祝、、、、、 | |
吾輩猫 | 12/12(月) 04:08:33 No.20051212120811 |
『今日は目出たいから、栗の甘露煮を頼む』 例によってラビン髭の男が訳の分からない理由で脈絡の無い注文を出した。マスターはいつもの事だとばかり、余計な詮索はせず 「お見えになるのは久しぶりですね、仕事が一段落ついたのでしょうか?」 と無難な挨拶で済ませると、横から酉年の女将が 『そうよ、セキュリティーチェックに半日かかるようじゃ、よほど暇じゃないと来れないでしょ?』 と勝手に相槌を打つ。確かに店の中は閑散としている。最近、手形が1つ不渡りになった噂も耳にするし、経営は本当に大丈夫なのだろうか、と心配になる。ここで食事にありついている吾輩にとっては死活問題なのだ。 『考えてみれば、週末を完全に休むのも2ヶ月ぶりだな』 何が忙しいのか分からない。そもそも人間なんで忙しくもない日と無理に忙しぶって過ごす無駄の塊だから、彼のいい分も8割ほど差し引く必要はある。 「それより、なぜ栗なの? あれって正月に食べるものよ」 『そりゃ美味しいからさ。しかも語呂が良いじゃないか』 「ちょっと待って、仕事がクリ越しになったら、クリも分かるけど、、、」 『なんで仕事の話になるんです?』 「だって仕事が一段落ついて目出たいんでしょ」 『仕事とは関係ないですよ』 そう云われて女将とマスターが顔を見合わせる。 『目出たいのはですね、かのハーレムなんですよ』 この界隈でハーレムと云えば黒コートの家しかない。ここに至って、マスターが口を出す。 「お客さん、オーナーの話によると、あそこは最近始めての嵐に襲われたって話ですが」 嵐ならお見舞いであってお祝いではないのが常識である。さすが無常識男のラビン髭の男には常識が通じない。そう思っていると、 『へえ、嵐があったんですか? 知らなかった』 「TERU さんご本人が、これは嵐だから、通過するまでじっと大人しくしているように、って注意されたと伺っております」 爆弾で飛ばされても不敵な微笑みを浮かべている男が注意を呼びかけるとは、吾輩も注意が必要かも知れぬ。 『あの注意の件ですよ、僕がまさしく祝おうと思って、、、』 全部云わせる前に女将が尋ねる 「それ、どういう事?」 『だって、TERU さんやここのオーナーを始めとしてネットで恋愛小説公開している人は小説家として2流の域にまで達しているって書いてあったというじゃないですか。しかもオタク顔負けのウンチクだって言ってくれているし、、、』 ちょいと待て、二流とは評価が甘すぎる。確かに黒コートの男は浮気して爆弾で空中遊泳する事に関しては一流かもしれぬ。女将は危険なおでんを作る事に関しては一流かも知れぬ。オーナー借金をためる事に関しては一流かも知れぬ。爆弾女は男だけを選択的に飛ばす事に関しては超一流かも知れぬ。しかしながら、数ある二流のプロ作家に並んで、この連中が二流の文筆家だというのは褒め過ぎである。 『、、、僕の悪友なんか大喜びでしたよ。だって、遊びのつもりでやっている事ですら二流ということは、本業の仕事が一流、超一流だと認められたのも同じだって』 まことに能天気な言い分ではある。もっとも、相当に能天気でないと、爆弾喫茶に来れる筈は無い。 「あれ、悪友さんに恋愛小説書いている人いましたっけ?」 ラビン髭の悪友は各地に神出鬼没する事においては二流かもしれぬが、彼らが恋愛小説を書いたと云う噂は聞かない。 『縁切神社の話は恋愛ものの一種だと自慢していましたよ』 これは明らかに拡大解釈である。某法案だけの信任を独裁権への信任だと勝手に既成事実してしまうのと大差ない。それでも、この強引な論法がこの喫茶では通るのか、それとも単に無視したのか、 「じゃあ、語呂って、煮と2を掛けたものね?」 『もちろんです』 ラビン髭のその声を遮るようにマスターが素朴な疑問を呈した 「ところで、他人の事を二流と云う人は何流なんでしょう」 当然の質問である。一流の人間は他人に二流とは云わない。二流の人間は他人の対してでなく、我々はという言い方をする。 『そりゃ、三流以下でしょう』 「そういう人に褒めれれて嬉しいのでしょうか?」 本当に三流の人間ならまだしも、三流にすら入らない人間に二流も三流も分からない。ようするにその評価は全く無意味である。しかしながらラビン髭はこう答えた。 『もちろんさ』 やはり能天気である。 |
|
|
〔 掲示板に戻る 〕 | 〔 ホームページに戻る 〕 |