続・黒い霧《支配》




 暗い森であった。

 何百年が過ぎたか知らぬ針葉の木々が深く生い茂るその森は、見るものが見れば神々しさすら感じたことであろう。

 しかし旅慣れていない彼女は、初めてこの森を通った時から、いつもその森を抜ける時に何か物悲しい感覚に囚われていた。

 首の後ろで切った金髪をなびかせて、彼女は小走りにかけていた。

 引き締まった眉の下で青い瞳がじっと木々の間に目を配り、白貌のほほを少し赤らめ、旅行用のマントのすそをなびかせて駆ける。

 ぴったりとした旅装にかためられたその姿は、見る目には美しい少年のようで、まるで伝説の森の妖精を思い起こさせ、走る姿は優雅な舞にも似ていたが、この旅は実はそのように悠長なものではなかった。駆けながらもずっとレイピアの柄にかけられた右手がそれを物語る。

 秘密の使命を帯びた旅であった。何度も同じ道を通ると道々の者に顔を覚えられる危険があった。時にはマントについたフ−ド深くかぶり、二度に一度は人通りの少ないこの道に回った。

 昨日も襲われた。襲ってきた二人組は、単なる無頼漢、物盗りの類にも見えたが、彼女の使命を知った刺客やもしれなかった。

 今日もずっと朝から視線を感じていた。

 静かで、恐るべき力を秘めた視線が、彼女の一手一投足まで見逃すまいとするかのごとく、ずっと注がれ続けていた。

 彼女とて並みの使い手ではない。ならばこそ、わずかな気配のみで姿を現さぬその視線の主の恐るべき力量のほどがわかったのだ。森に入ってからはその視線は感じなくなったが、油断はできなかった。

 背後で草むらが揺れた。

 彼女はぱっととびすざりながら振り向いた。

 わずかに腰を落とし、右手でレイピアの柄を、左手で鞘を掴んで呼吸を整える。

 がさがさと草を掻き分けて、明らかな獣の気配が遠ざかっていった。

 大きくひとつため息をついた彼女は、自嘲的に微笑むと、先を急ぐために振り返った。

 目の前にフ−ドつきのマントに覆われた巨大な人影が立っていた。フ−ドの中に隠れた顔は暗く見えない。

「久しぶりだな、エルミナ殿」

 エルミナが抜くよりも早くレイピアの柄を掴んだ彼女の右手を大きな手で押さえ、その人物が低い声で言った。

 エルミナは大きく目を見開いた。浅黒い長い指を持つ手が、万力のように彼女の手を締め付けていた。

「お…お主、生きておったのか」

「ご覧のごとく。急ぎ旅のようだな、何処へ行かれる?」

「まずは手を放せ……痛っ……各地にいる仲間につなぎをつけておる。国の様子は知っておろう」

 無理やり手を引き剥がしたエルミナは、左手で赤くなった右手を撫でた。

 フ−ドの中でわずかに頷いたようであった。気のせいかも知れぬ。

「イザベラ女王はじめ姫君や王家の方々、名だたる将軍方も亡くなられ、国はロマリアの制するところとなった。

 しかし首都アマゾネアに駐留するロマリア軍はわずかに一万。五千の兵が集まればたやすく倒せようが、いかんせん今は将となる方がおられん。ただ、手をこまねいて見ているつもりはない。今は将となる方を求めて、各地の仲間と相談をしておる。その方をいただき組織を作り兵を募って冬の時までに必ずロマリア軍をアマゾネアより追い出す。丁度よい、おぬしも協力してくれ」

「もちろん。で、私は何をすればよい?」

 何の感動もない声で、フ−ドの中の口が聞いた。

「とりあえず、アンデルアのアンル−ガの村に行ってくれ。そこの旅籠に行けば仲間の方から声をかけてくれるはずだ。知っているか?ナナセの砦の近くだ」

「もちろん、オリヴィア将軍の終焉の地だ」

 エルミナは再び目を見開いた。

「お主、行ったのか?」

「行かぬ、風の噂だ」

 フ−ドの中で見えぬ表情に、エルミナは初めて疑わしげに眉を寄せた。

 だが、急ぐ旅であった。

 エルミナは一つ頷いた。

「私は一度アマゾネアに戻り、折り返しアンル−ガに行く。気を付けよ、仲間の中にもロマリアに転んだ者もいると聞く」

「お互いに」

 そう言って背を向けて歩き出した背中に、エルミナはいきなり抜き打ちの斬撃を送り込んだ。

 剣の速さ、呼吸ともに申し分のないその必殺の一撃を、フ−ドの主は軽く飛んでかわすと、鋭い気合と共に背中の剣を抜いて振り下ろした。

 鋭い火花を散らして、エルミナはレイピアの鍔元で受け止めた。もし他のところで受けていたら、たちどころに折り飛ばされていたことであろう。

 両手でレイピアを支えながら、エルミナは苦しそうな息を吐いた。レイピアを引くことなど思いもよらなかった。下がっても、横に飛んでも、どうやっても必殺の刃が自分切り裂く気がして、彼女はうめき声をあげて耐えた。

 奇怪な眺めであった。

 フ−ドの主は人の背丈ほどもある刀を片手で操り、真っ直ぐに立ったまま、さして力を入れる風でもなく、ぎゅっとエルミナのレイピアに押し付けている。真っ赤な顔をしてレイピアを支えているエルミナが滑稽にすら見える。

 フ−ドの主は息も荒げずに言った。

「ロマリアに転んだ者がいる、か。それはおぬしのことではないのか、エルミナ殿」

「お……おの……おのれええっ!」

 叫んではみても、押し付けられる刀の力はだんだんに強くなる。必死に支えながら、エルミナはパクパクと口をあえがせた。

「最後の時に誰の名前を呼ぶのかな?死ね、裏切者」

 淡々と言ったとたん、刀を持つ手に血管が浮き上がり、筋肉が盛り上がった。

 ご主人様っ!とエルミナは声に出さずに叫んだ。

 ぴんっと澄んだ音を立ててレイピアが砕け散り、次の瞬間、魂斬る悲鳴が森の木々を揺るがした。




「ああ……ああ……いいっ……いひいいいっ……あはああああああっっっ!」

 がくがくと体を震わせて、ひときわ長い悲鳴をあげたその少女は、力尽きたようにがっくりとベットにうつぶせに倒れた。べっとりと汗に濡れ、はあはあと息をつく白い顔に、長い波打った金髪がへばりついていた。

 その尻に馬乗りになってわずかに動いていた黒い影のようなものが、一つため息をつくとあたりを見回した。

「これでもう終わりかの?まだの者はおるか?」

「ああ……あば……ああ……あ…あたしがまだでございます……」

「あ……あたくしも……お願い……くださいませ…お願いいたします、くださいませオダイン様……」

 だらだらと口から涎を垂らしながら、長い金髪を垂らした一人の少女が床の上からベットに手を伸ばした。もう一人、壁にもたれて狂ったように胸と股間に手を這わせていた短い亜麻色の髪の少女も悲鳴のような声で哀願した。

 さして広くもない窓の無い粗末な部屋。部屋の割りに大きなベットがあり、その上にも下にも全裸の少女が汗まみれになってぐったりと横たわり、恍惚とした表情で宙を、あるいはオダインの顔を見つめていた。その数は十を下らない。十代の半ばを過ぎた程度であろう、どれも幼さの残る顔であった。

 全裸であった。煌々と照らされたろうそくの明かりの中に、脱ぎ散らかされた服や下着が皺になり、丸められて散らばっていた。

 みなアマゾネアの有力商人の子女であった。彼女たちの母は、三日も前にオダインに精を注がれ、既にその忠実な下僕と化していた。

 アマゾネアの降伏から早二月、カ−スの首都ナム−ルとアマゾネアの首都アマゾネアを何度か往復しながら、オダインはアマゾネアの女達に魔香を嗅がせては精を注ぎ、彼女たちを性の奴隷と化す行為にいそしんでいた。

 おのれの快楽のためでないことはその顔ぶれを見ればわかる。

 貴族、豪商、豪族、数多の武官たち、そしてその子ら……。一人を狂わせてはその知り合い、その親戚と芋蔓式にこの小さな部屋に呼び集めては次々に快楽の奴隷に変えてゆく。

 優秀な戦士であり、蛮族とののしられながらそれでも誇り高く生きていたアマゾネアの人々が、この色黒く痩せた小さな老人の精を求めてひいひいと泣きじゃくり、精を注がれては目を蕩けさせ涎を垂らし、泣き声をあげて犬のような忠誠を誓った。

 その数はもう二百では効かぬ。

 いや、彼だけではない。彼の配下の魔道師たちが多くアマゾネアに入り、別に設けられた秘密の場所では、毎夜百人を超える女たちが魔香に狂わされ、彼らに精を注がれては、狂ったような泣き声を上げて忠誠の言葉を繰り返し叫んでいた。

 表ではロマリアに支配されながら、その精神の部分では、オダインの支配が、この国の支配層にゆっくりと、だが着実に広がりつつあった。

「おお、おお、では次はお前をしてやろう。名はなんと申す?」

「ああ……ありがとうございます……ミ−ナ…ミ−ナでございます、オダイン様…」

 舌を垂らし、はっはっと息を荒げながら、その少女は淫蕩に赤く染まった顔を輝かせた。

 ござれ、とオダインが手を伸ばすと、彼女はずるずると床を這い、ベットに手をかけた。

 笑ったような皺が刻まれたオダインの顔が不意に扉を向いた。誰かが声をかけたわけではない。ノックの音が響いたわけでもない。しかしオダインはベットを降りると裾の長い服に腕を通した。

 今まさにオダインに触れんとしていた少女が、顔をゆがめて絶叫した。

「あ……あはあああっ!……待ってっ…お待ちくださいっっ!」

「すぐ戻るわえ」

 振り返りもせずに扉を押し開いたオダインの後から意味不明の絶叫が響いて、彼は部屋の外に出ると扉を閉めた。

「お楽しみのところを申し訳ございません」

 薄暗い廊下に、フ−ド付きの魔道師の衣服を身に付けた背の高い黒い影がわずかに頭を下げた。フ−ドの額のところには、カ−スの魔道師ギルドの紋章である一つ目が描いてあった。声はしわがれて低く、かなりの高齢のようでもある。

「それは皮肉か」

 ちらと扉を見やったオダインはため息をついた。

「毎夜毎夜、あの貪欲なメスどもの相手をして精を注ぎ続けるのは、もう正直うんざりじゃ。薬の力を借りてとはいえ、よく我がモノが立ち続けておると、正直あきれておる。イザベラでも連れてきておれば少しは慰めになったものを、ここにはそうもゆかぬ」

「ご心中……」

 おさっしいたしますと、皆までは言わない。彼とて、彼らの忠実な下僕と変えるために毎夜のように若い女を抱いていた。オダインの秘薬により、数十年ぶりに男の力を取り戻した彼ではあったが、毎夜幾人もの女と肌を合わせれば、さすがに食傷気味であった。

 オダインは服の前を合わせながら振り返った。扉を閉めてしまうと、中の叫びは囁きぐらいにしか聞こえなかった。

「それで、何の用かの?」

「エルミナが死にました。カ−スからアンデルアに抜ける国境の森の中で、惨殺されておりました」

 オダインは眉をひそめた。

 到着が遅いとは思っていた。しかし、アアゾネア軍随一の智謀の持ち主で剣の達人でもあった彼女に、万が一のことなど想像もしていなかった。ならばこそ、旅慣れてはおらぬと言った彼女を、ナム−ルの自分の屋敷とアマゾネアの連絡役として使っていたのだ。

「女子の一人旅じゃ。狼藉者の仕業かの?」

「ではございませぬ。レイピアが折れ飛び、右肩から股間まで、一息で二つに切り裂かれておりました」

 その様を想像して、オダインはさらに眉をしかめた。笑っているような顔の皺の中で、見慣れたものだけがわかるわずかな変化であった。

 人間を二つに切り裂くことは想像よりたやすい。ただ普通は腰車に斬る。腹から腰の辺り、呼吸と拍子が合えば内臓しか詰まっていないそこは、上下二つに簡単に切り裂ける。切った後、上と下、切り口は輪っかになる。だから腰車という。だが、左右二つ、縦には斬れぬ。骨がある。鎖骨があり肋骨がある。骨盤もある。力任せに刀を振り下ろせば、途中までは切れる。だが、前と後にある肋骨を全て切り割ることなど不可能だ。いや、不可能なはず、だ。

 ただ、それが事実だとしたら、思い当たるのは一つしかなかった。

「マルバ族か……」

「おそらくは」

 オダインは目を閉じると沈思した。

 エルミナは以前シルヴィア王女の一番の側近であった。アマゾネアの中で、彼女を知るものなら、例え殺されても彼女が国を裏切ることは無いと皆知っている。

 ならば、同じアマゾネアの民のマルバ族が彼女を襲ったのならば、彼女が彼の下僕と化していることを知っている者、あるいはその仲間が背後で糸を引いているに違いない。もちろん、オダインがアマゾネアの地で何をしているか知っての上でだ。

 誰だ………?

 魔道師ギルドの者は論外だ。もし裏切れば死よりも恐ろしい制裁が待っていることを皆知っている。

 ナナセ、ムハンドでは、シルヴィア、ネイル、エルミナをはじめ、役に立ちそうな者数十名に精を注いだ。それ以外は衰弱で死に絶えたはずであった。死んでいなくても、既に発狂しているか、もし精を注がれて生きながらえても、なぜ自分が狂ったようになったのかまでは知らぬはずだ。

 ならば、ピルナ−グの戦でアマゾネアの兵たちと交わったアンデルア兵。彼らに精を注がれた女たちは、彼らがロマリア軍と交代に国に引き上げていったときに、止め追いすがる家族や友を蹴飛ばすように振り切り、全てを捨てて彼らを追いアンデルアに移住してしまった。その数五千とも聞いた。ただ、アンデルア兵も、彼女たちが単に媚薬に狂っているとしか思っていないはずだ。魂まで売り渡した性奴と化してしまっているとは思ってもいないだろう。

「サリ−シア」

「はい、ご主人様」

 片腕の妖剣士が、もたれていた壁から体を起こした。久しぶりに主から名前を呼ばれて、じゅっと股間が蜜を吐き出した。うれしさに目を潤ませて、顔を赤らめる。しばし、この秘密の儀式が行われる場所の護衛の役目さえ忘れたかのように、うっとりとした表情になった。

「お主はどう思う?」

「ラグナ様のおっしゃった斬りよう、確かにマルバ族の大刀ならば可能と存じます。ただ、マルバ族の象徴のように言われているこの大刀、実は使いこなせる者はマルバ族でもごくわずかなのでございます」

「たわけたことを、戦場ではマルバ族は皆使っておる」

 ラグナと呼ばれた長身の魔道師は、少し声を荒げた。

「ごもっとも。ただし、戦場のみです。周りを敵に囲まれた乱戦の中で、敵を蹴散らすのにあれ以上のものはございませぬ。しかし、一対一の戦いになった場合に、あの大刀は使いにくい。あの長さ、重さゆえに、手元につけこまれるとかなり厄介なことになります。戦場に持参することはあれ、普段から旅先まで持ち歩いているものはごく少数かと」

 オダインが先を促すようにわずかに頷いた。

「あの刀を使いこなせる者はほんの少数、私が知っているものでは数名です。ましてやあのエルミナ相手に一刀のもとに切り下げるなど……」

「心当たりの名を申してみよ」

「まずご存知のネイル、彼の者はお手元におりまする。次いで族長の娘アレクサ、これはピルナ−グの戦に参加しておりましたゆえ、何者かの奴隷となっておりましょう」

 サリ−シアは自分と同じ身にあるだろう者を、平然と奴隷と呼んだ。

「次いで剣師アンミバ、これはもう七十を超えておるはず…」

 マルバ族では驚くほどの高齢と言ってよかった。剣を振るうどころか、自分の力で歩けるかも怪しい。

「…あとは族長のサンザ、この者は他のマルバ族同様行方知れずとなっております」

「族長のサンザか………まあそんなところであろうな」

 オダインは軽く数度頷いた。

 ふと、苦い思いがよみがえってきて、彼は顔をしかめた。

 アマゾネアの敗北が決定的となった時、オダインはアンデルアの兵に先んじてアマゾネアに忍び入った。

 目的は、アルバ−ナの山岳民族ハイランダ−と並んで、中原最強と言われたマルバ族を手に入れることであった。

 マルバ族は五百に満たないと聞いていた。そして多くが戦や旅に出て、森深くの集落にはおそらく百名程度しかいないと思われた。その内、年寄りを除けば数十名と思われる。それらに魔香を嗅がせ、直接精を注いで忠実な奴隷に変える。あとは村に帰ったものを次々に捕らえさせ、まとめて香を嗅がせればよい。

 これだけは配下の魔道師にはさせられぬ。彼女たちを直接の彼自信の支配下に置くことが大切だった。狂い死にさせようと思っていたネイルを直前で思いとどまって彼の奴隷と変えたのは、マルバ族の情報を手に入れるために他ならない。

 だが、旅を急いでマルバ族の集落と思しきところにたどり着いた彼は、呆然と立ち尽くした。

 村はなかった。

 全ての建物が打ち壊され、火を放たれて焼け落ちていた。

 争った痕はなかった。

 彼女たちが村を捨てて去ったことは明らかであった。

 戦士の一族であるマルバ族ならば、例え万の軍勢が攻め込んでも逃げるはずはない。戦いの中に死ぬ事を選ぶはずであった。まるで、自分たちに襲い掛かろうとしている災厄がどのような性質のものであるかを知っていたかのような、もう戻る意思を見せぬ、見事なくらいの去り方であった。

 族長のサンザを思った。見たことはないが、潰れたような平べったい鼻、どんぐり眼に唇のめくれた顔を持つ、縮れた赤毛の醜女と聞いていた。狡猾で貪欲とのうわさもあった。貪欲な人間は、えてして危険に鼻が利く。彼女が一族の者をどこかに隠したに違いなかった。その容貌と裏腹に、一族の者を狂おしく愛していると言ったネイルの言葉に、そうかもしれぬと彼はうなずいた。力だけでは、小なりといえども一族を束ねることなどできぬ。

 確実に手に入ると思った二つのものを同時に失ったことに、すぐに彼は気付いた。

 手に入れそこなったもう一つのものとは、マルバ族が溜め込んでいるとうわさのあった黄金である。

 マルバ族の多くは、その人生の多くを修行の旅の中に暮らす。

 そして生活の糧を求めて、その剣技を売る。傭兵として、用心棒として、マルバ族は高値で求められた。

 剣の技量は折紙付であった。そして決して雇い主を裏切らぬ。いくら金を積まれてもだ。彼女たちがより高価な金で雇われようとするのは、その方がより危険な戦いの中に身を置ける可能性が高いからに他ならない。脅しは通じなかった。百の人数で取り囲めば、普通の傭兵なら主を捨てて逃げ散る。高価であっても命を捨てるほどの金はもらってはおらぬ。だがマルバ族は、そんな中でも嬉々として剣を振るって戦った。

雇い主を殺すぞ、の脅しも効果はなかった。たとえ最後には討ち取ることができたとしても、それまでに多くの者が斬られる。だれもその一人にはなりたくなかった。マルバ族がいる、それだけで野盗の類も襲ってこなくなった。高価な商品を運ぶ商人たちは、争ってマルバ族の傭兵を求めた。絶対数が少ない上に、都合よく職を求めているとは限らぬ。気に入らぬ仕事なら、いくら金を積んでも断った。自然その値はつりあがった。結果多くの金を得たマルバ族は、持ちきれなくなった金を黄金に替えて、自分の村に戻り、また身軽になって旅立っていった。

 それを何百年も続けている。マルバ族の内情は、小国の王家、大商人も及ばぬと言われていた。

 マルバ族の戦士とその黄金。オダインはそのどちらも手に入れ入ることはできなかったのだ。

 今から思えば、ネイルは拾い物であった。マルバ族最強の戦士と呼ばれていることは後で知った。今となっては、マルバ族との唯一のつながりでもあった。

「サリ−シアよ」

「はい、御主人様」

 そっと、彼女は頭を下げた。

「おぬしがもしサンザと立ち会えば、勝てるかの?」

「まず」

 勝てると彼女は言った。

 ほうっとオダインはほとんどない眉を開いた。

「勝てるか?」

「勝てまする」

 繰り返しの問いに、彼女はにっこりと微笑んだ。マルバ族をそのまま小さくしたような、黒髪に浅黒い肌をしていた。二重のけぶるような美しい目をしている。形のいい鼻と、ハ−ト型の唇はわずかに厚い。左の手が肩からなかった。初陣で切り落とされたその手が、彼女の人生を決めた。一命をとりとめ、そのハンデを克服するために練った剣法が、人をして隻腕の魔剣士と呼ばせるまでになったのだ。

「相手はマルバ族、しかもその族長。あの大刀相手にどう戦う?」

「戦場の働きであれば、私など到底及びませぬ。しかしながら一対一なれば、そこには術というものが入る余地がございます」

「ほう…」

「名人達人といわれたものが、未熟者の秘技ただの一手のために敗れた例も聞いております。いつかマルバ族相手に戦う日のために、あの大刀に対する手は、私なりに練ってございますれば」

「よい。ならばサンザを探して捕らえよ。手に余るようなら斬れ。直ちにナム−ルに向かえ」

「ナム−ルでございますか?」

 ラグナが怪訝そうな声を出した。

「なぜ?」

「愚かな。エルミナのことを知っておったのならば、次に向かうはナム−ルの我が屋敷よ。助太刀はいるか?」

「ご無用に願います。ただ、旅慣れぬ道ゆえ供をお付けください」

「好きな者を連れてゆけ。直ちに向かえ。もしわしの屋敷で待ってもサンザが現れねば、奴を探してそのまま旅に出よ。ただしつなぎはつくようにしておけ」

「はっ」

 自分の剣技を御主人様が必要としてくださるという喜びにほほを染め、サリ−シアは片膝をついて礼をすると、かけるように廊下を去って行った。

 それを見送ってから、オダインは軽く目を閉じた。

「よろしいのですか?サンザを斬ってはマルバ族の……」

「アンデルアにいるはずの、そのアレクサとかいう族長の娘を探させよ。すぐにだ」

 ラグナが無言でうっそりと頭を下げた。

 そこでオダインは一つため息をついた。小さな体を更に縮める様なため息であった。マルバ族のことを思い出したのは、思いの他ショックだったらしい。他のことが順調に行きすぎぐらいうまくいっているため尚更であった。

「わしも一度カ−スに帰るか」

「ナム−ルのことは私どもにお任せいただき、どうぞ心安らかに」

「そうではない。事ここに至っては捨て置けぬ男もおるでな。奴の始末は直接わしがしたい」

「それは……」

「まあよい。今宵はこれくらいでな。待っておる女子もおる。コルドヴァ殿は御壮健かの?」

「毎夜、女子を送っております。大分お楽しみの御様子」

 笑いを含んだ声でラグナが答えた。

 アマゾネア占領軍の司令官である彼だけではない。他の将軍、士官など、占領軍の主だった者には、毎夜魔香で奴隷と変えた若い女を何人も送り込んでいる。毎夜毎夜の性の饗宴で、占領軍の中枢は既に骨抜きと化していた。夜毎に百人以上増えてゆく性奴たちは、その目標を下士官にまで広げ、アンデルアの兵と入れ違いにやってきたロマリアの占領軍は、来て半月もたたぬうちに、既にその統制機能を失いつつあった。

「よい。なれど気をつけよ。若い将校の中に、われらのたくらみにうすうす気付いて、探りを入れてきている者も見受けられる」

「ご懸念には及びませぬ。おまかせあれ」

 自信ありげに頷いたラグナに、オダインは軽く頷き返すと、先ほど出てきた扉を開いた。とたんに泣きそうな歓声が彼を包んだ。




 ああ…とコルドヴァはあえぎ声をあげた。

 両胸に、自分の娘ほどの少女が、ちゅうちゅうと音を立てて吸い付いていた。

 自分を膝枕をしている女も若かった。胸が大きく腰まわりも豊かで、既に成熟した大人のような体をしていたが、表情は幼く、その大きな瞳がうっとりと、じっと彼を見下ろしながら髪を撫で付けていた。

 股間のモノを嘗め回している感触は二つ以上あったが、まだ別に四人ほどいるはずであった。

 若い女を好むようになったのは、気の強い妻を持ったせいだと彼は思っていた。美人ではあったが、王家を祖先に持つ妻は、その高貴な家系を鼻にかけ、閨の中でも容易には彼を寄せ付けなかった。

 アマゾネア占領軍司令官として赴任すると言ったとき、妻は顔色を変えて、そんな田舎には付いては行かぬと叫んだ。たかが数年のことと説得したが無駄であった。十七になる娘も同じ言葉を叫んだ。妻に似て美しかったが、気の強そうな唇が皮肉な口調で父をあざ笑った。

 明らかな左遷であった。

 しかし、このような辺境の地でこのような天国が待っているとは思いもよらなかった。妻子がいてはこうはできぬ、天の配剤であると思っていた。

 初めて彼を訪れたとき、娘たちは司令官閣下の心労をお慰めしたいと言った。お金はいらぬ、ただ毎夜側にはべり、お話などして、コルドヴァ様の気晴らしにでもなればそれだけでよいとも言った。とても悪事など働けそうには見えぬ、純真な目をした、幼さの漂う少女たちであった。

 最初は、酒の酌をしながらアマゾネアの話を聞かせてくれた。初めて聞くアマゾネアの地理、風習、名士の名前など、ほとんど知識の無かった彼はありがたいことだと思った。はじめは三人だったが、友が友を呼び、日ごとに少女たちの数が増えていった。

そして、酒の進んだある日、一人の少女が衣服を脱ぎ捨て彼に抱きついたのを契機にこのような関係になってしまった。今では、彼女たちは部屋に入るとすぐ身に付けているものを脱ぎ捨て、彼の衣服を剥ぎながらベットに押し倒した。彼も、とっくに抵抗する気力を無くしていた。

 全身から青い果実の匂いをぷんぷんさせながら、彼女たちは彼も目を剥く様な性技を使った。結婚をせぬアマゾネアの民は、気に入った男を虜にし、その精を速やかに自らに注がせて子を宿す必要がある。早いうちから閨の技が母から子へ伝授された。

他国の女が知らぬ秘技も多くあった。若いころに、彼も仲間の貴族の子弟と一緒に悪所通いにはまったことがあった。家の金を自由に出来ぬ身で、高級な娼婦など買うことは出来なかったが、スラムの一角にあるうらぶれた娼館の年増の娼婦たちは、さまざまな手練手管を使って彼を楽しませてくれた。しかし、この少女たちは、娼婦たちより更に巧みな技でいつも彼に悲鳴をあげさせた。

 毎夜毎夜訪れる十人近い彼女たちからの奉仕に、コルドヴァはいつも女の子のような声をあげて何度も何度も果てさせられた。目の下の疲労くまが日ごとに濃くなっていった。

 彼女たちは優しく、しかも貪欲であった。みな一様に瞳をうるませ、ほほを赤らめて彼を見つめた。誰かから金をもらってきているのか?……いや違う……彼は思った。彼に奉仕するときの彼女たちの表情は喜びに溢れていた。

欲得ずくで無いことは明らかだった。その行為に喜びを感じ、自ら進んで彼に体を与え、奉仕をしているのだ。

 まさか彼女たちが魔道師たちの性奴と化し、彼に奉仕するように命ぜられ、その命に従うことに無上の喜びを感じながら奉仕しているとは思いもよらぬコルドヴァであった。

 ペチャっと乳首を舐める舌が音をたてた。まるで些細ないたずらでもするかのように、わずかに目に笑みを浮かべ、口元を笑いにゆがめながら、どう?とでも問いた気にそのブロンドの少女は彼の瞳を見つめた。

 その隣の黒髪の少女も彼の乳首を口に含んで舌でなぶりながら、うっとりと彼の顔を見つめていた。

 ベットの上を這ってきた娘が二人、彼の手を取った。指を一本一本口に含んではねっとりと嘗め回した。あるいはきゅっとほほをすぼめ、強く吸いちゅうちゅうと音をたてさせた。

 乳首をなぶっていた舌が、胸を這い回りながらねっとりと顔にあがってきて、健康的なピンク色のそれが彼の唇を舐めた。彼女たちのネットリとした涎が唇に垂れ、口の中に流れ込んできて、彼はそれを飲み込んだ。

 はあっと彼はあえいだ。

 細い白い指が、その柔らかい腹でこりこりと乳首をはさんでもてあそんでいた。

「ああ…コルドヴァ様……そろそろくださいませ……」

 彼のモノを口に含んで嘗め回していた切れ長の目の少女があえぎ声をあげながらねだった。長い波打つような豊かな金髪を汗まみれの顔にかけ、釣りあがった目をとろけさせて、長く伸ばした舌で自分の唇を舐め回した。

 ああ…ああああっと肯定ともあえぎ声ともつかぬ声をあげながら、彼はがくがく頷いた。自分の半分も生きていないような少女たちに完全にもてあそばれていた。快楽のために全身が痺れ、指の一本すら動かなかった。

 少女が膝立ちで彼の股間をまたいだ。気品のある顔が高慢につんと顎をそらし、少し半眼になって彼を見下ろした。同じような行為でも妻とは全然違った。今まさに大人にならんとする少女が、精一杯無理をして大人の女性を演じているような、そんな抱きしめたくなるようなかわいらしさがあった。

まるで、彼の興奮のつぼを知り尽くしているかのような彼女たちの振る舞いに、かれのモノは触れられずともはじけてしまいそうになっていた。

 ゆっくりと彼のモノをめがけて、彼女の股間が降りてきた。

 先端が触れたとき、入り口は狭く彼のモノはしばし立ち往生した。

 使い込まれていないピンク色の彼女のものであった。

 彼が初めて使ったそこであった。先の夜、初めて彼女のものを破る時に感動に体が震えた。この美しい少女の体に、彼女が死ぬまで消えぬ自分を刻み込む瞬間であった。ここにいる少女は、全て彼が膜を破った。この少女たちは、すべて俺のものだと思った。

この後、誰かに嫁ぐことがあっても、彼が最初の男だったという事実は消えないのだ。永遠に俺のものだっ!と叫びたかった。

手放す気は無かった。魔道師たちの巧みな術により、破られていないように見せかけられたまがい物だとは夢にも思っていなかった。

 ぐうっと顔をしかめながら、彼女の中に少しずつ彼のものが埋まっていった。

 いつもながらにきつかった。彼のものがいっぱいに彼女の中を占めていた。

 それがさらにぎゅっと締め付けた。締め付けながら顫動をはじめた。

 うひいいっと悲鳴をあげて、彼は涎を垂らした。情けない姿だとはわかっていても、叫べば快感は倍増した。元女王の寝室であったそこから二つの扉と長い廊下を経た先まで、部下には入るなと命じてあった。

安心して泣き声があげれた。快楽に顔を真っ赤にし、それでもなんとか高慢な様を取り繕うとする少女の淫靡な顔を見つめながら、彼はだらだらと涎を垂らし、涙を流しながら、快楽の声をあげた。

「あ……ああああっ……す…素敵です、素敵…コルドヴ……あああっ!」

「ああ…はああああ……あはあああ………」

「ああ、いい……いいです…はあ…はあ……もっと、もっとしてえええっ!」

 いぎいいいいっと悲鳴をあげて、彼の上で少女が狂ったように腰を振った。豊かな胸が躍り狂った。

高慢を繕うのも忘れて完全に彼のモノがもたらす快感に酔いしれているかのように、意味もわからぬ歓喜の声をあげながら、彼女は飛び跳ねるかのように激しく腰を動かした。

「あ…ああああ……あ……は、果てるっ……」

「ねえ、ちょうだいっ!は…早くちょうだいようっ!…ああああっ!」

 二人同時の激しい歓喜の声をあげて、上下二つの体がおこりのようにぶるぶる震えた。

 ああ……と体をのけぞらせていた少女が、しばらく余韻を楽しむかのように、うっとりとした目でゆらゆらと上半身をゆらしていたが、やがて大きくため息をつくとゆっくりとコルドヴァの上に覆いかぶさっていった。はあはあと荒い息をつく彼の両頬を手で挟むと、愛しそうに唇を重ねた。

 呼吸を閉ざされた彼は目を剥いたが、その柔らかい感触を押しのけることもできずに、激しく鼻で息を吸った。

「ああ、素敵…コルドヴァ様……」

「ねえ、次はわたくしと……」

「いいえ、私が……」

 二人の激しい交わりを周りを取り囲んで見つめていた少女たちが、一斉に手を伸ばした。

「ま、待て……待ってくれ……」

 ぜいぜいと息を切らせて激しく胸を上下させながら、コルドヴァは蚊の泣くような声で頼んだ。

 心の臓が変な脈を打っている。最近いつもそうであった。毎夜明け方近くまで彼女たちと交わり、ほとんど寝ずに昼の執務をとっていた。会議の途中で船を漕いだり、書類の作成中に眠っていたこともあった。

疲労が極限までたまっていた。それでも、彼女たちからの交わりを拒むことが出来ぬ。いざともなれば何日かは彼女たちを部屋に入れるのを拒み、ゆっくり休めばよいと思いながら、そうまでなって未だにそれが出来ずにいる自分に気付いてすらいなかった。

 司令官としての執務はほとんどとっていなかった。もともと軍人貴族の彼の下には、副官をはじめ多くの有能な司政官がつけられていた。

彼らにまかせて、自分は必要な書類にサインをしていればよい、と割り切ることにしていた。毎夜少女たちと交わっていた彼は、彼ら部下の元にも多くの女たちが夜毎に通い、既に主だった部下たち全てが肉欲の虜となってしまっていることなど気付こうはずも無かった。

司政会議の場でも、皆が寝不足と疲労のためにぼんやりとして議論など無かったが、参加者の全てがそうだったために、その異様さに気付くものなどいなかった。全ての議題がとどこおりなく承認されていったが、それすらうつろな頭で、前夜交わった女たちが耳元で繰り返しささやいていた内容をなぞるように書かれた、多分に怪しげなものであった。

 何も知らぬ司令官は、全身を覆う快感に脳髄までしびれされ、涎の止まらぬ口で哀願した。

「し、しばらくやすませてくれい……」

 少女たちはすばやく目を交わした。一瞬、狡猾な笑いがその口に浮かんで消えた。

「ではしばらくお話でもいたしましょう」

 先ほどまで膝枕をしていた少女が、彼の頭を優しく抱いて再び自分の膝に乗せた。目を細め、口元に笑みを浮かべて汗にぬれた彼の髪をゆっくりと撫で付ける。

 彼は救われたようにため息をついた。疲れきっていたが、それでいてまだまだやり足らない気がしていた。

 あと二十若かったらと夜毎に思った。

「お話といえば、先日気になる噂を聞きましたわ……」

 一人が彼の傍らに横たわり、そっと彼の胸を撫でた。

「ほう…なんだ?」

「なんでも、若い士官の方々が、閣下によからぬことをたくらんでいるとか」

 コルドヴァの顔色が変わった。どこにそんな力を残していたのかと思う素早さで半身を起こした。

「…そういえば、わたくしも聞きましたわ。お名前は…確かフィル=バ−カ−様、ルイス……え-と……」

「ルイス=モ−トンか?」

「ああ、確かにそのようなお名前でした。あと、城門の警備の指揮をとっておられるバラカ様」

 コルドヴァはひとつ長いため息をつくと、再び少女の膝に頭を預けて笑った。

「ばかな噂じゃ。三人とも実直でまじめな若者だ。家柄もよい。つまらぬ悪企みをするような者達ではないわ」

「あら、そうでしたの?」

 少女の一人がちょっと驚いたように目を開いた。

「失礼をいたしました。御三方とも、立派な方なのですね」

「そうだとも。頭も切れるし腕も立つ。ねたんだ者がたてたつまらぬ噂じゃ。そのようなこと二度と口にするでない」

「そんな立派な方なら、わたくし是非一度お会いしたいわ」

 一人の少女が胸の前で指を絡ませ、ほっと息をついた。さっきまでコルドヴァに注がれていた視線が、少し潤んで遠くを見つめた。

「わたくしも」

「ああ、わたくしも。ねえ、皆さん、明日の夜にでもお訪ねしましょうか?」

「ええ、素敵」

 彼女たちが目を輝かせて話す様を見て、コルドヴァの胸にわずかに嫉妬の炎がわいた。ああ、あれぐらいの若さがあればと、羨望の目で見ていた彼らであった。

「閣下もお疲れのご様子ですし、今日はこれでお暇しましょうか」

「ええ、そうしましょう」

 彼をベットの上に残し、少女たちは次々に衣服を身に付け始めた。

「お、おいお前たち、わしはまだ疲れてなどおらぬぞ」

「明日の夜もございます」

 さっき、明日若い将校たちを訪ねようと言っていた口が、視線も向けずにぬけぬけと答えた。

 明日はここに来る気は無かった。別に先ほど名をあげた将校たちを訪ねる気もない。既に試して、女の肉にはどうしても落ちなかった性剛実直な若者たちであった。

 種はまいた。わずかに湧いた嫉妬はやがて大きな憎悪へと育つはずであった。育てる自信もあった。

 明後日、数人だけで来て、コルドヴァの前で彼らとの楽しげな交流話でもしてやれば……彼はどんな顔をするであろう。そしてその結果どのような行動に出るか……楽しみであった。

 ご主人様……ラグナ様はどれほど褒めてくださることか……

 うっとりとして部屋を出ながら、彼女はコルドヴァに聞こえる大きさで、連れの少女に最後の一言を放った。

「バラカ様の宿舎はどこだったかしら?」

 ほうけたような顔になっているコルドヴァ一人を部屋に残し、扉が閉まった。




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