The Adventure of Van Rood Quester

ファン・ルード・クエスターの冒険

その8−森エルフの襲撃

そんなこんなで、俺は、主にセスティア任せで遺跡内を探索し、地表に向けて着実に歩を進めていた。
長く薄暗い石造りの廊下と、時々ある用途不明の小部屋を抜け、徐々にこの圧迫感のある環境にも慣れてきた。
ちょうどその時、突然、隣に立つセスティアが「ぐるるるっ」と咽喉の奥から警戒の唸り声をあげる。
それと同時に、ランタンの光が届かない、通路の奥から、緑色に光る小石のような物が、闇を切り裂き飛来してくる。
「うわぁぁ、なっ何、何だ?」
「ぐるるっ、気をつけて、ファン……くうっ!」
さっと素早く俺の前に回りこみバトルアックスを構えるセスティア。
その扇状に広がった刃が、高い金属音をたて、淡く緑色に輝く何かがぶつかり、火花を散らして四散する。
「ぐるるるっ」
セスは、ふさふさの毛の生えた獣耳をぴんっと尖らせ、ランタンの光の届かない先を睨みつけていた。
獣人の能力で暗視のできる彼女には、俺には見えない何かが見ているのだろう。
そしてその何かは、セスの誰何の声ですぐに正体が知れた。
「フィー、フィーセリナなんだろ」
フィーセリナ、セスティア達のパーティの一人、「魔弾」のフィーセリナ・エルダール。
森エルフらしい特徴的な長い耳と濃緑色の髪、整った怜悧な美貌、そして森林で養われた俊敏な肢体をもつ、天性の射撃手。
「………いかにも」
セスティアの声に応えるように、亡霊のように存在感を感じさせない神秘的な森エルフが闇の向こうから現れる。
闇の中から現れた彼女のスレンダーな肢体は、最後に会った時と同じ、深緑の皮の胸当てと、すらりと長い脚を覆う黒いぴっちりとしたパンツルック姿だった。
余談だが、エルフ族とは、亜種が多く、その中でも森エルフは、自らを高位エルフ(ハイエルフ)と呼ぶことさえある自尊心の高さと、さらに他の種族を非常に蔑視する傾向があるので有名な種族だ。
特に自らを「森の管理者」と称しており、グローランサ半島でも有数の広さを誇る大森林地帯を、自分達が保護していると自負している。
そしてエルフの都合で管理している森林を守るために、原生林をこよなく愛す知性有る樹木トレント族を森の調和を乱す無法者とみなして、長く種族間の闘争を繰り広げているのも、また有名な話だ。
その、大森林地帯での気の遠くなるような長い戦いの末、森エルフ達は、植物を利用した様々な秘儀を培ってきたと言われている。
その秘儀の一端が、今まさに、俺の目の前で繰り広げられていた。
セスティアがバトルアックスの刃で防ぎ、辺りに四散していた緑色の小石大の欠片から、うねうねと何本もの触手めいたツタが広がりだしていたのだ。
「うわっ、なっ、何だ、これ?」
唖然として見つめる俺の目の前で、手の平大まで広がったツタは、途端に茶色く変色し腐りだすと、同時に周りの床石や壁の一部を巻き込んでグズグズと腐食していく。
ちょっ…植物を利用しって…こんな活用方法なのか……
って言うか周りの地面まで全部腐っているし……何が森の管理者だよ…怖ぇ……
「何故攻撃するフィーセリナ……まさか、お前も意識を……ちっ」
「赤牙」のセスティアの叫びが終わる前に、不敵な笑みを浮かべる「魔弾」のフィーセリナ。
その指先から、空気を裂く音ともに、再び弾き出された緑色の種が、今度は俺の顔面めがけて襲い掛かってくる。
途端に俺は、首根っこをぐいっとひっぱられその場に押し倒されていた。
「うひゃぁ」
なんとも情けない声をあげて地面に引き倒れる俺。
「あっ、ごめんファン、手荒なことして」
そしてそんな俺を抱き締めたセスティアが、安心させるように、にこっと微笑みかけてくる。
後ろを見ると、ついさっきまで俺が立っていた場所に、例の緑の種が石床を割って突き刺さり、次の瞬間、ぶわっとツタを広げると、周りを巻き込んで瘴気を発しながらグズグズと溶け出していく。
こっ…こんなのくらっていたら今頃…
青くなる俺から、セスはそっと手放すと、一転鋭い顔つきに変わり、ぐるるるっと喉の奥で唸りながらゆっくりと身構える。
「どう言うつもりだ、フィーセリナ」
俺を背後にかばうような位置をとりながら、油断無くアックスを構える赤毛の麗しい獣人。
素敵だ、がんばれ、俺らのセスティアさん!
俺は、あまりのレベルの高い戦いに、完璧に観戦モードに入っていた。
「………それはこちらの台詞」
森エルフの怜悧な美女は、カツカツとブーツを鳴らし、黒い光沢のある細身のズボンに包まれた美脚を規則的に交互に動かしながら、通路の奥から歩み寄ってくる。
「魔弾」の通り名をもつ、フィーセリナ・エルダール。
その緑色の髪の間から覗くアーモンド形の瞳には敵意の光が満ち溢れ、その整った美貌は、底冷えするような冷笑の形を保っている。
クールな殺人鬼と化している麗人は、典型的な森エルフらしい自分が一番という自己中心的なやっかいな雰囲気を漂わせていた。
そして、何より恐ろしいのは、その自己中の氷の美女の手には、親指でいつでも弾ける様に、例の毒々しいほど緑色の種が、不気味に収まっていることだ。
「………セス、その汚らわしいニンゲンは何だ?いますぐ離れろ」
「断る、ファンはあたしの大事な人だ、傷つけるなら許さない」
セスティアの言葉に、フィーセリナは、ピクリと不快そうに眉を動かし、俺は頬を染めてしまう。
あうぅ、支配の力で魅了したとは言え、そんな堂々の告白を美女から受けるとは……なんて思わずテレテレしている俺を、フィーセリナがもう鋭いなんてもんじゃない、まさにナイフのような視線で切り刻まんばかりに睨んでくる。
その指先には、エルフが森の自然を乱す者を排除するため作った、緑色に輝く自然には有りえない植物の種。
『ふむ、ここまでの敵意、おそらくこの娘も魔神の魔力の影響をうけて精神を犯されとるに違いない、ファン気をつけろ』
俺の腰に差したペンス・ドーンの剣が他人事のように、現状何の役にも立たない素敵な忠告をくれる。
言われなくても、わかってるよ! っと言い返したいところだったんだが……
あの森エルフの俺への、そしてニンゲン蔑視の敵意からすると、もしかしたら、正気かもしれないと俺は疑っていた。
セスティアの時は、あきらかに目が真っ赤に光り、いかにも魔神に狂わされていますって判りやすい表現だったが、目の前の森エルフは、酷く怒っていはいるが、そのエメラルドグリーンの瞳はいたって冷静そうだ。
どさくさにまぎれて、嫌いなニンゲンを抹殺……うーむ、ありえそうだ。
そんな俺の邪推をよそに、セスティアとフィーセリナのピリピリと緊迫した戦いは続いていた。
「…………ニンゲンに毒されたなセス、許せ」
「魔弾」のフィーセリナは、冷笑を浮かべたまま、まったくの予備動作ゼロで、瞬時に親指を跳ね上げ種を飛ばす。
しかも、後ろに回していた、もう片方の手からも同時に!
あまりの早業に、俺は何もできず、ぼけっと突っ立っているだけだった。
いや、あの神業のような二発同時打ちを感知できただけでも、すごいと自分を褒めてやりたい。
まぁ避けられなければ意味無いんだけどな。
だけど、俺のセスティアは、もっとすごかった。
「フィーセリアッッ、誰であろうとあたしのファンを傷つける奴は許さないっっ」
ぐるるるっと喉を鳴らし体毛を逆立てながら、際どい布ビキニスタイルで、鋼鉄の塊のアックスをアッパースイングの要領で振り上げ、なんなく一発目を撃墜。
さらにそのまま、振り上げたアックスを高速でぐるりと回すと、何とその先端で、超高速で飛来する二発目も叩き落す。
しかも、破片が俺の方に飛んでこないよう配慮まで見せる、至れり尽くせりのガード根性。
だが、俺に破片を飛ばさないように防ぐために、セスティアがとった行動は、彼女にとっては裏目にでていた。
何せ飛び散った破片を、その身を挺して受け止めたのだ。
「セスっ」
思わず絶叫する俺。
やばい、セスがやられたら次俺じゃないか。
なんて非人道的な打算いっぱいの感情と、献身的なセスティアを心配する人道的な感情をごっちゃにしながら、俺はセスティアの側に駆け寄ろうとする。
「来ちゃ駄目、ファンまで巻き込まれ…あうっ」
そう叫ぶセスティアの身体は、あっという間に伸びた緑色のツタに体中巻きつかれていく。
「……それはただの縛り草の種だ、セス、しばらく大人しくしていろ」
手の平で、幾つかの植物の種を転がしながら、フィーセリナが、感情の無い声でそう呟く。
縛り草の名の通り、今まですぐにデロデロっと腐臭を上げて周りを巻き込み枯れていたツタとは異なり、セスの身体をグルグル巻きにした太いツタは、ピタリと成長を止めただけだ。
それでも、ツタは相当厳しくセスを緊縛しているようで、そのスラリと長く均整の取れた肢体にがっちりと絡みついている。
俺が散々舐まわして揉みまくった豊満な乳房が、巻きついたツタの間から、ぐいっと砲弾のように押し出されなんともスケベな形になっているし、って思わず、何を淫らな妄想に浸ってるんだ俺は。
くうぅ、これもセスが、あまりにもスケベな体つきなのが悪い。縛られて喘ぐ顔もとっても色っぽいし。
「って、そうじゃなかった、セス、大丈夫か?」
俺は、切れ味があるのか怪しい魔剣、もとい聖剣ペンス・ドーンを抜刀し構えると、ツタを切ろうとセスティアに再度近寄る。
「うん、大丈夫、ファン、あたしも、あたしのお腹の中のファンの仔も無事だよ」
「ふう、無事かならよかった……って、ちょっと待ったぁ、何時の間に俺の子供こさえちゃってるんだっ」
たっ、確かに、セスと出会って遺跡を探索中に、隣をあるくビキニ姿のグラマラスな美女に惹かれ、ふと気が迷宮の暗がりで猿のようにヤりまくり、その度に遠慮なく中出ししちまったけど……ニンゲンと獣人は種族的に大分近いが、ほら、異種族交配ってめったに当たらないはずだよな……確か。
『案ずるな従者ファンよ、お前の子種は、この俺様ペンス・ドーンの力によって狙った美女は如何なる種族でも中出しすれば孕ませOK、女であればどんな相手 でも高確率で孕ませる、それが俺様の力の真骨頂、そんな力を授けてやった俺様に惚れろ、しびれろ、憧れろ、うはははは、そして、俺様を敬って、奉れぇ』
「なっ、なんだよそれ、普通逆だろがっ、逆! こういうのは、どんだけやってもOKな分、責任取る心配ないっていうか、え? ほんとに?」
思わぬ展開に、縛り草を受けていないのに硬直する俺。
「よろしく頼む、パパ」
そして縛り草にぎゅうぎゅうに縛られたまま、ぽっと頬を染めるセスティア。
余裕ありまくりじゃねえか。っていうかこの年でパパはねえだろ、パパは!
「やったぁ、ふぁん、ぱぱ、だぁ、ねぇ、ねぇ、クリルがね、なまえつけたげるぅ、えとね、えとね、トカゲぇ!だって、クリル、トカゲすきぃ、あっ、おなかすいたぁ」
いつの間にか、安全地帯の遥か後方に移動していたリ・クリルがぴょんぴょん跳ねて、おまけに腹をグウグウ鳴らしている。
これは、何だ? 何かの陰謀なのか? どうすればいいのだ、マジで人生最大のピンチがいまここに!
つうかペンス・ドーンの野郎、そういうことはちゃんと先に言いやがれ!
「………貴様っ」
だが、俺以上に、一番怒っている人が、そこにいた。
「………おぞましいニンゲンめ、よくもセスを」
それは勿論、「魔弾」のフィーセリナ嬢だ。
クールな冷笑を浮かべていたはずの、その美貌は、眉がぐんぐんっと跳ね上がり、ピクピクとこめかみが震えている。
おまけに、手の平の上には、これでもかと言うほど大量の緑色に輝く、自然に無い自然の副産物達が山盛りで鎮座している始末。
そんな彼女は、そのスレンダーな肢体から、絶対零度の超低温の殺気を漂わせつつ、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
「………殺す、殺してやる、ニンゲンめ」
本当の美人はどんなに怒ってもそれを損なわないと言うけど、アレは本当なんだと、つくづく痛感させられる。
そんな思わず土下座して許しを請いたくなる女王様然とした氷の美貌だった。
「まっ、まって、ほら、まだ出来ちゃったかどうかわかんないしさ、はっ話し合おう」
冷や汗をダラダラ流しながら、俺はパタパタと意味不明に手を振ってみる。
ううっ、馬鹿な会話をしているうちに、セスを戒める縛り草を切るんだった。
その当のセスはというと、拘束されながらも腕を少しずつ動かし、腰につけたダガーを引き抜こうとしているのは、流石だ。
「孕んでないなら、孕ませてもらうまで何度だって抱いてもらうからな、絶対に!それから、子供は最低5人は産むからな、宜しくあたしのファン」
しかし、そんな火に油を注ぐ決意表明は、しないで欲しい。
「セス、お前はニンゲンの低俗な魔法に騙されているだけだ、今、元凶を断つ」
ほら、「魔弾」さんが大激怒。
冷笑とはもう言えない、狂気に彩られた笑みを見せる美貌の森エルフは、白く長い指先で、手の平にのった植物の種の一つをピンっと弾く。
「はひいっ」
もう恥じも外聞もなく、俺は全力防御を宣言するかの如く、頭を抱え横っ飛びに通路を転がる。
その頬、数ミリ横を切り裂いてすっん飛んでいく、森エルフの指弾で弾かれた植物の種。
「あっ危なっ」
まさにギリギリ紙一重。
思わず安堵をついたその時、背後から、腹に響く爆裂音とともに、凄まじい爆風が吹き荒れる。
床に這いつくばったまま、後ろを見ると、背後の壁に巨大な穴が開き、パラパラと崩れていた。
「ばっばっばっ爆発したぁああああっ……っていうか、もう植物じゃないだろソレ!」
目を見開き、舞い上がる土ぼこりを見つめながら、俺は震える手で、ペンス・ドーンの剣の柄を握り締め怒鳴る。
「爆裂草の種だ」
淡々と、だが怒りと侮蔑の篭った声で答えてくれる、森エルフのスレンダー美女。
次を弾くために、その指先がわずかに動く。
「そんな都合のいい草があるかあああっ…って、のわぁ」
超必死で奇跡のクリティカル回避を行う俺の頬の横ぎりぎりを、またしても、チュッンっと微かな音をたてて、例の緑の弾丸が通りすぎていく。
そして、次の瞬間、再度俺の背後で吹き荒れる爆風と爆音。
「のあ〜〜」
ちらりと後ろを見ると、安全圏だと思ってたかをくくっていたリ・クリルが、爆風に吹っ飛ばされて、くるくると目を回している。
あの爆発の中で、目を回すだけとは、ヘンなとこでついているんだよな、チビ妖精は。
「逃げるのだけは上手いようだな、まずはその邪魔な足をとめて、それからじっくり処刑してやる」
圧倒的な強者の立場から、俺を見下ろす森エルフ。
その手の平に山と詰んだ豊富な緑の憎い奴らの中から、まるで俺を弄ぶのを楽しむかのように、ゆっくりと一粒選び出す。
やばい、やばいですよ!
おそらくアレは、セスティアの動きを封じたのと同じ、なんだっけ縛り草?
安直な名前だが、効果が凄まじいのは、あの無双とも言える怪力を誇るセスをいまだに縛りつけていることから実証済みだ。ツタの広がる範囲も半端でなく広いの事も先ほど確認している。
あのツタに捕まった後に、ドロドロ腐るのや、爆発するのを投げられたら……
「どうした?降参か?」
自分の勝利を確信しているのだろう、森エルフらしい傲慢さを漂わせるフィーセリナは、その瞳を剣呑に輝かせながら、言葉を続ける。
「勿論、お前が降参をしても、許す気は無いがな、ニンゲン」
冷や汗を浮かべ焦る俺を、まるで汚物を見るような視線で睨み、指先で例の種を転がしている。
「くっ……もう駄目か……」
いや、諦めるなっ、こうなったら一か八か、全力で切りかかるしかねい。
たとえ今は駆け出し三流でも俺の夢は名のある一流冒険者。
何もせずしてただ死を待っているようじゃ、碌な墓碑銘だって刻んでもらえないだろう。
しかし、冷静に考えて今の俺の剣技では、十中八九、避けられるか、止められるのは関の山だろう。
しかも俺の剣は、使い慣れた片手剣ではなく、振りなれない両手様のバスタード・ソードの自称聖剣ペンス・ドーンだ。
その性格は切れているが、刃の切れ味はまったく保証されないおまけつき。
しかし、ここは勇気ある冒険者らしく覚悟を決めて、望みをかけて全力で切り込むしかない。
とりあえず縛り草の種を弾かれたらそれで終わりだ。その隙を与えないように避けられるのは覚悟で、絶え間なく連撃をあたえるしかない。
俺は必死に頭を巡らして、反撃のシナリオを考え続ける。
泣きながらうろたえ、何もせず最後を迎えるのだけは、まっぴら御免だ。そのために冒険者になったのだから。
やる、やってやるぞ。相手が俺を舐めてかかっているいまなら、万に一つのチャンスがある筈。
俺は自らからに課した冒険者としての誇りと誓いにかけ、自分自身を叱咤激励すると、ペンス・ドーンの柄を握り締める。
『へ?何が駄目なんだ、従者ファンよ、そんな冗談言ってないで、そろそろ、そのエルフ娘をきゃん言わしたらんか』
俺が決死の覚悟を完了した、まさにその時。
手の中で構えた自称聖剣ペンス・ドーンが、またしても他人事だと思って気楽な事を言ってくれる。
「バカ言うな、キャンキャン泣かされてるのはこっちの方なんだぞ!」
『うははははは、もう忘れたのか、幾ら手強くても相手は女っ!そしてお前は、いかなる女も支配できるこの俺様ペンス・ドーン卿の力を受け継いだ従者ファ ン・ルード・クエスターなのだぞ!何と情けない……ふむ、一つ手を貸してやる…そうだな、冷めた女には、まずは、こうだな』
途端、柄につけられた赤い石が輝きだし、そこから柄を通じて俺に、力が流れ込んでくる。
「なっ? 前の支配の力とは違う…何だこれ?」
『何だこれ?ではないわ、お前はこの聖剣ペンス・ドーンが知る全ての魔法技術を自在に使うことができる…ってもしかしてファン、お前一度も魔法を発動させた ことないのか?かぁーなさけない……しかたないな、目の前のあの女に意識を集中して、念じろ、後はこの俺様がサポートしてやる』
ほっ、本当?ここにきて、神の助け、いや、まさに聖剣だ。
高度な魔法アイテムの中には、所有者に擬似的に魔法技術を付与し、知りもしない魔法を自在に操れるようになる物があるとは聞いていたが。
まさか、それが、今この俺の身におきるだなんて!
正直なところ、俺は魔法技術を覚える程頭も良くないし、生まれついての魔法の素質もなかったので魔法の発動は諦めていたのだ。
あのリ・クリルだって、鉱石妖精だってだけで、小石を操ったり、土を変化させる魔法技術をつかえるのにと、嫉妬して泣いた夜だってあった。
その点でも、ニンゲンは不利なんだよな……とほほほ。
だけど、そんな俺が魔法を、しかもこの土壇場で発揮できるとは!
くううっ、秘めた力が発動されるなんて、なんか物語の中の英雄っぽい、なんだか燃えてくる展開だ。
「すまん、ペンス・ドーン卿、てっきり例の接吻したりナニしたりして女の人を支配する力と、無駄にしゃべるだけだと思っていただけど……今、俺、すごく感激してる、すっごく!」
『いや、その支配の力が一番すごいんだが、魔法技術の付与なぞおまけ程度……まぁいい、集中しろ、いくぞ』
すると、赤い宝石から流れ込む魔法技術の知識が、勝手に俺の口から、知りもしない文言となって流れ出す。今まで経験したことない魔法という世界の法則に則った力を導き動きだす。
「ちっ、マジックユーザかっ」
フィーセリナは、てっきり構えた剣で切りかかってくると思っていた俺が、突然魔法を詠唱しだした事に多少驚き、秀麗な眉をひそめると、例の縛り草の実を弾こうする。
だが、遅い、遅いぞ! その前に、俺の魔法の発動が先だっ!
「いくぞ、ファイアーボールッッ」
やはり魔法と言えば、これだ。
俺が声高にそう叫ぶと、燃え盛る火の玉が……でることはなく
「あんっ」
何故か、とっても可愛らしい声をあげて、目の前のフィーセリナお嬢さんが、背筋を心持ちそらして、ヒクヒクと痙攣していた。
しかも、あの氷のように冷たかった瞳が、微かに潤み、半開きの薄い唇からは、とろっと涎が垂れ落ちている。
「あっ…あれ?」
予想外の魔法の効果に、俺は目を見開いて、唖然とした声をあげる。
『うはははは、みたか俺様オリジナルの肉体操作系魔法、<性的絶頂>は!ちなみに、後は、<かゆみ><疲れ> <胸焼け><めまい><動悸><息切れ><神経痛><生理痛>なんかの魔法も得意だ…それと<爆裂火球>の魔法は俺様使えないから、あしからず』
そういや、この剣見つけた時に、俺も<胸焼け>の魔法かけられたっけ……
他の魔法もきっと名前の通りの効果を発揮するんだろうな。
「……ひっ…卑怯なっ…ニンゲンめ」
そして、「悪徳の騎士」ペンス・ドーンのオリジナル魔法<性的絶頂>をまともにくらった誇り高い森エルフの麗人フィーセリナは、はぁはぁっと熱っぽい息を吐き、黒いパンツルックに包まれた長い美脚を、やや内向きにして立ったままヒクヒクと震えている。
『ほりゃ、もう一発追い討ちだ、ファン<性的絶頂>だっ』
むちゃくちゃ楽しそうな声をだして、爛々とかがやくペンス・ドーンの宝石。まさに魔剣だ。
「……ああ」
俺はやるせなく頷くと、人としてどうかと思われるセクハラ魔法を再度詠唱し、必死に身体を震わせ耐える森エルフに炸裂させていた。
「………ひあんっ」
耐え切れず甘い声をだして、フィーセリナは、ビクンっと今までになく色っぽくスレンダーな身体を震わせる。
まさにその瞬間、小刻みにヒクつく白い指先から、先程打ち出そうとしていた縛り草の種が、ぽろりと床に転がり落ちていた
「………っっっ」
彼女の足元から、蠢く太いツタがぶわっと湧き上がると、魔法で無理やり性的絶頂に駆け上がらされ反応できないその肢体を、縛り上げていく。
『まあ、こんなもんだ、うはははは、さて後は、従者ファンわかっているだろうな、そこの小生意気なクール気取りのエルフ娘に一発濃いのをブチ込んで、支配の力を教え込んでやれ、うはははは』
悪魔のようにカタカタ柄を鳴らして笑うペンス・ドーンと、唖然とする俺の目の前には……
絡みつくツタに頭上で両手を固定され、さらに両足をM字に開いた姿勢で縛り上げられた森エルフの美女が、屈辱の涙をためて此方を睨みつけていた。

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