冥皇計画

第8話「新盟古絆」


襲撃者を退けたリシュア達の前に次に現れたのはモルトリアの警備隊だった。

彼らはまるで待っていたかのように、戦闘が終わったと同時に50人程も現れリシュア達を包囲して拘束しようとしたが、すぐに目を覚ましたエメリアに大喝されて、彼女を恐れ躊躇しているようだった。すると馬に乗った立派な甲冑を着た、隊長らしい初老の神官騎士が現れ、下馬するとうずくまったままのエメリアに駆け寄っていった。

その隊長らしい男もニウスの神官戦士達のように聖女エメリアを知っていて、彼女が教団を脱退したことさえも知っているような話しぶりだったが、孫にでも会ったような優しい表情でエメリアの説明に頷いていた。

すると、その身分の高そうな立派な白髭をもつ神官騎士は、彼女の説明で状況をおおむね理解したらしく、襲撃者達の遺体を片づけるように威厳のある声音で部下に命令した。

どうやら警備隊の隊長はエメリアのことを個人的にも知っている様子で、好意的に状況を解釈してくれたらしく、部下達に命じて騒ぎを聞きつけて随分と集まってきていた野次馬を追い払ってもくれた。

そして彼はエメリアにうやうやしく騎士の礼をし、しゃがみ込んで彼女の傷を見るやリシュアにはその態度が芝居がかって見える程に驚嘆して、慌ててモルトリアの大神殿に人を呼びにやらせようと伝令を呼んだが、エメリアはそれを丁重に断ると自分で矢を抜こうとした。

しかし左の太股を貫通して止まった矢は簡単には抜けず、エメリアは矢に触れるだけではしる激痛に呻いていた。リシュアもそれを手伝いたかったが、先刻のエメリアの「リシア様」と自分を呼んだことがとても悲しく、腹立たしかったことで躊躇してしまっていた。

見かねたリディアがおもむろにツカツカと歩み寄り、彼女の脚に突き刺さったままだった矢を、まず乱暴に矢尻を折って取り去りポケットにしまい込んだかと思うと、すぐさま残った部分を思い切り力任せに引き抜いてしげしげと眺め、何故か嬉しそうに呟いた。

「やっぱりね。これじゃ私の防御魔法でも危なかったかも。」

その一連の早業にエメリアは唖然としていたが、すぐに抜かれた痛みで声も出ないといった様子で、その場で転げ回った。

「バカリディア!なにすんのよ!ひどいじゃない!!」

一声叫んだ後、涙目になったエメリアが汗だくで荒い呼吸をしながら彼女に抗議したが、その間にも彼女の持つ強力な自己治癒能力が発動して、驚くことに出血は止まり、その傷は見る見るうちに塞がっていった。
だが見た目は完治したかに見えた矢傷は、まだ体内部分が癒しきれておらず血液を大量に失ったことも相まって、エメリアは痛みと出血による貧血で、なかなか立ち上がることが出来なかった。

リシュアはようやく彼女に手を貸したが、彼女にかける言葉が思いつかず、黙ってエメリアに肩を貸した。彼女は一瞬ためらったが、結局は彼の肩に手を廻した。

「この娘が使った矢は対魔法防御用に強化されたものよ。エメリアの防御結界を簡単に破る位だから込めた呪式と魔力は大したものねぇ。エメリアがあれだけ深傷を負わされたのをあたしゃ初めてみたわ。」

何故、リディアが魔法で防御せず、サーベルで矢を叩き落としたかリシュアは理解した、エメリアの防御結界を易々と貫いた矢なら、エメリアの大陸最強クラスの防御魔法を受けた自分達にも利かないはずがないからだ。

「まぁ私達にも油断はあったわね、多分矢を作ったのは告死騎士の姉のほうだと思うけど、この娘の腕も武器も超一流だわ。」

リディアが倒れたままのエステラダーニエと彼女が背負ったままのアーティファクト弓をを一瞥しながら、エメリアの抗議もどこ吹く風と言った様子で一人得心してそう呟くと、すぐ近くに居合わせた警備隊の隊長に、エステラダーニエを宿の自分達の部屋に運ぶように頼んでいた。

リディアはその後、見物人に混ざっていた宿屋の女主人の所に行き、なにか話しかけていたが、エメリアを早く休ませたかったリシュアは彼女を連れて二階の自分達の部屋に戻ろうとした。

しかし、武装している彼女はリシュアには重すぎた。彼女は板金鎧の下に鎖帷子も着ているのだ、それにサレットと白鞘の長剣と予備の武器として戦鎚を一本腰に着けており、さらに神官としての様々な魔法用の触媒と道具のはいった雑嚢も腰につけている。

リシュアはその重さによたよたとしながらエメリアに肩をかして歩いた。
するとまた新手の警備隊が来たのか何騎かの馬蹄の響きが聞こえ、辺りがまた騒がしくなったが、リシュアはその様子を窺う余裕はなく、なんとか先程のエントランスホールにたどり着けた。

血の海だったエントランスホールは、すでに死体は片づけられていて、宿の召使い達が真新しい絨毯を敷き、壁を清掃していた。彼らはリシュア達のモメ事など日常茶飯事といった風で、黙々と自分達の仕事を片づけていた。

リシュアはよろけるようにして彼らを避けながら進んだ。しかしそこでちょっとした段差に躓きバランスを崩してしまい、エメリア諸共倒れそうになったが、誰かが力強い腕で受け止めてくれた。

リシュアが顔を上げると、受け止めてくれたのは甲冑姿の見上げるような大男だった。
赤銅色の肌で禿頭の厳つい顔の大男は人懐こい笑みを浮かべていて、彼の爽やかな男ぶりにリシュアも思わず微笑んでしまった。

リシュアが感謝の言葉を述べるとエメリアも顔をあげ、その男を見るや喜色満面で

「カイル!カイルじゃないの!!どうしてここに?」

カイルと言われた大男はエメリアを助け起こすと、人懐っこい笑顔のまま低く通る声で

「無論、エメリア殿の助勢したく、僭越ながらまかり越しました。」

彼は騎士の礼をエメリアにすると、リシュアに向かっても騎士の礼をしてくれた

リシュアは彼に一人前に扱ってもらったことが嬉しく、この騎士に非常に好感を持った。

「カイル・フォン・クリンベルクと申します。君がリシュア君かな?」

彼は握手をしようと右手を差し出しながら自己紹介してくれ、リシュアもなんだか恥ずかしかったが、彼の握手を頷きながら受けた。

「その辺、ざっと偵察してきたけど怪しい人物はいないわよ。」

長身の妖艶な闇エルフの女性が小走りで近づいてくるとそう告げた、リシュアはエステラダーニエ姉妹を思いだし身構えると、エメリアがまたも嬉しくて仕方ないという風で

「シルヴェール様まで!」

と喜びの声をあげ、二人を紹介してくれた。
クリンベルクという騎士はエメリアがシェレイド神聖騎士団に初めて入った頃の上官で、実質、彼女の兵法の師匠にあたる人物であり、三皇子の戦乱から教団騎士として従軍していた教団きっての歴戦の勇士だと教えてくれた。たしかに彼の顔にある無数の傷跡はそれを物語っていて、アーティファクト武器の所有者がもつ独特のオーラのようなものを感じさせた。エメリアに依れば、彼の生来の直言居士的な性格が災いしてエメリアと同じように中央から遠ざけられていたと言う。

また、シルヴェールという藍色の髪のダークエルフの女性はクリンベルクの妻で、精霊魔法の使い手で魔法騎士、戦場で最初は敵として出会ったが、クリンベルクを見初めて恋い焦がれる余り部隊から逃げだし、そのまま彼の押し掛け女房になったとエメリアが教えてくれた。

頭上で結った藍色の髪を時々気にしながらシルヴェールはエメリアの話を聞いていた。

「そんなことまで言わなくていいのに」

と苦笑しながら言ったが、彼女の言葉にはエメリアに対する親愛の情が感じられた。

「そういえば、この子がエメリアの旦那さん?」

エメリアが嬉しそうに頷くと、シルヴェールはなんとも色っぽい仕草で腕を組んで艶然と微笑み、リシュアに近づくと右手でリシュアの頬を撫でた。彼女の手のひんやりとした感触にリシュアが驚いて身をすくめると、シルヴェールはリシュアが思わず淫靡な想像をしてしまったやや大きめな口元に右手の指をあてると、深紅の紅を引いた唇をすこし開きゆっくりとなぞった。彼女は切れ長のやや目尻のつり上がった目を細めると淫らな笑みを浮かべ、歌うように言った

「可愛い坊やね・・・・お姉さんと・・・セックスしない?」

いきなりのストレートな発言にリシュアが赤面し唖然としてしまっていると、同じように唖然としていたエメリアがいきなり乱暴にリシュアを抱き寄せ、

「絶対ダメええええええ!!!リシュアちゃんは私の旦那様なんだからあああああ!!」

と大声で叫んだ。その声は1Fのフロアに響き渡り、朝の出立時間であったのも災いして、聞きつけた大勢の野次馬が集まってきた。

大勢の人の注目を浴びたエメリアは耳まで真っ赤にすると、憮然としてリシュアの手を引いて階段を上ろうとしたが、完治していない左足のせいで躓き、うつ伏せに倒れて顔面を階段に強打した。あまりの自分の無様さと恥ずかしさで顔をあげられず、エメリアは

「う・・・ううっ・・・。」

と倒れたまま呻いていたが、リシュアが慌てて助け起こすとその勢いにまかせ、飛び付くように抱きついてきた。

彼女は見た目から想像するよりずっと力持ちで、それに彼女が甲冑を着たままなのと相まってリシュアは息が詰まって苦しかったが、この時のエメリアが余りにも可愛くて、先刻の自分をリシアと呼んだ事はどうでも良くなってしまう程だった。

「おお、そうだ他にも助勢したいという者が居るのだが、連れてこよう。」

クリンベルクは苦笑していたが先程の妻の発言など全く気にしていない様子で、リシュア達に提案すると、そのまま宿屋のエントランスの方へ向かった。彼らの愁嘆場を見物していた野次馬達も見せ物が終わったと見たらしく、口々に勝手なことを言いながら散っていった。

三人が階段の踊り場で歓談しながら待っていると、クリンベルクとリディアが戻ってきた。その他に三人の人物を連れていて、銀髪の美青年と明橙色の髪の優しそうな美女、最後の一人は驚くことにニウスの町でリシュアに敵意を向けてきて、エメリアに敗れたリリアだった。

リディアがざっと全員を紹介してくれる。女性と見まがうような美貌をもつ銀髪の青年は名前はヘルマン・フォン・ザルツァという名前で、ロートリア管区の紋章官だったいう。
彼はその美しい銀色の長い髪をかきあげ、見た目に違わぬ華麗な仕草で騎士の礼をしたと思うと、リシュアを恍惚とした表情で眺め、艶を含んだ微笑みを浮かべると

「美しい・・・少年・・・・恋人にしたい・・。」

とため息混じりに言った。するとエメリアとリディアが血相を変えて彼の前に立ちはだかり

「絶対ダメ!!!」

と叫んだが、何故かシルヴェールもそれに混じっていた。

次にリディアは明橙色の髪の女性を紹介してくれた。
彼女の名前はマージェ・ヴィードリイと言った、元バロックの暗剣使いで傭兵、ニウスでリリアの副官だったという話だった。彼女はリシュアにニッコリ微笑むと、

「初めましてリシュア様。」

と傭兵暮らしの女性とは思えない優雅な仕草で挨拶した。彼女は他の美女達とはまた違った暖かな美貌の持ち主で、特に大きな茶色の瞳が愛くるしく、彼女に微笑みかけられるとリシュアはちょっとドキドキしてしまった。
それを敏感に察知したらしい二人の妻の刺すような視線を感じたが、彼女と握手をした。

最後にリディアはリリアを紹介しようとしたが、リリアはずいと前にでて騎士の礼をすると床に片膝をついたまま、今にも這い蹲りそうな姿勢で

「先日の数々の無礼、この身命をもって殿下を御守護奉ることでお許し下さい。」

そう告げるとリシュアのブーツに口づけした。リシュアは驚き慌てながら

「リリアさん。許すもなにも・・ボクは全然気にしていないし・・・貴女の言ったように軽輩者ですし・・ですから、お立ちください。」

リリアを立たせようと両手を差し伸べると、リリアが感謝の言葉を言いながら彼の首に抱きついてきて、彼女の怜悧な美貌は無垢な乙女のように変わって、無邪気に喜びながら何度も頬ずりしてきた。リシュアはリリアの滑らかな肌の体温と成熟した女性の体臭を感じて、戸惑いながら頬をそめていると、逆上したエメリアとリディア、そしてまたもシルヴェールがリリアを無理矢理引き剥がし罵声を浴びせた。

「詳しい話は部屋でしましょうか。一応、全員泊まれる部屋に移ったからさ。」

リリアの頭を煙管で小突きながらリディアが提案すると、8人は階段を上がり三階にあるという部屋に向かった。




昨日泊まった部屋より豪華で、沢山の部屋があるこの客室にリシュアは感嘆したが、他の7人は至って普通にしているので、ちょっと恥ずかしかった。

「捕らえた刺客はどこにおるのだ?」

クリンベルクが問うと、リディアが主客の寝室に案内した。そこには5,6人が並んで寝られる程の大きなベットが部屋の中央に有り、調度品も揃っていて、大きな独立したバスルームもあった。さすがに何人かが感嘆の声をあげると、

「逃亡者の私達には豪華すぎる部屋だけど、これだけの人数で泊まれるのはここしかなかったのよ。まぁ宿代は私持ちだから気にしないで。」

リディアはあっさりと言い、ベットの上で横たわるエステラダーニエを指さした。彼女はまだ目覚めていないようで、体のあちこちにある痛々しい傷もそのままだった。

「リディア殿、縛らなくて大丈夫なのか?こやつは敵将であろう?」

クリンベルクが懸念を口にすると、

「この娘は本当は敵じゃないから必要ないし、リシュアも多分それを望まないと思う。」

リディアがそうきっぱりと言い放つと、クリンベルクはウームと唸り

「寝首をかかれなければ良いが・・・・」

と心配したが、エメリアが小さく頷き大丈夫だと保障したので、彼は渋々納得したようだった。

「さて、何から話せばいいかしら。」

エメリアが皆に言うと、リディアはちょっと不機嫌になって

「まず貴女は休みなさいよ、その脚じゃ旅はできないし、皆も食事はまだでしょ?」

リディアは客室付きのメイドを呼んで食事を注文すると、全員に居間の反対側にある食堂に行くように言った。彼女は寝室から最後に出るつもりらしく、エステラダーニエを眺めていたが、

「貴女、起きてるんでしょ?動けるんだったら一緒に食事でもどうかな?」

とリディアが優しく声をかけると少し驚いた様子でエステラダーニエは起きだし、その後は無表情で黙ってついてきた。寝室を出る前に彼女はレイピアを剣帯ごと外して自ら武装解除しようとしたが、リディアはそれを優しく押しとどめていた。

食堂の席に皆がそれぞれ座ると、リディアが思い出したようにリシュアにエステラダーニエの傷を診るように言った。そのあと彼女は例のニヤニヤ笑いをしていたので、不審に思ったが、リシュアは席を立つと椅子に座った彼女の横でしゃがみ、

「体触るけどごめんね。」

彼がそう言いながら、彼女の傷を調べると全部で7カ所の傷があり、特に脇腹にある傷が一番深かった。全てエメリアの赤熱した剣による傷で、剣創と言うよりは火傷といったほうがいい傷だった。出血はすでに止まっていたが、よくこれだけの傷を受けて顔色一つ変えずにいられるものだと、彼女の忍耐力に内心舌を巻いた。おもむろに治療の為に彼女の皮鎧を脱がせようと鎧に手をかけると、クリンベルクが大きく咳払いをした。するとリディアがまたもニヤニヤ笑いながら、、

「あ、そうそうエメリアの傷も見てあげて、それにエステもここじゃ恥ずかしいだろうし、さっきの寝室を使うといいわ、食事は後で運んであげるわよ♪」

彼女はなんだか意味ありげに「にししし」と笑うと、エメリアに手を貸して立たせた。彼女はリディアになにやら悪態をついていたが、リシュアの方を向くとニッコリ微笑んだ。

「しかしまぁなんだな・・・エメリア殿はなんというか逞しくなったな。前はもうちょっと儚げというか・・可憐な感じだったような・・・・。」
「きっと、リシュア君のせいでしょ?たぶん♪」
「そういうものか?。」
「そういうものよ♪」

クリンベルク夫妻の会話が聞こえたリシュアにはちょっと意外な感じではあったが、今の彼女が皆の前でも非常にリラックスしていて、ありのままの自分で居るのだと思うと嬉しくなった。

今思えばドロシーやジュウイチロウの前でさえも、彼女は本当の自分を抑えて、聖女を演じていたような気がする。

エメリアは14歳の時に初代のシェレイド神最高神官に才能を見いだされ、シェレイド神に仕えその才能を開花させてからは聖女と呼ばれ、神官としても戦士としても世人に女神もかくやと尊崇されて来た彼女は、その名にふさわしい立ち振る舞いや能力を要求されてきたはずで、彼女は前世の技量を或る程度は受け継いでいるとはいえ、それを完璧にこなすことは並大抵の努力ではなかったはずだが、しかし彼女は200年もの長い間、聖女としてシェレイド神の祝福を人々に与え続けていた。

その彼女は今や自分の妻で、リシュアを護る為だけに戦い、先刻自分が死んだと思ったときの彼女の怒りはすさまじかった。それだけ彼女に愛されているのは嬉しいことだが、シェレイド教団領の人々になんだか悪いことをしたような気分になってしまった。

「リシュアちゃん?リシュアちゃん肩をかしてくれる?お願い。」

エメリアの呼びかけに、物思いから覚めたリシュアは慌てて肩を貸す、その間エステラダーニエは彼の顔を無表情で眺めていたが、ひどい傷を負っているのにも拘わらず、リシュアに手を貸してくれた。

寝室に戻った3人はまず武装を解いた、リシュアもローブを脱ぎ、皮製の上着と乗馬ズボン姿になる。リシュアはローブの胸元の隠しポケットにしまってあった、ジュウイチロウに贈られた守り刀を思い出し、取り出して眺めた。命中した矢の為に鞘の部分が縦に割れてはいたが、刀身には傷一つなく、先刻の二人の怒りと悲しみ様を思い出すと、これが自分の命を守ってくれて本当によかったと、あらためてジュウイチロウに感謝した。

彼女の髪と同じ色の皮鎧を脱ぎ、黒いシャツとタイトなミニスカート姿になったエステラダーニエが、いつのまにか彼の手元を覗き込んでいて、感慨深げに守り刀を見ていたが、姿勢をただすと片膝をついて深々と頭を下げ、恐縮したリシュアが彼女を立たせようとすると貌をあげ真摯な眼差しでリシュアを見つめながら、

「リシュアさん本当にごめんなさい。その神鉄製の短刀があの矢を防いだのですね、リシュアさんの命を奪うことにならなくて本当によかった。」

彼女の美貌に見惚れていたリシュアが慌てて気にしていないと告げると、彼女は心底ほっとした様子で一度立ち上がると、エメリアにも膝をついて丁寧に謝罪した。エメリアは最初は厳しい表情でエステラダーニエを睨み付けていたが、リシュアが彼女を許したことと素直な言葉の真心のこもった謝罪に、彼女を許すことにしたらしく、優しく微笑みかけると手を取って立ち上がらせた。

すると急にエステラダーニエが片膝をつき脇腹を押さえて呻いた、傷がひどく痛むらしく、蒼白な顔で力無く微笑みながら、

「なんだかお許しを頂いて安心したら、急に痛くなってきました・・・。」

エメリアとリシュアは慌てて彼女をベットに横たえると治癒魔法を唱え、傷の治療を始めた。
リシュアが術を施した傷が見る見る癒えていくのを目の当たりにしたエメリアは、リシュアの治癒術の能力の高さに驚嘆し、満面の笑みを浮かべながら

「もしかしたら、私よりも治癒術は上かもしれないわ!簡単な術式でこれだけの効果があるなんて・・・私・・・リシュアちゃんがこんなにスゴイ力を持っているなんて知らなかった・・・リディアなんで教えてくれないのよっ!」

最後はリディアに対してブツブツと悪態をついていたが、エステラダーニエの外傷は傷跡も残らないほど完全に癒えた、エステラダーニエは非常に感動した様子で、頬を紅潮させ熱を帯びた尊敬の眼差しでリシュアを見つめていた。

通常の場合、最高の治癒術者である高神官クラスでもアーティファクト武器で受けた傷、それも骨を突き破り内臓に達するような深い傷を完全に癒すことは不可能で、高神官の中でもずば抜けた治癒能力をもつエメリアでさえ、瞬時に回復させるのは簡単なことではなかった。それにダークエルフは体質的に魔法に抵抗力があるため、治癒魔法でさえも人間より効きにくいのだ。

リシュアは聖女と称されるような高位の治癒術者でもあるエメリアに、手放しで褒められたことが嬉しくて、今度はエメリアをベットに横たえ、鎧の下に身につける綿入りの下履きを脱がすと、矢傷のあった部位に治癒術を使った。

治療の為とはいえ、エメリアは白いシャツと、純白のレースのショーツだけという姿になり、リシュアもエメリアの頬を紅潮させたが、それをごまかすようにリシュアは今度は掌から柔らかな緑色の癒しのオーラの出る、先刻使った術より高位の術を使って治療してみると、彼女はリシュアの魔力が自分を包むことが心地よいらしく、目を瞑って術を受けていたが、不意に目をあけると、

「たぶん完全に癒えたと思う♪すごいわリシュアちゃん!ありがとう!」

エメリアは本当に彼の能力に驚いていた。痛みだけでなく貧血状態までも癒されていることに気が付いたからだ。リシュアの治癒能力はまだ簡単な術しか使えないのに、これだけの力がある。きっと、整理された術式を教えれば簡単に自分を凌駕してしまうに違いない。すると彼の魔力はシェレイド神と同じかそれ以上だということになる。

自分の前世の記憶をたどってみても冥皇リシアは強力な魔導師であったが、理由はよく判らないが、リシュアの方が遙かに潜在能力は上だと断言できる。つまり彼が記憶を取り戻すか、きちんとした教育を自分達ができれば、魔皇ラグナに対しても十分以上に対抗できる力を得ることが出来うるであろうと容易に想像できた。これならば・・・前世のような悲劇的な最後を避けられるかもしれない・・・。



未来への一筋の希望に胸をときめかせた瞬間、エメリアは体の異変を感じた、左の乳房、いや、乳房の下にある冥皇の紋章が熱を帯びたように妖しく疼く。彼女が堪らず左胸を押さえると、欲情したように体が火照るのを感じ、思わず甘い吐息が漏れると子宮が疼いた。

その甘い疼きが彼女をとらえ、切なさと興奮で汗が流れ頬を伝い落ちる。視界は桜色の霧がかかったようになり、突然自分を襲った官能の波に戸惑っていた。彼女が間近に居るリシュアの息づかいを感じると、更なる官能の波が打ち寄せてきて、肉奥から溢れるように愛液が滲み出てきた、

「ああっ・・・・。」

思わず漏れた熱い吐息が声になってしまった。彼にきっと聞かれてしまったに違いない。

恐る恐るリシュアに視線を移すと、彼が驚いた顔で自分を見つめている。

「あぁん・・・・。」

彼にこんな姿を見られたことは凄く恥ずかしかったが、同時にそのことが異常に興奮を呼び、思わず股間を隠すようにすると軽く絶頂に達してしまった。エメリアの肉奥から溢れ出た牝汁がショーツをたっぷりと濡らし、腰に力が入らなくなってしまった。

「昨日の夜、リシュアちゃんがリディアばっかり抱いて、私を抱いてくれないから・・・我慢できなくなっちゃったの・・・。」

リシュアを非難し、言い訳がましい言葉を口にしたものの、自分が熱にうかされたような表情でリシュアを誘惑している事実は隠しようがなかった。しかしそれは逆に彼女を大胆にさせた。リシュアに覆い被さるようにして彼を押し倒すと、ベットの軋む音を聞きながら、もどかしげに彼のシャツをはぎとり、乗馬ズボンと下着をずりさげ、リシュアを裸にした。

「うふっ・・・かわいい・・・・。」

リシュアの少女のように華奢な体はすでに上気しており、彼は頬を薄紅色染めて小さく喘いでいた。それに嗜虐心を煽られたエメリアは豊満な胸をすりつけるようにして、彼の薄い胸板に顔を埋めると、彼の可愛らしい桜色の乳首を交互に口に含み、たっぷりと唾液をまぶしながら音を立てて強く吸った。

ぢゅっちゅっ、じゅるちゅっ

その彼女の激しい愛撫でリシュアが可愛らしい声で喘ぎのけぞる度に、エメリアの子宮は甘い痺れで疼き膣奥から愛液を垂れ流す、すでにショーツは濡れそぼっていて、内股にはっきりとそれと判るほど愛液が滴り、濡れ光っていた。

「はぁ・・・ちゅ・はぁ・・んんっ・・リシュアちゃんのおちんちん・・・・。」

興奮で息を荒らげ、夢中で乳首を吸いながら卑猥な言葉を呟く、彼女の右手は一昨日に処女を奪ってくれた肉鞘を探す、すぐにそれは見つかり右手で握りしめると、彼の肉鞘はまだ完全に勃起していなかったが、彼女が右手でそれを激しく扱きたてると、どんどん硬度が増し、逞しく反り返ってきた。

「ああっ・・強すぎるぅぅ・・・エメリア・・・気持ち・・いいよ・・・あぅ。」

リシュアの女の子のような喘ぎ声を楽しみながら、彼の少し潤んだ澄んだ湖のような蒼さを持つ瞳を見つめると、激しく欲情した女神官は彼の唇に貪り付いた。

「んちゅ・・・ちゅ・・・あふ・・・リシュアちゃん・・・。」

エメリアの右手は熱くなったリシュアの肉幹を時折強く握りながら愛しげに撫で回し、鈴口から溢れてくる少年の先走りの樹液を潤滑油にして、さらにしごきたてる。

彼女はリシュアの唇を強く吸いながら、彼が舌を絡めてくるのを待ちきれない様子で、少し強引に舌を挿しいれた 。喘ぐようにリシュアが舌をだすと、すかさず舌をくわえるようにして音をだして吸いあげる、粘膜の密着感に酔った聖女が、たっぷりと自分の唾液をリシュアの口腔内に流し込むと、彼はそれをコクコクと飲み下してくれた。

エメリアの胸に狂おしい程の愛欲の炎が燃え盛り、リシュアの唇を音をたてて激しく貪る。

「んっ・・・・んふ・・ん・・・リシュアちゃん・・・・。」

目眩がする程の激しいキスに彼女は酔いしれたが、口づけだけではもう我慢できない、

「ああっ・・リシュアちゃん・・・。んっ・・ちょっと待って・・・。」

せわしげな息づかいのまま唇を離し、耳元で熱い吐息を吹きかけるようにして囁くと、エメリアはリシュアの腰のあたりに跨り、シャツを脱ぎ捨てた。純白のショーツと同じレースをあしらったブラが露わになったのを見て、興奮したリシュアが両手を伸ばし、ぎこちない手つきでブラを上にずらすと、円錐型の瑞々しい美乳が露わになった。
リシュアは思う様、自分だけの聖女の豊かすぎる胸をもみしだく。

「あぁん・・・はぁ・・・ああっ・・・イっちゃうぅ・・んんっ・・」

彼の触れた部分から甘い痺れが全身を駆けめぐり、リシュアの指が堅くしこった乳首に触れると、エメリアは二度目の軽い絶頂に登りつめてしまう、余韻に浸りながら彼女には何故か自分がいつになく積極的で、異常に性感が高まっていることが不思議だったが、昨日のリディアと彼の情事をこっそり覗きながら自慰をしたことで、欲求不満気味だったのかなとピンク色の霧が立ちこめた思考の中でぼんやりと考えていた。

15歳の少年にしてはかなり小柄なリシュアの小さめの掌では、彼女の胸の全てを納めきれず、下からやわやわと持ち上げるように揉むことしかできなかったが、それでも掌に吸い付くような彼女のきめ細やかでしっとりと汗ばんだ絹肌と、どこまでも柔らかな豊乳の感触を十分堪能できた。

「やっぱりリシュアちゃんの愛撫・・・・ああっ凄い・・気持ち・・・いい・・・・。」

絶頂に達したことで幾分か余裕のできたエメリアは呟くと、彼に跨ったまま腰をグラインドさせて、リシュアの肉鞘に自分の濡れそぼった性器をショーツ越しに擦りつけた。
そしてゆっくりとエメリアが腰を動かす度に、彼女の愛する少年は可愛らしい声をあげ、エメリアの嗜虐心を喜ばせた。

「エメリアぁぁ・・・・はぁ・・気持ちよぎるるぅぅぅ・・・。」

さらに彼が快感に呻くたびに彼女の胸は強く揉まれ、その度にエメリアの透き通るような白い裸身に甘い痺れが奔り、感じすぎたエメリアはガクガクを腰を震わせてしまう。

「ああっ・・リシュアちゃん♪・・・。そろそろ出ちゃうのかな?」

普段は清楚可憐と言う言葉がぴったり来るような美貌のエメリアが、今は息を荒げ、黒髪を掻きあげながら欲情で潤んだ目で囁く。それに答えてリシュアが小さく頷くと、

「最初は飲ませてね♪リシュアちゃんの飲みたくてずっと我慢してたの・・・。」

エメリアは自分自身がこんな卑猥な言葉を発したことに驚いたが、リシュアが自分以上に驚嘆しているように見えた。だが本当のことだ、思わず口から出てしまったのだ。

照れ隠しにリシュアに背中を向け、ベットの上に立ち上がったエメリアは、ブラを外しショーツを脱ぎ捨てる。その間リシュアの視線を痛い程感じて、更に濡れてしまう。白汁で糊付けされたショーツを脱ぎ捨てる時、彼女の蕩けた性器から乳白色の糸が伸びると同時に、リシュアの鼻の粘膜にエメリアの牝の媚臭が広がり、更にリシュアの肉鞘は力を得て、青筋を立てて反り返った。

 頬を紅潮させながら振り返ったエメリアは、仰向けに寝ているリシュアの脚を開かせ、脚の間に正座すると、両手で肉鞘を優しく捧げ持つように掴むと、鈴口に口づける。

「リシュアちゃん。好きな時にいっていいからね♪」

彼女は喜色の篭もった優しい声音で言ったと同時に、肉鞘を口に含み、激しく吸い上げながら根本まで飲み込もうとするが、自身の未熟な技術の為に完全に根本まで口に含むことが出来なかった。

(リディアは昨日、根本まで含んでいたのに・・・。)

何事にも真面目なエメリアは自分の未熟さに心の中で舌打ちしたが、

「エメリア、凄く気持ちいいけど、ムリしないでね・・・。」

リシュアの優しい言葉と、愛しい人の肉鞘を口で愛撫することが出来る嬉しさに、エメリアは胸が熱くなり、一層激しく肉鞘を啜り、頬をへこませるようにして吸い上げる。

じゅぼじゅぼじゅぽ、じゅぽじゅぽじゅぽ

(たしか、昨日リディアはこうやってたはず・・・・。)

リズミカルに頭を上下させ、羞恥で耳まで紅くしながら、エメリアは黒髪が波打つ程に激震させながら一心不乱に少年の堅く猛った肉棒に奉仕する。彼女は歯を立てないように細心の注意をしながら、えずくのを堪え、彼がご褒美の白汁を飲ませてくれるのを今か今かと待ち焦がれていた。

「リシュアさん・・・・私も抱いてくださいませんか・・・・・。」

突然声をかけられ、驚いた二人が声のした方を注視すると、そこには膝立ちで右手をスカートの中で蠢かせ、左手で胸を揉みしだくエステラダーニエの姿があった。



(第9話へ)                     現在の冥皇軍=9名


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