまたがなきゃならないじゃない・・・)

アツコはけげんそうに眉を寄せてパネルを覗き込んだ。

パネルにはトイレには不似合いな液晶画面が付いていた。

近づけたアツコの顔に反応したのか、液晶は静かに明かりをともした。その画面には
『Welcome』と表示されている。

(う〜、悩んでてもしょうがない。誰か見てるわけじゃないし)

アツコは意を決して、腰を降ろそうとしたが───

「なっ、なによもう!」

いらだちが口をついた。

操作パネルは思ったよりも大きく、降ろしたタイトスカートは引っかかるし、足を広
げようにもパンツまでが伸びきって太ももに食い込み、痛みをともなった。

「どーしろって言う───」

ふとアツコの目に棚型の立派なトイレットペーパーホルダーが目に入った。

その棚の中段に銭湯の脱衣カゴのような物が置いてあるのだ。

(・・・脱げって・・・こと?)

あっけにとられるアツコ。だが次の瞬間アツコは「ウッ!」と唸った。

溜まっていた尿が不自然な姿勢に反応して今にも飛び出しそうになったのだ。

(ダメ!こんな格好じゃ服にかかっちゃう!)

とうとう余裕のなくなったアツコは、飛び跳ねるように立ち上がると、パンツもス
カートも脱ぎ捨てて、ドッと大股開きで便座に腰掛けた。

それとほぼ同時に、尿が勢いよく放出される。

「ふぁぁ・・・」

遠慮なしに安堵のため息を漏らすアツコ。

皮肉な事に、アツコをさんざん悩ませ、追い詰めた操作パネルは、脱力したアツコの
体を支える取っ手としてベストな位置にあった。

トイレが“ゴーッ”と水を流し始める。

(・・・全自動なんだ。すごいかも・・・。それにこの音、消音効果までついてるの
ね)

営業マンの性か、アツコはこのトイレの商品としての魅力を換算し始めていた。

(・・・でも、この操作パネルの位置は完全にマイナスよね)

思わずフッと嘲笑する。

そのパネルの画面には『>消音排水中・・』という文字が点滅している。さすがに中
央にあるだけあって見やすい。

ふとアツコは液晶のある表示に目が止まった。

『<便秘解消システム>』

「なにこれ・・?」

詳しい説明はなかった。ただ反転された色で画面下段に記されているだけ。

(そういえば・・・もう三日出てないのよね・・・。)

アツコは昔から慢性の便秘を抱えていた。それにともなう下腹部のハリも彼女にとっ
ては大きな問題だった。

(今日は直帰だし、ちょっと試してみようかな・・?)

腕時計をチラッと見て時間に余裕があることを確認すると、アツコは画面に手を伸ば
した。

『<便秘解消システム>』の文字が反転する。

(へぇ、タッチパネルなのか・・)

思わぬ高級システムに感心する。

続いて現れたのは『第1段階・温水マッサージ』の文字。

するとトイレの下から“ヴー”っと、ウォシュレットのノズルが伸びる音が聞こえ
た。そして、ちょうど人肌の心地よい温水が肛門に当てられた。

「うふぅ・・」

アツコの口から吐息が漏れる。

温水は巧みに強弱を変えて肛門を刺激する。

(なにコレ・・。いいかも・・・)

すでにアツコは緊張も解けて、リラックスした状態でマッサージを身を任せていた。

それどころか、お尻をモゾモゾさせて自分でポイントを変えて楽しんでいる。

(なんだか・・エッチ・・・)

そんな事を思い、ちょっと変な汗をかく。

仕事一筋で男にはすっかり縁遠くなっていたアツコは悶々とした夜をすごす事も少な
くなかった。

ここ1週間ほど、仕事に追われていた彼女にとって、この刺激は眠っていた性欲を呼
び起こすに十分だった。

(いけないわ・・こんな所で・・・)

しかし、アツコはムリヤリ理性を呼び戻した。外で、しかも見知らぬ場所でオナニー
むさぼるほど彼女の性欲は意地汚くなかった。

いや、彼女自身、そう思いたくはなかった。

理性を保つべく、気を抜かないためにも、アツコは画面をジッと見つめなおした。

『第2段階>>>』

いつの間にか、次なるステップへ導く表示が出ている。

(う〜ん、ちょっと・・出そうになったかなぁ?)

アツコはちょっとだけ悩むも、その表示に手を伸ばした。

『第2段階・温水マッサージ・強』

表示が変わる。

“ヴー”とノズルの伸びる音が聞こえた。それと共に水圧が上がる。

ノズルがより肛門に接近したのだった。

さらにノズルは、リズミカルな放水に切り替わり、じゃっかん前後へとそのヘッドを
動かしながら肛門を刺激し始めた。

(ア、フアァ・・・)

まるで肛門をたたかれているような感覚にアツコの性欲が再び頭をもたげる。

(ア・・)

(フア・・)

「アァ・・」

次第に心の声が漏れ始める。

(これ・・すごい・・・、イイ・・)

自分でも気付かぬうちにアツコの手は秘部へと伸びていた。

そっと秘部を押さえ、刺激に耐える。

(いい・・・もっと・・・)

とろんとした目、だらしなく半開きになった口。アツコは完全に発情していた。

ふと、目を落とすと画面にには『第3段階>>>』とさらに次のステップへの導きが
現れていた。

アツコは、もはや何の迷いもなくそこに手を伸ばす。

寸前、アツコは画面下の『<全段階オートモード>』という表示に気がついた。

(最後まで・・自動・・って事?ここの操作に、気を使わなくていいのか・・・)

アツコは、快感を寸断することなくオナニーに溺れられる事に引かれた。そして、欲
望のままにその表示へと触れる。

『第3段階・安全ベルト装着<Auto>』

と表示が変わる。

すると、トイレの左右の脇からニューッっとアームが出てきた。

アツコは気付かない。“ヴー”というモーター音もノズルだろうと思っていた。

トイレと同じく、きれいな陶磁器でできたアームは、半円を描く形に湾曲しており、
アツコの両太ももの上へと巻きつくようにかぶさった。

(ヒャッ!)

陶磁器の冷たさに、アツコはやっとアームに気がついた。

「な、なに?コレ・・・」

その姿をたとえるなら、ジェットコースターの安全ベルトに近かった。

知らぬ間にアツコの下半身は、逃げられないようになっていたのだ。

(安全ベルトって・・?)

アツコは状況を飲み込めぬまま、画面を覗き込んだ。

すると画面は既に次へと切り替わっていた。

『第4段階・腸内洗浄準備<Auto>』

(・・・・・・へ?)

アツコはその文をなかなか理解できずにいた。

そのアツコに向けて、ノズルが伸びる。

“グッ”

(へ・・・?)

ノズルの先端が肛門へと触れた。そして───

“ツプッ・・・”

(え?えぇ?)

ノズルは肛門へと侵入した。

アツコは、まだよくわかっていなかった。わかりたくなかった。と言った方がいいか
もしれない。

たっぷりと揉み解された肛門は、何の抵抗もなくノズルを受け入れてしまったから
だ。

「ちょ・・、嘘でしょ?」

慌てて身をよじるアツコ。

その時、肛門に引っかかるノズルの感触が現実を伝えた。

『第5段階・腸内洗浄液注入<Auto>』

『洗浄液>200ml』

そんなアツコにはお構いなしに、トイレは次へと進んだ。

“ジュ・・ジュユユユユ・・・”

生暖かい液体が、直腸へと注がれ始める。

「ま!待って!嫌!!ちょっと!」

アツコはパニックに陥った。

立って逃げようにも、太ももを押さえるアームはびくともしない。

「なんでよ!ちょっと!どうなってるの?!」

画面をあちこちさわってみるも、機械は止まらない。

ただ<Auto>の文字が点滅を続けるだけだった。

その間も洗浄液の注入は続いていた。

“ジュ・・ジュジュジュ・・ジュワワワ・・・”

体内から響いてくる音、振動がアツコを追い詰めた。

「止まって!止まってよ!」

半狂乱に陥るアツコ。それもそうだ、浣腸なんてもちろん初めての経験、しかも公衆
トイレで、奇妙な機械にやられたのだから。

画面をガムシャラにいじるアツコだったが、ふと一部表示が変わっている事に気がつ
いた。

『洗浄液>500ml』

(おかしい・・)

断片的な記憶には『200ml』という表示が残っていた。

(500なんて、ミニペットボトル1本分じゃない、そんなに入らないよ・・・)

アツコは震える指で、その表示に触れてみた。

“プッ”

『洗浄液>600ml』

(増えた!!)

アツコの顔から血の気が引いた。

(う、嘘でしょ?!ちょっと)

今だ信じられないアツコは、さらにボタンに触ってみた。

『700ml』

『800ml』

当然のように、数字は上がっていく。

(そんな・・・)

“じょろろろろ・・・”

「うく!」

増えた容量に合わせて、洗浄液の注入する勢いが増した。

そのボタンはアツコが触ってはいけないものだったのだ。

(うあ・・、お、おなか・・苦しい・・)

アツコは背中を曲げ操作パネルを握り締める事で、なんとか耐えていた。

(だ、誰か・・・助けて・・・)

そう思いながらも、アツコは大声を出す事には踏み切れずにいた。まだ、羞恥心のほ
うがまさっていたのだ。

それに───

アツコ自身信じられない事だったが、お尻でうごめくノズルに、快楽を感じ始めてい
たせいもあった。

(こんな姿・・・誰にも見せられない・・・)

嫌な汗がじんわりとシャツを濡らしていった。

(早く終わってぇ・・・)

何度目かのその願いと同時に画面が切り替わった。

『<注入終了>』

(お、終わった・・・。入っちゃった。800mlも・・・)

「ハァ、ハァ」と息をするのも苦しそうなアツコのお腹は既にパンパンだった。一番
ひどい便秘のときでもこんなに下腹部が膨らんだ事はなかったのだから。

(早く・・・抜いて・・・出したい・・・)

浣腸初体験のアツコが800mlもの注入で便意を催さないわけがない。だが、ノズルは
抜けてくれない、出口に居座り、出させないようにしているかのようだった。

アツコに許されるのは、ノズルの脇から“ブチュブチュ・・”とわずかに注入された
液体を漏らす事だけだ。

『第6段階・』

(まだあるの??)

『第6段階・内臓マッサージ<Auto>』

(・・・??)

もうろうとしていたアツコには、もちろん何の事かわからなかった。というより、こ
んな日本語は存在しない。

もう抵抗する気力もないアツコがぼんやりと考えていると、また“ヴー”という例の
モーター音が聞こえてきた。

同じモーター音でも今度は、“ヴヴヴヴ”と強い音が混ざっているのがわかった。

だが、肛門に突き刺さったノズルが動いている様子はない。

アツコは次に、太ももの拘束が取れることを願ったが、その白い腕はピクリとも動い
てはいなかった。

(じゃあ・・何が動いてるの・・・?)

再び画面に目を落とす。

『第6段階・内臓マッサージ<Auto>』

表示は変わっていない。

(───!!)

アツコはついに気がついた。

その下パネルので黒い影が蠢いていたのだ。

(な、何?!)

体をそらして個室の照明を当てる。

「!!!!」

アツコは口に手を当て、声にならない悲鳴を上げた。

そこで蠢いていたのは、バイブだったのだ。

いや、正確にはバイブ風の陶磁器だった。白い身体に幾重にもカサを持ち、その胴体
にはいくつものコブを持っていた。ご丁寧に先端には小さな口まで開いている。そい
つがブルブルと激しく身体を震わせるさまは凶悪なバケモノにさえ見えた。

(・・・聞いたことある。Hの後は内臓が動かされて、便意が来るって・・・・)

恐怖に固まったアツコの頭はただ情報だけをフラッシュバックしていた。

その間にもバイブは接近を続ける。

アツコは「ハッ」と我に返ると、バイブに掴みかかった。

「い、嫌!こないで!止まってぇ!!」

もう恥も外聞もない、大声を上げながらバイブを押さえる。

バイブも所詮機械だ。一応止まりはする。

だが、先端の小さな口からトロトロとした潤滑液を垂れ流しているため、陶磁器のそ
いつはうなぎのように手をすり抜けてアツコに迫る。

指の間を抜けたバイブはついに秘部を捕らえた。

振動が、秘部に伝わる。

「イ、イヤァ・・・」

アツコは懇願とも、諦めとも受け取れる声を上げた。それが、彼女にとって人間らし
い最後の言葉だった。

“ヌブ、ヌブブッ・・・”

「うああ・・・」

太いそいつは、秘部をこじ開けて侵入する。そして奥に到達しても前進を止めず、子
宮を持ち上げた。

「お、おごぉ・・・・」

嗚咽にも聞こえるうめき声、いや、嗚咽なのかもしれない。大腸も膣内もいっぱいな
のだから、上からでも出したくなるだろう。

ところが、バイブは無常にも新しい責めに移った。激しくピストン運動し始めたの
だ。

「が!がぁぁ!」

“ギュブッ!ジュブッ!ジュプドュ!・・・”

「はぎぃ!かはぁ!あがぁ!・・・」

ピストンに呼応するように声を上げるアツコ。

激しいピストンは内臓をも揺さぶり、その上半身も踊るように動かされていた。

「うはぁ!す、すご・・ひ・・・」

アツコは今までの人生では感じた事のない激しい責めに我を失いつつあった。

「かはぁ!ああ!いいっ・・・ひっちゃう・・・」

アツコな目から涙がひとすじ流れ落ちた。次の瞬間彼女はひときわ大きな声を上げて
絶頂へと達した。

「おあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

その後アツコは、豹変したように快楽をむさぼっていった。

白目をむき、舌をだらりと出したまま、ピストンに合わせて腰を振る。

「おあぁ!はがぁ!ああぁ・・」

公衆便所で、大また開きになり胸を揺らしながら声を上げる女。

その絵はどこから見ても痴女以外の何者でもなかった。

『第7段階・排便<Auto>』

アツコが何度目かの絶頂を迎えたとき、ついにお尻のノズルが抜け始めた。

“ぬぶぶぶ・・・”

「はぁ?!おぁぁ・・、出ちゃう・・出ちゃう!!!」

ノズルが抜けると同時に、アツコのお尻ははじけた。

“ブバッ!!ブブル!ブブリュブリュブリュリュ・・・・”

「かほあぁぁ!!ひっちゃう!!おひりで・・・ひぐううううううぅぅぅぅ!!!!
・・・」

排便の刺激も加わり、アツコは最も激しい絶頂へと上り詰めた。

目はとうとうグルッと完全な白目に変わり、口の中には泡になったヨダレを溜めたま
ま、便座の上でアツコは気絶してしまった。

───どのくらい時間が経っただろう。

アツコはゆっくり意識を取り戻した。

(・・・・・・・・)

声も何も出ない。ただ、辺りの静けさだけが聞こえる。

(・・・夢・・・・?)

既に安全ベルトもノズルも、そしてバイブも消えていた。元通り、そこにあるのはた
だのトイレだった。

アツコはしばらくしてやっと身体を起こす。

(・・・重・・・い・・・)

体は鉛のように重かった。疲労しきっていたのだ。それは同時にあの出来事が夢では
なかったということも物語っていた。

『<全段階終了><Auto>』

操作パネルの液晶画面は、相変わらず静かに光っている。

(・・・・・・)

アツコは感情を失ったかのように怒るでもなく、ただヨロヨロと起き上がり、モソモ
ソと脱いだパンツとスカートを履くと、個室を後にした。

(・・・帰んなきゃ・・・ドラマ・・終わっちゃった・・・かな?)

はっきりとしない意識のまま、フラフラと階段を上がる。

妙にお腹が軽かった。便秘解消システムは正常に働いたようだった。

ようやく、地上に戻ると街には既にネオンがともっていた。

昼間とは様子も変わり、怪しいカップルや、酔っ払い、その筋の人、弾き語りなどの
人々が通りにあふれていた。

アツコが出入り口でぼんやりと立ち尽くしていると、その横をすり抜けるように、一
人の女の人が階段を走り下りて行った。

顔は隠すようにしていたが細身のいかにも仕事のできそうな雰囲気を持った女性。

(・・・あの人・・・も・・・?)

どこかアツコに似たその女性は、ここの常連らしかった。

アツコはその女性の姿が消えると、ちょっとだけ微笑んで帰路についた。

<END>


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