最初に気がついたのはアルだった。

「あれ、しってる」

「どしたの、アル?」

あるが指差した方向には二人の男が立っていた。

「なんだ、あいつら……あれっ? 何か見たことがあったような……」

「どこどこ……ってあの二人……」

二人はクレスが言葉を発する寸前、こちらの存在に気がついたようだ。

「わっ! てめーらは女魔剣士クレス=エレノアとその仲間!」


どげしっ!


赤毛の男がしゃべった次の瞬間にはアリスの靴がその顔面にめり込んでいた

「いてて……なにしやがる!」

「誰がワガママウィザードとその仲間達だっ! 天才剣士アレフ=クレイオとその肉奴隷達と言い直……」


どごぉぉん!!


「ぐおっ!?」

「誰がウィザードよっ! 私は魔法剣士だっていってるでしょうが! あと、ワガママでもないしあんたの肉奴隷になった記憶もないわよっ! ついでにつっこめば、あんたのどこが天才だっつーのっ!」

「でも、爆発魔法はちょっとどうかと思いますよ」

しばらく呆気に取られていたヴァルだったが、やっと我に返り話を進めた。

「たしかあなた方は賞金稼ぎギルドの……」

「……はっ……お、おうよ!A級賞金稼ぎ“熱波”のバルドと“凍土”のヒルスだ!」


どさくさ紛れに説明してしまうと、彼らはこの世界で能力者と呼ばれる人間である。魔法とは別の特殊能力を持って産れてくる者をそう呼ぶのだ。

彼らの能力は、それぞれ熱気と冷気を操ることである。その能力でA級賞金稼ぎの称号を手にしたのだ。(能力者は賞金稼ぎ、傭兵、仕事屋などの職業に就くことが多い)

A級ハンターはそう多い訳ではないのでその筋の人間は名前ぐらいは知っていて当然なのだ。(だからバルドは「クレスとその仲間」という表現をした)

ちなみにこの二つのパーティーは何度か会っている。いわゆる商売敵という奴だ。


「別に名乗んなくてもいいわよ。知ってるから」

「……にしては悩んでたように見えたが……」

「気のせいよ。気のせい」

「……まぁいい。そんな事よりも今回こそお前らには負けねーぞ」

「負けない?」

それまで冷静に傍観していたシリルが口を挟んだ。

「それってどういう事かしら。何か、このダンジョンにあるわけ?」

と、そのとき……

「なっ、ななななななななっ!」

「な?」

バルドがおもむろにクレスの腕を引き小声で話しかけた。

「なんでこんなに美しい人がお前らのパーティーにいるんだ!?」

「はぁ?」

「いつからこんな美しい人が……」

「ちょ、ちょっとまってよ。言ってる意味がよく分からないわよ」

「お前ら、いつからだ、いつから隠してた!」

「ちょっと、落ち着いてよ……」

「いつからだぁぁぁぁぁ〜! うがぁぁぁぁ〜!」

「落ち着けっつーの!」



スパァァン!


いつのまにか背後に立っていたアルスが緑色のスリッパでバルドの頭を叩いていた。

「お、お前、怪我は!?」

バルドは我に返るとアリスに問いかけた。

「お前が暴走してる間にヴァルのオッサンに治してもらったんだよ」

「なるほどな」

「ときに赤毛よ」

「バルドだ!」

「バルドよ。お前、ずいぶんとうちのシリルがお気に入りのようだな?」

「シリルさんというのか。何と美しい名前だ……」

「名前を教えてやったんだから、オレの質問に答えろよ」

「ふざけるな。誰がお前なんぞの質問に答えるか」

「それじゃ君は名前以外の事は知りたくない訳だ。なるほど、なるほど」

「ちょっとまて、きたねぇぞ!」

「知らないよっと。さ、行こーぜみんな」

「く、くそ、この野郎……!」

アリスはバルドに背を向け仲間の元へと歩み寄った。すると、シリルが言った。

「ちょっと待ってアリス。彼らに少し尋ねたいことがあるの」

「ははぁぁ〜。何なりとお尋ね下さい、シリルさん」

(土下座までせんでも……)

ニコッ

「はっ……今の微笑みはもしかして俺に好意を持ってくれてるのでは?そうだ。そうでなければ初対面の俺に……」

(てゆーか……)

(あれだけあからさまに態度に出してりゃ気づくわよねぇ)

(全部声にして出してますしね……)

(ガゥ……)

(…………)

「とりあえず、あなたたちがこのダンジョンにきた目的は?」

「はっはい! それはですね、実はこのダンジョンは最近発見されたものなんですけど、どうも歴史学上重大な発見らしいんですよ。それで調査をしなければならないんですけど、この広さでしょう。先発隊が一週間以上も帰って来ないので、危険なのではと判断された訳なんです。それで、賞金稼ぎギルドで、中に入って安全な道の確保。つまり、魔物退治なんかですけど、それを達成した者に10万Gの賞金が出ることになってるんですよ」

(あのバカがあんなに流暢に話すとこなんて初めてみたぜ……)

(私も……あんたは?)

クレスは小声でヒリスに尋ねた。

ヒリスは首を横に振るばかりである。

「なるほどね……。ということは、あなたたちはここから外への経路を確保してるって事よね?」

「いえ……それが、どーも迷ってしまったようで……」

「なんだそりゃー!」

アリスとクレスがいっせいに突っ込む。

「結局あんたたちもただの迷子って事?」

「そうだがそれがどうした」

「ああもう、無駄な時間使わせないでよ!」

「この役立たずが!」

「なんだと、てめーら!」

「うっさい、しゃべんな!」

「この赤アタマ!」

「緑アタマにいわれる筋合いないわ!」

「なんだとコラァ!」

「なんだぁ!」

「止めて下さい二人とも……」

「オッサンは黙ってろよ!」

「そういうわけにはいきませんよ。バルドさん、あなたたちも迷っているのなら我々と一緒に行きませんか?」

「はぁ!? 何言ってんだオッサン!」

「同じ迷子なら協力し合った方がいいでしょう」

「悪いが俺もお断りだぜ! こんな奴と一緒に行動なんか出来るか!」

「それはこっちの台詞だ!」

「なんかあんたたちってキャラかぶってない?」

『馬鹿なこというな!』

「自分達で証明してるじゃない」

『マネすんじゃねぇよ、殺すぞテメェ!』

「どうして混ぜっ返すようなことを……」

「あはは、ごめんねヴァルさん」

一方、アリスとバルドのいがみ合いは……

「たとえシリルさんの仲間でもこいつだけは許せん! もういい、行くぞヒルス!」

「……」

こうしてバルドとヒルスは別の道を歩いていった。

「ったく。何なんだあいつらは……」

「結局、外には出られないってことか……」

「二人ともどうしてあんなに喧嘩腰に話すんですか」

「何かあいつみてるとムカツクんだよ」

「そーそー」

「はぁ、全く……」

「ねぇ、みんな」

一人静かだったシリルが口を開いた。

「何?」

「私達もここの調査してみない?」

「は?」

「どのみち出口がどこだかわからないんだから、このダンジョンを調べてあわよくば宝なんかを頂いちゃえば……」

「なるほど。いいわね、それ」

「そんな……いけませんよ。歴史学上にも貴重な場所だといってたでしょう」

「くそ真面目だな〜。オッサンは」

「発想を変えてみたらいいのよ。私達は遺跡を荒すんじゃなくて、迷子になって帰り道を探す途中に拾い物をするのよ」

「シリルさんって口上手いのね……」

五人がそんな会話をしていた時、ふいに通路の一つから光が射し込んできた。光の向こう側から声が響く。

「そこにいるのは誰だ!」



第三話へ続く……

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