The Adventure of Van Rood Quester

ファン・ルード・クエスターの冒険

その5−獣人の誘惑(1)

振り返った俺が見たのは、真っ赤に眼を光らせ、グルグルと喉の奥から獰猛な声を響かせる獣人の美女戦士、「赤牙」のセスティア・ゼルフの姿だった。
いくら獣人族が、七女神の一柱、獣の女神の血を引いているとはいえ、ここまで理性を失った獣人の姿を見た事なんて無い。
亜人が人口の大半を占めるこのグローランサ半島では、もちろん獣人は知的な人として他の種族とわけへだてなく暮らしている。
大陸の方にある国々では大多数を占めるニンゲンが主流で、少数派の獣人や他の亜人を人とは認めていない噂を聞くが、こんな恐ろしい姿を見たら誰だってニンゲン重視主義者に転向するのは間違いない。
『ふむ、予想通り魔神の魔力にあてられているな……まだ魔神に操られてはおらんが、気をつけろ小僧、その女すでに理性は失っているぞ』
「がんばれ〜、ふぁん、ふっとばせ〜」
すでに観戦モードに突入しているペンス・ドーンと元々助ける気すらないリ・クリル。
「がっがんばれって……うわぁ」
ブンッと空気を切り裂いて「赤牙」のセスティアが振り抜いた巨大なアックスが、俺の髪の毛を数本飛ばして横なぎに走る。
「グルルルルルッ」
「うわっ、うわっ、うわっ」
更にブンブンと振られる重そうな両手用グレートアックス。
俺は腰からブロードソードを抜く間も無く、正座していた姿勢から這うようにして、必死に後ろに逃げ回る。
その度に、牙を剥いたセスティアの振うグレートアックスが宙を切り裂き、俺の代わりに重そうな石柱にぶち当たり、粉砕していた。
なんて怪力なんだ。石の塊を、木っ端微塵って……もう人間技とは思えない。
ただのアックスの一撃が、まるで攻城兵器のような破壊力で襲い掛かってくる。
「うひゃ…うわっ…とっとっ…ほいっと」
しかしながら、一撃一撃は食らったらミンチになるのは確実な威力だけど、精確さがほとんどない。
落ち着いて見ていればフェイントもなく直線的に繰り出されるアックスの攻撃は、三流冒険者でも余裕でかわせるものだった。
もっとも風圧だけでたたらを踏むほどの恐ろしさだが。
「グルルルルっ」
もうもうと立ちこめる土煙の中、狂ったようにグレートアックスを無茶苦茶に振り回すセスティア。
すでに攻撃対象を見失っているのか、天井からパラパラと落ちてくる石塊や倒れてくる石柱なんかを必死に叩き落としている。
これが噂にきく獣人の獣化状態ってやつなのか?
ケダモノの血が濃いほど理性をなくし、攻撃力が増すと聞いたけど……
でも、ここまで狂う筈はない、本当に魔神とやらの影響のせいなのだろう。
「ガルガルガルルッ」
目の前で、もう俺の事など忘れ、ただ揺れ動く石柱に必死にアックスを叩き付けている獣人の女戦士。
いくら力が超人級に強くなっても、ここまでバカになるんじゃ意味無いな。
『おい、貴様、落ち着いて良いのか?その柱が壊れれば次はお前だぞ』
背後で他人事のように宝石を光らせるペンス・ドーン。
あうぅ、確かにそうだ。
正気を失っているセスティアは、あの強靭なタフさで当たるまでこちらを狙い続けてくることは必死だろう。
そして先に体力を無くしてへばるのは、考えなくても答えは簡単にでる。
「たっ、確かにそうだが、でも、どうしたら」
どう考えても目の前の女獣戦士には勝てそうに無いし、正気を取り戻す方法などわからない。
『おそらくあの娘、封印から漏れ出た魔神の魔力の影響を受けて、強制的にバーサークさせられておるな、うははは、こういう時、悪の魔法の力には善の魔法で対抗と決まっておる』
「善の魔法っていったって、俺は魔法技術なんて知らないぞ」
七柱の女神達の提供してくる魔法を扱う技術には、理性を取り戻す術もあると聞いたことがあるが、残念ながら俺は生まれながら女神の加護をうけた美少女でも、多額のお布施を納める信者でもないので使えるわけが無い。
『ふははは、お前ではない、ここにあるだろうが超強力な善の魔法の品が』
ここに?
う〜ん、今ある魔法の品と言えば、この前市場で買った水の腐敗が遅れるっていう護符の貼られた水袋だけだ。
「こっ、これがなんの役に」
とりあえず腰から水袋をとりだす。そこには汲んだ時のままひんやりと新鮮な水が詰まっていた。
「はっ!そうか実はこの水が聖水で、これをかけて正気に」
『んなわけあるか!この馬鹿者、俺様だ、お・れ・さ・ま、この「誉れの騎士」ペンス・ドーンの魂、まさに穢れ無き善の魂を封じたこの聖剣だ』
「「えぇ〜」」
聖剣という響きに、俺と、なぜかリ・クリルまでもが嫌そうな顔をしてぶ〜たれる。
『余裕だな貴様ら、いいのかそろそろ他に動くモノも無くなるぞ』
ちらっと見ると、赤牙のセスはすでに石柱を粉々に砕き終え、パラパラと落ちてくる石屑を「うがうがっ」とおバカな猫のように叩き落としていた。
「みっ、みたいですね……あの聖剣ペンス・ドーンさんできれば力を貸して欲しいなぁって」
俺は何か不満げなことを口にしようとするリ・クリルの首根っこすばやく押さえながら、砂地に半ば埋まっているインテリジェンスソードに恐る恐るお伺いをたてる。
こんな妖しい剣を使いたくはないが、ここは背に腹はかえられない。
『ふん、なんと頼りない男だ、だが、まあしかたない貴様にこの俺様の力を分け与えてやろう!魔神より奪いし世界の半分を支配する力を!』
もったいぶってそう言う剣の柄の赤い宝石が燃えるように輝きだす。
「うわっ、まぶしっ」
『ただしだ!必ずその力で魔神を再度封印するんだぞ、これは契約だ!力を与える代わりに魔神を再封印するのだ、よいな!』
まるで宝石から炎が紅蓮となって湧き出すように輝きが増していく。
その赤い輝きに、俺はもう目を開けることすらままならない。
ううぅ、何とも一方的な要求のような気がするけどしかたない、生き残るためだ。
「わっ、わかった」
迸る光の中、二の腕で目を覆いながら頷く
魔神を封印するのは無理かもしれないが、何にせよ今力を貸してもらえないと、あの攻城兵器級のアックスで粉砕されるのは確実だ。
『よし!約束したぞ、かならず魔神を倒せ、小僧』
あっ、いつの間にか再封印から倒すことに変わっている。
そんな卑怯だっ、と抗議しようと思った瞬間。
俺の額にペンス・ドーンの剣から真っ直ぐに赤い光線が突き刺さる。
『「誉の騎士」ペンス・ドーンの名において命ず、汝、ファン・ルード・クエスターを我が剣の従者に命じ、異界の力の代行者となす、汝、我にかわり支配の力を受け継ぐもの也』
いままでにない浪々とした声が剣から響き渡り、赤い光と共に頭の中に熱い力が流れ込んでくる。
真っ赤に熱した鉄を押し付けられたような激痛。
「うぐううぅっっっっ」
俺はその途端、簡単に意識を失っていた。


『起きろ!起きんかぁ!小僧』
「ふぁん、ふぁん、おきて〜、えい、えい、たあぁ、おっきしろ〜、ば〜かぁ〜」
遠くから、声が聞こえる。
それと同時に頭にゴツンゴツンと響く鈍痛……って
「痛っっつうぅっ、たく、何するんだよ」
がばっ、と跳ね起きると、周りには拳大の石がたくさん転がっている。
そしてズキズキと痛む頭。犯人は一人しかいない。
「リー」
きっと睨みつけると、上の部屋から落ちてきた石畳の残骸に隠れるようにして、新たな石を両手で抱え上げたリ・クリルがこちらをきょとんとした瞳でみつめていた。
「あっ、ふぁん、おきた」
「起きたじゃない、あれほど石は投げるなって言ったろ」
むすっとして睨み付けると、リ・クリルはふるふると首をふって俺の後ろを見つめ、何度も瞬きをくりかえす。
「え?何?後ろ?……っ!」
まだガンガンと痛む頭をかきながら後ろを振り返ると、そこには目を真っ赤に光らせた赤牙のセスティアのドアップがあった。
「うわわあああぁ」
思わず驚いて大声をあげる俺。
「ふぎゃあああっっ」
その声に驚いたのかセスティアも、赤毛の髪を逆立たせ獣耳と尻尾をピンと動かし、素っ頓狂な声をあげてペタンと尻餅をつく。
ケダモノの瞳を見開き、床にへたり込んだまま硬直したように此方を見つめている。
『むむむ、チャンス!よし、押し倒せ、小僧、いや我が従者よ』
背後から聞こえるペンス・ドーンの声に、ようやく俺も今の状況が理解し出していた。
おそらく気絶していたのは十数秒。
倒れて動かない俺に獣人化してお馬鹿になっているセスティアが、匂いでもかごうと顔を寄せた時にちょうど目が覚めたのだろう。
「くそおっ、もうこなったらやけだぁ」
俺は目をつぶり、ばっと床をけると、セスティアの腹にタックルをかます。
「でりゃぁ」
「ガルルルウッ」
幸か不幸か、上手い事セスティアを引き倒し、そのまま腹の上に座り込むようにマウントポジションをとることに成功していた。
『よしきたぁっ、そのまま口を奪え、いけっ、いったれぇ』
へ?きっ、キス?
思わず美女の腹の上に座ったまま、後ろを振り返る。
『なにしている従者ファン!ぶちゅ〜と一発かまして、俺様直伝の支配の力を注ぎ込んでやれ!そんなケダモノ女すぐにこのペンス・ドーンの支配の力にひれ伏すわ』
ペンス・ドーンの力?
途端に俺の脳裏に先程の光景と、ペンス・ドーンの言葉が浮かび上がってくる。
『俺様は世界の半分を支配する力……そう女を支配する力を手に入れたのだ』
その力が今、俺にっ…本当に?…だっだからって……
なんて俺が迷っている間に、「グルルル」と唸ったセスティアは腹筋の力だけで上体をそらしだす。
なっ、なんてバカ力だ。
ああぁもう、こうなったら毒を食らわば皿までだ。
「このぉぉ」
「グルル…うぐぅ……んんっ」

むちゅっっ、と重なる二つの唇。
ブンブンと首を振って逃れようとするセスティアの上に、俺は無理やり覆いかぶさり唇を奪っていた。
バーサークの影響で獣人化がすすんだ女戦士の美貌には、猫のような髭がピョンピョンとつきだしていたが、それ以外はキャンプでみた時の美しく精悍なままだった。
「んんっ…んんっ」
「ぐぅ…んっ…ぐるるぅ」
こっこんな綺麗な女性と……そう思うと、ついつい俺は危険な状態だというのに、調子にのって舌をつきだし無理やり中に押し込んでいく。
「ふぐ…ぐるるるる…ぐるる…んん…んんんっ」
最初は喉の奥で唸っていた牝獣も、舌を口腔内に入れて動かしてやると、やがて麻酔がかかった猛獣のようにおとなしくなっていく。
そして驚いたことに、此方に合わせて舌を絡ませてきていた。
くちゅくちゅ、と絡み合った舌が粘着質な音を立て始める。
ううっ、すっすごい。
ザラザラした舌がまるで柔らかなゴムみたいに絡みついてくる。
うううっ、そんなに舌を吸われちゃ…うぐぐぐっ
いつのまにか、攻守の立場が逆転していた。
下になったセスティアは、貪るように顔を左右に揺らしながら、唇をこすりつけ俺の舌にむしゃぶりつき、唾液をじゅるじゅると啜りこんでくる。
ついさっきまで気が狂ったように殺気を放っていた人と、同一人物とは思えない変わり様だ。
たかがキス一つで……
でも、ただのディープキスじゃないことは、その熱烈な長い舌の歓迎を受けている俺が一番良く分かっていた。
ペンス・ドーンの力を帯びた俺から、目には見えないパワーが溢れだし、まるで汚染するように美しき女戦士の口腔内に唾液をと一緒に流れ込んで行くのがはっきりわかるのだ。
「んぐ…ぐるるるっ…んぐ…んんっ、んんっ」
いつのまにか「赤牙」のセスティアの瞳は、禍々しい光を完全に失い、トロンと蕩けている。
その魅力的なグラマラスな肢体は力をなくし、上にのしかかる俺の首を長くしなやかな腕で抱き締め、うっとりとした表情で気持ち良さそうにディープキスを楽しんでいる。
「はふぅ…んっ…んんっ…ぴちゃ…ちゅ…くちゅ」
「んんっ、んんんっ」
そっ…そろそろいいんじゃないかな?
俺はもう十分って位、唾液とともにペンス・ドーンの魔力を精悍な女戦士の口腔内にたっぷりと注ぎ込み終えると、顔をはなそうとする。
これ以上していたら、こっちの方がどうにかなりそうだ。俺だって男だしな。
「んぐ!」
「…んん〜、んふぅ」
うっ、動かないっ!
そっと優しく重さも無く首に回っているだけのセスティアの腕なのだが、少しでも唇を離そうとすると、まるで鋼鉄の鎖のようにがっちりと抱き込んではなしてくれないのだ。
「んんん、んぐぐぐぐ」
だんだん息が苦しくなってきたんですけど……
「あふぅ…んんっ…くちゅくちゅ」
それでもケモノ耳を幸せそうにぺったりと寝かした美女は、甘えるように喉の奥をゴロゴロならしながら俺の口の中をベロベロと舐めまわし続ける。
こっこれは…まずい…
しかたなく俺は顔を上げるの諦め、抱き締められたまま唇だけを横にずらす。
「ぷはぁぁ…はぁはぁはぁ、くっ、苦しかった」
何とか口を離すと、ドロっと交じり合った涎を吐き出しながら新鮮な空気を喉の奥に吸い込む。
「く〜ん、ん〜、ん〜」
それでも俺の首っ玉にかじりついたセスティアはくんくんと鼻を鳴らしながら、伸ばした舌でペロペロと顔中を舐めまわしてくる。
「やっやめろって…うわっ…ほんと…んぐっ…ぷはぁっ」
なんとかずりずりと上体を起こすが、しなだれかかってきている獣人の女戦士は柔らかくしなやかな体いっぱいを使って、抱きつきはなしてくれない。
『ふむ、魔神の魔力の影響は消えたようだな、よくやった』
そんな俺達に宝石を明滅させ重々しく宣言するペンス・ドーンの剣。
「ちょっ、ぜんぜんよくないだろ、これを見ろ、これのどこが、うわっ、うぷ」
「く〜ん」
言ってるそばからセスティアの艶やかな唇の間から伸びた舌が、ザラザラの表面で俺の首筋から頬まで一気にぞろっと舐め上げ、愛しそうにぴったりしがみついてくる。
ううぅ、こんな美人に抱きつかれて嬉しくないわけはないけど……状況が状況だけにこれはちょっと……
『心配するな、その雌の目を見てみろ、すっかり貴様の力に支配されている、うははは、一発犯してやれば落ち着くはずだ』
「おっ、おっ、おっ、犯すって!」
二の腕にむにゅっと押し付けられたセスティアの標準以上の豊満なバストと、逃がさないように絡みつく柔軟な足腰に意識を奪われながら、泡をくってペンス・ドーンを見つめる。
『言葉の通りだ、もうズッコンバッコンはめまっくってやれ、いいぞぉ、くうぅ俺様もこの体でなきゃそんな美味そうな女ほっておかんのに、忌々しき魔神め、奴のせいで俺様の体は冷たい封印の墓場の底だ』
悔しげな声をだす剣の横で、リ・クリルが楽しそうに「ズッコン、バッコン」とはやし立てている。こいつは意味わかってないな。
「く〜ん……はぁはぁはぁ……ファンっ…あっ…あたし」
その時、俺にしなだれかかり恍惚とした表情だったセスティアの口から、初めて意味のある言葉が聞こえてくる。
「せっ、セスティアさん!正気になったのか?」
ばっと振り返った俺の目線の先には……
しがみ付いていた筈なのに、いつの間にかライトアーマーを軽やかに脱ぎ捨て、下腹部を覆う薄い下着一枚になった獣人美女の魅力的な姿があった。
ぶるんっとはちきれそうな特大のバスト、きゅっと素敵に引き締まった腰つき、そして見事な曲線を描くヒップから、長くしなやかな脚へ絶妙のライン。
獣化の影響だろうか、引き締まった肌や、胸の谷間や、二の腕を茶色の柔らかそうな獣毛が覆っており、人間とは異なるワイルドなスタイルをさらに魅惑的に彩っている。
なにより、うっとりと蕩けた美貌は、発情期さながらの絡みつくような色気に満ちている。
全然、正気には見えはしない。
「って、何で?いつのまに脱いでるんだよぉぉ」
慌てる俺を尻目に、とろんっと蕩けた瞳の赤毛の美女は、肉厚の唇を卑猥にぺろっと舐める。
そして、魅惑的にぷるんっと突き出した豊満なバストの先端を、つんっつんっと俺に押し付け、囁いてくる。
「ねぇファン…あたしと交尾しよ♪」
ぜんぜん駄目だぁぁぁぁ。
「お、お、おおお、落ちつこう、セスティアさん、いま、セスティアさんは普通じゃないわけであって、あーと、とりあえず、落ち着こう、うん、それがいい」
「わかった、落ち着く、だから、交尾しよ、ね、ね♪交尾ぃ♪」
必死に事情を説明しようとする俺の頬をべろっと舐めながら、セスティアの獣化して爪が伸びた指先が、手早く俺の鎧を剥ぎ取りだす。
「ちょっ何を?やっやめ、やめぇぇてぇっ」
まるで生娘のように悲鳴をあげる俺。
だが、あっという間に安物の鎧はバリバリとはぎとられ、上半身を丸裸にされてしまう。
それでもなんとか、ズボンに手をかけようとしている美女の両手をがっちり掴むことには成功していた。
「ズボンだめだって、いや、ほんとに、洒落にならないからっ…うわぁ」
「ぐるるるっ」
邪魔されたのが、相当気に入らなかったのだろう。
喉の奥で唸り声をあげたセスティアに俺は手首を引っ掴まれると、ぐいっと引っ張り上げられ、そのまま床に押し倒されてしまう。
「痛っ…くううぅ」
体格といい、もともとの格闘センスといい、一流の冒険者であり狩猟系獣人かつ女性であるセスティアに、ただのニンゲンでしかも男である非力な俺がかなうわけがない。
いとも簡単に床に倒されると、今度は先程とは逆にマウントポジションを取られてしまっていた。
「なぅ…なっ、なっ、何をするんですかぁぁ」
「うふふふふ、決まってる、ファンと子作り♪」
見上げる俺の目線の先では、お腹の上に座りこんだケダモノ耳の美女がニンマリと淫らな笑みを浮かべている。
「はっ話し合おう……こっ、こうなったのは全部そこにある剣のせいで俺は全然知らなかった……ってその様子だと聞くきはゼンゼンない?」
ひくひくと頬をひきつらせる俺の問いに、セスティアはふさふさの尻尾をブンブンと振りながら嬉しそうにコクンと頷く。
頭の中はピンク色の霧がいっぱい詰まっているのだろう、あの精悍だった女戦士の美貌は今では淫らに緩み、うっとりとした瞳で俺を見つめ続けている。
俺は、そんな発情期真っ只中のケモノ美女に完全に押さえ込まれピクリとも動けない。
ちらっと横を見ると、ペンス・ドーンの剣が『やれ、やっちまえ』とはやしたて、リ・クリルはドキドキしながら小さな手で顔を押さえ指の隙間からこっちをしっかり覗いている。
助けは期待出来そうにない、というか助ける気なんて元々ない奴らなんだ。
うううっ……こっ、こうなったら!
目の幅で滝のように涙を流しながら、俺は勇敢にも呟いてた。
「……もう、好きにして」

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