カツカツカツカツカツ…………

石畳の床の上を数人の足音が通り過ぎてゆく。時折、吹き抜ける風やしたたり落ちる水滴の音が聞こえるがそれ以外には何も無い。ここ一時間の間この三種の音だけが、この空間に存在していた。

「あ〜〜〜〜〜〜もうっ!! いらいらする〜〜〜〜〜〜!!」

突然、四種類目の音が現われた。それをきっかけに他の音達も再び目を覚ます。

「るっせーな。何なんだよ急に」

「急にじゃないわよ! こっちはどれだけ前から我慢してたと思ってるのよ」

「我慢してんのはお前だけじゃねーだろ。オレ達だって外に出てーんだよ」

「私はあんたみたいに神経太くないのよ! こんな湿っぽいダンジョンでずっと遠足してたら、そりゃ叫びたくもなるわよ!!」

少年と少女は周りの目も気にせず大音量の口喧嘩を始めた。このような事は日常茶飯事なのか、連れの三人は少しも動じていない

「そもそもこんなとこに迷い込んだのだってあんたの方向音痴のせいでしょうが! どう迷ったら森から地下迷宮に入り込むのよ」

「お前だって気がつかなかっただろうが! オレだけのせいじゃねーよ!」

「私は暗かったから分からなかったのよ!」

「オレも暗くて分からなかったんだ!!」

「日が暮れてるのに先に進もうとしたのはあんたでしょ! だいたいあんた、暗視できるはずじゃない!」

「バカかてめーは!! 暗視できるのはドワーフだ!!」

「エルフもドワーフも似たようなもんでしょ!」

「全っっ然違うわ!! あんな体力だけの生き物と一緒にすんな!」

「体力だけの生き物なんて、あんたのための言葉じゃない!」

「何だと!!」

「何よ!!」

(そろそろか……)

そこで、連れの一人が口をはさんだ。

「二人ともそのぐらいにしたらどうですか。クレスも歩き通しで気が滅入ってたのでしょう。どうですアリス、少し休憩にしませんか?」

よく通る低い声とそれに似合わぬ優しい口調で男は喧嘩の仲裁に入った。

「きゅうけい、しませんか」

今度は幼い声が片言で男の台詞の真似をする。

クレスと呼ばれた少女は嬉しそうにこう言った。

「ああ、もう何って優しいのかしら二人とも。どっかの緑頭とは大違いだわ!」

エルフ特有の緑の髪を揺らしてアリスと呼ばれた少年が怒鳴り散らす。

「誰の事だそれは! オッサンもアルも甘やかすんじゃねーよ! そんなんだから、こいつはいつまで経っても我が侭なんだよ!」

「誰が我が侭よ!」

あわてて「オッサン」が止めに入る。

「二人とも止めて下さいよ。前の休憩からもう数時間は経ってます。この先何があるか分からないのですから、休んでおくことに超したことはないですよ」

「でもなぁ……」

納得できないアリスに最後の一人が言った。

「私もそろそろ休憩した方がいいと思うわ。アリス」

「シリルまで……」

「五人中四人が休むって言ってるんだから、あんたの意見なんて聞く必要も無いのよ〜〜〜〜〜〜だ!!」

「クレス、わざわざ煽らないで下さい」

「……わかったよ、休憩しよう。ただし……」

「すこしだけだぞ!」

「……わかってんじゃねーか。アル……」

かくして五人はしばしの休息を取ることと相成った




この機に五人の紹介をして置こう。

まずパーティーのリーダー、アリス。

彼は先に述べた通りエルフなのだが、魔法に長け、力の弱いエルフ族にあって、彼は何故か魔法が苦手であった。使える魔法といえば、エンチャント系(武器強化)のみ(ただし、これだけは大得意)そして凄腕の剣術使いであり、この世界では珍しい日本刀という剣を所持している。

ギルドに屈しないはぐれ賞金稼ぎであり、エルフの里を滅ぼした仇を探して旅をしている。

次に、クレス。背中まで伸ばした黒髪をポニーテールにまとめている。可愛らしい我見とは裏腹に賞金稼ぎギルドのA級ハンターの肩書きを持っている。

立派な剣を背中に背負い、自ら魔法剣士と名乗っているが、剣で戦う所は仲間の四人ですらほとんど見たことが無い。では一体何を武器に戦うのか。答えは魔法である。攻撃魔法だけとはいえ、そのレパートリーは豊富で、禁呪、オリジナルを除けば使えない魔法はないであろう。

もともと一匹狼であったのだが、アリス、アルと一度一緒に仕事をして以来、その流れでパーティーに加わっている。

そして、アル。ビーストクォーターという種族の少年で、肉弾戦を得意とする。

ビーストクォーターとは獣人族と人間とのハーフである。(ちなみに獣人族は獣や半獣半人に変身する人間や、元から半獣半人な者達の事である)変身こそ出来ないものの、その身体能力は人間とは比較にならないほど高い。

とある森でアリスと出会い、すっかり気に入ってくっついてくるようになった。名前はアリスが自分の名前からとってつけた物である。

四番目はオッサンことヴァルトロフ=フォレスター。通称ヴァル。筋骨隆々のプリーストで、外見と性格、そして職業(クラス)のみごとなアンバランスさをかもちだしている。

戦闘では決して戦おうとはせず、仲間のサポートに徹している。

元々、世界中を旅する巡回神父であったが、ある事件がキッカケでアリスたちと行動を共にするようになった。

最後はシリル。金髪碧眼の美女なのだが、やはりそれだけではないはずである。彼女のクラスは召喚魔導師。精霊と言葉を交わすことの出来る数少ない人間である。

旅の目的は自然界に存在する全ての精霊と契約を交わすこと。(大きく分けて77種、細かく分類するとその10倍は下らない)

アリスたちとは利用し、利用され合う関係である。




10分弱ほど休んだとき、5人の前方から不気味なうなり声が聞こえてきた。

「何よこの声」

「モンスター以外の何があるってんだ」

「うるさいわねぇ。わかってるわよ」

「ビースト系。それもなかなかの数みたいよ」

「ヘルハウンド7匹に一票」

「じゃ、私はケルベロス9匹」

「オッサンは?」

「パスします」

アリスとクレスが何をやっているかというと、まだ見えていないモンスターの存在を確認したら、その種族と数をあてるという軽いギャンブルを毎回しているのである。

アルはギャンブルのことをよく理解していないので、残ったのはシリルである。

「ヘルバウンド13……やっぱり14匹」

「多すぎじゃねーか?」

「いいの。いつも通り100賭けよね」

「よし、ヴァルさん灯かりお願い!」

「はい」

返事をするとすぐに呪文を唱える。

「全能なる神よ、我を取り巻く深き闇を打ち消したまえ……ライト!」

ヴァルを中心に半径10m程の空間が光に包まれる。じきに光が弱まり辺りがはっきりと見えるようになった。見ると5人のいた通路から少し進んだ所に部屋があり、モンスターはそこから出てきたようだ。

モンスターの正体はヘルバウンド14匹。

「げっ!! またシリルの一人勝ちかよ!」 「絶対、あなたなにかしてるでしょ!」

「悪いわね。二人とも」

「くそっ!! 八つ当たりの時間だ!!」

「半分は私のだからね!」

言うがはやいか、二人は戦闘体勢に入る。

「真面目にやって下さい!」

ヴァルの声が響いた瞬間には、すでにアリスが3匹、クレスが5匹のヘルバウンドを倒していた

アリスは息もつかずに踏み込むと、さらに3匹の首をはねる

「アイスジャベリン!!」

クレスは水系の下級呪文を唱えて戦っていた

空中に現れた二本の氷の槍がヘルバウンド二匹をめがけて飛んで行く。二匹の胴に氷の槍が突き立てられたとき、すでに最後の一匹はアリスの手によって葬られていた

「ふぅ」

「少しすっきりしたわね」

「少しな」

刀身についた血を拭きながらアレスが答える

「どうせ出てくるならモンスターより宝の方がいいのにねぇ」

「…………」

「ん、アル、どうした」

「おれもモンスターやっつけたかった……」

「悪かったな。次出てきたらお前に任せるからな」

「ホントか?」

「本当に決まってるだろ。オレが嘘ついた事あるか?」

「ない!!」

「だろ」

「素直な少年だまくらかして、何が楽しいのかしらね」

「何か言ったか、クレス」

「別に」

その後もモンスターが度々出現したが、どれも取るに足らない雑魚ばかりだった

ちなみに賭けは、アリス1勝、クレス1勝、シリル9勝である

そして、1時間ほど経ったとき、思わぬ人物達がアリスたちの目の前に現れた



第二話へ続く……
前書きへ

戻る