Harem weapons ―U
一日の始まりである朝の目覚めという物は、爽やかで、すがすがしい物であってほしい――そんな考えはだれしもが持っているのではないだろうか。
だがグラント・アナスタインの目覚めは爽やかさや、すがすがしさ、とは似ても似つかない、むしろ対極にあるような物だった……。
朝の喧騒とでも言うのだろう、人々が交わす挨拶や、朝食を作る音、それらが交じり合わさり階下から聞こえてくる。
それに、窓から差し込んでくる光も手伝い、グラントの意識はゆっくりと覚めていった。
「……う…うう………」
唸り声をあげながら寝返りをうち天井を見上げるグラント、朝の光が目に染みるので目を細めている。
「……あれ、いない」
横を向くと、隣で寝ていたはずの金髪の踊り子――名前は確かシリアといった――がいなくなっている。朝飯でも食いに行ったのだろうか?まあなんにせよ食べ終わったら戻ってくるだろう。そう自分の中で結論付けるとグラントは再び惰眠をむさぼる為に寝返りをうち、窓に背を向ける。
「ふぁ〜〜」
大きく欠伸をすると、昨日の行為を思い出しながら意識を沈めていく。
昨日はずいぶんと激しかったからなぁ。脳裏には、激しく乱れるシリアの姿が……
浮かんでこない
グラントの動きに合せて、喘ぐシリアの姿も……
浮かんでこない
……不思議なことにグラントには、シリアと行為に及んだ記憶がないのである。
おかしいと思い、グラントは記憶の紐を解いていく。
下の酒場で、一緒に食事をして酒を飲んだ記憶はある。その後、彼女の部屋に招かれ……。
その辺から、急にグラントの記憶はいいかげんになっている。
その後どうしたのか必死に思い出そうとするグラント、しかし、意識が覚醒していないためうまくいかない。
『ふふっ、ごめんね〜』
そういいながら、グラントの事を見下ろしている金髪の女の姿が突然蘇って来た。
そうだ!
部屋で彼女が出した酒を飲んでいたら急に眠くなって。それで……
それで俺はどうした!
一気に眠気が吹っ飛んだグラントは、勢いよく起き上がる。
床に立ち、部屋を見渡すグラント。ついでに自分が靴をはいたまま寝ていたことにも気付く。
部屋の隅に置いてあったはずの、シリアの荷物は跡形もなく消えている。さらに、ベッドの横に置いてあった自分の荷物も消えている。
「……やられた」
グラントの頭の中で、食事をしている時に感じだシリアの値踏みするような視線や、気を失う前に聞いた言葉などが繋がり一つの意味を形作っていく。
自分は騙されたのだ。
グラントがその考えにたどり着くのにさほど時間を必要としなかった。
幸か不幸か、金の殆どはレイディアを買うときに使ってしまったため、自分の荷物の中には全然残っていない、さぞかしシリアは悔しがるにちがいない。グラントは、そんなことを考えて少しだけ気が晴れた。
「まぁ、レイディアさえあればどうにかなるさ」
そういいながら、腰からさげているレイディアを触ろうとする。
「……ん?」
しかし、腰にはなにもなかった。
朝の街にグラントの声が響き渡ったという。
◆ ◆ ◆
真上から照り付ける太陽が、体力を奪っていく。金がないため昨日からなにも腹に入れていないグラントはふらつく体を支えるので精一杯だった。
街道って言うのは、腹一杯で元気があるやつが歩く所で、自分みたいな水だけで頑張っているような奴が歩く所ではないな、そんなことを考えながらグラントは歩いている。つまらない事でも考えて気を紛らわせていないともたないのだ……。
ポケットに少しだけ入っていた小銭を除き、自分の持ち物をすべてをシリアに盗まれたと気付いてからのグラントの行動は実に迅速だったと言えよう
さっそく下の酒場に行き、シリアの事を聞いてみる。しかし、彼らが見たのは赤い髪の女性だけで金色の髪の毛をした女は見ていないという。
しょうがないので、グラントは外に出て話を聞いて見ることにする。おそらくシリアはもうこの町にはいないはずだ。この街から出ている道は東か、西しかないそのどちらかに行ったと見るのが正しいだろう。
色々聞いてまわった結果、シリアを見た人はいないという。が、話を聞く中で興味深い事がでてきた、赤い髪をして女性にしては不釣合いな剣を腰に携えた女の目撃情報が多々あったのである。
結局、シリアに付いての情報は何も得る事は出来なかったが、グラントはその赤い髪の女性が行ったという西に向かってみる事にした。なぜか?と問われると答える事はできないが、しいて言えば『勘』である。なにか、引っかかるものがあったのだ。
それに、西に行くと大きな街があるので、東によほどの用がない限り普通は西に行くはずだ。
「いいかげん、やばいかもしれない……」
さすがに、夜も寝ず、水しか摂らずに歩くのは限界のようで、グラントの意識は何度も飛びそうになる。
どうにかシリアを見つけて、荷物を取り返そうと思っていたのだが、これだけ歩いて見つからないとなるとこっちの道で正しかったのかと不安になってきた。
「とりあえず、なんか腹に入れないと」
ポケットに入っている小銭をにぎりしめながら、グラントは言う。シリアを捕まえるまでは使わないと決めていたのだが、背に腹は変えられない。パンの一つくらいは買えるだろう。
そんなことを考えながら道を曲がる。
そこは高い崖に沿って道がつながっており、道の上からは遠くまで見渡せる。崖の下は深い森になっており落ちたら助かりそうもない。
視線を前に戻したら、前を歩く女性の姿が見えた。髪の毛は、真っ赤で血を連想させる。
街で言ってたのは、この女性のことだろう。もしかしたら、シリアについて何か知っているかもしれない。グラントはそう思い声をかけてみることにする。
赤い髪の女性は、何をするでもなくぶらぶらと歩いている。動きやすそうな恰好をしているのだが、その分腰に提げている剣がかなり不釣り合いだ。
「あの〜」
グラントは声をかける。
「ん?なに……!!」
振り返った女性は、グラントの顔を見たまま固まってしまう。
その顔にどこか見覚えがあるような気がするので、グラントは頭の中の【美女】という項目を検索してみるが該当するようなものはない。しかし、切れ長の目といい、すらっとした鼻筋といい、どこかで見たことがあるという考えは消えなかった。
「………………」
「………………」
同時に、黙り込んでしまう二人。
「……それで、なんのようかしら?」
先に喋ったのは、赤い髪の女性だった。グラントの反応からまだ自分が誰だかばれてないと踏んだのだ。
その顔には、さっきの動揺の影は微塵もなく、薄い笑いさえ浮かんでいる。
「あー、その、金色の髪をした女性見ませんでしたか?」
冷静に考えてみれば馬鹿なことを聞いているとグラントは思う。この女性がしっているわけないじゃないか。
「う〜ん。見てないわね〜」
案の定、知らないと答える女性。
「はは、そりゃそうだよな」
「ええ。金色の髪なんかしてたらすぐに気付くわよ」
どうやら、上手くごまかせたようだ。まさかこんな所まで追ってくると思わなかったから驚いたけど、やっぱりたいしたことない男ね。全然お金持ってなかったし、女は考える。
「………………」
そこまで考えて、女は目の前の男――グラントとか言うたいしたことない名前だったか――が何かを黙ってみていることに気付く。
何を見てるのかしら?そう思いグラントの視線を辿っていく……
「……お前、その剣どうした……?」
女の腰に提げられていたのはレイディアに見える、鞘の模様なんてそっくりだ。何故、こいつが俺の剣を持っているのだ?グラントは問い詰めることにする。
「えっ?こ、これは私の剣。たいしたことない安物よ」
グラントの目から剣を遠ざけるように動きながら女が言う。
剣は、大きな街に行ってから売ったほうが高く売れる。そう考え、剣を持って歩いていたことを女は後悔する。
「いや、よく見せてみろ」
そういってグラントは手を伸ばしてくる。
「だ、だから私の剣だよ。たいしたもんじゃないってば」
グラントに剣をとられないように、伸びてきた手をかわす。
「見せろって言ってるだろ!」
女にとびかかるグラント。空腹のためかなり気が立っていたのだ。
しかし、女はすこし体を動かすだけで避けてしまう。その動きには無駄がなくまるで何かの舞のようだった。
ん?……舞
夕日の中で舞っていた踊り子の姿がグラントの脳裏に蘇ってくる。夕日のせいで金色の髪が赤く染まっていた踊り子の姿は……
目の前の女そのままじゃないか!
シリアの金色だった髪を赤にすると目の前にいる女になるのだ。夕食を食べた時の印象が強すぎて気付かなかったのだ。
「お前、まさか……シリアか?」
「え……?」
グラントの声で女の動きが一瞬止まる。
「おらぁ!」
その隙を、逃さずに女に飛び掛かる。
どさっ
「ぐっ」
地面に倒れ込んだとき下になったシリアが声をあげる。
「ったく、手間かけさせやがって」
そういいながらシリアの体を探り、剣を取り上げる。
やっぱりレイディアだ。
「……じゃ……わよ……」
グラントの体の下にいるシリアが何か言ってくる。
「なんだよ」
「いつまでも乗ってんじゃないわよって、いってんの!!」
どん
その瞬間、腹に衝撃を感じてグラントの体は吹き飛ばされる。多分膝蹴りのたぐいだと思うが女のどこにこんな力があるのかと思うくらい、強力な一撃だった。なんせ、男の体が吹っ飛ぶのだ。
「がはっ!」
腹に強烈な一撃を喰らったグラントは胃の中の物をすべて外に吐き出す。といっても昨日から水しかとっていなかったので水しかでなかったのだが。
「ふぅ、ふぅ」
膝を着いたまま、息を整えるグラント。その様子を少し離れて立ち冷ややかに眺めるシリア。
「くっ、やるじゃねえか。シリア」
ようやく落ち着いたグラントはレイディアを杖にして立ち上がる。今の一撃は、正直効いた。
そして、立ち上がるとシリアを正面から睨み付ける。
「………………」
シリアはグラントの視線を臆する事なく受け止めだまっている。
「……その様子じゃ、ろくな物食べてないようね」
横を向きながら興味なさそうに言う。
「お前が俺の荷物を奪ったからだろうが!」
あまりに他人事の用にシリアが言うので、グラントは頭に来て怒鳴った。
怒鳴っただけなのに、頭がくらっとした、どうやら本当に限界らしい。
「やめときなさいよ。立ってるだけで精一杯じゃない」
…………。
……だから
その……他人事みたいに言うのを……
「やめろって言ってんだよ!泥棒野郎!」
意識してか、無意識なのかわからないがレイディアに手をかけていた。
なにをやってるのだと思うのだが、怒りがそれを上回る。
そんな時
「お前、やるつもりか?」
体の芯まで冷えるような声が聞こえた。
グラントが声のほうを見ると、先ほどとは違い驚くほど冷たい目をしているシリアがいた。
キケンダ、ニゲロ
本能が必死に警報を鳴らしているが、頭はそれを受け付けない。グラントもまた興奮していたのだ。
すらっ
微かな金属音を発してレイディアが抜かれる。
「へえ、やる気なんだ。せっかく寝てるとき、殺さないであげたのにさぁ」
今度は不自然なほど明るい声でシリアは言った。
「………………」
グラントは答えず、無言でレイディアを構える。剣を持ったことはなかったが、そんなことは問題じゃない。
殺らなきゃ殺られる!そう感じた。
「なに、その構え。剣持ったことないの?」
また、明るい声で話し掛けてくる。いや、馬鹿にしてると言うほうが正しいかもしれない。
「黙れ!来いシリア!」
シリアの明るい声を振り払うように大声をあげる。
「あのさぁ、一つ言っとくけどあたしの名前はシリアじゃないわよ。シリアは偽名、本当はアイリっていうの」
少し不満なのかアイリは、口を尖らせて言う。
「それに……」
アイリの姿が蜃気楼のように歪み、次の瞬間消えた
「なっ!」
喋っていたと思ったら、消えたアイリに驚くグラント。人が目の前で消えたのだから当然といえば当然だ。
「そんな、剣の持ち方してたら、簡単に奪われちゃうよ〜」
耳元で声がしたと思ったら、ひょいと剣が手から取り上げられた。
「ほらね、ちゃんと剣にぎってなきゃ」
目の前でグラントから奪った剣を、ぶらぶらとさせながらアイリが言う。
「………………」
武器を奪われてしまったのでグラントはアイリを睨みつけることしか出来ない。
「何、恐い顔して睨んでんのよ」
アイリがそういうのと同時に、目の前で光がはじけ、頬に風を感じる。
グラントの目の前を髪の毛が舞っている、それで前髪を切られたのだということが分かった。
「!!」
あまりの事に絶句してしまうグラント。それとは対照的に、涼しい顔をして立っているアイリ。
「さあ、どうする?」
まるでゲームでもしているかのように告げる。
「まあ、生きて帰す気はないんだけどね、ってことで……」
「死ね」
軽く言い放った後、再びアイリの姿がゆがみ、消える。
その場の温度が一瞬にして下がったようだ。寒くはないはずなのにグラントの背中を詰めたい汗が流れる。
次の瞬間、今までとは比べ物にならない程の冷気を感じる。
「ふっ!」
グラントは、考える前に体中の力で後ろに跳んでいた。
彼の目の前を、剣の切っ先が通り過ぎていく。よけられたのは全くの偶然と言ってもいいだろう。
「あれ、避けた。でも後ろに跳んじゃだめだよ」
目前に現れた、アイリが言う。
それも、そのはず。跳んだ先には地面がなかったのである。
グラントは自分の体が落ちていくのを感じた……
◆ ◆ ◆
体の至る所から感じる痛みで、グラントは目を覚ました。
「……つ…つぅ…」
体の痛みを堪えつつ立ち上がる。痛みが、生きている実感を与えてくれるとは妙な話だ。
「大した傷はないみたいだな」
擦り傷や打ち身のような怪我なら体中にあるが、幸い骨折といった大きな怪我はないようだ。
「それにしても……」
言いながら上を見る。木々の間からグラントが落ちて来た崖を見ることが出来た。
木々の枝等が折れているのを見るかぎり、木々がクッションとなってくれたおかけでグラントは助かったのだろう。
「とりあえず、森から出なきゃな」
崖の上に戻るのは無理だとしても、適当に歩いていれば道に出るだろう。
「……くっ」
歩き出そうとして、ふらつくグラント。怪我による物ではなく、空腹によるものである。
道に出る前に、なにか食べる物を探したほうが良さそうだ、そうしないと、ここで力尽きる羽目になる。
そう考えたグラントは、差し当たり食べる物を探すため、鬱蒼と生い茂りどこか神秘的な色を浮かべる森の中へと足を踏み入れた……。
◆ ◆ ◆
――…………………………
――………ん?………
――……久しいな……
――……こんな所に来る者がいるとは……
――……百、いや……二百年ぶりか……
――……ん……人間……
――……教会の者ではないようだな……
――……まぁ、誰でもいい……
――……いい加減飽きていた所だ……
――……楽しませてもらおう…………
◆ ◆ ◆
「……なっ……なんだこりゃ」
食べ物を探して歩き回ること数十分、グラントは異様な光景に出くわしていた。
「なんで、こんなとこに……」
深い森の中に突然現れた建造物、その異様とも言える光景にグラントは言葉を失った。
何百年も前からあるのだろう、建物――教会のようにも見えるがこんな形式の教会は見た事がない――の壁はほとんどツタで覆われ、老朽化のためいたるところが崩れかかっている。周りの木々が建物を支えているようにも見える。
「こんなとこに建物があるってことは、案外道も近かったりして」
一人呟きながら建物に近づくグラント、壁に触れると簡単に崩れてしまう。なるほど、想像以上に古い建物のようだ。
「まぁ、中に地図とかあるかもしれないしな」
人が作った建物である限り、役に立つ物でもあるだろう、そう思い。中に入ってみることにする。
「おじゃましまーす」
おそらく中には誰もいないとは思うが、挨拶はしておく。意外と礼儀正しいグラントだった。
入った瞬間、何か妙な気配を感じた気がするがグラントは足を止めない。
「意外に中はしっかりしているみたいだな」
外から見ていたらぼろぼろに見えた建物は、中に入ってみるとそんな老朽化は進んでおらずせいぜい築五十年といった感じだ。
まるでなんらかの力に守られているかのように……。
「…………………」
黙ったままグラントは、廊下を歩いていく。
明かりがなく真っ暗なのにも関わらず、その歩みは迷いのないはっきりしたものだ。
廊下を歩き、幾つかの部屋を抜けグラントは一際大きな扉の前についた。
グラントは扉を一瞥すると手をかける。
ギッ、ギィィィ
長い間開かれることのなかったため軋んだ音をたて開かれる扉、中の空気が数百年ぶりに暗い室内から外に流れ出す。
グラントは躊躇する事なく、闇の中に足を踏み入れた。床は石のタイルなのだろう歩くたびにコツコツと音をたてる。
そのまま壁に向かい、触れながら何事か呟く。
すると、魔法の一種なのか室内が淡い光で満たされる。
暗くて、わからなかったが周りの壁一面に文字のような物が書かれていた。
そして
――……よくきた……。
部屋の中央には一本の剣が浮かんでいた。
――……来い……人間……。
何かに魅せられたよにゆっくりと剣に近づくグラント。
剣に向かって手を伸ばしていく。
ぐぅーー
そんな時、グラントの腹が鳴った。
その音で正気に戻るグラント。
――ちっ……誘導が切れたか……。
「俺は、何をしてるんだ」
自分は何故この部屋の存在を知っていたのだろう。何者かに操られていたのか?
考え込むグラントの目に再び剣が写る。
よく見ると、剣の漆黒の刀身に透明な白い糸が巻き付いてるのがわかる。そして、部屋の四隅に向かって伸びている。それで言浮いているように見えたのだ。それにしても、この糸はまるで何かを縛り付けているようだ。
――……剣を握れ。
その吸い込まれるような漆黒の刀身を見ていると、自然とグラントの手が剣の把に伸びていく。そこには自分の意志とは他の、なにか【チガウモノ】の力が働いているようだ。
――……握れ……握れ。
剣に手が近づくに従ってグラント頭の中に響いてくる声が強くなる。
そして
グラントは
右手でしっかりと
漆黒の刀身をもつ剣を握った。
パン!
何かが弾けるような音と同時に、まばゆいばかりの光が部屋を包み込む。
剣に巻き付いていた透明な糸のような物が、実体となり青白く光り輝いている。
しゅる
という音とともに糸が剣を放し、まるで生き物のように空中をただよう。
――アハハ、自由になった。
今度の声は、はっきりとグラントの頭に響いた。
空中を漂っていた四本の糸は、一回ぼうっと光ると、身を翻し剣を握っているグラントの右腕に向かって襲い掛かってきた。
「う、うわ!」
右腕に焼けるような激痛を感じてグラントは、剣を放してしまう。見てみると右腕に糸が絡み付いているではないか。
「痛っ、何だよこれ」
右手を振り回すが糸は取れる様子がない。
左手でつかみ剥がそうとするが、糸は掴めなかった。
「ぐぁぁぁぁーーー」
糸がいっそう強く締まって来て、痛さのあまりグラントはうずくまってしまう。
激痛と同時に、熱さ、冷たさが交互にやってくる。
「ぐおぉぁぁーーー」
骨まで達しているのではないかという痛みで、グラントの額に汗が滲む。
まるで、このまま右腕が引き千切られるような、むしろ、いっそのことちぎれて欲しい程の痛みが続く。
このままでは、痛さで気が狂ってしまうとグラントが思ったその時、始まったのと同じくらい唐突に痛みは消えていった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
俯せになったまま、息を整えるグラント。
右腕の痛みはそんなものが存在しなかったかのように消え去っている。
「はぁ、はぁ、なんだ、ちくしょう」
仰向けになり、右腕が付いてるかどうか確認する。
グラントの右腕は付いてはいたが、変な模様が青く光っていた。
「なんだこれ」
掲げた右手を眺める。右腕には四匹の蛇が絡み合っているような模様が現れていた。
じっと見ていると模様はだんだんと光を失い、霹色になった。
グラントが光を失った模様を眺めていたら
「ほう、教会の蛇を抑えたか」
近くで声が聞こえた。
グラントが寝たまま顔を向けるとそこには、銀の髪をした裸の女が立っていた。
すらりとした長身、豊かな胸はつんと上を向き、背中から腰にかけて芸術的な曲線を描いている躯。そして、なにより目を引いたのは、腰ほどまでに伸びている白銀の髪の毛だ。
「……ふむ、お前ならちょうどいいかもしれないな」
そういいながら、近づいてくる女。一歩ごとに銀の髪がさらさらと流れる。
「ん?夢でも見てるのか?」
誰もいなかったはずなのにいきなり全裸の女が立っているなんて夢だ、そうグラントは思い目をとじ頭を振る。
これで目を開ければ、誰もいない元の部屋に戻っているはずだ。
ゆっくりとグラントは目を開く……
銀色の瞳が覗き込んでいた。
「夢ではないぞ」
銀色の瞳の持ち主は言う。
「おわぁぁ!」
体を起こし、後ろに尻餅を付くグラント。
「紛れも無い現実だ」
膝を付いて覗き込んでいた恰好のまま、女は続ける。
「なんだぁ?」
勝手に動く糸の次は、いきなり現れた銀髪の――ナイスバディだ――女だ。どうなってるんだ。
「して人間、貴様健康体か?」
立ち上がり腰に手を当て、真面目な顔で聞いてくる女。裸で堂々としている女はそれだけで現実離れしている。
「健康って、病気とはしてないけど……」
生まれてから、大きな病気はしたことがない、グラントの自慢の一つだ。
「そんなことを聞いてるのではない」頭を振って、女は言う「何らかの使役、所有、または憑依を行っているかと聞いている」
「使役?憑依?なにそれ」
この女は何を言ってるんだ。訳がわからない。
女が無言で近づいて来てグラントの額に手を触れる。手が触れた瞬間グラントは体の隅々まで探られるような気持ちの悪さを感じた。
「……ふむ、嘘は言っていないようだ」
手を放した後言う。触られていた額が少し熱を持っている。
「ならよい……」
息がかかるくらいまで女の顔が近づいてくる。
額から熱が頭に回りぼうっとなっているグラントは、女の銀の瞳に映っている自分の茶色の瞳を見ることしか出来ない。
そのまま、女の顔が近づき、唇がグラントのそれと合わさった。
ちゅっ
軽く合せた後、すぐに離し。女は何かを確かめるように唇をなめている。
その光景は、とても煽情的だった。
「ふふ……」
女は満足したように笑うと、再び唇を合せてくる。
先ほどとは違い、深い口付けだった。
グラントの口の中に、舌が進入してくる。女の舌は臆する事なく咥内を動き回り、ぞろりとグラントの歯をなめ回す。
それだけの事なのに、グラントの頭はさらに霧がかかったようになり、理性が奪われていく……。
「……んふ……はぁ……」
そんなグラントの様子がわかるのか、目の前にある女の銀の瞳が嬉しそうに細まる。
そして、女は自分の舌をグラントのそれに絡めてくる。
蠢く舌がグラントの舌を唾液ともども女の咥内へと引き込もうとする。
じゅる、じゅじゅ
こくん
女は、グラントの唾液を吸い取り、飲み込む。
グラントは、唾液と同時に脊髄の後ろ辺りから何かを抜かれたような気がした。が、別にそれが不快という訳ではなく、もしろ当然あるべき物として受け止める物だと思った。
くちゅ
湿った音がして女が口を放す。
「……これは……上物だ」
少し目を大きめに開き――これが彼女の驚きの表情かもしれないとグラントは思った――女は呟く。
「んむっ」
女はグラントの後ろにしなやかな手を回すと、さらに深く口付けをしてくる。
どうやら、この行為が大層お気に召したようだ。熱に浮かされた頭でグラントは考える。
ぐちゅ、ちゅる、ちゅ……。
女の舌はまるで蛇のようにグラントの口の中を動き回り。そのたびに脊髄から背中全体に快感が走る。
それを受け、グラントは自分からも積極的に舌を絡めていく。
「ん、んむぅ」
「は、んっ、ちゅ」
グラントも協力しはじめたことで、口付けは激しさを増し、合わせている口から外に音が漏れる。
じゅる
自分から進んで唾液を女に送り、舌を女の口に入れるグラント。
女は嬉しそうにそれを受け取り、飲み下す。
そして、お返しとでも言うのだろう。自分の唾液を送り込んできた。
女の唾液は、濃度が濃く、どことなく甘い味がした。
ごくん
迷う事なくそれを飲み込むグラント。
その瞬間、カッと体中に熱い溶岩が流れこんだような気がした。そして、その流れは下半身にも流れ込み。グラントのペニスは激しく勃起する。
じゅ、ちゅる、じゅるる
唾液が口から溢れるのも気にせず、唇を合わせ吸ってくる女。つよく頭の後ろを押さえているので逃れることは不可能だ。
しばらくして、頭の後ろに回されていた女の手が外れ、唇も離れる。
二人の唇の間に唾液の橋が渡された。
「はぁはぁ、はぁはぁ」
荒く息をつくグラント。
「貴様、なかなかいい物を持っているな……」
女が、よくわからない事を言っている。大体、こいつはなんなんだ?いきなり素っ裸で現れたと思ったら、いきなりキスをしてくるし……。至極当然な疑問がグラントの頭に浮かんでくる。
「……お前は一体…」
まだ頭がぼうっとしてるのかうまく口が回らない。
「ほう……まだ喋れるとは……」
グラントを見ながら何とも言えない笑みを浮かべる女。
「ちょうど蛇から抜けるのに力を使った所だ……貰うか」
女の銀色の瞳が光を増した気がした。
そのまま、近づいて来て尻餅を付いているグラントに被さってくる。
「お前……うむっ」
喋ろうとしたグラントの口を塞ぐように口付けをし、唾液を流し込んでくる。たれた唾液が頬を垂れ、耳を横切っていく。
再びグラントの頭に霧がかかり、股間に熱い奔流が流れ込む。
勃起したペニスが被さっている女の腹をノックする。
「ん?なんだ貴様……」
キスをやめ、グラントの膨らんだ股間をみつめる女。
「口付けより、そっちのほうがいいのか」
そういいながら、服ごしにグラントのペニスを握ってくる。それだけでグラントは達しそうになってしまった。
「くっ、うわっ」
「ふふっ、色々世話になったしな……」
悶えるグラント、それを嬉しそうに目を細めながら見ていた女は、グラントの服をぬがす。
服という束縛から開放されたグラントのペニスは勢いよく飛び出た。先端が先走り液でてかてかと光っている。
「まぁ……人間で言う所の『サービス』と言うやつだ」
そんなことを言いながら、グラントの股間に手を伸ばしてくる。
ぴちょ
先端に女のしなやかな手が触れると、先走り液が音をたてる。刺激を受けたせいでペニスがピクンと跳ねた。
先走り液を、先端に塗り込むようにしたあとペニス全体をしなやかな指で包み込む。
「くあっ、つっ」
あまりの快感に口から声が漏れてしまう。 絶妙な手つきでペニスを撫で回す女、グラントはその動きに堪えるので精一杯だ。
シュシュ
女は手の平全体をつかい、ゆるやかにペニスをしごいていく。
そのたびにペニスの先端から新しい液体が漏れ出していく。
「ふふっ、……我慢しなくていいぞ」
新たに出てきた先走り液を、塗り込みながら言う。
「じゃあ、これはどうだ?」
耐えるグラントの股間に顔を近づけてくる女。
髪の毛をかきあげ、ペニスの先を嘗める。
ぺちゃ
その刺激に、大きくペニスが反応する。
ぺちゅ、ぺちゃ……
長い舌を使い、飴でも嘗めるかのようにぺろぺろと嘗めていく。
根本からカリにかけて、ぞろぉと嘗め上げる。
「うっ……」
耐えていても声が少しずつ漏れてしまう。
ぱくっ
突然、女はペニスをくわえ込む。
「うわぁっ!」
今までとは違う違う感触に、グラントは大声を出してしまう。
じゅ、じゅ、じゅ
頭をふり、規則正しくペニスをくわえる。
銀色の長い髪が落ちないように押さえているが指からこぼれた髪のやわらかな感触をお腹に感じる。
ペニスをくわえながら玉袋をやわらかく揉んでくる。
グラントは限界が近づいてくるのを感じた。
「んっ、んっ、んっ」
うめき声を漏らしながら股間に埋める女。滑らかな肩がとても色っぽい。
じゅぽっ、じゅぽっ
広い部屋に濡れた音が響き渡る。
「くっ、あっくぅ」
限界に近そうなグラントの声を聞き女の口戯も激しさを増していく。
亀頭やカリを絶妙に刺激していく。
ちゅる、じゅぽっ
緩急織り交ぜて頭を振る女にグラントは翻弄させられる。
「あっ、くぁぁ」
もう本当に限界というところで女が強く吸ってくる。
「んむぅ、んんんーー」
「くっあぁぁぁー」
グラントの頭の中で、何度も光がスパークし、背中を走るような快感とともに、白濁液が女の口に流し込まれていく。
どくっ、どくっ、どくっ
「……んっ」
女は、鼻を一回鳴らしただけでそれを飲み込んでいく。
どくっ、どくっ、どくっ
精液は長い間で続け、その全てを女は飲み干した。
「はぁはぁはぁはぁ」
「やっぱり、貴様はいい力を持っている」
息を荒げるグラントに、女は言う。
そんな女の視線が一点で止まる。
「……ほう…まだ残っているか……」
グラントのペニスは一回放ったにも関わらず、勃起したままだった。
グラントにしてみれば精液を放出して体が疲れているのに関わらず股間が元気なのは異常な事なのだが。
「……人間にしては……力が豊富なのか……」
ぶつぶつと呟きながらグラントのズボンをぬがしていく。
「ちょっ!ちょっとまて!」
放心状態になっていたグラントは、現実に戻り、ズボンを足から抜き下着に取り掛かっている女に文句を言う。
「……ん、まだ魅了しきれていないとは……教会の蛇の影響か?」
少し驚いたようで片方の眉毛が上がる。
「また、魅了をかけるのもいいが……、そろそろ協会の犬が気付く頃だ力を消費したくない……」
手を止め、なにやらぶつぶつと呟く
全裸で考え込む美女というのはかなりシュールなものだ。呑気にグラントは考える。
「……しょうがない」
「おい、貴様」女が話す「私とやりたくないか?」
「はぁ?」
かなりマヌケな声が出たと自分でも思う。
「だから貴様の股間のものを鎮めたくないかと聞いている」
元気に上を向いているグラントのペニスを指差しながら言う。
「そりゃ、まあ……」
正直に答える。美女を前にして断れる男がいたら、そいつは同性愛者か不能だ。普通の男なら目の前に美女がいたらたとえ相手が悪魔でもしたい、と答えるだろう。
「……それは了解の意ととってよいのだな?」
女が念を押す。
「ああ、了解だ」
グラントは、はやく股間を鎮めたい一心なのだ。さっきの行為の影響でまだ少し頭が熱い。
「……心得た」
女からしてみればグラントが許す、という行為が問題なので、魅了しようが拷問しようが関係ないのである。たまたま、今回魅了を使わなかったためこんな方法を取っただけだ。
なんにせよ、彼女はグラントと躯を繋げる権利を得た。後々、グラントはこの時の事を後悔することになるのだが。
「そうか……」
女は近づいてくると仰向けになっているグラントを跨ぎ自分の指で秘所を拡げる。
クチュ
湿った音をたてて開かれる秘所。髪の毛と同じ銀色の陰毛の下にある花びらは、すでに透き通った蜜を溜めていた。指を伝わって一滴蜜がとらりと垂れる。
「……んふ」
女は少し笑うと腰を落として行く。
ずっ
グラントのペニスの先端が温かなぬめりに包まれる。
一瞬止まった後
ずん
「……ああっ!」
「くっ」
一気に最後まで腰を落とした。
女の膣内はきつく入れているだけなのに、いきそうになってしまう。まるで、放したくないと意志を持っているかのようにグラントのペニスに絡み付き、引き込んでくるのだ。
グラントは目を閉じて波が遠ざかるのを待つ。
「……ん?」
そこでグラントはおかしな事に気付く。女が全く動かないのだ。
目を開いて女の様子を見る。
「ハァハァ!ハァハァ!」
目の前には、息を荒らし必死に快楽に耐える女の姿があった。先程までの余裕の色は消え、形のよい眉を歪めて耐えている。
「ハァハァ……おかしい……」
荒い呼吸の合間に、小さい声で何かを呟いているようだ。グラントは注意して聞いてみる。
「…ハァハァ……おかしい……ハァハァ……感じている……協調してるとでも……んっ!」
女はピクンと体を震わせるとグラントの胸に倒れ込んできた。
どうやら達してしまったらしく、膣内が一段と潤いを増した。
「……おいおい」
勝手に満足されては困ると、グラントは女を揺り動かす。
「ん……んんぅ」
キュ
女は、不満げに鼻をならすとグラントの着ているシャツにしがみつく。女の胸の感触が伝わって来る
それでもなんどか呼びつづけると
「ん〜なぁ〜に?」
女は目を覚ましたようで、けだるそうに返事をしてくる。
そんな様子に頭がきて、グラントは女の胸に手を添え強めに揉んでやる。
「ひっ、やん!」
達して感度が良くなっている女は、悲鳴を上げ息を乱しはじめる。
なおも手を緩める事なく、胸を揉み続ける。
「はぁはぁ……ん、やだ……やめろ」
息を乱しながら文句を言ってくる。銀の瞳はグラントの事を睨んでくるが、胸を乳首を摘むと
「やっ!あん!いや!」
瞳の力は失われ、どこか虚ろな焦点の合わないものになる。
女の胸は揉むのにちょうどよい大きさで、しっとりと手に吸い付いてくるような感じがして、揉んでいて飽きなかった。
「んっ、あん、うっ」
必死に声を殺そうとする女。がやはり快楽には勝てないようでゆっくりと下半身をグラントに擦り付けてくる。
シャリシャリとお互いの股間が擦れ合う音が聞こえてくる。
「うん、あっ」
くちゅ、くちゃ
女は恐る恐るといったかんじで腰をゆっくりと振ってくる。
それを見ていたグラントは
ずん
下から、力強く突き上げる。
「あっ、あああぁぁぁ」
女は、再び達してしまったようだ。膣内がキュキュっと痙攣し、グラントのペニスを締めてける。
グラントは力が抜け倒れ込んできた女の乳首を口に含む。
「えっ!まだ……やぁん」
無理矢理、快楽に引きずり込まれた女が文句を言おうとするが、グラントが乳首を嘗めると、それも喘ぎ声に変わる。
「自分だけ、先にいこうとするなよ」
グラントは、腰を突き上げ始める。
ぐちゃぐちゃ
もうびちゃびちゃになっている女の花弁が淫らな音をたてる。
「いゃあ、あん、あん…だめ……激しすぎる」
実際、女の膣内は素晴らしく、グラントは股間の動きを止めることが出来なかった。
ズンズンズン
「あっ、あっ、いっちゃう!」
悲鳴とともに、女がいきそうになるがグラントは許さない。口をキスで塞ぐとさらに腰を突き上げる。
「んっ、んむぅんん!」
女は必死でグラントの舌に自分のを絡めてくる。
ちゅる、ちゅぱ
舌を深く絡ませ、女の唾液を喉下しつつも激しく突き上げる。
ぐっちゃ、ぬちゃ、ぐちゅぐちゅ
お互いの股間は異常ともいえる程の愛液にまみれ湯気が立っている。床にこぼれた愛液が水溜まりを作り出していた。
「んむう、んっ、はっ!……あんあん、いっちゃう!」
唇を放し、のけ反る女、限界が近いらしく膣がキュンキュンと断続的に締まってくる。
「くっ、うあ」
グラントにも限界が訪れようとしていた。
ずちゃ、ずちゃ
「あっ、んぅ、いくいくいっちゃう!」
ぬちゃ、ずちゃ、ずちゃ
「あっ、あっ、あっあっ」
段々と囀るようになる女の声。
ズン!
グラントは最後に、力強く下から突き上げた。
「あっ、ああああぁぁぁぁ」
女が悲鳴を上げるのと同時に、グラントのペニスがかつてないほどの力で締めつけられる。
グラントも限界だった。
どくっ、どくっ、どくっ
女の腰を掴み、中に大量の性を放つ。
力の抜けた女が被さってくる。
どくん…どくん…どくん
唇を合わせながら、注ぎ続ける。
「はぁはぁ、はぁ」
「ふう、はぁはぁ」
二人は繋がったまま荒い息をはく。
そんななか、グラントは心地よいまどろみの中に引き込まれていった……
Harem weapons ―V
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