ドレアム戦記
第一編 玄白胎動編 第8話
玄武地方南部、ノースフロウ王国第2の都市リガネス。東西南北の方向に菱形状に街を形成し、その中央に城宮殿を構えている。白陽宮とも呼ばれる宮殿は、全体に白みがかかった石造りで、質素な外見であるが、頑健で機能的なものであった。
宮殿の主、アルタイア・リガネス公爵はその日の政務を終えて部屋でくつろいでいた。根っからの武人である彼としては、まどろっこしい政治の世界は性に会わない。回りくどい言い方を多用されるだけで聞くのが嫌になり、早く終わらないかと思うこともしばしばあるが、立場上嫌とも言えずに悶々としていることが多かった。幸い、その辺の話については適任の重臣達がいるので、普段の政務は彼らに任せ、余程のことがない限り、自分から立ち入ろうとはしなかった。今日も、途中で部屋に戻り、日課の鍛錬である武功を行って一息ついたところだった。
アルタイアの耳にいつもの軽快な靴音が聞こえたのは、そのときだった。が、その音がいつもと違うことに気がついた。
<ん。早足のようだが>
部屋の扉が開いた。ノックもなしに扉を開けられるのは一人しかいない。案の定、それは政務長官のライラ・リガネス、アルタイアの夫人であった。ライラはリガネスの貿易商の娘として生まれたが、幼少の頃からの才媛を伸ばすためにセントアース帝国のエリート養成校であるSASに通い、首席で卒業した才女である。卒業後はリガネスに戻って家業を手伝っていたが、白陽宮にも出入りするうちにアルタイアに見初められ結婚した。だが、彼女は貞淑な妻の役割よりは、積極的に政治に参加することを望み、最初はアルタイアの秘書として、その後はSASで学んだ知識を存分に活用し、実力で政務長官に登りつめていた。
「アルタイア。今日の仕事はまだ終わらないわ」
そう言ったライラの顔はやや紅潮している。
「ん。何かあったのか?」
「ええ。予想はしていたけれど・・・、ノルバから使者が来たわ」
アルタイアは姿勢を正して座りなおした。
「来たか。で、会ったのか」
「会ったわ。可愛い女の子よ。でも、芯に強い意志を持った子」
「カゲトラ公爵からは何と言ってきたんだ」
「まだ、わからないのよ。彼女、ユキナはただ一言、密使として来たとしか言わなかったの。まあ、広間では誰が聞いているかわからないから用心したいということだと思うけど、それだけ慎重にならなきゃいけない用事ということね。賢明な対応だわ。だから、後ほど貴方とライセツ将軍、マクウェル商務長官、私の4人で会うことにして、応接室に案内しておいたわ」
「おお、ユキナという名前は聞いたことがあるな。確かノルバ一の槍使いだ」
アルタイアは、武人に関するデータベースならばかなり詳しく頭の中に入っていた。やはり、大いに興味があるものには強い。
「公爵の息女でもあるわ。側室の子よ」
ライラがさりげなく付け足した。
「使者の格から考えても、それなりの覚悟を持って会わないといけないわね」
「カゲトラ殿が仲介を求めて来るなら受けるまでだ」
珍しくやる気になっているアルタイアに対して、ライラは思案げに良人を見つめていた。
<単純な話じゃないような予感がするわ・・・>
ユキナは応接室で静かに待っていた。武道大会の控え室にいる心境である。今日のいでたちは、ジローの提案で武人の正装である。この上から鎧などを着ければ直ぐにでも戦場に立つことができる格好。色も質素に白系にしていた。こちらはルナの趣味であった。
「名前がユキナですもの、白が似合いそうですね」
にこやかに微笑んだルナの顔を思い出して、ユキナの心が少し和んだ。
扉がノックされた。
「はい」
「失礼」
そう言って4人の男女が入ってきた。3人は先ほど広間で遭っていた。残りの一人、ユキナを値踏みするように観ながら入ってきた男がアルタイア公爵なのであろうと、心の中でそう思いながら、椅子から立ち上がる。
4人もそれぞれの位置に立った。そして、唯一の女性、ライラの勧めで全員が席に着く。ユキナの正面に公爵、その左手にライラ、右手にマクウェル商務長官とライセツ将軍。全員が名乗って挨拶を交わすと、いよいよ本題に入った。
「今日はお時間を作っていただき、ありがとうございます。まずは、我が主君、カゲトラ公爵からの書状を預かってきておりますので、ご確認ください」
ユキナは懐から、ノルバ公爵家の印が刻まれた蝋で封をした書状を取り出すと、ライセツ将軍に手渡す。ライセツはそれに異常がないかどうか確認した後、公爵に対して一礼し、ナイフで封を開け、書状を公爵に手渡した。
アルタイアはもらった書をみた。サインは間違いなくカゲトラ公爵のものだった。が、その中身は・・・。
「むう。カゲトラ殿は覚悟を決められたのか・・・」
そう言って、ライラに書状を渡す。ライラが熱心に読むのを待ちながら、アルタイアはユキナを見つめていた。小柄だが、柔軟で俊敏な筋肉が全身を覆っているような印象を受けた。臨戦時でない今でさえ、武人としての彼の目から見て隙が無いのがわかった。
「ユキナ殿。君は槍の名手だそうだな」
「はっ。しかし、ノルバではそのように言われていますが、世の中には凄い方がいらっしゃいます」
「うん。慢心しないというのはいいことだな。己の技を磨くのは肉体ばかり鍛えてもだめだ。それに対等の精神がなければなりたたん」
「いいえ。慢心への戒めではなく、本当に凄い方を目の当たりにし、自分のいた世界の狭さを知ったのです」
「ほう。それはどういう者だ」
アルタイアが興味を示した。
「はい。先日、ノルバが攻められた時に、苦境から救ってくれた方です」
「おお、ノルバの守備兵4千に対して、正規軍1万と青龍地方の騎兵3千で攻めたそうだな。だが、こう着状態が続き、結局はテセウス王の命令で中途で兵を引いたと聞いていたが。その時のことか」
「はい。い、いえ」
ユキナは口ごもった。アルタイア公爵が聞いている話と、事実が違っていたから。ノルバの戦いの正確な情報はテセウス王側の都合のいいように脚色されて伝わっていたのだ。
「ふむ」
アルタイアは別に気にも留めなかったが、隣のマクウェルが機敏に反応した。
「公爵の言ったことに事実と違うことがあるとでも言うのですか」
「・・・・・・・・・」
ユキナは咄嗟にどう答えていいものかどうか迷っていた。迷いが表情に出てしまったらしく、今度はアルタイアまでも不審に思ったようだ。
「どうした。私の話がどこか違っていたのか。まあ、当事者ではないが、ウンディーネの信頼できる筋から聞いた、王宮の正式な情報だぞ」
丁度そのとき、カゲトラ公爵の書状を熟読していたライラが会話に加わってきた。答えに窮しているユキナの表情をそっと見つめた後、すぐにアルタイア達に顔を向けた。
「アルタイア様。王宮からの一方的な情報のみが正しいとは限らないかも知れませんわ。ユキナ殿、あなたの経験した話を教えていただけないかしら」
ユキナは覚悟を決めて話始めた。ノルバ城攻防戦の真実を。それは、ウンディーネの王宮から報じられた情報とは大きく違っていた。
「何と、正規軍は全滅し、率いたレギオス、カルバトス両将軍は討ち死に・・・」
ライセツが思わず漏らした。彼はウンディーネにいたこともあり、両名を良く知っていた。その戦闘力も含めて。特にカルバトスは猛将と呼ぶにふさわしい力を持っていた。
「そうか。テオドールが死んだか。だが、情報を操作していたとは」
マクウェルは少し声が弾んでいた。それもその筈、テオドールはウンディーネでマクウェルに爵位がないことを常に差別し、出世を阻んでいた張本人だったのだから。
「ところで、ユキナ殿。苦境を救った凄い奴の話は出てこなかったみたいだが」
ユキナはわざとジローとルナのことは避けて話していた。先に証拠を出さない限り信じてもらえないという確信があったから。
「はい。その方は市街になだれ込んだ兵士達を一掃してくれました。水の精霊を呼出して。そればかりでなく、捕らえられたモトナリ様を数人で敵陣に潜り込んで奪還してくれました。以来、魔法剣士という称号で呼ばれています」
「魔法剣士か。ウンディーネを操り、剣の腕も非凡というのか。是非会って、剣を交えてみたいな」
「でも不思議ね。今まで名が知られていないなんて。どこの出身なのかしら」
「わかりません。突然ノルバに現れたのです。他の方々と一緒に」
「他の方々?」
「はい。実はその方達も一緒にリガネスに来ています」
ライラは合点がいったという顔をした。
「そう。書状の最後にあった使者の真実を知って欲しいという言葉は戦争の事実ではなくて、一緒に来た人達に会って欲しいということなのね」
「はい。公爵様。お願いがあります。その中の一人の方から公爵様への預かり物を仰せつかっています。お渡ししてもよろしいでしょうか」
「わかった。見せてもらおう」
ユキナはルナから預かった包みを差し出した。ライセツが受け取り、中身がペンダントだとわかるとそのままアルタイアに手渡す。アルタイアはそのペンダントを手にとって、一瞬固まった。
「これは・・・」
その日の夜。
ジロー達が泊まっている宿屋に客が訪れた。身分は名乗らなかったが、マントの襟章から白陽宮からの使いであることは間違いがないため、宿屋の主人は促されるままにジロー達が泊まっている部屋を示した。
ジロー達の部屋は2階にあった。向かい合わせの2室を確保していたが、今は1室に集まって戻ってこないユキナのことを考えていた。
コン。コン。
部屋のノックの音にアイラが反応して振り向く。右手が剣の柄にかかったまま、ジローとルナを振り返る。
ルナは軽く目を閉じて、来訪者の感情を読み取っているところだった。扉の外にいる人物が敵意を持っているのかどうかは簡単にわかる。
「大丈夫です。開けてください」
ルナの一言でアイラは緊張を解き、ドアを開けた。
その後、4人は使者の促されるままに、宿屋を出て、白陽宮に向かった。夜の帳が深く垂れ込み、殆どの住民は明日への期待を胸に就寝している時間。大通りを避け、出来るだけ人目につかないように路地を抜けながら進む。
暫くすると、白陽宮の裏門にたどりついた。裏門が人が通り抜けられる幅で開き、そのまますべるように全員が入った。
門が閉じると、ようやく使者は安堵の表情を浮かべ、ジロー達を案内して2階の一室で待つように告げた。
ジローは使者が部屋から出た後、中央にあるソファにどっかりと座り込んだ。愛嬢達もそれに習う。
「さて、ユキナはうまくやったみたいだな。後は俺たちの番だ」
「はい。そうですね」
「でも、この部屋、窓がないよ」
「壁も厚そうです」
アイラが周りを見回し、ミスズが壁をこんこんと叩いて廻った。どうやら秘密の会議が出来るようにしつらえた部屋らしい。
「まあ、少し待とう。ユキナも一緒にくるだろうし」
ジローの言葉どおり、暫くするとユキナと共に4名の男女が入ってきた。そのうちの一人がルナを見て目を丸くする。
「おお、姫。生きておられたか・・・」
リガネス公アルタイア。真実を知った晩だった。
白陽宮、武練室。
白磁色の壁囲まれた丸い部屋の中央で、2人の男が対峙していた。部屋といっても直径20ヤルド(1ヤルドは約0.9m)の円形でかなりの広さである。そして、部屋の入口に近い壁沿いには6人の男女がこれから始まるものを見守っている。
「最初に言っておく。この部屋の中では身分は関係ない。ただの武人同士として相手をお願いしたい」
アルタイアが威風堂々と相手に対して告げる。その相手、ジローは軽く頷いた。
「こちらも、手加減無用でお願いします」
「おう!」
掛け声と同時に両者共剣を構えた。武技を練るのが目的ということで、刃はつぶしてあるが、当たればそれなりに痛い。
アルタイアはジローの構えに舌を巻いていた。全くと言って隙が無く、かといって気負っているそぶりも見せない。ただ静かに立っているだけ。
<これほどの人物が世に埋もれていたとは・・・>
そんな相手が目前にいることに喜びを感じながら、小手調べとばかりに打ちかかる。アルタイアの剣圧がぶぅんという音を伴ってジローを襲う。
ジローは、アルタイアの気を感じていた。そこから出る力を風のように知覚した。そして、最初の一撃が剣のみではなく、その剣圧として空気を切り裂く見えない刃として襲ってくるのを感じた。言葉通りアルタイアは一切手を抜かず、最初から渾身の必殺剣を打ってきたようだった。確かにこの剣ならば、目に見える剣の一撃には対応できても、目に見えない真空の刃に切り裂かれてしまうだろう。しかし、ジローはその真空の刃でさえも見極め、感じていた。そのため、相手の鋭鋒をいなすように剣を捻り、体制を僅かに変えただけで次の一撃を待つ。アルタイアの返す刀が2撃、3撃と繰り返される。と、剣圧が薄くなり、その分だけ剣の速度が増してくる。
<さすがに武闘家を名乗るだけある>
ジローは精神を集中した。と、先ほどまで眼にも留まらぬ速さの剣撃がだんだんと速度を減じ、スローモーションのようになっていく。『時流』が発動し、ジローの廻りだけ時間の流れが遅くなっているのだ。その状態で、アルタイアの剣技を観れば、隙を探すのは難しいことではなかった。
アルタイアは、驚愕を感じていた。彼の繰り出す必殺の攻撃が全て見切られている。そればかりか、ことごとくいなされた攻撃の隙をぬって、ジローの剣が生き物のようにアルタイアの剣の根元を打つ。
「くっ!」
アルタイアが間合いを取った。右手がじーんと痺れている。背中に汗の粒が伝った。
「次はこちらから行きます!」
ジローが動いた。その速度に両者の距離は一瞬で詰まる。そして剣が巻き取るようにアルタイアの剣に絡まる。痺れが充分に取れていなかったアルタイアの手からもぎ取られた剣が宙に舞った。
「まいった」
アルタイアは素直に負けを認めた。が、すがすがしくもあった。
両者剣を収めて互いに一礼した後、2人は壁際に向かって歩み寄った。そこにはジローの愛嬢達とアルタイアの妻ライラ、ライセツ将軍の息子、ジロー達を迎えに来たインドラが待っていた。それぞれ素晴らしい闘いを観られたと感嘆の表情である。
「ジロー殿。貴公の腕前は素晴らしい。まったく脱帽ものだ」
アルタイアはただただ感心してジローを誉める。
「いえ、アルタイア公爵殿の腕前も凄いと思います。最初の一撃が真空刃を伴って襲ってきたのにはびっくりしました」
「いやいや。それを剣先だけでいなす腕前にはかなわんよ」
その横で、タオルをジローに渡したルナが誇らしげに言った。
「ええ、私の良人ですから・・・」
アルテミスが名前を変えてルナと名乗っていることと、ジローとルナが夫婦の契りを交わしたということは、アルタイア達にも伝えていた。説明が難しくなるので、残りの愛嬢達は側室ということにしてあった。ライラはこのような才能のある美女達を獲得したジローの才覚に舌を巻いていた。
リガネス公アルタイア公爵は、ノルバに対する全面的な後援を約束した。即ち、テセウス王から依頼があっても、国境の守りという大役を果たすために軍を動かさないということである。但し、現状ではウンディーネに対して軍を興すことはしないという条件付だが。それは当初の目的に適ったものであり、ジロー達の外交は成功と言ってよかった。
その件とは別に、アルタイア公爵はルナの良人であるジローに対して臣下の礼を取りたいと申し出た。ノースフロウの後継者としてルナを認めたばかりでなく、ジローの器を見た上で、いつかは頂点に立つと考えてのことである。ジローは大袈裟にされては困ると辞退し、ただ剣を交わした親友としての関係として受け入れた。
その夜、ジローは久しぶりに愛嬢達と一緒にくつろいでいた。アルタイアが気を使って用意してくれた離れである。丁度お風呂に半身を浸かって、両隣のルナとミスズの秘部を指でまさぐっていた。
湯船の反対側では、アイラがユキナの乳に吸い付きながら左手で性器を愛撫していた。最近のアイラは、ジローとするのも勿論だが、他の愛嬢を相手にするレズ行為も盛んであった。女のつぼを心得ているアイラの愛撫は、相手を狂わせるテクニックを存分に発揮していた。今も、ユキナの目がとろんとなって、快感に酔いしれているのが見ているだけでわかる。
しかし、そのアイラもジローの前だけはめろめろの女に変貌するから面白い。ジローはそんなことを思いながらルナと口づけを交わす。ジローの指はルナの膣の中に潜り込み、お湯とは違う液体に包まれた内部をかき回していた。
「んふぅぅぅぅ・・・」
ルナが快感の入り混じった声を漏らす。ミスズは両の乳房をジローの背中に押し付けて、後ろから廻した両手でジローの肉棒を愛撫していた。背中に感じる2つの突起がこりこりに硬くなり、筋肉に包まれた肌を愛撫している。それを感じ、肉棒は更に滾っていく。
ジローがたまらなくなって、ルナに挿入したときだった。風呂の入口の方から人の気配がした。
<誰だ?>
ルナを抱えながらジローは体を入口の方に向ける。湯気の奥から人が近寄ってきた。シルエットは女性である。そして、現れたのは・・・。
「ライラさ・・・ん?」
ジロー声が室内に響き、それを聞いたアイラとミスズがその方向を見る。そこには、裸のライラが立っていた。着やせする性質らしく、均整のとれた見事なプロポーションだった。
「こんばんは。お願いがあって来ました・・・」
ライラは湯の中に入り、ゆっくりとジローの元に近づいてくる。
「ジロー様。私にあなたの子種を頂戴できないでしょうか」
ライラの顔が本気であることを語っていた。ジローはルナから肉棒を抜き、理由を聞くことにした。
ライラの話によると、アルタイア公爵は1年程前に事故に遭い、生殖能力を失ってしまったそうだ。セックスは可能だが、子孫を残すことが出来ない身体に成ってしまったということらしい。このままでは長年続いたリガネス公爵家が断絶してしまう。養子をもらうとしても、アルタイアのお眼鏡にかかる人物はそうそういなかった。では赤子から育てればいいのだが、武人としての素質を持った子供がいいという公爵の希望もあってなかなか思うとおりにいかなかった。そこにジロー達がやってきたのである。アルタイアとライラは話し合い、1度だけという条件でジローの子供を授かれないかと考えたそうだ。
「ライラさん。本当に、いいのかい?」
ジローは最後にもう一度念を押した。出来ることならやめたかったが、ライラの意思は固かった。
「わかった。それなら最高の気分にしてあげるよ」
ジローが承諾すると、いつの間にか傍に来ていたアイラとユキナがライラを両側から囲む。ライラの両腕を股に挟み、左右の乳房を愛撫する。
「ああぁぁぁ・・・」
ライラが慌てる様子もなく快感の声を上げる。どうやら事前にジロー達の様子を見ていて、覚悟を決めて入ってきたらしい。
ルナとミスズもライラに取り付いた。ルナがライラの唇を奪うと、ミスズは下の唇に口づけする。そこは、しっとりと濡れ始めていた。
ジローは暫くその様子を眺めていた。たしか30前だと聞いていたライラの肌は、まだまだ張りがあり、風呂の湯気とアイラ達の愛撫によって、紅く上気していた。4人の愛嬢の手が肌の上を滑り、揉み、摘み、マッサージのように押す。8本の手が別々の生き物のようにライラの上を動き回り、それでいながらルナはディープキスをやめず、他の3人も両の乳房と性器の3箇所を口で充分に味わっていた。ライラは攻められる快感に身を任せ、何度いっても更に高みに昇らされて、天国に昇るような快感を味わっている。頭がぐちゃぐちゃで何が何だかわからないといった様。その姿が艶かしく、ジローの肉棒がいつもより硬く興奮している。
「ジロー。そろそろいいわよ」
アイラが乳房からようやく口を離した。ライラの乳首は限界まで充血し、勃起している。アイラが合図をすると、愛嬢達もライラから離れた。そして、そこにはいきまくって半ば失神状態のライラが快感の余韻に小刻みに震えながら横たわっていた。その陰部は真っ赤に充血して膨らみ、ざくろのような膣口がぱっくりと開いてジローの肉棒を誘っていた。
「ライラさん。いくよ」
ジローはいつもより猛った肉棒をライラにあてがった。ライラの膣は何の抵抗もせずに肉棒を飲み込んでいく。
<うっ。凄い・・・>
入れた途端、ジローは暖かい肉壁に包まれて幸福な気分になった。中で動くのに丁度よい締め付けと温度が下半身から快感を広げていく。そして、快感は中を往復するたびに強まり、ジローは我慢できずに腰を振った。
「あっ、あっ、あっ、あっ・・・」
ライラが再び昇り詰めた声を上げる。
「くっ、も、もうだめだ・・・、行くぞ・・・」
ライラの絞めつきが最大になり、ジローはライラの子宮に向かって子種を放出した。どくどくとした放出が止まらずに続き、溢れた精液が結合部から漏れてもまだ放出していた。
翌日、ジロー達はアルタイア公爵に招かれて、私室に案内されていた。私室といっても、白陽宮の奥の離れにある宮殿である。
アルタイアはジローと男同士の話がしたいといって、女性たちにリビングで過ごすようにライラに伝え、ジローと共に書斎に向かった。
2人きりになって、席を勧められた後、最初にアルタイアが頭を下げた。
「ジロー殿。昨日は失礼なことをしました・・・」
ライラのことを言っているな。と、ジローはぴんときた。
「いえ・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
暫く無言の間が過ぎた。
「ジロー殿。実は、お願いがあります」
アルタイアは決心したようにジローの眼を真直ぐに見た。
「お聞きしましょう」
「はい。私に、一発殴られていただけないか」
アルタイアは、ライラのことについて、理性では理解していたが、感情がどうしても耐えられなかった。このままだと、禍根を残してしまう。それ故、全てを水に流すために、意を決しそう言ったのだった。
「・・・、わかりました。但し、私からも条件があります」
「なんでしょう」
「私のことを殿付けで呼ぶのはこれきりにしてください。ジローと呼び捨てで結構です」
「わかった。では、私もアルタイアと呼んでくれ。では、いくぞ」
「おうっ」
アルタイアの拳が思いっきりジローの顔面にヒットした。
マクウェルは白陽宮の商務長官室で政務中だった。ウンディーネで財務庁の副官だったころに比べれば忙しさは軽減されているものの、そこはノースフロウ王国第2の都市の商務長官、責任と遣り甲斐は十二分にあった。
マクウェルはふと、仕事の手を止め、書類を処理済の箱に投げ入れると思いを廻らした。爵位がないために出世が滞る王宮の政務に嫌気がさし、SASの後輩だったライラの求めに応じリガネスに迎え入れられて2年、彼の思い通りに辣腕を振るえる今の仕事に満足感は得ている。ただ、彼の鋭さ故に彼の部下達や白陽宮の他の職員達からは避けられがちであり、本当にリラックスできる時間は一人でグラスを傾けるだけという生活に一抹の寂しさを感じていた。その気持ちを紛らわすために、彼は情報を集めることを趣味としていた。専用の部下を選抜し、自らが鍛えた情報収集部隊を作り上げていた。
その部下達は彼の秘書官として勤めている。情報収集のために各地に散っているので殆ど彼の元に集まることはなかったが、常にそのうちの2人が傍にいてマクウェルの要望に応えられるようにしていた。
「長官。何か?」
秘書官の一人がマクウェルに尋ねたが、マクウェルは何でもないと手を振った。
マクウェルは目を瞑り、集まってきた情報を彼なりに読み砕いていた。
<ウンディーネとノルバの関係は、もう元の鞘に収まる状況ではない。だが、ウンディーネとしても1万の軍勢を失った痛手は大きい。ただ、そのことを外部に隠していたことの方が余計に気になる。ウンディーネの情報統制はいつの間にこんなに効率的になったのやら。ワトスンがいよいよ実力を発揮してきたと言うことだろう。>
テセウス王の懐刀と言われていたワトスンが情報局長になった話が、彼の元にも届いていた。しかし、公には情報局なる組織はなく、あくまでも王の私的組織として闇で組まれたものである。その長であるワトスンはSASでマクウェルと同期であり、貴族階級と一般階級のクラスの違いはあったが、共に首席で卒業し互いの力量についてはよく知っている間柄であった。
<まあ、今のところは大きな動きは誰も起こせないはずだ。バスク公ボルトン公爵がウンディーネに入ったとしても、彼の発言力はイーストウッドのジャムカ公子と同等程度、結局は政治と軍事でテセウス王の両輪を担うくらいのことしか出来ないだろう。テセウス王自らが決断しない限り、ノルバは当面安泰。ルナ王女が生きている話は幸い外部には出ていないし、出たとしてもノルバが反乱のために傀儡として偽者を立てたぐらいにしか言えないはず。ただ、情報は掴んでいるかもしれないな・・・>
<今のところリガネスに対して軍事出兵の話は来ていない。来ても、南部の守りのために兵は割けないと公爵は突っぱねるだろう。リガネスを攻める愚を冒すとは考えられないし、ウンディーネとしては、自兵力の増強に腐心する時期ということだ。まあ、2年というところか>
<猶予は2年ということは、この期間に何をなすかだが・・・>
マクウェルは、壁にかかっている地図を見た。そこには大陸全体が描かれている。
<中原は、帝国がかつての力を取り戻そうとしている。皇太子ハデスが朱雀地方を実質的に手中に収め、4人の皇女達は長女のヨウキがイーストウッドのグユクに、3女のナージャがテセウス王に嫁ぎ、4女のマーサはウエストゴールドの王子と婚約中、次女のヘラは太陽の神殿の副祭司長として実権を握っている。帝国の力がじわじわと大陸全体に浸透し始めている>
<イーストウッド家の後継争いは、帝国の後ろ楯を得たグユクがほぼ当確だろう。彼が王位を継げば、帝国は実質的に青龍地方も手中に収めることになる。そして玄武地方は、テセウス王の御子アポロン王子の代になれば帝国の干渉を受けないわけには行かないだろう。いや、実態として今そうなってもおかしくない>
<これで残るは、白虎地方。ただ、ウエストゴールド王家は女王継承国。王子の妻に皇帝の娘を送り込んだとして、それで支配は難しい。帝国はどうするつもりなのか・・・>
マクウェルは部下達の報告を思い出していた。最近、テルパから直接入るルートに問題があり、直接白虎地方に入れない上、中原と白虎地方間の出入りの検査が厳しくなってなかなか入り込めない状況と言うことだった。そのため、彼の元にある情報は鮮度が相当落ちている。
<部下達の調査では限界か・・・>
マクウェルは情報が中途半端であることに少々焦りを感じていた。悪い予感がする。マクウェルの頭の奥底で警鐘が鳴っていた。白虎地方で何かが起こると。
そのとき、彼の頭にジロー達の姿が浮かんだ。
<そうだ、彼らなら・・・>
「ジローよ。実はそなたらにお願いしたいことがある」
白陽宮の政務を執り行う大広間で、アルタイア公爵がそう言ったのはジロー達がリガネスに滞在して5日ほどたったときだった。
「なんでしょうか。アルタイア閣下」
ジローはかしこまって返事をした。大広間で、リガネスの政務を司る文武の臣達が集まっている場なので気を使ったのである。これが身内だけならば『なんだ。アルタイア?』になっていた筈。
「うむ。リガネスの西にテルパという町がある。この町からは山越えで白虎地方に行く道があってそこそこ交易も盛んだ。ところが最近、山越えが出来なくなったらしい。その理由を調べ、できれば解決して欲しい。詳しい話はマクウェルから話す」
大広間の臣下がこそこそと話し合っている。死んだ筈のルナがその中にいるなどということは夢にも思っていない連中である。いつの間にかアルタイアに近づいた成り上がり者としか見られていないジロー達に対してあまりいい感情は持っていないらしい。どこの馬の骨かということを話しているようだ。むろん、主公であるアルタイアに逆らうことなど考えられず、ただただ嫉妬のような偏見の目でジロー達を見つめている。今回の件も、体よく追い払われる口実として出てきたのではなどと考えている不届きものまでいた。
しかし、マクウェルが口を開くと、一斉にその言葉に耳を傾けた。同様に煙たい存在には間違いないが、その実力は明らかであり、下手なことをして逆に後ろ指を差されかねない。マクウェルの発言をちゃんと聞いておかないと、いつ自分に災厄が降り掛かるかもしれないと考える輩は結構いた。
「では、私からお話させていただきます。テルパを南西に山越えすると白虎地方の北東部に到達します。そこにはイオという町があり、テルパとの交易を主としています。そのイオとの交易がここ半月ほど全く出来なくなりました。理由は、山越えをしてテルパに来る者が一人もいないからです。同様に、テルパからイオに向けて旅立った行商人達も誰も帰ってきていません。勿論山越えは決して安全ではなく、獰猛な獣も生息しているため、行商人たちは用心棒や傭兵を雇って道を進みます。しかし、誰も戻ってこない日が続いています。これは、何らかの事件が起きていると思わざるを得ません」
マクウェルはジローの目を見た。2人の目が合う。ジローは彼が嘘を言っているわけではない『気』を感じた。が、それだけではないような・・・。
<ジロー様。マクウェル様は他にも依頼したいことがあるようです。でもこの場では言いにくいことのようです>
ルナがそう伝えてきた。心の感度はまだまだルナの方が段違いにいい。
「わかりました。ここに逗留させていただいて鋭気も養えたので、そろそろ出発しようと思っていたところでした。逗留させていただいた恩義に応えましょう」
「うむ。よろしく頼む」
「それでは、皆様方は奥の部屋でお待ちください。後ほど公爵閣下から下賜を授けます」
ライラはそう言うと、ジロー達を促すように別室に誘った。
ジロー達が別室で暫くくつろいでいると、アルタイア、ライラ、マクウェル、ライセツ、インドラの5人がばらばらと入って来た。
「ジロー、すまないがよろしく頼む」
席について早々、アルタイアが切り出した。
「ああ、任された。ところでアルタイア、用事はそれだけではないだろう」
そう言ってマクウェルのほうを見た。
「さすがね。マクウェル、本当の用向きを説明してあげて」
ライラに促され、マクウェルが説明を始めた。最近の世間の現状と、それを取り巻く各地方の動向を簡単に話し、今回の真の目的、ウエストゴールド家を探って欲しいと。
「情報が入らなくなったのが、意図的なものなのか、偶然のことなのかはわかりません。残念ながら、私の部下達では少々手に余るようです。ただ、私の勘が何かあると警鐘を鳴らしています。それが何なのか、是非確かめてきていただきたいのです」
「わかった。やれるだけやってみよう。だが、確かめた後で、その情報を届ける方法はあるのか」
「テルパに私の部下を常に待機させておきます。テルパまでどうやって届けるかについては、状況がはっきりすれば自ずから見えてくると思います」
「うん。十分だ。ところで、一つお願いがある。ノルバのカゲトラ殿にここでのことを伝えてもらえないか。ついでに5人で白虎地方に入ることも」
「父は姫様が戻らなくても大丈夫でしょうか」
ユキナが心配顔でたずねる。
「大丈夫です。それよりも娘2人が戻らなくて寂しがるかもしれませんね」
ルナがすかさず答え、愛嬢達の雰囲気が和んだ。
「カゲトラ殿には、信頼できる使者を立てよう。インドラ、良いな」
「はい。お任せください」
「では、私からカゲトラ様宛の書状を書きましょう」
「ああ、それがいいな。ミスズとユキナも署名をしておいたほうがいい」
ミスズとユキナは頷いた。
アルタイアも親書を書くこととした。といっても実際はライラが原案を作ってアルタイアが署名したものであるが。但し、ノルバとリガネスの同盟は秘密裏のことであるため、これらの書状をインドラに渡し、密かに持っていくことになった。
そして、ジロー達はリガネスを後にした。
後日談だが、ライラは懐妊し、男と女の双子を産むことになる。